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基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分(計量テンソルとは何か)

 一般相対性理論の難しさは、歪んだ時空の座標変換に伴うその歪んだ時空上のベクトル量、テンソル量の変化の性質を調べないといけない所にある。一般の物理法則は時間や空間座標の偏微分方程式で表されています。その時空がニュートンが仮定した様に永久不変なものであれば、それらの偏微分方程式を記述し、それらの座標変換に伴う変化を読み取ることは簡単です。しかし、その時間座標や空間座標そのものが物質(エネルギー)の存在によって歪み変化するのですから、それらの時空で物理法則を表現することはきわめて難しい。一般相対性理論の難しさの大半は、この中にある。
 結局、アインシュタインはその数学的方法を発見するのに、一般相対性理論の着想(1907年)から8年の歳月を要したのですが、その数学的難しさの大半は、歪んだ時空におけるベクトル量やテンソル量の変換法則の難しさにある。中でも共変と反変の概念の難しさが際立っている。

1.リーマン空間
  (1)3次元リーマン空間
  (2)3次元リーマン空間の微小領域
2.3次元リーマン空間中の1点近傍の3次元ユークリッド空間における3次元斜行座標による表現
  (1)基底ベクトルと双対基底ベクトルの関係
  (2)双対基底ベクトルの図示
  (3)ベクトルの成分表示
  (4)リーマン計量(計量テンソル)と共変・反変の関係
  (5)基本計量テンソルとベクトルの内積
  (6)基本計量テンソルとは何か
  (7)基底ベクトルが作る単位格子セルの体積Vと基本計量テンソルgijの関係
3.基底ベクトルの変換とベクトル成分の座標変換
  (1)基底ベクトルと双対基底ベクトルの変換
  (2)微小変位ベクトルdrの座標変換
  (3)任意ベクトル成分の座標変換
  (4)基本計量テンソルの座標変換
4.曲面人(2次元リーマン空間人)と3次元リーマン空間人
  (1)アインシュタインの着想
  (2)ガウスの曲面論
  (3)3次元リーマン空間人
  (4)クリストッフェルの3添字記号とは何か
5.参考文献

 

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1.リーマン空間

 一般相対性理論の最大の難しさは、物理法則を記述するときの拠り所である時空が物質(エネルギー)の存在により歪んでしまい、その歪んだ時空で物理法則を記述し、さらにその歪んだ時空の性質を論じなければならないことです。
  その歪んだ時空を記述する幾何学がリーマン幾何学なのですが、リーマン時空を表現するには、その時空間を測定する時計の進み具合が位置と共に変化し、測定棒の長さが、その向きや位置によって変化すると考えればよい。またその空間を測定する座標線(その接線方向に測定棒が向いている)の向きは場所ごとに変化し、その座標線が曲線を成し座標軸の長さが伸び縮みすと考えればよい。
 ところで、時間座標を距離座標と一緒に議論するのは難しいので、本稿では3次元座標が全て距離座標であるような3次元リーマン空間を考えます。

[補足説明]
 多くの教科書では、共変性、反変性基底ベクトル、双対基底ベクトルの関係を二次元平面、つまり2次元リーマン空間中の1点での接平面(2次元ユークリッド空間)上の斜交座標で論じている。例えばダニエル・フライシュ著(河辺哲次訳)「物理のためのベクトルとテンソル」岩波書店2013年刊)§4.4〜§4.6、あるいは平川浩正著「相対論(第2版)」共立出版社(1986年)§4-4など。
 しかし2次元での説明は解りにくい。3次元の方が遙かに解りやすいので、本稿では“3次元リーマン空間”で考えます。

 

)3次元リーマン空間

 “3次元リーマン空間”を想像するのは難しいが、ガウスが考えた3次元ユークリッド空間中の“曲面”がそれを想像する為のヒントを与えてくれる。別稿「微分幾何学」3.(2)2.[補足説明3]で説明したように、その曲面上に存在する座標曲線のみを考察することで“2次元リーマン空間”が考察できた。つまり、曲面の上に、縦横に正方形格子状の網目が引かれたゴムシートを貼り付けたと考え、その網目座標でリーマン空間の性質を論じる事ができる。そこで説明したように、それを論じる微分形式が2.(3)3.で定義された第1微分形式であり、議論を展開する為の量がそこで導入された第1基本量 E,F,G(g11,g12=g21,g22 です。

 そのとき注意して欲しいことは、2次元リーマン空間の座標を決める基底ベクトルxは曲面の1点ごとに決められ、それらは曲面のその点に於ける“接平面(2次元ユークリッド空間)”の中に存在する“2次元斜交座標”でした。その接平面は接点の位置が変われば様々な傾きで変化しますが、各点の近傍に限れば平坦な平面中の斜交座標だと考えることができたのです。3次元リーマン空間においてもこのやり方を用いればよい。

 3次元リーマン空間を想像することは難く、ガウスが2次元リーマン空間である曲面を高次元の3次元ユークリッド空間から眺めた様なことはできません。我々は3次元ユークリッド空間に住んでいるのですから、3次元リーマン空間を体験するために高次のユークリッド空間を利用することはできないのです。
 ところで、ガウスが第1微分形式で曲面の幾何学を展開したとき、その曲面は2次元リーマン空間でありながら、その微小領域に限っては平面である2次元ユークリッド空間(接平面のこと)中の斜交座標で議論できた。ならば、3次元リーマン空間でも、その微小領域に限れば3次元ユークリッド空間中の3次元斜交座標系で議論できるだろう。
 つまり、ガウスが曲面の接平面上での斜交座標(斜交基底ベクトル)で2次元リーマン空間の幾何学を論じた様に、3次元リーマン空間の中の一点の近傍に限れば、3次元ユークリッド空間中の3本の斜交座標(3つの斜めに交わる基底ベクトル)で議論できるだろう。 

 ここで注意して欲しいことは、“リーマン空間”の歪みを表すにはその歪んだ空間の中に存在する単位長さの測定棒の伸び縮みと、その測定棒の方向の変化で表現するしか方法は無いことです。つまり“単位測定棒の長さとその向きの場所的な変化こそが空間の歪みを体現している”(この言い方は誤解を招きやすい。基底ベクトルが斜交したことや稜の長さが不揃いになったことがリーマン空間の歪みを直接表すわけではないからです。このことの正確な意味は4.(2)、(3)をご覧下さい。)
 そして、そのような伸び縮みする単位棒を三次元的に並べた3次元空間の中の各点に、いわゆるスカラー量、ベクトル量、テンソル量が分布しているわけです。それらは一般に三次元空間の位置座標の関数であり、空間座標が異なればそれらの量は変化します。
 さらに、それらの量は一般に座標の変化量に関係した量です。例えば、3次元空間中の任意の1点におけるベクトル量である微小変位ベクトルdrはその地点でのベクトルの長さと方向(dr1,dr2,dr3)に関係しているのですが、そのベクトル先端の座標値までの長さに関係している、あるいは3次元空間内のスカラーの勾配ベクトルを考えると∂/∂rの様に座標の微小変化drに関係している。
 そのとき、それらのスカラー量、ベクトル量、テンソル量が存在する点における座標の変化量に関係していると言われても、座標空間そのものが、場所と共に歪み変化しているのですから、そのことを、スカラー量、ベクトル量、テンソル量の表現の中に取り込んでおかねば成りません。ここが難しい。

 

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(2)3次元リーマン空間の微小領域

 座標の様子が、3次元リーマン空間中に存在するスカラー量、ベクトル量、テンソル量に関係すると言われても、座標軸の方向そのものが、あるいは座標測定の単位測定棒の長さそのものが場所的に変化しますので、それらの量の性質を調べるには、まずその内部で“座標軸の方向と、距離測定の単位測定棒の長さが一定であると見なされる微小領域をとりあげる”必要があります。

 それで、取りあえずその様な微小領域を算術的に取り扱うために下図の様な“基本ベクトル”の組 1,a2,a3 を考えます。下図の矢印は単位測定棒ですが、その測定棒の方向と長さが存在場所によって変化することが空間の歪みを表しています。(このことの正確な意味は4.(2)、(3)をご覧下さい。)
 もちろん単位測定棒が接している空間の座標曲線の連なりは場所の変化と共にクネクネと曲がっていきますので、極狭い領域でのみ測定棒の接線方向の座標線は図のように直線的に延びていると近似出来るわけです。

 図中のxyz軸は3次元リーマン空間中の一点の近傍をあらわす3次元ユークリッド空間です。現実の時空はリーマン空間なのですが、実際の我々の生活空間のスケールに於いてはユークリッド空間との差はほとんど無いのですから、前節で説明した曲面上の1点の近傍を接平面(2次元ユークリッド空間)で近似したのと同様に3次元リーマン空間の1点の近傍領域を3次元ユークリッド空間で近似した中で考えても良いわけです。
 また、格子状の網目が印刷されたゴムシートを曲面に貼り付けると、その貼り付けられた曲面の一点の近傍は接平面(2次元ユークリッド空間)で近似できると言ってもその中での網目格子はもはや正方形ではなく、平行四辺形になり、辺の長さも、平行四辺形の面積も元の貼り付ける前のゴムシード上での正方格子とは異なります。そのことが曲面がユークリッド空間ではなくリーマン空間であると言うことを表しています。
 それと同様に、各点で設定された3次元ユークリッド空間中の斜交平行六面体を構成する基本単位ベクトルの方向と長さは様々に変化しているはずです。これらの平行六面体は3次元ユークリッド空間の中に作った立方体格子を3次元リーマン空間に貼り付けたときの3次元ユークリッド空間での様子を表しています。

補足説明
 上記アンダーラインの説明は正確では在りません。なぜなら曲面上に住んでいる曲面人にとって貼り付ける前のゴムシート上の網目が正方格子だったかどうかなど知りようがないからです。それと同様に3次元リーマン空間に住む我々にとって、それに貼り付ける前の3次元ユークリッド空間に引いた格子が立方体状の格子だったかどうかなど知りようがないからです。アンダーラインの文章の正しい解釈は4.(2)、(3)をご覧下さい。

 

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2.3次元リーマン空間中の1点近傍の3次元ユークリッド空間における3次元斜交座標による表現

)基底ベクトルと双対基底ベクトルの関係

 空間を、 1、a2、a3 なる三つの基底ベクトルで決定される空間格子とする。この格子を今後“実格子空間”と呼ぶことにする。

 これに対して、次の定義で導入される三つのベクトル 1、b2、b3 (これを双対基底ベクトルと言う)で構成される単位格子で構成される空間格子を考える。これを“双対格子空間”と呼ぶことにする。

 定義から明らかなように12とa3に、23とa1に、31とa2に垂直です。またそれらの大きさは(a・b=1(i=1,2,3)によって定まる。
 このことの意味をもう少し説明すると、双対基底ベクトルb1基底ベクトルa23が張る平面に垂直な方向を向いており、その長さは双対基底ベクトルb1基底ベクトルa1の内積が(a1・b1=1となるように定められていると言うことです。
 同様に、双対基底ベクトルb2基底ベクトルa13が張る平面に垂直な方向を向いており、その長さは双対基底ベクトルb2基底ベクトルa2の内積が(a2・b2=1となるように定められている。
 同じく、双対基底ベクトルb3基底ベクトルa12が張る平面に垂直な方向を向いており、その長さは双対基底ベクトルb3基底ベクトルa3の内積が(a3・b3=1となるように定められている

 別稿「ベクトルの内積と外積の成分表示」2.(5)2.で説明したベクトルのスカラー積(内積)とベクトル積(外積)の意味と、(a1・[a2×a3])は三つの基底ベクトル1、a2、a3を三稜とする平行六面体の体積であることを思い出せば、それぞれの双対基底ベクトルは基底ベクトルにより

と表されることが解る。
 実際、このように定義された1、b2、b3 の方向が前記の定義を満たしていることはベクトルの外積の定義から明らかであろう。また3つのベクトル1、b2、b3それぞれの大きさについては、それぞれ

となるので、やはり定義の条件を満足している。
 もちろん、元の基底ベクトルは、新たに定義した双対基底ベトクルにより

と表される。

 

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(2)双対基底ベクトルの図示

 双対基底ベクトル b1、b2、b3 を図示するには次のようにすればよい。まず基底ベクトルa1、a2、a33次元ユークリッド空間での座標値を定める。

これを、上記のベクトル式に代入して成分計算して双対基底ベクトルb1、b2、b33次元ユークリッド空間での座標値

を得る。
 その座標値に基づいて3次元ユークリッド空間内に双対基底ベクトルの矢印を図示する。双対基底ベクトル矢印の様子からその長さも明らかになる。そのように3次元ユークリッド空間を利用できることは前章1.(2)で説明した。

例1
 具体的な値を与えて図示してみる。
 例えば3本の基底ベクトルの3次元ユークリッド空間に於ける座標値を

とする。
 これらの値を前述のベクトル計算式に代入して双対基底ベクトルの3次元ユークリッド空間での成分値を計算すると

が得られる。実際の計算は面倒なのでMathematicaを利用した。
 このとき、これらの成分値は最初の条件式

を満足していることが確認できる。
 これらの3次元ユークリッド空間の成分値を用いて双対基底ベクトル b1、b2、b3 を図示すると

の様になる。[拡大図はこちら。また、視点を変えた図はこちら。]
 実際の計算や図示はMathematicaなどの数式処理ソフトなど使わないと面倒だがとにかくできる。
 上記の図で、例えば双対基底ベクトル

は、基底ベクトル

の張る平面に垂直です。

 また、例えば基底ベクトル

双対基底ベクトル

の張る平面に垂直である事を読み取って下さい。

 他の面もそれぞれ対応する基底ベクトル、双対基底ベクトルに垂直になっている事を読み取って下さい。

補足説明1
 上記の“基底ベクトル”“双対基底ベクトル”の関係は、結晶解析学で習う“実格子”“Ewaldの逆格子”の関係になっている。このことについては、別稿「X線結晶解析におけるラウエの条件式とブラッグの条件式」5.(2)2.を参照されたし。 

補足説明2
 ダニエル・フライシュ著(河辺哲次訳)「物理のためのベクトルとテンソル」岩波書店2013年刊)§4.4〜§4.6や平川浩正著「相対論(第2版)」共立出版社(1986年)§4-4図4.3の様に2次元の場合は、[例1]を利用して説明すると、下記の様にz座標成分を全て 10 にして、3次元のベクトル解析で計算する。そして、そのxy成分だけ取り出せば良い

その様に取り扱えば、上記引用文献の説明も理解しやすい。

補足説明3
 前述の様に、2次元、3次元リーマン空間の場合はベクトル解析のベクトル積・スカラー積の3次元ユークリッド空間での成分計算を実施すれば“双対基底ベクトル”を求めることができる。
 4次元以上の、例えばn次元リーマン空間では次のようにする。
 n×n=n2未知数

に関するn×n=n2線形連立代数方程式

を解けば良い。これは線形連立代数方程式だから、線形代数学の授業で習うCramerの公式で解ける。この公式は『ウィキペディア(Wikipedia)』などにも解りやすく説明されているので参照されたし。
 もちろん本稿で説明している3次元リーマン空間の場合もこの線形連立代数方程式を解く方法が利用できます。3次元の場合の連立方程式は

となります。
 さらに、2次元リーマン空間の場合もこの線形連立代数方程式を用いる方法で解いても良い。実際、ダニエル・フライシュ著(河辺哲次訳)「物理のためのベクトルとテンソル」岩波書店2013年刊)§4.4〜§4.6ではそのようにしています。

例2
 前述の[例1]に、[補足説明3]の3次元の場合を適用すると 3×3=9元 連立の線形代数方程式の行列表示は

となる。
 この線形連立代数方程式をCramerの公式で解けば良い。手計算は大変なのでMathematicaを利用して解くと、確かに

が得られる。

補足説明4
 ここで取り上げた例では基底ベクトルと双対基底ベクトルの違いが解りやすいように基底ベクトルの作る単位平行六面体セルとしてかなり歪んでいるものを用いました。しかし、微小領域で見た場合には3次元リーマン空間の歪みはごくわずかですからこんなに歪んでいるわけではありません。(この言い方は誤解を招きやすい。基底ベクトルが斜交したことや稜の長さが不揃いになったことがリーマン空間の歪みを直接表すわけではないからです。このことの正確な意味は4.(2)、(3)をご覧下さい。)
 ところで、1.(2)で説明したように、正方格子状の網目が印刷されたゴムシートを曲面に貼り付けると、その貼り付けられた曲面の一点の近傍は2次元ユークリッド空間(つまり接平面)で近似できると言ってもその中での網目格子はもはや正方形ではなく、平行四辺形に歪みます。辺の長さも、平行四辺形の面積も元の貼り付ける前のゴムシード上での正方形格子のそれとは異なります。そのことが曲面がユークリッド空間ではなくリーマン空間であると言うことを表しています。
 それと同様に、各点で設定された3次元ユークリッド空間中の斜交平行六面体を構成する基本単位ベクトルの方向と長さは様々に変化しているはずです。これらの平行六面体は3次元ユークリッド空間の中に作った立方体格子を3次元リーマン空間に貼り付けたときの3次元ユークリッド空間での様子を表しているのでしたから。
 そのとき、3次元リーマン空間の歪みが小さい場合は、それに貼り付けられた3次元ユークリッド空間の立方体格子はそのままの形を保つはずです。つまり基底ベクトル

となります。
 そのとき、上記と同じ手順でこれから定義計算した双対基底ベクトル

となります。
 つまりリーマン空間が歪んでいない場合はユークリッド空間と同じですが、ユークリッド空間では基底ベクトル直交関係に取りその長さを とすれば、その双対基底ベクトルは元の基底ベクトルと完全に重なります。つまり11に、22に、33にそれぞれ重なります。
 この場合には、2.(3)で説明する“共変成分”“反変成分”の区別はなくなります。普通の3次元ユークリッド直交空間で習うベクトル解析、テンソル解析にはこの共変・反変という概念は表れなかったことを思い出して下さい。

 

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(3)ベクトルの成分表現

 これらの関係を用いると“実格子空間”の任意のベクトル v

は以下の様に表せる。

 ここの成分表示 (v1,v2,v3) は、基底ベクトルa1、a2、a3の長さを単位として、その長さの何個分かを表していることに注意されたし。
ただし、このように表現できるのはあくまで原点の近傍領域内のベクトルについて言えるだけであることを忘れないこと。
 ここで注意して欲しいことはベクトルの大きさについては特に制限は無いのですが、“変位ベクトル”についてはその近傍領域内の位置を示す微小変位ベクトルに限るという微小であると言う制限”がつきます。

 全く同様にして、“双対格子空間”の双対基底ベクトルで同じベクトルを表すと

となるのですが、これについては

が成り立つ。ここの成分表示 (v1,v2,v3) は、双対基底ベクトルb1、b2、b3の長さを単位として、その長さの何個分かを表していることに注意されたし。

 同じベクトルでも実格子空間の基底ベクトルを用いて表示するか、双対格子空間の双対基底ベクトルを用いて表示するかで、その座標値(v1,v2,v3(v1,v2,v3の値は異なります。“座標値”は異なっても同じベクトルを表している事を忘れないで下さい。
 (v1,v2,v3ベクトル v“反変成分”と言い、(v1,v2,v3ベクトル v共変成分”と言います。

例3
 前述の[例1]実格子空間双対格子空間での“座標値”を計算して、上記の事情を図で示してみる。
 今任意のベクトル v の3次元ユークリッド空間での成分座標値を =(x,y,z)=(1.4,1.5,1.7)≡(vx,vy,vz) とする。図中では黒矢印で示している。
 このとき反変成分(v1,v2,v3)の具体的な値は

だから次のようにして計算できる。

 同様に共変成分(v1,v2,v3)は

だから

となる。
 これらの値を用いて図示すると

となる。[拡大図はこちら。また、視点を変えた図はこちら。]
 図から明らかなように、基底ベクトルに対して双対基底ベクトルというものを考えたのは、単位格子セルが平行六面体となった為に、ベクトル v の座標値をその単位格子セルの格子定数(つまり基底ベクトルの何倍か)で知る必要があるから。すなわち、前記の(A)式(B)式の関係を利用したいからです。
 反変成分(v1,v2,v3)、共変成分(v1,v2,v3も図の中に全て書き込んでありますから、図でその意味を読み取って下さい。そのとき、図中平行六面体のピンク色着色面基底ベクトル a3 に垂直であり、水色着色面双対基底ベクトル b3 に垂直です。他の面もそれぞれ対応する基底ベクトル、双対基底ベクトルに垂直になっている事を読み取って下さい。

 

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(4)リーマン計量(計量テンソル)と共変・反変の関係

 別稿「微分幾何学」3.(2)2.[補足説明3]で説明したように、ここで考えている3次元ユークリッド空間は、曲面(2次元リーマン空間)の各点で定義された接平面(2次元ユークリッド空間)を3次元リーマン空間に拡張したものですから、上記の3個の独立なベクトル 1、a2、a3 からできる

“3次元リーマン空間”の原点に於けるリーマン空間の“基本計量共変テンソル成分” gij であると考えられる。
 一方

を満足するような新たな3個のベクトル の組を2.(1)で考えたのだが、これらのベクトルの組から

とおいた量 ij を考えることができる。

 このとき任意のベクトル v

の様に表すと前節2.(3)で示したように

となる。これらは以下の事を表している。
 まず、最初の式から

つまり、ベクトル v基底ベクトル系での成分 (v1,v2,v3) は gij を乗じて縮約することで双対基底ベクトル系での成分 (v1,v2,v3) に変換される。このとき (v1,v2,v3ベクトル v“反変成分”といい、 (v1,v2,v3 ををベクトル v“共変成分”と言うのでした。
 もう一方の式から

が成り立つので、ベクトル v双対基底ベクトル系での成分 (v1,v2,v3)は gij を乗じて縮約することで基底ベクトル系での成分 (v1,v2,v3) に変換される。
 すなわちij は“反変成分”を“共変成分”に、 gij は“共変成分”を“反変成分”に変換する働きがある
 さらに、上式を用いると

となり、ijjk=δk が成り立つので、 ij は gij“逆行列”である

 このようにして得られたij ij ”リーマン空間”“基本計量テンソル”と言う。いずれも“対称テンソル”になることは、その定義から明らかです。
 基本計量テンソルを仲介として考えれば、基底ベクトル・双対基底ベクトルと座標値との関係や、ベクトルの反変成分・共変成分の幾何学的な意味が明らかになる。

例4
 2.(2)[例1]で取り上げた基底ベクトル双対基底ベクトルについての“基本計量共変テンソル”ij“基本計量反変テンソル”ijを計算してみる。
 基底ベクトルの座標値を用いて計算すると

が得られる。実際の計算は面倒なのでMathematicaを利用した。
 同様に双対基底ベクトルの計算値を用いると

が得られる。
 これら2つの行列の積を作ると確かに

を満足している。
 さらに、反変成分から共変成分への変換式

を満たしている。
 これがテンソル代数学に於いて、反変ベクトル vj基本計量共変テンソル gij を乗じて について縮約すると共変ベクトル vi (指数を下げたベクトル)が得られると言うことの意味です。
 もちろん、共変成分から反変成分への変換式

も確かに満たしている。
 これがテンソル代数学に於いて、共変ベクトル vj基本計量反変テンソル gij を乗じて について縮約すると反変ベクトル v (指数を上げたベクトル)が得られると言うことの意味です。

 

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(5)[基本計量テンソル]と[ベクトルの内積]の関係

 前節では3次元リーマン空間内の一つのベクトル v を考えたが、ここではもう一つ別のベクトル w を考える。このベクトルについても基底ベクトル系での成分表示 (w1,w2,w3) と双対基底ベクトル系での成分表示 (w1,w2,w3) がある。前者 (w1,w2,w3) をベクトル w の反変成分といい、後者 (w1,w2,w3ベクトル w の共変成分という。これらについては前節でベクトル v で述べたのと同様な関係式が成り立ちます。

 このとき2つのベクトル v と w “内積”

であることを考慮すると

となる。
 アインシュタインの規約を適用して表現すると

となる。

 同様にして、微小変位ベクトルをdxとすると、この空間ベクトルの“長さds”の2乗は

と表される。

 

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(6)基本計量テンソルとは何か

 基本計量テンソルは、結晶解析学に於ける“格子定数”に相当します。“格子定数[lattice constant]とは、結晶格子の単位格子セルの稜の長さa,b,cと,相互の間の角度α,β,γをいう。”(岩波『理化学辞典』より)

 3つの基底ベクトルが張る平行六面体の稜の長さを|1|,|2|,|3|とし、ベクトル1とベクトル2のなす角をθ12、ベクトル2とベクトル3なす角をθ23、ベクトル3とベクトル1のなす角をθ31とすると、2.(2)[例1]での基本計量共変テンソル gij

を意味します。
 これから直ちに

を求めることができます。実際、格子定数の値がそのようになることは[例1]の図から読み取れます。
 そのとき、これらの値から逆に ij は直ちに計算できます。それ故に基本計量テンソルは格子定数のようなものだと言えます。

補足説明
 ここで重要なことは4.(3)で説明するように、“3次元リーマン空間”の各点の近傍は“3次元ユークリッド空間”で近似できるのでしたから、3次元リーマン空間の中に引かれている網目状格子の各点の格子(平行六面体)の稜の長さ|1|,|2|,|3|と稜の交差角θ12、θ23、θ31は3次元ユークリッド空間の物指し棒と分度器で現実に測定することができます。だから現実のリーマン空間の各点に於ける基本計量共変テンソル gij はユークリッド空間に存在する平行六面体から測定可能です。 

例5
 このようにして格子定数に相当するものが与えられるから、基底ベクトルの何倍という形で与えられた座標値と組み合わせることにより、現実の位置ベクトルの長さds あるいはその2乗値であるds2 が求まる。
 前節で求めたds2の計算式を2.(3)[例3]で取り上げた位置ベクトル v に適用して、その長さの2乗値を求めてみる。

となるが、これは確かに

と一致している。

 以上述べたことは、基本計量反変テンソル gij についても同様に成り立つ。

 

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(7)基底ベクトルが作る単位格子セルの体積Vと基本計量テンソルgijの関係

 基本計量テンソルの重要な性質について補足する。
 3つの基底ベクトル a1,a2,a3 の張る平行六面体(単位格子セル)の体積Vは、別稿「ベクトルの内積と外積の成分表示」2.(5)2.で説明した様に

で表される。
 そのため、体積Vの2乗は

となる。式変形に行列式の性質を用いたが、詳細は別稿「ベクトルの内積と外積の成分表示」2.(5)2.[補足説明]を参照。
 ところで最後の行列式は、2.(4)で定義した“3次元リーマン空間”“基本計量テンソル”ij から得られる行列式の値ですから

となる。
 従って、ベクトル=(v1,v2,v3)を対角線ベクトルとする基底ベクトル系における平行六面体の体積V

で表される。

例6
 2.(3)[例3]の平行六面体の体積

を計算してみる。
 まず、3つの 基底ベクトル a1,a2,a3 の張る平行六面体(単位格子セル)の体積Vは

となる。
 そのため、図の[着色した平行六面体の体積]=V×v1×v2×v3

となる。たしかにその様な体積であることが図から読み取れる。

 以上述べたことは、双対基底ベクトルが作る単位格子セルの体積基本計量反変テンソル gij についても同様に成り立ちます。

 

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3.基底ベクトルの変換とベクトル成分・テンソル成分の座標変換

)基底ベクトルと双対基底ベクトルの変換

 基底ベクトル a1、a2、a3 の変換を考える。今はリーマン空間の小領域を表す3次元ユークリッド空間を考えているから、その中の斜交座標の基底ベクトルの変換は一般的に次の線形変換で実行できる。変換後の新基底ベクトル座標指数を付けて 1’、a2’、a3’ の様に表すことにする。

 この変換式の意味は明らかであろう。新基底ベクトル a旧基底ベクトル a1、a2、a3 の線形結合 i' で表される事を示している。これは1’、a2’、a3’ を新基底ベクトルとする新たな座標系を定義したことを意味する。
 この新たな座標系で今まで議論してきたベクトル v を表すと

となる。

 このとき、新基底ベクトル1’、a2’、a3’ に対応する新双対基底ベクトルも在るわけで、それを1’、b2’、b3’ としよう。そして、その新双対基底ベクトル b1’、b2’、b3’が、旧基底ベクトル a1、a2、a3 に対する旧双対基底ベクトル b1、b2、b3 から

変換されると仮定して、その変換行列 i' の性質を調べてみる。
 変換後の基底ベクトル 1’、a2’、a3’双対基底ベクトル b1’、b2’、b3’ の間にも (ai'・bj')=δi'j' が成り立たねばならないとして、変換行列 i' を計算してみる。すなわち

となる。
 これは変換行列 i' が変換行列 i' の逆行列でなければならない事を示している。
 もちろんこのとき、上記のベクトル v の新双対基底ベクトル系での表現は

となる。

 

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(2)微小変位ベクトルdrの座標変換

 リーマン空間では有限の大きさの位置ベクトルは考えることはできない。なぜなら、この稿で説明してきた斜行座標を構成する基底ベクトルはリーマン空間の場所ごとで変化していくものだからです。その基底ベクトルを定義している3次元ユークリッド空間もリーマン空間の各場所の近傍領域でのみその場所のリーマン空間を近似的に表すものでしかないからです。これは、リーマン空間を議論するときいつも最初に注意される事柄です。
 
 上記の様に位置ベクトルとしては微小なものしか考えることができませんしリーマン空間の微小領域に限られますが、その位置を定めるものであることは確かです。つまり空間の中の位置座標を示すものです。この“微小変位ベクトル” dr もリーマン空間(近似ユークリッド空間)でのベクトルですからその反変成分や共変成分と基底ベクトル、双対基底ベクトルとの関係は2.(3)の説明した内容になります。

 すなわち“反変成分”

となります。
 このとき、成分導出式[3.(1)の(D)式]を適用すると

となります。つまり“反変成分”双対基底ベクトルと同じ変換係数 i' によって変換される。

 さらに“共変成分”に関しては

となります。
 このとき成分導出式[3.(1)の(C)式]を適用すると

となります。つまり“共変成分”基底ベクトルと同じ変換係数 i' によって変換される。

 

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(3)任意ベクトル成分の座標変換

 ここではリーマン空間のなかの各点で定義された任意ベクトルを考える。これは速度ベクトル、加速度ベクトル、運動量ベクトル、電流密度ベクトルなどが在ります。もちろん前節の微小変位ベクトルdrもその中に含まれます。
 任意のベクトルv“反変成分”“共変成分”の座標変換則は前節の結論を用いれば直ちに求まる。

 まず、反変成分

となる。つまり双対基底ベクトルと同じ変換を受ける。
 すなわちベクトルの反変成分は座標位置を表す微小変位ベクトルdrの反変成分と同じ変換法則によって座標変換される。 これがテンソル代数学に於いて、微小変位ベクトルdr と同じ変換法則によって座標変換されるベクトルを反変ベクトル v と言って指数添字を上げて表示する理由です。

 同様に、共変成分

となり、基底ベクトルと同じ変換を受ける事が解る。
 すなわちベクトルの共変成分は座標位置を表す微小変位ベクトルdrの共変成分と同じ変換法則によって座標変換される。これがテンソル代数学に於いて、微小変位ベクトルdr と同じ変換法則によって座標変換されるベクトルを共変ベクトル v と言って指数添字を下げて表示する理由です。
 
 ところで、前節3.(2)で見たように、微小変位ベクトルdr の変換行列は微小変位ベクトルdr の変換行列の逆行列でしたから、微小変位ベクトルdri の変換行列の“逆行列”で変換されるベクトルの事を“共変ベクトル”と言っても良いわけです。

 

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(4)基本計量テンソルの座標変換

 テンソル成分の座標変換の例として、2.(4)で導入した基本計量テンソル gij の座標変換法則を求めてみる。
 定義より、“アインシュタインの規約”を適用すると

が得られる。
 これは基本計量テンソル gij2階共変テンソルで在ることを示している。

 同様に基本計量テンソル gij の座標変換則を求める。
 定義より、“アインシュタインの規約”を適用すると

が得られる。
 これは基本計量テンソル gij2階反変テンソルであることを示している。

補足説明1
 基本計量テンソル gij について成り立つ上記座標変換則がリーマン空間の“線素ds2の大きさが座標変換に対して不変”であることを保証している。

 このことに関しては別稿「微分幾何学」3.(2)2.[補足説明3]の文末の説明を参照されたし。

補足説明2
 3次元の場合に、基本計量テンソルによって反変成分共変成分が互いに変換されることを2.(4)で説明した。ここで説明したの基本計量テンソルの座標変換則を用いても、そのことが確認できる。
 
 まず、基本計量共変テンソル gij反変ベクトル v に乗じて指数jに関して総和をとり縮約したものの座標変換則を求めると

となる。つまり ij“基底ベクトル”と同じ変換係数で変換されることが解る。つまり共変ベクトルとなっている。それを と書いているだけです。
 
 同様に、基本計量反変テンソル gij共変ベクトル v に乗じて指数jに関して総和をとり縮約したものの座標変換則を求めると

となる。つまり ij“双対基底ベクトル”と同じ変換係数で変換されることが解る。つまり反変ベクトルとなっている。それを と書いているだけです。
 
 ところで、 反変ベクトル v基本計量共変テンソル gij共変ベクトルに変換したものをもう一度基本計量反変テンソル gij反変ベクトルに変換すると

となる。つまり元に帰ります。
 同様に、 共変ベクトル v基本計量反変テンソル gij反変ベクトルに変換したものをもう一度基本計量共変テンソル gij共変ベクトルに変換すると

となる。つまり元に帰ります。
 すなわち、もともと同じベクトル v“基底ベクトル系”で成分表示したものを反変ベクトル v といい、“双対基底ベクトル系”で成分表示したものを共変ベクトル v と言うだけです。

 

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4.曲面人(2次元リーマン空間人)と3次元リーマン空間人

)アインシュタインの着想

 別稿「双子のパラドックスと一般相対性理論(リンドラー座標)」5.(1)で説明したように、アインシュタインは、“等価原理”を発見した後、一般相対性理論を構築するには歪んだ時空を取り扱わねばならないことに気付きます。自伝ノートに記している様にアインシュタイン自身がそのことを理解するまでにかなりの紆余曲折が在ったのですが、最終的に、曲がり歪んだ時空の取り扱い法を見つけることが本質だと理解します。
 そして、プラハ時代(1912年)に“ガウスの曲面論”がその手がかりを与えてくれることに気付きます。そのことについて1922年12月14日の京都公演で語っています。とても興味深い述懐なので以下に引用します。

アインシュタインが“ガウスの表面座標を本当に意味深いものの如くに自分に思い浮かべました。”と語っている内容を次節で説明します。

 

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(2)ガウスの曲面論

 アインシュタインが意味深いものと感じた事を理解するには、別稿「微分幾何学2(曲面論)」「微分幾何学3(曲面幾何学)」“中身の違い”を理解する必要があります。そして3.(2)2.[補足説明3]で説明した事柄を思い出す必要があります。
 「微分幾何学2(曲面論)」では2次元ユークリッド空間のなかの曲面(2次元リーマン空間)を2.(2)第1基本微分形式と2.(4)第2基本微分形式の両方を用いて議論しました。ところが「微分幾何学3(曲面幾何学)」では曲面の上で観測・測定できる第1基本微分形式しか出てきません。「微分幾何学3(曲面幾何学)」では共変微分や平行移動などの新しい概念も出てきて混乱しますが、それらも含めて全てが曲面上の網目座標に関係する第1基本微分形式に関係した第1基本量 E,F,G(g11,g12=g21,g22) だけで論じられています。「微分幾何学2(曲面論)」に出てきた第2微分形式に関係した第2基本量 L,M,N(h11,h12=h21,h22)はどこにも表れません。
 リーマン幾何学を理解する鍵は、そのように曲面上で定義された網目(平行四辺形)を記述する第1基本量 E,F,G(g11,g12=g21,g22) のみで論じられている事を忘れないことです。

 そこで、“ガウスの曲面論”に帰るのですが、まず3次元空間中の2次元ユークリッド空間(いわゆる平面のこと)を考えます。それはゴムシートでできており、それに正方格子を単位とする網目が縦横に引かれているとします。
 次にこれを3次元ユークリッド空間中の曲面(これが2次元リーマン空間です)にそのゴムシートを貼り付けます。もとと平面であったゴムシートを貼り付けるのですから、在る部分は伸ばしたり別の部分は縮めたりして貼り付けなければなりません。そうすると曲面に貼り付けられたゴムシートの網目はもはや正方格子状ではありませんが、やはり格子状(平行四辺形状)の網目を構成します。
 この曲面上の網目格子については次のことが言えるでしょう。

  1.  曲面上の網目格子は元の平面だったときのゴムシート上の格子とは違って正方形ではありません。平行四辺形になります。そして格子の縦横の辺の長さも元のゴムシート上の格子辺長とは異なったものになります。その辺長も格子の2辺の交差角も変化しているでしょう。もちろんその変化の度合いは曲面上の位置を移動すれば場所ごとに異なるでしょう。
  2.  上記の様に曲面上の網目格子は変形しています。変形していますが、曲面の在る点の近傍に限れば、その網目格子は、曲面の各点に於ける“接平面”上に存在すると考えることができます。この接平面は平面ですから2次元ユークリッド空間でです。つまり曲面上に住んでいる曲面人にとっては2次元ユークリッド空間に住んでおり、その点における網目格子の格子は2次元ユークリッド空間(つまり平面)の上に描かれた平行四辺形だと認識していることになります。
  3.  曲面上の住人(曲面人)が曲面の別の場所に移動すると、そこに存在する網目格子はやはりその点での接平面(2次元ユークリッド空間)に描かれた平行四辺形だと感じるはずです。そのとき、新しい場所での接平面は平面(2次元ユークリッド空間)ではあるが最初の点における接平面の延長上に在るわけではありません。つまり最初の接平面と別の場所の接平面は同一の平面ではありませんが、それぞれの場所場所では“2次元ユークリッド空間”であると考えても良いのです。そして前記の平行四辺形の格子は2次元ユークリッド空間(平面)の上に描かれているとして良い。ここはきわめて重要です。これが《第1に重要なこと》です。
  4.  以上の様にして、曲面人は曲面上を動き回って曲面の各点の近傍の2次元ユークリッド空間(接平面)上の網目格子の格子の各辺の長さをユークリッド空間での物指しで測ることができます。そして各点に於ける格子辺が互いに交わる角度を2次元ユークリッド空間での分度器で測る事ができます。それらを使えば2.(6)[補足説明]で説明したように、2次元リーマン空間(曲面)の各点に於けるリーマン計量を知ることができます。
  5.  その様にして曲面人は彼が住んでいる曲面内に存在する全ての格子の辺の長さと互いの交わりの角度を測定することができます。そうすると曲面人は、その様にして互いに接続している格子の辺と交差角の情報をつきあわせてみることができます。それをした曲面人は、それは完全な平面の上に引かれた格子の辺と交差角の情報をつきあわせた場合と異なることにすぐに気付きます。つまり平面(2次元ユークリッド空間)の上に描かれていると思って測定していった格子の辺長と交差角(いわゆる“格子定数”)の各点における情報だけで曲面人は自分達が曲がった曲面の上に住んでいるのだと知ることができるのです。
     つまりここで大事なことは、格子定数が場所とともにどの様に変化するかを読み取ることが大事です。曲面の一箇所に於ける網目(平行四辺形状の格子)の情報が解っただけでは自分が曲面に住んでいるのか平面に住んでいるのか決して判定できません。格子定数(計量テンソル)の場所的な変化の情報を知らなければならないのです。ここが、《第2に重要なこと》です。
     この情報こそ『微分幾何学』で習う“クリストッフェルの3添字記号”です。その情報はもちろん曲面の中に住んでいる曲面人でも曲面の中に引かれている格子の“格子定数(計量テンソル)”を測定し、それが場所と共に変化することから知ることができます(このことは4.(4)を参照)。
  6.  いままでの話は、曲面に貼り付ける前の平面状ゴムシートに引かれた網目は、縦横に直線的に引かれた正方格子であると仮定していました。それを曲面に貼り付けたためにもともと正方形の格子が平行四辺形に歪んでしまったのだと説明しました。しかし、曲面人に取って今自分が今測定している曲面上(正確に言うとその点の接平面上)の格子が貼り付ける前の2次元ゴムシート上では元々正方形状に描かれていたものであると知ることはできません。つまり曲面人に取って元のゴムシートがどこまでも平坦な2次元ユークリッド空間であり、しかもその上の格子が正方形だったと言うことは決して知り得ないのです。
     ならば、ここが大事なところですが、今まで論じてきた曲面上の網目格子は本来どの様に引かれていても良いのです。
     
     このことは簡単な例を思い浮かべればすぐに理解できます。今曲面の例として地球表面を考えましょう。
     最初は地理学で習う普通の経線と緯線がその表面上に引かれているとします。そしてそれぞれの経線と緯線の交点に於ける接平面上に、その近傍の経線・緯線で切り取られた部分の地図(5万分の1としましょう)を作ります。それらの地図の端を境界経線と境界緯線に沿って正確に切り取り、それらの地図の端を隙間が生じないようにピッタリと貼り合わせて行きます。そうすると張り合わされた地図の全体は一つの球面を構成するはずです。つまり貼り合わせる5万分の1の地図のそれぞれの辺長と辺の交差角の微妙な変化の中に地球表面が球面であることの情報が含まれている。
     次に、日本の東京を北極とし、地球の裏側のアルゼンチンのリオデジャネイロを南極と考えて経線・緯線を引きます。これは前述の経線・緯線の網目とは全く異なりますが、この新たな経線・緯線で地球表面を分割して、その各点に於ける地図(5万分の1)を作ります。この地図の全体を貼り合わせると先ほどの場合と全く同じ球面ができるでしょう。つまり地球表面上に引いた網目は先ほどと全く異なりますが、それぞれの地図(格子)の辺長と辺の交差角の情報にはちゃんと地球が球面であるという情報が含まれているのです。

     
     だから、曲面上に引かれている網目格子はどの様に引かれていても良いのです。ここが《第3に重要なこと》です。

 アインシュタインはおそらく“ガウスの曲面論”から上記の事柄を読み取ったに違いない。そして、それを3次元リーマン空間に拡張します。
 この当たりは、吉田氏の説明もご覧下さい。また、これらの事柄を理解するには文献1.5.“曲率テンソル例”は有益です。

補足説明1
 上記の《3つの重要なこと》を実感するには次の例が有益です。
 まず真四角で平らな天板を持つ机と、長さが全て等しい短い棒(単位棒と名付ける)を沢山準備します。この単位棒4本を互いにそれぞれの端が接して、それらの成す角が直角になるよう、前述の机の一つの隅に設置します。最初に単位棒が作った正方形の側にその一辺を共通とするもう一つの正方形を単位棒で作ります。この正方形の側にまた一つと、次々に並べていく。そうするとついに机の天板が正方形の格子で覆われる。正方形の各辺は二つの正方形に共通となり、正方形のそれぞれの隅は四つの正方形に共有される。このとき注意して欲しいことは、すでに三つの正方形が一角につきあわされているとき、第四の正方形もすでに二辺は置かれていることになるので、残る二辺をどのように置かなければならないかは、すでに先の二辺によって完全に規定されている事です。いずれにしても、その様にして机の天板は単位棒の作る正方形で隙間無く埋め尽くされます。
 次に、同じ机の天板の中央部分をバーナーで加熱します。ご存じのように温度が高くなった天板の中央部は膨張するために机の天板は盛り上がった曲面になります。この盛り上がって曲面状になった天板に先ほどと同じ事をします。机の一隅から4本の単位棒で正方形を作りながら四角形をつないでいきます。この場合には明らかに最初の隅から机の中央に向かうにつれて、4本の単位棒で構成される四角形は正方形から歪んできます。つまり四角形の二辺のなす角は90度からずれてきます。場所が中央に近付くにつれて四角形は平行四辺形に歪んだものになりますが、いずれにしてもその様にしてつないで行った四角形で机の天板を覆い尽くすことができます。覆い尽くすことはできるが、必要とする四角形の数は最初の平坦だった机の場合よりも沢山必要になるでしょう。また、その机の反対側に到達してたとき設置される単位棒はもはや机の縁に平行(あるいは垂直)とはならないでしょう。
 このとき単位棒が作る平行四辺形に対して2.(6)で説明した手順で基本計量テンソルの成分g11,g12,g21,g22を求める事ができます。今は辺の長さは全て1ですからg11=g22=1です。そして、歪んだ天板の場合はg12=g21は0以外のある値となります。また微小領域に限ればその中での四角形の並びは互いに平行な線で仕切られた平行四辺形格子状になりますから、その付近の2点間の距離dsは単位棒の縦と横の並びの数duとdvとその場所の計量テンソル成分gijによって

で与えられるでしょう。
 もちろん、先ほどの平坦な天板の場合はg11=g22=1、g12=g21=0ですから

となります。
 そして天板上の各点での計量テンソルgij変化の様子から、曲面人は天板が平坦なのか曲がっているのかを知ることになる。このときただ一点の四角形の歪みからは曲面の曲がりを知ることはできないことに注意して下さい。
 
 ここでは、長さの変化しない単位棒を連ねる事によって網目を構成したが、真ん中が盛り上がった天板の上に任意に引かれた曲線状の網目でも同じことができることに注意して下さい。それぞれの地点の網目の一辺の長さを物指し棒で測り、二辺の交差角を分度器で測って各点の計量テンソル成分gij2.(6)に従って計算する。微小領域ではほぼ同形の微小平行四辺形で埋め尽くされているので縦横の網目の曲線の本数を数えて上記の式に代入すれば、その領域内の2点間の距離は計算できます。

補足説明2
 アインシュシタインは1916年に書いた啓蒙書「我が相対性理論」第U部§24で類似の例を用いています。そのとき彼が用いた例では机の天板の中央付近の単位棒は机と一緒に熱せられて机と一緒に伸びる様に説明しています。そして最初平板の上に正方格子状に存在していた網目が天板の湾曲に合わせて単位棒も延びで曲面を構成する様に説明しています。
 このような説明でも正しいです。これは今まで何度も説明してきた平板ゴムシートに書かれた正方格子を曲面に貼り付けたために格子が伸び縮みして変形した場合に相当します。またこれは上記[補足説明1]の最後で説明した真ん中が膨れ上がった天板の上に任意に引かれた曲線状の網目の場合に相当します。
 この場合には、曲面上の各点に於ける計量テンソル成分g11とg22はもはや 1 ではなく場所ごとに辺の長さが変化します。そのため場所ごとに(交差角と一緒に)辺の長さも物指し棒で計測しなければなりませんが、全く同様に考える事ができます。
 
 この当たりの説明はBorn著「アインシュタインの相対性理論」第Z章§4の説明も有益ですのでご覧下さい。

 

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(3)3次元リーマン空間人

 我々は3次元リーマン空間に住んでいるとします。そのとき、どの様な事が言えるか考えてみます。

  1.  まず言えることは、我々は3次元リーマン空間に住んでいるが、その中の場所ごとは3次元ユークリッド空間だと認識しても良いと言うことです。つまり、“ガウスの曲面論”における2次元リーマン空間(曲面)でもその場所ごとには接平面が存在し、ユークリッド空間だと考えて良いのでした。だから曲面上の格子も2次元ユークリッド空間である接平面に描かれているとして良かったのです。
     それと同じで、3次元リーマン空間に住んでいる我々だが、その中に設定した平行六面体セルは、その点での接平面に相当する3次元ユークリッド空間の中に存在すると考えて良い。これは前節の《第1に重要なこと》ですが、これは3次元リーマン空間でも《第1に重要なこと》です。
  2.  次に言えることは、“ガウスの曲面論”の曲面の上に住む曲面人がその曲面を包み込む3次元ユークリッド空間の存在を知ることができなかったように、いま我々が住んでいる3次元リーマン空間の曲がり具合や歪み具合を見渡せる高次のユークリッド空間の存在を我々が知ることは決してできないことです。
     我々にできるのは、3次元リーマン空間の各点に設定した平行六面体格子セルの各辺の長さと、辺の交差角の測定です。これはもちろん3次元リーマン空間の各点で定義できる3次元ユークリッド空間での測定値だと考えることができます。それは“ガウスの曲面論”で論じた曲面上の平行四辺形が、その点での接平面(2次元ユークリッド空間)上に存在していると考えたのと同じです。つまり3次元リーマン空間の各点に於いて平行六面体を設定でき、そういったユークリッド空間の平行六面体セルの集合体でもって3次元リーマン空間を埋め尽くすことができると考える。それは前節で述べた、二次元ユークリッド空間(接平面)で作られた5万分の1の地図で球形の曲面(2次元リーマン空間)を埋め尽くすことができることに相当します。
     そのとき重要なことは、前節の《第3に重要なこと》で述べたように、3次元リーマン空間中の平行六面体セルの連なりを表す網目曲線はどの様に引かれていても良いのです。どの様に引かれていても、それぞれの空間点に於ける平行六面体セルの辺の長さと辺の交差角は3次元ユークリッド空間での測定棒と分度器で測定できます。つまり3次元リーマン空間でも各点に於けるリーマン計量テンソルが定義できしかも実測できる[2.(6)参照]。さらに計量テンソルを測定する網目はどの様に引かれたものでも良い。これが3次元リーマン空間で《第2に重要なこと》です。
  3.  次は前節の《第2に重要なこと》に関係する事柄です。3次元リーマン空間の1点に於けるリーマン計量テンソルが解っても何の意味もありません。基本計量テンソルの算出の元になる平行六面体セルはユークリッド空間中のものですからその形状でリーマン空間の歪みが表される訳ではありません。1点でのリーマン計量テンソル(平行六面体の形状)は網目の引き方に依存していかようにでも変化します大事なのは、場所が変わったときにリーマン計量テンソルが変化していくその様子です。先に述べた地球表面を表す5万分の1の地図の例で説明すると、次々と貼り合わせていく隣り合った地図との間の辺長の変化と地図の2辺の交差角の変化の様子です。これは3次元リーマン空間でも同様で《第3に重要なこと》です。
     曲がった空間の任意に定めた網目から計測できるリーマン計量テンソルの変化の様子をどの様にして論じたらよいのだろう。おそらく、アインシュタインはここで行き詰まったと思われます。
     プラハからチューリッヒへ帰ってきたアインシュタインは、その様な事柄を取り扱う数学が存在するかどうか調べてもらえないかと友人の数学者(グロースマン)に相談します。相談を受けたグロースマンが図書室で調べて見つけてきたのが、リッチとレヴィ=チヴィタが1901年に作り上げていた“絶対微分学(テンソル解析学)”だった。そして彼らは、さらにクリストッフェルの仕事やリーマンの仕事にさかのぼって行きます。
  4.  次は前章で説明した座標変換に関する注意です。
     3次元リーマン空間中にスカラー、ベクトル、テンソルは存在し分布しています。それらスカラー、ベクトル、テンソルの大きさは2.(5),(6),(7)で説明したように3次元リーマン空間の格子定数である[基本計量テンソルgijと、[格子の数を示す座標値で表現されます。そのとき座標を変えるということは、格子定数の元になる基底ベクトル系を別なものに変えることです。すなわち3次元リーマン空間を分割する網目を変えることです。
     網目を変えれば、その網目の個数で数えていた座標値が変わります。その座標値の変化は網目(基底ベクトル)の取り方の変更を示す変換係数に関係します。ただ、そのとき元々のスカラー、ベクトル、テンソルの成分の大きさが基底ベクトル系の網目個数(座標値)で表されていたのか、双対基底ベクトル系の網目個数(座標値)で表されていたかの違いによって反変的に変換されるか、共変的に変換されるかの違いが生じます。そのようなことが生じるのは、座標値と一緒になって長さや体積を決める元になる“格子定数(計量テンソル)”が斜行した平行六面体セルについて与えられているからです。2.(2)][補足説明4]で説明したように格子定数が常に立方体状の同じものであったら、反変と共変の違いは出てきません。歪んだ空間を表現するために平行六面体状に歪んだ単位格子セルが必要になったために反変と共変の違いが生じてきた。これが3次元リーマン空間で《第4に重要なこと》です。
  5.  最後は 基本計量テンソルgij基底ベクトル の関係についての注意です。
     ユークリッド空間の様に計量テンソルを定める単位格子として立方体を全空間に渡って利用でき計量テンソルが常に単位テンソルにできる場合と、全空間に渡って一定だが単位テンソルではない場合の違いと、計量テンソルが場所的に変化すると言うことの意味の違いです。おそらくここが一番解りにくい所です。
     
     “ユークリッド空間”でもそれを分割する網目として斜交座標を採用することはできます。さらにその座標線がグニャグニュ曲がった曲線にすることもできます。そうするとユークリッド空間に於いても計量テンソルgijは場所と共に変化しますし、その中でベクトル量を表す座標形式に反変表示と共変表示の違いが出てきます。しかし、その様にしてユークリッド空間を分割して、全空間に計量テンソルを配置してもそれらの集合からは決してユークリッド空間の歪みや曲がりを示すことはできません[補足説明2]参照)。だからユークリッド空間をその様な網目で分割することは全く意味の無いことです。ユークリッド空間の場合は全てを同じ立方体格子で埋め尽くして各点の計量テンソルは

    であるとするのが得策です。そうすれば基底ベクトルと双対基底ベクトルは一致して反変・共変など面倒な性質は出てきません。
     ここで次のことに注意して下さい。斜行座標やグニャグニャ曲がった曲線座標がリーマン空間を特徴づけると勘違いされているかも知れませんが、ユークリッド空間でもその様な網目で分割することはできるのですから、そこのところが本質では在りません。リーマン空間ではその様な分割しかできないことが本質なのです[補足説明2]参照)
     
     ところで、特殊相対性理論の“ミンコフスキー時空”では、それを分割するのに全空間に渡って同じ立方体セルで分割することはできます。そのセルの格子定数である計量テンソルgijは全時空間に渡って同じ

    を用いる事ができます。つまりミンコフスキー時空の計量テンソルは全空間に渡って同じ計量テンソルが使えるのです。ただし、それはもはや単位テンソルでは在りません。対角成分しか在りませんので基底ベクトルが互いに直交していることは確かなのですが、対角成分が全て1になるようにはできなくて、+1と−1が入り交じっています。だから基底ヘクトと双対基底ベクトルは異なったものになり反変表示と共変表示の違いが生じてきます。
     
     そして、最後は“リーマン空間”です。リーマン空間では、今まで見てきたように本質的に立方体状のセルで全空間を埋め尽くすことはできないのです。一部分なら立方体セルで埋められますが、他の場所に必ず平行六面体状のセルが生じてきます。そのため必然的に反変成分と共変成分の違いが生じてきます。全領域に渡って計量テンソルの対角成分以外を零にする様な網目格子を引くことはできません。必ずどこかで対角成分以外もある計量テンソルが生じます(4(2)[補足説明1]の例を参照)。さらにやっかいなのは、計量テンソルの成分値gij

    が場所的に変化する様にしか、網目を引くことはできないことです。その為にテンソルの微分操作が特別に難しくなります。つまり、リーマン空間では計量テンソルが場所的に変化しないような網目を引くことはできないのです。これがリーマン空間で《第5に重要なこと》です。

補足説明1
 本稿では、3次元リーマン空間中のただ1点に於ける格子セルを定める基底ベクトルとそれから定まるその点のリーマン計量テンソルgjiの説明。および、その点での網目の引き方を変えたとき、つまり基底ベクトルを変更したときのリーマン計量テンソルの変化(つまり座標変換)の話しかしていません。
 隣り合った平行六面体のリーマン計量テンソルがどの様に変化するのか、その変化とは何を意味するのかは全く論じていません。そのことは2次元リーマン空間の場合には別稿「微分幾何学3(曲面幾何学)」で説明しています。一般のn次元リーマン空間については別稿「微分幾何学4(リーマン幾何学)」で説明する予定です。

補足説明2
 上記の“ユークリッド空間でもグニャグニャ曲がった曲線座標で分割することができ、場所ごとの分割格子セルから定まる計量テンソルが場所ごとに変化するような網目を利用することができるが、その様にしてユークリッド空間に分布させた計量テンソルの集合からは決してユークリッド空間の歪みや曲がりを示すことはできない。”の意味をもう少し具体的に説明します。
 話を簡単にするために2次元ユークリッド空間(平面)で考えます。平面を曲線座標で分割するのですが、例として極座標を用います。

 この空間の線素は

なので、計量テンソルの成分は

となります。この場合分割したセルの基底ベクトルは直交していますので、対角成分以外は 0 になりますが、対角成分はrの関数ですから:計量テンソルは場所ごとに変化します。もちろん曲線座標で分割した網目についての計量テンソルです。
 これらの値をクリストッフェルの記号の式に代入します。2次元だから 2×2×2=8個 の成分が計算でき

となります。
 ここで先ほどの計量テンソルを使うとを含む項以外の偏微分は全て 0 になります。さらに grθ や gθr を含む項も全て 0 になります。そのため下記の3つだけが残ります。

 以上の様にしてガウス座標(r,θ)で与えられる平面上の全ての地点のクリストッフェル記号の値が求まります。今の場合、クリストッフェルの記号の値はrが変われば変化しますがθ方向には変化しません。
 これらのクリストッフェル記号を用いますと平面上の任意の(r,θ)点の“リーマン曲率テンソル”を求めることができます。リーマン曲率テンソルの成分は2次元の場合 2×2×2×2=16成分 ありますので

となるのですが、この中で残るのは以下の6成分だけです。

 しかし、上で求めたクリストッフェル記号の値を代入すると全て 0 になります。これは極座標上の任意のガウス座標(r,θ)点においてそうなります。これは極座標で分割した元の2次元ユークリッド空間が全空間に渡って曲がっておらず平坦である事を示しています。
 つまり、ユークリッド空間を分割するのに斜行座標や曲線座標で分割して、各点の計量テンソルが場所とともに変化する様な状況になってもユークリッド空間が平坦であると言う事情は示せるのです。
 以上の議論を文献1の2次元リーマン空間(球面)の場合の計算と比較してみられると、上記の《第5に重要なこと》の意味がお解りになると思います。

 

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(4)クリストッフェルの3添字記号とは何か

 4.(3)で説明した3次元リーマン空間で《第3に重要なこと》を実現する量が“クリストッフェルの3添字記号”です。この記号の意味を以下で説明します。

 3次元リーマン空間の中を少し動いたときの基底ベクトル a の変化を考えてみる。つまりリーマン空間中のガウス座標(v1,v2,v3)の場所から(v1+dv1,v2+dv2,v3+dv3)へ移動したときの基底ベクトル a の変化量を求める。
 その変化量は下記のような線形の形で表されるであろう。

 そして、上記式中の係数は下記のような基底ベクトル a1、a2、a3 の線形結合で表されると考えて良いだろう。

式中の係数 Γkij の添字は単にそれぞれを区別するために付けてあるだけです。当然のことですが、3次元空間の場合には 3×3×3=27個 の係数が必要になります。
 上記の線形結合式の係数はちょうど3.(1)で説明した、各点に於ける基底ベクトルの変換式(そこでは同じ点での変換係数でしたが)

の係数i'に相当するようなものです。今は場所を移動したときの変化の様子を表す変換式の変換係数だと考えて下さい。

 上記の変換係数 Γkij は次のようにすれば求まる。
 まず計量テンソル gij=(a・a を vk で微分すると

が得られる。
 ここで添字ijkをijk→jki→kijとサクルリックに変えると、同様にして

が得られる。
 このとき、ガウス座標(v1,v2,v3) の位置ベクトル とすれば別稿「微分幾何学」2.(1)で説明したように

が成り立つ。
 これを用いて、(2)式+(3)式−(1)式をつくれば

となる。
 両辺に (1/2)gak (k=1,2,3) を乗じて k について総和をとる。このとき gak“基本計量反変テンソル

の成分である事に注意して下さい。



となる。
 すなわち“クリストッフェルの3添字記号”計量テンソル成分から下記のようにして計算されるものです。

 このとき、(v1,v2,v3)は基底ベクトルを単位として測られた座標値“ガウス座標”である事を忘れないで下さい。また定義から明らかなように下の二つの添字 i と j の入れ替えに関して対称であることに注意して下さい。
 そして最も大切な事は、“係数 Γkij の添字 基底ベクトル a の変化の様子を表す係数であり、添字 はその係数が基底ベクトル a 方向の変位に関係しており、添字 k基底ベクトル ak 方向の変位成分を表している”ことです。《このことは頭の中に基底ベクトルの作る平行六面体セルを思い浮かべて、そのセルの稜に沿って基底ベクトルを動かしたときの変化が想像できるかにかかっています。想像できればクリストッフェル記号の意味は明らかでしょう。また、何故3×3×3=27個必要なのかも明らかでしょう。》

 2次元ガウス曲面(2次元リーマン空間)の場合を別稿「微分幾何学」2.(8)で説明していますので参照して下さい。

 

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5.参考文献

この稿を作るに当たって、下記文献を参考にしました。感謝!

  1. ダニエル・フライシュ著(河辺哲次訳)「物理のためのベクトルとテンソル」岩波書店2013年刊)§4.4〜§4.6
     この文献では、基底ベクトル・双対基底ベクトルについてとても丁寧に説明してあります。しかし、2次元での説明のために微妙に解りにくい面もあります。本稿をご覧の後にこの文献を読み直して見られると著者の意図が良く解ると思います。
     この文献の§6-3(_p210〜223)を別ページで引用していますが、最後の5.“曲率テンソル例”は本稿の4.(3)の説明を理解する例題として有益です。
  2. 平川浩正著「相対論(第2版)」共立出版社(1986年刊)§4-4
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