解りやすくする為に3行3列行列で説明しますが、一般のn行n列行列についても同様に証明できます。一般の場合は別稿「行列式と行列」2.(3)を御覧下さい。
(3×3)行列
の(i,j)成分の“余因数”(余因子)を(j.i)成分[(i,j)成分ではなくその転置の位置]として並べた行列
を行列Aの“余因子行列”と言といいで表す。
行列Aの(i,j)成分の“余因数”(余因子)とは行列Aからi行とj列の成分を除いた成分からできる“小行列式”に(−1)i+jを乗じたものです。詳細は別稿「行列式と行列」1.(4)1.〜2. を参照されたし。
余因子行列と元の行列の積を計算すると次の関係式が得られる。下記で利用する余因数展開と、行列式の積の性質については別稿「行列式と行列」1.(4) と 1.(6) を参照されたし。
この証明をご覧になれば、なぜ(i,j)成分の“余因数”(余因子)を(j.i)成分[(i,j)成分ではなくその転置の位置]として並べた行列をもって“余因子行列”としたかが了解していただけると思います。
前節の結論から
であるが、これを逆行列A-1の定義式
と比較すれば
でなければならないことが解る。
すなわち、行列Aの“余因子行列”をAの行列式|A|で割ったものは行列Aの逆行列となる。
もう少し詳しく言うと、“行列Aの逆行列”の(i,j)成分は、行列Aの(j,i)成分[(i,j)成分ではない]の“余因数(余因子)”を行列式|A|で割ったものです。
[補足説明]
ここで注意して欲しいことは、行列Aが“対称行列”の場合には、行列Aの(i,j)成分の余因数(余因子)は(j,i)成分の余因数(余因子)と一致します。そのため対称行列Aの逆行列の(i,j)成分は行列Aの(i,j)成分の余因数(よ因子)を行列式|A|で割ったものになります。
このことは、一般相対性理論で重要な“基本計量共変テンソル”gijが対称行列なので、その“逆行列”である“基本計量反変テンソル”gijを求めるときに適用できます。
多くの文献ではgijが対称行列だからそのようにできることを強調していませんので注意して下さい。
余因子行列を用いれば、任意行列の逆行列の成分を簡単に求めることができます。
一般的な“斜交曲線座標系”における“基本計量共変テンソル”gij と“基本計量反変テンソル”gij は互いに逆行列の関係にあります。そのため基本計量共変テンソルgij が解っている場合には、その逆行列である基本計量反変テンソルgij の(i,j)成分は
となる。ただし Gij は行列[gij]に対する“余因子行列”の(i,j)成分を意味しており、行列[gij]の(i,j)成分の“余因子”(余因数)ではありません。 Gij の実体は行列[gij]の(j,i)成分の“余因子”(余因数)です。
詳細については別稿「テンソル解析学(絶対微分学)」6.(2)4.[補足説明]を参照。そのとき、計量テンソルは対称行列ですから、もとの行列と余因子行列の(i,j)成分の転置関係については曖昧なままにしている文献も多いので、本稿をしっかりご理解の上でお読みください。
n×nの行列Aの余因子行列の行列式
は
である。
[証明]
[証明終]