テンソル解析学(絶対微分学)は、1901年のRicci、Levi-Civita共著論文『絶対微分学の方法とその応用』で確立された。
本稿は、“リーマン空間”の上で展開されるテンソル解析学の説明です。テンソル解析学を理解するには、あらかじめ別稿「微分幾何学3」を読まれて“リーマン空間”とは何かを理解しておくことが必要です。テンソル解析学とは時空の計量を表す基本計量テンソルgijが場所と共に変化する空間を取り扱うものだからです。
別稿「ミンコフスキーの4次元世界」で説明したテンソル代数学は空間の全領域で計量テンソルが変化しない場合です。それはユークリッド空間の様に一様で直交した空間でした。ミンコフスキーの4次元時空はその様なものだったのです。ところが一般相対性理論では歪んだ時空(リーマン空間)を取り扱わねばなりません。歪んだ空間を取り扱う数学がテンソル解析学です。
基本計量テンソルgijが解らないと上記の文章の意味がお解りにならないかもしれません。本稿と並行して別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分(計量テンソル・クリストッフェル記号・共変微分とは何か)」と、「微分幾何学3(曲面上の幾何学)」もご覧下さい。
本稿は文献1.第6章“テンソル解析学”からの引用です。ただし、節(No.)を細分した項No.の題目は私どもが適当に追記した。
(1)一般の座標変換に対するテンソル
1.スカラー
2.ベクトル
3.テンソル
(2)クリストッフェルの3添字記号
1.対称性
2.gjiとの関係
3.gjiとの関係
4.クリストッフェル記号の縮約
5.変換則(その1)
6.変換則(その2)
(3)絶対テンソルと相対テンソル(テンソル密度)の共変微分
1.スカラーの共変微分
2.反変ベクトルの共変微分
3.共変ベクトルの共変微分
4.テンソルの共変微分
5.和・差・積の共変微分
6.テンソル gji,gih,δih,ejkih,ekjih の共変微分
7.相対テンソル(テンソル密度)の共変微分
(4)ベクトルの平行移動
1.平行移動の定義
2.平行移動の性質
(5)リーマン・クリストッフェルのテンソル
1.リーマンの曲率テンソル
2.平行移動と曲率テンソル
3.曲率テンソル=0の空間
4.測地線座標系
(6)リーマン・クリストッフェルのテンソルの性質
1.曲率テンソルの性質
2.リッチテンソルとスカラー曲率
3.ビアンキの恒等式
(7)勾配・回転・発散
1.勾配
2.回転
3.発散
参考文献
[補足説明1]
座標変換後の物理量の表記として、物理量表現記号に’を付ける方法(別稿§6.1.)や、upバーを付ける方法(別稿3.(1)1.)などもありますが、本稿では今日的表現法である物理量表現記号の添字指数に’を付ける方法が用いられています。
この方法が断然優れていますので、そうで無い文献を参照されるときにはその様に読み替えて下さい。
その詳細は別稿「ミンコフスキーの4次元世界」3.と4.を参照されたし。
[補足説明2]
上記の“関数行列式”の表記は下記のものを略記したものです。
(ξ’,ξ)と(ξ,ξ’)は互いに逆変換の関数行列式を定義していますので注意して下さい。
ここは何を言っているか解りにくいが、曲がった空間では有限の長さを持つ位置ベクトルはベクトル(1階テンソル)とは見なせないが、微小な長さの位置変位ベクトルはその場所での座標変換と同じ変換係数で変換されるからベクトル(1階テンソル)と見なせるということです。
ここが解りにくい方は、別稿「微分幾何学」3.(2)2.参照。
上記の議論から明らかな様に“単位テンソル”は必然的に“混合テンソル”でなければならない。
第3章§2は 3.(2)のことで、こちらを参照。
[注意]
上記赤波線のことについては3.(9)[補足説明1]を参照されたし。また、線素が ds2=gjidξjdξi で与えられる“リーマン空間”については別稿「微分幾何学」3.(2)2.[補足説明3]を参照されたし。
下記“前章の終わり”の測地線方程式とクリストッフェル記号はこちらを参照。
[補足説明1]
Christoffelの1869年論文を見れば解る様に、彼は
の記号を使った。については別稿「余因子行列と逆行列の関係」1.(4)を参照。
しかし、今日では、それぞれ
の記号を用いる。
本稿では括弧記号を用いています。Γ記号を用いる本も多いのですが、そのとき1階共変テンソルの二階共変微分を表す記号 Tk,gh や3階混合テンソルを表す記号 Trgh と混同しないでください。クリストッフェル記号は常に大文字のガンマ Γを用いることになっていますので間違えることは無いでしょうが、クリストッフェル記号はテンソルではありませんので、その意味に於いても括弧記号の方が優れている。。
ちなみに、クリストッフェル記号はテンソルではありません。この事は重要な意味を持ちます。つまり適当な座標変換によって Γril の全成分を“ある点”でゼロにすることができる。すでに述べた様に Γril がテンソルであったらなばその様な座標変換は存在しません。後で解る様にクリストッフェル記号がゼロでないと言うことは重力場が存在することを意味し、その成分がすべてゼロとなるような座標変換があると言うことは、“局所的”に重力場を消してローレンツ座標系に変換する座標変換が存在できると言うことです。これが一般相対性理論における“等価原理”の数学的表現です。このことについては藤井文献(1979年)§15-4をご覧下さい。
クリストッフェル記号がテンソルでないことを明示するためには、本稿の様に括弧記号 [ ] や { } を用いた方が良いのかも知れません。
[補足説明2]
クリストッフェル記号の導入・定義には様々なやり方が有り混乱が生じる。その当たりをここでまとめておきます。
矢野文献における“クリストッフェル記号”の定義・導入は第5章の中のこちらの定義です。そのため、クリストッフェル記号が何を意味するのか矢野文献から《理解するのは難しい》。これは別稿「微分幾何学2(曲面論)」2.(8)2.で説明した歴史的な定義に従っていると言っても良いかも知れない。
別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分(計量テンソル・クリストッフェル記号・共変微分とは何か)」4.(4)では、クリストッフェル記号を別なやり方で定義してから、矢野文献の定義式
を演繹的に導いている。おらそらくクリストッフェル記号の定義としては、このやり方が《最も解りやすい》。
あるいは、別稿「平行移動とリーマン幾何学」1.(5)では、ユークリッド空間における平行移動からクリストッフェル記号を定義して、その定義がリーマン空間においても成り立つと一般化することで、最終的に矢野文献の定義式を演繹的に導いている。このやり方は、別稿1.(5)[補足説明]と別稿4.(1)2.[補足説明2]で注意したように、クリストッフェル記号の定義としては《かなり曖昧》です。
[補足説明3]
“リーマン空間”そのものの定義については、別稿「微分幾何学」3.(2)2.[補足説明3]と同じく4.(2)2.や、別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分(計量テンソル・クリストッフェル記号・共変微分とは何か)」4.(1)〜(3)を参照されて下さい。
下の二文字の入れ替えに対して“対称”です。このことは別稿「微分幾何学」2.(8)2.も参照されたし。
この式の導出については、別稿「微分幾何学」3.(3)[例題1]も参照されたし。
この式については、別稿「微分幾何学」3.(3)[補足説明1]も参照されたし。また、この式の重要な応用については、6.(3)6.を参照されたし。
上記赤波線部の“元素gutの余関数”とは“基本計量共変テンソル[gut]の“余因子行列”の(u,t)成分”のことです。それが[行列式g=|gut|]×[基本計量反変テンソルgutの(u,t)成分]に等しいと言っている。つまり (行列[gut]の余因子)/g=gut であると言っている。ここで行列[gut]と行列[gut]は互いに逆行列の関係にありますから、(行列[gut]の余因子)/gは逆行列の(u,t)成分になると言うことです。
そうなることは別稿「余因子行列と逆行列の関係」1.(1)〜(4)で説明していますのでご覧下さい。そのとき“余因子行列”の(i,j)成分と、もとの行列の(i,j)成分の“余因子”(余因数)との違いに注意して下さい。
同じ事を下記[補足説明]でも説明しています。
[補足説明]
上記の式を導いておく。 n 次元リーマン多様体の基本計量テンソル [gij(x)] は n×n の正方行列であると見なせることからその行列式 g
を定義することができる。
まず、別稿「余因子行列と逆行列の関係」1.(4)で説明したように行列[gij] の“余因子行列”の(i,j)成分Gij を行列式g で割ったものは行列[gij]の逆行列の(i,j)成分となる。ところで、別稿「基底ベクトル双対基底ベクトル・・・」2.(4)で説明したように“基本計量共変テンソル”[gij]の逆行列は“基本計量反変テンソル”[gij]だから、その行列[gij]の(i,j)成分は
となる。これが上記本文の赤波線部で言っていることです。
ここで行列[gij]に対する“余因子行列”を [Gij] とすると、余因子行列の定義から解るように行列[gij]の(i,j)成分の余因子(余因数)は行列[gij]に対する余因子行列 [Gij]の(j,i)成分 Gjiを構成する。余因子行列の(i,j)成分ではなくて(j,i)成分であることに注意してください。
そのため、別ページ[定理9]で説明されている行列式gと余因子(余因数)との関係は
となる。ここでGji=Gijを用いていることに注意。
上記2式を用いると、g を xk で偏微分したものは
と表される。
このことは2次元の場合「微分幾何学」3.(4)3.[補足説明]で証明している。
この式の、2次元の場合の証明は別稿「微分幾何学」3.(4)3.を参照されたし。(こちらの計算も参照されたし。)
この式は6.(3)6.3や、6.(3)7.[例]で“相対テンソル(テンソル密度)”の“共変微分”を考えるとき、さらにに6.(7)3.で“高階テンソル”の“共変発散”を求めるときに必要になります。
“測地線の方程式”については5.(4)あるいは、別稿「微分幾何学」3.(6)を参照。
また、以下の説明を別稿内山龍雄「相対性理論」§19の測地線方程式の導き方と比較してみられたし。
補足すると、Ahh’を乗じてh’で縮約すれば
となるが、
であることを考慮すれば、この変換式は別稿「微分幾何学」(3)1.でも求めた(3-18)式と同じものであることが解る。
これらの座標変換則はテンソルとしての変換則を満たしていませんので、“クリストッフェルの記号”はテンソルではないという重要な結論が読み取れます。
この事は重要な意味を持ちますが、それについては6.(5)3.と別稿の藤井文献(1979年)§15-4をご覧下さい。
さらに、上式に於いて
が成り立つことに注意すれば、すべての項が i と j 、あるいは i’と j’の入れ替えに関して対称です。
下記の3.(5)[例1]で示した性質についてはこちらを参照。
これは“クリストッフェルの3添字記号”の上下の2添字を等しく置いて縮約したものの変換則であることに注意して下さい。また、(ξ,ξ’)と(ξ’,ξ)の意味の違いにも注意されたし。
3.(9)で説明したように
この工夫が必要なことで“絶対微分学”と言う。その工夫が“テンソル解析学”の本質です。
この節題目の“絶対テンソル”とは、3.(5)の最後で述べたようにに、重さのある相対テンソルに対して、重さが 0 の相対テンソル、すなわち従来の意味のテンソルを絶対テンソルと呼んでいるだけです。絶対微分学の絶対とは関係ありません。
[補足説明0]
ここは何を言っているのか解りにくいが、要するに
のことです。つまりスカラー f の微分に於いては、通常の“微分係数”と“共変微分係数”の間に違いはない。
この当たりは別稿「微分幾何学」3.(2)2.や、「微分幾何学」3.(4)1.を参照されたし。
スカラーについては、“微分”と“共変微分”、“微分係数”と“共変微分係数”の間に違いは無いのですが、今後の事もふまえて上記の記号を用いるということ。
[補足説明1]
スカラーの場合には座標方向に関係する成分を持たず座標の曲がりに起因する成分分解の変化がないので、たまたま普通の微分と共変微分、および普通の微分係数と共変微分係数は同じになります。
そのため、上記の説明の意味は解りにくいかも知れませんが、後で解るようにベクトルやテンソルの場合“普通の微分”と“共変微分”、および“普通の微分係数”と“共変微分係数”は異なったものになります。だから上記の様な記号を今後用いると言うことです。
例えばテンソル Tijhの場合、本稿では
の様に表すことになります。
ただし、文献によってその表し方は様々です。本稿でたびたび引用する別稿「微分幾何学」(3)では
の様に表しています。
また、平川浩正「相対論」(5)では
の様に表しています。
さらに、文献によっては
の中の色々な取り合わせが用いられています。
[補足説明1-1]
このとき、“共変微分係数テンソル成分”を表す指標は共変指標として必ず下側に付記されていることに注意して下さい。なぜなら、共変微分は普通反変座標に関してなされ、微分されたベクトルやテンソルは、共変微分の結果として必ず共変階数が1つ増えたテンソルに成るからです(スカラーに対して勾配(grad)演算を施したものは共変ベクトルとなったことを思い出されたし)。
共変微分が反変座標に関してなされるのは、反変座標方向が座標曲線に沿った方向(基底ベクトル方向)だからです。
[補足説明]
ここの共変微分の導入法は別稿「微分幾何学」3.(3)1.説明したものと同じです。この導入法では共変微分係数がテンソルとなることも同時に証明できていますので、その事はとても解りやすいのですが、微分の定義として何故その様に定義したのかが解りにくい。
その点に関しては基底ベクトルの変分を利用する別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトル・・・」4.(5)3.で説明する方法や、平行移動したベクトルを構成するための変分ベクトルを利用する別稿「平行移動とリーマン幾何学」4.(1)の導入法がはるかに解りやすい。ただし、そちらの導入法では、共変微分係数がテンソルであることは直接証明できませんので、ここで述べたやり方を利用して証明する必要があります。
ここは別稿「微分幾何学3」3.(3)[問題1]、と別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトル・・・」4.(5)5.も参照されたし。
ここは別稿「微分幾何学」3.(3)2.、あるいは別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトル・・・」4.(5)6.も参照されたし。
[和]
[差]
[積]
つまり、普通の微分と同じように“ライプニッツの公式”が成り立つ。ここは別稿「微分幾何学」3.(3)3.も参照されたし。
[gji と gih ]
以下で用いる“クリストッフェルの記号の性質”とは6.(2)2.で求めた式のこと。
この式を“Ricciの補助定理”という。このことについては、別稿「微分幾何学」3.(3)[例題1]も参照されたし。
以下で用いる“クリストッフェルの記号の性質”とは6.(2)3.で求めた式のこと。
このあたりについては、別稿“Ricciの補助定理”を参照されたし。
[ δhi ]
別稿「微分幾何学」3.(3)[例題1]も参照。
[ ekjih と ekjih] εkjih と εkjih については3.(5)[例2]を参照。同じく ekjih と ekjih については3.(5)[例3]を参照。
上で用いたクリストッフェル記号を縮約した{ltt}式に付いては6.(2)4.を参照。
“相対テンソル(テンソル密度)”については3.(5)参照。
これらの式については6.(2)5.と6.(2)6.を参照されたし。
[補足説明1]
です。この両辺の微分をとって上記と同様な展開をすれば、重さpの“相対反変ベクトルの共変微分係数”は
となります。これは同じ重さの2次(2階)の相対混合テンソルです。
です。この場合も同様にすると、重さpの“相対共変ベクトルの共変微分係数”は
となります。これは同じ重さの2次(2階)の相対共変テンソルです。
です。この場合も同様にして、重さpの“相対スカラーの共変微分係数”は
となります。これは同じ重さの相対共変ベクトルです。
[例]
これは、6.(3)6.[ ekjih と ekjih ]の中ですでに証明している。
[補足説明2]
実際に上記の重さ1の“相対スカラー”の“共変微分係数”を求めてみる。このスカラーの変換法則は3.(5)[例1]で求めたように
であるが、この両辺の微分を取れば
本節と合わせて別稿「平行移動とリーマン幾何学」をご覧下さい。
ここで言う“擬ユークリッド空間”については2.(1)[補足説明]参照。いわゆる“ミンコフスキー時空”を意味している。
ここは別稿「微分幾何学」3.(8)1.を参照。
上記定義式中の“クリストッフェル記号{jhi}”の定義は6.(2)[補足説明2]で説明したように、第5章中のこちらの定義ですでに済まされていることに注意して下さい。
[補足説明]
上記の様にいきなり“平行であると定義する”といわれても、初学者には何のことが良く解らないと思います。
この当たりについては、別稿「微分幾何学3(曲面幾何学)」3.(8)もご覧下さい。そこの[定義]で説明されている様に、もともと、共変微分 δvi=0 によって定義されるベクトルの平行性を“レヴィ=チヴィタの平行性”と言います。
ただし、取りあえずここは、“クリストッフェル記号”の定義を通じて平行移動を定義しているのだと解釈して下さい。その当たりは別稿「平行移動とリーマン幾何学」1.(5)[補足説明1]と比較検討して頂ければ了解できます。
ところで、上記別稿1.(5)の平行移動の定義が共変ベクトルに対して定義されているのに、ここでは反変ベクトルを用いて定義されているのを不思議に思われるかも知れませんが、この定義で良いのです。
それは別稿「平行移動とリーマン幾何学」3.を読まれれば解ります。つまりここの定義は、そこの(2)式の事を言っています。これは別稿「平行移動とリーマン幾何学」5.(1)で直接導いている式でもあります。
つまり、上記の手順を逆にたどって、反変ベクトルの共変微分δvhがゼロの時、今考えているごく近くの二つの反変ベクトルが平行であると定義するのです。上式の図的な意味については別稿「曲面幾何学」3.(8)1.[補足説明]の図を御覧下さい。
更に補足しますと、前記別稿の(1)式は本稿6.(3)3.の共変ベクトルの共変微分に対応します。
そして、この共変微分δwiがゼロの時、今考えているごく近くの二つの共変ベクトルが平行であると定義します。
この当たりは、別稿「平行移動とリーマン幾何学」4.(1)と比較検討して見て下さい。
そのため、リーマン空間に於いて有限の距離だけ移動する“平行移動”を定義するには、そのベクトルの“移動経路”と共に定義する必要があると言うことです。
ここの意味はわかりにくいところです。別稿「平行移動とリーマン幾何学」1.(5)[補足説明1]の後半部の説明をご覧下さい。
別稿「微分幾何学」3.(8)4.[定理1]も参照されたし。
二つのベクトルのなす角θの表現については3.(6)を参照。あるいは別稿「微分幾何学」2.(2)3.を参照。
別稿「微分幾何学」3.(8)4.[定理2]も参照されたし。
[補足説明1]
ここで重要な補足です。
リーマン空間内における任意の曲線に沿ったベクトルの平行移動で、その曲線と平行移動するベクトルのなす角がその平行移動で常に一定値を保つかということですが、これは一般に成り立ちません。
そのことが、成り立つのはベクトルが沿って移動する曲線が“測地線”である場合だけです。上記の(3)や(4)はその事を言っています。くれぐれも、そのことが一般の曲線についても成り立つと勘違いしないで下さい。
[補足説明2]
さらに重要な補足です。
リーマン空間内における任意の曲線を多数の点で分割し、その隣り合った点の間を測地線で結ぶことはできます。測地線とは任意の2点間を最短距離で結ぶ線の事ですから。だから任意の2点を結ぶ(測地線ではない)任意の曲線も微小な測地線の連なりで近似できます。
故に、任意の曲線に沿ったベクトルの平行移動は、その様な微小測地線を連ねたもので近似して、その各微小測地線上を移動するときに測地線と一定の角をなすようにベクトルを移動させます。そして、隣の微小測地線に沿った移動に次々と引き渡せば良いのです。そうして次々と隣り有った測地線を渡り歩きながら平行移動してゆけば良い。
そのようにして実現される平行移動は当然最初の任意曲線に対する平行移動なのですが、移動するベクトルと曲線のなす角は連続的に変化していくことになります。
別稿ダニエル・フライシュ著「ベクトルとテンソル」6.3“リーマン曲率テンソル”で説明されている様に、リーマン空間の曲率テンソルを導くのに
の二通りのやり方が有ります。以下で順番に説明します。
ここは別稿「微分幾何学」3.(3)[例題2]も参照されたし。
ここは別稿「微分幾何学」3.(5)1.も参照されたし。このテンソルを“第2曲率テンソル”と呼ぶ場合もある。別稿「微分幾何学」2.(9)2.を参照。
ここは別稿「微分幾何学」3.(3)[問題3]と「微分幾何学」3.(5)[問題1]の前半も参照されたし。
ここは別稿「微分幾何学」3.(3)2.と別稿「微分幾何学」3.(5)[問題1]の後半も参照されたし。
[補足説明1]
“リーマンの曲率テンソル”の定義は本によって微妙に異なっており注意が必要です。
まず座標の微分が関係する2つの指数を3連添字の最初に持ってくるか終わりに持ってくるかの違い。次は座標微分に関係する2つの指数の順番を前後入れ替える違いです。
その当たりを別稿「微分幾何学」3.(5)での表現
を用いて説明します。
このとき、“クリストッフェルの3添字記号の下の2つの指数の入れ替えは対称だから入れ替え可能、またクリストッフェルの3添字記号が2つ掛け合わされている項はその積の順番の入れ替えは自由”です。だから、(A)〜(D)の分類の元になっている下記の左辺は上記の入れ替えをした式はすべて同じものである事に注意して下さい。
問題になるのは定義式中の k と j の位置の違いです。位置の違いで、曲率テンソルの定義記号として
などの違った定義があります。
(A)は最近の本に多い。平川浩正「相対論」、石井俊全「一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する」、須藤靖「一般相対論入門」、藤井保憲「時空と重力」、内山龍雄「一般相対性理論」、Landau,Lifshitz「場の古典論(1961年版)」、Schutz「相対論入門」、Weyl「空間・時間・物質」、M.T.W.「重力理論」などが採用。
(B)は前田儀郎「微分幾何学」、Pauli「相対性理論」、メラー「相対性理論」、Winberg「Gravitation and Cosmology」などが採用。
(C)は本稿の矢野健太郎「相対性理論」など。
(D)はBergmann「相対性理論序説」など。(MTW慣例表の脚注aを参照)
ここで、注意すべきは(A)(C)の定義と(B)(D)の定義では正負の符号が逆転します。
そのとき定義から明らかなことですが、“リーマンの曲率テンソル”は k と j の入れ替えに関して、交代(反対称)です。
さらに注意すべきは、(A)(B)の定義では下の3連指数添字の最後の2つの入れ替えで交代(反対称)なのに、(C)(D)の定義では下の3連指数添字の最初の2つの入れ替えで交代(反対称)となることです。このことは Rkjih に対しても異なる符号を与える。
[補足説明1-2] 《重力場方程式の符号について》
ちょうど良い機会ですので、別稿7.で説明する“アインシュタインの重力場方程式”の各項の正負の符号について説明しておきます。
上記説明は、内山先生が「一般相対性理論」p124で説明されているものですが、この符号の取り方の文献に依る違いの一覧表が C.W.Misner,K.S.Thorne,J.A.Wheeler共著「重力理論」丸善(1972年刊)の目次の次に
“記号の慣例表”
として載っています。この中のg記号、Riemann記号、Einstein記号の符号の違いが、上記説明の@、A、Bの符号違いに対応します。
[補足説明1]
最初に、以下の事柄を考察する。点Pに端点がある二つの微小ベクトル d1ξh と d2ξh がある。そして微小ベクト ルd1ξh を微小ベクトル d2ξh に沿って平行移動し、微小ベクト ルd2ξh を微小ベクトル d1ξh に沿って平行移動する。そうして移動した二つのベクトルの先端の座標差を求める。
[補足説明2]
上記の説明は非常に解りにくい。それは矢野先生がクリストッフェル記号の定義を曖昧なままにされているからです。
クリストッフェル記号の定義の仕方には別稿「平行移動とリーマン幾何学」1.(5)で説明したやり方と、別稿「基底ベクトル双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」4.(4)1.で説明したやり方があります。
両方の定義が与えるクリストッフェル記号は同じものなのですが、世の中のテンソル解析の本が良く理解できないのは、この二種類の定義の仕方を明確に説明していないからです。
ここは別稿「平行移動とリーマン幾何学」1.(5)で説明した平行移動のやり方で定義されていると考えて下さい。そのように考えると上記の
は別稿「平行移動とリーマン幾何学」3.で説明した(2)式そのままです。つまり
つまり、元の微小ベクトルd2ξiを平行移動したベクトルAμ(x+Δx)‖そのものを意味します。
くれぐれもこの式を本稿6.(4)1.[補足説明]で説明した共変微分δvhに相当する式
と混同しないで下さい。
次に出てくる
も同様に考えて下さい。すなわち
の意味です。
[補足説明3]
ここも解りにくいところです。クリストッフェル記号は平行移動を用いる定義と基底ベクトルを用いる定義の両者で同じものであることを考慮すると、ここのところは別稿「基底ベクトル双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」4.(4)3.のクリストッフェル記号定義図[拡大版はこちら]を用いると解りやすい。
このとき、そこの図中のベクトルa1は新しい場所での基底ベクトルと考えるのでは無くて、原点に於けるベクトルa1と同じ座標値を持つ変位点でのベクトルと考えて下さい。つまり別稿「平行移動とリーマン幾何学」1.(5)で説明した平行移動のやり方での定義で用いられているベクトルBに相当します。
このことはベクトルa2に付いても同様で、図中のベクトルa2は新しい場所での基底ベクトルと考えるのでは無くて、原点に於けるベクトルa2と同じ座標値を持つ変位点でのベクトルと考えて下さい。
別稿「基底ベクトル双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」4.(4)3.で出てきた図を、その様に考え直すと、
に於いて、 ベクトル a1 を反変変位ベクトル d1ξ=(d1ξ1,d1ξ2,d1ξ3) とみなし、ベクトル a2 を反変変位ベクトル d2ξ=(d2ξ1,d2ξ2,d2ξ3) と見なせば良い。そして、それぞれのリーマン空間での平行移動後のベクトルが図中の黒の細い矢印(当然のことですが、二つの矢印は接ユークリッド空間内の矢印ですから、その先端は一致します)ですから、図に於いて Γ112=Γ121 、 Γ212=Γ221 、 Γ312=Γ321 であることは、 a1 からの変化量と a2 からの変化量が同じになることを意味しています。つまり、a1 の先端と a2 の先端はピッタリ一致している。このことが文中で言っている、リーマン空間で定義された平行移動は捩率を持たないということの意味です。
[補足説明4]
ここでは下図の様な状況を考えている。
ここでは、座標曲線に沿った方向のベクトルではなくて、任意の方向を向いた 反変ベクトル v を考えています。今は、ベクトルvの平行移動はユークリッド空間における平行移動ではありませんらか、図中の矢印がユークリッド空間での平行移動の様に見た目も互いに平行になる訳ではありません。ここは別稿「平行移動とリーマン幾何学」1.(3)[補足説明] と 1.(5)[補足説明1]を参照。
基底ベクトルも場所と共に変化しますし、その座標曲線は接ユークリッド空間ではなくリーマン空間に引かれたものです。そのため座標曲線に沿って平行移動したベクトルの新しい位置P3での反変成分は、点P1を経過してP3に到達したのか、点P2を経過してP3に到達しのたかで異なります。図の二つの矢印 vPP1P3 と vPP2P3 は反変成分が異なるために異なって表されています。
ここは別稿「微分幾何学」3.(8)3.もご覧下さい。
もう少し補足しますと、上図の座標曲線が“測地線”であれば、広義の“平行移動”の場合、ベクトルと移動が沿っている測地線とは同一角度を保ちます。しかし、広義の“平行移動”でも、それが沿う曲線が測地線ではない場合ベクトルと移動曲線のなす角は一定値を保ちません。このことにつきましては別稿6.(4)2.[補足説明]で注意しました。
そのとき、上図の移動経路P→P1→P3とP→P2→P3のそれぞれが測地線の場合、その移動曲線とベクトルのなす角は一定値を保ってP3まで平行移動しますが、その場合でも空間が曲がっている場合には2つの経路で移動した2つのベクトルが移動後に一致しないことが生じると言っているのです。これは別稿「平行移動とリーマン幾何学」1.(3)[補足説明]で取り上げた簡単な例からも明らかです。
こうなることは先ほどの[補足説明2]で説明した事情と同じです。そこの d2ξh を vh と考えるだけです。
この当たりについては、別稿「平行移動とリーマン幾何学」5.(2)、 平川浩正「相対論」4.(8)、 別稿「微分幾何学」3.(8)3. などもご覧下さい。
上記性質は、6.(2)3.を参照。
この式は、6.(2)5.を参照。これはクリストッフェル記号がテンソルでは無い事を明示している式です。このことが関係する以下の議論については別稿の藤井文献(1979年)§15-4もご覧下さい。
[補足説明]
上記の連立偏微分方程式は
となります。すなわち未知関数
に関しての16元連立偏微分方程式です。
これが完全積分可能である条件は
が成り立つ(つまり k と j に関して対称)ことです。
上記二重線で消した理由は、別稿4.(3)[例8]および4.(5)2.[補足説明2]参照。あるいは別稿内山文献p121〜と、[補足説明1]を参照。ここは矢野先生が勘違いされています。このことを誤解されておられる方が多いので注意されて下さい。
係数gjiが座標の関数となることが重力場と関係する訳ではありせん。つまり、ユークリッド空間(擬ユークリッド空間であるミンコフスキー時空も含む)に引かれた斜交曲線座標(どのような斜交曲線座標を用いようとも)から定まる基本計量テンソルgijからは、リーマン・クリストッフェルの曲率テンソルの成分としてはゼロしか出てきません。
ここは非常に解りにくい所です。別稿4.(3)[例8]や 4.(4)[例9]、 [補足説明1] などを参照されたし。
このことは、リーマン時空(重力場の存在する時空)のある一点の近傍に限ればMinkowski時空に座標変換し得るということです。これはリーマン時空の各点に於ける擬ユークリッド的“接空間”が“Minkowski時空”であると言ってもよい。このことは内山「相対性理論」§19p121〜を参照されたし。
“接空間”とは“ガウス曲面”(2次元リーマン空間)における“接平面”(2次元ユークリッド空間)の概念を拡張した意味です。このことは別稿4.(1)〜(3)を参照されたし。
これらの式が成り立つことは別稿「微分幾何学」3.(5)2.と同様に証明すればよい。
ただし、6.(5)1.[補足説明]で説明したように、この稿での曲率テンソル定義の特殊性から3つの下側指数添字の最初の2つの入れ替えに対して交代(反対称)となることに注意されたし。普通の本では後の2つの入れ替えに対して交代(反対称)です。
“リッチの公式”は6.(5)参照。6.(3)6.の公式はこちらを参照。
また、これらの式の証明に関しては別稿「微分幾何学」3.(5)[問題2]も参照されたし。
[補足説明]
上記リッチテンソルの対称性 Kji=Kij は、先に求めた関係式
から言える事です。すなわち
だからです。
もちろん別な方法で証明することもできます。その表現式
の第1,3項についてはクリストッフェル記号のiとjに対する対称性から明らかです。第4項もrとtの入れ替えたものに対してクリストッフェル記号の下2文字の対称性を考慮するとiとjの入れ替えに対して対称です。問題は第2項の対称性の証明ですが、これは6.(2)4.から得られる結論を用いれば
となるので、やはりiとjの入れ替えに関して対称です。そのため Kji=Kij が証明できる。
対称性の証明については別稿「微分幾何学」3.(5)[問題3]と、別稿平川浩正「相対論」4.(8)の証明法も参照されたし。いずれにしても、様々な方法で証明できるのですが、それらを比較検討することでリッチテンソルの性質が読み取れます。
ここで、縮約する指数の組み合わせについて、6.(5)1.[補足説明]で説明した定義表現の違いに伴う違いがありますので文献ごとに注意が必要です。
この当たりは別稿ダニエル・フライシュ著「ベクトルとテンソル」6.3.5“リーマン曲率テンソルの具体例”演習問題を参照して下さい。
上式については6.(5)4.“測地座標系”を復習されたし。
ここで、“リーマン・クリストッフェル曲率テンソル” Kkjih は(1,3)型テンソルであるから、その共変微分を取ると
この恒等式の証明については別稿「微分幾何学」3.(5)[例題1]も参照されたし。
この式の導出については別稿「微分幾何学」3.(5)[問題4]も参照されたし。
上記“重要な役割を演ずる”については7.(1)2.をご覧下さい。
“リッチテンソル” Kji に gjigji=4 を乗じて縮約して得られる
ここは、6.(3)1.“スカラーの共変微分”を参照。
補足すると、のかかっている項が消えて共変微分による回転が通常の微分の回転に一致するのは共変ベクトルの場合であって、反変ベクトルの回転では
のかかっている項が残ります。そうなることは反変ベクトルの共変微分係数の表現
に於いて
がかかっている項が i と j の入れ替えに対して対称ではないからです。
“双対”については、3.(8)“双対テンソル”を復習されたし。
これはユークリッド空間のベクトル解析に於ける定理や擬ユークリッド空間(ミンコフスキー時空)の勾配についての定理の拡張になっている。
これが3階共変交代テンソルとなることの証明は3.(9)3.[補足説明1]と同様にすればよい。
また、上記の6.(3)4.“テンソルの共変微分”はこちらを参照。
ミンコフスキー時空での話だが、このことの例を4.(2)1.で見た。
このことについてもを4.(2)1.の例を参照されたし。
以下で繰り返し用いる 6.(2)4.の関係式 はこちらを参照。
また、共変微分は共変成分だから反変指標とでないと縮約できません。だから“縮約”を伴う“発散”と言う微分操作は反変指標をもつベクトルやテンソルに対してでないと定義できない事に注意して下さい。
相対ベクトルの共変微分係数は6.(3)7.[補足説明1]参照。
相対反変ベクトルの場合は、共変微分の発散(Div)は通常微分の発散に帰着することに注意されたし。このことは6.(3)7.[補足説明1]でも説明した。
6.(6)3.で示した
相対テンソルの共変微分係数は6.(3)7.参照。
本稿は文献1.第6章の引用です。文献1.は数学系の本らしく厳密かつ簡潔に展開されています。そのため説明は明快なのですが、文中に出てくる言葉の意味がなかなか読み取れません。それぞれの言葉の意味については下記文献3.をあらかじめ学習しておく必要があります。本稿では文献3.をたびたたび引用しています。