本稿は一般相対性理論で必要になる数学テクニックの説明です。「一般相対性理論を理解するための数学的準備」の一部です。
1.一重積分(単積分)の座標変換
(1)導入
(2)簡単な例
2.二重積分の座標変換
(1)二重積分の面積素片
(2)簡単な例
1.二重積分の意味
2.積分変数の変換
3.関数行列式(Jacobian)の意味
(3)二次元斜交座標
1.基底ベクトルの変換式
2.座標値の変換式
3.座標変換式の意味
4.関数行列式(Jacobian)の意味
5.新変数での二重積分の実施
(4)何のために積分変数を変換するのか
3.三重積分の座標変換
(1)三重積分の体積素片
(2)簡単な例
1.三重積分の意味
2.積分変数の変換
3.三重積分値
(3)三次元斜交座標
1.基底ベクトル変換式
2.座標値の変換式
3.積分体積素片の変換
4.三重積分値
(4)三次元極座標
1.直交座標と極座標間の変数変換式
2.積分体積素片
4.リーマン空間における多重積分
(1)リーマン空間での多重積分に於ける体積素片
1.考え方の基本
2.基底ベクトルが作る単位格子セルの体積
(2)リーマン空間における多重積分と斜交曲線座標から別の斜交曲線座標への変数変換
1.リーマン空間の座標変換
2.積分体積素片の変換
3.積分領域の変換
4.リーマン空間における多重積分
(3)三次元リーマン空間における閉領域の表面に付いての積分
5.参考文献
単積分
でx=φ(t)とおき積分変数をxからtに変換すると、φ’(t)が連続でφ(α)=a、φ(β)=bであれば
となる。これは初等的な積分学でいわゆる“置換積分”と言われるものです。
このとき、疑問に思うのは何故右辺にφ’(t)なる関数を乗して積分操作をしなければ成らないのかと言うところです。
だから明らかではないかと言われるかも知れませんが、その様にしなければ成らないのには深い理由があります。それを次節で簡単な例を用いて説明します。
例として、f(x)=−x(x−20)=−x2+20x を取り上げ、それを x=0〜20 の範囲で定積分する。
この定積分値は図の空色着色部分の面積を表しています。
次に積分変数xを
の様に変更します。このとき関数形は
となりますが、グラフのxとtが対応する位置のf(t)値はf(x)値と同じ値になることに注意して下さい。
実際の所、例えばx=5の点のf(x)=f(5)=−52+20×5=75 ですが、そのときのt=x2=52=25の点のf(t)=f(25)=−25+20×(25)0.5=75 ですから全く同じになります。
また、積分範囲は t=02〜202=400 となります。
このとき、変数tに関しての定積分値は
となり、先ほどの値と同じです。これは同じ面積値を表す数値ですから同じになるのは当たり前です。
このとき、重要なのはφ’(t)dtが何を表しているのかです。その事は定積分を示している二つのグラフを比べてみれば、直ちに判明する。
それはdt=1としたときの積分幅が、dx=1の積分幅の何倍であるかを表している。例えばx=5の位置、つまりt=52=25の座標値では
つまり、1/10の長さに縮んでいると言うことを示している。この1/10はまさに座標軸のdt=1の幅の“実際の長さ”を表している。
そして、その変化量はtの移動と共に変化します。つまりx=φ(t)のt点に於ける“関数φ(t)のtに関する微分係数”で表される。
二重積分
で、変数変換
を行うと、どうなるかを考える。ただし、φ、ψは連続微分可能とする。
そのとき行列と行列式の関係から言える性質により
ですから、二重積分の座標変換は
となるだろう。ただし
と置いている。この行列式を関数φ、ψの “関数行列式” あるいは “Jacobian” といい
で表すこともある。
問題は、 “Jacobian” が何を意味するかです。その事を幾つかの例で説明します。
[補足説明]
ここで最も解りにくい所は、上記の
(1)線形座標変換(線形写像)を行列表示できる。
(2)行列の積を行列式の積に変換できる。
ことだと思います。
(1)については別稿「行列式と行列」2.(6)2.を参照。
(2)に付いては別稿「行列式と行列」2.(1)4.の定理1と、その定理証明の元になった別稿「行列式と行列」1.(6)1.の定理13を御覧下さい。
例として、f(x,y)=−x(x−20)−y(y−20)=−x2+20x−y2+20y を取り上げ、それを x=0〜20、y=0〜20 の範囲で定積分する。
この定積分値は図のドーム状着色部分の体積を表しています。
[補足説明]
上記の重定積分は本来下記例の様に、まずyの定積分を実施し、次にxの定積分を実施するのですが、その当たりの手順を省いて書いています。
今後出てくる例についてもその様に省略されて記されていると考えて下さい。
次に積分変数(x,y)を
の様に変更します。
このとき被積分関数の関数形は変化して
となりますが、グラフの(x,y)と(u,v)が対応している同一点での関数値f(x,y)は関数値f(u,v)と同じになります。
例えば(x,y)=(5,5)の点のf(x,y)=f(5,5)==−52+20×5−52+20×5=150 に対して、同一点である(u,v)=(25,10)の点のf(u,v)=f(25,10)の値は
となり、全く同じになります。
もちろん、積分範囲はu=0〜400とv=0〜40 の範囲となります。
このとき、新変数(u,v)に関しての定積分は
となり、先ほどの定積分値と同じです。これは同じ体積値を表す数値ですから同じになるのは当たり前です。
このとき重要なのは “Jacobian”
が何を表しているのかです。その事は定積分をの様子を示している二つ図を比べてみれば、直ちに判明する。
例えば、最初の座標変換の様子を示す図で変換前の(x,y)=(5,5)の点に於けるdxdy(dx=1、dy=1とする)で構成される積分要素を表す部分の面積は1です。
一方同じ地点(u,v)=(25,10)の点に於けるdudv(du=1、dv=1とする)で構成される積分要素を表す部分の面積は1/20となります。つまり、この値が“実際の面積”である事を示すのが “Jacobian”
の働きです。もちろんこの値は(u,v)の座標値の変化と共に変わってきます。
いずれにしても、積分面積素片dudvを実際の面積に調整するための量が “Jacobian” なのです。
前節の例では、座標変換式がuとvの内の一方のみに関係していたので、“Jacobian” が面積を表すことがなかなか読み取れません。そこで、座標変換式がuとvの両方の変数に関係する斜交座標を取り上げてみます。
下図の様な(x,y)座標系と(u,v)座標系の間の座標変換式を求めるために、まず“基底ベクトル”の変換式を求める。
@式とA式を未知基底ベクトルex、eyを求める連立方程式と見なして解くと
が得られる。このとき得られる係数の意味は次図より明らかであろう。
このとき(x,y)座標の任意の点は、以下の変換式D、Eにより(u,v)座標に移される。
D、E式を逆に解けば(u,v)座標から(x,y)座標への変換式F、Gが得られる。
これはもちろん
で計算される式と同じです。
例えば、(x,y)=(2.4,1.6)をD、E式に代入、あるいは(u,v)=(2,2)をF、G式に代入すると
となり、確かに最初の図中の対応関係が実現される。つまり座標変換とは同じ積分領域を表す同一点の座標値の対応を表している。
別な例として、(x,y)=(5,5)に対応する(u,v)座標の値を求めてみると下図のようになる。
(x,y)=(5,5)に対応する点に於ける積分面積素片も図示すると上図のピンク色四角形と空色平行四辺形となる。それらは定積分(体積積分となる)をするときの(x,y)座標系、(u,v)座標系それぞれでの面積素片を意味する。
変数変換したときの二重積分に現れる “関数行列式(Jacobian)” を計算してみると
となる。この0.48は前図中の“空色平行四辺形の面積”を表している。
このことを理解するためには、前図中の二つの2次元基底ベクトル
を考えたとき、上記の行列式計算値は二つの基底ベクトルの“外積(ベクトル積)の絶対値”を表していることを思い出せば良い。それが上記平行四辺形の面積を表すことについては別稿「ベクトルの内積と外積の成分表示」2.(4)を参照されたし。そこの2次元部分のみを取り出して考えれば良い。
この例で注意して欲しい事は、この例の積分変数の変換で生じる新たな積分単位セル(面積素片)の形は全積分領域に対して同じ形になることです。その為、この例では“関数行列式(Jacobian)”は、変数(u,v)の変化に依存せず、全領域で同一の値0.48となります。
もし、新しい積分変数が“斜交曲線座標”での座標値となる一般的な座標変換の場合には、基底ベクトル
は場所と共に変化します。そのため、その場所ごとの基底ベクトルを用いた“関数行列式(Jacobian)”の値も場所と共に変化します。その変化する値を重みとして乗じて、積分を実施すれば良いのです。
前節で利用した被積分関数で実際に二重積分を実施する。
このとき図の(x,y)と(u,v)が対応している同一点での関数値f(x,y)は関数値f(u,v)と同じであることに注意して下さい。
変数変換しても、定積分値は以前と全く同じになることに注意されたし。
重積分の変数変換は、それをやることによって、被積分関数が積分できる形に変形できる場合に重要です。
例えば
は、このままの関数形では簡単に積分できません。しかし、座標を(x,y)直交座標系から(r,θ)極座標系に変換すると被積分関数が簡単に積分できる形になる。
実際、このときの座標変換式は
となるので、“関数行列式(Jacobian)”は
となる。この場合にも、これは積分面積素片の面積を意味します。
つまり、それぞれの座標系での積分面積素片の面積を表している。つまり(x,y)座標系ではdxdy(dx=1,dy=1とする)の面積を、(r,θ)座標系ではdrdθ(dr=1,dθ=1radianとする)の面積を表す。
そして、その面積素片の面積値(Jacobian)が、(r,θ)座標系では座標値(r,θ)に依存して変化します。その変化する重み関数を乗じて定積分を実施することになります。
上記の“関数行列式(Jacobian)”を用いると
と計算できる。
特に、積分範囲が全平面である場合には
となるが、この結果を知っていれば、
の様な式変形をすることで
などの定積分値を求める事ができる。変数変換のテクニックを知らないと、この定積分値を求めるのは極めて困難です。
これらの結論は統計力学に於いて重要です。この当たりについては別稿「マクスウェルの速度分布則1“気体の動力学的理論の説明”」2.(2)などを参照されたし。
三重積分
で、変数変換
を行うと、どうなるかを考える。ただし、φ、ψ、ωは連続微分可能とする。
そのとき、2.(1)[補足説明]で説明した様に
ですから、三重積分の座標変換は
となる。ただし、
と置いている。この行列式を関数φ、ψ、ωのの “関数行列式” あるいは “Jacobian” という。また、D’はDに対応するuvw-空間の有界閉領域を意味する。
[補足説明]
世にある数学書を読んでも良く解らないのは、重積分を変数変換したとき積分要素dxdydzを|J(u,v,w)|dudvdwで置き換えれば良い理由です。それは結局以下の様に考えるしか方法は無いように思います。
それは上記の方法
で置き換えているのですが、その正当性性は、以下で述べる様に|J(u,v,w)|が、dudvdw=1×1×1の体積素片の実際の体積を表していると言うことを示すことで保証される。
それが実際の体積素片の体積であると言うことを示す事によってのみ、上記の“積分要素の置き換え計算”が正当化される。それ以外に“ヤコビの定理”を証明する方法はありません。
例を用いて三重積分の意味と座標変換の意味を説明する。
前章と同じ様な関数例として、
f(x,y,z)=−x(x−20)−y(y−20)−z(z−20)
=−x2+20x−y2+20y−z2+20z
を取り上げ、それを x=0〜20、y=0〜20、z=0〜20 の範囲で定積分する。
二重積分の場合は、その積分値は平面上の積分閉領域とその上に定義された関数で囲まれた部分の体積値を意味した。それに対して、三重積分では、三次元空間の体積素片それぞれの点に割り当てられた関数値と、体積素片の体積との積を三次元空間の閉領域全体について加え合わせた和が、その閉領域についての定積分値となる。
三次元空間に住む我々には四次元の体積を想像するのは難しいが、積分値は四次元の体積を表している。このとき、二重積分の場合の積分範囲は二次元の面積領域であったのだが、三重積分では積分範囲が三次元の体積空間になる事に注意して下さい。
次に、積分変数を(x,y,z)から(u,v,w)に変更します。
w軸上の実際の目盛りの値が、非常に解りにくいが、図の上で十分に検討されたし。
w軸の一目盛りの長さが上図の様に変わるので(x,y,z)=(5,5,5)すなわち(u,v,w)=(25,10,6.25)点での単位体積素片の実際の体積関係は次式に従って定まる。
つまり、(u,v,w)=(25,10,6.25)に於けるdudvdw=1×1×1の体積素片の実際の体積は1/50になります。その当たりを下図のグラフから読み取って下さい。グラフの目盛り値の対応関係がとても錯綜していますので気をつけて下さい。
ここで、特に注意して欲しい事は dx=1,dy=1,dz=1 とし、さらに du=1,dv=1,dw=1 と考えれば明らかな様に上式は左辺の dxdydz と右辺の (1/50)dudvdw が《等しいことを意味するのでは無く》て【積分体積素片】として左辺の dxdydz が右辺の (1/50)dudvdw に《置き換えられるべき》だという対応関係を表しているにすぎないことです。
もう少し具体的に言いますと、“Jacobian”は dx=1,dy=1,dz=1 で構成される体積素片の実際の体積値と du=1,dv=1,dw=1 で構成される体積素片の実際の体積値との 比 を表しています。この場合、“Jacobian”はuとwの関数ですから、この比は場所と共に変化します。
そうすると積分範囲 x=0〜20、y=0〜20、z=0〜20 が、 u=0〜400、v=0〜40、w=0〜100 の範囲に変わります。
このとき、被積分関数の関数形は変化して
となりますが、積分をする(x,y,z)と(u,v,w)が対応している同一点での被積分関数の関数値f(x,y,z)は関数値f(u,v.w)と同じになります。
例えば(x,y,z)=(5,5,5)の点のf(x,y,z)=f(5,5,5)=−52+20×5−52+20×5−52+20×5=225 に対して、同一点である(u,v,w)=(25,10,6.25)の点のf(u,v,w)=f(25,10,6.25)の関数値は
となり、全く同じになります。
さらに補足すると、関数f(x,y,z)の最大値は(x,y,z)=(10,10,10)の点で取る値
f(x,y,z)=f(10,10,10)=−102+20×10−102+20×10−102+20×10=300
となります。
もちろんこれは、対応する (u,v,w)=(100,20,25) 地点の関数値
f(u,v,w)=f(100,20,25)=300 と同じです。
元の変数(x,y,z)に関する積分範囲 x=0〜20、y=0〜20、z=0〜20 での定積分値と新変数(u,v,w)に関しての積分範囲 u=0〜400、v=0〜40、w=0〜100 での定積分値を比較してみます。積分をする(x,y,z)と(u,v,w)が対応している同一点での被積分関数の関数値f(x,y,z)は関数値f(u,v.w)と同じである事に注意すると以下の様になります。
実際の積分領域の体積は20×20×20=8000であり、その積分領域中で関数f(x,y,z)が取る値は 最小値0〜最大値300 の間のいずれかですから、定積分の値が上記の様になることは納得できる。
このとき、当然のことですがuvw座標系でも積分領域の体積は8000であり、xyz系の積分領域の体積と変わりません。つまり、 “関数行列式(Jacobian)”とは、同じ体積となるように調整するための量です。
別な例として、前章で考察した二次元斜交座標を三次元に拡張した場合を考察する。
下図の様な(x,y,z)座標系と(u,v,z)座標系の間の座標変換式を求めるために、まず“基底ベクトル”の変換式を求める。
基底ベクトル ex、ey、ez から基底ベクトルeu、ev、ewへ変換する式は
となる。
この変換式を3元連立代数方程式と見なして代数的に解けば基底ベクトルeu、ev、ewから基底ベクトル ex、ey、ez へ変換する式
が得られる。この式を求めるには行列式のCramerの公式あるいは別稿「余因子行列と逆行列」の方法を利用しても良い。
このとき得られる変換式の係数の意味は次図より明らかであろう。
また、上記の二つの変換式を引き続いて行えば元の基底ベクトルに戻らねばならないので、両変換係数の間には以下の関係式が成り立つことも明らかであろう
実際に二つの行列の積を計算してみると確かに単位行列になることが確かめられる。
基底ベクトルの変換式を用いると、座標値の変換式が直ちに求まる。
となるので、次の変換式が得られる。
この変換式の行列は基底ベクトルの変換式の行列式
の“転置行列”になっていることに注意されたし。
同様にして上記とは逆方向の変換式が得られる。
となるので、次の変換式が得られる。
この変換式の行列は基底ベクトルの変換式の行列式
の“転置行列”になっていることに注意されたし。
[補足説明]
ここで説明した様な手順で座標値の変換式を求める事ができるのは、基底ベクトルの作る単位セルが全空間にわたって同一で、その基底ベクトルの変換式がその座標値(u,v,w)に依存しない場合のみです。
後で説明する様に一般的なリーマン空間の様に、全空間を同一の単位斜交平行六面体セルで埋め尽くすことが必然的にできなくなる場合には、一つの斜交曲線座標系から別の斜交曲線座標系への座標変換式を求めるのは簡単ではありません。それは変換座標値に依存した極めて複雑な関数となります。
このことに付いては4.(2)1.も御覧下さい。
積分変数を(x,y,z)から(u,v,w)に変更します。
そのとき、u軸、v軸、w軸がそれぞれx=20の平面、y=20の平面、z=20の平面を貫く座標は以下の手順で求まる。
まず、u軸がx=20の平面を貫く座標は、次式の変換式で(u,v,w)=(u,0,0)と(x,y,z)=(20,y,z)を代入した連立方程式を解けば良い。
この未知数u,y,zの3元連立方程式の解は(u,y,z)=(28.5714,5.71429,2.85714)となります。
全く同様に、v軸がy=20の平面を貫く座標は、次式の変換式で(u,v,w)=(0,v,0)と(x,y,z)=(x,20,z)を代入した連立方程式を解けば良い。
この未知数x,v,zの3元連立方程式の解は(x,v,z)=(4.44444,22.2222,2.22222)となります。
さらに、w軸がz=20の平面を貫く座標は、次式の変換式で(u,v,w)=(0,0,w)と(x,y,z)=(x,y,20)を代入した連立方程式を解けば良い。
この未知数x,y,wの3元連立方程式の解は(x,y,w)=(5,2.5,25)となります。
座標変換の例として(x,y,z)=(5,5,5)の位置の(u,v,w)座標値を計算すると
となります。
この地点での三重重積分に必要な “関数行列式(Jacobian)” を計算してみると
となります。この場合の“関数行列式(Jacobian)” は、(u,v,w)の座標値に依存せずに、全空間にわたって同一の値になります。
[補足説明]
ここで、特に注意して欲しい事は dx=1,dy=1,dz=1 とし、さらに du=1,dv=1,dw=1 と考えれば明らかな様に上式は左辺の dxdydz と右辺の 0.453×dudvdw が《等しいことを意味するのでは無く》て【積分体積素片】として左辺の dxdydz が右辺の 0.453×dudvdw に《置き換えられるべき》だという対応関係を表しているにすぎないことです。
もう少し具体的に言いますと、 “Jacobian”は dx=1,dy=1,dz=1 で構成される体積素片の実際の体積値と du=1,dv=1,dw=1 で構成される体積素片の実際の体積値との比を表しています。この場合、“Jacobian”はたまたま座標に関係しませんので、この比はすべての場所で一定です。
この “関数行列式(Jacobian)” を用いて、新しい変数での三重積分を実施すると下記の様になります。
応用上重要な三次元極座標のヤコビアンを求めます。必要な予備知識は別稿「座標回転公式と球面三角法」1.(2)3.で説明しています。
逆変換式については別稿「座標回転公式と球面三角法」1.(2)3.[補足説明1]を参照して下さい。
前節で求めた微小変分の変換式を、今まで説明した手順で変形する。
この式の意味は非常に解りにくい。いままで、何度も注意したように、“Jacobian”=|∂(x,y,z)/∂(r,θ,φ)|=r2sinθ は、 dx=1,dy=1,dz=1 で構成される体積素片の実際の体積値と、同一場所の dr=1,dθ=1radian,dφ=1radian で構成される体積素片の実際の体積値との 比 を表しています。この場合、“Jacobian”はrとθの関数ですから、この比は場所と共に変化します。
[補足説明]
くれぐれも上記の事柄を、下図で示されている“同じ”dsを形成する[dxdydzの微小体積素片の実際の体積値]と[drddθdφで構成される微小体積素片の実際の体積値]との比(下図参照)を示していると勘違いしないで下さい。
上記の関係式
はdxdydz=1×1×1が形成する[dxdydzの微小体積素片の実際の体積値]とdrdθdφ=1×1×1が形成する[drdθdφで構成される微小体積素片の実際の体積値]との比を示しています。
このことの意味に付いては別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」4.(6)5.で説明していますので、そこの図を復習して下さい。
一般相対性理論で必要になるリーマン空間に於ける重積分を考える。
今は、簡単化して3次元リーマン空間を考える。そのとき別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」1.(2)で注意したように、3次元微小領域の部分部分ではそれぞれそこに貼り付けられたユークリッド空間の中の斜交座標と考える事ができるのでした。ですから、それらの各場所における基底ベクトルが作る平行六面体の体積を普通のユークリッド空間に置ける意味での体積値と考える事ができます。
そのとき、リーマン空間では最初から斜交座標ですから、最初から単位基底ベクトルが作る単位平行六面体の体積を考慮する必要があります。それは別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」2.(7)“基底ベクトルが作る単位格子セルの体積Vと基本計量テンソルgijの関係”ですでに説明しました。
本稿で用いている記号でそこの説明を以下で繰り返してみます。
3.(3)1.で利用した基底ベクトルで考える。
このとき基底ベクトル eu,ev,ewはリーマン空間での基底ベクトルですが、接ユークリッド空間(その基底ベクトルが ex,ey,ezです)の中に引かれていると考えます。
3つの基底ベクトル eu,ev,ew の張る平行六面体(単位格子セル)の体積Vは、別稿「ベクトルの内積と外積の成分表示」2.(5)2.で説明した様に
で表される。
そのため、体積Vの2乗は
となる。式変形に行列式の性質を用いたが、詳細は別稿「ベクトルの内積と外積の成分表示」2.(5)2.[補足説明]を参照されたし。
ところで最後の行列式は、別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」2.(4)で定義した“3次元リーマン空間”の“基本計量テンソル” gij から得られる行列式の値ですから
となる。
従って、ベクトルv=(du,dv,dw)を対角線ベクトルとする基底ベクトル系における平行六面体の体積Vは
で表される。つまり
そのとき、一般的には“関数行列式(Jacobian)”|J(u,v,w)| が座標値(u,v,w)の関数であった様に“基本計量テンソル” gij も座標値(u,v,w)の関数です。
このことについては別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」2.(7)も御覧下さい。
リーマン空間における座標変換とは、局所的な場合に限れば座標を規定する“規底ベクトル”の変換式を決めると言うことです。それは別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」3.(1)ですでに説明したことです。そのときの変換式を用いれば、本稿3.(3)2.で説明したのと同様な手順に従えば、座標値の変換式が直ちに求まります。さらに、座標値の変換式の変換行列は、基底ベクトルを逆方向に変換する変換式の行列の転置行列になることも同様です。
しかし、大域的な座標変換式を求めるのは簡単ではありません。斜交曲線座標の座標値を別の斜交曲線座標の座標値と結びつける変換式ですから、その変換式は線形の行列で表されるようなものではありません。極めて複雑なもの
になるでしょう。
だからリーマン空間内の局所的な座標系をその位置の局所的な別の座標系に変換する座標変換と大域的な座標変換を取り違えないことが重要です。このことについては3.(3)2.[補足説明]も御覧下さい。
[補足説明]
“リーマン空間”では“基底ベクトル”に対して“双対基底ベクトル”というものも考える必要があるのですが、くれぐれも[基底ベクトルを別な基底ベクトルへ変換] する事と [基底ベクトルと双対基底ベクトルの間の変換] を混同しないでください。両者は全く別の事です。このことに付いては別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」3.(1)[補足説明3]で注意をうながしていますのでそこを復習して下さい。
リーマン空間における一つの斜交曲線座標系(u,v,w)系から他の斜交曲線座標系(a,b,c)系に座標変換した場合にリーマン空間における多重積分がどのように変換されるかを考える。
まず最初に、座標変換式
により関数の変数を(u,v,w)から(a,b,c)へ変換します。
そして次に、積分体積素片を
に変換する。
ただしg’は(u,v,w)と同一点の(a,b,c)座標値におけるabc系の基底ベクトルea,eb,ecから
によって構成される“基本計量テンソル” g’ij の行列式の値であり、
となるものです。このことについては別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」3.(7) と 4.(6)5. を復習されたし。
[補足説明1]
ここで、特に注意して欲しい事は du=1,dv=1,dw=1 とし、さらに da=1,db=1,dc=1 と考えれば明らかな様に g0.5dudvdw と g’0.5dadbdc が《等しいのでは無く》て【積分体積素片】として g0.5dudvdw が g’0.5dadbdc に《置き換えられるべき》だという対応関係を表していることです。
もう少し具体的に言えば、“Jacobian”の比=g’0.5/g0.5 は同一地点における du=1,dv=1,dw=1 で構成される(平行六面体状の)体積素片の実際の体積値と da=1,db=1,dc=1 で構成される(平行六面体状の)体積素片の実際の体積値との 比 を表しています。もちろん、ここで言う体積値とは、各地点における接ユークリッド空間での普通の意味での体積値です。この場合、“Jacobian”はu、v、wの関数(つまり、a、b、cの関数でもある)ですから、この比は場所と共に変化します。
[補足説明2]
さらに重要なことは、ここでのg0.5もg’0.5も、そこの点での接ユークリッド空間の体積素片dxdydzでdx=1、dy=1、dz=1と置いた時の立方体の体積値に対する、リーマン空間の体積素片dudvdwでdu=1、dv=1、dw=1とした時の平行六面体の体積値であり、おなじくリーマン空間の体積素片dadbdcでda=1、db=1、dc=1とした時の平行六面体の体積値であることです。上記“接ユークリッド空間”の意味については別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」1.(2)を復習して下さい。
いずれも、ユークリッド空間における実際の体積値そのものであることを決して忘れないで下さい。
[補足説明3]
言うまでもないことですが、一般相対性理論で考察する4次元リーマン空間は4次元目が時間座標となる4次元リーマン時空です。
そして、三次元リーマン空間の各点における接ユークリッド空間(3次元)に相当するものが、4次元リーマン時空の各点における接ミンコフスキー時空(空間3次元+時間1次元)です。つまり特殊相対性理論を論じる4次元ミンコフスキー時空が、4次元リーマン時空の各点での接時空間となります。
時間と空間が混じった4次元リーマン時空の体積素片を想像するのは難しいが、考え方自体は同じです。
上記の事柄を一般相対性理論での表記で繰り返しておきます。
すでに何度も説明したように、一般相対性理論における基本計量共変テンソル gμν は2階共変テンソルだから、座標変換
に対して
の様に変換されます。
次に両辺の行列式を計算するのですが、行列の積の行列式det[ABC]はそれぞれの行列の行列式の積det[A]×det[B]×det[C]に等しいので
となります。これは別稿「テンソル代数学」3.(5)[例1]ですでに説明しています。
ただし、ここで
は、“関数行列式”(Jacobian)を意味します。つまり、座標変換と逆座標変換の関係式から求まる下記のヤコビアン行列式を意味します。
このとき、行列式は行と列を入れ替えた転置行列式の値と一致することに注意されて下さい。
行列式の定義式を用いて形式的にヤコビアンを展開すると
となります。ここで εμ1μ2μ3μ4 は別稿「テンソル代数学」3.(5)[例2]で説明した“Levi-Civitaのテンソル密度”です。
座標を変換したからと言って領域自体が三次元リーマン空間の中で変化するわけではありません。同一の積分領域を表す座標値が変化するだけです。
このことの意味を理解するのはなかなか難しいのですが、今までに説明してきた例を復習されれば納得して頂けると思います。
リーマン空間における多重積分はユークリッド空間における多重積分と同様に考えれば良い。リーマン空間内に引かれた斜交曲線座標の各点で積分すべき関数値が与えられているとする。リーマン空間内の各点での積分体積素片と、その点における関数値を掛け合わせたものを積分領域(体積領域)全体にわたって加え合わせてゆけば良いのです。
実際にそれを実行するのは簡単ではありませんが、考え方自体は簡単明瞭です。
以上述べた事柄は三次元リーマン空間における体積領域での積分でしたが、三次元ユークリッド空間中の曲面(二次元リーマン空間)上での面積分に関しても同様に考えれば良い。これはまた、三次元リーマン空間中の任意の積分閉領域の表面に付いての面積分についても言えることです。
これは、リーマン空間における“グリーンの定理”や“ストークスの定理”などの定式化に必要です。このことについては別稿「4.“Riemann幾何学”」の(9)“微分と積分の公式”などを御覧下さい。
この稿を作るに当たって、下記文献を参考にしました。感謝!