“平衡状態の統計力学”を解りやすく説明します。統計力学は量子論発展の基になります。本稿は、久保亮五著「統計力学(改訂版)」共立出版(1952年、改訂版1971年刊)の第1章、第2章からの引用です。ただし、解りやすくする為にかなり改変しています。
1.はじめに
(1)巨視的世界と微視的世界
(2)統計力学の課題
(3)分子の熱運動
(4)気体の分子運動
1.簡単な説明
2.詳しい説明
2.統計力学の基本的な考え方
(1)一つのたとえ話
(2)通貨の分配
1.社会の通貨発行高Mが一定のとき、1個人の所有金がxである確率
2.社会(人口N,通貨M)の一部社会N1(<N)が通貨M1(<M)を有する確率
(3)振動子の集合
(4)振動子系の統計的取り扱い(ミクロカノニカル集団)と統計力学の基本仮定
(5)振動子系の統計的取り扱い(カノニカル集団)とカノニカル分布
1.一つの振動子の持つエネルギー分布
2.部分系の持つエネルギーがE1である確率
(6)定常振動(定常波)
1.一次元定常振動
2.二次元定常振動
3.三次元定常振動
(7)理想気体(カノニカル集団)
(8)理想気体(ミクロカノニカル集団)
(9)カノニカル分布の特徴
1.第一の特徴
2.第二の特徴
3.系の運動自由度fが大きい場合
(10)熱的つりいあの統計力学的意味
3.統計力学の基本的な応用例
4.統計力学の平衡条件と巨視的状態量
5.統計力学と熱力学の基本法則
[補足説明1]
上記で説明されている様に、《統計物理学》は原子・分子が関係する“微視的世界”を取り扱う。
その微視的世界は今日、《量子物理学》によって説明される。
量子物理学とは、エネルギーや運動量といった物理量が、とびとびの値である“量子”としてしか存在できないことをあきらかにしたものです。
そして、光(電磁場)が波としての性質と共に粒子的な性質を持つ、さらに物質粒子も粒子としての性質とともに波束としての波の性質を持つと言うものです。
更に、個々に存在するその様な粒子的な存在物は、フェルミ・ディラック統計に従うモノと、ボーズ・アインシュタイン統計に従うものがあるとしなければならないことです。
上記の量子物理学の性質は、いずれも統計物理学が展開する理論に存在した論理矛盾を解決する事の中から発見されてきたものです。ですから、統計物理学は量子物理学の発見を生み出し、量子物理学は統計物理学の発展と共に成長してきました。
《量子物理学》中の “エネルギーや運動量の量子という概念” 、 “光と物質の波動・粒子の二重性” 、 “粒子種により、同一のエネルギー状態に限られた個数しか存在できないあるいは個数制限無く存在できるの違い” のいずれもが、 《統計物理学》が突きつける矛盾を解決するための苦肉の策であり妥協の産物です! 。
だから、本稿の議論の中に於いて、上記の量子物理学に関係した状況・性質が、突然理論の中に現れてきますが、何故そうなのかは、上記の理由以外にはないのですから、その正当性については上記の理由で納得してください。
このとき、粒子の分布の微視的状態をカウントするとき、粒子の個別性を考慮してカウントするか、個別性は無いものとしてカウントするかと言う問題は、古典統計力学でも問題になるところでして、量子統計で必要になった問題では無いことに注意して下さい。
ただしもちろん,量子論において【光の粒子性】や【物質の波動性】が明らかになったことで、この問題がより先鋭化したと言えるかも知れません。このことに付いては特に2.(7)[補足説明4]に続く解説などを参照されたし。
[補足説明1]
上記で説明されている様に、“熱”の実体は原子・分子の運動エネルギーであり位置エネルギーです。つまり熱は“エネルギー”という物理量で表せるものです。
しかし、“温度(絶対温度)”という物理量はエネルギーとはまったく異なる量であり概念です。だから温度という概念はエネルギーを構成する単位(時間・質量・距離)では表せません。まったく新しい次元(度あるいはdeg)を導入して初めて表される様な量です。
温度の導入に伴って発見・導入された“エントロピー”という物理量も、エネルギーの次元を温度の次元で割った様な次元を持つ、まったく新しい物量です。エントロピーとは乱雑さの度合いを表すような量であると言われますが、まさしくその様な量です。その様な量なのですが、あらゆる状況に於いてその大きさが一意に決定できる様な状態量です。
これらの、温度とエントロピーという新しい物理量が存在する事を発見し、その性質を論じたのが《熱力学》という学問分野です。
統計力学にもその温度とエントロピーという物理量が必然的に絡んで来ます。以後の議論に於いて、このまったく新しい物理量である温度とエントロピーが《統計力学》の中で、 どの様な形で現れてくるか! 、 どの様な形で絡んで来るか!、 については特に注意されてください。
上記で用いたTaylorの定理についてはこちらを参照。
[補足説明1]
上図の「放物線は振動子のポテンシャルエネルギーを表す。」の意味については別稿「質点の二次元運動」2.(1)のグラフを参照されたし。
[補足説明1]
(2.20)式が(2.23)式の様における事は、2.(2)1.の図2.1を復習されれば明らかであろう。
2.(5)2.[例題1]
2.(5)2.[補足説明1]
以下は、朝永「量子力学T」の該当部分の引用。
ここは極めて解りにくい所です。(2.40)式は、別稿「相対論的力学」3.(4)[補足説明4]と、別稿「アインシュタインの特殊相対性理論(1905年)」3.(2)2.[補足説明7]を参照されて下さい。更に詳しくは de Broglie の原論文をご覧下さい。
[補足説明1]
上記の“弦を伝わる横波の速さc”に付いての補足です。このcは光速度とはまったく関係無いことに注意して下さい。
久保亮五氏のこの当たりの説明はかなりいい加減です。(2.40)式の導入について、別稿「相対論的力学」3.(4)[補足説明4]と、別稿「アインシュタインの特殊相対性理論(1905年)」3.(2)2.[補足説明7]、あるいは de Broglie の原論文で説明されている様に、物質粒子に付随する物質波の位相速度Vは光速度cよりも速くなります。
ただし、光速度よりも速く伝播する現象はありませんから、物質波の位相速度も仮想的なものです。だから、ここで説明しているλもνも本来現実に存在するものでは無くて粒子の運動量pとプランク定数hとの関係を通してのみ考える事ができるものです。以後の説明に於いても、常にその事は忘れないで下さい。
ですから、単一の物質粒子に随伴するド・ブロイの物質波(位相速度は光速より大)の状況を、ここの様に一次元の弦の振動と同じと見なして、弦振動(そのとき振動の位相速度は当然光束より小)を構成する単一原子(あるいは分子)の振動エネルギーの量子化を行うやり方についての物理的・論理的な正当性はまったくありません。
このやり方を、二次元膜を構成する単一原子の振動エネルギーの量子化、指して三次元立方体の弾性体に対して拡大解釈し適用していきますが、そこもかなりいい加減な拡大適用です。
だから、現実の“弦の振動波”、“膜の振動波”、“弾性体の振動波”と結び付けて考える事はしない方が良いと思います。
[補足説明1]
上記“ガウスの誤差積分”の証明は別稿「マクスウェルの速度分布則1」2.(2)などをご覧下さい。
[補足説明2]
上記のA式からB式への変換は解りにくいが、下記の変換と同じ事をしているだけです。以下の例は、粒子数N=3(a,b,c)で、エネルギーとして4つの値(1,2,3,4)が取れる場合です。
ただし、上記は粒子の区別が付く場合です。a,b,cの区別が付かない場合は下記のように微視的状態の数は 111,112,・・・・・・,443,444 の20個となります。
これが N! で割った場合に相当します。この 20個 は (4×4×4)/3!=64/6=10.6・・・・と一致しませんが、Nが大きい場合には一致するようになります。
[補足説明3]
上記“ヘルムホルツの自由エネルギー” F に付いては別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」を復習されて下さい。特に式(2.68)に付いては 3.(3)2.を、式(2.69)については 3.(4)1.をご覧下さい。
なお、自由エネルギーの詳細については、後ほど4.(6)で説明します。
[補足説明4]
上記“スターリング(Stirling)の公式”に付いては別ページ 【スターリング(Stirling)の公式】 あるいは、「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」の中の 【スターリング(Stirling)の公式】 を復習されて下さい。
[補足説明5]
“マクスウェル-ボルツマンの速度分布則”に付いては、 別稿「マクスウェルの速度分布則1」2. などを復習されて下さい。
また、別稿「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」5. では、こことほぼ同様な(カノニカル集合を用いる)方法で“マクスウェル-ボルツマンの速度分布則”が導かれていますので、本節の展開と比較して見られることを勧めます。
ただし、ここでの議論は“分子が区別される”として導かれたことに注意されたし。この点で不満足なものです。より正しい考え方については、3.(6)で説明します。
[補足説明6]
上記で注記されている“マクスウェル-ボルツマンの速度分布則”から“エネルギー等分配則”を導く方法は、 別稿「マクスウェルの速度分布則1」3.(1)[補足説明3] や、 別稿「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」5.[補足説明3]以降 などを復習されて下さい。
Γ関数については Wikipedia“ガンマ関数”の解説 などを参照されて下さい。
[補足説明1]
式(2.85)から式(2.87)を導く過程についての補足です。引用元の文献には、以下の手順が書かれています。
[補足説明1]
この当たりは2.(2)2.の式(2.12)と図2.2を復習されて下さい。
[補足説明2]
“スターリング(Stirling)の公式”は別ページ 【スターリング(Stirling)の公式】 あるいは、「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」 中の 【スターリング(Stirling)の公式】 を参照。
また、積分公式は別稿「マクスウェルの速度分布則1」2.(2)を参照。
[補足説明3]
上記の確率が“二項分布”になる事は、別稿「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」1.を参照。特にそのこ例題2は教育的で解りやすい。