“平衡状態の統計力学”を解りやすく説明します。統計力学は量子論発展の基になります。本稿は、久保亮五著「統計力学(改訂版)」共立出版(1952年、改訂版1971年刊)の第1章、第2章からの引用です。ただし、解りやすくする為に大幅に改変しています。
1.はじめに
(1)巨視的世界と微視的世界
(2)統計力学の課題
(3)分子の熱運動
(4)気体の分子運動
1.簡単な説明
2.詳しい説明
2.統計力学の基本的な考え方
(1)一つのたとえ話
(2)通貨の分配
1.社会の通貨発行高Mが一定のとき、1個人の所有金がxである確率
2.社会(人口N,通貨M)の一部社会N1(<N)が通貨M1(<M)を有する確率
(3)振動子の集合
(4)振動子系の統計的取り扱い(ミクロカノニカル集団)と統計力学の基本仮定
(5)振動子系の統計的取り扱い(カノニカル集団)とカノニカル分布
1.一つの振動子の持つエネルギー分布
2.部分系の持つエネルギーがE1である確率
(6)定常振動(定常波)
1.一次元定常振動
2.二次元定常振動
3.三次元定常振動
(7)理想気体(カノニカル集団)
(8)理想気体(ミクロカノニカル集団)
(9)カノニカル分布の特徴
1.第一の特徴
2.第二の特徴
3.系の運動自由度fが大きい場合
(10)熱的つりいあの統計力学的意味
3.統計力学の基本的な応用例
4.統計力学の平衡条件と巨視的状態量
5.統計力学と熱力学の基本法則
[補足説明1]
上記で説明されている様に、《統計物理学》は原子・分子が関係する“微視的世界”を取り扱う。
その微視的世界は今日、《量子物理学》によって説明される。
量子物理学とは、エネルギーや運動量といった物理量が、とびとびの値である“量子”としてしか存在できないことをあきらかにしたものです。
そして、光(電磁場)が波としての性質と共に粒子的な性質を持つ、さらに物質粒子も粒子としての性質とともに波束としての波の性質を持つと言うものです。
更に、個々に存在するその様な粒子的な存在物は、フェルミ・ディラック統計に従うものと、ボーズ・アインシュタイン統計に従うものがあるとしなければならないことです。
上記の《量子物理学》の性質は、いずれも《統計物理学》が展開する理論に存在した論理矛盾を解決する事の中から発見されてきたものです。ですから、統計物理学は量子物理学の発見を生み出し、量子物理学は統計物理学の発展と共に成長してきました。
《量子物理学》中の “エネルギーや運動量の量子という概念” 、 “光と物質の波動・粒子の二重性” 、 “粒子種により、同一のエネルギー状態に限られた個数しか存在できないあるいは個数制限無く存在できるの違い” のいずれもが、 《統計物理学》が突きつける矛盾を解決するための苦肉の策であり妥協の産物です! 。
だから、本稿の議論の中に於いて、上記の量子物理学に関係した状況・性質が、突然理論の中に現れてきますが、何故そうなのかは、上記の理由以外にはないのですから、その正当性については上記の理由で納得するしかありまん。
このとき、粒子の分布の微視的状態をカウントするとき、粒子の個別性を考慮してカウントするか、個別性は無いものとしてカウントするかと言う問題は、古典統計力学でも問題になるところでして、量子統計で初めて注目されることになった問題では無いことに注意して下さい。
ただしもちろん,量子論において【光の粒子性】や【物質の波動性】が明らかになったことで、この問題がより先鋭化したと言えるかも知れません。このことに付いては特に2.(7)[補足説明5]に続く解説などを参照されたし。
[補足説明1]
上記で説明されている様に、“熱”の実体は原子・分子の運動エネルギーであり位置エネルギーです。つまり熱は“エネルギー”という物理量で表せるものです。
しかし、“温度(絶対温度)”という物理量はエネルギーとはまったく異なる量であり概念です。だから温度という概念はエネルギーを構成する単位(時間・質量・距離)では表せません。まったく新しい次元(度あるいはdeg)を導入して初めて表される様な量です。
温度の導入に伴って発見・導入された“エントロピー”という物理量も、エネルギーの次元を温度の次元で割った様な次元を持つ、まったく新しい物理量です。エントロピーとは乱雑さの度合いを表す量であると言われますが、まさしくその様な量です。その様な量なのですが、あらゆる状況に於いてその大きさが一意に決定できる様な“状態量”であることは確かです。
これらの、“温度”と“エントロピー”という新しい物理量が存在する事を発見し、その性質を論じたのが《熱力学》という学問分野です。
統計力学にもその温度とエントロピーという物理量が必然的に絡んで来ます。以後の議論に於いて、このまったく新しい物理量である“温度”と“エントロピー”が《統計力学》の中で、 どの様な形で現れてくるか! 、 どの様な形で絡んで来るか!、 については特に注意されてください。
[補足説明1]
本節の説明は解りにくいので補足します。
まず、最初の圧力pの表現を導く所ですが、運動量の変化は力積に等しい(運動の第二法則)ので
となる関係式からF求めていることに注意して下さい。詳細は「音速の理論2」1.(1)などを復習されたし。
次に、ここで用いている(1.3)式ですが、この式が成り立つことについては、証明も説明もされていませんので 『これは、分子の熱運動を定量的に温度によって表した最初の例である。』
という言い方は誤解を招きます。
ここはむしろ、(1.2)式とボイル・シャルルの法則(1.1)式を比較すると(1.3)式が言えると言うべきです。ここについても「音速の理論2」1.(2)などを復習されたし。
要するに、(1.1)式のボイル・シャルルの法則は温度という物理量を定義・導入するものです。このとき注意して欲しいことは、この式の左辺の pV は (力/面積)×体積=力×距離=仕事=エネルギー の次元を持つものですが、右辺の温度というもの、その次元が既存の 距離・質量・時間の組み合わせで表現できる様なものではありません。それためTには 度(deg) と言う次元を与えるのですが、右辺の気体定数K(普通はRと記す)の次元は エネルギー÷度(deg) になり、温度とエネルギーを取り持つ換算定数の働きをします。
その様にして導入定義された(1.1)式を(1.2)と対比することで
として、一つの分子レベルのエネルギー値と絶対温度Tとの関係を示す換算定数 k を導入したのです。これがここの節の最大の成果です。
(1.1)式が絶対温度を定義・導入するものであると見なせる事は、別稿「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」7.(2)1.をご覧になることで了解して頂けると思います。
上記の2.(7)はこちらを参照。
つまり、上記[高校数学の例題]においてaがM個の白球、bが(N−1)個の黒球、cが0個の場合を一列に並べる順列の数が、ここでの WN(M) となります。
[補足説明1]
本節の説明されている“場合の数の数え方”(2.1)式が統計力学の最も基本的な考え方です。そして、どの分配も等しい確率で実現されるという“等重率の仮定”がそのとき利用される最も重要な原理です。
ここで説明されている“場合の数の数え方”が統計力学の最も基本的な考え方であると言う意味は解りにくいかも知れませんが、このことが、1.(2)で述べられている 『ここではいわゆる狭義の統計力学を取り扱うのであるが、それは熱平衡状態を取り扱う統計力学であり、それは極めて一般的な論理によって作り上げられている』 と言う言い方の“極めて一般的な論理”の内容です。
実際、今後の展開のあらゆる所で(2.1)式が用いられていることが解るでしょう。さらに、別稿「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」1.、同稿の4.や、別稿「プランクの熱輻射法則(1900年)」9.(1)1. などをご覧頂ければ、(2.1)式が極めて一般的に用いられていることが了解して頂けると思います。
[補足説明1]
(2.3)式は p(x)=ax という形の指数関数ですが、別稿「放射性崩壊と半減期」3.で説明した様に、指数関数の底は a では無く e にした方が便利です。つまり
と置き直おせる。
この手法は後ほど2.(5)1.[補足説明1]以降で繰り返し利用します。
[補足説明2]
本節の説明は何が言いたいのか解りにくいとおもいますが、要するに(2.1)式が“極めて一般的な論理”として用いられている例としてあげているだけです。
ここは、別稿別稿「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」3.も参照されることを勧めます。
[補足説明0]
上記で用いたTaylorの定理についてはこちらを参照。
[補足説明1]
式(2.10)
すなわち確率分布関数 pN1(M1) のグラフはこちらで説明しています。
そちらをご覧頂ければ 確率分布関数pN1(M1) が極大を取る M1* が存在する理由が了解できるでしょう。。
式(2.10)のグラフの形に関係するのですが、2.(10)[補足説明2]も参照されて下さい。そこの N2 がここの N−N1 であり、そこの M2 がここの M−M1 と解釈されれば良いでしょう。
この図は解りにくい。上記の説明の意味については、式(2.10)のグラフ別稿3.(1)〜(3)を参照して下さい。
このことは,、式(2.10)のグラフ別稿1.(1)を参照して下さい。
[補足説明2]
本節の説明は、要するに今後何度も取り扱うことになるカノニカル集団に付いての統計理論に於いても(2.1)式が“極めて一般的な論理”として用いられていことを示しているだけです。
カノニカル集団の場合(2.1)式を(2.9)式の様な形にして特殊な取り扱いをしなければなりませんが、この取り扱い方はカノニカル集団では“極めて一般的な手法”である事が今後解ってきます。
ここの取り扱いと同じ事ですが 2.(10)[補足説明3]で説明する確率分布関数式の求め方も参照されて下さい。
[補足説明1]
ここで突然、量子力学の結論が利用されますが、(2.13)式が成り立つような物理系を取り扱っているのだと言うことさえ了承して頂ければ十分ですので量子力学という言葉に拘泥されないで下さい。
上図の「放物線は振動子のポテンシャルエネルギーを表す。」の意味については別稿「質点の二次元運動」2.(1)のグラフを参照されたし。
つまり、振動子が取るエネルギー値は振動子の振動振幅の大小に伴うポテンシャルエネルギーと振動体自身の運動エネルギーを合わせたもので構成されるが、その合わせたものが飛び飛びの状態を取っていると言うことです。
[補足説明2]
すなわち、2.(2)「通貨の分配」で説明した、通貨量M(ここの全エネルギー値 E/ε0 )をN人(ここの振動子の数 N )に分配する方法の数 式(2.1) WN(M)
と同じです。
そのため、このミクロカノニカル集団としての振動子系に対する以下の議論はすべて省略されています。詳細は2.(2)「通貨の分配」1.を見なおして確認して下さい。
[補足説明1]
2.(2)1.[補足説明1]で説明した事柄を(2.20)式に対して実行する。
すなわち、式(2.20)は p(ε)=aε/ε0 と言う形の指数関数ですが、別稿「放射性崩壊と半減期」3.で説明した様に、指数関数の底は a では無く e にした方が便利です。つまり
と置き直おせる。
なお,指数関数の底を変換する方法としては2.(8)[補足説明1]で説明する方法もあります。
上記の4.4節はこちらを参照されたし。
[補足説明1]
式(2.27)の平均値を求めるに際して、次の様な一般的方法がある事を注意しておきます。
[補足説明2]
ここの例題は何をやりたいのか良く解らないかも知れませんので、補足しておきます。
本節の主要テーマであるカノニカル集団に於いて、そのカノニカル集団の構成要素である一つの振動子がエネルギー値εを持つ確率p(ε)は
に比例するのでした。
ところで、一つの振動子が取り得るエネルギー値は量子力学により hν=ε0 の整数倍の n・hν=n・ε0 です。(今はゼロ点エネルギーは考慮していない。)
【ここは、完全に天下り的なところです。Einsteinは、自ら唱えた“光量子仮説”(1905年)からの結論をあらゆるエネルギーに対しても、その様に要素的塊と見なせるとして、以下のカノニカル集団に対する統計的手法を適用して、“Planckの熱輻射法則”(1906年)、および、“固体の比熱の理論”(1907年)を導いて見せたのです。以下の計算は、Einsteinが用いた計算手順に他なりません。】
だから一つの振動子が取り得る平均的なエネルギーεは以下以下で計算できる。もちろんその一つの振動子は巨大な熱浴に接しているもので、いわゆるカノニカル集団を構成している構成要素の中の1つの振動子の意味です。
ここで、各 p(n・ε0) は、確率分布関数としての規格化条件
を考慮しますと
となります。そのため、先ほどの1つの振動子の平均値を表す式は
となります。
これが得られれば、この無限級数の和は以下の手順でも求まります。すなわち
となる。
上記の手順を検討すれば、2.(5)2.[補足説明1] で “分配関数”
を導入した理由も明らかであろう。ここの計算
を意識して、それを自動的に行うためのテクニックにすぎない。
後に一般的な形の“分配関数”の定義が様々出てくるが、それらはいずれも“確率分布関数”を分配関数としたものであることが解るでしょう。
上記の後に示す2.(7)はこちらを参照されたし。
[補足説明3] 以下は、朝永「量子力学T」の該当部分の引用。
この当たりは別稿「共振(共鳴)」3.(イ)を復習されたし。
[補足説明1]
上記(2.38)あるいは(2.39)の“弦を伝わる横波の速さc”に付いての補足です。このcは光速度とはまったく関係無いことに注意して下さい。
久保亮五氏のこの当たりの説明はかなりいい加減です。(2.40)式の導入について、別稿「相対論的力学」3.(4)[補足説明4]と、別稿「アインシュタインの特殊相対性理論(1905年)」3.(2)2.[補足説明7]、あるいは de Broglie の原論文で説明されている様に、物質粒子に付随する物質波の位相速度Vは光速度cよりも速くなります。
ただし、光速度よりも速く伝播する現象はありませんから、物質波の位相速度も仮想的なものです。だから、ここで説明しているλもνも本来現実に存在するものでは無くて粒子の運動量pとプランク定数hとの関係を通してのみ考える事ができるものです。以後の説明に於いても、常にその事は忘れないで下さい。
ですから、単一の物質粒子に随伴するド・ブロイの物質波(位相速度は光速より大)の状況を、ここの様に一次元の弦の振動と同じと見なして、弦振動(そのとき振動の位相速度は当然光束より小)を構成する単一原子(あるいは分子)の振動エネルギーの量子化を行うやり方についての物理的・論理的な正当性はまったくありません。
このやり方を以下において、二次元膜を構成する単一原子の振動エネルギーの量子化、そして三次元立方体の弾性体に対して拡大解釈し適用していきますが、そこもかなりいい加減な拡大適用です。
だから、現実の“弦の振動波”、“膜の振動波”、“弾性体の振動波”と結び付けて考える事はしない方が良いと思います。
実際のところ、最終的な(2.42)式の中には何処にも(光速より大きい)物質波の位相速度cなどの量は含まれていないし、含まれる必要も無いのです。
このことは、以下の二次元運動、三次元運動の場合において、途中で物質波の位相速度cが出てきますが、最終的な結論(2.54)や(2.55)式には物質波の位相速度cなどはまったく関係していない事からも明らかです。
上記の式(2.29)はこちらです。
まず最初に、後で用いる数学関係式(2.60)を証明しておく。
[補足説明1]
上記“ガウスの誤差積分”の証明は別稿「マクスウェルの速度分布則1」2.(2)などをご覧下さい。
[補足説明2]
上記のA式からB式への式変形について補足する。今
と置くことにすると、この部分は以下の様に書ける。
これでも解りにくいので、更に 1/N! の部分を省略することにする。そして、3Nを簡単に 3 として、その各要素を a,b,c とする。また、それらが取り得る具体的な数値 ni の値が4つの値(1,2,3,4)のいずれかしか取れないとする。そこまで簡単化すると、上記の式変形は下記と同じ事を示していることになる。
上記は粒子の区別が付く場合で微視的状態の数は 4×4×4=64個 です。
ただし、a,b,cの区別が付かない場合は下記のように微視的状態の数は 111,112,・・・・・・,443,444 の20個となります。
この20個が、粒子の区別が付く場合の64個を N!で割った場合に相当するのですが、実際は、 (4×4×4)÷3!= 64÷6 〜 10.6・・・・ となり 20個 にはなりません。
N!で割った値と見なせるのはNが大きい場合についてです。
ここの手順は別稿「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」で利用した多項定理
に似ていますが、それとは違って下記の様になった場合に相当します。
両方の手順の違いが何処にあるか是非注意して下さい。
上記の式(2.63)と、後で用いる式(2.30)との違いに注意されたし。
式(2.30)はこちらを復習。
[補足説明3]
上記“ヘルムホルツの自由エネルギー” F に付いては別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」を復習されて下さい。特に式(2.68)に付いては別稿の3.(3)2.を、式(2.69)については別稿の3.(4)1.をご覧下さい。
なお、自由エネルギーの詳細については、後ほど4.(6)で説明します。
[補足説明4]
上記“スターリング(Stirling)の公式”に付いては別ページ 【スターリング(Stirling)の公式】 あるいは、「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」の中の 【スターリング(Stirling)の公式】 を復習されて下さい。
[補足説明5]
下記の事柄に付いては別稿原島鮮著「熱力学統計力学」11.(4)3.の考察も参照されたし。
[補足説明6]
“マクスウェル-ボルツマンの速度分布則”に付いては、 別稿「マクスウェルの速度分布則1」2. などを復習されて下さい。
また、別稿「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」5. では、こことほぼ同様な(カノニカル集合を用いる)方法で“マクスウェル-ボルツマンの速度分布則”が導かれていますので、本節の展開と比較して見られることを勧めます。
ただし、ここでの議論は“分子が区別される”として導かれたことに注意されたし。この点で不満足なものです。より正しい考え方については、3.(6)で説明します。
上記の1.(4)2.はこちらを参照。
[補足説明7]
上記で注記されている“マクスウェル-ボルツマンの速度分布則”から“エネルギー等分配則”を導く方法は、 別稿「マクスウェルの速度分布則1」3.(1)[補足説明3] や、 別稿「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」5.[補足説明3]以降 などを復習されて下さい。
一格子点が占める体積が 23N になる理由が良く解りません?
Γ関数については Wikipedia“ガンマ関数”の解説 などを参照されて下さい。
上記4.2節はこちらを参照。
[補足説明1]
上記の極限公式に付いて補足します。
別ページ高校数学教科書で説明されている様に、数学の極限公式
が言えます。
これは2.(5)1.[補足説明1]で利用した、指数関数の底を e にする為のテクニックと同じです。そこで利用したやり方なら次の様になります。
[補足説明1]
[例1]
[例2]
このことは、2.(2)2.で求めた(2.10)式のグラフ表示を参照されれば明らかです。
上記の“ネルンスト-プランクの定理”については5.(5)を参照されたし。
[補足説明1]
この当たりは2.(2)2.の 式(2.12) と 式(2.10)のグラフ表示 を復習されて下さい。
そこのグラフは 粒子数N と エネルギー値M の大集団の内の 粒子数N1 の小集団が エネルギーM1 をとる確率分布関数のグラフですが、 M1/N1 〜 M/N=m を中心としてた部分に極大を持つ鋭く尖った分布になる事を示していることが解る。
これはカノニカル分布の場合ですが、その事情は本節で説明している内容と同じです。
また、本節の議論の例題についてのグラフ表示は、後の2.(10)[補足説明3]で説明していますので、そちらでご確認下さい。
[補足説明2]
上で用いた “スターリング(Stirling)の公式”は別ページ 【スターリング(Stirling)の公式】 あるいは、「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」 中の 【スターリング(Stirling)の公式】 を参照。
また、“Taylorの定理”についてはこちらを参照。
さらに、 “積分公式” は別稿「マクスウェルの速度分布則1」2.(2)などを参照。
[補足説明3]
上記の説明に、さらに補足します。ここで求めた確率分布関数のグラフの形は、2.(2)2.[補足説明1]の式(2.10)のグラフの形に似ています。そこの N がここの N1+N2 であり、そこの M がここの M1+M2 と解釈されれば良いでしょう。
ここでの問題を 2.(2)2.節の言い方であらわすと、『N1人とN2人で構成される二つの社会グループが存在し、その両方のグルールに共通の貨幣M円が流通しているとす。そのときN1人のグループに貨幣がM1円存在する場合の確率分布関数のグラフを求める。』となります。
その確率分布関数 pN1(M1) は、規格化条件を含めると式(2.97)式から
となります。
実際に
のグラフを描いてみましょう。
2.(2)2.節の言い方をすると、N1人とN2人で構成される二つの社会グループが存在し、その両方のグルールに共通の貨幣M円が流通しているとす。そのときN1人のグループに貨幣がM1円存在する場合の確率分布のグラフ
を描いてみようと言うことです。
上記の確率分布関数 pN1(M1) のグラフはこちらです。
[例1]
[補足説明4]
今考察している確率分布が式(2.101)で表される事は別稿「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」1.の式(5.8)を参照されたし。
体積要素が二つの場合には“二項分布”になるが、その事については、「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法}1.例題2が教育的で解りやすい。
本節で、いきなり “二項分布” と “ポアソン分布” 、そして更に “正規分布” の話が出てきて、何のことか良く解らないと思います。そのため以下の[補足説明5]〜[補足説明7]で、一般的な確率分布関数としての二項分布、ポアソン分布、正規分布の詳細を説明しておきます。
[補足説明5]
『二つの箱(それぞれの体積がV1とV2)が接触しており、接触部分に小さな孔が開いているとする。このときこの二つの体積要素の中にN個の粒子が存在するとき、箱1(体積V1)の中に(N個の中の)N1個の粒子が存在する確率分布関数W(N1)を求めよ。』 と言う確率論の問題があったとします。この問いの答えが、本節で求めた(2.101)式ですが、この分布のことを確率論の言葉で “二項分布” といいます。
“二項分布” W(N1) の重要な性質として、まず以下の事が言えます。
すなわち確率分布関数の一種である“二項分布”(2.101)式は、(2.104)式を二項定理で展開した xN1 項 の係数なのです。
次に、このことを用いて、バラメーターである N1の平均値を求めてみると,
となります。
さらに、 N12の平均値 を求めると
となります。
以上二つの結論を用いると、 N1の分散値すなわち {N1−(N1の平均値)}2の平均値 を求めることができます。すなわち,
となります。
これらの結論は、“二項分布”(2.101)式や、その近似形である“ポアソン分布”(2.103)式は、基本的に“正規分布”(2.102)式によく似た形をしている事を示しています。
ここの所の意味が良く理解できない方は、別稿シュポルスキー文献「光量子(光の場のゆらぎ) の 【付録W.1.】をご覧下さい。そこの(W.5),(W.6),(W.7)式が本稿の(2.108),(2.109),(2.110)式対応しますから、両者の式変形のテクニックを比較して見られることを勧めます。,
次に、“二項分布”の近似的な確率分布関数である“ポアソン分布”について説明します。
[補足説明6]
これは“ポアソンの極限定理”と言われるものですが、このことを幾つかの手法で証明して見ます。
[証明法1]
最後の式変形で用いる極限公式については2.(8)[補足説明1]を復習されたし。
[証明法2]
[証明法3] [証明法1]と同じですが、 p と q を用いて書きなおすと以下の様になります。
[補足説明7]
総数N個 のうち N1個が箱1(体積V1)にN2個が箱2(堆積V2)に入る確率を示す “二項分布関数”
と、それが p→0、N→増大 した場合にだけ正しい、近似的な確率分布関数である“ポアソン分布関数”
のグラフを示しておきます。
以下では、各NとN1に対して真に正しい(2.101)式のグラフ(赤曲線で表示)と、近似的にしか正しくない(2.103)式のグラフ(青曲線で表示)を重ねて表示しています。
N=100 の場合
N=1000 の場合
これらのグラフから読み取れる事を箇条書きにすると
1. pが小さい時には二項分布とポアソン分布との差はほとんど無いが、pが大きくなるにつれてポアソン分布の誤差が大きくなり、正しい確率分布を表さなくなる。
2. 二項分布はp=0.5を中心にして左右対称に確率分布関数は現れるが、ポアソン分布ではそうならない。このことは(p=0.80,q=0.10)、・・・、(p=0.99,q=0.01)の場合のグラフを描いてみれば明確に解るでしょう。
3. 基本的に、二項分布もポアソン分布も正規分布(2.102)式によく似た形をしています。
4. Nが大きくなると確率分布の山が急峻になりピークが鋭くなる。
上記の事柄は別稿「確率分布関数のグラフ表示 3」をご覧になれば解りやすいと思います。
さらに補足しますと、上記の確率分布関数グラフは、2.(2)[補足説明1]や、2.(10)[補足説明3]で説明した確率分布関数グラフと同じです。
そこの二つの集団に流通する総貨幣量Mがここの総粒子数Nに相当します。また、集団1の人口N1と集団2の人口N2が、それぞれここの箱1の体積V1と箱2の体積V2に相当します。そして、確率分布関数の変数である集団1が持つ貨幣量M1が、ここの箱1の中に存在する粒子数N1となります。
その様に対応させてグラフ表示3を、グラフ表示1およびグラフ表示2と比較検討されて見て下さい。そうされることで、これらのグラフに付いて本質的な理解が得られると思います。