統計力学の基本的な応用例を説明します。これは、久保亮五著「統計力学(改訂版)」共立出版(1952年、改訂版1971年刊)の第5章からの引用です。ただし、解りやすくする為にかなり改変しています。
1.はじめに
2.統計力学の基本的な考え方
3.統計力学の基本的な応用例
4.統計力学の平衡条件と巨視的状態量
5.統計力学と熱力学の基本法則
(1)熱力学第一法則
(2)熱力学第二法則
(3)熱力学関数と分配関数
(4)化学平衡
(5)熱力学第三法則(ネルンスト-プランクの定理)
[補足説明1]
状態量の完全微分性については、別稿「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」を参照されたし。
特に仕事Wと熱Qが状態量ではない事に付いては、そこの3.(2)2.“仕事と熱”を復習。
また、状態量の微分が完全微分であり、完全微分であるときに満たさなければならない条件(上記 ** の注)に付いては、そこの5.(2)“完全微分方程式”を復習。
さらに、完全微分では無い微分方程式を完全微分方程式にする積分因子については、そこの5.(3)“積分因子”と、5.(4)“積分因子の存在定理”を復習されたし。
上記の式(4.42)は4.(5)4.“二つの系の接触”を参照。
[補足説明2]
S、Ψ、Φはいずれもエントロピーの次元を持つ状態量でして、エントロピーS(E,V)からルジャンドル変換に依って変数を(E,V)→(T,V)に変換したものがΨであり、エントロピーSからルジャンドル変換に依って変数を(E,V)→(T,p)に変換したものがΦです。
一方E、F、G、さらに(ここには記してない)Hはいずれもエネルギーの次元を持つ状態量です。エネルギーE(S,V)からルジャンドル変換によって変数を(S,V)→(T,V)に変換したものがF(“ヘルムホルツの自由エネルギー”)であり、エネルギーEからルジャンドル変換によって変数を(S,V)→(T,p)に変換したものがG(“ギブスの自由エネルギー”)であり、エネルギーEからルジャンドル変換によって変数を(S,V)→(S,p)に変換したものがH(エンタルピー“含熱量”)です。
ルジャンドル変換については、別稿「ルジャンドル変換とは何か」4.を復習されたし。
この当たりに付いては、別稿「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」8.(2)を復習されたし。さらに詳しい説明は、別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」3.と別稿「ギブズの自由エネルギー(化学ポテンシャル)とは何か」1.(2)3.2.をご覧ください。
[補足説明3]
H(エンタルピー含熱量)が、H(S,p)の様に独立変数が S と P になっている理由は、一定圧力の元で化学反応が生じるとき、その系から出入りする反応熱がエンタルピーであると見なせるからです。つまり一定圧力下で生じる化学反応の反応熱を論じるのに便利な量だからです。
F(ヘルムホルツの自由エネルギー)が、F(T,V)の様に独立変数が T と V になっている理由は、一定温度の元で生じる化学変化(相変化)で、その系から出入りする仕事がヘルムホルツの自由エネルギーと見なせるからです。つまり一定温度の元で系から自由に取り出せるエネルギー(仕事)であると言う意味です。
G(ギブスの自由エネルギー)が、G(T,p)の様に独立変数が T と P になっている理由は、一定温度・一定圧力のもとで相変化(化学変化)が起こるとき、二つの相を取り持つエネルギーです。つまりどういった状況で相変化(化学変化)が生じるかを教えてくれるエネルギーです。
これらの事柄に付いては、別稿「ギブスの自由エネルギー(化学ポテンシャル)とは何か」1.(2)1.〜3.を復習されたし。
上記の式(4.5),(4.11)は別稿「統計力学の平衡条件と巨視的状態量」4.(2)を復習されたし。
上記の4.4節は別稿2.(4)を復習されたし。
また、次式(5.19)に関しては別稿2.(7)[補足説明3]の前後(2.68),(2.69),(2.70)を復習されたし。
[補足説明1]
状態量であるエントロピーSは,もともと (E,V) を変数として導入された物理量(状態量)ですが、系のエネルギー E は温度 T と V と一意の関係で結び付けられますから、変数を
(T,V) に変換する事は可能です。
同様に,エネルギーEも,もともと (S,V) を変数として導入された物理量(状態量)ですが、系のエントロピー Sは温度 T と V と一意の関係で結び付けられますから、変数を
(T,V) に変換する事は可能です。
この当たりは,別稿「ルジャンドル変換とは何か」4.と、別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」1.(1)2.の項目5.を復習されたし。
ここで用いられている“ラグランジュの未定乗数法”に付いては別稿「多変数関数の極値とラグランジュの未定乗数法」や、「統計力学におけるラグランジュの未定乗数法」を参照されたし。さらに別稿「プランクの熱輻射法則(1900年」9.(1)なども復習されたし。