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ギブズの自由エネルギー(化学ポテンシャル)とは何か

 熱力学を化学分野に応用するとき、最も理解が難しいのは化学ポテンシャルの概念です。
例えば、理化学事典第5版(岩波書店)には

 “化学ポテンシャル”とは、空間的に一様な物質系の1つの成分の分量が、外界からの出入または化学反応などによって増減するとき、その系のギブズ自由エネルギーの変化量を定める示強変数をいう。
 成分の分量iとしては質量、モル数または分子数を使う。温度、圧力および他の成分の分量を一定にした“ギブズ自由エネルギー”の偏微分係数で成分の化学ポテンシャルを定義する。
 示量変数であるので、となる。一様でない系では化学ポテンシャルは一様とみなされる部分系について定義する。この場合、化学ポテンシャルの高い値の場所から低い値の場所へ移動させようとする一種の力がその成分に作用するので、化学ポテンシャルとよばれる。平衡状態では化学ポテンシャルは一様な値をもつ。

と書かれていますが、禅問答のようで何のことかさっぱり解らない。いまからこの解読を試みます。これは別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」の続きです。

1.ギブズの着想

)相平衡とギブズの自由エネルギー

.相(化学種)変化を表すには

 ギブズが、“化学ポテンシャル”なる概念を思いついたのは、おそらく三相、二相が共存する相平衡の考察からであろう。彼の熱力学第一論文第二論文を経て第三論文にいたる経緯がそれを示している。
 別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」4.(1)2.に於いて三相共存状態はU(S,V)曲面の上で平面領域、二相共存状態は直線領域となることを説明した。U(S,V)曲面のS方向の勾配が絶対温度Tであり、V方向の勾配が−Pであったから、多相が共存している平面領域、直線領域では常に絶対温度と圧力が一定であることを意味する。TもPも物体が存在するときの状況を規定する示強性変数です。
 
 このとき、熱力学の大法則

は、系の内部エネルギーの変化分dUは外界との熱のやり取りd’Q=TdSと、仕事のやり取りd’W=PdVで変化することを言っているが、系の内部エネルギーの絶対的な値がいくらになるかは説明していない。二つの状態を結ぶ変化経路に沿って、系が外界とやりとりする熱や仕事を積算することで、状態変化に伴う内部エネルギー差が解るだけです。
 このとき、系の内部で[相変化][化学反応]が進行しても、そのことによるエネルギーの変化は、この式の中のどこにも反映されていない。いや、本来反映されているのだが、その変化がどこにも記述されていないのです。
 そこでギブズは考えた。系のエネルギー状態を表す量の中には、その相(化学種)の状態に応じて変わる何かが付随しているに違いない。そして、その量はそれぞれの相(化学種)の物質量(あるいは質量)に関係している。また、相(化学種)ごとに異なり、物体の存在状況にかかわって変化するエネルギーに関係する示強性変数(T,Pの関数)が導入できるに違いない。それをμと書こう。
 そこで、ギブズは相(化学種)の存在に関わるエネルギーをμiiと表すことにした。でもって相種(化学種)をあらわし、iは相種(化学種)の状態で存在するものの物質量(質量)です。
 つまり、dU=TdS−PdV の中には、系全体に流入する熱量や系全体が外部に対してする仕事による系の内部のエネルギー変化しか表していないが、系の内部エネルギー変化dUにの中にはΣμidmiによる変化が含まれてしかるべきだと考えた。

.多成分系におけるギブズの自由エネルギー

 ところで、系が“相平衡”にある間は、温度を変えることなく熱がやり取りされ、圧力を変えることなく仕事がやり取りされている。Tが一定だから

となり、Pが一定だから

となる。
 Sが系に加えられた熱量に関係しVが系から取り出された仕事に関係するのだが、相平衡(化学平衡)が成り立っている間は、いかに相(化学種)が変化しても系の内部エネルギーの変化はTS−PVとなる。だからU−TS+PVが相(化学)平衡で相(化学種)の分率が変化したときのエネルギー変化となる。
 そのとき相変化に伴うエネルギー変化があってもそれは外界とのエネルギーのやり取りとはまったく関係無い。なぜなら系の内部エネルギーはTS−PVだけ変化しているだけで、相平衡(つまり相変化)に関わるエネルギーはU−TS+PVの部分です。これはギブスが見つけた“状態量”(今日“ギブスの自由エネルギー”と呼ばれる)ですが、等温・等圧の元で相(化学)平衡が成り立っているときには、“ギブスの自由エネルギー”は相(化学種)の割合がどのように変化しても変化しないエネルギーです

.相平衡のときμに対して成り立つ事柄

 そのとき、相変化(化学反応)に関わる事を表すとき、その相(化学種)変化に関わるエネルギー値は相の物質量(モル数、質量、分子数、等々)に比例し、それらを系内のすべての相に関する和Σを取ったものはU−TS+PVに一致するはずです。すなわち、U−TS+PV=Σμiiとなるはずです。μiの値は相の単位物質量(モル、質量、分子数、等々)当たりのギブスの自由エネルギーですが、μiと質量iの積がエネルギーとなるような量です。ここでΣは系を構成する相(化学種)成分についての和を取ることを意味する。
 相(化学種)の存在に関わるエネルギー量μiiを用いると、内部エネルギーはU=TS−PV+Σμiiと表される。つまりギブスの自由エネルギーそのものがU−TS+PV=G=Σμiiと表されることになる。
 そのため、系が外部と熱と仕事をやり取りし、さらに系内の相の質量比が変化したときの系の内部エネルギーの変化はdU=TdS−PdV+Σμidmiと表されることになる。このときΣμidmiなる和の変化量は系が外界とやりとりしたエネルギーの変化分TdS−PdVを内部エネルギーdUから引いた量の以上でも以下でもありません
 
 そのとき、別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」4.(1)2.で説明したように等温・等圧の元で相変化が起こっている間は常にΣμidmi=0が成り立っているはずです。だから等温・等圧の元で相平衡が成り立っているとき、任意のdmiの変化の組み合わせに対してΣμidmi=0が常に成り立つので、任意のiとjの組み合わせに於いて常にμi=μjが成り立つ。

 これがギブズが発見したことです。
 そのとき、ギブズが言う熱力学を多成分系へ拡張するというのはどういう意味なのでしょうか。多成分系へ拡張されたギブズの自由エネルギーとは何かを知るには、ギブズがGと供に導入したの意味を考えてみると良い。

 

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(2)U(S,V)曲面を多成分系へ拡張することの意味

.エンタルピーH

 “エンタルピー”HH=U+PVで表されるが、これは一定圧力の元で化学反応が生じるとき、その系から出入りする反応熱であると習う。
 定圧の元での変化だから、系の変化に伴って出入りする仕事量は

となる。そのためU+PVで表されるエネルギーの変化分は、仕事以外に外界とやり取りされるエネルギーである熱量となる。つまり化学反応熱です。[下図において(U’−U0)+P(V−V0)=T(S−S0)=吸熱量Qとなっている。]
 そのとき、反応熱というのは系の温度を一定に保つために外界とやり取りしなければならない熱量の意味を持つことを別稿「反応熱と熱化学方程式」1.(2)で説明した。つまり、反応熱とは系が一定圧力、一定温度の元で状態変化(化学変化)するときに外界とやり取りする熱量のことでした。
 
 
 このとき、非常に大切なことですが、一般的にU(S,V)曲面上を温度と圧力を同時に一定に保ちなから移動することはできないのです。例えば系を構成する物体が理想気体の場合を考えて見ると良い。理想気体の系へ熱を加えながら膨張させると圧力を一定に保ったまま体積を増大させることはできますが、理想気体の体積が増えると温度を高めないと同じ圧力を保つことは絶対にできません。そのとき、系へ出し入れする熱量をどのように調整しても圧力一定の状況を保ちつつ温度も同じに保って膨張させることはできないのです。
 
 それなのに、何故“相変化”“化学反応”が起こっている系ではその様な事ができるのでしょうか?ここにギブズの着想を理解する鍵があります。
 
 
 例えば、に変化する最も単純な一次の化学反応(相変化でも良い)を考えよう。

このときAとBを含んだ容器内の状態を表す状態量曲面U(S,V)は下図のようになる。

 このとき、容器内がすべてが物質Aで満たされている場合のU(S,V)曲面は黒色カーブで表され、容器内がすべてが物質Bで満たされた場合のU(S,V)曲面は赤色カーブで表される。つまり、系の中で化学反応が進行すると言うことは、異なった物質の状態量曲面に次から次へと遷移していくことです。一つの系の一つの状態量曲面上の遷移ではないのです。 図中の青色直線の遷移は系中のの存在比が変化していく過程ですが、次々と別な状態方程式曲面へ乗り移って行くので等圧と等温を同時に満たしながら変化していけるのです。そのとき青ラインAB上の位置はまさに物質AとBの存在比に比例して変化しています。別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」4.(1)1.を参照。さらに別稿「蒸気動力サイクル」3.(2)や別稿「ファン・デル・ワールスの状態方程式」3.(2).3の比例計算式を復習されてください。
 だから、黒色Aラインと赤色Bラインは本来まったく別の系だと考えるべきです。一つの系の状態方程式曲面ではなくて異なる系の別々の状態方程式曲面です。これが化学反応に於いて反応前と反応後は別な系と考えなければならないと言う事の意味です
 
 
 この様に考えれば、一定温度、一定圧力の元で系に出入りする“転移熱”(相変化)“反応熱”(化学反応変化)の意味が解ります。この様な熱が出入りしても温度が変化しないのはとても不思議な事ですが、それは別々の状態方程式曲面間の遷移に伴うものだからです。一つの状態方程式曲面で表せる系では、熱を加えれば温度は必ず上がり、熱を取り出せば温度は必ず下がるのですが、異なる状態方程式曲面間の遷移だからその様なことが可能なのです。
 そのような異なる系のU(S,V)状態方程式曲面をつないでいる領域を(P,V,T)状態方程式曲面などで表すと、偏微分係数が定義できない特異点・特異曲線領域と成ります[別稿の(P,V,T)曲面g,s,v曲面など参照]。そのため相転移を起こしている領域では様々な熱力学的物理係数の多くが発散するかゼロになってしまう。
 その様なことが起こるのも頷けます。それが、熱力学を多成分系へ拡張すると言うことです
 
 
 ギブズは物質が均一(単相)のときの熱力学曲面を“原曲面”(primitive surface)と呼び、多相共存状態を“誘導曲面”(derived surface)と呼んでいますが、この言葉には深い意味があります。
 彼が何故この様に呼んだのかと言うと、青色ラインの部分は本来の熱力学曲面ではなくて、熱力学曲面がAの系からBの系へ変化していくときの移動中の仮の曲面だからです。つまり青ラインが接している熱力学曲面は黒色Aラインと赤色Bラインをある割合で混合(誘導)してできる仮の曲面です。だから等圧と等温を同時に満たしながら変化できたのです。
 
 
 このとき、“エンタルピー”Hは、下図の様に[エントロピーS=S0(一定)の面][U0(S0,V0)点での接平面]の交線がU-S座標平面と交わる点のU値です。そのとき、化学反応に伴う熱は必ず反応前と反応後を同温・同圧力に調整したときに系から外界に出入りする熱量の事でしたから、反応系全体の状態を表す状態点は必ず、下図の平面上を移動した点U’U”となります
 仮に、そのときの変化が体積変化を伴わない0→U”の化学変化ならば、幾何学的に考えれば明らかなように、H−H0は必ずU”−U0と一致します。化学種はAからBへ変わって、系の内部エネルギーの変化が反応熱エネルギーの変化H−H0となります。別稿「反応熱と熱化学方程式」1.(3)3.で説明したように、もし体積変化が起こらない化学反応(U0→U”)ならエンタルピー変化(反応熱)は系の内部エネルギーの変化そのものを表し、それはまさに化学結合エネルギーの変化を意味するのでした。系は反応の進展に伴って外界と熱や仕事のやり取りをしますが、上記の意味の反応熱なら、まさに化学結合エネルギーが変化したために生じたエネルギー変化だと言えるのです。
 下図の0→U’は定圧下で体積変化を伴う化学反応による状態点の変化を表しています。そのため、エンタルピー変化が内部エネルギー変化そのものになるわけではありません。別稿「反応熱と熱化学方程式」1.(3)2.の図とよくよく比較検討してみてください。その当たりは別稿「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」8.(2)1.の最後で注意しました。

 ところで、上図の0→U”0→U’は、化学反応ならば吸熱反応を、相変化ならば液体→気体のような転移熱が必要な相転移を、意味しています。そのとき、もしU”やU’が上記平面上を手前へ動いた点なら、発熱反応・発熱相転移になります。
 別稿別稿「反応熱と熱化学方程式」8で、何故ある場合には発熱反応になり別な場合には吸熱反応になるのか?、何故転移熱を伴った相変化や反応熱を伴った化学反応が一定温度のもとで起こるのか?、等々・・・に答えるためにはエントロピー変化ΔSを考えないといけないと書きましたが、その答えがこの中に含まれています。
 
 U’U”のどれが実現されるかは、それこそ黒色Aライン曲面の形状と赤色Bライン曲面の形状によって決まる共通接平面の方向によりますA、B両曲面とも下向きに凸関数です。それが物理化学の教科書に書かれいてる、“が最低の状態で化学平衡が実現される。”の意味です。
 そのとき、もちろん化学反応(相転移)が進んで行くには、外界と熱のやり取りや仕事のやり取りが必要です。またどちらの方向に進んでいくかは、外界との温度差、圧力差の正負に依存します。
 例えば、発熱反応というのは、反応の進展により系の温度が少し上がる場合で、そのとき外界の温度より系の温度が少し高くなるので、熱は外界に流れ出して行き、反応はどんどん進んでいきます。吸熱反応とは、その逆の場合で、反応により系の温度が少し下がるため外界から熱がどんどん流入してきて反応が進展していく。
 さらに例えば、水と飽和水蒸気の二相平衡において、温度をそのままにして、外界の圧力を少し下げれば系は熱をどんどん吸収して膨張して行きすべて水蒸気になるし、外界の圧力を少し高めれば系は熱をどんどん放出してすべて水に凝縮してしまう。
 このことが系のエントロピー変化とどのように関係するのかは別稿「冷凍・定温技術の歴史」2.1.で説明しておりますのでご覧ください。
 外界と温度や圧力が釣り合うと平衡状態になりますが、その平衡位置が決まる様子を説明しているのが、“ル・シャトリエの法則”です。
 
 系の温度と圧力を変えれば出発点の位置もU0’へ変わります。黒色Aライン曲面上の新しいU0’点と赤色Bライン曲面との共通接平面の傾斜(G値)も異なってきますし、その共通接平面の赤色Bライン曲面上での接点の位置U*も異なってきます。
 
 このときからへの化学変化(相変化)が起こっても、系の“ギブズの自由エネルギー”Gは変化していません。なぜなら今の場合は一定温度、一定圧力を保ちながら外界と熱や仕事をやり取りしてU0点からU”やU’点へ変化したのですが、ギブズの自由エネルギーG0(U”−U0)−T(S−S0)+P(V−V0(U’−U0)−T(S−S0)+P(V−V0のように、Uの変化が打ち消されているからです。
 
 別稿で説明したように、反応物と生成物のU(S,V)状態方程式曲面が解れば、G(T,P)、H(S,P)、F(T,V)状態方程式曲面も解ります。それらの曲面の性質を調べれば相転移や化学反応の本質がすべて解明できるのですから、ギブズの着想はまさに大発見です。

.ヘルムホルツの自由エネルギーF

 “ヘルムホルツの自由エネルギー”FF=U−TSで表されるが、これは一定温度の元で生じる化学変化(相変化)で、その系から出入りする仕事であると習う。
 化学変化(相変化)の過程で系へ熱が出入りするのですが、一定温度の元での熱の出入りなので

となる。だからU−TSで表されるエネルギーの変化分が外界とやり取りする仕事となる。[下図において(U’−U0)−T(S−S0)=P(V−V0)=仕事Wとなっている。]
 そのとき、外界とやり取りする仕事はPdVの形とは限らない。もし、そのとき系の体積が変わらず、例えば系から流れ出る電流が外部に対して仕事をするのなら、それはEdqの様な書き方で表される。Eは電位差であり、dqが移動する電気量です。そして、状態量曲面の独立変数の横軸をVからqに変換すればよい。そうすると、U(S,q)曲面のq方向の勾配が電位差Eに関係する。実際、ヘルムホルツが熱力学を電池反応に適用する際に導入したのがだった[別稿「電気化学ポテンシャルと熱力学第三法則(ネルンストの熱定理)」1.(2)参照]。 
 
 化学反応(相変化)に伴って一定温度の元で仕事を取り出すのですが、そのとき圧力P(あるいは電位差E)も一定の元で取り出すと考えて良い。
 その場合、化学反応の進行に伴って状態量曲面上の点はU0からU’へ移動する。下図のF値の変化は化学反応(あるいは相変化)の進行に伴って外部に取り出される仕事量を意味する。もちろん、そのとき化学反応(相変化)の進行に伴って、等温・等圧を維持するために系は外界と熱や仕事のやり取りをするのですが、とにかく図のF値の変化F−F0が取り出せた仕事であることは確かです。
 そのとき、取り出せた仕事量は系の内部エネルギーUの変化そのものではないことに注意。その当たりは、別稿「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」8.(2)1.の最後で特に注意したことですが、下図を検討すれば明らかです。
 電池反応の場合には横軸を電気量qにして、U(S,q)曲面のq軸方向の勾配が、電位差Eだと考えればよい[別稿「電気化学ポテンシャルと熱力学第三法則(ネルンストの熱定理)」1.(2)4.参照]。(電位差は普通Vを用いるが体積と混同を避けるためにEを用いた。)

 この場合も、多成分系の間の状態量曲面Ui(Si,Vi)間の遷移だから、一定温度、一定圧力の遷移が可能だったことを忘れてはなりません。これはエンタルピー変化を考えたときの事情と同じです。
 そのとき、ギブズの自由エネルギーGは多成分系間の遷移を取り持つ働きをしている

.ギブズの自由エネルギーG

.U(S,V)とギブズの自由エネルギーG
 以上の様に考えれば、“ギブズの自由エネルギー”GG=U−TS+PVと表される意味が解る。すでに注意したように、状態方程式曲面を次々と異なった系のものへ受け渡して初めて一定圧力一定温度の変化を実現できたのでした。つまりギブズの自由エネルギーとは一定温度・一定圧力の元で相変化(化学変化)が起こるとき、異なった系を構成している異なった状態方程式曲面を繋ぐ橋渡しをしてくれる(つまり間を取り持つ)エネルギーです。多成分のそれぞれの系を構成する状態方程式曲面U(S,V)が知られていたら、どういった状況で相変化(化学変化)が生じるかを教えてくれるエネルギーです。[下記の例を参照]
 物理化学の本では、化学反応はギブスの自由エネルギーが最低の状態で実現されると説明されていますが、前述の青ラインA-Bが下向きに凸の状態方程式曲面の共通接平面であることがそのことを表しています。化学種が共存している等温・等圧の状況下では、本来異なった系の異なった状態方程式曲面であるの状態方程式曲面と共通に接する平面がU軸を切るU値がなのです。
 状態方程式曲面の両方が下向きに凸関数であるからこそ、ルジャンドル変換か可能であり、共通接平面が存在したのです。それが、Gが最低のラインに沿って化学反応(相変化)は進んでいくということの意味です。
 
 
 例えば、山本義隆著「熱学思想の史的展開3 熱とエントロピー」筑摩学芸文庫(2009年刊)第32章p267 で例としてあげられている単斜イオウ斜方イオウH、S、Gグラフを用いて説明すると、以下のようになる。
 まず上記のU-V-S空間内に単斜イオウの状態方程式曲面(S,V)斜方イオウの状態方程式曲面(S,V)がそれぞれ存在すると考える。両者は本来別の系だからU(S,V)とU(S,V)は別の曲面です。
 別々の曲面だが、その形は別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」2.(2)で示した

の様な形をしており、互いに良く似ている。しかし、少しずれ合って存在する
 そのとき、上記引用文献のグラフは、圧力一定(1atm)の元でのH、S、G値が温度の関数として示されている。定圧比熱Cp(T)のデータから、これらのグラフを求める具体的な方法は別稿「電気化学ポテンシャルと熱力学第三法則(ネルンストの熱定理)」4.を参照されたし。またその稿の4.(3)1.や別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」1.(3)1.で説明したように、圧力一定のもとでは(∂H/∂T)p=Cp>0、(∂S/∂T)p=Cp/T>0だから、HもSも温度と共に単調に増加します。

 圧力一定(1atm)に於ける温度依存曲線とは、前記の曲面図のV方向の勾配(P)が一定の点でしかもS方向の勾配(T)が次第に増加していく点を繋いだものです。それがV-S座標平面上でどのようなカーブとなるかは、実際に(S,V)曲面(S,V)曲面が解らないと何とも言えないがとにかく、そのカーブに沿った(S,V)点の真上の(S,V)曲面上の点と(S,V)曲面上の点の接平面から読み取れるG値、S値、H値のグラフです。
 そのとき(S,Vのカーブと(S,Vのカーブは一致してはいないことに注意してください。(S,V)曲面(S,V)曲面は似たような曲面でも互いに異なった曲面ですから、同じ圧力(V方向の勾配が等しい)の点を結んでできる(S,Vのカーブと(S,Vのカーブは少しずれています。
 (S,V)曲面上の、点(S,Vに於ける接平面がU軸を切るU値がグラフに記されている単斜イオウのです。また(S,V座標点のS値が単斜イオウのです。また、その点での接平面とS=S(一定)面との交線がU-S座標平面と交わるU値が単斜イオウのです。
 そして、(S,V)曲面上の、点(S,Vに於ける接平面がU軸を切るU値がグラフに記されている斜方イオウのです。また(S,V座標点のS値が単斜イオウのです。また、その点での接平面とS=S(一定)面との交線がU-S座標平面と交わるU値が斜方イオウのです。
 、また、さらに、は互いに異なるが、似たようなグラフになるのは、もともと(S,V)曲面(S,V)曲面の形状が良く似ているからです。
 
 そのとき、グラフの値を測定した圧力(1atm)では温度368.54Kのグラフが交差していますが、それは(S,V)曲面(S,V)曲面のそれぞれのV方向の勾配は1atmで、S方向の勾配が368.54Kとなる位置で、それぞれの曲面の接平面のU軸切片のU値が同じになっていることを意味する。つまり(S,V)曲面上で、圧力=グラフの測定圧力P=1atm、温度=368.54Kとなる点(S,Vと、(S,V)曲面上で、圧力=1atm、温度=368.54Kとなる点(S,Vが同一の平面に接しているということです。
 そのグラフの測定圧力(1atm)の時には温度=368.54Kを保った状態で単斜イオウ←→斜方イオウの相変化が起こる。もちろんそのとき、系は外界と熱(転移熱)や仕事のやり取りをしますが、その状況で相変化が起こることは確かです。
 
 上記のグラフについてもう少し補足すると、G=H−TSでしたからG(T)の温度に対する勾配はTSの項に大きく影響されます。そのときですから、T方向の勾配は(T)の方が(T)の勾配よりきつくなります。
 そのため平衡点より高温側では(T高温(T高温となりエントロピーのより大きな相(単斜イオウ)が安定になり、低温側では(T低温(T低温となりエントロピーの小さい相(斜方イオウ)が安定になります。グラフはその当たりの様子を表しています。
 
 さらに、圧力を変えたら平衡温度はどう変わるかは、元の状態方程式曲面の新しい圧力でのGの測定値の交点を求めれば直ちに知ることができます。それらの変化の様子を表すクラウジウス・クラペイロンの関係式の具体的な数値も直ちに求まります。この当たりは別稿3.(3)1.[補足説明5]で説明しております。

.U(S,V)からG(T,P)へ
 別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」3.(2)で説明したように、U(S,V)曲面からルジャンドル変換によりG(S,V)曲面やG(T,P)曲面を求めることができます。ただしこのとき、右下のG(T,P)曲面の(∂G/∂T)p>0の領域は、そこの[補足説明1および2]で述べたように修正されると考えてください。

 このとき、変数を(S,V)から(T,P)に変換した形のG(T,P)曲面が特に重要です。それは以下の理由による。
 まず、すでに注意したようにU(S,V)曲面は相種(化学種)ごとにことなり、各相の状態点は異なる平衡曲面(S,V)曲面(S,V)曲面の上にある。そのとき、相平衡では示強性状態量(T,P)は共通になるので、各相の異なった状態点に於ける接平面は共通となった。つまりその共通接平面のU軸切片がギブズの自由エネルギーGだったのです。
 このとき、上図のように、そのG値を縦軸にしたG(T,P)曲面を作ることができる。つまり平衡曲面(S,V)曲面(S,V)曲面のそれぞれに対して(T,P)曲面(T,P)曲面ができます。これらは、それぞれのU(S,V)曲面の(T,P)値における接平面のU軸切片値であるGを(T,P)の関数として描いたものです。
 そのため、相平衡状態では相が違ってもG(T,P)の値は共通です。つまり相平衡では示強性状態量が共通なので、二相平衡状態では二つの平衡曲面(T,P)曲面(T,P)曲面が交わった共有曲線上の点で表されることになる。これがU→Gのルジャンドル変換に於いて変数を示量性状態量(S,V)から示強性状態量(T,P)へ変換することの理由です。
 例えば気相−液相平衡の場合ですが、別稿「ファン・デル・ワールスの状態方程式」4.(2)の最後の図が、二つの平衡曲面G1(T,P)とG2(T,P)とが共有曲線上で交差する様子を示している。

.G(T.P)と相図の共有曲線
 二相平衡状態は、二つの平衡曲面(T,P)曲面(T,P)曲面が交わった共有曲線上の点で表すことができるのだが、この共有曲線を(T,P)平面に射影したもの“相図”と呼ぶ。
 上記例の単斜イオウと斜方イオウの共存する領域は下図の赤色曲線となる。下図中の青丸点は、前記の斜方Gグラフと単斜Gグラフが交わった点(T,P)=(368.54K,1atm)=(95.5℃,1atm)を表す。

 一般に、気相と液相が共存する場合の共有曲線は“飽和蒸気圧曲線”、液相と固相が共存する場合の共有曲線は“融解曲線”、気相と固相が共存する場合の共有曲線は“昇華曲線”と呼ばれる。
 三相平行状態は3相の平行曲面の交差する部分で一つの点となる。これは“三重点”(triple point)と呼ばれる。このあたりの詳しい説明は3.章で行う。

.共有曲線とクラウジウス・クラペテロンの式
 硫黄の二つの相に対応する二つの平衡曲面(T,P)曲面(T,P)曲面が交わった共有曲線に沿った無限小変化dGdGを考える。そのとき共通な曲上での変化だから

となる。
 ここで転移温度をとし、その温度での転移熱をとすると、)=Qだから

となり、クラウジウス・クラペイロンの式が得られる。この式は、それぞれの場合の転移熱(潜熱)を用いさえすれば、融解・蒸発・昇華・結晶形転移などいかなる種類の状態変化にも適用できる。
 
 これらは、別稿「ファン・デル・ワールスの状態方程式」4.(3)ですでに説明したことですが、それぞれの相に割り当てた相異なる二つのG(T,P)曲面を用いて論じると極めて見通しが良くなる。その当たりは別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」3.(3)1.[補足説明5]参照。
 
 ところで、二つの平衡曲面G1(T,P)とG2(T,P)とが共有曲線上で[交差する場合][接する場合]がある[一次と二次の相転移]、[液体ヘリウムの相転移]、[ポメランチュク冷却法]、[超流動ヘリウム]。接する場合には2相平衡曲線上でV1=V2、S1=S2となる場合で、平衡曲線に沿う変化でdP/dTの値は別の議論で定める必要がある。

 回りくどい説明になってしまいましたが、ギブズの思考法はきわめて抽象的で難解です。そのため、ギブズの理論はなかなか理解されず、ギブズの考えが普及するのに時間を要した。おそらく最初これを理解できたのは、ごくわずかの人だったのでしょう。しかし、その後の物理化学は、ギブズの発見した方向で発展した。
 ギブズは1903年に64歳で亡くなりますが、もう少し長生きしていれば確実にノーベル賞をもらったでしょうね。

 

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(3)化学ポテンシャルμ

.化学ポテンシャルとは何か

 (1)で導入したμ“示強性変数”ですが、“示量性変数”の変分dmと一緒になってμdmがエネルギー変分を表す。
 μが何を意味するのかを見極めるのはきわめて難しいが、位置エネルギーU=mghに於けるgh(そのときの示量性変数m[質量]はここでのmに相当)や、電磁気学に於ける静電エネルギーU=eΦにおける電位Φ(そのときの示量性変数e[電気量]はここでのmに相当)のようなものと考えることができる。丁度質量はghが小さい方向へ移動し、電荷はΦが小さい方向へ移動したように、相や化学種が変化していく傾向を表していると考えられる。
 それでこのμは純粋力学におけるポテンシャルに倣って“化学ポテンシャル”と呼ばれている。このポテンシャルは相変化に伴うもの、化学反応変化に伴うもの、あるいは浸透圧に伴う隔壁の両側の濃度差に伴うもの、等々・・・状況により場合によりどのようなものにでも当てはめることができる。
 
 状況は様々に考えられるが、化学ポテンシャルが何を意味するのかを理解するのはきわめて難しい。相平衡に於いては分子間力に伴う位置エネルギーに関係する居心地の良さを表すものだろうし、化学反応平衡の場合には、原子間力に伴う位置エネルギー(いわゆる化学結合エネルギー)に関係する居心地の良さを表すものだろう。また、浸透圧平衡では、溶質と溶媒(水)の水和エネルギーに関係する居心地の良さを表すものだろう。結局のところ“エントロピー”“エンタルピー”の兼ね合いで相平衡や化学反応平衡が決まるのですが、μが小さな状況が居心地の良い状況で、μが一致した状況で初めて相や化学種は互いに変化する。前述の接平面はそのことを表している
 そのとき、μは接平面のU軸切片ですから、μが最低の状態であるのは確かですが、μは内部エネルギー曲面Ui(Si、Vi)の最低値ではない。またμ(単位質量あたりのG)は温度や圧力とともに変化する。これらのことからもμ(単位質量当たりのギブズの自由エネルギー)が単純な化学結合・分子間結合・水和結合などの結合エネルギーではないことは明らかです。[化学結合エネルギーに関係するものは、1.(2)1.の例で見た様に、体積変化を伴わない等温下での反応熱H−H0で表されるU”−U0です。]
 エネルギー(化学ポテンシャル×質量)の実態が何かを見極めるのはきわめて難しいが、エネルギーは本来ある基準状態からの差分として定義されている。だから、どのような化学変化(相変化)にも適用できて、いかようにでも解釈変更できるだろう。μは適用する現象に応じてさまざまに解釈でき、多成分系で物質量の変化が関わる現象ならどのようなものにでも適用できる概念です
 
 そのとき、dmの意味も柔軟にとらえなければならない。相変化の場合には、dmは一つの系内のある相から別な相へ変化した物質量を意味する場合もあれば、外界からその相へ新た持ち込まれた物質量を意味することもある。あるいは、化学反応の様に一つの化学種が別の化学種へ変化するときの化学反応の進行を表す量の意味となる場合もある。
 
 
 μは相(化学反応)平衡を表す部分以外のあらゆる単独相、単独化学種の状態部分へ拡張される。μは温度Tと圧力Pの関数であるが、系の状態の中のさらにそれぞれの相(化学種)の状態(T,P)が定まればそのときの相種(化学種)ごとに決まる。
 直接測定できない系の状態に付随する内部エネルギーUやエントロピーSが様々な方法により測定できたように、化学ポテンシャルμi(T,P)は何らかの方法で測定し決定する事ができる。
 UやSを用いて様々な有益な結論が得られたように、それぞれの相(化学種)の化学ポテンシャルμiが(T,P)の関数として知られていたならば、そのμi(T,P)を用いて様々な議論ができるであろう。
 今や、本質的な困難はμi(T,P)を求めることにある。これが物理化学の中心問題であって実測に基づいてのみ求められる。それを求める所に様々な熱力学関係式が関わってくる。具体的な求め方は別稿「電気化学ポテンシャルと熱力学第三法則(ネルンストの熱定理)」4.を参照されたし。

.化学ポテンシャルとギブスの自由エネルギー

 各相(化学種)の化学ポテンシャルは温度や圧力と共に変化する。どの様に変化するかは別稿「熱力学関数(状態方程式曲面)の性質」4.(1)2.で説明したU(S,V)曲面の各状態点に於ける接平面がU軸を切る点のU値を見ればよい。

 例えば、三相共存領域では、上記の灰色三角面の接平面がU軸を切る点の値slg(Tslg,Pslg)=μss+μll+μggであるし、二相共存領域(例えば液相-気相共存領域)ならば薄青色線の接平面がU軸を切る点の値slg(Tlg,Plg)=μll+μggである。そして単相で存在する領域(例えば気相領域のc点)ならば青紫領域c点での接平面がU軸を切る点の値g(Tg,Pg)=μggとなる。
 
 そして当然のことながら、系中の総質量をとすると三相共存領域ではM=ms+ml+mgであるし、液相−気相共存領域ではM=ml+mgであるし、気相領域ではM=mgとなる。
 
 さらに付け加えると、三相共存領域での温度T=Tslg、圧力P=Pslgとすると、その領域でμs(Tslg,Pslg)=μl(Tslg,Pslg)=μg(Tslg,Pslgとなる。ちなみに系を構成する物質が水の場合は(Tslg,Pslg)=(273.16K,611.73Pa)=(0.01℃,0.006atm)です。
 また、上図の二相共存領域a−bでの温度T=Tlg、圧力P=Plgとすると、その領域でμl(Tlg,Plg)=μg(Tlg,Plgとなる。二相共存領域がa’−b’の領域に遷移すると、平衡温度と圧力は温度T=T'lg、圧力P=P'lgに変化するが、その領域でμ'l(T'lg,P'lg)=μ'g(T'lg,P'lgとなる。
 このあたりは別稿「ファン・デル・ワールスの状態方程式」4.(3)で論じたところです。そこのgとgは1モル当たりのギブスの自由エネルギーであった。そこの議論をモルではなく単位質量当たりと考えても良いので、そのように解釈するとそれは化学ポテンシャルそのものを意味する。つまりそこの式でg(p,T)→μl(Tlg,Plg)、g(p,T)→μg(Tlg,Plg)と置き換え、さらにg(p+dp,T+dT)→μ'l(T'lg,P'lg)、g(p+dp,T+dT)→μ'g(T'lg,P'lg)と置き換えて見れば同じ事を言っていることが解る。そこのクラウジウス・クラペイロンの式のdp=P'lg−Plgであり、dT=T'lg−Tlgである。
 まったく同様に単相領域cの温度T=Tg、圧力P=Pgとすると、その状態点でμg(Tg,Pgとなる。
 
 つまり、多成分系の成分i化学ポテンシャルμiは前節の考察から明らかなように

となる。これは等温Tと定圧P下での定義であるが、これはμiが化学種iの単位物質量当たりのギブスの自由エネルギーに相当するものであることを表しているにすぎない。

 化学ポテンシャルとは、もともと別稿「ファン・デル・ワールスの状態方程式」4.(3)で論じた単位物質量(1モル当たり、あるいは単位質量当たり)のギブスの自由エネルギーのことです。これを二相平衡系以外の、あらゆる多成分系(相平衡、化学平衡、浸透圧平衡、・・・)のあらゆる相状態、あらゆる成分へ拡張適用できるとするのがギブズの考えです。
 そのとき、相のそれぞれ、成分のそれぞれが単独の系とみなされ、状態方程式曲面Ui(Si,Vi)曲面が存在し、その座標(Si,Vi)の各曲面上の点にギブズの自由エネルギーGiが割り振られている。それの単位物質量(1モル当たり、1g当たり、1分子当たり、・・・)の値が化学ポテンシャルμiです。そのとき、Ui(Si,Vi)曲面上の各点に割り振られたGi(Si,Vi)値[あるいはμi(Si,Vi)値]は、Ui(Si,Vi)曲面の(Si,Vi)に於ける接平面のU軸切片のU値[それを物質量で割った値がμi]であることを忘れないでください。

.エネルギー値

 実際の物質では無限の圧力をかけて圧縮しても体積をゼロとすることはできない。だから、下図中の座標軸の体積は、どこか基準状態の体積からの差分でしかない。座標値エントロピーもそういった意味である基準値(原点に取った状態)からの差分でしかない。座標点(V0,S0)におけるV0もS0も原点(V,S)=(0,0)における基準状態からのVやSの差分です。

 座標軸と同様に、内部エネルギーにしろギブズの自由エネルギーにしろ(あるいはヘルムホルツ自由エネルギーやエンタルピーも)、こういったエネルギー値はすべてある基準状態から測った差分で表されている。すなわち原点に於ける値からの差分です。上図の状態点(V0,S0)におけるU0も原点(V,S)=(0,0)におけるU値からの差分として決まっている相対値です。なぜなら(V0,S0)におけるU0は、原点に於けるU値に外界とやり取りしたエネルギー量の変分であるdU=TdS−PdVを積算してもとめたものですから。実際実験的にもそうして決めている。
 ギブズの自由エネルギーも当然のことながらU軸の存在する位置(V,S)=(0,0)のギブズの自由エネルギー値が基準になっている。前図の座標原点(V,S)=(0,0)に於けるU(S,V)曲面の接平面のU軸交点は、系が状態点(V,S)=(0,0)にあるときのギブズの自由エネルギーそのものです。系が外界と熱や仕事のやり取りをして座標点(V0,S0)に移動したときのギブズの自由エネルギーはUからTS−PVを差し引いたものですが、座標点(V0,S0)における接平面がU軸を切る所のエネルギー値です。上の図を振り返れば解るように、G=U−TS+PVは、基準の状態に於けるGとの差分を求める手順そのものだと言える。
 このことは、ヘルムホルツの自由エネルギーFやエンタルピーHについても同様です。
 この当たりのさらに立ち入った説明は別稿「電気化学ポテンシャルと熱力学第三法則(ネルンストの熱定理)」3.(4)[補足説明1〜3]のを参照されたし。

.ギブズ・デュエムの式

 化学ポテンシャルの定義から直ちに以下のことが言える。
 ます、その定義から

が言えるが、これと

の両辺をそれぞれ引き算すると

が成り立つ。これは相平衡(化学平衡)のときに限らず一般的に必ず成り立つ関係式で“ギブズ・デュエムの式”と呼ばれる。
 このとき、dT=0、dP=0の定温、定圧変化の場合には、Σmidμi=0となる。これは、表、1.(1)3.で最初に述べたΣμii=0を考慮すると、Σμidmi=0を表しているにすぎない。

 このとき、相変化の場合V=ΣVi=Σviiと表される。ここでViは相種iの体積、viは相種iの単位質量当たりの体積です。エントロピーについても同様でS=ΣSi=Σsiiと表される。ここでSiは相種iのエントロピー、siは相種iの単位質量当たりのエントロピーです。
 その場合には

となり、各相成分の単位質量当たりについて“ギブズ・デュエムの式”が成り立つ。つまり dμi=−sidT+vidP という単位質量についてのギブスの自由エネルギーの変分を表す式となる。

 これは、示強性変数T,P,μが互いに勝手に変わることができないという依存関係を示している。つまりμがT,Pの関数、しかもその二つの状態量のみの関数である事を表している
 もちろん外界とやり取りする仕事がPdVでは無くて電気的なEdqならばPの役割をEに変換しなければならないが、事情は同じです。
 これは、化学ポテンシャルの元々の導入の経緯とその定義[1.(1)参照]から出て来るもので、ある意味当然の結論です。

 

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2.相律

ここは、マックス・プランク著、芝亀吉訳「熱力学」岩波書店(1941年刊)の§197〜§204を参照しています。

)独立変数と条件式

.相と成分

 系が単一の一様な物質から成るとき、系はただ一つの相から成るという。系の中に一様な幾つかの部分が存在するときには、その一様な部分の個数の事を相の数という。一様というと言うとき純物質である必要はない。溶液の様なもの、多数の成分からなる固体(固溶体)のようなもの、混合気体のようなものでも一様であれば一つの相と考えられる。
 このとき、固相や液相は何種類もの相として共存しえるが、気相は唯一の気相しかあり得ない。なぜなら、二種の気体を互いに隣り合わせて二つの気体として取り扱うことはできないからです。
 例えば以下のものはいずれも二相からなる系の例ですが、注意事項を幾つか補足する。

 一つの相は一般に幾つかの化学物質(化合物)の混合物から成り、相の一様性は化学物質の組成が変わっても保持され化学物質の相対濃度は変化し得る。
 ここで、個の“相”(phase)個の“独立成分”(component)からなる系を考える。ik相iに存在する成分kの質量とする。各成分の各相への分配は下記の記号で記述される。

 ここでは、議論を簡単にするために独立成分のおのおのがすべての相に含まれているとしている。そして、特別の場合には特定の成分の量が無限小に成り得ると考える。
 もし、成分kが相iに存在しない場合にはmik=0であり、独立変数が一つ減るが、以下で説明するように条件式も一つ減ることになり、以下の議論の自由度の数は変化しない。

.ギブズの自由エネルギー

 前章の議論で明らかに成ったように、与えられた温度と圧力の元で、多相系が平衡状態にある条件はギブズの自由エネルギーGが一定値(最小)に成ることでした。この条件から上記の量の間に一定の関係ができる。ギブズの自由エネルギーGは各相のギブズの自由エネルギーGi(i=1〜p)の和に等しいので

となる。関数GiはT,P,およびi相中の各成分の質量mi1,mi2,・・・,micに依存する。変数としてT,PではなくてT,Viにしても良いにも関わらず、体積Viではなくて圧力Pにしたのは平衡状態に於いてPはあらゆる相に共通であり、そのため一層簡単に測定できるからです。

 このとき、相のエントロピーをSi、体積をViとすれば

が成り立つ。このとき、Gi、Ui、Si、Viは、TとPとmi1〜micによって完全決定せられる。これらの諸関数は量mi1〜micがx倍に成れば、すべてがx倍に成るだけです。なぜなら、Gi、Si、Ui、Viはすべてそういった意味の示量性の量だからです。
 この関数Giの形は、i相の固有の性質mi1〜micとTとPに依存するが、ギブズの自由エネルギーの元々の定義[1.(1)参照]から明らかなようにGiはc個の変数mi1,mi2,・・・,micの一次同次関数です。すなわち

となる。そのため、これを任意のmikで偏微分したものは

の関係にある。
 すべてのmik(k=1〜c)が一様な培率で増加したとき、左辺の分母と分子は同じ割合で変わるので、化学ポテンシャルμは相の内部状態、つまりmik(k=1〜c)の相対的な比率のみで定まり、各相の全質量(Mi[2.(2)1.参照])には無関係となる。相について成り立つ事柄は他の相についても当然言える。

.条件式

 与えられた温度と圧力に於いて系が平衡状態にあるときには、温度、圧力一定の元で系全体が外界と熱と仕事のやり取りをして相間の成分変更が生じてもギブズの自由エネルギーGは変化しない。そのため

となる。
 ここで、もし各質量の変分がまったく任意であるならば、変分の係数のことごとくが0に等しい場合のみこの方程式が満たされる。しかし、実際には質量mikに関して

成るc個の条件が存在する。
 この1〜Mcは各成分の全質量で、定まった値です。故に変分δmik

なる条件を満足しなければ成らない。そのため、前記の式がゼロになるために、変分の係数がことごとく0に成る必要は無く、以下の関係式が成り立つことが必要かつ十分な条件となる。すなわち

なる、全部でc(p−1)個の条件式が成り立てばよい。この条件式は、2.(1)2.で述べたように相の内部的性質(mi1〜micの比率)のみに関係して、各成分の全質量Mk(k=1〜c)には無関係です。
 このとき、ある一つの成分に関する同一の行にある関係式の順番を任意に変えてもよいので、次の事が言える。
 一つの相がある一成分に関して他の二相と平衡にあれば、その両相もこの成分に関して互いに平衡にある。このとき、以前述べた様に平衡にある系はたかだか一種の気相しか持ち得ないので、多数の固相や液相が気相と共存している場合には、気相の蒸気を仲介にして固相、液相間の平衡を論じることができる。

.条件方程式の解

 以上の説明から解るように、相平衡の状態は

(cp+2)個の変数によって記述される。
 そのとき、これらの変数に対して成り立つ条件方程式は

cp個です。
 そのため、cp個の方程式を解けば、(cp+2)個の変数の内で最後まで決定する事のできない変数は2個となる。つまり、他の変数はその2個の変数の関数として表される(方程式が解ける)ことになる。これは、“Duhemの定理”(Pierre Duhem)と呼ばれることもあるようです。

[補足説明1]
 最後まで不定の変数としては、一般に温度と圧力が選ばれる。なぜなら、ここで考えているような相変化や化学反応の平衡は、外界と熱や仕事をやり取りする中で決定され、それらのやり取りをつかさどる変数が温度と圧力だからです。
 実際、温度と圧力を定めて初めて、相平衡状態が確定する。

[補足説明2]
 上記以外に、条件方程式として系の全体積全エネルギーなどを指定する条件方程式を付け加えると、上記の不定変数の数は1個→0個と減っていく。不定変数が0個と言うことは、系の平衡状態はある定まった温度と圧力においてのみ実現されると言うことです。

 

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(2)ギブズの相律

 前項で述べた系の状態を定める(cp+2)個の変数を相の内部的な性質に関係するもの(内部的な変数)と、相の全質量を定めるもの(外部的な変数)に分けて考察すると、前節の結論を別な見方で解釈する事ができる。

.ギブズの発見

 まず、[相平衡を記述する変数][内部変数][外部変数]に分けて考えてみる。

 [内部変数]は、p個の相の各々に於けるc個の独立成分の間の(c−1)の比、つまり前述の配列

p個の縦列の比[相i(i=1〜p)中に含まれる成分mi1,mi2,・・・,micの比で(c−1)個ある]温度T圧力Pを加えた{(c−1)p+2}個です。

 一方、[外部変数]は各相ごとの全質量を表す下記のp個の変数1’〜Mp

です。そのときもちろん、内部変数外部変数を合わせると{(c−1)p+2}+p=cp+2となり前節の総変数の数に一致します。

 一方、[相平衡を規定する条件方程式][内部条件方程式][外部条件方程式]に分けて考えることができる。

 [内部条件方程式]としては、当然のことですが前述の

c(p−1)個の関係式が存在する。

 一方、[外部条件方程式]としては、今度の場合は前述の1〜Mcについて成り立つc個ではなくて、1’〜Mpについて成り立つp個となる。すなわち

です。

 ところで、2.(1)2.で述べたように化学ポテンシャルμは相の内部状態、つまりmik(k=1〜c)の相対的な比率のみで定まり、各相の全質量M1’〜Mp’には無関係でした。
 ならば、[外部変数]であるp個のM1’〜Mpのみに関係する。[外部条件方程式]p個は考えなくても良いであろう。
 つまり、内部的な相の存在状態を考えるときには、p個の変数1’〜Mpを、系を記述する[独立変数]からも、[条件方程式]からも除いてしまえる。これは大発見です。

.ギブズの相律

 そのとき、{(c−1)p+2}個内部変数に対してc(p−1)個条件式しかありませんので内部変数の内の

個が不定のままになる。物理的状況から考えて、この数fが負に成ることはなく必ず0以上の正の値です。つまり、2+c≧pですから、「存在できる“相”(phase)の数“独立成分”(component)の数よりたかだか2個多いだけである。」あるいは「c個の“独立成分”(component)を有する系はたかだか(c+2)個の“相”(phase)を形成し得る。」
 上記の“自由度”(reedom)と呼び以下の様に書かれることが多い。

これはギブズによって初めて唱えられた関係式で、相律”(phase rule)と言われる。

 この法則はオランダの化学者Hendrik Willem Bakhuis Roozeboomによる広範な実験的な証明を有している。そして、逆にこの相律を満たしていなければならいことを利用して様々な結論が導ける。[3.(4)2.など参照

 

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(3)相平衡を記述する言葉

 少しくどいのですが、言葉の意味をもう一度確認します。

.相(phase)

 “相”[phaseは、“外観”を意味するギリシャ語に由来]とは、物質の集合体に於いて、化学的・物理的に均質で、他の部分とは明瞭な境界で区切られている領域部分を意味する。一つの化学系のなかで実現している相の数を“相数”pと言う。

[補足説明1]
 一つの相を成している部分は他の相の部分から何らかの方法で分離し取り出すことができますが、一続きの連続体を成しているとは限りません。
 例えば上層大気には微少な氷晶、水滴、水蒸気が混じり合っている領域があります。この場合は氷結晶からなる固相と水滴からなる液相と、水蒸気・窒素ガス・酸素ガスの混合物からなる気相の三相からなる系ですが、固相や液相は微粒子となって気相の中に分散している。一般的な相の存在状態は、このように微細な相領域が互いに混じり合っている場合が多い。
 別稿「蒸気動力サイクル」3.(2)で説明した“湿り蒸気”などもそういった例ですし、岩石や金属合金では多相がそういった状況で存在する場合が多い。
 また、3.(2)2.の相平衡CaCO3(固)←→CaO(固)+CO2(気)のように、二種類の固相を見極めるのが難しい場合もあります。
 同じ化学組成の固相でも結晶構造が変わることにより化学組成の分率が変わって別の相と見なされる。[3.(1)3.3.(2)3.の複塩、3.(2)2.のCuSO4水和物など参照]

.成分(component)

 一つの化学系が平衡状態にあるとき、存在する全ての相の化学組成を表現するのに必要十分な、独立に変化させうる化学成分で特徴付けられる部分を“成分”という。一つの化学系が平衡状態にあるとき、存在する全ての相を表現するのに必要な成分の数を“成分数”cという。
 “独立に変化させうる”という但し書きは重要です。例えば、二種類の気体が混合して一つの気体相をなしているとき、相の状態が変わった(例えば温度や圧力が変化した)からと言って相を構成する気体の比率が変わらない場合は、気体は二種類でも成分は1となります。[3.(2)1.NH4Cl解離平衡など参照]
 同じことですが、完全に混じりあった二種類の液体や、一つの溶媒中の二種類の溶質でも、相変化に伴ってその組成が変わらなければ、たとえ二種類の化学物質でも成分は1です。

[補足説明2]
 例えば、「ファン・デル・ワールスの状態方程式」3.(2)の水と水蒸気からなる“二相共存領域”では、すべての相の化学組成はH2Oで表せますから、成分の数はc=1(H2O)です。
 食塩が析出している飽和食塩水では食塩水溶液と析出食塩結晶の二つの相がありますが、成分は水(H2O)とNaClの二つc=2です。このとき、溶液中でNa+とCl-に電離しているがNaとClの割合は相変化しても変わりませんのでNaClで一つの成分です。このことはすでに注意しました
 3.(2)2.のCaCO3の解離平衡の様に三種類の物質の二種類のみが成分数として数えられ、その二つをどれにしても良いような場合もあります。
 成分の種類はある程度任意な選択にゆだねられるが、成分数は与えられた系について常にハッキリ決まる。

.自由度(freedom)

 一つの化学系の中で、存在する相の状況を変えること無しに、独立に変えることができる状態変数の数を“自由度”fと言う。

[補足説明3]
 状態変数とは物質量(質量)に無関係な変数で温度、圧力、成分組成などのことです。
 気相を含む相平衡に於いて圧力は重要です。このとき、体積を変数とすることもできるが、相平衡を考えるときには全体としての体積の変化は圧力の変化で代表させることができるので、これを取り上げる事は少ない。
 気相を含まない液相・固相の相変化に限られる金属合金や溶液の問題では圧力をほとんど考慮しなくても良くなる。もちろん相律の理論から言って影響しないはずはないのですが、見かけ上ほとんど影響しないように取り扱える。そのような問題では温度組成が考慮すべき自由度となる。その様に圧力自由度を省略して議論している文献もありますので、相律としての自由度を確認するときには注意が必要です。
 もちろん、超高圧下における岩石の相変化、超高圧下に於ける金属合金、ダイヤモンド合成などを取り扱う場合には、この二つに加えて圧力が重要になる。

 

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3.相律の例

 相律の例については注意深い考察が必要です。ここは、マックス・プランク著、芝亀吉訳「熱力学」岩波書店(1941年刊)の§205〜§209を参照しています。また具体例の相図は吉岡甲子郎著「化学OnePoint6 相律と状態図」共立出版(1984年刊)より引用しています。特に第5章二成分系の固相−液相平衡と第7章三成分系の相平衡は、そのまま引用していますので参照されてください。

)自由度f=0 (p=c+2)

 最初に自由度がゼロのp=c+2の場合を考察する。この場合には内部変数はことごとく定まり、それらの諸変数はp=c+2重点を形作る。外部条件を変えることによっては、例えば熱を加えるとか圧縮するとか、または物質を添加するとかによっては各相の全質量1’〜Mp外部変数)が変えられるのみで、その内部的変数は変えられない。

.成分数c=1 (相数p=3)

 代表的なのが、[水](c=1)の“三重点”の場合です。(T,P)=(273.16K,611.73Pa)=(0.01℃,0.0006atm)に於いて[氷]、[水]、[水蒸気]の三相(p=3)が共存できるが、そのときの温度、圧力は一つの値に定まり自由度f=0となる。

[補足説明]
 1900年にGustav Tammannは超高圧下に於ける水の相平衡を研究して、普通の氷とは結晶構造が異なる数種類の氷が存在する事を発見した。普通の氷Tの融点は圧縮により降下して行き、2040気圧で-22.0℃となる。さらに圧縮すると氷Tは別の結晶構造の氷Vとなる。氷Vの融点は圧力とともに上昇する。[上右図参照]

 [二酸化炭素]のみを容器に詰めた系に於いても三相が共存する領域は温度、圧力が確定している。

 固体・液体・気体で三相に分かれるとは限らない。(T,P)=(155℃,1.3×103atm)に於ける[硫黄]の様に[単斜イオウ(固相)]、[斜方イオウ(固相)]、[液体イオウ]の三相が接する様な場合もある。イオウの三重点をすべて図示すると下記の様になる。単斜イオウの密度は斜方イオウより小さい。そのため斜方→単斜の転移温度は圧力の増大とともに上昇する。

 図に実線で表された安定平衡の他に、幾つかの準安定平衡が容易に観測される。斜方イオウが急速に加熱されると点移点Dを変化なしに素通りし、114℃(E点)で融解して液体イオウになる。曲線O43は過冷却液体イオウの準安定蒸気圧曲線です。準安定斜方イオウの融点曲線はO4からO3に延びている。点O4は斜方イオウ・液体イオウ・気体イオウの準安定三重点です。

 下右図は1963年にF.P.Bundyが提案した炭素の相図です。三重点Oは(T,P)=(4100K,1.23×105atm)付近にある。

 黒鉛からダイヤモンドを人工的に合成することに初めて成功(1955年)したのはジェネラル・エレクトリック社で、相図の斜線領域を(タルタンやコバルトの金属触媒とともに)利用する方法であった。下図は黒鉛中で触媒に覆われた合成ダイヤモンドの写真。

 なお、触媒なしでダイヤモンド合成に成功したのはBundy(1963年)で、温度3000〜4000K、圧力1.2×105atm以上の領域においてであった。
 
[補足説明]
 6×105〜7×105atm以上の圧力では、密度が15〜20%高い金属的な固相Vに転移すると推測されている。その点にも三重点Cが存在します。

 

.成分数c=2 (相数p=4)

 [水]、[二酸化イオウ]の二成分系は、(T,P)=(12.1℃,1773mmHg)に於いて“四重点”となる。すなわち[固相SO2・7H2O]、[SO2の水溶液]、[液体SO2]、[気体SO2の四相が共存する。このとき2.(1)1.で補足説明したように、SO2が水溶液中で水化物を作っているか否かという問題は、成分数にはまったく関係しない。

 [H2O]、[NaCl]の二成分系に於いて、[固相食塩]、[氷]、[食塩水溶液]、[水蒸気]の四相が共存する四重点もその一例です。

 

.成分数c=3 (相数p=5)

 [Na2SO4]、[MgSO4]、[H2O]の三成分系は、(T,P)=(21.5℃,約10mmHg)に於いて“五重点”となる。すなわち[複塩アストラカナイトNa2Mg(SO42・4H2O]、[単結晶Na2SO4]、[単結晶MgSO4]、[Na2SO4とMgSO4が溶けた水溶液]、[水蒸気]の五相が共存する。
 
[補足説明]
 三成分系の相状態を図示するには工夫が必要です。吉岡甲子郎著「相律と状態図」第7章三成分系の相平衡7.1を参照されたし。

 

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(2)自由度f=1 (p=c+1)

 この場合には、相の内部的性質はただ一つの変数、例えば[温度]または[圧力]によって完全に決定される。

.成分数c=1 (相数p=2)

 一つの成分が二つの相として共存する場合です。代表的なのが、[水](c=1)の飽和蒸気圧曲線領域(液体と気体の共存)、融解曲線領域(固体と液体の共存)、昇華曲線領域(固体と気体の共存)です。これらの状況では内部的性質(圧力や密度など)はただ一つの変数[温度]が定まれば決まる。[前節の水、CO2、硫黄の相図参照]

 [硫黄][単斜イオウ]から[斜方イオウ]への転移曲線領域も二つの結晶状態(p=2)が共存する例です。この場合も転移共存圧力は[温度]のみの関数となる。
 その他、[硫黄]飽和蒸気圧曲線領域(液体と気体の共存)、融解曲線領域(固体と液体の共存)、昇華曲線領域(固体と気体の共存)でも転移共存圧力は[温度]のみの関数となる。

 化学的分解を伴う気化もこの例です。例えば[NH4Cl][固体の塩化アンモニウム]は分解したHCl(塩化水素ガス)とNH3(アンモニアガス)からなる[気体相]と共存しますが、一成分・二相系と考えることができる。各[温度]に対して定まった解離圧Pが対応する。このとき、HClとNH3の組成比は相変化しても変わりませんので一成分と見なせます。
 
[補足説明]
 ホルストマンは1869年の論文「蒸気圧とロシャ(塩化アンモニウム)の気化熱」で、この解離反応を取り上げた。彼は、この解離化学反応が一成分・二相系の氷−水蒸気の昇華平衡と同じであると見なして熱力学の成果を利用したのです。この昇華平衡にクラウジウス・クラペイロンの式を適用して、解離圧Pの温度依存性から昇華熱を計算して、その結果を実験と比較した。そして昇華熱はアンモニアと塩化水素の化合熱にほぼ等しいことを確かめた。これは、それまで熱機関にしか応用できないと思われていた熱力学を化学に応用した最初の例です。

 

.成分数c=2 (相数p=3)

《二種の固相》《気相》(蒸気)の三相平衡の場合。

 二種類の[固相A][固相B]がまったく溶け合わず、[固相A][固相B][両者の蒸気]が平衡関係にある場合。下図の相図の赤色ラインの状況が該当する平衡状態です。[温度]が与えられれば、平衡が生じる[圧力]と[蒸気の組成]が定まる。一方、[圧力]が与えられれば、平衡が生じる[温度]と[蒸気の組成]が定まる。

次も同じ《二種の固相》《気相》(蒸気)の場合だが、一種目の固相が蒸気と反応して二種目の化合物固相をつくって三相が平衡する場合です。

 [固体CaO][気体CO2は、CaCO3(固)←→CaO(固)+CO2(気)の平衡状態で[CaCO3結晶][CaO結晶][気体CO2の三相が共存する。
 このときの解離圧は[温度]のみの関数となる。例えばCO2を700℃のCaOに加えると、CO2圧力が25mmHgに達するまで気体の吸収は起こらない。この圧力を超えるとCaOはCO2を吸収して、完全にCaCO3に変化するまで圧力は一定に保たれる。[詳細は別稿「平衡状態の熱力学(気体の化学反応)」3.(3)6.参照
 すなわち自由度は1です。だから成分数は3ではなくて2なのです。この例では、CaCO3、CaO、CO2の内のどの二つを独立成分としても良い。
 ところで、前項の塩化アンモニウムNH4Clの解離平衡の場合は成分数1であったことに注意されたし。

 [CuSO4]、[水]の二成分系で、[水和物結晶CuSO4・5H2O]〜[無水物結晶CuSO4]の内の二種類と[水蒸気]の三相が共存する場合に自由度は1となる。
 ところが、[水和物結晶CuSO4・5H2O]〜[無水物結晶CuSO4]の内の一種類と[水蒸気]が共存して二相を成すときには自由度は2となり、温度が定まっても水蒸気圧はある範囲の値を取り得る。
 実際の相平衡の様子はこちらを参照、あるいはムーア物化も参照されたし。

 十水和物結晶Na2SO4・10H2Oを空気中に放置すると、[十水和物結晶Na2SO4・10H2O]、[無水結晶Na2SO4]、[水蒸気]の三相が共存する二成分・三相系の相平衡となる。[Na2SO4[水]が二成分をなす。このとき自由度は1であり、成分組成は確定しているので[温度]が定まれば[水蒸気圧]は確定する。
 
[補足説明]
 この場合、温度25℃での蒸気圧は19.2mmHgとなります。これは同じ温度で湿度80.7%の大気に含まれる水蒸気の分圧に等しい。つまり湿度80.7%以下の大気中では、十水和物結晶Na2SO4・10H2Oは水和水を失って崩壊していく。これを“風解”(efflorescenceという。つまり、系の解離圧よりも大気中の水蒸気圧が低い場合に、水和物が水を失い、その表面が低水和物または無水物に成っていく現象です。
 ちなみに硫酸銅・五水和物の水蒸気圧は25℃で7.85mmHgに過ぎないので、湿度33%以上の大気中に放置しても風解は起こりません。

《固相》《液相》(溶液)、《気相》(蒸気)の三相平衡の場合。

 [塩]、[水]の二成分系に於いて、[固相塩]、[塩水溶液]、[水蒸気]の三相が共存する状態。この場合[蒸気圧]と各相に於ける[密度と濃度]は[温度]のみの関数となる。
 例えば、[CuSO4]、[水]の二成分系に於いて、[固相CuSO4・5H2O結晶]、[CuSO4水溶液]、[水蒸気]の三相が共存する状態。
 
[補足説明]
 このときCuSO4は水中でCu2+とSO42-に電離していますが、相変化してもその各相中の成分比は変わりませんのでCuSO4として一つの成分と見なせます。

 塩化カルシウムCaCl2を空気中に放置すると、CaCl2は空気中の水分を吸収してその表面に飽和水溶液が生じる。そして、[固体CaCl2]、[CaCl2の飽和水溶液]、[水蒸気]の三相が共存する二成分・三相系の相平衡となる。[CaCl2[水]が二成分をなす。このとき自由度は1であり、成分組成は確定しているので[温度]が定まれば[水蒸気圧]は確定する。
 
[補足説明]
 この場合、温度20℃での蒸気圧は7.5mmHgとなります。これは同じ温度で湿度43%の大気に含まれる水蒸気の分圧に等しい。ゆえに塩化カルシウムは湿度43%以上の大気中で水分を吸収して溶解していく。これを“潮解”(deliquescence)という。つまり、系の飽和水溶液の蒸気圧よりも大気の水蒸気圧の方が高い場合、結晶の表面が飽和水溶液の層で覆われてしまう現象です。
 塩化カルシウムの場合は発熱反応で、さらに水溶液の凝固点を低くする効果があります。これが、冬季に路面の凍結防止剤として利用されたり、夏季にグランドにまいて土を湿らせて土埃を防止するのに用いられる理由です。 

《二種の液相》《気相》(混合蒸気)の場合。

 まったく溶け合わない二つの液体と気相が共存する場合。例えば゜、[ブロモベンゼン][水]はほとんど溶け合うことが無くて、その蒸気相と二成分・三相系が形成できる。[ブロモベンゼン(液)][水(液)][プロモベンゼンと水の混合蒸気]の三相が共存する状態は自由度1だから、[圧力]を確定すれば、特定の[温度]でのみ、特定の[濃度比]の蒸気相が二液相と共存できる。あるいは[温度]を定めると[蒸気の組成]と[圧力]が定まった平衡系となる。
 
[補足説明]
 この例では、95.3℃でブロモベンゼンの蒸気圧は120mmHg、水の蒸気圧は640mmHgで、その和は760mmHg(=1atm)となる。つまり、ブロモベンゼンに水蒸気を通じて蒸溜すると95.6℃で沸騰して留出する事ができる。これは沸点の高い物質(ブロモベンゼンの沸点156℃)を分解のおそれのない100℃以下で蒸溜できることを示している。このような化学的手法を“水蒸気蒸溜”という。

 [エーテル][水]の様に、互いに少しは溶け合うが完全に混じり合あうことはなくて、[二相に分離している液体]が、その[共通の蒸気]と共存する場合。このとき[蒸気圧]と[液相の濃度比]は[温度]のみの関数となる。あるいは[圧力]を確定すれば、特定の[温度]で特定の[濃度比]でのみ存在できる。
 
[補足説明]
 言葉だけでは解りにくいので、[水][ブタノール]系の相図で説明する。図中のA−E−Bラインが二成分・三相共存領域を表している。

《二種の固相》《一種の液相》から成る場合。

 二成分が固相でまったく溶け合わないが、液相では任意の割合で溶け合う場合です。溶液の温度が下がり、溶液の中から二成分のそれぞれの結晶が混ざった共晶が析出し始める“共晶点”(共融点)の状態では、[圧力]を決めると、[温度]と[組成]が確定するので自由度は1となります。
 身近な例が、気相が生じない状況下(圧力下)での[H2O]、[NaCl]二成分系に於いて、[塩の水溶液]から、[氷][塩結晶]が同時に析出する場合です。
 [H2O]、[NH4Cl]二成分系で、[塩の水溶液]から、[氷][NH4Cl結晶]が同時に析出します。同様な例はいくらでもあります。幾つかの例を「ムーア新物理化学」から引用しておきます。

 
[補足説明]
 この場合、塩の結晶として水和物結晶を同時に生じる場合があるので、固相が[氷]と[塩結晶]の二相だけなのか注意が必要です。
 
[補足説明]
 固体−液体の相平衡では、圧力の変化は温度と組成の変化にあまり影響しない。そのため圧力の自由度を無視して見かけ上自由度を0とすることもできる。しかし、相律から言うと圧力は省略できず本来の自由度は1です。
 
[補足説明]
 二成分系の固相−液相相平衡は最も多く研究されており、重要な例がたくさんあります。
吉岡甲子郎著「相律と状態図」第5章二成分系の固相−液相平衡 を引用しておきますので、この中の自由度が1(二成分・三相平衡)の例を参照されてください。
 なお、この文献では、固相−液相平衡に於いて圧力の影響は少ないので、圧力の自由度を無視して、見かけ上の自由度を→1→0として議論していることに注意。

《二種の液相》《一種の固相》から成る場合。

 気相が生じない圧力下で、[臭化砒素][水]の様に互いに接触している[二つ液相]から[固体沈殿]を生じる場合。

 

.成分数c=3 (相数p=4)

 気相が生じない圧力下で、複塩を作り得る二種類の[塩A]、[塩B][水]から[塩AとBが溶けた水溶液]、[Aの結晶]、[Bの結晶]、[AとBの複塩結晶]の四相が共存する場合。
 
[補足説明]
 具体的な例については、吉岡甲子郎著「相律と状態図」第7章三成分系の相平衡を参照されたし。

 

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(3)自由度f=2 (p=c)

 この場合には、あらゆる相の内部的性質は2個の変数、例えば[温度]および[圧力]に関係する。

.成分数c=1 (相数p=1)

 均質な状態にあるあらゆる物質。例えば理想気体の(P,V,T)状態方程式曲面などを思い出されたし。
 [温度]、[圧力]、[体積]などの状態変数のうち二つ(例えば体積と温度)を決めてはじめて残りの変数(例えば圧力)が確定した。これが自由度が2ということの意味です。
 ただし、この場合外部的変数の全体積などは変化するが、内部的変数の相間の体積比や、相成分の組成比などは存在しないので、相律の例としてここで取り上げても全く意味がない。

 

.成分数c=2 (相数p=2)

二成分が完全に溶け合った《一種の固相》《気相》から成る場合。

二種類の[固相A][固相B]があらゆる割合で溶け合う場合。[AとBの固容体][両者の蒸気]が平衡関係にある場合。下図の相図の桃色着色領域が該当する平衡状態で、[温度][圧力]が与えられれば[蒸気と固容体の組成]が定まる。

二成分が完全に溶け合った溶液である《一種の液相》《気相》(蒸気)から成る場合。

 [塩][溶媒]から成る系で、[塩の溶液][その蒸気]が接触している場合。[温度][圧力]によって溶液と蒸気に於ける塩の濃度が決まる。

 二個の独立変数として、[温度][圧力]の変わりに、[圧力][溶液の濃度]が用いられる場合もある。
 例えば、[溶質液][溶媒液]からなる系に於いて、[任意に選ばれた溶質濃度]の一溶液は[任意に選ばれた圧力]に於いて、定まった温度の沸点を有し、その沸点では定まった組成の[蒸気]を出して[溶液]と相平衡をなす。
 
[補足説明]
 この蒸気を冷却凝縮させて溜下させて、これを再び一定圧力の元で沸騰させると溜下した溶液の組成変化に応じて沸点が異なる別の組成の蒸気が発生する。これを冷却凝縮して次の蒸溜原液とする。以下同様な操作を繰り返して溶液をその成分液体に分ける操作を“分留”という。
 言葉だけでは解りにくいので[二流化炭素][ベンゼン]系の相図を用いて説明する。

 二個の独立変数として、[温度][圧力]の変わりに、[温度][溶液の濃度]を選ぶ場合もある。
 例えば、[溶質][溶媒]からなる系に於いて、[任意に選ばれた濃度]の一溶液は[任意に選ばれた温度]に於いて、定まった組成と定まった圧力の[蒸気]を出して[溶液]と相平衡を成す。
 
[補足説明]
 希薄溶液で、溶質が揮発しない場合には、溶質濃度に比例して蒸気圧が下がる(沸点上昇)ことが知られている。これは1886年にRaoultにより経験的に見つけられたもので“ラウールの法則”と呼ばれている。すぐその後にvan't Hoffによって熱力学的に証明された。
 また、気体の溶解に於いて、液体の蒸気圧が気相の圧力に比べて無視できるほど小さい場合には、液体に吸収される気体の量は液体上の気体の分圧に比例する。そのとき比例定数は温度のみに依存する。これがよく知られている“ヘンリーの法則”(1803年 William Henryによる)です。

溶液から析出した《一種の固相》と元溶液の《一種の液相》から成る場合。

 最も身近な例が、[H2O]、[NaCl]の二成分系で、[食塩結晶]が析出している[飽和食塩水]です。[温度][圧力]が決まれば飽和食塩水のNaCl濃度が決まる。[圧力]を定めたとき、[温度]とともに[飽和溶液の濃度]が変化する様子を表すグラフが“溶解度曲線”です。

 
[補足説明]
 二成分系の固相−液相相平衡は最も多く研究されており、重要な例がたくさんあります。
吉岡甲子郎著「相律と状態図」第5章二成分系の固相−液相平衡 を引用しておきますので、この中の自由度が2(二成分・二相平衡)の例を参照されてください。
 なお、この文献では、固相−液相平衡に於いて圧力の影響は少ないので、圧力の自由度を無視して、見かけ上の自由度を→1→0として議論しているので注意。

 二個の独立変数として、[温度][圧力]の変わりに、[圧力][溶液の濃度]が用いられる例で、第二の相が気相ではなく固相となった場合。
 [溶質][溶媒]からなる二成分系で、[任意に選ばれた溶質濃度]の一溶液は[任意に選ばれた圧力]に於いて、定まった温度の凝固点を有し、その凝固点では定まった組成の[固体]を析出して[溶液]と相平衡をなす。
 
[補足説明]
 不揮発性溶質を溶かした溶媒の凝固点が溶質濃度にの増大と共に下がってくる“凝固点降下”もこの一例です。これは上に述べた溶解度変化の見方を変えただけで、“凝固点降下曲線”“溶解度曲線”と同じ現象の単なる異なった名称です。

二成分の液体が《二種の液相》として共存する場合。互いに溶け合うが二液に分離している場合です。

 互いに溶け合うが二層に分離した[二種類の液体]の、[二層に分離した溶液相]のお互いの濃度は[温度][圧力]によって決まる。つまり[温度]と[圧力]の両方を決めないとそれぞれの液相の[濃度]は決まらない。
 
[補足説明]
 下記具体例の相図を参照されたし。図中の桃色着色領域が二成分・二相系が実現されている領域です。その領域では[温度]、[圧力]、[組成比]の内二つを決めないと残り一つが決定されない。それが自由度が2と言う意味です。例えば[水]−[フェノール]系における相図の低温域や、[ヘキサン]系−[メタノール]系における相図の低温域では、[圧力]と[温度]の両方を定めて初めて二液の成分が確定する。

 

.成分数c=3 (相数p=3)

 具体的な例については、吉岡甲子郎著「相律と状態図」第7章三成分系の相平衡を参照されたし。

 

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(4)自由度f=3 (p=c−1)

 この場合、すべての相の内部的性質は[温度][圧力]の他に任意に選び得る[第三の変数(組成比など)]に依存する。このとき、成分数c=1の場合は相数p=0となるので存在しない。

.成分数c=2 (総数p=1)

 c=2、p=1に於ける自由度3とは、例えば[水]−[フェノール]系の相図で67℃以上の領域[温度][圧力][組成]の三つを自由に変えても存在できることを表していると思うかもしれない。しかし、完全に混合していて、内部的にその組成比を変えることができない場合は例え二種の化学物質であっても一成分として数えるのでした。だから、あえて言えば一成分・一相の領域です。
 ただ一つの相では成分の比率を内部的に変化させることはできないのですから、それはただ単に存在できると言うだけで、相律の例としては無意味です。

[補足説明]
 プランクは、彼の「熱力学」§262で、この例として電解質の電離平衡(オストワルドの希釈律)を論じているのですが、これが本当に相律のこの場合に相当するのか良く解りません。

 

.成分数c=3 (相数p=2)

 [水]に同形(同じ結晶構造を持つ)物質[KClO3(塩素酸カリウム)][TlClO3(塩素酸タリウム)]が溶けた[水溶液]が、[ただ一つの相をなす混合結晶]と接している場合。[一定圧力(1atm)][一定温度]の元でも混合結晶の組成次第で飽和溶液の濃度は異なったものとなる。そのために二物質の一定組成を有する飽和溶液ということが言われない。つまり混合溶液の溶質組成比が第三の変数の[混合結晶の組成比]に依存する。
 
[補足説明]
 このとき、上記の混合結晶以外に他の性質を有する第二の混合結晶が析出する場合に初めて系の内部的性質が温度と圧力のみによって決定される。その場合は自由度f=2となる。
 この様な場合は、一定温度一定圧力に於ける水溶液の濃度が完全に一定であるか否かに従って、析出した固相が一相なのか二相なのかを判定することができる。
 
[補足説明]
 具体的な例については、吉岡甲子郎著「相律と状態図」第7章三成分系の相平衡7.4が関係すると思うのですが、私には今ひとつ良く理解できていません。
 またプランクは「熱力学」§277でも、この例を論じているのですが、それが本当に相律のこの場合に相当するのか良く解りません。

 

(5)自由度f=4 (p=c−2)

1.成分数c=3 (相数p=1)

 プランクは、「熱力学」§275において、この例を論じているのですが、これが本当に相律のこの場合に相当するのか良く解りません。相律の議論は本当に奥が深く私には難しい。

 

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4.参考文献

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