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連星パルサーの発見と重力波の存在

 クリフォード・M・ウィル著(松田卓也、二間瀬敏史訳)「アインシュタインは正しかったか?}第10章から引用して説明します。ただし、かなり改変しています。元原稿はこちらをご覧下さい。
 引用文献の文字サイズを本文の文字サイズに調整したバージョンはこちらです。

1.中性子星の発見

)パルサーの発見(1967年11月)

(文献1.p202より)

補足説明1 (文献2.p110〜112より)
(Susan Jocelyn Bell Burnell、旧姓:Susan Jocelyn Bell、1943年- )と、その指導教官アントニー・ヒューイッシュ(Antony Hewish、1924-)


 上図アンテナの別角度からの写真。ちなみに、上記のパルサーは後に PSR B1919+21 と命名される。これは赤経19時19分、赤緯+21°の位置にある事を意味する。

ジョスリン・ベル自身によるパルサー発見の話が下記URLにある。
http://www.bigear.org/CSMO/HTML/CS01/cs01all.htm#cs01p16

Hewish, A.; Bell, S. J.; Pilkington, J. D. H.; Scott, P. F.; Collins, R. A. ; “Observation of a Rapidly Pulsating Radio Source”. Nature 217, p709〜713, 1968年.
Pilkington, J. D. H.; Hewish, A.; Bell, S. J.; Cole, T. W. ; “Observations of some further Pulsed Radio Sources”. Nature 218, 1968年.

補足説明2 パルス発生のメカニズム(文献2.p112〜114より、少し改変)

 

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(2)アレシボ電波望遠鏡

(文献2.p114〜117より、少し改変)


 アレシボ電波望遠鏡は1963年に完成した。観測波長は3cm〜1mです。
 反射球面の直径は305mで、受信機の高さは150mと言うことです。球面鏡の焦点距離は球面半径の半分だから、反射球面の半径は300mと言うことになります。つまり写真の反射面の直径程度の高さの所に球面の中心があり、写真の受信機は、その半分程度の高さに吊り下げられていると言うことです。

 この電波望遠鏡の反射面は(放物面ではなくて)球面です。球面鏡の焦点は球体半径の半分程度の距離にありますが鏡面の半径が大きいので、反射電波が1点に集まるわけではありません。そのため受信部もある形状の広がりを持ちます。
 電波の集光点の位置を移動させることにより、天頂を中心としたある円形領域を観測できます。この電波望遠鏡は天頂を中心に±20°の円形領域の視野をカバーしている。もちろん地球自転に伴って観測可能の円形領域は移動していきます。
 次の写真は受信方向を±20°範囲で観測する為の、受信部移動装置です。

 プエルトルコのアレシボ天文台の位置は北緯=18°20’、西経=66°45’ ですから、赤緯18°を中心に南北40°の範囲の電波源を観測できることになります。
 ちなみに1974年の夏にハルスが発見した連星パルサーPSR B1913+16“わし座”にあり、赤経=19h 13m、赤緯=+16°06′ です。 記号PSR1913+16のPSRはパルサーを、1913+16はパルサーの天球上の座標値(赤経19時13分、赤緯+16°)を意味する。
 そのため視野の真ん中当たりを移動していきますので、このパルサーは 24時間×(40°/360°)〜2.5時間程度 連続的に観測することができた

 下図は天頂から20°離れた電波源からの集光の様子を示しています。球面鏡なので当然一点に集光しません。又位相もかなり変動します。その為上写真の様なドーム状の集光部となるのだろう。観測波長は3cm〜1mということですから、おそらく電波の反射方向と位相差を考慮して受信ドームの形状が決められているはずです。
 下図の状況では、左側球面からの反射電波の方向はかなりずれますので、この部分からの反射電波は利用できないでしょう。反射方向の偏向具合から察するに、実際に観測に使えるのは直径305mの反射球面の中で、電波受信中心を真ん中とした直径270m程度の円形領域のようです。

 

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(3)パルサーは中性子星

(文献1.p203〜206より)


 1968年にラブラスたちによる“かにパルサー”のパルス周期(33 ms)の発見は、宇宙に中性子星が存在する最初の確固とした証拠を提供した。かに星雲の中心部に見出されたパルサーは光学的に星雲の中心星と同定され,可視光およびX線でも同期のパルスを出している.

 パルサーが中性子星である事は、パルサーが超高密度星でなければ回転の遠心力によりバラバラになってしまう事から予想される。
 実際、“かにパルサー”の回転周期 T=33ミリ秒 で見積ってみる。星の“表面重力”“遠心力”よりも大きくなければならないので、高校物理で習う様に

となる。
 普通の原子の塊の密度は (例えば金属の鉄)=8g/cm3=8000kg/m3 程度です。ところで、原子の大きさ 0.1nm=10-10m 程度に対して原子核の大きさは 0.00001nm=10-14m 程度ですから、原子核の密度は鉄の密度の(1043=1012倍程度、すなわち 8×1015kg/m3 程度となります。
 だから、パルサーの密度は原子核程度はあるだろうと推察された。

 

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(4)パルスの発生のメカニズム

 ジェームズ・B・ハートル著(牧野伸義訳)「重力」日本評論社(原本は2002年刊、訳本は2016年刊)第24章§24.5より引用。


 下記の中性子星表面における電磁場の境界条件については別稿「光の圧力」2.(2)を参照。

 次文が上記の5.5節相対論的ビーミング効果の説明ですが、上記の説明では実際にどの様な回転ビームが放射されるのか今一つ理解できません。




 

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2.連星バルサー(連星中性子星)

)連星パルサーの発見(1974年夏)

(文献1.p206〜211より、前節1.(3)引用文の続きです) 発見当時の様子はハルスのノーベル賞講演を参照。

 地球が1時間自転すると天空の走査角度は360°÷24=15°ですが、上記の様に長さ3°の領域を観測するとなっているのは同じ領域を時間をかけて観測しながら、次の領域へ移動すると言うことなのだろう。




 アレシボ電波望遠鏡の可動域は天頂を中心にして±20°範囲です。問題のパルサーは天頂を通過する位置に近い為に、連続観測し続けることができる時間幅は 24h×(40°/360°)=2.66h 程度ありました。つまり図10.2の様にハルスは毎日2.5時間程度問題のパルサーのパルス信号を追跡観測することができた。

 図10.2のグラフを1日経過につき45分ずつずらしながら重ねてみれば上記の意味が良く解る。


 この当たりのもう少し詳しい説明はハルスのノーベル賞講演をご覧下さい。

 

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(2)パルサーの公転速度と軌道

(文献1.p212〜215より)


 上記の推定値を計算で確認してみる。簡単化するためにパルサーの軌道は円形とし、その軌道面はパルサーと観測者(地球)を結ぶ方向に接していると仮定する。
 別稿「特殊相対性理論」3.(2)2.で求めた結論を利用すると、光(電波)の“相対論的ドップラー効果”はパルサーと観測者を結ぶ線分とパルサーの運動方向とのなす角をφとすると

となる。ただし、ν’は観測される振動数、νはパルサーの静止系における振動数(パルサーの回転数)。
 ここでの計算には空間の縮みの影響は無視できるので、“特殊相対性理論”でのドップラー効果公式がそのまま利用できることに注意して下さい。それは、重力赤方偏移において空間の縮みの効果が影響しなかったのと同じです。

 ここで、観測されるパルス周期の最大値をTmax、最小値をTmin、パルサー静止系における周期をTとする。周期の最大値はφ=πで、最小値はφ=0で生じるので、公転速度はおよそ

となる。
 パルサーの 公転速度=v〜2.0×105m/s と 公転周期=7.75時間=7.75×60×60=2.79×104s を考慮すると、公転半径はおよそ

補足説明1
 楕円軌道であることを考慮して厳密に計算した“視線速度”(radial velocity)の変化をハルス・テーラーの論文から引用すると下図の様になる。

 この図から、以下の様な軌道に付いての情報を引き出すことができます。

補足説明2
 相手のパルサーの運動状態が見えれば、別稿「コンパクト星発見物語」2.[補足説明2]の手順で個々の中性子星の質量が解ります。しかしこの連星系の場合、相手の運動状態が見えないため上記の情報からでは、個々の中性子星の質量を決定できません。

 

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(3)連星パルサーから得られる情報

(文献1.p215〜222より)

 実際のところ、白色矮星→中性子星→ブラックホール のおよその大きさは、白色矮星、中性子星がそれぞれ太陽質量程度とすると、白色矮星の大きさは地球程度であり、中性子星は20km程度となる。ブラックホールは超新星爆発前のもとの星がもっと重くないとブラックホールにはなれませんが、仮にできたブラックホール天体が太陽質量の10倍程度ならそのシュワルツシルド半径は数十km程度となります。
 ここで発見されたものは、太陽質量程度で、大きさが20km程度の二つの中性子星が、太陽の大きさ程度の軌道を8時間程度で互いの周りを公転していることになる。つまり連星を構成する中性子星は互いの極めて強力な重力場内を高速で移動している。

 近日点移動量を表す式についてはEinstein1915年11/18論文で導かれていますが、そこの式は水星の質量が作り出す時空の歪みを無視できる場合の計算です。
 連星中性子の場合の近日点移動は、自分自身が作り出す時空の歪みの効果を無視することはできません。そのため、両方の質量に関係することになります。その事を考慮して計算式の導出をやり直おすと、近日点移動量は二つの星の総質量によることが導けるのだろう。こういった2体問題について、重力場方程式を厳密に解くことは不可能でしょうから、おそらく数値的に解くのだろう。





[疑問?]
 文献7.に、この連星中性子星までの距離は2万1千光年(6.6kpc)と見積もられていると書かれています。
 しかし、このパルサーの重力波振幅が地球で直接観測できるわけではないのに、どうして連星中性子までの距離が予測できるのだろう? この距離からの地球での重力波振幅は現在(実際は2万1千年前)の回転状態では6×10-23程度になるそうですから、現在の技術では観測は全く不可能です。
 地球で観測できるパルス信号(電磁波)の観測強度から推測するのだろうか?パルサーが発する電波の強度については統計的な知識が集積されていてそれを利用するというのか?
 ご存じの方がおられたら是非教えて欲しい所です。

 

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3.連星パルサーによる重力波の発見

)重力波の理論

(文献1.p223〜226より)

 重力波に付いてのEinsteinの1916年論文(全A26)と、1918年論文([A8])は別稿で引用しています。また1937年のRosen との共著論文についてはPais「神は老獪にして・・・」邦訳版のp367とp659や、文献2.の第4章などをご覧下さい。1937年共著論文の邦訳版は共立出版社「アインシュタイン選集 第2巻」[A9]としてあります。

 

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(2)重力波の発見

(文献1.p226〜228より)

 下記のグラフの意味は解りにくいが、連星パルサーが公転することで重力波を周囲に放出していくことが確認できる。
 重力波にはエネルギーの移動が伴っているので連星パルサー系のエネルギーは失われていく。それは互いの公転半径の縮小と回転周期の減少(1年につき75μ秒)となって現れる。このことが近星点から次の近星点までの時間を早める。その早まる時間が積み重なったものが下記のグラフで表されるということです。

 下図のパルサーの現在の軌道の形状(図のNOWと記されているもの)は、今まで述べてきたドップラー効果の時間的変化の様子から求められたものです。相手の星(companion star)は見えませんが、両星の共通回転中心(+で示されている)を中心としての軌道の形状を示しています。
 一般相対性理論にもとずく重力波理論が正しいとすると、PSR1913+16連星中性子星は重力波放出によりエネルギーを失って、互いの距離は次第に近付き、公転周期は減少していきます。そして互いの軌道は円軌道に近付いていく。そして今から3億年後には互いに合体して一つになると予想されています。
 別稿で述べた様に3億年後まで人類が生き残る可能性はありませんが、とにかくそうなるでしょう。

 以下は平川浩正著「相対論(第2版)」共立出版より引用。初版は1971年刊ですが、第2版は1986年刊なので以下の記述が追記されています。


 上記(6・113)式についてはこちらを参照

 

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(3)余談

(文献2.p122〜126より)

1.ノーベル賞



 上記『ネイチャー』の論文は下記です。
Taylor, J. H., Fowler, L. A., and McCulloch, P. M. ,“Measurements of general relativistic effects in the binary pulsar PSR 1913 + 16”, Nature, 277, 437〜440, 1979年

 

2.シャピロ遅延

 シャピロ遅延については別稿「一般相対性理論の古典的検証と歪んだ時空」3-5を、あるいは文献1.第6章をご覧下さい。

 PSR J0737-3039 は赤経737、赤緯-30°39’である南天に位置する。
 この連星パルサーについての説明を文献7.安東正樹「重力波とはなにか」より追加引用。

 ダブルパルサーによる一般相対性理論の検証(Science 321, 104-107 2008年 より)

 どの観測方法からも二つのパルサーの質量の絶対的な値を決めることはできないのですが、相対値を予測することはできます。上図は、それぞれの観測値から解る二つの中性子星の質量の組み合わせの変化の様子を示している。それが二本の曲線で表されています。すべての観測値の二本曲線が指し示すのは、質量がそれぞれ1.338と1.249の場合です。

 

3.測地歳差

 歳差運動のメカニズムについては別稿「ブラッドリーが光行差を見付けた方法」6.(1)をご覧下さい。

 このパルサーの位置は 赤経196、赤緯+7°46’ です。

 

4.中性子星の状態方程式

(この項は、文献7.p217〜220より引用)


 

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(4)その後の重力波検出

.連星中性子星合体の重力波検出

 2017年8月17日にアメリカの2台(ワシントン州ハンフォード と ルイジアナ州リビングトン)の重力波検出器“Advanced LIGO(ライゴ)”(Laser Interferometer Gravitational Observatory)と欧州重力波観測所の重力波検出器(イタリアのピサ近郊)“Advanced Virgo(ヴィルゴ)”が、連星中性子星が合体するときの重力波信号GW170817をとらえた。
 この観測は連星中性子星が重力波放出により、そのエネルギーを失って最終的に合体する最終段階の重力波を観測史上初めて直接捉えたものです。
 補足しますと、連星ブラックホール合体に伴う重力波は、2015年9月14日の最初の観測(GW150914)以来それまでに5例観測されていました。このことは次項3.(4)2.で説明する。

 合体時の波形の時間的変化から、一般相対性理論に基づく重力波理論により、合体中性子星の質量情報が得られる。
 二つの星の質量m1、 m2 として,まず重力波の時間変化を決定づける チャープ質量 Mc≡(m1 m23/5 (m1+m2−1/5 =0.188×太陽質量 が高い精度で決定された。
 さらに、二つの星の全質量m1+m2 は 2.73〜3.29×太陽質量、それぞれの星の質量は、一方が 1.36〜2.26×太陽質量 、もう一方が 0.86〜1.36×太陽質量と推定された。

 このイベントは中性子星合体のために、X線、紫外線、可視光線、赤外線、電波などの放射も伴っており、それらの追跡観測から重力波発生源が正確に突き止められた初めての重力波イベントです。この合体は地球から1億3000万光年(40Mpc pcと光年の換算表)離れたうみへび座の 銀河NGC 4993 の中で起こった。

 GW170817 は同一の現象を電磁波・重力波の両方で観測できた初めてのケースであり、重力波とγ線の到達時間の違い(γ線は重力波の1.7秒後に到来した)から重力波と光の速度差に強い制限が与えられ、重力波と光が同じ速度で伝播すると予想する一般相対性理論に重要な実験的検証を与えた

 さらに、連星中性子星合体が生じた銀河の後退速度は光学的に観測されるが、重力波の検出強度からその銀河までの距離1億3000万光年(40Mpc)が直接推定できる。この両者からハッブル定数の値 H0=70±10(km/s)/Mpc も得られた。つまり、天文学で言う“距離の梯子”を用いないで直接銀河までの距離を測定することによる、ハップル定数を見積る新しい方法を提供する。

 詳細は 初観測連星中性子星合体重力波、 中性子連星の姿、 LIGOのPressRelease、 Physical_Rev_Lett_119、などをご覧下さい。

 

.重力波検出の状況

【重力波望遠鏡で観測された重力波イベントのブラックホール】
 連星中性子星合体重力波の検出以前に、2015年9月14日の最初の観測(GW150914)以来それまでに5例の連星ブラックホールの合体時に放出される重力波が検出されていました。下図に示すものがそれです。

 イベント記号の最初のGWは重力波(Gravitational Wave)である事を示し、続く6桁の数字はイベントを観測した 〔西暦年下2桁〕+〔月〕+〔日〕 を表している。
 
 SNRは、簡単に言えばシグナルとノイズの比のことですが、単純な振幅比では有りません。この定義は込み入っていますので適当な解説ページを参照されてください。いずれにしても、この値が大きいほど信頼性が高いイベントです。この値が10以上でないと重力波と同定するのは難しい様です。
 上記の LVT151012(2015年10月12日)イベントは、23×太陽質量と13×太陽質量のブラックホールの合体と考えられているが、SNRが10を下まわっているため信頼性が低くく、重力波検出の宣言には至っていない。この期間に、重力波ではないかと推察されるイベントが、これ以外にさらに数例観測されている様ですがいずれも宣言に至っていない。

 

【観測された重力波の波形】

 重力波は上図の0sec.以前から続いているのですが、SNRが小さいためその波形の特定が難しいから記されていないのでしょう。要するに、SNRが閾値(しきいち SNR>10)を超えてからの波形が示されているのだろう。

 

【2018年8月までに報告された重力波イベント】
 次表は2018年8月までに観測された重力波イベントの一覧表です。

2018年8月以後の検出イベントについてはLIGOの広報ページをご覧下さい。
 
 LIGO(ライゴ)グループはそれまでに2回の観測期間を実施していた。連続的に継続観測できなかったのは、途中で観測装置の感度・精度の改良や、データの分析・解析技術の改良などを行った為です。
 
  第1回は2015年 9月12日〜2016年 1月19日(約3ヶ月間)
  第2回は2016年11月30日〜2017年 8月25日(約9ヶ月間)
    第2回の最後の2週間にはVirgo(ヴィルゴ)グループが参加した。
 
 上表最後の二つのイベントについては、Virgoの稼働が間に合ったので3箇所態勢で重力波が観測でき、重力波の到来した方向をかなり正確に決定することができています。
 それ以前のイベントについては2箇所の観測データしか有りませんでしたので、重力波発生源の方向に関して推定するのが難しかった。ただし、重力波波源までの距離は到達重力波の振幅から推定できています。
 
 特に最後に記されているGW170817(2017年8月17日)は、(4)1.で説明した中性子連星の合体に伴うイベントです。このときVirgoの参加による観測データが重力波源の方向の算出に大いに役だった。
 波源の方向が正確に割り出せたことにより、重力波波源が特定できて、中性子連星合体に伴うγ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、電波などの放射も同時に観測できた。そのため恒星天文学に関して重要な成果を上げることができた。
 
 上表から解る様に、ブラックホール連星の合体に伴う重力波ならば、銀河系から半径10億光年(300Mpc pcと光年の換算表)程度の領域内でのイベントについて現在の技術で観測可能です。この領域内で数ヶ月に1度くらいの割合で生じていることになる。このことからブラックホール連星の存在数を見積ることができる。
 実際、太陽質量の30倍程度のブラックホール連星の合体は地球から50億光年の範囲で年間70〜150回程度起きているかもしれないという見積りもあるようです。
 
 最後の中性子連星の合体は距離が1億3000万光年(40Mpc)離れた領域で生じたものです。中性子連星合体の重力波信号はブラックホール連星の合体信号に比べて弱いのですが、このイベントは比較的近傍(それ以前の1/10程度の距離)で生じたので、高いSNR比が得られて検出できた。
 こういったイベントがさらに近傍の銀河で生じることが待たれます。ちなみに、天の川銀河とアンドロメダ銀河の距離は250万光年で、天の川銀河の大きさは8〜10万光年です。

 

.重力波検出の実際

 現在稼働している〔重力波検出器〕はいずれも、マイケルソン・モーリーの実験で用いられた干渉計と同じ原理のレーザー干渉計型です。
 この観測装置の概念は1960年〜1970年第初頭に提案され、2000年代初期に完成した(日本のTAMA、ドイツのGEO600、アメリカのLIGO、イタリアのVirgo など)。
 これらは2002年〜2010年にかけて共同観測を行ったが、感度不足とノイズ処理技術の未熟のため、重力波は検出できなかった。
 そのためLIGO検出器は5年にわたる改良工事で大幅に性能アップされ、2015年から“Asvanced LIGO”として稼働を開始した。Virgoも2017年から“Advanced Virgo”として稼働を開始している。

 一方、一般相対性理論に基づく〔重力波理論〕については、1970年代後半から1980年代にかけての重力波の存在証明に続いて、観測装置の発展に呼応して発展した。
 特に連星合体最終期の重力波形状に関係した数値的計算法が高度に発展した。この理論的な進歩は、連星中性子星の存在やブラックホール天体の存在を明らかにしてきた天文学の進歩に関係している。
 これらのことから、中性子連星やブラックホール連星が重力波放出によりエネルギー失い最終的に回転合体するとき放出する重力波が最も観測の可能性が高いイベントであると考えられる様になってきた。そのため、理論もそのイベントを検出し、そして解析することを目標にして発展してきた。
 もちろん、理論的解析から最終段階で予想される重力波の強度や振動数も予測できますから、観測装置やデータ解析方法(特にノイズの中からその信号を見つける方法)もそのことを念頭に置いて発展・改良されてきた。

 下図は最初に観測された実際の重力波イベントの観測波形ですが、このような形になることは当初から予想されていたことです。(下図の引用元はこちらです。)
【GW150814の検出データ】

 次の例が示すように、実際に観測されるデータはノイズに埋もれています。これはSNR=13のイベント(GW151226)ですが、グラフの様子からSNRが信号とノイズの単なる振幅比ではないことが解る。また、この中から重力波成分を判別・抽出するには高度な解析技術が必要なことが解る。
 図の左辺のStrain(10-21は、4kmの2本のレーザー干渉計の腕の長さが相対的な比率で10-21だけ変化する大きさ、つまり4×10-18mの微小な変位を意味する

 (上図の引用元はこちらです。)
 
 そのため、最初は重力波波形と似た波形パターンを、正確なモデルなしで迅速に探します。信号が得られて数分以内に連続的に解析されていく(“低遅延サーチ”)。そのとき、連携している複数台の検出器にほぼ同時刻(波源方向から干渉計に到達する時間差以内)に同様なイベントが得られたら、重力波である可能性が高くなる。
 そして、有力な重力波信号の候補が見つかると、もとの信号から“ホワイトニング”という雑音除去作業を行って、下図の様な重力波イベントの信号を確定します。(下図の引用元はこちらです。)

 上図は最初に検出された重力波イベントGW190914の波形ですが、2つの干渉計からの波形を7msずらすと綺麗に重なっていることを示している。30Hz付近のインスパイラル波形が0.2秒間に10サイクル程度見られる。

 重力波イベント候補の信号が確定されると、理論的に予測された様々な波形と比較されて、データと最も良く合う波形が探される。これは“マッチド・フィルタリング”と言われる手法です。
 このやり方は、あらかじめ様々な質量を持つ連星系を仮定して、一般相対性理論に基づいてコンピュータを用いて数値的に解き、そのとき発生する空間の歪み(重力波の波形)を計算しておきます。
 連星の2つの質量の仮定について膨大な数の組み合わせについて解いておくことはもちろんですが、個々の星の自転角運動量や、回転面の傾斜角についてもすべての可能性を計算しておきます。
 
 そのとき、実際に膨大な数の組み合わせについて解いてみると、その連星系の総質量や、二つの星の質量比の違いにより、重力波の波形が異なってくることが解ってきます。もちろん重力波として周囲に放出するエネルギー量の違いや、合体後に生成する星(ブラックホールを含む)の質量なども重力波波形の違いとなって現れることが解ります。
 
 このとき、実際に一般相対性理論の予想結果とマッチする波形である事が解ると、逆にアインシュタインの重力場方程式の正しさが検証された事になる。今までのところ、アインシュタインの重力場方程式はそういった検証に対してすべて合格している。

  1.  《インスパイラル部分》はニュートン力学に相対論的な補正を加えて計算するそうです。その結果、重力波の振幅h(t)は、が合体時刻をtc、万有引力定数をG、光速をc、連星の質量をそれぞれM1、M2とすると

    で、与えられる。
     つまり、この部分の波形のマッチングを取ることで、M(チャープ質量)と言われる量が正確に見積もれる。
  2.  《合体部分》の波形は一般相対性理論を数値計算で解く必要がある。この部分の波形には合体する連星の質量比の違いなども現れてくるようです。
  3.  《リンクダウン部分》の波形ですが、ここは1つの大きなブラックホールが形成され、ブラックホールが周囲の重力波を飲み込んで時空を落ち着かせる減衰振動の重力波が発生する部分です。
     ここも一般相対性理論によって解かねばならないところですが、ここの波形形状は生成ブラックホールの質量Mと回転パラメータaなどの違い依って変化する。
     初期時刻をt0とすると、減衰振動の波形h(t)は

    となる。
     ただし、中性子連星が合体して1つの中性子星となる場合のリンクダウン部の波形の計算は、生成中性子星の状態方程式に依存するのでブラックホール形成の場合よりも難しいとのことです。

 MとMの膨大な数の組み合わせについて事前に準備された前述の波形(テンプレート)と観測波形が最もマッチするものを探すわけです。膨大な数のテンプレートとのマッチングを調べないといけませんので、もちろんコンピュータを用いて自動的に判定していきます。
 いずれにしても、その様にしてマッチングするテンプレートを探し出して観測されたイベントを生じた連星の質量を決定します。
 GW150914イベントについては、太陽の質量の約36倍29倍の2つのブラックホールが合体して太陽の質量の約62倍のブラックホールが生成される場合の波形テンプレートが最も良くマッチしたのです。

 このようにしてGW150914イベントを生じた連星ブラックホールの質量が解りますと、一般相対性理論の計算により、実際に発生する時空の歪みの大きさも計算できます。その歪みが発生源から離れるに従ってどのように減衰していくかも一般相対性理論により予測できますので、地球で実際に観測された空間の歪み量から、重力波の発生源までの距離が判明します。その解析結果から、GW150914は地球から13億光年離れたところで起こったイベントであることが解った。もちろん、この値はEinsteinの重力場方程式(及びそれから導かれる重力波方程式)が正しいと仮定した上での推定値です。
 
 ただし、初期の2台の観測態勢では正確な方向を決めるのは難しかった。LIGOとVirgoの3台の観測態勢が実現されて初めて高精度の方角推定できる様になります。このことについては、3.(4)2.表の(Δθ)2を参照されたし。

 合体の前と後のブラックホールの質量を比較することで、この合体により太陽の約3倍の質量(または、またはほぼ600万兆兆キログラム=6×1030kg)が重力波エネルギーに変換され、そのほとんどが一瞬にして放出されたことがわかる。
 ちなみに、太陽が電磁波として毎秒放射しているエネルギーを質量に換算すると3.87×1026J/c2=4×109kgに相当します。
 太陽質量3個分が1秒程度の間にエネルギー波となって放出されたと仮定してこの値と比較すると、太陽の放射エネルギーパワーの1.5×1021倍のパワーとなります。
 この値を全宇宙の星の数の見積値(〜1022個程度)と比較すると、GW150914によって放射された重力波のパワーは、観測可能な宇宙の全ての星や銀河による光学パワーにせまる大きさだったことになる。
 それだからこそ、13億光年離れた所で生じたイベントが検出できたとも言えます。

 このとき注意して欲しいのですが、前述のグラフの下段に書かれている〔ブラックホール間の距離〕や、〔相対速度〕が推移する様子のグラフは、上段の波形グラフから直接求められたものではないと思います。
 “マッチド・フィルタリング”で得られた、ブラックホール質量のデータを用いて一般相対性理論で計算された合体過程の計算結果をグラフ化したものでしょう。

 詳細は、連星ブラックホール合体からの重力波の観測、 重力波の観測とデータ解析、 重力波の直接検出とデータ解析、 ブラックホールと重力波、など参照されて下さい。

 

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4.参考文献

この稿を作るに当たって、下記文献を参考にしました。感謝!

  1. クリフォード・M・ウィル著(松田卓也、二間瀬敏史訳)「アインシュタインは正しかったか?}TBSブリタニカ(1989年刊 原本は1986年刊
     本稿の大半はこの本の第10章からの引用ですが、かなり改変しています。原文は下記引用をご覧下さい。
     著者はこの分野の専門家で、とても面白い本です。一般相対性理論検証の解説書としては日本語で読める基本的な文献だと思います。この中から
    第 2章 曲がった時空にいたる真っすぐな道程
    第 3章 光の重力赤方偏移と時計
    第 4章 光の曲がり
    第 5章 水星の近日点移動(前半部のみ)
    第 6章 光の時間の遅れ
    第10章 連星パルサー(重力波は存在した)
    を別稿で引用しています。
  2. ホヴァート・シリング著(斉藤隆央訳)「時空のさざなみ−重力波天文学の夜明け−」化学同人社(原本は2017年刊
     この中の特に、第6章“時計仕掛けの正確さ”、第13章“ナノサイエンス”、第14章“フォローアップの問題”、をご覧下さい。
  3. パルサー発見の報告
    Hewish, A.; Bell, S. J.; Pilkington, J. D. H.; Scott, P. F.; Collins, R. A. ; “Observation of a Rapidly Pulsating Radio Source”. Nature 217, p709〜713, 1968年.
     
    Pilkington, J. D. H.; Hewish, A.; Bell, S. J.; Cole, T. W. ; “Observations of some further Pulsed Radio Sources”. Nature 218, 1968年.
  4. 連星パルサー発見の報告
    R. A. Hulse and J. H. Taylor, “Discoverl of a pulsar in a binary system”, The Astrophysical Journal, 195 :L51-L53, 1975年, January 15,
  5. ノーベル賞講演(December 8, 1993年)
    Russell A. Hulse, “The discovery of the binary pulsar
    Joseph H. Taylor, “Binary pulsars and relativistic gravity
  6. PSR 1913 + 16 に付いての報告
    P. M. McCulloch, J. H. Taylor, and J. M. Weisberg. , “Tests of a new dispersionremoving radiometer on binary pulsar PSR 1913+ 16”, Astrophys. J. (Letters), 227:L133-1~137, 1979年
     
    J. M. Weisberg, J. H. Taylor, L. A. Fowler: “Gravitational waves from an orbiting pulsar”, Scientific American. 245, S. 74〜82. , October 1981年
     
    J. H. Taylor and J. M. Weisberg, “A new test of general relativity; gravitational radiation and the binary plsar PSR 1913+16”, The Astrophysical Journal, 253: 908-920, 1982年 February 15 ,
     
    J. H. Taylor,J. M. Weisberg,“Further experimental tests of relativistic gravity using the binary pulsar PSR 1913 + 16”, The Astrophysical Journal, 345: 434-450, 1989年 October 1.
     
    J. M. Weisberg, D. J. Nice, J. H. Taylor: “Timing Measurements of the Relativistic Binary Pulsar PSR B1913+16.”, Astrophysical Journal. 722, S. 1030〜1034. 2010年,
  7. 安東正樹著「重力波とはなにか」講談社(2016年刊
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