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ブラックホール質量の決定法

 ブラックホール質量の決定法を説明します。現在(2020年)までに質量を見積もるための様々な方法が発見されていますが、ここでは最も基本的な連星系についてのニュートン力学を用いる方法を説明します。

1.恒星質量ブラックホール

)x線天文学の開幕(文献1.9章§3~§4より引用)

 ブラックホールの質量を議論するには、まずブラックホール候補天体が如何にして発見されたかを説明しなければ成りません。それには宇宙の中にX線を放射している天体が存在することの発見が不可欠です。まず、その話から始めます。

.大気圏外観測へ


 

.ロケット観測


 

.x線衛星と“すだれコリメーター”


 下図はgalactic coordinate(天球上の天体の位置を表す天球座標系の一種で、銀河中心と銀河面を基準とする座標系)であることに注意。さそり座、ヘルクレス座、はくちょう座の天球上での位置はこちらを参照。拡大図

Forman, W., Jones, C., Cominsky, L., et al. 1978, Astrophysical Journal Supplement, 38, 357




 

.X線放射天体の発見

 x線を放射している天体の発見については1996年の日本物理学会50周年記念号に寄せられた小田稔先生の「X線天文学の誕生とその発展」が興味深いので、 https://www.jps.or.jp/books/50thkinen/50th_08/002.html から別ページで引用していますのでどうぞご覧下さい。

 ここで、今一度強調しますが、ブラックホールは光を放射しません。しかし、ブラックホールに落ち込む気体はブラックホールのシュワルツシルド半径に達する前に強く加熱される事が解ったのです。
 そのとき放射されるX線を観測することができたことで、1971年に最初のブラックホール“はくちょう座X-1”の存在が確認できたのです。

 

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(2)X線放射連星の実体

1.はくちょう座X-1の同定

 2つの星がお互いの周りを回り合っているいる連星の中で、強いX線を放射しているものを“X線連星(X-ray binary)”と呼ぶ。X線連星はすべて中性子星あるいはブラックホールと通常の恒星から成る近接連星”です。恒星からコンパクト星へガスが降り注いでおり、コンパクト星の近傍で超高温になったガスがX線を放射していると考えられている。
 その様に考えられる根拠は後で説明するように、これらの連星は距離が近い“近接連星”であることが解ってきたので、中性子星やブラックホールの強い重力の為に通常の恒星である伴星からガスが流れ込むと考えられている。
 そのとき太陽程度の質量がありながら半径か10km程度しかない中性子星や、太陽の数倍から数十倍程度の質量でありながらその大きさ(シュワルツシルド半径)が数km~数十kmしかないブラックホールのようなコンパクトな天体の近傍では、重力ポテンシャルの井戸が非常に深く、その周囲に形成されると考えられる降着円盤(accretion disk)のガス温度は1000万度程度になると考えられる。

 実際、プランクの熱輻射公式が教えてくれる様にX線(波長域10~0.01Å)が“熱放射”であるとすれば放射体は106~107K程度の温度と考えられる。
 また、プランクの熱輻射公式から得られるシュテファン・ボルツマンの法則によると、エネルギー放射密度は絶対温度の4乗に比例するので、上記降着円盤が放射するエネルギー量は普通の恒星が可視光域で放出するエネルギー量よりも遙かに強大なものになる。
 X線によるエネルギー放出強度が強大故に、X線の波長領域の観測をロケットや人工衛星によって始めると次々とそういったX線放射天体が見つかった。
 実際、X線衛星が観測したX線強度に対して、その星までの距離を勘案して計算すると、X線星の放射エネルギーは太陽の放射エネルギーの10万倍以上であることが解ってきた。

 その様にして、X線放射天体の存在は次々に確かめられていったのですが、問題はその正確な位置を確定して、可視光や電波などによる放射体そのものの確認を可能にすることです。前節でも説明されている様に、そのX線発生源の位置確定精度の向上にOda collimeterが極めて重要な役割を果たした。
 実際、1962年にジャコーニらが最初の太陽系外X線源をエアロピーロケットに3個のガイガー計数管を積んで打ち上げて、さそり座の方向から来るX線を発見したのですが、それが さそり座X-1(Sco X-1)として光学的に同定されるのは1966年です。その後の詳しい観測から、さそり座X-1でX線を放射しているコンパクト星は中性子星であることが解った。
 もともと、このロケット観測は月からのX線放射を観測するためのものだったようですが、図らずもそれ以外のものが見つかったと言うことです。それだけX線源は強烈だと言うことです。

 1970年12月12日に打ち上げられた世界初のX線天文衛星ウフル(Uhuru)によって発見されたヘルクレス座X-1(Her X-1)X線連星パルサーとして有名です。

 また、ブラックホール連星として有名な はくちょう座X-1(Cyg X-1)も1960年代初頭にX線検出器を積んだロケットによる大気圏外観測が始まると、すぐに白鳥座の方向にも強いX線源が存在することが発見される。しかし、その位置を正確につきとめるのは困難を極め、光学的にで同定されるのは1971年になってからです。そのとき光学的に同定されたX線源はスペクトル型がO9型の9等星でした。9等星だから目視では見えませんが、下図赤矢印の位置に有ります。

 さそり座、ヘルクレス座、はくちょう座の天球上での位置はこちらの天球図を参照。

 

.降着円盤が放出するエネルギー(文献4.§6-3から引用)

 現在では、普通の恒星と連星系を成すブラックホールや中性子星はかなりの割合で存在すると考えられています。連星系は重力波放射などによって軌道エネルギーを失い軌道が小さくなり、伴星とコンパクト天体との距離が狭まると伴星の外層からコンパクト天体への質量の流入が始まる。
 すなわち、連星系をなすブラックホールと通常星の間の距離が通常星の直径程度になると、通常星からブラックホールへガスの流入する現象が生じる。
 こういった現象は通常星同士の連星系で多数観測されており、相手がブラックホールであろうと同様のことが起こります。そのとき流れ込むガスの質量は年間 10-6×太陽質量にも達する。

 そのとき、初期軌道の角運動量が保存するために、降着物質は直接コンパクト天体に落下することはできずに、連星系の一方が中性子星あるいはブラックホールの場合ラグランジュ点L1を通過したガスはコリオリ力によって円軌道上を回りながら中心星に向かって落下していく。
 つまり中心星の周りに降着円盤(accretion disk)を形成しながら落下していく。そのとき円運動が成り立つ条件は向心力と遠心力が釣り合った状態ですので、中心星からrの距離の速度vは

で与えられます。
 もし円盤が剛体回転運動する為には v∝r でなければ成りませんが、その事は不可能です。そのため降着円盤を構成するガスは内部が外部より早く回転することになり、ガス同士の摩擦が生じガスは熱せられます。
 
 降着円盤での摩擦のメカニズムは、物質と物質をこすり合わせる摩擦というよりは、おそらく磁場によるものだろう。降着円盤内の物質は電離したプラズマ状態にあるはずなので降着円盤内では回転運動による渦巻き状の磁場構造が作られているはずです。そして、降着円盤を構成する電離した物質と磁場は密接な相互作用をするはずです。
 おそらくそのことにより、物体の回転エネルギーが磁場のエネルギーを介して熱エネルギーに転換され、さらに光のエネギーとして放射されるのだろう。
 
 このようにして、円盤中では各半径での回転速度の差が磁気粘性や乱流粘性によってならされるためガスは角運動量を徐々に失い,円盤の物質は何回も回転しながらしだいに中心に落下していく。この過程で円盤の中心部の物質はX線を放出する温度にまで加熱され,その高温の電子が熱放射と衝突してさらに高エネルギーのX線放射をつくると考えられています。

 降着円盤の光度は、円盤に毎秒どれだけの質量が流入するか、また流入する質量の内どれだけが輻射のエネルギーに変換されるかによっ決まります。
 シュバルツバルト半径のまわりの重力場はニュートン理論では厳密に記述できないが、ニュートン理論を少し修正すれば一般相対性理論で予想される現象を正しく再現できます。
 星の重力場中にある質量mの物体の運動は極座標r,φを使うと次の様に表される。
(1)面積速度保存則

(2)エネルギー保存則

 上記の有効ポテンシャルについては別稿「質点の二次元運動」3.を参照。
 一般相対性理論によると、この結論は次の様に修正される。まず時間微分は固有時間s(物体と共に運動している時計が示す時間)による微分に置き換えられ、また、有効ポテンシャルに以下の様に余分な項(第3項)が付け加わる。

 この相対論的な有効ポテンシャルについては別稿「ブラックホール近傍の力学」3.(4)5.を参照して下さい。このことは普通の一般相対性理論の教科書には必ず載っています。
まとめると

となる。補足するとVNにも円軌道はあるし、VEにも楕円軌道は存在する。さらに補足すると、VE(r)の極大点は不安定な円軌道に対応し、小さな摂動によって内側、または外側に向かう螺旋運動が引き起こされる。

 与えられた角運動量 (すなわち、与えられたポテンシャルエネルギーVE)に対して円軌道は最低エネルギーとなる。そのときブラックホールの周りをまわっている物体はその位置エネルギー(結合エネルギー)を放射の形で外界に放出して、角運動量を失いつつ螺旋を描きながら次第に内側の軌道(よりポテンシャルの深い軌道)に移って行く。このことの意味は解り難いのですが、別稿「質点の二次元運動」3.の図を参照しながら検討して下さい。そこの図から解る様にこのポテンシャル曲線がどんどん変化していくことで、質量mの粒子はより深い極小点に向かって落ちていくのです。
 そのとき、円軌道に対してはdr/dt=0であり且つdVE/dr=0(ポテンシャルの極小点なので)なのでE=VE(r)が成り立つ。すなわち

となる。ここで、シュワルツシルド半径については別稿「テンソル解析学の一般相対性理論への応用」7.(8)などを復習されたし。
 上で注記している様に、を満たす範囲でのみ角運動量は有限です。つまりこれ以下の領域では角運動量がどうなるのか議論できない。上記の角運動量が有限になるための臨界値 r=1.5×シュワルツシルド半径 については別稿「ブラックホール近傍の力学」3.(4)1.[補足説明2]を参照。
 さらに、安定な円軌道の条件2E/dr2>0 とならねばならない。すなわち

より解る様に、のときのみ満たされる。このことについては別稿「ブラックホール近傍の力学」3.(4)7.を参照して下さい。
 そのため、安定な円軌道にある粒子の結合エネルギーの最大値

となる。
 すなわち、質量mの粒子が中心(ブラックホール)に向けて螺旋運動をするとき、最大限として静止エネルギーmc2の5.5%レベルまでは光のエネルギーとして外部に安定的に放出できる。を通り過ぎると粒子の運動がどの様になるのか解らないのでさらにどの程度のエネルギーが外部に放出できるか解らない。解らないのでなんとも言えないが、おそらく静止エネルギーの40%程度をこえることは無いであろう。

 その後、で円軌道は不安定になり、粒子は中心に落ちてゆく。

 この過程は、ニュートン理論の結論とは全く異なる。ニュートン理論では、小さな角運動量 になれば、任意に小さな がとれるので、中心に向かって粒子がらせん状に落ち込むとき、いくらでもエネルギーが放射される。つまり古典的には、質点が作る重力場での粒子の自由落下は、永久機関の存在を正当化する。そこから無限のエネルギーが取り出せるからである。
 一般相対性理論では、このような事態は生じない。自由落下粒子の静止エネルギーの5~40%程度が光のエネルギーとして最大限取り出せるだけです。

補足説明1
 いずれにしてもブラックホールに物体(質量)を落とし込めば、落ち込む物質の静止エネルギーの5~40%程度が光のエネルギーとして外部に放射されると考える事ができる。
 今日、極めて強大なエネルギーを放出している“クェーサー”と言われる天体は、その中心に巨大なブラックホールを持つ銀河系レベルの星の集団であって、1年当たり太陽質量程度のガスが連続的に、中心ブラックホールに落ち込んでいる状態だと推察されている。
 クェーサーについては2.(4)4.でもう少し詳しく説明します。また、クェーサーの発する光度についての説明を須藤靖著「一般相対性理論入門」日本評論社(2005年刊)§5.6より引用しておきます。次に紹介するハートルの説明と重複するのですが、両者を比較しながらお読み下さい。

補足説明2 文献5.§11.2より引用




 “トムソン散乱”については別稿「線形振動子による電磁波の放出」3.(2)3.を参照。そこをご覧になれば、なぜ陽子の散乱断面積が小さくなるのかが解ります。





 このことは先に説明した。あるいは別稿「ブラックホール近傍の力学」3.(4)7.を参照。

 つまり、銀河中心で見つかるブラックホール質量が太陽質量の 108 倍程度だとすると (εM/M)1/4~10-2 と成りますので、降着円盤の温度は T~105K 程度になります。
 放射に最も寄与するのは《円盤内縁部の温度》ですが、その温度はブラックホール質量と単位時間にブラックホールに落ちてゆくガスの量(質量降着率)に関係します。それが上記の様に、恒星質量ブラックホールの場合は数百万K、銀河中心の巨大ブラックホールの場合数万K程度になります。
 このため恒星質量ブラックホールの周囲の降着円盤は主にX線で輝くが、巨大ブラックホールの場合は紫外線で輝く。ここで説明している標準円盤モデルは、2.(4)4.で説明する“活動銀河核”の強力な可視光や紫外線放射も旨く説明します。

補足説明3
 《X線強度の観測値からブラックホール質量を見積る方法》
 X線連星からのX線は、ブラックホールの周りにできる降着円盤の内縁部から主に放射されていると考えられています。そのとき降着円盤の中で最も輝いている部分は、先に議論した様にシュバルツシルト半径の3倍当たりの部分です
 その放射体からの全放射エネルギー量は、地球から見たX線衛星によるX線強度観測値とX線連星までの距離を考慮することで求める事ができます。
 X線を放射する部分の面積を(単純化して)シュワルツシルド半径の3倍を半径とする球面として、全放射エネルギーを球の表面積で割ると、単位面積当たりから放射されるX線のエネルギー量が解ります。・・・・・・①
 
 一方、放射線の最大強度の波長がX線領域であることからプランクの熱輻射法則により、その光を放射している放射体の温度が解ります。温度が解りますと、シュテファン・ボルツマンの法則により、その放射体の単位面積当たりから放射されるエネルギー量が解ります。・・・・・②
 
 ①=② が成り立つことから、最初に述べたシュバルツシルト半径が導けます。シュバルツシルト半径Rが解ればブラックホール質量Mを求める事ができます。

もちろん、このやり方では大雑把な値しか得られませんが、とても面白い方法です。
 
 このやり方は、下記JAXSのページ
http://www.isas.jaxa.jp/home/ttamura/classroom/main/bh/index.html
で説明されていますので、どうぞご覧下さい。
 
 上記のページでも注意されている様に、《この方法で求めたブラックホール質量の見積値》は、1.(3)節で説明する《伴星の可視光線観測による分光連星としてのデータから求まる軌道要素を用いたNewton力学によるブラックホール質量の見積値》とほぼ一致するようです。
 この事実は、本節で説明したX線発生原因が降着円盤メカニズムで旨く説明できる事を裏付けていると言えます。

 

.はくちょう座X-1の実際

 1971年に同定された はくちょう座X-1ははスペクトル型がO9型の星である事がすぐに確認されます。
 そのためこの星が主系列星であるとすると、その星の大きさと絶対光度が判明します。その具体的な手法は別稿「コンパクト星(白色矮星)発見物語」4.で説明しましたが、簡単に復習します。

 星が発する輻射のスペクトル型(詳しくはこちらを参照)が解れば、星の表面温度が解ります。星の表面温度が解ればシュテファン・ポルツマンの法則により、星の表面の単位面積から放射される輻射のエネルキー量が解ります。
 
 また、年周視差などにより、星までの距離が解ると観測される星の絶対的な明るさが解ります。そうすると、その星の全表面積から単位時間に放射される全エネルギー量が解る。
 ならばその全放射エネルギー量をシュテファン・ボルツマンの法則から解る単位面積当たりのエネルギー放射量で割ることで、星の表面積が解る。表面積が解れば星の大きさが解る。(広瀬秀雄 付録6も参照)。

 しかし、残念な事に、はくちょう座X-1の距離は6000光年程度離れていて、当初は年周視差観測から距離を求めるのは困難です。そのため、この伴星が主系列星であると仮定して距離を求めます。
 ヘルツシュプラング-ラッセンが発見した様に、主系列星と言われる星々にはスペクトル型が同じならばほぼ同じ大きさ(質量)であることが解っています。もちろんこのことは年周視差等による観測で星までの距離が判明している多くの星々の解析からわかったのですが。
 いずにしても、当初は主系列星であると仮定して、その大きさと質量を見積ります。その結果、この伴星は太陽質量の数十倍を持つスペクトル型がO9型の巨星であることが解ります。そうすると絶対光度が見積もれますので、逆にこの星までの距離が6000光年程度であることが予想できます。
 
 その後、年周視差を高精度で測定できるヒッパルコス衛星(1989~1993年)が打ち上げられ、今日では6000光年程度の距離ならばその年周視差がなんとか測れる様になった。今日では、その観測値(0.58 ± 1.01) × 10-3を用いて距離が6100光年と割り出されています。だから最初に述べた方法が使えます。
 ヒッパルコス衛星による観測精度は距離が100パーセク(326光年)以下で誤差10%程度ですから、その20倍の距離である6100光年の信頼性もその点を考慮する必要があります。(Hipparcos Catelogueのダウンロードサイト

 いずれにしても、はくちょう座X-1の位置に、今日のヘンリー・ドレーパー補遺カタログ番号でHDE226868という名前を持つ青白い巨星(実視等級9等星)が存在することが解ります。
 ただし、主系列の星はX線や電波はあまり放出しません。そのためX線を出す何らかの星との連星をなしているに違いないとして、この星が放射する水素の線スペクトルが詳しく観測されます。
 その結果1971年の秋には、この青色巨星の放射するスペクトル線の波長(振動数)が5.6日の周期で変動することが解ります。つまりこの青色巨星は光では見えない何らかの星と連星をなしていると推測される様になります。つまり、この青色巨星は未知の星に対して分光学的に判別できる“分光連星”をなしている

 さらに、X線の詳しい観測から、はくちょう座X-1からのX線が、0.1~0.001秒程度の短い時間で不規則に変動していることが発見された(こちらを参照)。こんな短い時間でX線放射強度が変動することは、X線を出している降着円盤の大きさが少なくとも0.001秒で光が進む距離である300km程度以下でなければならない。つまり質量が太陽の数十倍もある巨星を周期5.6日で振り回すことができ、しかもその大きさが300km以下である星はブラックホールしか考えられない。
 シュワルツシルド半径は 2GM/c2(星の質量Mに比例) で、太陽質量のシュワルツシルド半径は2.95kmです。そのため質量が10太陽質量のブラックホールのシュワルツシルド半径は高々30km程度です。前項で考察した様に、その半径の3倍(~100km)程度の部分の降着円盤が最も強く輝くとすると、おそらくブラックホールを取り巻く半径数百km程度の降着円盤が強力なX線を放射しているのだろう。

補足説明1
 色々な本でシュワルツシルド半径は30km程度であるという言い方がなされています。そのとき強い重力場の元では時空は歪むのですから、その歪んで時空での30kmというのは何を意味するのか疑問に思われる方もおられると思います。その疑問に対する答えは、
 別稿M・ウィル文献p57~58[補足説明]
 別稿「Sommerfeld 電磁気学」p367-02[補足説明1]
 別稿「時空の曲がりと測地線(測地線方程式とは何か)」4.(4)[補足説明]
 別稿「基底ベクトル・双対基底ベクトルと反変成分・共変成分」2.(6)[補足説明]
等々で説明した a) の場合で解釈するということです。
 そのとき測定する30kmはその時空の元で、重力の影響が無い場所での物指し棒や時計で測った距離や時間です。もともと、シュワルツシルド半径を求めたシュワルツシルド解

の座標値を測る もその意味だったのですから。
 このことについては別稿「ブラックホール近傍の力学}3.(3)3.(2)[補足説明2]や同じく3.(3)5.をご覧下さい。

 

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(3)ブラックホール質量の見積

 謎の天体の質量を見積もるには別稿「二体問題」2.(3)2.[補足説明1]で説明した方法を用います。その為にまず主星の青色巨星のスベクトル線波長(振動数)の時間的偏移の解析からはじめる。

.主星(青色巨星)の視線速度変化

 連星の片割れであるブラックホールは周囲の降着円盤からX線は放射しているが、可視光を出さない。しかし連星の相手の青色巨星HDE226868のスペクトル線は観測できる。スペクトル線のドップラー偏移から、この星を太陽系から見た視線方向の速度の時間的な変化曲線が求められる。

 図6は視線速度のグラフで、縦軸は km/sを単位とする視線速度。横軸は、生の時間ではなく、公転周期を1とする“連星位相”と呼ばれる時間。

 図6を別稿「連星の軌道決定法」3.(3)[補足説明1]の図と比較してみるとすぐに解る様に青色巨星軌道の離心率は 0 に近く、ほぼ円形の軌道を描いていることが解ります。実際、そこで説明した手順に従って詳しく解析すると以下の情報が得られます。

  1. 青色巨星の楕円軌道の離心率e=0.1が得られます。これはブラックホールの楕円軌道の離心率でもあります。
     別稿「連星の軌道決定法」3.(2)及び(3)で説明した様に、分光連星の視線速度時間変化曲線から離心率eを決定することができます。
  2. 視線速度変化の周期から連星系の公転周期がP=5.6日であることが解る。これはブラックホールの公転周期でもあります。
  3. 視線速度変化グラフから視線速度振幅 1=75km/s が解ります。ちなみに、地球が太陽の周りを回る公転速度は30km/sです。
  4. 別稿「二体問題」2.(3)2.[補足説明1]より

    だから

    となりますが、これは太陽直径 1.4×106km の4倍程度ですから、1はその1/sin 倍です。
     互いの軌道の様子は、別稿「二体問題」2.(2)[補足説明1]を参考にし、さらに次項で議論する情報(e=0.1、 <40°、M2~10太陽質量)を加味すると下図のようになる。

    上図の外側の軌道がブラックホールM2で、青色巨星M1とM2がお互いを振り回している。
     つまり太陽よりも遙かに重くて巨大な青色巨星とブラックホールが太陽直径の16~30倍程度の距離で互いに公転する“近接連星”をなしている。

 1の添字1は青色巨星を表します。以下の議論ではブラックホールについての量は添字2で表すことにします。

補足説明1

 上図は文献5.から引用したものです。はくちょう座X-1と同じ様に、X線が観測できるほどの接近した連星系は、例外なく軌道離心率eは 0 付近の円に近い軌道です。
 実際、このことは別稿「連星パルサーの発見と重力波の存在」3.(3)でも注意しましたが、重力波を放出して回転エネルギーを失って接近した連星系は離心率eが 0 に近付いていくと考えられています。

 

.ブラックホールの質量

 前項で求めた量から「二体問題」2.(3)2.[補足説明1]で説明した質量関数は

となります。これが、はくちょう座X-1のブラックホール質量2、青色巨星の質量1、連星軌道の軌道傾斜角の間に成り立つ関係式です。この関係をグラフ表示すると

となる。これは未知量が3つあるために軌道傾斜角を色々仮定して青色巨星1とブラックホール2の質量関係を描いたものです。

 このとき、重要なことは、はくちょう座X-1では青色超巨星HD226868のスペクトル型がO9型である事が判明している事です。そのためこの巨星が主系列星であれば、以下の手順

1. スペクトル型から星の表面温度が解り、プランクの熱輻射法則から星の単位面積からの放射エネルギーが計算できます。

2. またはくちょう座X-1までの距離が(年周視差観測から)解っていますので、この青色巨星の絶対等級が解ります。もちろん距離の測定精度はそんなに良くありません。

3. その絶対等級と単位面積からの放射エネルギーの関係から星の表面積すなわち星の“大きさ”が解ります。このことについては、こちらも参照されたし。

4. 星の“大きさ”が解りますと、主系列星に存在する星の場合はその“質量”が決定できます。

に従って太陽の30倍程度であることが確定できます。
 青色巨星の質量を上記のように見積もって、図7グラフの1=30の目盛りを横方向に見ていくと、軌道傾斜角 が90°であるとしても、ブラックホールの質量2は太陽質量の5倍以上はあると言うことです。
 実際のところ、はくちょう座X-1では連星がお互いを隠し合う食現象は観測されていません。そのため、軌道傾斜角が90°(つまり連星公転面を真横から観測している)に近いということはあり得ない。

 巨星の大きさと、巨星とブラックホール(降着円盤)の距離(太陽直径の16~30倍程度)を考慮すると“軌道傾斜角” は40°よりも小さいであろう。そのため、2の質量は太陽質量の10倍程度以上あると考えられる。

 このように、観測できる青色巨星のごく近くに大質量が存在するのは確かです。それなのに、その周りを取り巻いていると考えられる降着円盤が放射するX線放射しか確認できない。そのため、この質量集中点は“ブラックホール”を形成していると考えられる

補足説明1 (https://en.wikipedia.org/wiki/M33_X-7 より)
 これまで発見された恒星質量ブラックホールで最も重いものは、連星系をなしているM33X-7と呼ばれるものです。そのブラックホール質量は70Mと見積もられています。
 
 この連星系は三角座銀河M33の中にある。M33は我々の銀河から1Mpc(約270万光年)でアンドロメダ銀河(250万光年)とほぼ同じような距離です。M33_X-7は、1999年にNASAが打ち上げたチャンドラX線観測衛星によって、2007年に発見された。チャンドラはX線源の位置決定に於いて、可視光観測に匹敵する驚異的な分解能(0.5秒角=2.4μrad)を達成しています。
 そして、ハワイ島マウナケアのジェミニ望遠鏡で可視伴星の詳細が調べられた。ジェミニ望遠鏡は2.(1)2.3.で説明する補償光学による観測ができます。
 
 ジェミニ望遠鏡による観測の結果、伴星のスペクトル型はO7-8Ⅲで、その見かけの等級+18.70と距離2.7×106光年から質量15の青色巨星である事が解った。また、そのスペクトル線のドップラー偏移曲線から、その公転周期はP=3.45日であり、軌道離心率はe=0.0185であることが解った。
 
 さらに、驚くべき事に、この連星は互いに相手を隠し合う“食現象”を示していた。そのことにより、軌道傾斜角 =75°が極めて正確に決定できて、連星をなすブラックホールの質量70Mが正確に決定できた。
 両星の質量が確定したので、公転の軌道長半径a=42Rも決定できた。
 
 M33X-7はブラックホール質量が極めて大きかったために、可視伴星を大きく(a=42Rかつ速く(P=3.45日)振り回すことができた。そのため、こんなに遠い星のトップラー偏移曲線が観測できたのでしょう。
 実際、M33X-7は今まで観測できた中で、最も遠くのしかも最も重い“恒星質量ブラックホール”です。

 

.ブラックホール連星

 以下は福江純著「ブラックホールの重さ(1)恒星ブラックホール」『天文教育』2005年3月号からの引用です。

 はくちょう座 X-1 と同様な方法、すなわち連星の基本的な力学と伴星のスペクトル観測から、連星の片方がブラックホールだと推定されたものは、現在(2005年)までに、20個程度発見されている(表2、図8)。
 これらはいずれもX線放射から発見されたもので、いずれもX線を放射する降着円盤が形成可能な近接連星系(公転周期が数日以内)であることに注意して下さい。つまりX線観測からは、その様な 《通常恒星》 と 《近接連星系》 を成すブラックホールしか見つけることはできません。

[1] Kato, S., Fukue, J., Mineshige, S. 1998, Black-Hole Accretion Disks, Kyoto University Press, Kyoto
[2] McClintock, J.E., Remillard, R.A. 2003, astro-ph/0306213 により作成。
 上記表について補足します。ブラックホールの質量の推定値に幅があるということの意味は、先に述べたsin の軌道傾斜角 を見極める方法は近接連星が放射する可視光(通常恒星から)あるいはX線(ブラックホール降着円盤から)を互いに隠し合う食現象の観察しかありません。
 その方法からくる曖昧さのために、ブラックホール質量の推定値には幅があります。実際のところ、上記表の元データの推定値幅は次図の様になっています。(文献6.§1.3.3より引用)


 上図はあくまで、X線で観測できた、《通常恒星》と近接連星系を成すブラックホールの分布である事に注意してください。実際、X線が放射できるまて接近したブラックホール連星であり、しかも連星の片割れがX線放射の材料を供給できる通常恒星である場合の割合は、ブラックホール存在比の中でかなり低いはずです。

 また、ブラックホール近傍から放射される X線は、1 ミリ秒のような非常に短い時間で変動する性質が ある(図9)。

 さらに、放射される X 線スペクトルは、しばしば非常に高いエネルギーのX 線領域まで延びている(図10)。

 これら、ブラックホール周辺のプラズマから放射されるX線の性質から、質量はわからないものの、おそらくブラックホールだと推測されているものが、やはり数十個ある。(この記述は2005年当時の状況です。今日2021年では膨大な数になっているはずです)

 

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(4)ブラックホールの存在数

 X 線観測の歴史はまだまだ短く、実際の数はもっと多いだろう。おそらく、銀河系の中にブラックホールはゴロゴロあるに違いない。控えめな見積もりで、超新星の1 % 程度がブラックホールを残すとすると、銀河系内には一千万個以上のブラックホールが存在しているという試算もある。こうなると、ブラックホールは星の数ほどあるといっても差し支えなさそうだ。

補足説明1
 X線観測からその存在が確認できるブラックホールは、1.(3)3.の最初で説明した様に、近接連星系をなしていなければ成りません。しかもブラックホールと連星を成す片割れが、X線を放射する降着円盤が形成可能なガスを供給できる通常星でなければ成りません。これはかなり厳しい制約です。
 通常星と連星系をなすブラックホールには、公転周期が数ヶ月~数十年のものもあるでしょう。存在比から行くと、そちらの方がはるかに多いと予想されます。
 しかし、公転周期が長いものは互いの距離がかなり離れるので、ブラックホール近傍に降着円盤の様なものは形成されませんのでX線は放射しません。そのため、片方の通常恒星が可視光線等で観測可能で、通常恒星の軌道のフラつきが 実視的 or 分光学的 に検出される必要がある。しかし、これらの検出は地球からの距離が遠くなるにつれて急速に難しくなる。
 実際、先に取り上げた白鳥座X-1の位置(6000光年程度の距離)での年周視差は0.0006秒程度ですから、その位置で互いの公転半径が数天文単位(astronomical unit、記号: au)程度離れた場合でも、その公転半径aは0.001秒程度以下しかありません。これでは実視連星として観測するのは不可能です。また、公転速度も数十km以下になり公転周期も長くなりますから、分光学的な観測も難しくなります。つまり銀河内に分布する公転周期が長い連星系をなすブラックホールは(たとえそれが通常の可視星と連星系をなしていても)ほとんどが検出できません。
 たとえ検出できたとしても、連星を組む相手が見えない場合は、その相手が[暗い白色矮星]や[中性子星]かもしれず、[ブラックホール]であるかどうかの判定は難しい。
 一方の星の運動状態しか観測できない場合、すでに説明した様に質量関数の形の情報しか得られないので、見えない星の質量を予測するのはさらに難しい。

補足説明2
 ブラックホールが別の星と近接連星を成しているなら、相手の星から吸い込んだガスが形成する降着円盤が発する強力なX線放射が観測される。また、近接連星でない場合でもペアを組む通常星の運動状態が実視的・分光学的に観測されれば、相手のブラックホールの存在は予想できる。
 しかし、そのような連星系を成していない単独のブラックホールの検出は難しい。まして、その質量を求めるのはさらに難しい。
 
 単独ブラックホールを調べる方法としては、大きく、3つの方法が考えられる。
(1)ブラックホールの重力場を検出する
 ブラックホールが存在すると周辺の星やガスに重力的な影響を与えるのはず。そこで、そのような重力的影響を調べることは原理的にはありえるが、実際的には精度の点で問題があり、ブラックホール以外の暗い星とも区別できない。したがって、これは、あまり有効ではないだろう。
 
(2)エネルギー放射を検出する
 宇宙空間は完全な真空ではない。銀河系宇宙の平均的な空間では、1立方cm当たり1個程度の(水素)原子が存在している。そして星間空間の単独ブラックホールが星間のガスを吸い込めば、吸い込まれたガスが高温になって光り出す。
 ブラックホールに落下しつつある星間ガスからの電磁放射を検出するのはかなり有望だ。実際、星間空間で発見されている身元不明な光源の中には、吸い込みつつあるガスが光っている単独ブラックホールではないかと目されているものもある。ただし、この場合、単独のブラックホールの質量を求めるのは困難である。
 また、その様なメカニズムで輝いているブラックホール(太陽の10倍程度質量)には見かけ上ある種の白色矮星(DC-矮星)のスペクトル型と同じ様に見える場合もありますので、白色矮星との区別が難しい。
 
(3)重力レンズ効果を検出する
 重力レンズ効果を利用して探知する方法。星の位置をきわめて精度よく走査して重力レンズ効果による位置のずれを検出したり、あるいは、星の手前をブラックホールが横切る際に重力レンズ効果で星の明るさが変化する現象を検出する方法。
 後者の、重力レンズ効果によるブラックホール背後の星の増光現象らしいものは、実際に観測されている。重力レンズ効果による増光の性質は、ブラックホールの質量だけでなく、ブラックホールと星と地球の距離関係にもよるので、ブラックホールの質量には不確定性が残るが、いくつかの観測では、太陽質量の 6 倍から 10 倍という値が報告されている。
 
 いずれにしても、単独で存在するブラックホールを発見するのはほとんど不可能です。

補足説明3
 最近の観測・研究から解ってきたことですが、ブラックホール同士の連星系や、ブラックホールと中性子星との連星系も多数存在するらしい。つまり、連星系を成していても両者が光学的に見えない場合も多い。おそらくこの状態が大半でしょう。
 実際のところ、中性子星同士の連星系が存在することはそのパルサー信号から幾つも確認できていますが、ブラックホール同士の連星系では、それらが重力波放出で公転運動のエネルギーを失って最終的に合体して単独ブラックホールとなる最終段階で発する重力波を検出することでしかその存在を知ることはできません。
 そのようなブラックホール同士の連星系もかなりの割合で存在するはずですが、最後の合体が起こる瞬間しか、その存在を検出できないのですから、この状態の存在比はかなり高いと推察されます。
 合体が生じる状況まで進んだ連星系の割合は極めて少ないのですが、合体時に放出されるエネルギーは極めて強大です。多くの場合、星一つ分以上のエネルギーが重力波となってごく短時間に放出されますので、広い範囲からのイベントが検出可能です。だからこそ、これらのイベントが検出できているとも言えます。
 
 このことに付いては別稿「連星バルサーの発見と重力波の存在」3.(4)をご覧下さい。そこで説明している様に、合体するブラックホールの質量は実際に観測される重力波の波形から見積れます。またそのイベントが発生した場所の地球からの距離は重力波振幅の大きさから見積れます。
 その様にして見積もられた、現在の重力波観測装置で検出できている事象は地球から半径10億光年程度の球状領域内部のものです。その内部では連星ブラックホールの合体は数ヶ月に1度程度の頻度で生じている様です。
 そのとき、合体により一つのブラックホールになってしまうと、もはや重力波は放射しませんので、重力波でも全く見えなくなることに注意して下さい。つまり天の川銀河以外の銀河中で単独になって仕舞ったブラックホールを見つけるのはもはや不可能です。天の川銀河中の単独ブラックホールならば背景の恒星からの光が重力レンズ効果で歪む現象から感知できる可能性はありますが、遠く離れた銀河ではそれは不可能です。
 今日、宇宙がビックバンで開闢して以来130億年程度経過していると言われています。そのため現在我々が上記の重力波イベントが観測できる宇宙の範囲は130億光年の距離までの範囲の中の10億光年ということです。
 
 銀河系内での通常恒星とコンパクト星(中性子星やブラックホール)との近接連星系であるX線放射天体分布状況を、本稿の1.(1)3.図9.181.(3)3.図8で示しました。
 また、別稿「連星バルサーの発見と重力波の存在」3.(2)近接連星が重力波放出によりエネルギーを失って合体するまでの時間は数億年程度である事を説明しました。
 これらの事柄を考慮すると、連星系を構成していて、両者が光学的に見えないブラックホールの存在数は現在我々が想像している数よりも遙かに多いのかも知れません。

 

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2.銀河中心のブラックホール

)導入

.朝日新聞2020年10月20日「村山斉の時空自在」より



 上記の様に赤外線で観測することが本質的に重要だったのですが、このことに付いては別稿シリーズ現代の天文学5 銀河Ⅱの第3章§3.2“赤外線で見る銀河中心”をご覧下さい。

 

.ノーベルアカデミーより

 Genzel や Ghez の成果がノーベル賞の対象となったのは、ブラックホールを取り巻く恒星の軌道を、補償光学の手法で極めて正確に決定できた所にあります。その事の説明をノーベルアカデミーのHPに掲載の
https://www.nobelprize.org/uploads/2020/10/advanced-physicsprize2020.pdf
から以下に引用しておきます。訳文がつたなくてすみません。

.GhezとGenzelが主導する焦点を絞った観察プログラム

 マックスプランク地球外物理学研究所(MPE)のGenzelが率いる観測チームとカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のGhezが率いる2つの観測チームは、銀河中心を周回する星の動きを30年近く観察しています。Genzelのグループは、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が運営するチリで望遠鏡を使用し、Ghezと彼女の同僚はハワイのケック天文台を使用しました。
 銀河中心の非常に混雑した領域の軌道上で個々の星を区別するには、優れた空間分解能が必要です。天の川の中心にある星間塵による覆い隠しは、可視光波長での観測を阻害し、地球への視線に沿って塵を透過する光子は10億分の1未満です。そのため、2つのチームは、 λ= 2.2μmを中心とした近赤外線(天文学でのK-バンド)で観測を行いました。これらのより長い波長では、光子の平均自由行程がはるかに大きくなり、減衰が約10分の1に減少するため、観測が可能になります。
 信号を回復し、銀河中心の周りの恒星軌道をたどるには長い測定時間を必要とするために、宇宙探査機を用いた観測は現実的ではありません。地上での観測が必要であり、長い測定時間の間に地球の大気の変化から生じるぼやけを補償する方法を見つけることが課題になりました。両方のチームによって開発された技術的な解決法は、彼らの成功の鍵でした。

 

.銀河中心部の恒星運動の検出

 地球の大気の乱気流は、約1秒より短い時間スケールで光子の軌道を塗りつぶします。これを補うために、両方のチームは最初に近赤外線での speckle imagingの技術を開発して使用しました。非常に感度の高い検出器を使用して、10分の1秒をわずかに超える非常に短い露出を取得しました。一連の短時間の露出で得られた星像を空間的に重ねて加え合わされました。重ね合わされた画像のスタックは、最終的にぼやけた画像を、より鮮明でより深い画像として提供しました。
 10 m望遠鏡でのKバンド観測の場合、回折限界は約0.05秒角であり、銀河中心での2.5光日の空間スケールに対応します。図4(Ghez etal。1998から)は、ケック望遠鏡での銀河中心の個々の画像を、 speckle imagingの技術によって解決された画像と比較しています。射手座A*を取り巻く中央パーセク領域の星を空間的に分解する技術の力は明らかです。
 図5をご覧下さい。3.5 m New Technology Telescope(NTT; Eckart&Genzel 1996、1997)で4年間にわたって調査した後、少数の星の結果として投影速度ベクトルを、高い角度分解能で決定できました。
 Genzelのチームは、特別に構築されたSHARPカメラを使用して、空間分解能の回折限界に達することもできました。図6に示すように、回折限界画像によって解決された位置のシフトから推測される星の速度は、単一の巨大な点源に期待される v∝r-1/2 動作の測定に成功しました。


図4.  From Ghez et al. (1998).
(a) Keck-I 10 m望遠鏡を使用した、銀河中心を取り巻く星団の短い露出d時間(texp=0.13 s)の多くの画像の内の1つです。1つの明るい speckle(斑点)が支配的な speckle pattern を示す。
(b) 個々のフレームは、明るい基準光源を使用して同じ場所にシフトされます。
(c) 結果として得られた星の位置が表示されます。
(d) コンパクトオブジェクトをを取り巻く 1”×1” 恒星領域の回折限界の像。

拡大図

図5. From Eckart & Genzel (1997).
 中央のコンパクト電波源SgrA*×でマーク)を囲む中の、選択された星の固有運動と投影速度ベクトルの成分値。
 測定は4年間にわたって実施され、偏移量は1994年の基準位置に対して決定されている。


図6.  From Eckart & Genzel (1997).
 一連の測定から得られた、SgrA*からの投影距離の関数としての投影恒星速度の分布。0.2パーセク(円)内の最も内側の点で最高に達することが、ESO3.5mNTTでのSHARPカメラによる測定から得られた。
 曲線は、約250万太陽質量の超大質量ブラックホールからの効果の可能性を示しています。
 VLTとKeckからのより最近のデータを追加すると、質量推定値は400万太陽質量を超えると見積もられています。

 

.補償光学の時代:個々の星の軌道を追跡する

 speckle imaging 技術に伴う短い露光時間は、最も明るい星だけをモニタリングできるものに制限します。そのため、投影速度の確固たる決定値を得るためには、長い模索が必要でした。
 これらの限界は、Babcock(1953)によって最初に構想された“補償光学”が、ケック天文台のGhezのチーム(Wizinowich et al 2000)と、ESOが運営する超大型望遠鏡(VLT)のGenzelのチーム(Rousset et al 2003)で利用できるようになったときに克服されました。
 図7に示すように、補償光学技術は、観測対象の隣にある明るい参照オブジェクトを使用します。明るい星、またはナトリウム原子のレーザー励起によって上層大気の中に作られた人工の「星」です。
 変形可能な二次ミラーは、既知の参照オブジェクトへの収差を補正するために形状を変更します。補正はフィードバックループを使用してリアルタイムで実行されるため、長時間露光が可能になり、回折限界に至るまでの、はるかに鮮明で深い画像を作成できます。
 この技術革命により、“分光器”を使用して星を研究することも可能になり、2つの重要な機能が追加されました。“星の組成”を研究できることと、プロジェクトにとって極めて重要なこととして、投影速度に加えて“視線速度”を測定できるようになったことです。
 ESOで、Genzelのグループは、NACO機器による補償光学イメージングと SINFONI による分光法を使用して、8m VLTでのプログラムを開始しました。恒星の動きの統計的測定が新しい技術で行われただけでなく、最も重要なことは、個々の星が管理可能な時間スケールで正確に観察できるようになったことです。


図7.補償光学の原理。
 レーザーシステムは、地球の大気のぼやけを感知する人工のガイド星を作るために使用されます。
 レーザーによって生成された輝点[1]の画像は、フィードバックループで使用され、科学画像[3]の大気の乱れを効果的に補正する2次ミラー[2]の高速変形を導入します。

 

.銀河中心部でのコンパクト天体の発見

 GenzelのグループによってS2とラベル付けされた(Ghezが率いるチームはS02と呼ぶ)一つの星は、Sgr A*の周りを回るのに16年弱という非常に短い軌道周期を持っていることが示されました(Scho¨del et al.2002、Ghez et al.2003)。ちなみに、太陽が銀河中心を一周するには2億年以上かかります。
 この星は、離心率e= 0.88 という非常に潰れた楕円軌道を持っています。 2002年春における、 射手座A*からの近点距離は、わずか17光時、つまり1400太陽半径でした。これは質量4×106太陽質量のブラックホールの場合の値です、(図8を参照)。軌道面は、天球面に対して約46°の傾きを持っています。
 NTT/VLTとケック望遠鏡のデータの一致は素晴らしいものでした。統合されたデータの分析は、S2の軌道内の拡張された質量成分(目に見える星、恒星の残骸、そしておそらく暗黒物質)が中心質量の推定にほとんど寄与しないことを示しました(Ghez et al.2008、 Gillessen et al.2009b)。 2つのチームの共同作業により、銀河中心にはS2の近点、つまり125AU(天文単位)以内に約400万太陽質量の非常に集中した質量が含まれていることが確立されました。これには、5×1015太陽質量×p×c-3の最小密度が必要です。
 質量重心は、それ自体の見かけのサイズが1 AU未満であるコンパクト電波源であるSgr A*の位置から±2ミリ秒以内にあります(Shen et al.2005、Bower et al.2006、Doeleman et al.2008)。そして検出可能な確かな運動がありません(Reid&Brunthaler、2004)。
 これらの観測の確固たる解釈は、銀河中心のコンパクトオブジェクトが超大質量ブラックホールであることに適合しているということです。この結論をさらに支持するのは、近赤外線とX線のフレアが同じ位置から観察されるという事実です。このことは、巨大なブラックホールに向かう降着流が存在すると言うことに帰着させるのが自然です。


図8. From Genzel, Eisenhauer & Gillessen (2010).
 S2(S02)の天球状での軌道図(左パネル)と、s2(S02)の視線速度グラフ(右パネル)です。NTT/VLTとKeckの両方のデータがプロットしてあります。青丸はNTT/VLTのデータ点を、赤丸はKeckのデータ点を示しています。
 位置の座標値は射手座A*(黒丸円)の電波位置を基準にした相対値示しています。灰色の十字は、Sgr A*近傍の様々な位置で生じた赤外線フレアの位置です。

 

.銀河中心の結果に関する最近の更新

 干渉イメージングを使用したESO/VLT観測と4つのVLT望遠鏡を接続した位置天文学が、現在、主要な研究者の間でGenzelとのGRAVITYコラボレーション(Abuter et al.2018)によって実行されています。GRAVITYは、わずか20マイクロ秒角の角度分解能を達成しました。これは、最初のSHARPスペックルイメージングの結果よりも約100倍シャープです。
 図9は、ESO望遠鏡での観測に基づいて、射手座A*の周りのS2星の動きを画像化した26年間をまとめたものです。右上のパネルは、視線速度の測定に使用されたKeckとESOの両方からの分光観測を示しています。右下のパネルに示されているように、観測は十分に正確になり、星の位置が連続する夜の間で変化するのを見ることができます。
 特殊および一般相対論効果を含む軌道の最適な適合は、プロットに実線で示されています。測定により、銀河中心にあるコンパクトオブジェクトの絶妙な運動学的証拠が得られただけでなく、銀河中心までの距離のサブパーセント誤差推定と、超大質量ブラックホールに対する星の軌道をモデル化するために必要な相対論的補正の20σ検出も提供されました。。さらに、チームは軌道の相対論的歳差運動を検出することができました。これは、基本的な物理学に取り組む上で、本当に注目に値する実験的成果です。

拡大図

図9. From Abuter et al. (2018).
 1992年から2018年までの S2-SgrA*軌道の観察結果の要約。
[左図]: コンパクト電波源SgrA*(原点にある茶色×正方形)の位置に対する天球(J2000)上の星S2の投影軌道。三角形と円(および1σの不確かさ)は、NTTのSHARPとVLTのNACOを使用した位置測定を示し、時間に対して色分けされています(中央の色見本参照)。シアン色曲線は、一般相対性理論と特殊相対性理論の影響を含め、これらすべてのデータに最適なS2軌道を示しています。
[右下図]: 2018年の近点付近の拡大図を示しています。
[右上図]: 時間の関数としてのS2の視線速度(正方形:VLTでのSINFONI/NACO、三角形:ケックでのNIRC2)。S2は、2002年4月末に軌道の近点に到達し、2018年5月19日に再び近点軌道に到達しました。シアン色曲線は、一般相対性理論と特殊相対性理論の影響を含め、これらすべてのデータに最適なS2軌道を示しています。

補足説明
 上記の相対論的歳差運動とは“近星点移動”のことです。ここで取り上げている数値例を用いて近星点移動量を一般相対性理論に基づいて正確に計算する方法は別稿「ブラックホール近傍の力学」3.(4)9.をご覧下さい。
 ただし、ここで説明されている銀河中心のブラックホール質量の決定に一般相対性理論が必要ということではありません。すべてNewton力学に基づいた計算です。
 実際、中心ブラックホールの質量が如何に巨大だといっても、恒星S2(S0-2)の公転軌道位置で働く重力の強さはほとんどNewton力学で説明できるものであって一般相対性理論の効果はごくわずかです。
 もちろん、一般相対性理論による効果もありますので、その事が近星点移動を生じさせていると言うことです。

 

.最内安定円軌道付近の加熱物質の運動の検出

 図9のS2星の軌道によって示されるように、データはシュワルツシルト半径の数百倍より近いコンパクトオブジェクトの精査を許可していません。より深い観測がSgr A*に近い星を明らかにするかもしれないので、それは将来変わるかもしれません。
 しかし、約1時間の短い赤外線フレアが、数年にわたって偶然に発見されました(Genzel etal。2003、Ghez et al.2003)。
 これらのフレアはコンパクトオブジェクトのすぐ近くから発生し、GRAVITYの角度分解能が向上しているため、フレアを使用してSgrA*の周囲の最も内側の領域をトレースできる可能性があります(Abuter et al.2018)。
 フレアの光源は、400万太陽質量のSchwarzschild-Kerr black holeの最内安定円軌道(ISCO)のすぐ外側の領域に対応する、わずか3-5太陽半径の物理的距離で光速の30%で中心物体の周りを周回しているように見えます 。
 これらの観測は、一般相対性理論によって予測されるように、銀河中心のコンパクトオブジェクトが超大質量ブラックホールであるという仮説をさらに強力に支持します。

 

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(2)赤外線天文学(文献1.9章§5-1より引用)

 前節の導入文で説明されている様に銀河中心に存在する恒星の赤外線による観測が鍵を握っている。そのため赤外線天文学について最初に説明する。
 まず、赤外線を発見したのはドイツのハノーファー出身のイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェル(1800年)です。また紫外線を発見したのはドイツのヨハン・リッター(1801年)です。これらの事についてはPais(p79~80)の説明を参照。



 

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(3)紫外線天文学(文献1.9章§5-2より引用)

 丁度よい機会なので、紫外線天文学の発展についても補足。






 

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(4)銀河中心ブラックホールの質量

.銀河中心の恒星の運動

[文献5.§13.2より引用]



 上図を引用した文献5.の原本は2002年刊です。そのため、図13.4は少し古いのですが、恒星S0-2(orS2)が射手座Aの近傍を通過した2002年の軌道を観測できたことが決定的だった。
 2003年以後に発表されたGenzel et al.や Ghez et al. の論文をどうぞご覧下さい。文献7.の末尾に参考文献一覧があります。その内の幾つかはネットから入手可能です。

補足説明0
 上記の図13.4は、今(2021年)から12年以上前の事ですが私が高校で地学を教えていた頃、いろんな参考書で紹介され初めていました。この図を初めて見たとき、銀河中心ほど遠方にある星々の運動がここまで詳細に観測できるのか!! と 信じがたいと同時に目眩く思いがしたのを覚えています。
 
 1.(3)で説明した 白鳥座X-1までの距離は約6500光年で、その年周視差は(誤差の方が大きいのですが)~0.00058±0.001秒程度です。ところで銀河中心までの距離26000光年はその約4倍ですから、銀河中心の星々の年周視差は約0.0001秒程度です。これでは年周視差はとても測れません。
 ところが、1990年代の中頃には銀河系の中心には巨大なブラックホールが存在するのではないかと考えられ初めていました[2.(4)3.参照]。
 それならば、その周りを回る星々の公転半径や公転周期が推定できます。実際、後でわかる様に《星S02の公転軌道の長半径》a~1.46×1014m程度公転周期16年です。これは地球の公転半径(1天文単位)~1.49×1011mの1000倍程度です。だから《星S02の公転軌道の見かけの半径》0.1秒程度ある事になります。
 
 つまり、
この角度ならば、そしてこの公転周期ならば、地球から観測できるかも知れません。Genzel et al.や Ghez et al. は、おそらくその様に考えて、その観測を初めたのでしょう。当初は、とても観測できないだろうと誰もが思っていたのですが、彼らは遂にやり遂げたのです。そしてノーベル賞の受賞となった。

補足説明1
 図13.4中の恒星S0-2(下図のS2)のもう少し詳しい最近までの運動状態を示す(ノーベル財団のHPから)。
https://www.nobelprize.org/uploads/2020/10/fig4-phy-en-stars-closest-5f89a62563b5e.pdf

の様になります。
 恒星S2の視線速度グラフの曲線色は右軌道図の位置点色に対応します。そのとき、分光連星としての視線速度曲線が左グラフ図の様になることは、別稿「連星の軌道決定法」3.(3)[補足説明1]の図を参照されたし。そのとき、昇交点と降交点で視線速度は極値を取ります。また右図のS2の軌道速度の最大値7000km/sは近点で取る値の計算値です。これらについては後で説明します。

 

.ブラックホール質量の計算

.連星軌道要素の決定

 この場合は実視連星ですので、射手座Aの質量を計算するには、まず2.(4)1.[補足説明1]に引用している恒星S02の軌道運動の観測データから、別稿「連星の軌道決定法」2で説明した方法で、[射手座A]の回りを公転している恒星の軌道要素(公転周期Tと長軸半径a)を決定します。そのとき、[地球]と[射手座A]の距離26000光年はすでに解っているものとして公転恒星の見かけの視野角長軸半径から実際の長軸半径 a を計算します。
 厳密に求めるには、そこの解析的方法(フォン・ゼーリガーの方法、あるいはティーレ・インネスの方法を用いるべきですが、ここでは簡単にして図的方法(ツヴィエルスの方法)で計算します。その手順は別稿「コンパクト星(白色矮星)発見物語」2.[補足説明1]で引用しているNo.2プリントと同じです。

 視楕円の中心Oから主星S1(射手座A)を通る直線を引くと、“視楕円”“近星点”(を天球に投影した)Πで交わります。また、反対側は“視楕円”“遠星点”(を天球へ投影した)Π’で交わります[下図を参照]。

 このとき、主星(射手座A ブラックホール)は見えないのに、どのようにしてそこを通る直線が引けるのかですが、基本的には、1970年代以降に発展した超長基線電波干渉計(Very Long Baseline Interferometry)を用いてミリ波電波で[射手座A]の電波源イメージを捉えることでその位置が正確に決定されています。最近ではその電波発生源の大きさが1天文単位(地球の公転半径)程度であることまで突き止められています。
 もちろん主星(射手座A ブラックホール)の周りを公転する多くの恒星の軌道の様子(特にその近くでの速度変化の様子など)から、その位置を確定することもできると思います[こちらの図を参照]。

 線分ΠΠ’は伴星である恒星S2の真の軌道楕円の長軸を“天球”へ投影した線分ですから軌道の “離心率”

として求まります。
 次に、真の軌道楕円の長軸半径の投影 ΠΠ’ に平行な任意の弦を引き、それが視楕円を切る弦線分の中点を連ねていくと、真の軌道楕円の短径の天球への投影 NN’ が求まります。
 線分 NN’ に平行に任意の弦を引き、その長さを

倍に伸ばした点を連ねると“補助楕円”が求まる。
 これは真の軌道楕円に近星点と遠星点で外接する“補助円”の天球への投影となっています[下図を参照]。

 上図の[真楕円を天球に射影した視楕円、及び補助円を天球に射影した補助楕円][真楕円、及び補助円]の関係は解りにくい。別稿「連星の軌道決定法」で示した二つの図を再録しますので再録図再録50%図で確認して下さい。

 上図中の“補助楕円”の長半径が真の軌道長半径 a を与えます。実際その長さを図の縦横座標に取った天球での視野角度目盛りと比較すると 0.123秒の視野角 である事が解る。実際に図中の長半径の長さを物差しで測って、縦横座標のスケール目盛りと比較して見てください。
 さらに、軌道長半径 a補助楕円の短半径 m との比から“軌道面傾斜角” が求まって

となります。
 “真の軌道短半径” は、離心率 e長半径 a から次の式で求まります。

 このようにして、S02の公転長軸半径 a と公転周期T(観測値から明らか)が求まる。

 ちなみに、地球の公転半径(1天文単位)は1.5×1011mですから、 はその約1000倍です。それほどの半径の軌道をたった16年程度で公転していると言うことは恒星S2をつなぎ止めている中心天体Aが極めて大質量であることを意味します。

 

.伴星S02の公転速度の計算

 前項で求めた公転長軸半径aと公転周期Tを用いると面積速度が求まります。別稿「二体問題」1.(3)2.(9)式より

となります。
 一方

が求まります。
 近点と遠点では軌道半径ベクトルと公転速度ベクトルは直交しますから、近点と遠点での軌道半径を面積速度に適用すると

が得られます。
 ちなみに、地球が太陽の周りを公転する速度は28km/s程度です。また太陽が銀河中心の周りを公転している速度は200~300km/s程度です。
 近点での公転速度計算値7000km/sが先に引用したデータ図に記されていた値です。近点付近の公転軌道は天球面に平行でありませんので、この値が直接観測できるわけではありませんが、S02の軌道要素が解っていますので、先に引用したFigure9.右下図の観測値と関係付けて、その時間経過を説明することはできます。
 ここで求めた公転速度7000km/sは地球の半径(6400km)程度の距離を約1秒で通過すると言うことですから、驚異的な速度です。このことからも天体Aが極めて大質量であることが解ります。

補足説明1
 任意の位置での軌道速度の表現式を求める事もできます。ここでのS2星の軌道楕円(軌道離心率e=0.878)を例にして説明します。

 上図の黄色三角形の面積は“面積速度”を表しているとします。そのとき、図中のΔφは1秒当たりのradian単位での回転角(解りやすくする為に誇張・拡大してます)ですが、面積速度と次の関係があります。

さらに、Δrは以下の様に表せます。

実際、この式は近点(φ=0)と遠点(φ=π)でΔr=0となることを旨く表しています。
 このΔφΔrを用いると、楕円軌道方程式

で表される地点(r,φ)の公転軌道速度v

となります。すなわち、“公転軌道速度”a 、e 、φ 、T の関数として表せます。
 実際、この式にφ=0を代入すれぱ近点での、φ=πを代入すれぱ遠点での軌道速度が得られて、先に求めた値に一致します。また、楕円の中間のB点やB’点ではこの様になります。
 
 別稿「連星の軌道決定法」2.(3)この図などを参考にすれば、この軌道速度を天球面に射影したものを求めることができます。その様にして得られた射影公転軌道速度を、先に引用したデータの右図、あるいははFigure8.の左図の軌道公転時間と照らし合わせて比較検討すれば、S2軌道の精度をさらに高めることができます。
 
 さらに、別稿「連星の軌道決定法」3.(2)この図などを参考にすれば、この軌道速度の視線速度成分の時間的変化を求めることができます。その様にして得られた視線速度データを、先に引用したデータの左下図、あるいはFigure8.の右図の視線速度観測データと照らし合わせて比較検討すれば、そのグラフの精度をさらに高めることができます。
 
 いずれにしても、このとき《中心Aの質量の大きさ》 に対する の関わり方の中で表されていることに注意して下さい。

 

.主星ブラックホールAの質量決定

 軌道要素が解れば、次に別稿「二体問題」2.(3)1.の方法を用いて主星と伴星の質量を計算することになるのですが、今は主星である“射手座A”の質量が圧倒的に大きいため、二体問題ではなくて、一体問題としてのケプラーの第三法則

を用いることができます。すなわち、伴星S2の質量見積値は必要ありません
 この式に軌道要素を代入すれば、主星であるブラックホールAの質量が決定できて

となります。
 S0-2(orS2)の公転長軸半径aを図的方法で大雑把に求めたのですが、その値を用いて計算した、“軌道傾斜角”“軌道離心率” e 、“長軸半径視野角” a 、“ブラックホール質量” M 、等々・・・は専門論文で報告されている値に良く一致します。
 いずれにしても、が太陽質量の400万倍程度の質量を持つブラックホールであることは確かです。
 ちなみに、この“シュワルツシルド半径”

です。これは太陽半径R=7.0×108m の 16倍 程度です。

 

.分光連星データよる軌道長半径の決定

 2.(4)1.[補足説明1]で引用している恒星S2の軌道運動観測データには、分光連星としての視線速度時間変化グラフも含まれています。このデータを利用しても“真の軌道長半径” を求めることができます。
 分光連星の軌道解析法には、やや解析的なレーマン・フィレスの方法がありますが、ここでは最も簡単なツールヘレンの方法を用います。
 そのとき、別稿「連星の軌道決定法」3.(2)[補足説明1]で説明した様に、視線速度曲線の極値は下図のP(昇交点)P’(降交点)で生じます。また、“近点”“遠点”の通過時刻も下図のA点とA’点で示されています。先の軌道図の中にP点、P’点とA点、A’点を記入していますのでご確認下さい。
 ただし、引用したデータ図に記されている様に、視線速度の正方向を地球に近付く方向にしています。これは別稿「連星の軌道決定法」の定義と符号が逆ですので、昇交点と降交点の位置も別稿の図と逆になっていますので注意して下さい。

 Figure 9.右上図あるいは、引用データ図左下グラフ“ツールヘレンの方法”を適用すると

の関係が得られる。この図から

が判明する。離心率eは実視連星データから得られたものと同じ値が得られていることに注意。
 これらの値と、観測から解っている公転周期 P を用いると

が得られます。

 分光連星の観測データからは“軌道面傾斜角” を決めることはできませんが、実視連星の観測データから得られている =45°を用いると “真の軌道長半径”=1.1×1014m÷sin45°=1.57×1014m となります。
 すなわち、分光連星“として得られた視線速度観測データからも、実視観測データから“実視連星”解析で得られた“長軸半径”とほぼ同じ値が得られます。

 

.銀河中心ブラックホール質量を知る別の方法

 連星の力学を使うのとは違った方法を説明します[文献5.§13.2より]。



 ちなみに、この質量は銀河中心のブラックホール質量の約10倍です。

 NGC4258(M106)に対してなされた、水メーザー観測による方法は1990年代に日本の研究者(三好真、井上允、中井直正)が行った画期的研究です。
 N. Nakai, M.Inoue, M.Miyoshi, “Extremely-high-velocity H20 maser emission in the galaxy NGC4258”,Nature 361 (6407): 45-47.1993年
 Miyoshi, Makoto; Moran, James; Herrnstein, James; Greenhill, Lincoln; Nakai, Naomasa; Diamond, Philip; Inoue, Makoto. “Evidence for a black hole from high rotation velocities in a sub-parsec region of NGC4258”. Nature 373 (6510): 127-129.1995年

補足説明1
 銀河系中心付近の天体の回転を測定することでブラックホールの質量を見積る方法を2例ほどを説明しましたが、その様な個々の天体の具体的な運動状態が観測できないときでも、ブラックホールの質量を推定する方法があります。
 それは、銀河系の中心近くに集中している星の集合体について、沢山の星から集められた輝線のドップラー偏移の広がりを用いる方法です。
 輝線が大きく広がると言うことから、中心付近の星々の運動速度の大きさが推測できます。運動速度が大きいことが観測されれば、銀河の中心にブラックホールが存在することが推測さできます。
(文献3.福江「ブラックホールの重さ 2」を参照)
 
 驚くべき事に、銀河中心のブラックホール質量と、ブラックホールを取り巻く(銀河バルジと呼ばれる)銀河中心部の星の速度分散の間には高い相関があるように見える。ブラックホールの質量が大きければ大きいほど、速度も大きいのである。これは、106~1010に至るまで単純な関係であらわされている。そのことはブラックホール形成を理解する際の手かがかりとなるのかも知れない。
(Schutz「相対論入門」§11.4より)

 

.活動銀河核(クェーサー)

[文献5.§13.2より]





補足説明1
 クェーサー(Quasar)はその名前の由来(星状に見える電波天体 quasi-stellar radio source)から解る様に、最初は電波で明るい特異な天体として認識された。
 最初は幾つかの点状の不思議な電波源として認識されていました。例えば電波源3C273(ケンブリッジ大の3Cカタログ)は1959年にそのようにして発見されていた。しかしその光学的同定はかなり遅れて、1963年になって月の掩蔽を利用した位置計測により約13等の天体が光学的に認定されます。
 そして光学的スペクトル観測から大きな赤方偏移が観測されます。その事は天体の大きな後退速度意味しており、ハップルの法則と照らし合わせると、その天体が地球から25億光年彼方のものであることが判明します。
 それほど遠くの天体でありながら地球から13等星として認識できる程の光量(典型的な銀河の100倍程度)を放射して輝いている天体とは何だ と言うことで天文学に大きな謎を問いかけたのです。
 
 この当たりのもう少し詳しい歴史は文献3.「ブラックホールの重さ 2」2.クェーサーの発見をご覧下さい。1960年のアメリカのマシューズ(T.A. Matthews)とサンデージ(A. R. Sandage)による電波源の同定グリーンスタイン(Greenstein)スペクトル観測、そして1962年のハザード(C. Hazard)による電波源の同定カリフォルニア工科大学のシュミット(Maarten Schmidt)のスペクトル観測、そして1963 年2月のシュミットの発見は、天文学史としても特に有名な話です。
 参考文献9.のマーシャ・バトゥーシャク著「ブラックホール(アイディアの誕生から観測へ)」の第8章もご覧下さい。
 
 現在までに多くのクェーサーが見つかっていますが、全てのクェーサーが強い電波を放射しているわけではありません。発見されているクェーサーの大部分は電波の弱いクエーサー(radio-quiet quasar )で、電波の強いクエーサー(radio-loud quasar )は全体の約10%程度です。
 現在、 クェーサーは宇宙誕生後10億年も経たないうちにでき始め、宇宙年齢が20億~30億年の頃に最も多く形成された天体であると推察されています。

 

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3.ブラックホールの形成

 星が熱核反応の終末に達したら最終的に白色矮星あるいは中性子星に縮退することが解ってきた。
 そのとき電子の縮退圧で重力を支える恒星の残骸が白色矮星で、多くの白色矮星の質量は太陽の約0.5~1.0倍程度でその半径は5000~10000km程度です。平均的な密度は1cm3当たり1トン程度です。
 また、核子同士の反発力によって重力を支える星が中性子星で、質量が太陽質量の約3倍以下で、その半径は10km程度です。平均的な密度は1cm3当たり10億トン程度です。
 問題は、さらに重い星が熱源を失って縮退していく場合どの様なことが起こるかです。

)重力崩壊(文献4.§6-1から引用)

 恒星では普通、内部圧力によって平衡状態が正しく保持されているの、熱核反応が終了しないと重力崩壊が起こる事は無い。それでは銀河系の様なものが重力崩壊してしまう事は無いのであろうか。個々の星は互いに離れているので、相互に及ぼし合う圧力は無視できる程小さい。重力による銀河系レベルの崩壊が宇宙の寿命中に生じるのであろうか。
 この可能性を考慮するために、一定密度ρの物体が自己崩壊するのにかかる時間を計算してみる。

 t<0では物体(恒星、銀河系)は、内部圧力によって安定であるとする。t=0で圧力が突然0に下がったとする。すなわち星の核エネルギーが枯渇して光を放射できなくなったとする。そうすると物体は重力の作用のもとで自由落下して自己収縮する。
 自己収縮していく物体の表面にある任意の原子の運動方程式は

となる。球状質量分布Mの外縁にある質点mに対して、この方程式が成り立つことについては別稿「万有引力の法則への補足」で説明しています。
 この両辺からmを消去して、dR/dtを乗じて“エネルギー保存保存則”

を得る。ここで dR/dt=0 と置くと R=R0 だから、ここで定義された R0 は崩壊前の物体の半径です。
 この微分方程式は簡単に解ける。

ここで t(R0)=0 となる様に時間の原点は取られている。
 上式から、物体が自分の重力作用によって完全に一点に集中するまでの時間 t(R)=t(0)≡tK

となる。ここで重力定数の単位はm3/kg・s2だったことを思い出されたし。
 すなわち、崩壊時間は最初の平均密度ρによるのであって、物体が最初分布している広さR0には依存しない。このことは、質量が球状に分布している場合には別稿「万有引力の法則への補足」(3)で説明した事情が生じることから明らかです。

 ここで得られた時間スケールは様々な状況に当てはまる。

 これによって銀河系の安定性が理解できる。内部圧力によって安定性が保たれない物体は回転しなければ成らない。

はその回転の振動数である。実際そのことは

から明らかです。
 ここで、

となる。
 つまり、銀河系は回転が無いと 約108年≒約1億年 で自己崩壊する。現在銀河系の回転周期は約2億年程度と見積もられているが、その事の意味も上記の議論から簡単に理解できる。

 ここで、星の崩壊の話に戻る。今太陽程度の密度

を持つ星に於いて、エネルギーの枯渇が起こり星の内部の圧力と温度が急激に0に下がったとすると

程度で崩壊してしまうことになる。
 問題は、量子力学的な効果で安定性が保持される半径の状態にとどまれるかです。今日の知識ではまでの星ならば、白色矮星の状態で、またまでの星なら中性子星の状態でとどまれるが、それ以上の質量(おそらく)の星では電子の圧力も中性子の圧力も星の崩壊を止めることはできずに、収縮崩壊は続いてブラックホール天体になると考えられている。

 

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(2)ブラックホールの形成(文献4.§6-2から引用)

 下図は前節で説明した重力崩壊を空間-時間のグラフで表したもので、星が収縮してブラックホールができていく時間過程を下から上に向かって順々に示している。これは星の中心を通る横断面の収縮(つまり、星の無限に薄い円盤の振る舞い)を時間と共に追ったものです。



 図中に示されている光円錐の円錐の長さは、示されている重力場の位置の縮んだ物指し棒とゆっくり進む時計で測られた光速度の大きさを表しています。つまりどこの位置でも同一の光速度cの長さです。
 また、この図は時空間での光子の移動を表している事を忘れないで下さい。つまり別稿「時空の曲がりと測地線」4.(4)[補足説明2]で説明した様な意味です。このことについては、別稿「双子のパラドックスと一般相対性理論」2.(3)[補足説明1]などもご覧下さい。




 

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(3)暗黒物質について

 ここでの議論で重要なことは、重力収縮によってブラックホールまで潰れてしまうことは、この宇宙ではありふれたことで決して特別な事では無いと言うことです。実際、回転していない物質の分布はすべてブラックホールまで潰れてしまう可能性を秘めています。
 
 事実、ほとんどの銀河の中心や球状星団の中心には巨大なブラックホールが存在することが明らかになってきました。また、個々の銀河系内部に於いても連星か単独かにかかわらずブラックホール天体はありふれた存在の様です。このことに付いては1.(4)ブラックホールの存在数の考察を復習して下さい。
 
 そのため、未だ正体が不明の暗黒物質がブラックホールである可能性は否定できません。おそらくそうでしょう。

 

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4.参考文献

  1. 小暮智一著 「現代天文学-天体物理学の源流と開拓者たち」京都大学学術出版界(2015年刊)
  2. 小田稔著「X線天文学の誕生とその発展」https://www.jps.or.jp/books/50thkinen/50th_08/002.html
  3. 福江純著「ブラックホールの質量【1】 恒星ブラックホール」『天文教育』2005年3月号
    福江純著「ブラックホールの質量【2】 超巨大ブラックホール(前半)」『天文教育』2005年5月号
    福江純著「ブラックホールの質量【3】 超巨大ブラックホール(後半)」『天文教育』2005年7月号
  4. R.ゼックスル、H.ゼックスル共著(岡村浩、黒田正明共訳)「白色矮星とブラックホール(相対論的宇宙物理入門)」倍風館(1985年刊) 原本の初版は1975年刊、第2版は1979年刊
  5. ジェームズ・B・ハートル著(牧野伸義訳)「重力 - アインシュタインの一般相対性理論入門」日本評論社(2016年刊 原本は2002年刊)
  6. 小山勝二・峰重慎編「シリーズ現代の天文学8 ブラックホールと高エネルギー現象」日本評論社(2007年刊)
  7. www.nobelprize.org より引用
    https://www.nobelprize.org/uploads/2020/10/advanced-physicsprize2020.pdf
    https://www.nobelprize.org/uploads/2020/10/fig4-phy-en-stars-closest-5f89a62563b5e.pdf
  8. 祖父江義明、有本信雄、家正則編「シリーズ現代の天文学5 銀河Ⅱ-銀河系」日本評論社(2007年刊)
     第3章“銀河系の中心”をご覧下さい。この本が発刊された当時、ここを初めて読んだときには目眩く思いがしました。特に §3.1“電波で見る銀河中心”、§3.2“赤外線で見る銀河中心”、§3.3“X線、ガンマ線で見る銀河中心”は興味深い。この中の§3.2は別稿で引用。
  9. マーシャ・バトゥーシャク著「ブラックホール(アイディアの誕生から観測へ)」地人書館(2016年刊)
     これは面白い本です。第1章第4章第8章クェーサー第9章ブラックホールを別ページで引用。
  10. 須藤靖著「一般相対性理論」日本評論社(2005年刊)
     この中の§5.6“エディントン光度”を別ヘージで引用
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