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電磁場の相対性と特殊相対性理論

1.導入

 Einsteinは、特殊相対性理論論文(1905年)の前書きで次の様に述べている。



 上記の例をもう少し具体的に論じる為に、文中の“磁石”をサークル状の回路に電池を繋いで電流を流すことで構成する“電磁石回路”に置き換える。そして文中の“導体”を下図の様な“導線回路”に置き換える。

 上記文中の最初の状況は、“ファラデーの電磁誘導の法則”(別稿「電磁波の伝播」1.(1)参照)で説明できる。導線回路の位置の磁場が時間的に変化するために、その導線部分に誘導電場が生じて、導線中の電荷はその電場から受ける力=qによって動かされる。

 二番目の状況は、時間的に変化しない磁場中を導線回路が動き、その導線回路中の電荷に対して“ローレンツの力の法則”=q[×]による力が働き、導線中の電荷が動かされる。

 アインシュタインは上記の2つの状況を深く考察して特殊相対性理論を見つけたのですから、これはとても重要な例題で、多くの特殊相対性理論の教科書の導入部で必ず取り上げられています。しかし、特殊相対性理論の理解が進んだ後で、上記の現象を特殊相対性理論を用いて解説される事はほとんどありません。
 それは、マイケルソン・モーリーの実験が特殊相対性理論の考察にはとても重要なのに、特殊相対性理論を用いてその現象の詳細が解説される事が無いのと一緒です。
 マイケルソン・モーリーの実験については、別稿「マイケルソン・モーリーの実験(1887年)の特殊相対性理論による説明」で説明しましたが、本稿では上記の現象を特殊相対性理論によって説明してみます。これはなかなかの大仕事です。

補足説明1
 Einsteinの特殊相対性理論論文(1905年)前書き[補足説明1]に記した図はGauss単位系(非有理化、磁場H)で記されていましたが、本稿ではMKSA有理化単位系を用いて説明します。上図もその単位系に書き直しています。
 MKSA有理化単位系を用いるのは別稿「電磁場の相対性」で説明した結論をそのまま利用したいからです。さらに本稿ではそこで用いた記号をそのまま踏襲して用います。

補足説明2
 本稿の説明を始めるに当たり、ランダウ・リフシュツが「場の古典論」第3章“場の中の電荷”§15§16§17の最初に述べている事柄は味わい深いので以下引用する。


 

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2.電磁石回路が静止していて導線回路が動く場合(S系から見た場合)

 前章例の二番目の状況の説明から始めます。“電磁石回路”が静止して見える慣性系をS系とします。
 電磁石回路に電池を繋いで一定の電流を流します。そのとき電磁石回路には電荷密度ρが現れることが無い様に一定電流 (図の赤矢印)が流れている状態にします。そのような状況で電流が流れる状態にできる事は「電磁場の相対性」3.(3)3.[補足説明4]をご覧いただけば解ります。今は理想的な場合を考えていますので、回路の中に抵抗は存在せず回路を構成する導線も内部抵抗の無い完全導体と考えます。

  1.  “電磁石回路”を流れている電流(赤矢印)は別稿で説明したビオ・サバールの法則に従って“導線回路”の位置に磁場を生じます。

     “導線回路”上の各点に生じる磁場Bの大きさを正確に求めるには、“電磁石回路”AB辺BC辺CD辺DA辺の各電流密度要素が導線回路上の各点に生みだす磁場をビオ・サバールの法則によって計算すれは良い。
     その際、各電流素片からの効果を導線辺の長さにわたって積分します。積分の具体的なやり方は別稿「マクスウェルの応力」3.(1)2.を参照。そこの座標関係を本稿の状況に調節し、積分範囲を回路辺長にすれば良い。
     例えば導線回路ab辺の真ん中の位置に生じる磁場は、下図の様にビオ・サバールの法則 に従って電磁石回路のそれぞれの辺からの効果を計算する。
     このとき“電磁石回路”は静止しているので、電流も静的な電流分布(このことは重要3.[補足説明2]参照)です。だから静的な電流分布の場合にしか使えないビオ・サバールの法則で“導線回路”の位置の磁場が計算できます。


    その様にして求めた4つの辺が作る磁場を重ね合わせれば良い。
  2.  上記の方法で求めた“導線回路”上の様々な位置における磁場を例示すると、下図で示すような磁場B1〜B4等々・・・を生じます。

     幾何学的な状況から“導線回路”ab辺上に生じる磁場はその中央部に生じる磁場B1と大体同じになる(厳密には少し変化します)。また導線回路のcd辺の中央部に於ける磁場B3はB1よりも小さくなります。なぜなら、電磁石回路から見て辺cd辺abよりもより遠い位置にあるからです。そのとき導線回路のcd辺上の各点に於ける磁場はB3とほぼ同じになる(厳密にはあるいは方向に移動すると少し変化します)。
     更に、導線回路bc辺上生じる磁場はb点付近のB1値からc点付近のB3値に向かって次第に減少する。同様に、導線回路da辺上生じる磁場はd点付近のB3値からa点付近のB値に向かって次第に増大する。
     以上が電磁石回路によって導線回路の各位置に生じる磁場の様子です。これらは場所と共に変化しますが、時間的には変化しません。 
  3.  “電磁石回路”が作る静的な磁場の中を“導線回路”が図の方向に速度で移動しているとする。そのとき導線回路中の電荷(伝導電子q<0)はローレンツの力の法則(今は電場Eは存在しない)に従った力q[×]を受ける。
     辺ab中の伝導電子qに働く力は(qが負だから)b→a方向を向く回路ab辺に沿った方向の力q[×1]を受ける。同様に辺cd中の伝導電子qは(qが負だから)c→d方向の力q[×2]を受ける。
     さらに、辺bc中の伝導電子qは大きさq[×]の力を受ける。このとき辺bc中の位置によって1〜B2の間で変化するのですが、の方向が回路導線に沿った方向なので、伝導電子に働く力の方向は導線に垂直な方向になります。そのため、回路に沿った方向の起電力とは成りません。同様に辺da中の伝導電子に働く力も導線に垂直な方向なので、回路導線に沿った方向の起電力とは成りません。そのため辺bc辺da中の伝導電子に働く力は考慮する必要は無くなります。
  4.  結局、辺ab中の伝導電子に働くb→a方向の力と辺cd中の伝導電子に働くc→d方向の力だけが回路に沿った方向に働くことになります。
     このとき前者の力が後者の力よりも少し大きくなりますので、回路全体としては図中に青矢印で示した方向の電流が流れる事になります。伝導電子qは負ですから、伝導電子が移動する方向とは逆の方向に電流は流れます。

補足説明1 
 このとき“導線回路”に生じる電流について、次の事に注意して下さい。
 ab辺に存在する伝導電子に働く力とcd辺に存在する伝導電子に働く力はいずれもy軸の負方向を向いています。だから導線回路のda辺に伝導電子が集まって導線のda辺が負に帯電し、伝導電子の密度が少なくなったbc辺が正に帯電するのではないかと思われるかも知れません。
 しかし、導線回路が内部抵抗の無い完全導体である場合は導線回路内の一部に電荷が滞留することは在りません。電気的な力というものは極めて強大な力ですので、導線内部の伝導電子同志は互いに反発しあって導線内部の互いの分布をならして仕舞うからです。
 また、その様にならされる効果により、導線内部の伝導電子に働く力に場所的な変動があっても全体として一定の方向に流れる電流(青矢印)となります。
 電荷間に働く力がいかに強大なものであるかは、こちらのファインマンの説明をご覧下さい。

補足説明2
 ここで、さらに注意します。上記[補足説明1]で説明したように本来導線が帯電しているはずは無いのですが、“導線回路”は図のようにS系から見るとx軸の負の方向へ速度で動いています。そのため回路のbc辺da辺はローレンツ収縮のために少し縮んでいます。そのときbc辺をx軸方向に流れる伝導電子のS系から見たb→c方向の移動速度は遅くなりますから、伝導電子間の間隔の縮小はすくなくなり、bc辺辺は少し《正に帯電》している様に見えます。また、da辺をx軸の負の方向に流れる伝導電子のS系から見たd→a方向の移動速度はより速くなりますから、伝導電子間の間隔の縮小は導線自体の縮小よりもよりも大きくなります。そのためda辺は少し《負に帯電》している様に見えます。
 bc辺がどの程度正に、またda辺がどの程度負に帯電して見えるかを見積もるのは難しいのですが、第3章で説明する様に、S系で観測される“導線回路”の電荷密度と電流密度をローレンツ変換によってS’系での対応する電荷密度と電流密度に対応付けたときに、S’系から見て静止している“導線回路”a’b’c’d’が帯電していない様に見える結果が得られるのが自然です。その様な状況になるにはS系での“導線回路”abcdは上記の様に少し帯電して見えるはずです。
 このことについては後ほど3.[補足説明5]で再度説明します。

 

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3.電磁石回路が動いて導線回路が静止している場合(S’系から見た場合)

 1章で取り上げた例の最初の状況を説明します。すなわち、2.章の現象を“導線回路”abcd)が静止して見える慣性系S’系から見た場合を考察します。そのとき、導線回路は静止しており、“電磁石回路”ABCD)が下図の様に導線回路(abcd)に向かって速度vで移動している様に見えます。
 第2章の説明と混同しないように、ここでは“電磁石回路”A’B’C’D’で、を“導線回路”a’b’c’d’で表す事にします。

  1.  S系から見た“電磁石回路”は帯電していない状態で電流が流れていました。しかし特殊相対性理論によると、S’系から見た導線のB’C’辺《正に帯電》したように見えます。つまり負の電荷密度が現れます。それはB’C’辺を移動する伝導電子の速度がS系で見た場合よりも遅くなったように見えるため、伝導電子間隔に対するローレンツ収縮が少し解消されて、結果として電子の電荷密度が小さくり、一方導線を構成する陽イオン原子が動き始めるためローレンツ収縮のために陽イオン密度が大きくなるからです。この当たりはとても難しいところですが、別稿「電磁場の相対性」や別稿「相対論的力学」3.(5)復習されて下さい。
     またD’A’辺《負に帯電》したように見えます。それはD’A’辺を移動する伝導電子の速度がS系で見た場合よりも大きくなったように見えるため、伝導電子間隔がローレンツ収縮のため狭まり、結果として電子の電荷密度が大きくなるからです。このとき、導線を構成する陽イオン原子が動き始めるためローレンツ収縮のために陽イオン密度も大きくなりますが、伝導電子の密度が大きくなる効果の方が上回ります。そのため負の電荷密度が現れます。
     さらに、B’C’辺流れる電流密度はS系での値より少し大きくなりますし、D’A’辺を流れる電流密度もS系での値より少し大きくなります
     この様になることは、別稿「電磁場の相対性」5.[補足説明2]で説明したローレンツ変換式を用いれば確かめられます。B’C’辺上の電流密度と電荷密度について調べると下図の様に《正に帯電》することが導けます。

    D’A’辺については、電流密度 jx の方向が逆(<0)になることから、《負に帯電》することが導けます。
     
     さらに、“電磁石回路”の移動方向に対して垂直な辺であるA’B’辺C’D’辺については電荷密度については中性(=0)のままですし、A’B’辺C’D’辺を流れる電流密度についてもS系での値と同じです。
     別稿「電磁場の相対性」5.[補足説明2]で説明したローレンツ変換式でA’B’辺について確認すると下図の様にその事が導けます。

補足説明1
 上記の説明で、A’B’辺C’D’辺を流れる電流密度はS系とS’系で変わらないのに、B’C’辺D’A’辺を流れる電流密度はS系での値より少し大きくなると説明しましたが、これは電磁石回路のB’C’辺D’A’辺をS’系から見ると運動している様に見えるため辺の長さがローレンツ収縮しているためです。それ故に、回路を流れる電流の連続性について矛盾が生じることはありません。
 また、B’C’辺D’A’辺の電荷密度がゼロでなくなり、B’C’辺では《正に帯電》したように見え、D’A’辺では《負に帯電》したように見えると言いましたが、その様に見える事は別稿「電磁場の相対性」3.(3)3.[補足説明3]で説明していますのでご確認下さい。特に次図をご検討下さい。ただしS系に対するS’系の運動方向がそこと逆になっていますので、右図の様に読み替えて下さい。

 右図を検討されれば、S’系から見たとき、A’B’辺C’D’辺では導線内の[陽イオン間隔]と[伝導電子間隔]は同じであるのに対して、B’C’辺では[陽イオン間隔]<[伝導電子間隔]となり《正に帯電》したように見え、D’A’辺では[陽イオン間隔]>[伝導電子間隔]となり《負に帯電》したように見える事が確認できます。
 もちろん、元のS系においてはAB辺BC辺CD辺DA辺のすべての辺で[陽イオン間隔]=[伝導電子間隔]となり、どの辺も帯電している様には見えません。
 そのとき、S系からS’系に移ったときに回路の角の部分で電荷密度の連続性はどうなるのか疑問に思われた方もおられるかも知れませんが、上記のミンコフスキー時空図で確認されれば、その疑問は解消します。

  1.  1.で求めた“電磁石回路”の帯電状況と電流密度を用いて、“導線回路”の位置に生じる電磁場を求めます。
     電磁石回路の移動速度vは光速度cに比べてv≪cですから、1.で求めたS’系での電流密度値jx’やjy’はS系での値であるjxやjyとほとんど変わりません(厳密には少し変わりますが)。
     そのため、導線回路a’b’c’d’の位置に生じる磁場の様子は2章で求めたのとほとんど同じで

    の様になります。図中の1’〜B4は、S系での値1〜B4とごく僅か異なるのですが、厳密な値は後で求めます。
     
     次に、S’系のB’C’辺D’A’辺の電荷密度がゼロでなくなり、B’C’辺では正に、D’A’辺では負に帯電している様に見えることに伴う効果を考えます。
     B’C’辺では正に、D’A’辺では負に帯電していると導線回路の各部分には電場が生じます。
     そのおおよその値は下図の様にして《正に帯電》したB’C’辺が作る電場と《負に帯電》したD’A’辺が作る電場をクーロン(ガウス)の法則によって求めて重ね合わせれば良い。厳密に求めるには各辺の微小電荷密度要素について各辺の長さ分だけ積分して求めます。
     辺a’b’上では下図の1になります。

     辺c’d’上では下図の3になります。

    このとき幾何学的な関係からE1’>E3’となることを読み取って下さい。
     辺b’c’上では下図の2になります。

     辺d’a’上では下図の4になります。

     辺b’c’上と辺d’a’上に生じる電場は回路に垂直になりますので、伝導電子qに対して回路に沿った方向の力を及ぼすことは有りません。その為これらの辺上での起電力は無視できます。
     上記の2つの効果、すなわち“電磁石回路”の帯電状況と電流密度、によって“導線回路”の位置に生じる電磁場はおよそ下図の様になります。

     しかし、残念ながらこれは正しい答えではありません。どこがおかしいかと言うと電場E1’〜E4’が予想される方向とは反対を向いています。
     以上の説明の中の“電磁石回路”A’B’C’D’の帯電状況には間違いありません。そしてその帯電状態から予想される電場の方向も間違いありません。実際“電磁石回路”B’C’辺D’A’辺の電流密度が作る磁場B’BCやB’DA

    との対応関係を確認すると別稿「電磁場の相対性」で取り上げた例との対応関係と同じですから。
     何が間違っていたのか、また正しい答えはどうやって求めたら良いのかを次の[補足説明2]で説明します。

補足説明2
 上記の計算の間違いの原因は、S’系での電荷密度分布や電流密度分布が時間的に変化することを考慮しなかったことです。中でも最大の理由は“導線回路”の位置に生じる磁場が時間的に変化することを考慮しなかったことです。
 “電磁石回路”“導線回路”の位置に作る磁場はB’C’辺D’A’辺が作る磁場B’BCやB’DAだけではなく、A’B’辺C’D’辺が作るもっと強大な磁場B’ABやB’CDが有ります。しかもこれらの磁場は時間的に変化します
 つまり、“導線回路”の位置に生じる強力な磁場B’ABやB’CDは時間的に増大しています。だからファラデーの電磁誘導の法則によって上記に静的な考察で求めた電場を上回るもっと強力な電場が生じているはずで。
 
 さらに付け加えると、上記で静的な考察から求めた“導線回路”の位置にできる電場E1’〜E4’も時間的に変化しますから、電場の時間的変化の項を付け加えることによってMaxwellが改良したアンペール法則に従って新たに磁場を生み出します。
 
 別稿「電磁場の相対性」で取り上げた例では、導線が無限に長いため、電過密度分布・電流密度分布の時間的変化を考えなくて良かったので、たまたまそこでの様な静的電荷分布と静的電流密度分布による取り扱いができただけです。
 
 だから、電荷密度分布や電流密度分布が時間的に変化する場合には、静的電荷によるクーロンの法則や、静的電流によるビオ・サバールの法則ではそれらの周りの電磁場の様子を求める事はできません。 
 それでは、どうして求めたら良いのでしょうか。それはEinstein論文(1905年)で求めているローレンツ変換共変の電磁場の変換式で求めれば良いのです。それを次で説明します。

  1.  以上のように“導線回路”a’b’c’d’上の電場と磁場の分布を静的な考察から求めることはできません。実際に求めるには、“電磁石回路”中の時間的・場所的に変化する電荷密度分布と電流密度分布から“導線回路”上の各点の電磁場を求める。その方法に付いては4.[補足説明1]を参照されれば良いのですが、実際にそれをやるのは極めて難しい。
     
     ところが、相対性理論が教えてくれる様にS系での導線回路上での電磁場の様子が解っている場合には、ローレンツ変換共変の変換式に依ってS’系における“導線回路”上での電磁場を求める事ができます。
     ローレンツ変換共変の変換式は別稿「電磁場の相対性」5.[補足説明2]で説明していますので、そこを復習して下さい。もちろん、この変換式はEinsteinが論文(1905年)で求めている(ただしGauss単位系)ものです。
     例えば辺a’b’の中点では下記の様になります。

    ここでv≪cですから、B1’はB1より少し大きな値になりますが、ほぼB1と等しくなることが解ります。またE1’はほぼv×B1と同じ値(厳密にはそれより少し大きい)に成ることが解ります。辺c’d’上の電磁場についても同様なローレンツ変換共変の変換式で求まります。
     さらに辺b’c’の中点での値を求めて見ると下記の様になります。

    辺c’d’上の電磁場や、辺d’a’上の電磁場についても同様です。
     結局下図の様な電磁場が求まります。

     この図と先ほどの静的な考察から求めた図との違いに注意して下さい。同じ記号B’〜B’、E’〜E’を用いていますが、その値は先ほどの値とは異なります。また、電場E’〜E’については方向が先ほどとは逆向きです。

補足説明3
  S系から見た時の電磁場とS’系から見た時の電磁場は上記の様に“ローレンツ変換共変の変換式”で結びつけられますが、決して“ローレンツ変換”そのもので結びつけられるわけではありません。
 先ほど電磁石回路上の[電荷密度と電流密度]をS系から見た時の値とS’系から見た時ときの値は“ローレンツ変換”によって結びつけられたのに、[電磁場]についてはそうなっていない訳を説明します。
 別稿「4元速度(4元運動量、4元電流密度)、4元加速度と4元力」3.(2)で説明した様に、[電荷密度と電流密度]は一緒になって元々“4元的なベクトル場”を構成しています。その為変換式がローレンツ変換そのものになったのです。
 それに対して、電場(Ex,Ey,Ez)と磁場(Bx,By,Bz)のそれぞれは4元的な量ではありません。これらを一緒にして4×4の方形に並べたものが本来の形です。つまり4×4=16成分の“4元テンソル場”です。そのため“ローレンツの力の法則”4元速度4元力を用いると、上記別稿4.(2)で示したように

の様に表現されます。ただしこれはGCSgauss単位系(非有理化、磁場H)での表現です。
 また、ここの電磁場テンソルは(1,1)型つまり混合テンソル表現です。2階共変テンソル表現や2階反変テンソル表現もありますが、4元化に伴って共変成分・反変成分の概念が必要になり、とても難しい話になります。この部分の難しさを避けるために3次元表現で我慢して、ローレンツ変換共変の変換式を用いた方が良いのかも知れません。
 いずれにしても。電磁場を“4元テンソル表現”にすれば“ローレンツ変換”に従って変換されます。その事については上記別稿の4.(3)2.をご覧下さい。
 本来あらゆる物理量は空間次元成分と時間次元成分を持っていると考えねばなりません。なぜならあらゆる物理量は4次元時空の中でのみ意味を持つからです。またそうであるために4次元的表現にして初めて、2つの座標系におけるそれらの物理量が(ローレンツ共変の変換ではなくて)“ローレンツ変換”によって結びつけられます。

  1.  S’系から見た時の“導線回路”a’b’c’d’上の電場と磁場の分布

    が求まりましたので、導線回路内の伝導電子qに働く力を求める事ができます。
     そのとき、電荷qは別稿「電磁場中の荷電粒子の運動(Lagrangian、Hamiltonian)」で説明した相対論的に正しい運動方程式

    に従って運動します。別稿「オームの法則」1.で説明した様に、導線内を流れていく電子の平均的な速度は数mm/s程度ですから、非相対論的な運動方程式で十分なのですが、収支一貫した議論にするため上式を用います。

     いずれにしましても、“導線回路”a’b’c’d’中のa’b’辺にはqE’の力が、c’d’辺にはqE’の力が働きます。q<0ですから、力の方向はいずれもy軸の負方向を向いています。qE’>qE’ですから“導線回路”には図の青色矢印で示した方向の電流が流れます。q<0ですから、電流の方向は伝導電子qが動く方向と逆です。
     このとき、のb’c’辺の電荷に働く力qE’とd’a’辺の電荷に働く力qE4’は導線に対して垂直ですから、起電力には関与しません。
     また、回路に電流が流れ始めると各辺における磁場により、運動電荷qにはq[×]のローレンツ力が働きますが、それらはすべて導線に垂直な方向ですから、起電力には関与しません。

     実際のS’系での電荷に働く力とS系での電荷に働く力の関係は別稿「4元速度(4元運動量、4元電流密度)、4元加速度と4元力」5.(1)2.で説明していますように以下の様になります。以下ではここでの表記に一致するように電荷の移動速度をへ、S座標系に対するS’座標系の移動速度をV→vへ置き換えています。

     左側のローレン変換共変の変換式の逆変換(右側の式)は、相対性原理により、左側の変換式のvを−vに変換して ’ の付いたFx’、Fy’、Fz’、ux’と、 ’ の付いていないFx、Fy、Fz、uxを入れ替えたものに一致します。このときuxをS’系から見た物体の移動速度であるux’に置き換えなければならないことに注意して下さい。
     とにかく、これが3次元力のローレンツ変換共変の変換式です。

補足説明4
 別稿「電磁場の相対性」5.[補足説明2]と、それに続く5.[補足説明3]で説明した様に、S’系での“導線回路”a’b’c’d’中の電荷qに働く力と、S系での“導線回路”abcd中の電荷qに働く力は互いに、ローレンツ変換共変の関係式で結びつけられており、互いに等しくはありません。このことはファインマンも「電磁場の相対性」4.で繰り返し強調していることです。
 そのとき注意して欲しい事は伝導電子の持つ電荷qはローレンツ変換に対して不変別稿3.(1)参照)ですから、S系でもS’系でも同じです。これはEinsteinが1905年論文の§9で初めて指摘した極めて重要な命題です。
 このことと、電荷密度ρや電流密度 j がローレンツ変換によって変換される事とくれぐれも混同しないで下さい。
 
 さらに補足しますと、上記では力の3次元的表現を用いたためにローレンツ変換共変な変換式になったのであって、4元的表現にしたものを用いるとローレンツ変換で結びつけられます。
 3次元的な力の表現と4元ベクトルとしての力の表現の対応関係については別稿「4元速度(4元運動量、4元電流密度)、4元加速度と4元力」5.(2)をご覧下さい。
 そのとき4元力が従うローレンツ変換の具体的な形については上記別稿の5.(3)をご覧下さい。

  1.  最後にS’系から見た“導線回路”a’b’c’d’中の電荷密度と電流密度の状況を確認しておきます。これは当然S系から見た時の“導線回路”abcd中の電荷密度と電流密度をローレンツ変換した値になるはずです。S系から見た時の“導線回路”abcd中の電荷密度と電流密度は2.2.の図を復習して下さい。
     例えば辺a’b’での値を求めて見ると次の様になります。

    つまり辺a’b’では、帯電しておらず、電流密度はS系での値と同じです。辺c’d’に付いても同様です。
     
     また、辺b’c’での値を求めて見ると次の様になります。辺d’a’に付いても同様です。

     ここで、2.[補足説明2]で説明したように、S系での辺bcは正に、辺daは負に少し帯電していますので上式中のρはゼロではないことに注意して下さい。しかし、S’系から見た辺b’c’辺d’a’は帯電していません。
     また、S’系から見た辺b’c’辺d’a’のどちらの辺についても電流密度はS系での値よりも少し小さな値となります。そうなるのは元のS系の辺bc辺daにおけるρと jx の符号が両方の辺で互いに反対だからです。

補足説明5
 S系とS’系での電荷密度と電流密度の対応関係については2.[補足説明2]で説明した事柄に注意して下さい。
 S’系から見た時に“導線回路”a’b’c’d’は静止していますから、2.[補足説明1]で注意した事柄から、S’系から見たとき導線は帯電しておらず電流密度のみが存在する様に電流が流れているのが自然です。
 だからその状態から逆にローレンツ変換をして得られる値が、S系から見た時の“導線回路”abcdにおける電荷密度と電流密度となるはずです。

 

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4.すべてが相対的ですべてがローレンツ変換共変の変換式で関係付けられる

 以上説明したように、1.導入で述べた2つの現象の関係を特殊相対性理論によって正確に理解するのはかなり大変です。

 この2つの現象を特殊相対性理論で読み解くには、まずS系での“電磁石回路”ABCDの帯電状況と電流密度とS’系での“電磁石回路”A’B’C’D’の帯電状況と電流密度が、お互いにローレンツ変換で関係づけられる事を理解することが必要です。
 次に、S系での“電磁石回路”ABCDの帯電状況と電流密度状況を用いて、S系での“導線回路”abcdの位置に生じる電磁場を計算します。同時にS’系での“電磁石回路”A’B’C’D’時間的に変化する帯電分布と電流密度分布を用いて、S’系での“導線回路”a’b’c’d’の位置に生じる電磁場を計算します(このことに付いては下記[補足説明1]を参照)。
 そうすると、S系とS’系での電磁場はローレンツ変換共変の変換式で関係付けられていることが理解できます。そのとき、電磁場を4元テンソル表現にすると互いにローレンツ変換で関係づけられます。
 次に、その様にして計算されたS系とS’系の電磁場を用いて、S系での“導線回路”abcdに生じる現象とS’系での“導線回路”a’b’c’d’に生じる現象を論じます。それぞれの電荷に働く力も、それぞれの“導線回路”に生じる電荷密度分布電流密度分布も互いにローレンツ変換共変の変換かローレンツ変換によって関係付けられます。

 つまりS系におけるあらゆる物理量・物理現象がローレンツ変換式(あるいはローレンツ変換共変な変換式)によってS’系での物理量・物理現象に関係付けられる

 多くの教科書では2つの現象が全く同じ様に起きると説明し、それが“物理法則の相対性原理”(つまりあらゆる慣性系において、同じ物理法則が成り立つ)の表れであると説明しています。しかし、このことの意味を正しく理解するのは簡単ではありません。
 本稿で述べた様に、S系での電場・磁場、電荷密度・電流密度、電荷に働く力、電荷の移動速度などは、S’系での電場・磁場、電荷密度・電流密度、電荷に働く力、電荷の移動速度とほとんど同じですが、両者は完全に同じではなく、微妙に異なっています。実際、S系とS’系で“電磁石回路”“導線回路”の運動状態が異なり、電磁場の様子が異なるのはもちろんですが、回路中の電流密度分布も電荷密度分布も異なっていますし、回路中の電荷に働く力の大きさ・方向も異なっています。
 しかし、S系での値と、S’系でのそれらの値はローレンツ変換式(あるいはローレンツ変換共変な変換式)によって完璧に関係付けられています。この様に完璧に関係付けられていることが、“物理法則が相対性原理を満たす”と言うことです。

補足説明1
 時間的に変化する電荷分布、電流密度分布が作り出す電磁場の計算は「Maxwell方程式系の先見性と電磁ポテンシャル(ローレンツゲージ Lorenz gauge の由来)」2.(3)3.で求めた時間的に変化する電荷分布と電流分布が与えられたときのスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルに対する波動方程式を解くことになる。
 実際の解は別稿「カルマン渦列(動的安定解析)」2.(3) (ただしこれは静的分布のとき)や、別稿「非同次波動方程式の一般解」 や、別稿「ポアソン方程式(Poisson's equation)と波動方程式(wave equation)」2.で求めていますが、それらの解を問題の地点に影響を及ぼし得る電荷密度と電流密度の時間、空間分布について重ね合わせたものが必要な解となる。
 そうして求めたスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルから電場と磁場を求めれば良い。
 しかし、言うはたやすいが、実際の計算は膨大なものになり、極めて面倒です。

 

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5.後書き

 本稿で説明した内容のページを以前から作りたいと思っていたのですが、なかなか取りかかれませんでした。それと申しますのも、私自身が良く理解できていないところがあって様々な疑問を抱えていたからです。
 
 それらの疑問とは、ファインマンが「電磁場の相対性」4.の中で強調しているS系の電荷とS’系の電荷に働く力が近似的に等しいだけであると言っていることや、本稿の2.[補足説明2]3.[補足説明5]で説明した事柄や、3.[補足説明2]に関係した事柄に関係したものでした。
 
 それらの疑問が長い間漠然と心に引っかかっていたのですが、最近、ある読者の方からの質問に関連して、この問題を考え直して見たのです。そしたら思いがけず第4章に記したことが見えてきてきたのです。この認識にいたって、すべての事柄が明瞭に理解できました。それで、やっと本稿を書くことができました。
 いずれにしましても、読者から頂いたご質問にとても感謝しています。

 

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