ボソン方程式・ラプラス方程式と非同次波動方程式・同次波動方程式の対応関係を説明します。これはニュートンの古典的運動理論とアインシュタインの特殊相対性理論の関係に相当します。
ポアソンの方程式とその解については別稿「カルマン渦列(動的安定性解析)」2.(3)でベクトル解析の基本定理[ヘルムホルツの定理]を説明するときに“グリーン(Green)の定理”を利用してすでに説明しています。
しかし、この方程式とその解はとても重要なので、今一度直接的に導きます。本稿は文献1.のやり方をそのまま引用踏襲しています。
3次元の領域Vで定義されている関数ρ(r)に対して
なる関数は、偏微分方程式
を満たす。この偏微分方程式を“ポアソン方程式(Poisson's equation)”と言う。
前述の解を“ポアソン方程式”の左辺に代入して、それが右辺になることを証明すれば良い。そのとき位置 r 付近の体積領域に関する積分は |r−r’|→0 となるので、被積分関数が発散する可能性がある。そのため体積積分の領域をrの近傍領域(Viとする)とそれ以外の領域(Veとする)に分けて考える。
この式は、例えば
等々がこの式を満足する。 ただし、いずれにしても用いる単位系により、それぞれのポテンシャル場の表現にかかる比例定数は場合ごとに調整しなければ成りません。
ここで注意して欲しいことは、これらのポテンシャル解φ(r)は、[湧きだし密度]、[電荷密度]、[質量密度]などの空間的な分布の様子が時間的に変化しない場合です。ポテンシャルを生み出す原因となるこれらの密度分布の様子が時間的に変化する(例えば湧きだしの強度が時間的に変化したり、電荷や質量が時間的に場所を移動する)場合には、ここの“ポアソン方程式”を満足するわけではありません。次章2.で説明する“波動方程式”の形になり、その解の形も変わってきます。
前節の証明から明らかな様に、φ を求める場所 r が密度関数ρ(r)=0 の領域ならば、関数φ(r) は
なる偏微分方程式を満たす事になる。この偏微分方程式を“ラプラス方程式(Laplace equation])”という。
ポアソンの方程式とラプラスの方程式の左辺の意味を理解するには、例えば電磁気学におけるMaxwell方程式
を思い出せば良い。ここで、考察しているポテンシャル関数φ(r)とは
の事だったから
が成り立つ。(単位系の関係で4πが右辺に現れているが、両辺を4πで割ってφの表現に含めても良い。)
ところで、電場ベクトルEに関しては別稿「ガウスの法則(静電気学)」で説明したように、電荷から生じる電気力線が微小領域を貫くとき
“任意の閉曲面を横切る電気力線の総本数(電界ベクトルEの法線成分の面積和)は、その閉曲面内の電気量の4πk0倍に等しい。”
のでした。だからその領域内に電荷が存在しなければdivEは常に0になります。電荷が存在しない点におけるポテンシャルφに対するラプラス方程式はそのことを言っているにすぎません。また電荷ρが存在する点におけるポアソンの方程式もそこのガウスの定理の内容を言っているにすぎません。
そのとき、注意して欲しいことは、今考えている領域外に存在する電荷が作る電気力線の効果は、今考えている位置rでの閉領域を貫く全効果を足し合わせるとその領域に対してつねにdivE=0 でしかない事です。
それが電荷からの“距離の逆二乗法則に従う”電場“ベクトルの示す性質”のすべてです。だから電場Eが、その強度の変化率(勾配)から電場を生み出すことになるポテンシャル関数φ(r)に対しても同様な意味を持つことになる。ポアソンの方程式とラプラスの方程式はそのことを表しているにすぎません。
ここで注意して欲しいことは、この“ラプラス方程式”は、ポテンシャル場φ(r)を生み出す原因となる密度分布ρ(r)が 0 の場所に於いて、ポテンシャル場はこのラプラス方程式が示す空間的な変化の条件を満たさねば成らないと言っているだけで、その場所以外でポテンシャル場φ(r)が満たさねば成らない条件を制約しているわけでは有りません。つまり、他の部分の密度分布ρ(r)については何の情報も与えてくれる訳ではありません。
ですから、ポテンシャル場φ(r)の空間的な解を得るには、全空間における密度分布ρ(r)の情報が必要です。そして“ポアソンの方程式”が全空間において設定されており、右辺の密度分布ρ(r)はその場所と共に変化している考えなければ成りません。そのとき密度分布ρ(r)=0の場所ではポアソン方程式がたまたまラプラス方程式の形になるというだけです。
そこのところを見誤ると、ポテンシャル場φ(r)と ポアソン方程式 or ラプラス方程式 の関係の意味がわからなくなります。
高校物理で電荷間に働く“クーロンの法則”や質量間に働く“万有引力”の法則を習う。そのとき一方の試験電荷や試験質量に働く力は他方の電荷や質量が作り出す“ポテンシャル場”によって力を受けると言う考え方を習います。つまりその点におけるポテンシャル場の勾配に試験電荷や試験質量の値を乗じたものが、その点に於いて試験電荷や試験質量に働く力となるようなものとしてポテンシャルの概念を習う。
そのとき、一つの電荷ρ(r’)がベクトル(r−r’)だけ離れた位置に生み出すポテンシャル場を表す式を習いますが、ここで求めたポテンシャル解φ(r)はそのことを意味しているにすぎません。
そのとき注意して欲しい事は、空間の様々な場所(r1’,r2’,r3’,・・・)に電荷が沢山存在(ρ1(r1’),ρ21(r2’),ρ3(r3’),・・・)するときに、点rの場所に生じるポテンシャル場は、それぞれの電荷が場所 r に作り出すポテンシャルを重ね合わせた(足し合わせた)ものでした。(そうなるのはポアソンの方程式やラプラス方程式の線形性に由来する)
つまり1.(1)の最初に述べたポテンシャル解φ(r)の表現の体積積分はその重ね合わせの事実を言っているにすぎません。もともと、ここで説明しているポテンシャルの概念は、その様にしてクーロンの法則や万有引力の法則を論じるときに導入した単独の密度点ρ(r’)が生み出すポテンシャルの概念を一般化しただけです。
だから、ポアソンの方程式はクーロンの法則や万有引力の法則を言い換えたものと考えることができます。
(この当たりは文献2.の§4-3〜§4-6や§6-1 を復習されて下さい。)
本質は二つの密度ρ(r)とρ(r’)間に働く力の法則(クーロンの法則や万有引力の法則)であって、それをポテンシャルの概念で繋ぎ直した(説明しなおした)のが空間の様々な点の密度ρ(r’)が試験密度ρ(r)の位置r に生み出すポテンシャル値であり、そのポテンシャル関数φ(r)の変化の様子(勾配)が位置rにおける試験密度ρ(r)に働く力の元を生み出す。そして、それらの効果は重ね合わせの原理によって足し合わされる。
だから、元々1.(1)おける
こそが“本質”で、これがすべての源泉です。
ポアソン方程式やラプラス方程式は、その様にして構成されたポテンシャル関数φ(r)が空間のあらゆる点において、そのどちらかの編微分方程式が示す座標変化条件(そこでdivE=4πρであるかdivE=0であるか)を満たしていると言うだけです。
ポアソン方程式やラプラス方程式などの編微分方程式が本質だと思わないで下さい。その様な思考に陥るとそれらの方程式の解としてのφ(r)の意味が解らなくなります。
波動方程式については別項「非同次波動方程式の一般解」ですでに説明しましたが、大事な所なので、前章の方法に習ってもう一度ここで説明します。
3次元の領域Vで定義されている位置r’ と時間t の関数f(r’,t’)に対して
なる関数φ(r,t)は、偏微分方程式
を満たす。この偏微分方程式を“非同次波動方程式(heterogeneous wave equation)”と言う。
非同次の事を非斉次と言う場合もありますが同じことを意味します。ここではρ(r,t)の項があるために非同次となっています。
前述の解を“波動方程式”の左辺に代入して、それが右辺になることを証明すれば良い。そのとき位置 r 付近の体積領域に関する積分は |r−r’|→0 となるので、被積分関数が発散する可能性がある。そのため体積積分の領域を r の近傍領域(Viとする)とそれ以外の領域(Veとする)に分けて考える。
ここでは−の場合を証明しますが、+の場合も全く同様に証明できます。
ここで、上式の第1項が 0 になる事と、第2項が −ρ(r,t) になることが証明できれば良い。
まず、上式の第1項は 0 となる事を証明する。その為に必要な関係式を最初に導く。
同様にして
が得られる。
さらに
も成り立つ。
これらの式を前述の第1項の被積分関数に代入すると
となるので、第1項は 0 となる事が証明できた。
+の場合は、上記式変形中の(赤色)−を+に変えるだけですから同様な結論が得られる。
次に、第2項が −ρ(r,t) に等しいことを証明する。
まず1.(2)と同様にα>0として、下記の様に仮定して積分の発散を防げると考えます(実際そうなる)。
積分値の発散が防げれば偏微分演算子と積分の順序を交換できるので
φ を求める場所 r が密度関数ρ(r,t)=0 の領域ならば、2.(2)の考察を振り返れば明らかなように、関数φ(r,t) は
なる“同次波動方程式”(homogeneous wave equation)を満足する。
“同次(斉次)”というのは、すべての項が未知関数φかその偏導関数(一階微分、二階微分、・・・)単独[つまり一次]なものであって、方程式がそれらの項の和[線型結合]で構成されていると言うことです。つまりどの項も、φやその偏導関数の積や高次[つまり二乗、三乗・・・]の項では無いと言うことです。
そのときもちろん、右辺にφかその偏導関数(一階微分、二階微分、・・・)以外のρ(x,y,z,t)の様な項が存在したら同次(斉次)ではなくなります。
このとき、“非同次波動方程式”と“同次波動方程式”の関係は、丁度1.(4)で説明した“ポアソン方程式”と“ラプラス方程式”の関係に似ています。
だから非同次波動方程式の右辺の密度関数ρ(r,t)は全空間にわたって(それ相当の過去の時間まで遡って)定義されており、非同次波動方程式は全空間にわたって(それ相当の過去の時間まで遡って)設定されていると考える必要があります。
全空間に分布する密度関数ρ(r’)が点rにおけるポテンシャル関数φ(r)を決定するのですが、特殊相対性理論が明らかにしたようにあらゆる情報は光速度よりも早く伝わることはできません。(この当たりはランダウ、リフシュツ「場の古典論」§1をご覧下さい。)
そのため、密度関数ρ(r’)の時刻 t− |r−r’|/c における値ρ(r’,t− |r−r’|/c)が、時刻 t における場所 r の位置のポテンシャル関数φ(r,t)を決定します。
2.(1)で最初に提示されている波動方程式の特殊解はそのことを表しています。またそこで示されている波動方程式の時間偏微分項の前に掛かっている係数中の定数 c は、その様にして情報が伝わるのが光りの速度である事を示しています。(波動方程式の中に現れる係数と波の伝播速度[情報の伝播速度と言っても良い]との関係については別稿「波動方程式と一般解」3.を参照されて下さい。)
2.(1)で示される波動方程式でc→∞にすると、時間に関する偏微分項は無くなり、1.(1)で提示したポアソンの方程式に帰着する。そのとき2.(1)で示された解も ρ(r’,t−|r−r’|/c) が ρ(r’,t) となりますから、解の形もポアソン方程式の解に帰着します。
これは、密度関数ρ(r’,t)が時間的に変動しても、その変動の情報が∞の速度で瞬時に地点 r の位置のポテンシャル解φ(r,t) に反映される事を言っている。
実際マックスウェル以前の古典的物理学者は皆その様に考えていたのですが、現実のあらゆる現象は有限の速さでしか伝わらない情報で規定されています。この当たりは別稿の電磁気学方程式におけるゲージ条件(Lorenz gauge)で説明していますので、そこをご覧下さい。ランダウ、リフシュツが「場の古典論」§1でいみじくも指摘しているように特殊相対性理論の本質はその点にあります。ニュートンの古典的運動理論(万有引力の法則や運動の第2法則が十分正確であって天体の運行や力学的現象を旨く説明できたのは、相互作用の伝播速度(情報の伝達速度)である光速度の値が非常に大きな値だからです。
だから、上記引用先で説明した様に、LorenzやMaxwellは考察の中でそのことを見通していたわけですから、後のEinsteinの特殊相対性理論に繋がる思想を芽生えさせていたと言っても良いでしょう。
さらに、付け加えて注意を促します。非同次波動方程式と同次波動方程式の意味についても、1.(5)で説明した注意がそのまま当てはまります。“本質”は2.(1)で最初に取り上げたポテンシャル関数φ(r,t)
です。これは二つの密度ρ(r,t)とρ(r’,t’)間に働く力の法則(クーロンの法則や万有引力の法則)と、それらに対してなりたつ重ね合わせの原理を体現しているにすぎません。ただし、今度は特殊相対性理論による補正(あらゆる情報は光速度以上で伝わることはできない)が考慮されています。
非同次波動方程式や同次波動方程式は、その様にして構成されたポテンシャル関数φ(r,t)が空間のあらゆる点、時間のあらゆるときにおいて、そのどちらかの編微分方程式が示す座標変化条件(そこでdivE=4πρであるかdivE=0であるか)を満たしていると言うだけです。
ポアソン・ラプラス方程式のときには密度関数ρ(r)は時間的に変化しませんでしたから、ある一つの時刻における密度関数ρ(r)の空間的な分布が与えられていたら解は構成できますが、非同次波動方程式・同次波動方程式の場合は密度関数ρ(r、t)は基本的に空間のあらゆる点でしかも時間的にはそれ相当の過去まで遡った各時刻における値が与えられていなければいけません。そうすれば解φ(r,t)は上記の積分操作によって構成できることになります。そうでなければ解けません。
最後にもう一度強調しますが、《非同次波動方程式・同次波動方程式などの編微分方程式》が本質だと思わないで下さい。その様な思考に陥るとそれらの方程式の解としてのφ(r,t)の意味が解らなくなります。《あらゆる空間点のそれ相当の過去まで遡った各時刻に於いて与えられている密度関数ρ(r,t)の分布》こそが本質です。
さらに、補足すると波動方程式を満足する解は、密度関数ρ(r’,t−|r−r’|/c)に拠って規定されるもの以外にいくらでも考えられます。要するに波動方程式の偏微分の関係式を満たすものなら全て解となります。一般的な解は、その領域における境界条件と初期条件を満足するものならば何でも解となり得ます。だから解として取り上げるかどうかは、物理的な考察に従って取り扱わなければ成りません。
その様な解として、真空中を伝播する“自由波動解”や、反射壁で囲まれた領域に存在する“定常波解”などが有ります。これらの解が初期条件・境界条件として最初から与えられていれば、密度関数ρ(r’,t−|r−r’|/c)の分布に影響されることなく同次波動方程式の解として存在できます。
このことは、ド・ブロイの着想(別稿「相対論的力学」3.(4)[補足説明4]参照)に匹敵する偉大なアイディアを(1935年に)湯川博士にもたらします。
電荷間に働く力の源は電磁場(電位のポテンシャル場)である。それと同じように、核子間に働く力の元となるポテンシャル場が存在するに違いない。そのとき核子に働く力はごく近距離でしか働かないので、ポテンシャル場の満たすべき方程式はラプラスの方程式と似ているが、その到達距離が短いという事実を表すために少し違った形になるであろう。そうして
そうして湯川はこの方程式のポテンシャル解の形から定数μの値を核力の到達範囲の実験値に結びつけた。
そしてさらに、電気的引力の元となるものは光子である。それは波動方程式の自由解として現れる。ならば、核力の相互作用を司る粒子があるとしたら、それは自由粒子として空間中に現れるだろう。それば当然上記方程式(7.17)の自由振動解で無ければならない。
こうして得られた自由波動解の振動数と波数をド・ブロイの考え方に従ってエネルギーと運動量に結びつけて、核力を司る粒子の質量を予想した。それはちょうど電子の200〜300倍程度であった。やがて1947年に、それに相当する粒子(π中間子)が宇宙線の中に発見される。
補足しますと、1937年に発見されて当初それに相当する粒子ではないか考えられたものは、やがてそれでは無いことが解り、現在はμ粒子と呼ばれている。μ粒子は原子核との相互作用をほとんどしないためにπ中間子に比べてとても長い距離の大気中を通過する。これはμ粒子の固有寿命がπ中間子より100倍程度長いことにもよるのですが、いずれにしても核子と相互作用しないことが湯川の中間子でないことの証拠となる。
ここは文献3.§7-6からの引用です。
ここは、別稿「Maxwell方程式系の先見性と電磁ポテンシャル」3.(2)を参照。
球座標で表したラプラシアンは
です。
この方程式の解については別稿「調和振動子(自由振動、強制振動、減衰振動、強制減衰振動)」2.(2)参照。
別稿「偏光とは何か」2.から解るように ω=2πν、 k=2πν/c であるから、別稿「相対論的力学」3.(4)[補足説明4]を参照すると上記の関係式が得られる。
ちなみに、電子の静止質量m0=は9.1×10-28 グラム です。上記の核力の相互作用を司る粒子は電子の200〜300倍程度の質量と予想されたのですが、これは電子と核子の中間の質量なので中間子と呼ばれることになった。もう少し詳しい説明はこちらを参照。
この稿を作るに当たって、下記文献を参考にしました。感謝!