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熱力学第2法則とエントロピー

 本稿は、原田義也著「化学熱力学(修訂版)」裳華房(1984年刊、修訂版2002年刊)第3章“熱力学第二法則”の引用です。
 この文献は熱力学に関係したページを作っていた2014年に読んだのですが、秀逸だと思いました。この文献をご存じない方に特に 【(6)Clausiusの不等式】【(7)エントロピー】 の部分を紹介したくて、また自分自身の復習・再学習を兼ねて作りました。ただし、項目を細分している事を含めて、かなり改変していますのでご了承下さい。
 本稿で引用している第3章が、原田文献の中でどういった位置を占めるのかは、別稿「『熱力学』とはなにか(“状態量”と多変数関数の微分)」で紹介している章・節の題目を参照されて下さい。なおこの第1章の前半(1)〜(3)節、第2章の前半(1)〜(4)、付録の一部(1)〜(2)はそちらで適宜参照して下さい。
 
 別稿で引用していますムーア著「物理化学」教科書の第3章と比較しながら、あるいは別稿「絶対温度とは何か」6.を復習しながらご覧になられると理解が深まると思います。
 
 これらの中で説明されている『熱力学』独特の論理展開とその証明法に関しては、どれも同じ様なものだと思われるでしょうが、これらのやり方しか無いのです! この事は別稿「Clausiusの1850年論文」や、それらを解説する山本義隆著「熱学思想の史的展開」などをご覧頂ければ了解して頂けます。

 

3.熱力学第二法則

(1)Carnotサイクル

.熱機関の効率:e





 これは単なる定義ですから、(3・2)式が正しいかどうかと言うようなものではありません。

 

.Carnotサイクル



[補足説明1]
 “Carnotサイクル”は有名ですが、このサイクルの真の意味とその重要性を理解するのは簡単ではありません。。別稿「絶対温度とは何か」6.(1)3.[補足説明2]の説明を是非参照されて下さい。

 

.Carnotサイクルの効率


 上記の“Jouleの法則”に付いてはこちらを参照されたし。

[補足説明1]
 “断熱過程の公式”(3・6),(3.7)式は、“熱力学第1法則”と、“ゲーリュサック=ジュールeの法則”と、“マイヤーの関係式”から導かれるもので、原田文献では第2章§12で導かれています。ただし、当HPではその部分を引用していませんので、さしむきこの公式に付いては、別稿「気体の断熱変化」などを参照して下さい。
 
 この文献の著者は理想気体の満たすべき気体の状態方程式(その中で“絶体温度”の導入も同時にしている)を仮定して、この理想気体温度計で絶対温度を定義しています。ただし、理想気体は現実には存在しませんので、実際にそれを用いて温度を測定することはできません。その為、これらの公式はまだ熱力学的な絶対温度の正式な定義をしていない段階のものですから、も実在気体の気体温度計などで測れる実用温度だと思って下さい。
 その為、これは理想気体に付いての断熱過程の公式なのですが、実在気体温度計による実用温度に対しては正確な公式とはなりません。近似的に正しいだけだと思って下さい。



[補足説明]
 熱力学的な絶対温度をまだ厳密に導入・定義していませんので、(3・9)式として求めた公式のも実在気体の気体温度計などで測れる実用温度に対してのものと思って下さい。その為これは近似的にしか成り立ちません。
 つまり、ここでこの公式を求めてもあまり意味は無いのですが、面白い考察なのであえてそのまま引用してます。
 
 さらに補足しますと、別稿でも強調しましたが、『熱力学』とは全く新しい次元を持つ“絶対温度”という物理量(状態量)を認識・導入して、さらに“エントロピー”という物理量(状態量)の存在に気付くこと!です。
 その際、あらゆる物体や系の“絶対温度”をどの様に定義し測定したら良いかと言いますと、異なった絶対温度を持つ2つの熱浴(系の一種)の間で任意の熱機関を働かせて、その効率を表す(3・9)式によって定めるしかないのです。
 任意の熱機関としては《ジュール・トムソン効果を用いる熱機関》や《クラウジウス・クラペイロンの式を用いる熱機関》、等々・・・が使われますが、それらの任意の熱機関はカルノーサイクルの様な理想的な可逆熱機関ではありませんので、そこには少し難しい考察が必要です。このことは別稿「絶対温度とはなにか」7.を参照されて下さい。
 ここでの議論はそのようにして導入しなければならない“絶対温度”の議論を見越して、そのとき必要になる論理を少し先取りして展開しているのだと思って下さい。
 
 そのこともあって本稿で引用している原田文献では、その第1章第3節で、“理想気体温度計”によって“絶対温度”を定義しています。
 もちろん“理想気体温度計”は現実には存在しませんが、水素ガスあるいはヘリウムガスを十分な低圧力で用いた気体温度計で近似的に代用できます。

 

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(2)熱力学第二法則

1.熱力学第一法則では説明できない現象



 

 

 

 

 

.熱力学第二法則









[補足説明]
 “物理学の法則”がここで説明されるような単純な思考で見つけ出せるわけがありません。上記の2つの原理が熱力学第二法則として確立していく過程に付いては、歴史的な経過を振り返る必要があります。
 『熱力学』と言う学問分野を開闢(カイビャク)した「Clausiusの熱力学第1論文(1850年)」を別稿で紹介していますので是非ご覧下さい。また、そこで紹介している山本義隆著「熱学思想の史的展開」筑摩書房(2009年刊)も読まれる事を勧めます。

 

.“Clausiusの原理”と“Thomsonの原理”が同等であることの証明





[補足説明]
 これは定番の証明法です。同じ証明法ですが別稿「絶対温度とは何か」6.(1)4.も参照されたし。
 『熱力学』の理解とは、その独特な論理展開のやり方と、その証明法に慣れる事です。それには、同じ様な説明を何度も読み返すことで達成する以外に方法はありません。

 

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(3)可逆過程と不可逆過程

.不可逆過程とは




例題3・1

[補足説明]
 上記の証明は解りにくいので補足します。
 まず、(a)の左側のシリンダー内の気体の状態は(a)の右側のシリンダー内の気体の状態に、外部に何の変化も起こすこと無く実現できます。だからこれがもし可逆過程ならば(a)の右側の状態から左側の状態に戻すような過程Cが存在するはずです。そのときCの過程を実行しても外部に何の変化も残らないはずです。
 (b)の左側のシリンダー内の気体の状態は(a)の左側の気体の状態と同じであることは了解できますが、実は(b)の右側のシリンダー内の気体の状態は(a)の右側の気体の状態と同じなのです。
 (b)の左側の状態から(b)の右側の状態に遷移するときにシリンダー内に熱が流入し、シリンダーのピストンは外部に仕事wをしますので、(b)の右側のシリンダー内の気体の状態が(a)の右側の気体の状態と同じであるとは思えませんが、その遷移の過程でシリンダー内部に加えられた熱量はちょうど仕事となってすべて外部に出ていきますから、結局シリンダー内の気体の内部エネルギーは全く変化していないのです。そのためこれは、外部から熱の流入も外部に対しての仕事もしない(a)の自由膨張で到達する状態と同じなのです。
 次に、(b)の左右のシリンダー内の状態は(a)の左右のシリンダー内の状態と同じなのですから、(b)の右側の状態から左側の状態に、先ほどの過程Cによって戻します。過程Cは外部に何の変化も残さずに実施できるはずです。
 以上の様に考えれば(b)の状態変化を1サイクル実行すれば熱源から得た熱量をすべて仕事に変換することができることになります。これは第二種永久機関不可能の法則に矛盾します。
 よって理想気体の真空中への拡散は可逆過程では無い。つまり不可逆過程です。

 

.準静的・可逆過程








 上記の“Jouleの法則”に付いてはこちらを参照されたし。




 上記の式(2・20)はこちらを参照。




 

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(4)熱機関の効率

.Carnotの定理(原理)



 これが、本来の“熱力学第二法則”の表現です。Carnotの原論文の表現はこちらを参照されたし。






[補足説明]
 ここは、Carnotのオリジナルな証明と、それを改良したClausiusの“超有名な証明”のオリジナル版と、それを解りやすく解説した山本氏解説版を参照される事を勧めます。
 また、別稿「絶対温度とは何か」6.(1)3.も参照されて下さい。

 

.可逆機関の効率





 

[補足説明]
 上記は、定番の証明法です。
 
 以下の説明に付いてですが、熱力学的な絶対温度をまだ厳密に導入・定義していませんので、以下の議論はあまり意味は無いです。

 

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(5)熱力学的温度

.熱力学的温度(絶対温度)の定義






[補足説明]
 ここも定番の熱力学的温度(“絶対温度”)の導入法です。別稿「絶対温度とは何か」6.(2)なども復習されて下さい。

 

.温度目盛(数値)の決定





[補足説明]
 この文献の著者は、【理想気体で定めた温度】“絶対温度”と呼び、【熱力学的可逆機関を用いて定めた温度】“熱力学的温度”と呼んでいるために、上記で囲った説明をしていますが、本来ここの説明は意味がありません。この本の著者を含めて、ここの所を誤解をされている方が多い様なので、補足説明しておきます。
 
 まず注意して欲しい事は、“理想気体”は現実には存在しません。そのため理想気体の体積変化を用いて測定する理想気体温度計の測定値である絶対温度など定義できないし、測定しようが無いのです。
 また、“準静的・可逆的な熱機関”など現実には存在しません。だからそのような熱力学的可逆機関を用いて定めた温度を現実には測定することはできません。
 だから理想気体温度計を用いて測定した温度と、熱力学的可逆機関を用いて測定した温度が等しいことが言えるなどと言っても、その事に何らかの意味があるわけではありません。どちらも架空の温度定義であり、架空の温度値なのですから。正しくは以下の様に考えるべきです。
 
 現実の実在気体を用いた温度計というものは作る事ができますし、それを用いて温度を定義できます。実在気体は理想気体ではありませんので、実在気体温度計で定義し且つ測定した温度は、現実には存在しない理想気体温度計で定め測定した温度とは違いますが、ほぼ(近似的に)似たような値を得るだろう。そのとき、実在気体を用いて定めた温度が絶対温度で何度に相当するかを決めることができるか?と言う問題です。
 
 その事は可能です。現実には存在しない、【熱力学的可逆機関を用いて定めた温度】“絶対温度”とすればその温度と実在気体温度計の測定温度とを対応付けることができます。
 現実には熱力学的可逆機関ではありませんが、現実の熱機関に相当する実在熱機関(例えばジュール・トムソン効果の測定装置、あるいはクラウジウス・クラペイロンの効果の測定装置など)を、実在気体の温度計で測った各温度で働かせてみます。そうすると、ジュール・トムソン効果が、あるいはクラウジウス・クラペイロンの効果が観測されます。その効果が示す発熱量の偏差こそが、【理想的な可逆熱機関】と、【現実の熱機関】との違いを示しています。つまり、実在する熱機関によって、現実には存在しない理想的な可逆熱機関との差分は測定できるのです。
 だから実在気体の温度計で測った各温度を様々に変えながら、上記の実在熱機関が示す発熱量偏差値を積算していけば、各実在気体の温度計で測った各温度が絶対温度の何度に相当するかを定める事ができるのです。
 このことは、Planckの教科書『熱力学』に書かれています。その事を説明したのが別稿「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」7.ですので、そちらの稿でご確認下さい。 



 

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(6)Clausiusの不等式(熱力学第二法則の数式表現)












 




補足説明1
 ここの【三つの熱源と熱のやり取りをする熱機関を用いる方法】は、Clausiusが熱力学第2論文(1854年)で説明しているものですが、Clausiusの説明は極めて難解です。実際、別ページで引用している山本文献第29章Wの説明も解りにくいが、原論文の説明はもっと解りにくいです。
 原田義也文献.のここの説明を読んで、やっとClausiusの論文が意図していた事を理解できたように思いました。それにしても、本節の“Clausiusの不等式”を導く原田氏の証明方法は独創的だと思います。私はこの証明を読んで理解できたとき感激しました。
 
 
 もう少し補足しますと、ここの結論の証明としてはW.Thomsonが『熱の力学的理論』のPt.Y(1854年)で行った、任意の可逆サイクルCを下図の様に分割して行った証明が有名です。


 Clausiusも、同じ事柄を同年(1854年)に、ここで説明した様な(Thomsonとは異なった)方法で、証明していると言うことです。ただし、正直な所Clausiusの説明は極めて難解で良く理解できません。それに対して、ここの原田氏の解説は極めて解りやすい。
 補足しますと、Clausiusは熱力学に関係した考察をまとめた著書『Die Mechanische Wa¨rmetheorie』1876年に出版しています。その Abschnitt V.p87〜94§8.で、3つあるいは4つの熱浴を用いるタイプの熱機関サイクルを利用した考察を展開して、さらに§9.では上記のThomsonの方法に類似だが、こちらは断熱線群で分割するやり方で説明しています。こちらの著書の説明なら理解しやすいかも知れませんので、どうぞ参照されて下さい。Max Planck も若い頃この著書を読むことで熱力学第二法則を正しく理解することができたと言っています。
 
 
 更に補足しますと、Thomsonは一つのサイクルCを多くの等温線群で分割して微小なサイクルを足し合わせたのですが、上で山本義隆氏が指摘されているように、一つのサイクルCを多くの断熱線群で分割して微小なサイクルを足し合わせる方法もあります。それが、別稿「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」6.(3)で説明しているものです。
 所で、本文献で原田義也氏が説明されている方法は、この断熱線群で分割する方法に相当します。実際その事は図3・17(b)

と、別稿のこちらの図

を比較して見られると了解して頂けると思います。
 いずれにしましても、本節の証明法を他の文献で見たことはありません。それで、この証明法を紹介したくて本稿を作りました。

 

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(7)エントロピー

.エントロピーの導入



 上記の状態量であるための必要十分条件(2・10)式はこちらを参照して下さい。

 

.エントロピーと不可逆過程





補足説明1
 式(3・50)の意味は極めて解りにくいので補足します。
 まず注意して欲しい事は、【式(3・50)の右辺の積分値】が、不可逆変化で状態Aから状態Bへ遷移した場合のエントロピーの増加分を示しているのではないことです。状態Aから状態Bへ変化したときのエントロピーの増加分は準静的・可逆過程で状態Aから状態Bへ遷移した場合の式(3・49)で計算しなければなりません。
 式(3・50)の右辺の積分はエントロピーを与える式ではありません。単なる不可逆変化で状態Aから状態Bへ移った場合の、d’qirrev/Te の積分計算値でしかありません。この被積分関数の分母の絶対温度が熱量d’qirrevが系に流入するときの外界の温度 e であることに注意して下さい。その様にしているのは、不可逆過程の中には系と外界に温度差がある状態での熱量の移動も含まれているからです。
 
 このことを別稿「絶対温度とは何か」6.(5)の例1.を利用して説明します。
 その例では、下図の  の状態から準静的・可逆過程で  の状態へ、不可逆過程で B’ および B” の状態へ変化する場合のエントロピー変化を比較しました。

 すなわち A→B:可逆過程、 A→B’:不可逆過程、 A→B”:不可逆過程 で移動するのですが、その移動結果として、それぞれの状態変化に伴うエントロピー変化は(下図の様に) A→B では 0→S1=S0 となり、 A→B’ では 0→S2 となり、 A→B” では 0→S3 となります。

 このとき、最終的なエントロピー値1、S2、S3がすべて異なっているのは当然です。なぜなら状態B、B’、B”がすべて異なるからです。実際、そのことは先の図の下段に記してある最終的な 体積、温度 の値がすべて異なる事で確かめる事ができます。
 
 このとき式(3・50)がどうなるかを、A→B”:不可逆過程で説明視する。
 まず、式(3・50)《右辺》の d’qirrev/Te の積分値は 0 となります。なぜならこの不可逆過程は断熱過程だから、常に d’qirrev=0 となるからです。
 一方、式(3・50)《左辺》はどうなるかと言いますと、A→B”の状態変化を可逆過程で実現し、その可逆過程について d’qrev/Te の積分値を計算します。その可逆過程としては、温度T3=T0の熱浴に繋いで、ピストン上部のおもりを少しづつ取り除いて(左側の棚に移動させて)ピストンをゆっくり上昇させます。そのとき熱浴からは温度3のもとで少しづつ熱量 d’qrev がシリンダー内部の気体に流入します。そうして d’qrev/T0 の積分値を計算します。具体的な計算は別稿[補足説明1]を参照されて下さい。いずれにしても。その値が上図の 3 です。
 両者を式(3・50)《左辺》《右辺》に代入すると 3>0 ですから確かに式(3・50)を満たしています。
 
 次に、 A→B”:不可逆過程 の場合にどうなるかを説明します。
 この場合も式(3・50)《右辺》の d’qirrev/Te の積分値は 0 となります。なぜならこの不可逆過程も断熱過程だから d’qirrev=0 となるからです。
 一方、式(3・50)《左辺》はどうなるかと言いますと、状態B’状態Aから準静的断熱変化で温度2に下がるまで膨張させた後、温度T2の熱浴に接した状態で温度を2に保った準静的等温変化で錘をゆっくり取り除きながら圧力1atmまで膨張させる。そのとき加えられた熱量をQ02とするとS2−S0=Q02/T2で計算できる。
 このとき準静的な過程だから、図のピストンシリンダーの左側にある梯子状の錘置き場に錘のやり取りの過程が残っています。そのためその錘を再び無限にゆっくりとピストンに載せながら同じ温度の熱浴に準静的に熱を排出して圧縮して行くと元の状態A可逆的に復帰できます
 具体的なエントロピー値の計算は、上記状態B”で利用した計算式と同じものを用いて、最初の状態と最終的な状態の状態値を代入して求めればよい。その値が 2 です。
 この場合も 2>0 ですから確かに式(3・50)を満たしています。
 
 最後に A→B:可逆過程 の場合を取り上げます。
 この場合には、元々準静的可逆過程です。まず、式(3・50)《左辺》は 0 となります。なぜなら断熱的な可逆変化だからです。また、式(3・50)《右辺》の d’qirrev/Te は  d’qrev/Te の積分値となりますから、左辺と同じ 0 となります。
 いずれにしても、この場合も 左辺=S1(=0)=右辺 となり、式(3・50)の特別な場合である式(3・49)を確かに満たしています。
 
 くれぐれも、式(3・50)の左辺が上記のS1になり、右辺が上記の不可逆過程で移るB’やB”のエントロピー値S2やS3になるのだと勘違いしないで下さい。
 式(3・50)は、 A→B:可逆過程、 A→B’:不可逆過程、 A→B”:不可逆過程 のそれぞれの変化に対して別々に成り立つ関係式なのです。
 このことは、別稿「絶対温度とは何か」6.(5)の例2.や、例3.の場合も同様ですから、それらについて式(3・50)が具体的にどのようになるのか検討してみて下さい。
 
 ここで、もう一度注意しますが、不可逆過程による状態変化の意味を取り違えないで下さい。不可逆過程で状態Aから状態B’やB”に移動したとき、その移動方法(移動経路)を逆にたどって状態B’から状態Aへ、あるいは状態B”から状態Aへ戻れないから不可逆な過程であると言うだけです。
 そのとき重要なのは、【状態B’から状態Aへ、あるいは状態B”から状態Aへ戻る過程は必ずある】と言うことです。それは状態Aから状態B’やB”に移動する可逆過程を逆にたどる過程です。実際、状態Aから状態B’やB”に移動する可逆過程が存在しないと、状態量である状態B’やB”のエントロピー値を(状態Aを基準にして)決定できないのですから、そういった可逆過程は必ず存在するはずです。
 だから、熱力学第二法則は、状態A と 状態B’やB” を繋ぐ可逆過程が必ず存在することを暗黙の内に仮定していると言うことです。ここはMax Planck も特に注意しているところです。別稿「絶対温度とは何か」6.(4)1.の注7.もご覧下さい。

補足説明2
 式(3・51)について補足します。
 この式は状態Aから状態Bへ遷移するには様々な方法があるのですが、その遷移が不可逆過程で行われる場合にも

の積分値は計算できます。そのとき(不可逆過程を少しでも含む)あらゆる遷移に伴う上記の積算値は、可逆過程で行われる場合の積算値

より、必ず小さくなります。
 つまり、式(3・51)は可逆過程で行われる場合に唯一存在する積算値によって、状態Aから状態Bにおける上記の積分値が一意に決定できると言うことを示しています。このとき上記の可逆過程での積分値はただ一つに決まります。【A点から出発してB点に到達したとき、もし異なった積分値を生ずる別な可逆過程があれば、その二つの可逆過程を組み合わせる事で熱力学第二法則に矛盾する事態を直ちに構築できるからです】。もちろん同じ積分値を与える可逆過程ならは何通りも存在することは可能です。例えば3.(1)2.で説明したCarnotサイクルで状態Aから状態Cへ遷移する A→B→C と A→D→C の二つの可逆過程を考えてみて下さい。この二つの可逆過程は径路が違いますが、上記のCに到達したときの積分値は両径路で同じ値を与えます。
 私どもの事情を申しますと、私は上記の事が成り立つのがとても不思議でした。つまり状 態A から 状態B に到達する径路に何通りもの可逆過程が存在するのはよいとして、その何通りもの可逆過程で計算した積分値

が、すべで同一の値を与えることがとても不思議でした。例えば上記Carnotサイクルの例での A→B→C と A→D→C の二つの可逆過程で到達した点Cでの積分値が完全に一致するのを不思議に思われませんか?
 とても不思議ですが、その事の解答はA点から出発して可逆サイクルで様々な状況を経由して元のA点に戻った場合、常に

が成り立つ事の中にあります。つまり、その
可逆サイクルの途中の状態点をB(任意の場所でよい)とすると径路T A→B の変化における積分値

の増大分は、径路U B→A の変化における積分値

の減少分で
完全に打ち消される事を意味します。だから、後者の積分径路U B→A を逆にした積分径路Uの逆 A→B の積分値が前者の積分値に一致するのです。つまり

となります。
これは馬鹿みたいな証明ですが、案外解りにくい所です。そしてここにエントロピー導入の本質があります。
 
 以上の事は次の事実を示していると言って良い。すなわち、状態A状態B に於いてその二つの状態で決まる状態量が存在し、その差が上記の積分値で決定できるのですから、それぞれの状態に割り振ることができるエントロピーという状態量を上記の積分で定義できると言うことです。
 
 もちろん、この段階では 状態B のエントロピー値 S(B)状態A でのエントロピー値 S(A)“差分” ΔS=S(B)−S(A) が計算できるだけです。
 S(B)やS(A)の“絶対的な値”を定める原理が後の3.(10)で説明する“熱力学第三法則”であり、3.(11)で説明する“標準エントロピー”です。

 

.熱力学第二法則とエントロピーの関係





 上記のThomsonの原理とClausiusの原理の同等性の証明(§3・2)はこちらです。

補足説明1
 いずれにしましても

熱力学第二法則の解析的表現です。
 このとき積分径路に沿った変化がすべて準静的・可逆的でしかもサイクリックに行ったと考えると、式(3・51)は以下の表現と等価ですから、こちらを熱力学第二法則の解析的表現とな見なすこともできます。

 このとき、(3・44)式は不可逆過程の場合をを含んでいないのに、本当に (3・44)式 が (3・51)式 と等価なのかと疑われるかも知れませんが、それは大丈夫です。それは3.(7)2.[補足説明2]の説明を今一度振り返られればお解りのように、“熱力学第二法則”は、“絶対温度”という状態量が定義できて、さらに“エントロピー”という状態量が導入・定義できることと等価なのでして、その為には(3・44)式で十分で、ここに不等号が絡む必要などないのです。
 このことについては、別稿「Clausiusの熱力学第1論文(1850年)」3.(5)2.[補足説明2]と、3.(6)をご覧下さい。

 

.孤立系のエントロピー





 上記の、状態量の説明(§1・2)はこちらを参照。

 

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(8)エントロピーの計算




 

.理想気体の定温変化


 上記p.43の式(2・40)はこちらを参照されたし。





 上記の図2・14はこちらを、〔例題3・1〕はこちらを参照。


 

.温度変化によるエントロピー変化


 上記の式(2・30)はこちらを,式(2・32)はこちらを参照。


 上記のp.48の(2・51)式はこちらを参照。

上記の式(2・25)はこちらを,式(2・31)はこちらを参照。

 

.相変化によるエントロピー変化


 上記の§2・9はこちらを、また式(2・30)はこちらを参照。


 

.気体の混合に伴うエントロピー変化










[補足説明]
 これは重要な例なので、別稿「絶対温度とは何か」6.(5)3.なども復習されて下さい。

 

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(9)エントロピーの分子論的意味















 このように一致する為には、式(3・75)におけるエントロビーの定義式の比例定数【気体定数】【アボガドロ数】で割った値である“ボルツマン定数”でなければならないことが解る。

[補足説明]
 本節の説明は徹底的に不足していますが、分子論的なエントロピー定義式の比例定数【気体定数】【アボガドロ数】で割った値である“ボルツマン定数”となることは読み取れます。

 

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(10)熱力学第三法則








[補足説明]
 本節の説明は徹底的に不足しています。熱力学第三法則については、別稿「電気化学ポテンシャルと熱力学第三法則(ネルンストの熱定理)」3.なども復習されて下さい。

 

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(11)標準エントロピー






[補足説明]
 本節の説明は徹底的に不足しています。別稿「電気化学ポテンシャルと熱力学第三法則(ネルンストの熱定理)」4.なども復習されて下さい。

 

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  問 題


 「熱機関の効率(ガス動力サイクル)」2.(1)3.を参照。



 「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」6.(5)2.を参照されたし。

 「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」6.(4)3.を参照されたし。

 「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」6.(5)1.で説明したように、外界と圧力差がある場合の膨張は不可逆過程です。しかし、エントロピーは状態量ですから、シリンダー内の理想気体の最初と最後の状態変化を準静的・可逆過程で繋ぐことで実現し、その場合のエントロピー変化を計算すれば良い。それには前問3・5(1)の結論を用いればよい。

 「ファン・デル・ワールスの状態方程式」2.(4)を参照されたし。

  「熱機関の効率(ガス動力サイクル)」1.(3)2.を参照。さらに別稿のGibbsの説明も参照されたし。

 「ファン・デル・ワールスの状態方程式」3.(1)[補足説明1]を参照されたし。



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