『熱力学』とは全く新しい次元を持つ“温度”という物理量(状態量)を認識・導入して、さらに“エントロピー”という物理量(状態量)の存在に気付くことだと思います。
その事を理解するには、“状態量“とは何か、“積分因子”とは何かを理解することが必須です。それを実現するために、原田義也著「化学熱力学(修訂版)」裳華房(1984年刊、修訂版2002年刊)の関連箇所(第1章、第2章、第3章、第7章付録)を引用・紹介します。
特に 2.(1)“状態量の性質” 、 2.(2)“仕事と熱” 、 2.(3)“熱力学第一法則” は秀逸です。この部分を紹介したくて本稿を作りました。ただし、項目を細分している事を含めて、かなり改変していますのでご了承下さい。
熱膨張率や圧縮率なども状態量である事に注意して下さい。もちろんこれらの量は温度や圧力が変われば変化していきます。だから状態が定まれば一定値をとるという事の意味を取り違えないで下さい。
上記§7・1 は 7.(1)2. を参照。
上記§7・2 は 7.(2) を参照。
[補足説明]
本節で説明した“状態量”という概念は、『熱力学』を解析的に論じるうえで、最も重要です。
状態量については、第7章付録でもう少し立ち入った説明がなされます。そこで “完全微分” となるための必要十分条件を再度取り上げ、さらに “積分因子” について説明します。
[補足説明1]
上記の“仕事”と“熱”の定義は極めて重要です。なぜなら、『熱力学』 とは、ある意味に於いて
系に出入りするエネルギーには
【系と外界の『温度平衡』に基づいてやり取りされる“熱”という形態の“エネルギー”(温度平衡とは、系と外界の“温度”という物理量が等しいこと)】
と、
【それ以外の形態の“エネルギー”(それらをひっくるめて“仕事”と名付ける)】
がある
と言うことに気付くことで作り上げられた理論体系なのですから。
[補足説明1]
“熱力学第一法則”を上記の形で表したことは重要です。なぜなら、『熱力学』を学ぶ初学者が最初に最も苦しむのが、【“熱量”qと“仕事”wは状態量ではなく、“内部エネルギー”Uは状態量である】 と言うところですから。
それを法則にしてしまえば、なんら理解に苦しむ理由は無くなりますし、それを法則としたのが『熱力学』なのです。
つまり、系が外界とやり取りするエネルギーを二つに分割しなければ、エネルギー値と言う一つの状態量の変化ですんだのですが、分割したためにそれぞれが状態量となり得なくなってしまったのです。
そのとき、わざわざ分割して取り扱う事にした中に熱力学の本質があります。なぜなら、一方のエネルギーの移動形態である“熱”のみが系と外界の“温度”という状態量と密接に関係しているので、このように分けて取り扱わざるを得ないからです。
つまり、熱 d’q も 仕事 d’w も完全微分ではない。それにもかかわらず、その和 d’q+d’w=dU は完全微分であると言っているのが“熱力学第一法則”の内容です。(完全微分の意味は2.(1)2.で説明した。あるいは7.(2)を参照。)
関係式 dU=TdS+PdV (ただし TdS=d’q で PdV=d’w です)を思い出して下さい。
そのとき、前節(2)[補足説明1]で説明した事柄は極めて重要です。つまり、系に出入りするエネルギーは“熱”とそれ以外の形の“仕事”に 【分けられて区別され、且つその二つですべてを含めて論じることができる】という認識です。
そのとき【“熱”とは二つの“系”間の温度差に基づいて移動するエネルギー形態をすべて含む】ことに注意して下さい。
“熱”には、いわゆる熱伝導の様な形態のエネルギー移動のみならず、熱輻射のような電磁気学的なエネルギー移動も含まれます。また上記の“系”には輻射場の様な物質系ではないものも含まれます。
ボルツマン や プランク はその当たりを正しく見極めていて、彼らの考察を展開する際に『熱力学』を絶対的な拠り所にしたのです。
だから、“熱”という概念には全く新しい次元を持つ物理量である“温度”という概念が絶対に必須です。実際、 【シュテファン。ボルツマンの法則】 や 【プランクの熱輻射法則】 が絶対温度Tの関数で表現されている理由を考えて下さい。
また、上記の趣旨の展開をするには、“系”と言う概念と、その系についての“状態量”という概念と、系間の“熱平衡状態”という概念が必須となります。そして熱平衡状態を実現する物理量が“温度”なのです。
それらの概念を支えているのが、1.(3)で説明されている“熱力学第零法則”です。
上記の 式(2・10) は 2.(1)1.の末尾 を参照。
すなわち、上記の証明が可能であることが、“熱力学第一法則”が別名“第一種永久機関不可能の法則”と言われる理由です。
[補足説明2]
“熱力学第1法則”は、普通下記の表現が採用される事が多い。
実際、Clausiusが、その熱力学第1論文(1850年)で設定したのはこちらの表現です。別稿「Clausiusの1850年論文}2.(1)からその表現を引用すると
となっています。
そのとき、Clausiusはこの表現から出発して最終的に
の形を導いて、熱d’q(=d'Q)も仕事d’w(=d'W)も完全微分ではない。それにもかかわらず、その和d’Q+d’W=dUは完全微分であると言って、【本稿の“熱力学第一法則”の表現】である
を導いています。
すなわち、一般の表現から本稿の表現を導く事ができます。その導き方は、上記Clausius論文の付録Bをご覧下さい。そこの(U)式が一般的表現の解析的表現です。また(Ua)式が本稿の表現の解析的表現です。つまり上記の付録Bで(U)式から(Ua)式が導かれています。
そのとき、逆に(Ua)式から(U)式を導く手順はClausius論文2.(3)3.[補足説明6]に続く注2)で説明されているものです。
[補足説明3]
さらに補足します。
Clausiusが設定した“熱力学第1法則”の表現(上記で引用したもの)には、別稿「Clausiusの熱力学第1論文(1850年)」3.(6)2.[補足説明説明2]で述べた“温度”の意味があります。つまり、Jouleの熱の仕事当量の説明としての温度の意味であり、その熱量(エネルギー移動量)を測定するときの温度(つまり 熱量=熱容量×温度差)としての働きを決めるものです。
一方、本稿2.(3)で設定した“熱力学第1法則”の表現には、そこの[補足説明1]で説明した意味での熱量の移動時の状況(“熱平衡状態”)を定める“温度”の働きであり、 d'q を完全微分にする為の【積分因子】としての“温度”です。
いずれの“温度”の働きも、やがて“熱力学第2法則”における状態量である“エントロピー”の定義・導入に深く関わるものです。どちらも同じ様に関わります。なぜなら上記[補足説明2]で説明した様に両方の定義は等価なのですから。
・・・・・・ 以下すべて省略 ・・・・・・
・・・・・・ 以下すべて省略 ・・・・・・
上記の 式(2・10) は 2.(1)1.の末尾 を参照。まとめの 式(2・11) は 2.(1)2. を参照。
[補足説明1]
上記の(7・13)式は『熱力学』を解析的に展開する上で最も重要な関係式です。上記の証明については、別稿「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」5.(2)1.も参照されたし。
さらに補足しますと、上記の定理を『熱力学』の中で極めて重要なものであることをハッキリと認識し、その証明を示したのはClausiusです。自らの論文集を出版した1864年に、1850年の熱力学第1論文に補注として書き加えた 注2) と 付録B に書かれている。
そこの注2)が上記の【必要条件であることの証明】であり付録Bが上記の【十分条件であることの証明】です。
上記の式(3・45)はこちらです。
[補足説明1]
ここの説明は簡単すぎて良く解らないと思います。
上記の二変数の場合の【積分因子】の存在定理の証明は、別稿「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」5.(4)1.を参照されて下さい。
また、具体的な【積分因子】の求め方については、別稿「絶対温度とは何か(積分因子とは何か)」5.(5)を参照されて下さい。
[補足説明2]
【積分因子】の存在を示す為に上記で取り上げた例は,人為的で面白くないと思われるかも知れませんが、これは極めて重要な例です。そのことを以下で補足します。
まず、“熱力学第1法則”により
が導かれる事を2.(3)で説明しました。このとき、d'q と d'w は状態量ではありませんでした。
そのとき更に、系を構成する物質が 理想気体 の場合には dU=nCvdT と置け、且つ d'w=PdV=nRT/V と置けます。そのため
となりますが、上記の例で証明した様に
と置いたdSは完全微分になります。
このとき[例題7・2]のXをTに、YをVに、dZをd’qに、そしてdZ’=dZ/XをdSに置き換えてみれば、まさしく上記の例に対応します。そして1/Tが【積分因子】であることを示しています。
これは、別稿「絶対温度とは何か」6.(4)3.などを復習されれば解るように、『熱力学』を展開するとき必ず取り上げられる極めて重要な例です。
・・・・・・ 以下すべて省略 ・・・・・・