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生物の進化論

 生物の進化論の高校レベルの説明です。ただし、初期の進化論はいずれも科学的・体系的とは言い難い断片的知識に基づいたこじつけの推論に依存している。そのためそれらの正当性を吟味する議論に拘泥するよりも全体的な流れを理解することが大切。つまり進化論の理解とは今までに蓄積されてきた様々な科学的知識と照らし合わせて最も確からしいメカニズムを探し出す作業。

1.進化論の変遷

(1)天変地異説(キュビエ)

 「天変地異が地質時代を通じて幾度か繰り返され、そのたびに前の時代の生物群は殆ど死滅し、地球の片隅に残存した生物群が新たに広く分布した」という説。キュビエはパリ盆地に於ける白亜紀と第三紀の地層中の化石の違いを例証とした。彼は世界各地の化石脊椎(せきつい)動物を現生動物と比較して記載分類し、比較解剖学を通して古生物学の基礎を確立した。

 

(2)用不用説(ラマルク 1809年「動物哲学」、1815年「無脊椎動物誌」)

 「環境に適した器官は良く使用されるから発達し、使用されない器官は退化する。環境が変われば発達する器官も異なりそれぞれの環境に応じて生物は進化していく」という説。
 生物は個々に創造され不変であると言うのが常識であった時代に、生物は不変ではなく時とともに変化したものであると、はじめてまとまりのある体系的な進化論を発表した。つまりラマルクは漸進進化を初めて唱えた。しかし獲得形質の遺伝を考えていた点に於て誤っていた。

 

(3)自然選択説(ダーウィン1869年「種の起源」)

ビーグル号の航海 1831年(22才)〜1836年 『ビーグル号航海記』(1845年)

ライエルの『地質学原理』(1830年)から大きな影響を受けて、航海中の観察から「種は変異する、動物は進化する」と言う着想を得た。しかしこの段階では変異の原因を思いついていない。
マルサスの『人口論』(1798年)から「自然選択」の着想を得る。

マルサスは食糧は算術級数的にしか増加しないのに、人口は幾何級数的に増加する傾向をもつので、自然のままでは過剰人口による食糧不足は避けられないとし、人口を制限するために様々な要因が働くことを論じた。
家畜、栽培植物の起源を調べ、人為的選択に付いて研究する。

1859年(50才)『種の起源』を著し、自然淘汰による適者生存の原理を発表。
 「生物個体間に起こった変異は、環境に適したものが適者生存により生存競争に打ち勝って残存し、そうでないものが滅亡していく自然選択を生み出し、その自然選択が種全体を変異させていく」と言う説。
1871年「人間の由来」

《自然選択の例》

《ダーウィンの功績》

  1. 莫大な事実をあげて進化の証拠を示した
     化石の記録、種の地理的分布、比較解剖学、発生学、家畜化された生物の変異などについて沢山の証拠を集めて示した。
     今日、高校で習う進化の証拠としては、相同器官相似器官痕跡器官適応放散適応集中個体発生は系統発生を反復する地理的な隔離に伴う変種の分布、代謝メカニズムの変遷、様々なタンパク質や遺伝子上での分子的な変異、等々がある。
     ただし、これらの証拠は、生物は漸進的に少しずつ変化しており、様々な方向へ変化してきたと言うことを理解させてくれるが、なぜその様に変化してきたのか、どの方向へ変化していくのかなどの根本的な問いかけの答えとはなっていない。
  2. 進化のメカニズムとして非常に有力な一つの説を提出した
     当然の事だが、次なる作業は1.で集積された知識から進化のメカニズムを紡ぎ出す事である。ダーウィンが紡ぎ出した結論が自然選択説である。

《ダーウィンの自然選択説の限界と欠陥》

1.種の分化が説明出来なかった。
 とは生物分類の基本単位。互いに交配して生殖能力がある子孫を残すことができれば、それらは同種と見なされ、たとえ子供ができてもそれらに生殖能力が無ければ異種と見なされる。つまり種とは互いに交雑したとき、繁殖能力のある子孫が残せる集団のグループの事である。
 そのように生殖的に交雑できないグループに分かれていくメカニズムがうまく説明できなかった。  
3.自然選択説では説明できない変異がある。
 よく引き合いに出されるのは、生きるのにとても不自由な器官となってしまった、マンモスの牙、アイルランドオオツノジカの角や、ねじくれ曲がってしまったオウムガイの殻、アンモナイトの縫合線などであるが、生きていく上でその変化が有利だと思えないような変化は自然界には無数にある。
3.変異の原因が解らなかった。
 形質の遺伝を司る遺伝子の実体が明らかになるのは20世紀に入ってからである。ダーウィンはラマルクと同じ様に獲得形質が遺伝すると考えていたようだ。

 

1.の欠陥を説明するものとして

(4)隔離説(1868年〜)

「自然選択よりも、ある地域に生物が隔離されることが、進化に大きな作用を及ぼす」と言う説。

ワーグナー(1868年)地理的隔離
           大陸の移動、陸橋の水没や隆起
           気候の変化、砂漠化、氷河の発達に因る地理的分断
           海流、風による孤島への隔離
ロマーニズ(1885年)生殖的隔離
           生態学的環境
           行動学的環境
           すみわけ

 

2.の欠陥を説明するものとして

(5)定向進化説(アイマー 1885年)

「生物の進化は、環境とは無関係に、生物の内的要因によって一定方向へ進む。」という説。
 教科書では、不必要に巨大化したマンモスの牙やアイルランドオオツノジカの角、不規則に変形したオウムガイの殻やアンモナイトの縫合線、時代とともに大型化していった馬や象の進化がその例証として挙げられる。

 ただし、今日では雄が非常に派手で長い尾羽を持つ鳥や大きな角を持つ鹿は、それを持つ雄を雌が選ぶことによって進化してきたとも言われている(性的選択が働く)。しかし、なぜ生存に不利な特質を持つ雄を雌が選ぶのか、またそれを選んだ結果生き残る理由も明らかではない。


 

3.の欠陥を説明するものとして

(6)突然変異説(ド・フリース 1901年)

 オオマツヨイグサの突然変異の研究から出発した学説で、「生物の新しい種は、数多くの同一種の中に、突然変異により大幅な変異を持った個体が突然生じてくる」とする説。
 ド・フリースは1886年から5万本以上のオオマツヨイグサの野生集団を調べて遺伝性の変異種が出現することを発見した。このことから、彼は新しい種は自然淘汰の作用の下で徐々に形成されるのではなく、遺伝物質の突発的変化によって一足飛びに変化するとしたのである。
 ただし彼が見つけた変異種の多くは、今日の意味での遺伝子突然変異ではなく異性体や倍数体やその他の交雑異常によって生じたものだった。それ故に急激な形質変異をもたらしたのだ。

 

などがダーウィン以後に出てくる。
 特に1900年代前半の遺伝学の急速な進歩(特にモーガン一派のショウジョウバエ遺伝学)によって、遺伝子突然変異のうちには表現型の非常に小さなものもあることが解り、遺伝の有様と突然変異の実体が明らかになってくる。
 遺伝学の新しい知見と自然選択説は、やがて総合進化説という形で統合されていく。

 

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2.総合進化説(ネオダーウィニズム 1930年頃)

 総合進化説とは、変異の原因を突然変異で、変異が種内に広まり固定して行く原因を自然選択で、そして一つの種が様々な種に分化していく原因を地理的・生殖的隔離で説明するものである。

 種を形成するグループ内のある個体に突然変異が生じるとそれは自然にそのグループ全体に広がると思うかもしれないが、グループを形成する個体数が多くて、グループ内の自由な交雑が保障されている場合にはそうはならない。それをハーディ・ワインベルグの法則(1908年)という。

 そのとき自然選択が働くと変異が集団内に広まり固定化していく。つまり自然選択の役所を見極め、変異の原因種の分化との関係を明確化したのが総合進化説である。

進化論としての体裁はかなり整ってきたが、それでも以下の様な問題点が存在した。

《総合進化説の問題点》

  1. 普通に生じる突然変異はそのほとんどが、小規模なものでそれが生じたからと言って、それが直ちに自然淘汰に対して有利になったり不利になったりするものではない。さらに突然変異の大多数は毒にも薬にもならない中立的なものか有害なものである。
  2. 洞窟の中に住む昆虫の目や色素が退化していくような、負の突然変異による器官の退化を説明できない。洞窟の暗闇では目が見えないことは有利なことではない。それなのに暗黒の環境に進出した昆虫は短期間の世代交代でものを見る能力を失っていく。人類が5千万年前に失ったビタミンCを合成する能力や、嗅覚の退化などもその様なものだといえる。今日こういった退化の分子論的な証拠は沢山ある。
  3. 発達途中の器官は生存に有利とは言えない。むしろ邪魔になるもののほうが多い。
  4. 過度に発達し生活に有利とは考えられない器官を持つ生物がいる。
  5. 一般に大集団ほど種内の変異は小さい。
  6. 進化速度は小集団ほど速い。(例 ガラパゴス諸島)
  7. 進化が爆発的に進んだ時期(大進化)や進化が比較的ゆっくり進んだ時期(小進化)があることを説明できない。
    ○古生代中期に昆虫が初めて上陸して広大な大地を新しい環境として獲得した時期
    ○古生代末から中性代初期にかけて脊椎動物が両性類、爬虫類へと進化して完全に水中世界から独立して広大な内陸部に進出した時期
    ○恐竜の絶滅により空白状態になつた環境に進出した哺乳類が爆発的に進化した新生代初期

これらの矛盾を一気に解決する考え方が次に述べる中立的突然変異浮動説である。

 

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3.中立的突然変異浮動説(木村資生1968年、キング、ジュークス 1969年)

 1968年木村資生(モトオ)によって最初に唱えられた説。中立的突然変異浮動説の内容そのものは定向進化説だが、分子遺伝学集団遺伝学(数学的、統計学的に遺伝を研究する)の発展を待って此の説の展開が可能になった。
 特に種を形成する集団が小さい場合、統計的なゆらぎのために自然選択が働かなくても変異が集団内に広がり固定していく(ライト効果(1931年))ことが起こり、それが此の説の中心をなす。

《この説を支持する様々な具体的知見》

 マウスで発見されたヘモグロビンの偽遺伝子の発見と偽遺伝子の進化速度の研究などから始まり、今日では膨大な数の分子的な証拠が集まりつつある。現在はそれらを総合的に俯瞰してまとめる段階に達していない。遺伝子の解読作業により、次々と分子的な新しい事実が明らかになっている時代である。ここの稿は、もう少し時間が経つて全体的な像が見えてきだして始めてうまくまとめられると思われるので詳細は省略。(最近の分子遺伝学の成果は 宮田隆氏の http://www.brh.co.jp/katari/shinka/ をご覧下さい)
 いずれにしても、分子生物学的なアプローチが可能になって、始めて進化論は論理的に検証できる科学的理論になった

 

《この説が指し示す進化のシナリオ》

 この説の本質は、遺伝子の上に分子的な変異は四六時中起こっており、あらゆる可能な方向へ変化している事である。その遺伝子変異に伴う表現型の変化は多くの場合有害か、中立的なものである。有害な場合その子孫は生き残れないので、直ちに集団の中から取り除かれる。だから多くの場合中立的な変異のみが集団の中に固定化され次世代に受け継がれていく。
 そのとき統計的に集団が小さいほど、統計的なゆらぎのために、それらの変異は集団内に生き残り易く固定化されやすい。そのとき個々の変化は小さいが変化の方向は様々な方向にアトランダムに起こる。例えば様々な遺伝子が複合的に関与する生物の大きさについても大型化の方向へも、小型化の方向へもあらゆる方向に起こる。すべての方向に変化していくのである。
 そのとき、古生代末や中生代末に起こった様な自然環境の激変により、既存の生物種が大量に絶滅して広大な生態学的環境(エコロジカルニッチェ)が空白になった場合、それぞれの環境に適応して特殊化していない原始的な種から出発して、それぞれの環境に適応した様々な種が爆発的に生まれてきて、それらのニッチェを占めなおす。
 環境の激変に耐えて生き残るのは、多くの場合それまでの環境に適応し特殊化して生態系(食物連鎖)の最上位を占めていた発達した生物種ではなくて、環境の片隅にひっそりと生きて特殊化していない(特殊化していないから環境適応能力が高い)原始的な生物である。そういった原始的な生物種から適応放散が始まる。
 そのとき、適応放散とは自然選択により環境に適応した種が生き残ったのではなくて、中立的突然変異の積み重ねによりあらゆる方向に進化していく様々な変異種が、それぞれの生息環境に適したところへ進出して行く現象である。つまり、環境による自然淘汰というよりも、中立的突然変異の積み重ねにより変化してきた様々な種が、一つの環境に於ける適応性で生存競争を繰り広げ、そのニッチェに最も適合した種が生き残っていく。
 様々な環境に進出していくことは、必然的に地理的な隔離、生活習慣による時間的・場所的な隔離を生み出す。それらの隔離により生殖的な隔離が成立する。生殖的な隔離が確立した状態でさらに変異が積み重なっていくと、やがてそれらの変異種の間で雌雄が交配しても生殖能力のある子孫がのこせなくなる。つまり種の分化が生じたことになる。そうして別々の種となれば、ますますそれぞれが勝手な方向へ進化していく。
 そして、それらの勝手な変化が進みすぎ、それぞれの環境への適応が極限まですすむと、多くの場合生態学的環境の変化に対する適応性を失い、ごくわずかな生態学的な自然環境の変化で絶滅してしまう。また地理的な変動に伴なって拡散・流入してきた別種の動植物との生存競争に負けて絶滅してしまう。
 ほとんどの種が様々な状況の進化の袋小路に入り最後には絶滅していく。つまり四六時中既成の種は絶滅しており、新しい種がそれと入れ替わりにあらわれてくる。もちろん、環境への適応性に優れており、長い年月に渡って生き延びてきた、生きている化石といわれるような生物種もある。
 現実の世界では、食物連鎖や環境変動の中で、偶然が支配する様々な要因により、誕生する子孫のごく一部のみが生き残り次世代の子孫をのこすことができるが、種のレベルの存続と絶滅に於いても、その多くは偶然に支配される。

 

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4.現在の進化論

 ここで注意しなければならないのは、中立的突然変異の統計学的浮動による種内固定が変異(進化)の主要因だが、そのようにして変異(進化)していく生物が種として生き残っていけるかどうかは、生態学的環境への適応性にある。つまり、自然選択説で述べる所の適者生存の原理である。生存競争の働くところは、様々な生物が変化し、また種が分化していく原因としてではない。中立的突然変異の統計学的浮動による種内固定により発展してきた様々な生物種が種として存続していけるかどうかを試されるメカニズムが自然選択である。存続の白黒をつける最終段階で働いている。そういった意味で、ダーウィンの唱えた自然選択説は消えていくどころかますます重要性を増してくる。

 このように解釈すれば、今までバラバラに議論されてきた定向進化説、隔離説、生殖的隔離、性的選択説、棲み分け説、適応集中、適応放散、大進化、小進化等々の断片が、進化論の全体像の中で、それぞれの場所にピッタリと収まっり、すべてを統一的に理解できる。

 

(1)生物グループ(種)が変化(進化)し、また一つの種が多様な種へ分化して行くメカニズム

@変異の生じるメカニズム → 遺伝子突然変異

 今日、遺伝子に生じる突然変異は 放射線、化学物質、紫外線・X線等の物理的要因、ウィルス感染 等が原因となって生じることが解っている。そして、これらの要因は生殖細胞の遺伝子に四六時中影響を与えており、遺伝子は、四六時中傷つけられ変化している。多くの場合それらの傷は分子的に直ちに修復されるが、希に次の世代に受け継がれる。
 このようにして生じる遺伝子上の分子的な変化は、それを基に作り出されるタンパク質の性質を変化させる。その変化はほとんどが有害なものか中立的なものである。有害な変異の個体は死滅して直ちに、その遺伝子変化は生物集団から取り除かれるが、中立的なものは、個体レベルで生き残る。

 高校生物で習うように、生殖細胞を形成する減数分裂は、遺伝子を染色体状に巻き取り、対合し、動原体と紡錘体による分離を伴う非常に複雑でデリケートな現象である。そのため、しばしば染色体の複製や分離に誤りが生じる。その結果として生み出される生殖細胞(精子・卵子)や受精卵の遺伝子(染色体)には逆位、重複、欠失、転座、などの異常が生じる。また動原体融合によって染色体の長さの変化や数の変化が生じたり、減数分裂がうまくいかず染色体数の数が倍加するような現象が生じる。
 これらが動物の生殖細胞や受精卵に起こると、多くの場合発生の制御に於いて致命的欠陥となる。それは動物の体が発生の過程で複雑で微妙な調整の基に作られて居るからである。しかし、希にそのままで生き延び得る変異となる場合もある。
 また植物に起これば、植物は動物と違って体のつくりは単純で、同一の細胞が煉瓦を積み重ねるように集合して構成されているので、劇的な形質変化を伴いながらも生き延びる場合がある。一般に植物は動物に比較して、こういった染色体レベルの変異についての耐性は高い。

A変異が種内に広がり固定するメカニズム → 中立的突然変異の統計的なゆらぎによる種内での固定

 @の変異によって、個体の中に生き延びた遺伝子レベルの変化は、一般には世代を繰り返すにつれて、集団の中から失われてしまう。しかし内には、統計的ゆらぎのために集団を構成する個体の全体に広がり、種として遺伝子が変化していく事が生じる。ここは、まさに偶然が支配する統計的、確立論的な現象である。

 このとき、数学的に明らかなように、そういったゆらぎに伴って変異が集団内へ拡散し固定化する確率は、集団を構成する個体の数が小さいものほど大きくなる。集団を構成する個体の数とは、その集団内の各個体が、その集団内の他の個体と同等な確率で互いに交配しうる状況にあるグループの個体数のことである。
 つまり生殖的に隔離された小集団に分離する事が重要になる。集団が小さいほど進化のスピードが速いことは、実際の生物界の様々な例で指摘されている。そして、実際の所あらゆるところで小集団化は実現されている。地理的に拡散するだけで、その各々は小集団に分離される。例えば、同じホモ・サピエンスでも、その住む場所が拡散することで、ネグロイド、コーカソイド、モンゴロイド、等々に分かれていった。さらに同じコーカソイド、モンゴロイドと言っても数百キロ離れて国が違えば肌の色・顔つき・体つきも変わってくることは、幾つかの国を旅してみれば直ちに了解できる。つまり、次でもっと詳しく述べるように、あらゆる方法で統計的ゆらぎの固定が起こりやすい小集団化が生じているのだ。

B種が分化するメカニズム → 生殖的隔離

 すでに述べたように、Aで述べたことが実現がされる為には種が小集団に分離されることが必要である。そのとき大切なことは互いに交配できる・できない、の生殖的な隔離が実現されることである。生殖的な隔離の成立には様々なメカニズムが考えられる。
 例えば、大洋プレート上のホットスポットに生じる火山島などのように、絶海の孤島として生じた環境に、様々な要因で流れ着いた生物種がそこで独自の発展をする。あるいは、氷河期と間氷期の繰り返しによる海水面の変動(150mを越える)に伴い隔離されたり陸続きとなる島々や大陸。又は、プレートテクトニクスに伴う移動によって離合集散する大陸や島弧。
 さらに、気候変動に伴なう砂漠や、森林の消滅などの植生・環境の変化による生態学的な分離で実現される生殖的隔離。または、生態学的な生活様式の分散により、場所的には同じ地域に住みながら、生活環境が樹上と地上、陸と海、など異なった生活環境に分離することで生殖的に隔離される。 あるいは、生活の時間帯がずれることにより、同じ場所、同じ環境に済みながら生殖的に隔離される。等々様々な状況が考えられる。現在莫大な例が、実際に観察され報告されている。

 このようにして、一旦生殖的な隔離が確立した各グループでは、それぞれのグループに固有な変異(これも確率論的な浮動・分散に依存する)が蓄積していく。それら変化が積み重なると、それらのグループ間で交配が生じても、繁殖能力のある子孫が残せなくなり、種としての分離が確立することになる。そうなると、状況が変化して地理的、生態学的な分離が解消されても、もはや生殖的な隔離が解消する事はないので、種ごとに別々の変化が集積していく。

 

(2)多様化し、変化してきた様々な種が存続・発展・絶滅するメカニズムとしての自然選択

 前項の@ABのメカニズムで進化してきた生物の様々な段階、様々な状況で適者生存の自然選択が働き、種として衰亡・隆盛していく。そのとき様々な状況に於けるメカニズムが考えられる。

 このように生存競争に於ける適者生存の原理に基づく自然選択は様々なレベル・メカニズム・様式・形態で生じる。我々の古生物学や科学的な知識が増えるにつれ自然選択の内容の理解は深まっていく。

 

(3)現在の世界のあらゆるところで機能している適者生存の原理に基づく変化

 生物はやがて様々な知識を蓄え継承する能力を獲得した。そのため、その社会の中に生じた科学的な発見、技術的な発明、社会制度の改良、生活様式の改良等が世代を超えて継承されだした。これはそれぞれの生物種に遺伝的に本能の形で蓄積されてきた知識、習慣を凌駕して生物の生存に影響を与え始めた。
 特に人類が獲得した、二足歩行によって自由になった前足の進化によって可能になった石器(道具)の使用、火の使用。また、直立歩行により声帯周りの構造が変化してできるようになった様々な音声を操る能力により言葉をしゃべれるようになったこと。様々な情報を伝達する言語の利用。文字や印刷技術の発明による情報の蓄積と伝達。コンピュータの発明とインターネット革命による利用できる情報の大規模化と効率化。あるいは羅針盤の発明による航海術の進化、弓や槍や銃の発明、蒸気機関や内燃機関の発明、電気の発見と利用等々、社会体制としての共同体の形成、分業による職業の高度化、民主主義の確立、自由競争に基づく資本主義の原理、等々などのあらゆる変化が生物としての生き方・隆盛・衰亡の理を決める。
 これらの変化はあらゆる方向に起こっており、その変化の中でごく一部が適者生存で生き残り発展していく。これにより国家が発展・滅亡し、様々な社会が存続を賭けて変化している。現在社会での様々な企業の存亡や、身の回りで利用される商品も適者生存の原理で淘汰されていく。

 このようにあらゆる変化に適者生存の原理が働いているという認識に立つと、改めて適者とは何か、生物とは何か、生物が進化発展するとは何か、人間にとって幸せとはなにかが問われてくる。しかし、これらの問いに正解が得られることは永遠に無いだろう。

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