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鎌状赤血球貧血症とマラリアの分布

 1949年Linus Paulingは精製されたヘモグロビンを電気泳動法によって調べることにより、鎌状赤血球貧血症患者のヘモグロビンの電荷が健常者のそれと異なることを発見した。それはヘモグロビンを構成する287個のアミノ酸中のただ1個の違いによるものだった。

 鎌状赤血球は、ヘモグロビンを作る遺伝子に生じた突然変異によって生じる。ヘモグロビンは分子鎖が折りたたまれて立体的な形をしている4つのタンパク質(α、α、β、β)が結合してできている。この中のβ鎖の6位のアミノ酸がグルタミン酸からバリンに置き換わった分子異常が引き起こす病気である。
 この置換によりβ鎖の立体構造が変化する。さらに血漿のpH域では、グルタミン酸は負電荷を持つがバリンは電荷を持たない。このために異常ヘモグロビンのβ鎖の6位の位置(これは分子の外表面にある)に疎水結合性を持つ接触点が現れる。そのため酸素が外れた状態のヘモグロビン分子は相互に会合して繊維状の集合体に凝集してしまう。それが赤血球を鎌状に変形させる。
 鎌状の赤血球は非常に壊れやすいため貧血症になる。また毛細血管に詰まりやすく、重篤な臓器障害を引き起こす。

 この遺伝子をホモでもつ個体は重篤な貧血症や臓器障害により幼児期に死亡してしまう。しかし、ヘテロ接合体は一方の親から正常な遺伝子を受け継ぐので正常なヘモグロビンも存在する。そのため凝集はほとんど起こらず、赤血球のうちの約1%程度が酸素欠乏時に鎌状になるだけである。そのためヘテロ接合固体は、ほぼ正常な生活を送ることができる。そのときヘテロ接合個体には、致死性マラリア(マラリア原虫は赤血球内で増殖する)に対して小さいが意味のある抵抗性があることが解っている。

 ヘテロ接合個体の致死性マラリアに対する抵抗性が、ホモ接合の有害性に対してバランスを取り、赤血球異常に伴う貧血症の不利益にもかかわらず、マラリアの蔓延地帯でこの遺伝子が保存されてきた。上図は両者の分布に強い相関があることを示している。また、マラリアの存在しないアメリカにおいては、アフリカ系アメリカ人からもその遺伝頻度は減少している。
 これらの事実から自然選択の例として教科書などで良く取り上げられる。

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