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台風(Typhoon熱帯低気圧)のメカニズム

1.台風の発生

 海面温度が26〜27℃以上になる夏から秋に発生する。下図は熱帯低気圧の発生地域と年間発生数である。赤道直下は海面温度は高いが、コリオリ力がゼロのため発生しない。太平洋、大西洋の東側で数多く発生するのは偏東風のために海面表層の暖かい海水が東側に吹き寄せられるからである。

 2004年3月26日今まで熱帯低気圧が発生したことのないブラジル沖で観測史上初めての台風が発生した。これも地球温暖化の現象か。(2006年2月追記)

 赤道地方では海面から熱を吸収して定常的に積乱雲が発生している。そのとき直径10km程度の上昇気流と下降気流が隣り合った対流セルが生じる。対流のスケールは対流圏の厚さと同レベルが安定で効率がよい。それは縦に細長い対流だと上昇気流と下降気流の摩擦が大きい(乱流の混合による)。一方横に平べったい対流だと効率よく熱を吸い上げることができない。

 この積乱雲のままだと台風にならないが、赤道の少し高緯度側には偏東風(貿易風と呼ばれる)が吹いている。中緯度地方のロスビー循環と同じようなメカニズムでこの中に偏東風波動が生じ、波動の南側には低気圧、北側には高気圧が並んでいる。台風は低気圧部分の積乱雲が大きな渦に集約されて生じる。

補足説明1
 台風が一つずつ時間をおいて発生するのは、台風が海面の熱を根こそぎ吸い上げて奪い去っていくからです。海面温度が日射により元にもどるのに時間がかかる。
 このことについてもう少し補足する。台風が通過すると海面を攪乱するので、台風が通過した海域では暖かい表層水とその下層の冷たい水か攪拌され、その結果として海面温度が下がる事も生じる。そのために次の台風の発生までに少し時間間隔が生じる。
 ただし今日、地球温暖化の影響で、かなり深部まで海面温度が上がり始めている。そうなると台風通過による海表面の攪拌による海表面温度の低下はあまり望めなくなる。そうなると、次の台風が発生し、同一経路を通過する頻度は多くなる可能性はある。

補足説明2
 上記のβ効果については別稿の1.(1)2.“β項”も参照されて下さい。
 ただし、台風が北上する原因としては次に説明する[補足説明3]の効果もあります。実際に台風がたどるコースは太平洋高気圧塊の形状・状況と偏西風帯のジェット気流に大きく依存します。

補足説明3
 図4に記した、“台風は太平洋上にできる高気圧塊の縁に沿って北上する”の補足です。
 まず、夏季に太平洋高気圧が発達することについてですが、別稿「大気大循環」4.で説明したメカニズム(下記図5と、図6参照)から解るように、本来中緯度高気圧帯に高気圧は発生するものです。そのとき、特に夏季には北半球では赤道低気圧帯の位置が北側にずれしかも発達します。そのため中緯度高気圧帯も北にズレ、そして高気圧性もより発達します。そのため夏季の太平洋上には大きな高気圧領域が生じます。


 このとき、高気圧帯では海面付近が高気圧であって上空は周囲に比べて低気圧である事を思い出して下さい。そのため太平洋上の高気圧領域の海面では周囲に放射状の風の流れが生じます。その風はコリオリ力の為に次第に高気圧の等圧線に沿った右回りの風になります。つまり、太平洋上の高気圧領域の周りには、その等圧線に沿った右回りの風の流れが存在するのです。その風は台風自身に流れ込む左回りの風のながれと同じですから、台風は高気圧領域の周辺部に吹く風に沿って動いていく事になります。
 つまり太平洋に発達する高気圧は、[補足説明2]で説明した^β効果と相まって、台風を北へ移動させる力となります。

 

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2.傾度風とスピンダウン効果

)風の分類

名称 圧力傾度 コリオリ力 遠心力
地衡風   低気圧・高気圧
傾度風 台風(熱帯低気圧)
慣性振動   海洋中の渦
旋衡風 竜巻

 

1.地衡風

 普通の温帯低気圧や温帯高気圧に伴って吹く風は、圧力傾度コリオリ力がつり合った流れで“地衡風”と言います。コリオリ力については、別稿コリオリ力を復習して下さい。
 そのとき低気圧や高気圧の半径は比較的大きいため気圧傾度も小さく、風速は比較的穏やかです。そのため向心力(あるいは遠心力)は小さくて普通無視できて、[圧力傾度力]と[コリオリ力]がつり合った流れになり、図5の様に等圧線に沿って平行に吹きます。

 地衡風・地衡流についてのもう少し詳しい説明は別稿2.(1)をご覧下さい。

 

2.傾度風

 台風(熱帯低気圧)は非常に強い風速を伴った非常に強い回転運動があるので、圧力傾度コリオリ力と共に遠心力ともつり合った流れになる。そのような流れを“傾度風”と言います。
 台風の様に風速、気圧傾度が大きく半径が小さくなると円運動のための向心力との釣り合いが重要になってくる。
(A)大地から見ると[気圧傾度力]−[コリオリ力]=[向心力]となり、この向心力が円運動の向心加速度を生じて円運動を実現する。
(B)風とともに動きながら観察すると向心力が消えて見かけの力(慣性力という)の遠心力が現れる。[気圧傾度力]、[遠心力]、[コリオリ力]の3力がつり合うように見える。
 地面の摩擦が無視できる場合の傾度風の力関係を図6に示す。この場合、風は等圧線に平行に吹く。

 もう少し詳しい説明を引用すると以下の様になる。

 上記(1)(2)式の左辺の極座標における加速度表現については別稿2.(3)を参照されたし。



 

3.慣性振動

 圧力傾度はほとんど関係せず、コリオリ力のみが働く様な風です。風系について“慣性振動”と見なせるのは別稿2.(2)で説明した様に“極偏東風”“貿易風”の様に、南方や東方へ速度v0で全体が動き出した流体が、コリオリ力のために全体的にそろって風向きを変える様な現象です。
 この現象は主に海洋中の渦として観測されている。

 

4.旋衡風

 “旋衡風”とは圧力傾度遠心力がつり合った流れです。下記引用文に記されている様に竜巻やつむじ風などが相当します。

 

)“台風”は傾度風に摩擦力が加わったもの

 傾度風摩擦力が働く場合が“台風”です。この摩擦力が、(3)で説明する“スピンダウン効果”を生じる。スピンダウン効果が台風を発達させ非常に強い勢力を保たせる原因です。
 傾度風領域の風は風速が大きく、また風系の規模も大きくなるので、地表面との“摩擦力”が風速・風向に大きく影響してきます。そのことについて下記引用文ご覧ください。

 より正確には高さ方向の速度分布も考慮した方程式となります。



 

)スピンダウン効果

 (1)で考察した地衡風・傾度風の状態で、空気塊と地面(海面)との間に摩擦力が働くとどうなるか考えてみる。摩擦のために地面(海面)付近の空気塊の風速が落ちてくる。
 このように摩擦のために速度が遅くなる厚さの領域をエックマンの境界層という。これはもともと風に引きずられて流れる大洋の表層流(いわゆる海流)の厚さのことで、エックマンの吹送流理論の中で展開されたものです。
 エックマン境界層は様々な流体現象で観察され、そのスケールも様々です。例えば茶碗の中の水をかき回した場合は茶碗の底層1mm程度、風で海水が流される場合表層の水深100m程度、台風の場合高さ1km程度までが、その領域になります。

 摩擦のために風速が遅くなると、遠心力は風速vの二乗に比例して弱まり、コリオリ力も風速vに比例するため小さくなる。その結果、気圧傾度力が変わらなければ内向きの力が大きくなり、等圧線に沿った円運動が保てなくなる。そのため空気塊は等圧線を横切って低圧側に風向きを変える。そうして新たに[気圧傾度力]、[コリオリ力]、[遠心力]、[摩擦力]をつり合わせようとする。
 このように中心に向かう流れ込みが生じることを“スピンダウン効果”という。

 スピンダウン効果は茶碗にお茶を入れてハシでかき回してみれば観察できる。底に沈んでいる茶ガラが茶碗の渦巻きの中心に掃き寄せられていくのを見て欲しい。この場合コリオリ力の替わりに遠心力が働くと考える。
 圧力勾配ができるメカニズムは風系の場合と異なりますが、遠心力と圧力傾度力に加えて茶碗の底でも摩擦力が働き中心向きの流れが生じる事情は同じです。
 茶碗の場合に圧力勾配が生じるメカニズムは別稿を御覧ください。

 

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3.台風のメカニズム

 台風領域の1km以上の高空では等圧線にほぼ平行に、中心に対して左周り(北半球)に風が吹く。しかし地表付近では摩擦のためスピンダウン効果が生じて台風の中心に向かって流れ込む風になる。そのとき[気圧傾度力][コリオリ力][遠心力][摩擦力]がつり合っている。

 暖かい海面を吹く風は海面から気化熱を奪いながら水蒸気をたっぷり含んで中心に向かうことになる。台風の中心に集まり行き場を失った空気塊は上昇せざるを得ない。上昇を開始した空気塊は気圧の減少とともに断熱膨張して温度が下がる。気温低下により過飽和になった空気塊は水蒸気の凝縮を始める。そのとき多量の凝縮熱を出し空気塊を暖める。暖まった空気塊は膨張して軽くなるためさらに勢いよく上昇を続ける。以後、断熱膨張→水蒸気の凝縮→潜熱の開放→空気の加熱膨張→上昇気流 が繰り返され激しい上昇気流が生じるとともに多量の雨を降らす。台風が近づくと気温が上昇するのを思い出してほしい。

 渦の中心に行くほど角運動量保存則により渦は強くなる。渦の回転が強い(vが大)ほどコリオリ力、遠心力が大きくなる。だからそれに抗して小さな半径の円運動をさせるためには気圧傾度は大きくなる必要がある。そのため中心の気圧はますます低下する。その低い気圧がさらに周囲の空気を吸い込み上記のメカニズムを強める。

 大気が暖められると膨張して高く積もり、そのために低気圧となる。高く積もると、大気の底が低気圧になる理由については別稿「大気大循環」を御覧ください。
 台風領域では、温帯低気圧(上空は高気圧)と違って、上空も周囲に対して低気圧になっている。しかし台風では遠心力が大きいためその気圧傾度に逆らって空気塊は周囲へ吹き出す。図8参照

 台風は暖かい海面上を吹き抜ける風により、あたかも電気掃除機の様に海面の熱エネルギーを気化熱という形で水蒸気の中に閉じこめ、その中心に向かって吸い集める。中心に向かう原動力がスピンダウン効果である。集めたエネルギーを台風の中で凝縮熱という形で解放して上昇気流を発生させる。上昇気流は断熱膨張により飽和水蒸気をさらに凝縮させて潜熱を解放し上昇気流をさらに強める。台風の中心部には凝縮熱で暖められて膨張した空気が低密度で高く積もるため、地表部はかなりの低気圧になる。その低気圧がさらに周囲の空気を吸い込み、その強大な運動エネルギーを維持する。
 貿易風帯で発生した当初はそんなに強くなかった台風が暖流(黒潮)に乗って北上するとともに次第に発達して強大になり、だいたい北緯20〜25度あたりで最大規模に成長する。何とも目くるめく驚異の大気現象です。

 台風は北上につれて、やがて海面温度の低い領域に入り、また陸に上陸して水蒸気や気化熱の供給を絶たれる。そのため日本本土に上陸する頃から次第に勢力を弱め、最後には温帯低気圧となる。

 

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4.台風メカニズムについての新発見[2017年7月追記]

 2016年8月22日に千葉県に上陸して首都圏を縦断した台風9号は、茨城県筑波市の気象庁気象研究所の“フェーズドアレイレーダー”の西約10kmを通過した。そのときレーダーにより台風下層部に、台風低層部の風によって誘起される、ロール状の渦の存在が確認された。これは米国の研究者がすでに提唱していたものだが、実際に存在することが始めて観測されたのです。
 つまり、2.(3)で説明したスピンダウン効果により、台風低層部には左回転で周りながら中心部に収束する風が吹くのですが、その風に平行な回転軸を持つロール状の空気の回転対流の連なりが実際に存在することが解った。

 1.の図3でも述べたように、薄い流体層を下側から均一に熱したときには、流体層の厚さ程度の大きさで区切られた細胞(セル)状の対流構造(ベナール渦)ができることは良く知られている。こういった状況の流体層上層に一方に向かう流れが加わると、対流セルはロール状の対流が連なった構造へ遷移する。冬の日本海(対馬暖流により海面温度は高い)上空を北西→南東に吹くシベリア高気圧由来の冷たい風が日本海に作り出すロール状の空気流が生み出す筋状の雲の連なりは良く知られている。それと同様なメカニズムのロール状の空気流が台風低層部にも存在するというのである。
 冬形気圧配置の時に日本海に生じるロール状の空気流の直径は対流圏の厚さ(10km)程度ですが、台風低層部に生じるロールの直径は400m程度で、丁度台風下層部のスピンダウン効果による流れを生じる大気境界層の厚さ程度となる様です。
 そのロール状の空気流は低層部にビッシリと並んでいて、暖かい海面から効率的に水蒸気を吸い上げて、台風低層部(スピンダウン境界層上面)に効率的に水蒸気を供給しているようです。その空気流が供給する水蒸気は凝結高度を超えると凝結を始めて大量の潜熱を解放し、巨大な積乱雲の連なりを作りだす。

 このロール状の空気流のメカニズムは、台風通過時の周期的な突風の発生を旨く説明する。また、この流れが、海面からの水蒸気吸収と台風低層部への潜熱の供給に深く関わるので、台風の強度変化に重要な意味を持つことが予想される。そのため、この空気流の観測精度を向上させれば、台風の発達予想の精度向上が期待できる。

 このことを紹介した朝日新聞(2017年7月16日)の記事を引用。



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