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 3.電磁輻射4,干渉5,回折6,屈折率の本質7,輻射減衰、光の散乱16,ブラウン運動

ファインマン物理学U「光、熱、波動」岩波書店(1968年刊)

第15章 統計力学の原理

15-1 大気の密度と圧力










補足説明1
 まず、 P=n・kT の部分ですが、圧力は気体分子が壁に当たる衝撃力に関係します。その衝撃力は気体分子の速度に関係します。その速度は気体分子の運動エネルギーに関係します。
 そのため、この式は気体分子が“エネルギー等分配則”

を満足している事を代弁しています。(4)式に付いては江沢文献7.第6章§23. を復習
 
 
 次に重要なのは、“エネルギー保存則”です。その本質はSommerfeld文献「調和振動子」1.で説明されている。すなわち、(4)式で与えられる運動エネルギーを持った気体分子が重力に逆らって上方に移動すれば
 力×距離=F・dx
の仕事(重力に逆らう仕事)をされて運動エネルギーを失っていきます。しかし、気体分子はその減少した分だけの位置エネルギーを持つ。つまり、そこで示されているエネルギー保存則から解るように、高度が上昇した位置に到達した気体分子も、その気体分子が持つ位置エネルギーを考慮すると

となり、最初の低い位置で持っていたエネルギー値1/2kTをそのまま保持しています。このとき気体分子の温度Tはすべての高度、すべての時間で一定としていますから、(4)式の右辺と(4’)式の右辺のエネルギー値 1/2kT は同一で不変です。これが“エネルギー保存則”の本質です。
 
 
 このとき、上述の“エネルギー等分配則”と、“エネルギー保存則”を一緒にしたものが、ファインマンが説明している(15.2)式です。すなわち

です。この式の左辺の Fndx は上記のエネルギー保存則を導いたときの 力×距離=F・dx に他なりません。まさにその意味で使われています。
 そして、(15.2)式の微分方程式を解いて得られる結論が

です。
 最後の結論(15.3)はポテンシャルエネルギーP.E,が大きいところ(高度が高いところ)では粒子密度が減少することを示している。粒子密度が減少することは取りも直さず高度が高いところの圧力が減少する事を示している。ただし、もちろん高度が高いところの圧力が減少するのは粒子密度が減少することだけでなく、気体分子の運動エネルギーも(“エネルギー保存則”に従って)減少する効果も含まれています。(15.3)式にはその事の効果も含まれているのです。
 つまり、気体分子数密度分布式(15.3)式には、“エネルギー等分配則”と“エネルギー保存則”の両方が含まれており、両法則は(15.3)式の数密度分布に現れる。

補足説明2
 別稿「Einsteinのブラウン運動理論とPerrinの検証実験」2.§3.1.[補足説明1]や、4.(4)[補足説明3]で述べた事柄、
 『上記(15.3)式の関係が(気体分子に比較してはるかに大きい)ブラウン運動をする懸濁粒子に付いても成り立つ事を検証すれば、懸濁粒子の様な巨大粒子に対しても“エネルギー等分配則”が成り立つ証拠となる。』
について補足します。
 
 
 まず、(15.3)式は【気体分子程度の原子・分子レベルの小さな粒子】に対して成り立つ“エネルギー等分配則”“エネルギー保存則”によって導かれたものであることに注意して下さい。
 その時、「Einsteinのブラウン運動理論とPerrinの検証実験」4.(5)3.(1)で説明した様に、(15.3)式のような気体分子の数密度の鉛直方向の分布の様子を測定することによって、“アボガドロ数”NAを算出することができます。
 だからもし、現実の(酸素や窒素や水素などの)気体分子の鉛直方向の数密度分布を、測定する事ができたならば、その分布状況n(h)の観測値から“アボガドロ数”NAを算出することができます。
 そしてもし、その様にして測定されたアボガドロ数が他の方法で求められた値と一致したならば、(15.3)式の正しさが証明され、その式の導出の元となった“エネルギー等分配則”“エネルギー保存則”の正しさが検証されたことになります。
 しかしながら現実の酸素や窒素や水素などはあまりにも小さい分子なので、実際にその様な数密度分布を測定するのは不可能です。もちろん数密度は圧力に関係しますので、実際の大気圧力の高度変化などから(15.3)式は正しいだろうと認識はされていましたが、数密度分布を実際に観測・測定するのは不可能です。
 
 
 上記の様な状況の中で、もし【ブラウン運動の観測対象となるような巨大な粒子】に対してもエネルギー等分配則が成り立ち(15.3)式が成り立つのなら、そしてブラウン運動粒子レベルの大きさで、その質量と大きさが実際に測定でき、その大きさと質量がそろった微粒子を多量に準備することができたなら、(15.3)式をその巨大懸濁粒子について観測・検証できる事になります。それが実際にペランが行ったことです。
 ペランは、その様な粒のそろった巨大懸濁粒子の高度による数密度変化を調べて“アボガドロ数”NAを算出して見たのです。そして、その値は他の方法で求まっていた値と見事に一致した。一致したと言うことは、取りも直さず懸濁粒子レベルの大きさの粒子もエネルギー等分配則を満たしており、一粒つの粒子が持つ運動エネルギーは kTレベル であるという事が証明されたことになる。
 
 
 このとき、(15.3)式の検証には“エネルギー等分配則”の検証のみならず、“エネルギー保存則”の検証も含まれています。
 実際、高度ゼロの地点で巨大懸濁粒子の1粒がkTの運動エネルギーを持っていたとします。その時、巨大懸濁粒子の高度が上昇したとき、エネルギー保存則による運動エネルギーが減少しその位置エネルギーが増大するわけですが、その増大する量は最大でも高度ゼロで持っていた運動エネルギー値であるkTレベルです。
 位置エネルギーの変化量はmgdxですが懸濁粒子のmは酸素、窒素なので気体分子の質量と比較して極めて巨大ですからkTレベルのエネルギー変化で生じる高度差dxは極めて小さくなりμmのレベルになります。
 実際、Perrinは別稿4.(3)[ペランの説明]の様に、気体分子の分布では

の様になるのに対して、気体分子よりも1000倍も大きく、109倍も重いブラウン運動微粒子になると、その分布幅は下図の様に、顕微鏡のブレパラートの厚さレベルになる。と説明しています。

実際、観測される懸濁粒子の分布範囲がこのように極薄い範囲だったら、逆に懸濁粒子の1粒が持つ運動エネルギーは kT のレベルである事を示している事になる。それと同時にブラウン運動微粒子に対してもエネルギー保存則が成り立っている事になる。
 
 
 結局のところ、別稿「Einsteinのブラウン運動理論とPerrinの検証実験」5.で説明した様に、ノーベル賞の対象になったペランの業績は、
@ アインシュタインが得たブラウン運動理論が示す結果の検証と、それを利用したアボガドロ数の測定。

A アインシュタインが理論展開に用いた懸濁粒子レベルでも“エネルギー等分配則”と“エネルギー保存則”が成り立つ事の検証実験(別稿5.(3)で説明されている)と、それを用いたアボガドロ数の測定。
です。
 そのとき、特に後半Aの業績がペランのノーベル賞受賞の重要な要因であったようです。







 

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15-2 ボルツマンの法則







 ここは非常に解りにくい所です。これが成り立つ理由は前記のキーポイント !! にあります。キーポイント !! の下に記した[補足説明1]と[補足説明2]を繰り返し吟味して下さい。

 

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15-3 液体の蒸発











 

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15-4 分子の速度分布

[補足説明]
 以下では、【分子の高度分布から分子の速度分布(Maxwellの速度分布則)を導きます】が、逆に【分子の速度分布(Maxwellの速度分布則)から分子の高度分布を導く】事もできます。その事は別稿で引用している 江沢文献7.第6章§23. で説明されていますので比較検討してみて下さい。




























 上記の様な指数関数の積分に付いては別稿「マクスウェルの速度分布則1(1860年)」2.(2)などをご覧下さい。




 

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15-5 気体の比熱













 上記の 『“単振動体”では、平均の運動エネルギーと平均のTエネルギーとは同じ』 については、別稿「調和振動子」2.(3)を復習されたし。

[補足説明]
 γの実測値に付いては別稿「音速の理論2(分子速度と比熱比)」2.(2)も参照されたし。γの測定はその定義通り、圧力一定の条件で定圧比熱Cpと体積一定の条件で定積比熱Cvを測定しγ=C/Cとすれば良いのだと思いますが、上記別稿に述べた様に気体中を伝わる音速の測定値から求める場合が多い様です。また、上記のγ=(f+2)/2式に付いては上記別稿の2.(2)[補足説明2]をご覧下さい。







 

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15-6 古典物理学の破綻




 上記の論文は1860年発刊の論文です。これは別稿「マクスウェルの速度分布則1」で引用しているものです。下記の記述は第V部の最後に記されているものです。

 上記の事柄に付いては別稿「音速の理論2(分子速度と比熱比)」2.(4)Joule論文(1851年) も参照されたし。











第16章 ブラウン運動 に続く

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