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藤井保憲 著 “相対性理論”(平凡社「世界大百科事典」より引用)

藤井保憲著「平凡社世界百科事典」の項目“相対性理論”からの引用です。

同じ著者の「時空と重力」産業図書(1979年刊)もどうぞご覧下さい。
  §2“波動方程式の共変性”、§4“時空概念”、§5“固有時”、§15“接続の意味”
  §18“4次元Riemann空間”、§19“測地運動方程式”、§20“重力場方程式”

0. 《目 次》

1.運動の相対性と座標変換
2.慣性系
3.特殊相対性理論(special theory ofrelativity)
   (1)アインシュタインの出発点
   (2)同時刻の相対性
   (3)時空
   (4)理論からの帰結と発展
4.一般相対性理論(general theory ofrelativity)
   (1)等価原理(principle of equivalence)
   (2)リーマン幾何学と一般相対性理論
   (3)理論の展開
   (4)理論の検証
   (5)研究の現状
5.哲学的意義
6.ローレンツ変換の導き方
7.双子のパラドックス

 物理学は今世紀に入って相対性理論(相対論ともいう)と量子力学という二つの大きな飛躍を遂げている。これらはともに物理学の歴史の中でも最大級の革命であったのみならず、他の自然科学や哲学、さらにもっと広い文化の領域にまで計り知れない影響を及ぼした。
 しかし相対性理論と量子力学とは、その成立の過程において興味ある対照をなしている。量子力学が、多くの実験事実からいわば強制され、N. H. D. ボーアをはじめ多数の研究者の試行錯誤の結果、徐々に最終的な型に収束したのに対し、相対性理論はほとんど A.アインシュタイン1人によって完成され、しかももっぱらきわめて理論的な整合性を動機として作られた点に著しい特色がある。これがアインシュタインをして現代でももっとも魅力ある物理学者の一人たらしめている原因であろう。
 ここではまず座標変換、慣性系など、相対性理論の理解のための予備知識の説明から始め、次いで特殊相対性理論、一般相対性理論について概説したい。

 

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1.運動の相対性と座標変換

 およそ運動とは、すべて、〈何か〉に対する運動として記述される。例えば川の水面を航行する船の速さという場合、岸に対する速さ、岸を走る自動車に対する速さ、水に対する速さ、さらには、すれちがう他の船に対する速さなど、いろいろなものが考えられる。これらは、それぞれ異なった意味と理由のもとに使われ、もちろんいろいろ違った値をとる。このような意味で運動は相対的であるといわれる。
 事情を数学的に正確に表すために座標系を導入する。上の例では、地上に固定した座標系で測った速度、自動車に固定した座標系に準拠した速度等々ということになる。速度だけではなく、場所を表す座標についても同様で、すべて座標系を指定して初めて定まるものであり、異なる座標系でみれば異なる値をもつ。
 再び船の例に戻って、川の水は岸に対して時速10km/hで流れているとしよう。これは岸に固定した座標系と、流れる水に固定した座標系との間の関係を与えている。もし船は下流に向かい、水に対して20km/hの速度で動いているならば、船の岸に対する速度は10+20=30km/hとなる。このような計算は速度の合成則と呼ばれるが、これはまた座標変換の一例でもある。つまり、二つの座標系の間の関係が与えられているとき、一つの座標系における速度から、もう一つの座標系における速度が定められる。
 ここで述べた座標変換、あるいは速度の合成則はわれわれの日常的な経験、常識に一致するものであるが、このような常識は、光の運動についてはまったくあてはまらないことが判明した。この困難を解決するためにいろいろな考え方が提出されたが、最終的な解決は1905年、アインシュタインによって発表された特殊相対性理論によって与えられた。この理論は、時間と空間に関する従来の考え方を根本的に変えることを要求しており、その結果として、時計のおくれ(あるいは双子のパラドックス)、質量がエネルギーをもつことなど、おどろくべき結果を多数予言した。それらはいずれも直接、あるいは間接に検証され、とくに、光速に近い速さで運動する素粒子の研究には、理論、実験をとわず、特殊相対性理論を駆使することが必要不可欠となっている。
 特殊相対性理論が特殊と呼ばれるのは、考慮する座標変換が慣性系どうしの間のものに限られているからであるが、もっと一般的な座標変換まで取り扱う理論は15年になって発表され、一般相対性理論と名付けられた。これは、特殊相対性理論よりもさらに革新的な内容を含む重力の理論となるのであるが、この間の事情を理解する手始めとして、ニュートンの力学における慣性系に関して説明しておかなければならない。

 

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2.慣性系

 慣性系とは、ニュートンの運動法則が成り立つ座標系のことである。地上に固定した座標系は近似的に慣性系である。実際、摩擦のない水平な台の上におかれた物体は、力を加えなければ静止したままか、または等速直線運動を続ける。すなわち、ニュートンの第1法則(慣性の法則)が成り立っている。これに反して加速中の乗物の中では、うしろに引かれるような仮想的な力が働き、また回転する円板の上では同じように仮想的な力である遠心力が働く。これらは慣性力と呼ばれ、このような真の力でないものを加えなければならない点で、加速中の乗物や、回転する円板に固定した座標系は慣性系ではない。また、地上に固定した座標系が近似的にしか慣性系でないといったのは、地球は慣性系に対して自転による回転をしており、地球上の物体は、そのための遠心力やコリオリの力を受けている証拠があるからである。
 ともかく、x、y、z の直交座標をもつ一つの慣性系があり、それを S と記そう。S の x 軸、y 軸、z軸と互いに平行な x'、y'、z' の座標軸をもち、Sに対して x 軸方向に一定の速度 v で動いている座標系を S' とする。原点が一致した時刻を t=0、t'=0とすると、両者の座標の間には、

    x'=x−vt、y'=y、z'=z  ・・・・・・(1)

という関係がある。これは一種の座標変換であり、ガリレイ変換と呼ばれる。この変換によって物体の速度の x、y、z 方向の成分(Vx、Vy、Vz)はそれぞれ、

    Vx'=Vx−v、 Vy'=Vy、 Vz'=Vz  ・・・・・・(2)

のように変換される。これが速度の合成則であることは、先にあげた船の例からすぐに理解されるであろう。
 ところで、このガリレイ変換によって物体の加速度は不変に保たれる。なぜならば、速度は(2)に従って変わるが、それは単に速度の目盛の原点をずらせただけであり、速度の変化率の値は変わらないからである。とくに S でみて等速度運動は、S' でみても等速度運動であり、S で慣性の法則が成り立っているならば、それは S' でも同様に成り立っていることになる。したがって、一つの慣性系からガリレイ変換によって移る座標系はすべて慣性系である。v の値はどんなものでもよいのであるから、慣性系は無数に存在する。これらの慣性系は、運動法則に関する限りどれも互いに同等であり、どれかが他に対して特別に優位に立つことはない。このことはガリレイの相対性とも呼ばれる。
 しかし慣性系は全体として、他の座標系(非慣性系)に対して特別の地位を保っている。つまり、真の力のみを考慮に入れてニュートンの運動法則がそのまま成り立つのは、慣性系に限られるのである。ニュートンは慣性系(の全体)を、ある意味で絶対座標系であると考えていた。しかし E. マッハはこの考えに反対し、宇宙の恒星系全体に固定された座標系(およびこれからガリレイ変換によって移ることのできるすべての座標系)が慣性系であるとした。この背後にあるのは、慣性系は全宇宙の物質の分布のしかたによって自然に決まるものであるという考え方であり、いわば絶対性の排除、相対性の主張ということもできる。マッハの原理と呼ばれるこの考え方は、多分に哲学的なものであったが、絶対座標系の否定という点を通じてアインシュタインに強い影響を与えたといわれている。完成された一般相対性理論において、慣性系がどのような位置を占めるようになったかについては後に触れる。

 

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3.特殊相対性理論(special theory ofrelativity)

 1864年に定成されたマクスウェルの電磁理論からは、真空中を c≒3×108m/sで伝わる波動の存在が予言され、電磁波と名付けられた。この伝搬速度は、すでに測定されていた光の速度とよく一致し、ここに、光の本性は電磁波であるという考えが生まれたのである(光の電磁波説の確固たる基礎は1888年 H. R. ヘルツによって与えられ、その実験はヘルツの実験と呼ばれている)。しかし、上記の3×108m/sという速度は、何に対する速度であろうか。空気中を伝わる音波の場合ならば事情は簡単である。すなわち、音速(≒340m/s)とは、媒質である空気に対する速度である。しかし、マクスウェルの方程式から電磁波の存在を導くに際しては何も媒質は仮定されてはいない。すなわち、電磁波は真空を伝わるものとしてその存在が導かれたのであるが、真空に座標系を固定するわけにはいかない。これはあまりに明白な理論的困難である。一方、速度の異なる座標系で光速を測定し、果たして差が現れるかどうかをみようとする実験も行われた(マイケルソン=モーリーの実験)が、そのような光速の差を検出することはできなかった。これは、(2)式の速度の合成則が成り立っていないことを意味するものであり、深刻な困難であった。
 ところで、この当時広く行われた議論にエーテル説なるものがあった。それは、電磁波は真空や物質の中を一様に満たしているエーテルという仮想的な媒質の中を伝わるというものであり、マイケルソン=モーリーの実験(これも静止したエーテルの存在を実験的に見いだそうとしたものである)が、これに対して否定的な結果を与えた後も、この考えはなかなか捨てられなかった。このような仮想的な物質を仮定することは、かえって困難を増すのみであったが、H. ローレンツと G. フィッツジェラルドは、それぞれ独立に、エーテル説に立ったうえで、マイケルソン=モーリーの否定的実験を説明するためには、速度 v で動く物体は、その進行方向に

倍短くなると考えればよいことを示した(ローレンツ収縮)。しかし、あらゆる物体が、その種類をとわず一様に収縮する機構を説明することはできなかった。

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(1)アインシュタインの出発点

 このような状況の中で、アインシュタインが提出した考えは次のようなものであった。ただし、彼自身はマイケルソン=モーリーの実験を説明しようとしたのではない。マクスウェルの電磁理論と力学の法則との整合性が問題なのであった。彼はまず、光の速度はどんな慣性系からみても同じであることを認めることから出発しようという(光速度不変の原理)。これが素朴な速度の合成則(2)とどんなに矛盾しようとも、一方において真空中におけるマクスウェル理論を正しいものと受けいれる限り、これ以外に考えようはないといわば居直った形である。考え直さなければならないのは、むしろ、それまで何の疑いももたれなかった速度の合成則のほうではなかろうかというのである。これはまた、慣性系の間の座標変換としてのガリレイ変換(1)も改変されるべきであることを意味する。
 正しい座標変換としてアインシュタインが(1)式に代わるものとして提出したのは、

である。この変換式はローレンツ変換と呼ばれ、ローレンツがローレンツ収縮を導いた際に用いたものと同じ形であるが、その前提はまったく異なる(この式の導き方については6.ローレンツ変換の導き方を参照)。
 この変換式が示すもっとも著しい特徴は、空間と時間(x と t)とが互いに移り変わることである。以前の考え方では、時間はあらゆる座標系に共通な流れであり、どんな座標変換を行っても不変に保たれるものと考えられていた。すなわち t'=tと、暗黙のうちに仮定されていたのである。このあまりにも明白とされてきた常識を打破することが、光速にまつわるなぞを完全に解き明かす鍵であった。

 

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(2)同時刻の相対性

 (3)式が意味する物理的内容について、アインシュタインは多くの思考実験を用いて説明している。その代表的なものとして、ここでは同時刻の相対性をとり上げてみよう。
 もし時間があらゆる座標系に共通なものであれば、二つの事象が同時に起こるということは、どの座標系にとっても共通な事実である。しかしこれは光速度不変の原理とは両立しないことを以下に示そう。そもそも離れた2点における同時刻とは、どんな物理的操作によって確認されるかをアインシュタインは考察する。一つの典型的な方法は両地点の中間点で光を発し、それが両地点で受けとられる時刻が同時刻であるとみなすことである。
 例えば電車の中央 C から発せられた光が、前後に等距離ずつ進んで、先端 A、後端 B に達するとしよう。電車に固定した座標系 S でみれば、光は、上に述べた意味で同時に A、B に達する。一方、この一連の過程を、地上に固定した座標系 S' でみてみよう。C を発した光は、光速度不変の原理により、S' でみても同じ速度 c で進む。したがって C が光を発した瞬間に、C と同じ場所にあった地上の点 C' が光を発射したのと同じことである。さて、地上からみていると、電車の後端 B は C' に近づきつつあり、一方、先端 A はC' から遠ざかりつつある。ゆえに前向きの光がA に追いつくより以前に、後ろ向きの光は B に出合ってしまう。つまり、S で同時刻と認める二つの事象は、S' では同時刻とは認められない。この思考実験が示すように、光速度不変の原理を認める限り、同時刻という概念には絶対的な意味はなく、座標系によって異なる相対的な意味しかもたないことがわかる。さらに考察を進めると、自分に対して動いている相手の座標系の時計は進み方が遅れ、また物体の長さは縮んでみえるという驚くべき結論に達する。この長さの縮みは、実は以前ローレンツが、マイケルソン=モーリーの実験を説明するために仮定したもの(ローレンツ収縮)と結果においてまったく同じものであるが、アインシュタインは新しい考え方に基づいて、これに自然な解釈を与えたものということができる。

 

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(3)時空

 (3)式が示すように、ある座標系で時間と考えている量が、他の座標系でみると、時間と空間座標のまじり合ったものになるというのであるから、時間と空間の間にはもはや絶対的な区別はつけられない。むしろ両者を統一した時間・空間、または略して時空こそが物理的記述の枠組となるべきである。この考え方は H. ミンコフスキーによって数学的に整備され、四次元ミンコフスキー時空という、擬ユークリッド空間の概念を生み出した。
 前に、ニュートンの力学に関するガリレイの相対性について述べたが、これはアインシュタインの特殊相対性原理に昇格される。すなわち、ローレンツ変換によって移ることのできる慣性系は、どれも互いに同等であり、物理法則は、どの慣性系においてもまったく同じ表現で記述される。このような法則の不変性、または共変性を数学的に定式化するには、ミンコフスキー時空における幾何学的方法を用いるのがとくに便利である。

 

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(4)理論からの帰結と発展

 ローレンツ変換(3)からは、さまざまの新しい結果が導かれるが、速度の合成則も(2)式ではなく、

となる。この式によると、光速以下の速度をどれだけ合成しても決して光速をこえないことがわかる。つまり光速 c は、現実に達成しうる速度としては最大のものである。また特別の場合として Vx=c とおくと Vx'=c となり、もくろみどおり、光速度不変の原理に一致するようになっている。
 一方、速度 v が c に比べて小さい極限では、(3)式は(1)式のガリレイ変換に移行する。これにより、ニュートンの力学は、運動速度が光速に対して十分小さい場合の近似法則であり、通常の経験で、先に述べた同時刻の相対性のような奇妙な現象がみられない理由も理解される。反対に速度が光速に近くなれば、ニュートンの運動方程式は大幅に変更されなければならない。その一つの現れは、質量 m の質点が速度 V で動いているときの運動エネルギー E を表す式、

にみられる。この式で V を0にしてもエネルギーは0にならず、E=mc2となる。質量は、それが静止しているだけで mc2のエネルギーをもつのである。これが有名な質量とエネルギーの等価性であり、後に原子核エネルギーとして利用される巨大なエネルギーの理論的基礎である。
 ニュートン力学はこのように修正されたのであるが、マクスウェル理論のほうはどうなったのであろうか。実は、アインシュタインが初めから予期したとおり、電磁気学の法則は、そのままで特殊相対性理論に矛盾なく作られていたのである。つまり、ニュートン力学とマクスウェル理論との衝突は、後者を尊重する形で収拾されたのである。
 特殊相対性理論の発展の一つとして、量子力学との結合をあげておかなければならない。現在の素粒子論の基礎となっているのは、特殊相対論的場の量子論であるが、これによれば、一つの素粒子に対応する場は、ローレンツ変換に対する既約表現とみなされる。この理論は、ディラックの電子論(ディラック方程式)、湯川秀樹の中間子論などを経て量子電磁力学、弱い相互作用の理論など、輝かしい成功をもたらしたが、一方、いわゆる発散の困難をも引き起こしている。これは局所的な場の性質が、特殊相対性理論の枠組の中できびしく制約されていることに原因がある。それにもかかわらず、この理論を離れて現在の素粒子物理を考えることはほとんど不可能といえよう。

 

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4.一般相対性理論(general theory ofrelativity)

 ローレンツ変換よりも一般的な座標変換(これを一般座標変換と呼ぶ)を考えると、必然的に重力の問題にかかわることになる。その理由は、非慣性系では慣性力が現れるが、これは、次に述べる等価原理のために重力とまったく同じ性質をもつことにある。
 ここはランダウ、リフシュツ「場の古典論」第10章“重力場の中の粒子”、内山文献1978年§11977年第X章や中野文献1984年第9章と比較してみられたし。

)等価原理(principle of equivalence)

 ニュートンの力学には2種類の質量が登場する。第1は慣性質量 mI で、運動方程式、

    mIα=f  ・・・・・・(6)

の左辺に現れ、慣性の大小を表すものであって重力とは直接の関係がない(α は加速度、f は力)。(5)式を地球表面近くにおける物体の落下運動にあてはめてみよう。右辺の力 f は、物体が万有引力によって地球に引かれるために生ずる重力である。地球の全質量 M は中心に集中したと考えてよい。そうすると質量 mG の物体との間には、

という万有引力が働く。ここで r は地球中心までの距離、G は万有引力定数である。この質量 mGは重力の強さを表し、物体の慣性とは本来無関係のものである。その意味で、(7)式に現れる mG重力質量と呼ばれる。さて(7)式を(6)式の右辺に代入すると、加速度 α は mG/mI という比に比例することがわかる。一方、ガリレイの伝説的なピサの斜塔での実験以来、物体の落下の加速度はどんな物体についても等しい値をもつことが知られている。このことから、比 mG/mI は物体の種類によらないこと、したがって2種類の質量は互いに比例していることが結論される。質量の単位を適当に選べば、両者はまったく同じものと考えてよい。概念としてまったく異なる量が互いに一致するのはなぜかについて、ニュートンは答えていない。何か別の原理の存在が予想される。アインシュタインは、これを等価原理と呼んで、重力のもつ重要な特徴と考えた。
 さて慣性力は、慣性質量に比例している。もし等価原理が正しいとすると、これは重力質量に比例するはずで、したがって慣性力は、万有引力から生ずる真の重力と等価なものと考えざるを得ない。この事情を説明するためにアインシュタインはエレベーターの例を引合いに出す。
 いまエレベーターが急に上方に引き上げられたとしよう。中の人間は、急に強い力で床におしつけられるように感ずる。これについて二つの解釈が可能である。第1は、近似的な慣性系である地球に対して加速度運動をする非慣性系にいるために、慣性力が働いたと考えることである。第2は、地球の質量が急に増したために、真の重力が大きくなったと考えることである。常識的には前者をとるのであるが、外を見ることのできない内部の人間にとって、後者を否定することは原理的に不可能である。なぜならば、重さが増える割合はエレベーター内のあらゆる物体についてまったく同様だからである。これはまさに等価原理のせいである。
 もし逆にエレベーター(または宇宙船)が自由落下を始めたとすると、いわゆる無重力状態となる。すなわち、慣性力という仮想的な力が真の重力をちょうど打ち消し、初めから真の重力がまったくないのと同じ効果をもたらすのである。このような考察を一般化すると、重力は座標変換によってどんな値にすることもでき、とくに重力を完全に消し去ることもできるということができる。これは、先に述べた単純な等価原理、つまり慣性質量と重力質量の等価性よりもさらに一般的な等価原理の表現であり、これをアインシュタインは一般相対性理論を作る際の物理的な柱とした。

 

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(2)リーマン幾何学と一般相対性理論

 次にもう少し数学的な面に移ろう。特殊相対性理論で考える時空はミンコフスキー空間であった。これは直交空間ではないが、やはり直線座標で表すことのできる、いわば平らな空間である。しかし慣性系から、それに対して加速度運動をしている座標系に座標変換すると、当然曲線座標系になる。このような曲がった空間を記述するためにアインシュタインはリーマンの幾何学を採用した。ところで上に述べた等価原理によって、非慣性系では重力が存在するのであるから、重力は時空の曲がりにほかならないということになる。逆に重力があれば時空は曲がり、四次元のリーマン空間になると考える。
 このリーマン幾何学のことばで等価原理を表すと次のようになる。四次元リーマン時空の各点で接空間が定義され、それはミンコフスキー時空である。つまり、適当な座標変換によってつねに無重力状態を作ることができ、それに対しては特殊相対性理論が成り立つということを要請するのである。この接空間がアインシュタインの考える慣性系である。これは各時空点ごとに別々に定義されるもので、局所慣性系とも呼ばれ、ニュートンやマッハの考えた大域的な慣性系とはかなり異なったものとなる。

 

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(3)理論の展開

 このように、曲がった時空等価原理という基本仮定のうえに立って、理論はリーマン幾何学の処方に従って展開される。その詳細は省略するが、主要な内容を2点にまとめてみよう。

(1)
 リーマン幾何学のもっとも基本的な量は計量テンソルである。時空が平らなミンコフスキー空間であるとき、計量テンソルは対角的な定数となる。これからのずれが重力を表す。重力のために曲がった時空の中で質点は(他の力がなければ)測地線に沿って動く。測地線とは、2点を結ぶ最短の曲線で、球面の例でいえば大円がこれである。これは、平らな空間における直線の概念の自然な拡張である。この型の質点の運動法則はニュートンの第1法則、つまり力を受けていない質点は直線上を等速度で動くという法則の拡張となっており、そこには慣性質量も重力質量も現れない(第2法則に相当するものは、重力に関する限り登場しない)。この意味で、もっとも単純な等価原理は自動的に導かれるのである。さらに詳しい分析により、計量テンソルが、ニュートンの力学に現れる重力ポテンシャルを拡張したものとなっていることがわかる。

(2)
 ニュートンの万有引力の法則は、質量が存在すると、そのまわりに重力場ができることを示している。数学的にいうと、重力ポテンシャルはポアソン方程式の解であり、ポテンシャルの源は質量分布である。このような重力場の方程式の拡張が、アインシュタイン方程式と呼ばれるものである。これは計量テンソルに関する2階偏微分方程式で、その源はエネルギー・運動量テンソルである。
 以上の理論にきわめて特徴的なことは、計量テンソル、したがって時空の構造自身、物質の存在のしかたによって規定されることである。一方、物質の運動は時空の曲り方、つまり重力によって支配されるのであるから、物質分布と時空の構造とは互いに影響を与え合う力学的な量であると考えられる。これは特殊相対性理論を含めて旧来の、時空は物質の運動を記述する枠組としてあらかじめ与えられているものという概念を打ち破る、真に画期的な考え方であった。

 

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(4)理論の検証

 次にこの理論を検証するために、アインシュタイン自身が提唱した三つの実験について述べよう。ふつうの状況では重力はあまり強くなく、ニュートン力学からのずれはきわめて小さいので、その検出は容易でない。

(1)重力赤方偏移
 曲がった時空における光の伝搬を考察することにより、強い重力場の中で発せられた光が重力場の弱い場所にくると振動数が減少することがわかる。アインシュタインは太陽からくる光にこの効果が現れ、スペクトルが赤いほうへずれること(赤方偏移)を予想した。しかしこれは、コロナ、その他の雑音によってかくされてしまうことがわかった。1960年になって R. V. パウンドらは、放射性同位元素からの γ 線の放出、吸収を調べ、理論値と1%の精度で一致する結果を得た。この際にはメスバウアー効果を用いた超精密測定が決定的な役割を果たした。

(2)太陽による光の湾曲
 質点の運動の軌道である測地線は、先に述べたように質量に無関係である。したがって質量が0の光も測地線に沿って動く。つまり光も重力場の影響で曲がると期待される。この効果も非常に小さいので、なるべく強い重力場、したがって大きな質量による重力場に注目しなければならない。そのためには太陽が最適である。しかも太陽のすぐそばを通る光がよい。そこで皆既日食の際の太陽の近くに見える星を観測することが計画された。
 最初の観測は第1次世界大戦の直後1919年、イギリスの A. S. エディントンによって試みられ、学会のみならず一般社会にも大きな反響を呼んだ。その後も観測が繰り返されたが、70年には準星の出す電波の干渉を用いて同種の測定が行われ、初めて10%の精度で理論値との一致が得られた。

(3)水星の近日点移動
 純粋な万有引力のもとでは、太陽のまわりの惑星の軌道は楕円であり(ケプラーの第1法則)、その長軸、短軸は恒星系(慣性系)に対して一定の方向を向いている。しかし一般相対性理論によって同じ問題を扱うとこれからのずれが生じ、それは近日点の移動として観測されるはずである。実際には、この種の移動は他の惑星の影響などによっても生じ、既知の原因によっては説明されないごくわずかの不一致が残っていた。太陽にもっとも近い水星の場合、100年につき43” がそれであった。アインシュタインはみずからの計算によって、このずれが完全に説明できることを見いだした。彼はこの成功によって、自身の理論に確信をもったといわれている。

 

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(5)研究の現状

 最後に、一般相対性理論の研究の現状について簡単に述べておく。

(1)実験的研究
 太陽の向こう側にいる水星に向かって電波を送ってその反射を受け、電波が太陽の近くを通る際に生ずる時間の遅れを測定するレーダー・エコーの実験が1970年に行われ、一般相対性理論の第4の実験的検証となった。人工衛星を使った同種の大規模精密実験も行われている。また今後の天体、測地測定には、一般相対性理論による補正もとり入れられる計画である。もう一つの方向として、アインシュタイン方程式の解として存在が期待されている重力波を実際に検出しようとする試みが精力的に続けられている。
[補足説明]
 重力波の存在は最初連星パルサーPSR B1913+16の軌道周期の減少から間接的に証明された。そして2015年からは連星ブラックホールや連星中性子星の合体に伴う重力波が直接観測されて、一般相対性理論の確固たる検証となっている。

(2)アインシュタイン方程式の厳密解
 この非線形方程式の解法は容易ではないが、1916年、K. シュワルツシルトによって最初のものが得られた。その後、H. ワイル、R. P. カー、富松彰・佐藤文隆などの解が見いだされ、さらに数学的な進歩が著しい。また数値解法の研究も進んでいる。

(3)天体物理学における応用
 この分野でもっとも注目を集めているのは、電波、あるいは X 線天文学によってブラックホールと思われる天体が発見されていることであろう。ブラックホールとは、上に述べたシュワルツシルトの解が示す、極端に強い重力場がもつ奇妙な領域のことで、中性子星の重力崩壊によって実現されると考えられている。一般相対性理論は、重力場が弱い極限でニュートンの理論に一致するように作られているが、その反対の極限の代表的な例がブラックホールであり、その意味で一般相対性理論の真価を示す現象といえよう。

(4)宇宙論への応用
 アインシュタイン自身は、シュワルツシルトの解で与えられるような強い重力場にはあまり関心をもっていなかったということであるが、別の意味で重力場が支配的な役割を演ずる宇宙論には早くから取り組んでいた。現在の膨張宇宙論は、22年、A. フリードマンによって得られたアインシュタイン方程式の解を基礎とする方法によって定式化されるのがふつうである。この考え方によれば、われわれの宇宙は100億〜200億年前に、小さな1点から出発して膨張してきたものとみなされ(火の玉宇宙論)、その間、素粒子や原子核、また銀河や星がどのようにして形成されてきたかについて詳しい分析が進められている。

(5)統一理論
 一般相対性理論においては、重力場は時空の幾何学的性質に起因するものとされるが、もう一つの物理的に重要な場である電磁場にはそのような背景がない。ワイルは、リーマン幾何学を拡張し、電磁場もまた幾何学的起源をもつような時空の理論を展開した(1918)。このような考え方は統一理論(統一場理論)とも呼ばれ、後にアインシュタインも熱心に追究した。現在では、各種の素粒子の場との統一を目ざす理論についての研究が活発である。その際に有力な武器となっているのが、ワイルによって提唱されたゲージ原理である。これに伴って、重力場の量子論についても研究されている。
 さらに最近の発展として、素粒子の弱い相互作用、電磁相互作用と強い相互作用を統一する大統一理論が議論の対象となっているが、この理論の真に特徴的な様相は、膨張宇宙の非常に初期の段階で実現されていたと考えられ、この点からも、素粒子物理学と重力との統一的記述が現実的課題となりつつある。

藤井 保憲

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5.哲学的意義

 哲学との関連で、相対性理論のもつ意義およびそれのもたらした影響について付言しておこう。まず、存在論に即していえば、相対性理論は〈関係主義的(非実体主義的)〉な存在観を促すゆえんとなった。哲学においては、19世紀のある時期からヨーロッパにあってすらさすがに関係主義的な存在観が登場するようになっていたが、科学的世界観の拠点をなす物理学においては、古典物理学的実体主義が牢固(ろうこ)として支配していたため、非実体主義=関係主義の貫徹が阻まれていた。この際、実体主義というのは世界が〈実体〉(ens per sui、つまり、対他的関係とは無関係に独立自存するもの)からなっているとみる存在了解の謂(いい)であるが、相対性理論は古典物理学的世界像において、〈対他的関係とは無関係に独立自存する究極的存在〉とみなされていた〈絶対時間〉〈絶対空間〉〈質量〉といったものの実体的自存性を否認し、これら物理の基本的存在ですら相互浸透的、相互規定的な関係的存在態であることを明らかにした(時間と空間との相互浸透的規定関係、一般相対論における時空間と質量との相互規定的関係などを想起されたい)。このことが、量子力学の知見とあいまつことによって、物理的実体主義からの解放、関係主義的存在観の確立を促すものとなった。
 次に、認識論に即していえば、相対性理論は〈間主観的構成主義 intersubjektiverKonstruktionismus〉の認識観を促すゆえんとなった。相対性理論以前の科学観においては、〈対象的事実〉は認識主観とは無関係に独立自存するものと思念されていたが、相対性理論は上述のように、〈同時刻の相対性〉をはじめ、〈空間の収縮〉や〈時間の伸長〉など、対象的事実が観測系と相対的であることを自覚せしめた。観測問題が物理そのものの場面で深刻化するのは量子力学をまってではあるが、認識論的にみれば、相対性理論においてもすでに、〈同一与件〉に関する相異なる観測系での相異なる観測現相を、間主観的な統一相で定式化した〈所知態〉がいわゆる対象的事実にほかならないという構制になっている。このことの自覚に伴って、〈対象的事実〉とは間主観的に統一的に妥当する相に構成された所知態であるという事実観、認識観が促され、伝統的な模写説的認識観がカント主義的な先験的構成主義とは別の論脈においてしりぞけられることになった。
 相対性理論は、存在論とか認識論とかに限定できない部面でも、哲学界、思想界に巨大な影響を及ぼしており、物理学における革新的な理論という域をこえて、画期的な知的遺産であるといえよう。

広松 渉

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6.ローレンツ変換の導き方

 ローレンツ変換の式を導く方法はいろいろあるが、その一つを紹介しよう。座標系 S は(x、t)で、またその x 軸上を速度 v で動く S' は(x'、t')で表されるものとし、y、z は無視する。また、これらの座標系の間の変換は一次式であると仮定する(こうしないと、S における等速度運動が S' においてそうならなくなる)。そこで一般的に、

    x'=A(v)x+B(v)t  ・・・・・・(1a)
    t'=C(v)x+D(v)t  ・・・・・・(2a)

とおく。以下、係数 A(v)、B(v)、C(v)、D(v)を、v の関数として定める。ガリレイ変換と同じく、S' は Sに対して速度 v で動いているという意味をもたせるために B=−vA とおく。さらに係数 A は、v の正負にはよらないと考えるのが自然であるのでA(v2)と書こう。こうして(1a)は、

    x'=A(v2)(x−vt)  ・・・・・・(1b)

となる。
 さて光の運動を考えよう。そのために x=ct とおいて(c は光速度)、(1b)および(2a)に代入すると、

    x'=A(v2)(c−v)t、 t'=[cC(v)+D(v)]t

を得る。これから t を消去すると、

となるが、これは x'=ct' に一致しなければならない(光速度不変の原理)。すなわち、

これより、

を得る。これを(2a)に代入すると、

となる。
 次に(1b)、(2b)を x、t について解くと、

となる。ただし、

とおいた。(4)、(5)は、逆変換 S'→S を表すが、S' からみると S は速度−v で動いている。したがって、この逆変換は、(1b)、(2b)において x と x'を入れ替え、t と t' を入れ替え、さらに v の符号を替えた式、

によって与えられるはずである。(4)、(5)を(7)、(8)と等置すると、

を得る。(9b)より、

    H(v)=1 ・・・・・・(10a)

これを(9a)および(9d)に代入すると、

    D(v)=D(−v)=A(v2) ・・・・・・(10b)

を得る。さらに(10a)に(6)および(10b)を代入することにより A2(v2)=1/(1−β2)を得る。A(v2)としては、+と−が可能であるが、v→0のときに(1')が x'→x となるように、+のほうを選ぶ。こうして、

となる。これを(10b)とともに(3)に代入して、

(10b)、(11)、(12)を(1b)、(2b)に代入して、ローレンツ変換の式、

を得る。

藤井 保憲

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7.双子のパラドックス

 相対性理論に関するなぞめいた話題は多いが、とくに SF 的な興味をそそるのが、双子のパラドックスと呼ばれる思考実験である。これは、〈双子の兄弟の一人、例えば弟が、光速に近いロケットに乗って宇宙旅行をし、再び地上に戻ってみると、地球上にいた兄は彼よりも年をとっていた〉というものである。一見すると、〈動いている相手の時計は遅れているようにみえる〉という〈時計の遅れ〉に似ているように思われるが、実は本質的な違いがある。〈時計の遅れ〉の場合、どちらからみても、いつも互いに相手の時計が遅れてみえるという意味で、両者(兄と弟)は対等であった。ところが、いまの場合、兄のほうが年をとってしまったという結論は、兄弟、どちらからみても同じなのである。これは、運動の相対性という観点からみておかしいのではないか。つまり、弟からみると、自分は静止したままで、地球にとどまっている兄のほうが運動をして戻ってきたのであり、再会したときに、若いのは兄のほうであるとなるべきではないか。いずれにしても、2人の結論は食い違うことになり、したがってパラドックスと呼ばれるのである。この問題には、慣性系とは何かというさらに深い問題がかかわっているのであるが、まず、結論に至る推論を説明しよう。
 簡単のため、地上に固定した座標系 S(x、w)は真の慣性系であるとする。ここから、ロケットは速度 v で x 軸方向に進み、シリウスの近くで向きを180度変え、同じ速度で一直線に帰ってくる。図の O は、ロケットの出発の世界点を表し、P は折返し点、Q は地上への帰還に対応する。OP は往路のロケットの世界線、PQ は復路のそれを表す。往路については、ロケットに固定した座標系S'(x'、w')へのローレンツ変換を考える(図)。それは、

で与えられる。ここで光速度を c として

である。折返し点で、ロケットから地上に向かって合図の光の信号を発する。光の世界線は、左上向き、45度の直線で表され、発射地点に到着した世界点を M とする。ロケット上の時計で、出発から折返し点まで t1' かかったとするとき、折返し点からの信号を地上で受信したのは、地上の時計ではかって出発後、

となる(この結果を得るには、(1)に x'=0、w'=ct1' を代入して P の x、w 座標を求め、そこを通る45度の直線と、w 軸との交点を求めればよい)。
 復路に要する時間は、ロケットに積んだ時計ではかる限り、往路と同じ t1' である。したがって往復に要する時間は T'=2t1' である。一方、地上で折返し点到着の信号を受けてからロケットを地上に迎えるまでの時間 t2は、(2)において β の符号を変えたものとなる。

これは、往路と復路の違いは、速度の方向だけにあることから明らかである。結局、地上では、ロケットは((2)と(3)を足して)、

だけの時間の後に帰ってきたことになる。
 以上の事柄をもう少し具体的な例によって説明してみよう。双子の心拍数はともに1秒1回で、これは一生変わらないものとしよう。ロケットからは、弟の一鼓動ごとに電波の信号が地上へ送られるようになっている。折返し点に達するまでに弟は N 回の脈拍をうったとする。つまり、ロケット内の時計ではかって t1'=N 秒かかったとするのである。したがって、ロケットからは、N 回の信号が地上に送られ、これは、地上の時計で測って

の間に地上に達した。つまりこの間、兄の心臓は

鼓動したのであり、彼は、弟の脈拍は

遅くなったと判断する。しかし弟の脈拍は自分とまったく同じであるはずであるから、これは一種のドップラー効果で振動数が小さくなったものと考える(赤方偏移)。次に復路にも同数の信号が受信されるが、その間、兄の脈拍は

で、これは発信源が近づくときのドップラー効果(青方偏移)によるものと考える。結局、地上での再会までに弟の心臓は2N 回うち、兄のそれはその γ 倍で、したがって、兄は弟より γ 倍年老いたことになるのである。
 以上の説明に使われたのは特殊相対論の法則、とくにローレンツ変換だけである。したがって特殊相対性原理によって、兄と弟は完全に対等であるようにもみえる。しかし地上のロケットが一定速度 v に達するまでには、ロケットは加速されなければならない。この間、ロケットは非慣性系であり、弟は慣性力のために体重が重くなったように感ずる。このような慣性力、すなわち仮想的な力は、折返し点で向きを変えるときおよび地上への軟着陸の際にも生ずる。しかしそのときでも、地上は慣性系であり続け、ロケットの加速や減速を見守る兄は、慣性力のようなものを何も感じない。この点を考えると、兄と弟はもはや同等ではない。つまり慣性系にとどまっている座標系と、それに対して一時的にせよ加速度運動をする座標系とを比べているのであり、前者に対して後者の時計の進み方が遅いという結論は、直ちにパラドックスということはできない。
 いずれにしても、これはどの座標系が慣性系かというニュートンやマッハの議論にかかわってくることになる。アインシュタインの一般相対性理論では、等価原理によって慣性系と非慣性系との区別がとり払われた。しかしこれは時空のごく小さい範囲で成り立つ〈局所的〉な法則に関するものであり、時空全域にわたる〈大域的〉な問題となるとまた別である。宇宙全体における物質の分布を、一般相対性理論によって決定し、例えば地球上での回転運動にはなぜ遠心力が生ずるかについて完全な説明を与えるまでにはまだ至っていない。双子のパラドックスの最終的な解答も、この問題の解決の中に見いだされるべきものであろう。

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