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回転運動の運動方程式

 剛体の回転運動について成り立つ運動の法則の説明です。これはニュートンの運動法則を言い換えたものに過ぎないのですが、高校物理では教えません。しかし、知っておくと便利ですし、興味ある応用がありますのでここで説明します。

1.回転の運動方程式

)方程式の導出

.運動の第二法則

 ここでは簡単化のために剛体についてのみ取り扱う。剛体とはその質量の分布を変えない硬い物体のことです。そして剛体をつらぬく一本の固定された軸のまわりにのみ回転できるとする。
 この条件の下では剛体の各部分は下図の様に回転軸のまわりの速度成分、加速度成分と、回転軸の方向を向く加速度成分しか持てない。

 剛体の各部分の最初の位置からの回転角をθとすると、このθの時間的な変化は剛体のすべての部分に於いて共通である。この共通のθを用いると、剛体の各部分の速度の大きさは

と表せ、その方向は上図の赤矢印の方向を向く。また各部分の加速度は動径方向と円周方向の二成分で表せて高校物理の円運動で習うように

となる。

 ニュートンの運動第二法則を剛体の各成分要素に適応すると、各成分要素の質量に加速度を乗じたものは、その加速度の方向の力に等しいことが言える。これですべてで、新しいこと・難しいことは何もない。

.剛体の運動法則

 このとき、剛体の体積要素の表面壁と、その体積要素を囲む外側の物体の壁面に現れる力は作用反作用の法則を満足しながら隣り合った成分要素と力を調整し合っている。そのとき当然各面に働く力には成分要素の面に沿った成分も存在する。下記の矢印はそれらも含めた各体積要素の各面に働く力ベクトルを表している。(下図)。

 中心軸に向かう動径方向の成分に関しては、隣り合う要素間で力を調整しあって最終的には中心の回転軸に集約された力が現れる。その力は軸受けによって受け止められ、軸受けに現れる力によって相殺される。もし質量分布が回転対称に分布している場合は回転軸の反対側の要素に働く力と相殺されて合力は零となる。いずれにしても今仮定されている簡単化された状況では、動径方向の運動は時間的に変化しないが、回転速度の変化に伴って動径方向の力は変化する。

 円周方向の成分に関しては、剛体の場合θが共通だから各要素について成り立つ運動方程式を足し合わせるときに、θに関係する部分がくくり出せてもう少し進んだ議論ができる
 各成分要素に対して成り立つ運動の第二法則を加えあわるとき、各成分要素と中心回転軸との距離riを両辺に乗じてから加え合わせる。そうすると

となる。このとき[慣性モーメント][トルク]いう物理量を導入する。これらは剛体の回転運動で最も重要な概念です。
 つまり慣性モーメントは並進運動の質量に、回転の角加速度が並進運動の加速度に、そしてトルクが並進運動のに相当するものであることが解る。

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(2)回転の運動エネルギーと角運動量

 1.(1)2.で、両辺に i を乗じてから加え合わせたのは、以下で説明する運動エネルギーKや角運動量Lの形を使いやすい形にするためです。別稿「仕事とエネルギー」で強調したようにエネルギーや運動量はそれぞれの状況を特徴づける量で表現されてこそ役に立つのだから

となり、回転の角速度ωの関数として表すことができる。

 ここで運動エネルギーKの変化分を求めてみると

となる。つまり、回転運動の仕事トルク×回転角で与えられることを意味する。これは以下のように考えれば、仕事の定義から当然の結果である。

 これらの関係式は並進運動の場合と以下の様に対応する。

これらの関係式は、もっと一般化された座標についても成り立つ。その他の物理量については

と対応させて考えればよいことが解る。

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(3)トルク

トルクは下記の様な状況で働く場合が多い。

いずれも定義にしたがって力のモーメントを加えあわせればトルクを求めることができる。

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(4)慣性モーメント

 以下に示す例は重要である。いずれも対照的な形状で、回転軸がその重心を通り、物体の各部分の密度は同じで一様とする。全質量をMとして図中のx、y、z軸の間まわりの慣性モーメントIx、Iy、Izの値を示す。これらは物体の形状が決まっていれば定義にしたがった積分によって数学的に厳密に求めることができる(計算は省略)。

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2.興味ある例題

)ねじり秤のバネ定数と振動周期

 1.(3)の(1の図に示すような剛性のある針金の尖端に慣性モーメント の物体が取り付けられたねじり振り子を考える。釣合の位置からねじられた回転角をθとすると、ねじり振り子には、一般的にねじれの角度θに比例した、もとの位置に戻そうとするトルク が働く。そのため回転の運動方程式は

となる。
 この式で慣性モーメントIは計算によって求めることができるが、T=−kθの比例定数kを求めるのは一般に困難である。しかし、この微分方程式の形はお馴染みのもので、別稿「運動方程式」3.(4)で説明した単振動の運動方程式と全く同じであるから、そこの結論の θ で置き換えればそのまま利用できる。

ここで振動周期をT(トルクのTと混同しないこと)とすればω=2π/Tだから、ねじり秤のねじれの弾性定数kは

で表される。これは「運動方程式」3.(4)で議論した単振動の場合の質量 m慣性モーメント I で置き換えればよい。なおトルクがθに比例して T=−kθ となることは、実際にねじり振り子をいろいろな振幅 θmax で自由に振らしてみて、その振動周期 T が振幅 θmax に依存せず等時性が成り立つことが言えれば確かめることができる。

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(2)トルクの力積と角運動量の変化

 並進運動の場合、運動の第二法則を言い換えたものとして、「運動量の変化は力積に等しい」と言う法則が成り立った。回転運動について、同様な法則が成り立つ。すなわち [トルク]×[トルクが働く時間]=[角運動量の変化] が成り立つ。

 トルクの時間的な積算が一般的な積分で表される場合でも、最初と最後の運動量の差になるのは並進の場合([力積]=[運動量の変化])と同じ様に考えればよい(別稿「力積と運動量」参照)。

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(3)衝撃検流計( ballistic galvanometer)

 (2)の関係式の重要な応用が瞬間的に流れる電気量を測る衝撃検流計( ballistic galvanometer)である。これは、例えばコンデンサーに貯まっている電荷をこのコイルに短絡して、瞬間的な電流を流すことによってその全電気量を測定するような問題に使える。

.衝撃検流計の構成

 衝撃検流計には(1)磁針可動型(電流が作る磁場の中に置いた磁針が動く)と、(2)コイル可動型(一様な磁場の中に置かれたコイルに電流を流してコイルを動かす)があるが、原理は下図の様な物である。

 使い方はどちらのタイプでも同じだから、以下では(1)のタイプで説明する。

.磁針に働くトルク

 いま、コンデンサーに貯まっている全電気量Qをこのコイルに短絡電流として瞬間的に流すことによってQの値を測定することを考える。
 可動磁針は最初釣線の針金が捻れていない状態で図の位置に静止しているとする。放電が起こるとコイルの中心に図の方向の磁場H[N/Wb]が発生する。コイルの半径をr[m]、巻き数をn巻とすると、電流iが流れているとき中心部の磁場の強さは

となる(ビオ=サバールの法則を使う高校物理の練習問題)。今簡単化して磁針を磁荷+m[Wb]と−m[Wb]が距離 ΔL[m] 離れている磁石とする。この場合には次のようなトルク T [N・m]が発生する。

 ここで mΔL磁気双極子モーメント pm[Wb・m] と言われるものである。その値は計算で求めることは難しく、普通は次のような手順で求める。

.磁気双極子モーメントpmの測定

 その大きさが解っている磁場H0の中に、mを求めたい磁石を剛性の無いただの糸で吊して自由振動をさせる。そのとき回転角θが小さい場合は、磁気双極子モーメントが磁場から受けるトルクは、常に最初の釣合の位置に戻そうとする方向に働き、しかも回転角θの大きさに比例する。そのため2.(1)の議論がそのまま成り立ち、その固有振動周期T0と慣性モーメントIから磁気双極子モーメントpmを求めることができる。
 このとき慣性モーメント I は磁石の形から計算によって厳密に求めることができる。また既知の磁場H0としては、電磁気学発展の初期には、ガウスウェーバーが考案した巧妙な方法によって絶対測定された地球磁場の水平成分が用いられた。

.測定原理

 初めに磁針をコイル面に沿って静止させておいて、コンデンサーを円形コイルを通して放電させる。この時、放電が起こる時間Δtは固有振動の周期Tに比べてきわめて短く、その時間の間に磁針は平行位置からほとんど動かないとして良い。放電が終わった時点でもまだ時間は事実上ゼロであるが、この時磁針にはトルクの力積に応じた角運動量が与えられている。

ここで、弾性定数kは2.(1)で述べたようにねじり振り子の自由振動の振動周期Tから求めればよい。

 しかしながら電磁気学初期の実験では、地球磁場H0の大きさがガウスとウェーバーにより絶対測定されていたので、磁針を針金の替わりに剛性の無いただの糸で吊して、復元力としては地磁気の磁場H0を使う方法が用いられた。そのとき当然、円形コイルのコイル面は地磁気の方向に平行になるように設置する。そして、この場合には絶対測定された磁場強度H0を直接用いれば良いので、磁気双極子モーメントの値を別途に求める必要はなくなる。
 そのとき運動方程式は2.(3)3.で求めた

となる。この解に前述の初期条件を適用して積分定数αとθmax(磁石の最大の振れ角)を決定する。そして放電の全電気量Qを求める。

この式をQについて解くと、放電の全電気量を表す式が得られる。

.補足

 これは弾丸の速度を測定する衝撃振り子(弾道振り子)の原理と同じである。衝撃振り子とは重い物体を振り子運動ができるように吊しておいて、この物体に弾を撃ち当てるものである。弾丸を撃ち込まれた重りはゆるゆると振れ始める。そのとき運動量保存則とエネルギー保存則を用いて、振り子の最大振れ角から弾丸の速度を求めるのである(高校物理の練習問題)。まさに弾道(ballistic)振り子である。衝撃検流計の名前 ballistic galvanometer もそのあたりに由来するようです。
 ちなみに、上記の弾道振り子試験器を発明したのはイギリスの軍事技師ベンジャミン・ロビンス(1707〜1751年)で、まさに弾丸の速度を測定する装置です。彼はこの装置と、回転アームに物体を取り付けて回転させて抗力を測定する回転アーム試験器を用いて、空気力学上の重要な発見をいくつもしている。[ジョン・D・アンダーソンJr.著「空気力学の歴史」京都大学出版会]

 ここに述べた方法は画期的で、電磁気学発展の初期には重要な測定器具として盛んに用いられた。特にウェーバーとコールラウシュが、同一電気量を静電単位と電磁単位で測ったときの値の比を測定する実験(1856年)に用いて重要な結果(光の速度に相当する値)を得たことは有名です。
(別稿「電磁気学の単位系が難しい理由」4.(1)3.、エミリオ・セグレ著「古典物理学を創った人々」みすず書房(1992年刊)の付録6、または木幡重雄著「電磁気の単位はこうしてつくられた」工学社(2003年刊)の第4章、等を参照されたし)

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