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キャベンディッシュの地球の重さ測定実験(1798年)における”ねじり秤”について

1.はじめに

 重力定数を定めたキャベンディシュ(H.Cavendish)の実験は実際のところ、その当時すでに疑う余地のないほど確かなこととなっていた万物が引力を持つことや、その逆二乗法則を示すために行なわれたのではなくて、地球の重さを知りたい。そのための正確な重力定数の値を得たいがために行なわれた。そしてその当時までに得られていた重力定数の値1)とは、その精度において比較にならないほど正確な値を得ることができたという所にその実験の意義があった。そして.その精度の達成に“ねじり秤”が本質的な役割を果たした。しかしねじり秤の威力を持ってしても引力は非常に小さく、その実験は非常に微妙なものだった。なぜねじり秤が本質的なのか、又どの程度微妙な実験だったのか。自分で行なってみて気付いた事をキャベンディシュの論文2)を参照しながら述べる。

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2.ねじり秤の目盛の較正(キャベンディシュの説明)

 ねじり秤の発明とは、その較正法が見つかったということであり.ねじり秤がその較正法で較正できるような特性(〔振動の等時性〕←→〔復元力∝変位の大きさ〕←→〔単振動〕←→〔復元力の比例定数k=(2π)2m/T2)を持っていることを発見した事である。ここは高校物理Uで習う中で最も大切な所である。ねじり秤の発明者であるJohn Michellがどのようにして較正しようとしたのかをキャベンディシュの論文に従って述べる。その部分の記述(論文509頁)は、

 ”(ねじり秤の先端に付いている)2つの球の互いの間隔は73.3インチである。それ故に回転中心からの距離は36.65インチである。そして‘秒振り子’の長さは39.14インチである。故に‘アームを釣下げているワイヤーの剛性’が〔アームを角度Aだけ引きつけるために各球に働く力〕の〔球の重さ〕に対する割合が〔アームの先端が角度Aで描く弧〕の〔半径〕に対する割合と丁度同じになるようなものだったら、アームは長さが36.65インチの振り子と同じ時間で振動するであろう。すなわちN=(36.65/39.14)1/2 秒で振動する。
 それ故に、もしワイヤーの剛性がアームをN’抄で振動させるようなものであったら〔球を角Aだけ引き付けるために各球に働く力〕の〔球の重さ〕に対する割合は〔(アームの先端が角Aで描く弧の長さ)×(1/N'2)×(36.65/39.14)〕の〔半径〕に対する割合となる。”

 このように述べているのだがまことに解りにくい。そこで大いに想像力を働かせて行間を補い現代の言葉で述べてみる。まず‘秒振り子の長さ’という言葉が出てくるが、それは”振動周期が1秒の振り子の長さ”である。ただしキャベンディシュは今日の周期という言葉で表される時間の半分を振動時間といっているので
  
を満足するのことで、当時の測定値は
   
である。

 次に‘アームをつり下げているワイヤーの剛性’という言葉であるが、これは混乱をまねく言い方である。この事は後で述ペるがひとまず ”ワイヤーがアームに及ばすトルク” と言い換える。
 するとそれ以下の文は ”ワイヤーを角Aだけねじると復元力トルクτが生じ、これが球に及ばされる引力FによるトルクF×R(図1参照)と釣合つている。つまり、もし球に働く引力が存在しなかったら、角Aだけねじられたワイヤーが生み出す復元力トルクτは、アームの両端にある球に復元力F(図2参照)が働いているのと同じ効果を生み出す。
 そこでねじり秤を重さmgをつるした長さの振り子と対比させて考える。その復元力Fは球の重さmg(弧長/半径)倍であるので、ねじり秤の先端のおもりに働く復元力が長さR角Aだけふれた振り子の先瑞のおもりmgに働く復元力F(図3参照)と同じなら、ねじり秤は長さRの振り子と同じ振動時間Nで振動するはずである。当時すでに振り子の振動周期は半径の平方根に比例することはわかっていたし、振動時間Nが1秒の振り子の長さは39.14インチであることはわかっていたので、問題の長さ36.65インチの振り子は1:N=(39.14)1/2:(36.65)1/2の比例関係満足するN秒の振動時間
 
で振動するはずである。” と言い換えられる。
 ここでは、いわゆる振り子の周期の公式を利用している。ただしキャベンディシュは周期Tの半分を振動時間Nと言っているので
  
と表現される。この結論はπという係数の不確さを除けばガリレオがすでに求めていたし、ホイへンス、ニュートンの時代にはπの係数の正確さも含めて求まっていた。
 次に彼が用いたねじり秤の自由振動の振動時間は上記の値Nより遙かに長い値N’であったのだから、同じ長さの振り子がN’で振動する為には重力加速がgではなくg’である必要がある。つまり
  
となるはずである。故に
  
となるので質量mに働く復元力Fは
  
となる。これはとりもなおさず
  
の比例関係が成り立つことを言っている。これこそがキャベンディシュの言っている〔球を角Aだけ引き付けるために各球に働く力〕:〔球の重さ〕=〔(アームの先端が角Aで描く弧の長さ)×(1/N'2)×(36.65/39.14)〕:〔半径〕の比例関係である。ここで
  
だから、上記F=の式は
  
となり振り子との比較で出てきたgやg’は関係なくなり先端に付いているおもりに働く力が直接求まる。この式からねじり秤の自由振動の振動時間Nさえわかれば釣り合いの位置からの変位RA=Xとして復元力F=−kXの比例定数が求まるというわけである。つまりきわめて小さなねじり秤のkの値をねじり秤を自由振動させたときの振動時間(非常に長い)を測定することによって知ることができたのである。

 トルクや慣性モーメントや剛体回転の方程式こそ用いられていないが、それらを用いたのと同じ結論が得られている。特に、ワイヤーの剛性によるトルクで生じた回転と、引力による普通の力による回転を同等と見なして結論を導くあたりは、当時、剛体回転の方程式などに、かなり進んだ理解があってこそ可能な事だと思われる。しかし、実状は力、質量、慣性、運動量、運動エネルギー、慣性モーメント、トルクといった概念のあいまいさや、概念の間の混乱が、ニュートン以来.当時まで続いておりキャベンディシュとほば同時代のオイラーによってやっと解析的な形で明確に整理統一され、すっきりするのである。3)ねじり秤の発明に必要な等時性、単振動、単振動の周期、等がすでにニュートン時代に確立していたにもかかわらず、その発明が遅れたのは、剛体回転の方程式の意味が明らかになるのに時代を要したからであろう。当時オイラーによる力学の集体成は完成されているが、その明確な表現形式は、イギリスではまだ広まっていないようである。何はともあれオイラーの解析的表現が完全に確立された後においては何でもないねじり秤の理論も、オイラー以前の混沌の中からキャベンディシュの論文中のような曲がりくねった推論を積み重ねて、ねじり秤の力の目盛の較正法を確立したミッチェルクーロンの仕事は、やはり一つの発明発見に値するものだったと思われる。

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3.ねじり秤の目盛の較正(高校生向きの説明)

 高校生にわかりやすいようにもう一度説明します。ねじり秤の較正法とは、ねじり秤の竿(長さ1.8m)の先端に小球(質量m=0.73kg)をつけて自由振動させると、その振動周期が振幅に依らず等時性が成り立つ事が発見された事に端を発する。キャベンディシュは何も述べていないがこれこそ本質的なことです。同時代のねじり秤の独立の発明者であるC.A.Coulomb はねじり振り子をさまぎまな振れ角で振らせてみて、振動周期が振れ角の大きさに依存しないという等時性を実験的に発見した。そのことから〔復元力〕が〔変位の大きさ〕に比例する(トルク∝振れ角と言ってもよい)という事が言えて、秤として用いることができるとしている。
 〔等時性〕
が言えれば〔復元力(復元加速度)〕∝〔変位の大きさ〕であり、その逆の関係も言える。そのとき振動は〔単振動〕となる。単振動であれば〔比例定数kと質量mと周期Tの間に成り立つ関係〕を導くことができる。つまり
  
である。これらは、ガリレオ、ホイへンス、ニュートン、フックと等時性のもつ意味が研究された当初から注目されていた力学理論の大成果です。高校物理Uの単振動の単元でならうメインテーマです。

図4 キャベンディシュのねじり秤
 つり下げワイヤーの長さは約1mである。先端に0.73kgのおもりを釣り下げた状態での自由振動周期が約14分と30分の2種類を用いた。

図5 キャベンディシュの用いた装置
 長さ1.8mの竿の両端に重さ0.73kgの鉛球をつるして、重さ160kgの鉛球による引力を調ペた。ねじり秤と小球は幅の狭い木のケースで密閉し、更に大球及びその可動アームを含む装置全体を一つの部屋で囲って観測している。
 周期30分の釣り線を用いたとき、大球と小球が距離が0.225mまで近づくと小球は約0.017m引きつけられた。
 
詳細は以下をクリック。
 詳細図1
 詳細図2

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4.万有引力検出装置

 ねじり秤の較正法の歴史を考えているうちにねじり秤は非常に鋭敏な感度をもち、またその感度を上げるのは簡単だという事実に惑わされた。これなら細いワイヤーと竿と錘があれば片手間に引力が検出できるのではないのかと思いさっそくやってみた。しかし感度が良いということは、ノイズを拾う感度も良いということでどうしてもうまくいかなかった。やはり万有引力は非常に小さく、その検出は困難であることを身にしみて知らされた。そこでノイズを防ぐにはどんな対策をすればよいか。又ワイヤーの太さや長さ、おもりの重さ、竿の良さ、それらによって決まる周期をどの程度にしたらよいかを知る為に予備的な実験や考察を行ってから取り掛かった。

(1)ノイズ及び装置

 ねじり秤の釣合を乱す主な原因には、熱による対流、静電気、地磁気、振動、などがありどれも大きく影響してくる。最もやっかいなのは熱による対流である。隙間風や人が動くことによる空気の動きは言うに及ばず、人が唯じっとしていても、体温による対流で、ねじり秤の釣合は決定的に破壊される。

写真1 ねじり秤の構造
 ねじり秤本体は12mm厚さのベニヤ合板の箱で完全に密閉した。又箱の中ほどの観測窓は板ガラスをはめた。板ガラスの静電気の影響は、それが竿の中心部にあるということで避け得るであろう。
 静電気の影響を避ける為に、ねじり秤全体を包む箱の内部を薄い銅板で内張りしてアースした。金属の接触電位差を防ぐ為にシールドする金属は銅に統一した.
 ねじり秤の竿も木などの絶縁体では静電気を帯びる恐れがあるので金属パイプを用い、ねじり秤全体をアースした。

写真2 大球の可動装置
 箱に人が近づかなくても大球が操作できるように遠隔操作するためのひもが張ってある。

写真3 ねじり秤全体図
 直射日光の輻射熱で箱に不均等な温度差が生じるのを防ぐために、全体に白色ペンキが塗ってある。
 地磁気の影響を防ぐため、アームや鉛球のつり下げ金具や、大球をつるした装置の可動部分からは鉄製品をいっさい排除した。又シールドした箱も鉄釘でなく真鍮釘と木工用ボントで組立てた。

写真4 実験設備全体
 振動を防ぐ為に装置全体をコンクリートの床の上に設置し、温度変化が小さく日光の当たらない北側廊下で実験した。手前の机上に読みとり顕微鏡、机の向こう側の足もとにスケールがある。向こうに見えるのがねじり秤を納めた箱と大球の可動装置である。左の脚立から垂れている糸は大球を遠隔操作するためのものです。

(2)ねじり秤の精度

図6 装置の構成
 色々試みた結果、図6のような大きさ配置にした。竿の長さや鉛球の重量は図中に示す。鉛球は石膏型に溶かした鉛を流し込んで造った。中に巣ができないように鋳込むには少し技術を要する。
 装置を組み立てる上で重要な事は、感度つまりねじり振り子の振動周期の選定である。 釣線はエレキギターの0.09番線(直径0.23mmの鋼鉄線)で長さ61cmである。ねじり秤の振動周期は約540秒(約9分)となり、観測するのに手頃な値となった。
 このねじり秤で鉛大球と鉛小球が中心間距離約114mmまで近づいたときの竿の先瑞の振れ幅は約0.2mmである。周期9分でゆっくり振動するねじり秤の竿の先瑞の0.2mmの振れが、いかに微少なものであるかを想像してください。その微少な力も前記の配慮をすれば十分観測可能です。

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5.測定法

(1)測定法

 ねじり称の振れをオイルダンバーや電磁誘導ダンバーを用いて急速に減衰させ、竿の振れ角を静的に測ることも考えられるが、キャペンディシュの用いた振動させながら測定する方法の方が精度の点ではるかに優れている。彼は、竿の先端近くにスケールを置いて、竿の先瑞の振れを望遠鏡で測定した。

図7 測定方法
 ここで使用した小型の装置では振れ幅が少ないため、左図の様に5mの距離に置いたスケールの日盛りをねじり秤の竿に固定した鏡で反射させて、十字線付望遠鏡で読む方法を用いた.この方法でアーム先端の小球の動きが約2×5000÷390=25.6倍に拡大される。
 最初、レーザー光線を反射させて測定する方法を考えたが、光線の広がりのため上記の方法より精度が一桁落ちる上に鏡が熱せられて対流を起こす原因になりかねないので取りやめた。

(2)引力による小球の変位の決定

 鉛の大球を図7の状態Aから状態Bへ、又はその逆の方向に動かしたとき生ずる変位から重力定数を求める。おもりを動かすとねじり秤の平衡位置が、その固有振動周期よりも十分急激に変化するので振動が生じる。そのとき大球をそれ以前の小球の振動に同期させて移動させるか逆位相で移動させるかによって、振幅を調節することができる.振幅が鏡に写したスケール上の目盛で20〜50mmになるようにし、5mmごとの目盛を通過する時間を途中時間が計測できるストップウォッチで計る。さらに振幅の極値の目盛も読み取る。ただし振幅の最大値付近では竿の回転角速度は零に近づくので極値を取る時間は正確に計測できない。ねじり秤の釣合の零点の変化を見るため、振幅の連続する三つの最大振幅の1番目と3番目の平均を取って一方に振れたときの振幅とし、2番目のものと平均して釣合点を求める。零点がドリフトする上に振幅が減少していくので、引き続いた二つの極値の平均では、真の零点を与えないことに注意。

(3)ねじり秤の固有振動周期の決定

 周期の決定は、振幅極値の連続する二つの値の平均値を求め、その値に近い二つの観測点(位置とその位置を通過した時間が解っている)から上記平均値を通過する時間を内挿法によって求める。さらに何周期か経て同様なことを実行し、二つの平均値の間の時間差を振動回数で割って周制を求めた。ここで注意しなければならないのは、振幅が減少していく振動では連続する二つの極値の平均は振動の零点ではなく少しずれた点を示すが、周期を測定する終りの点も同じ様にずれているので正しい周期が求まることである。小球の変位の決定に用いた方法では正しい零点は求まるが、それを通過する時間を正確に知ることはできないので駄目なのである。

 以上述べた方法はキャベンディシュが用いたものと同じである。さらに彼は小球の変位と振動周期の測定は一続きの振動から同時に行い、各実験における振動周期から各実験ごとにねじり秤の弾性定数を求めて計算している。実験を精密化する場合、この事は重要である。そうすることによって、日周変化による気温の変化やその他の突発的な理由による弾性定数の変化にも対応することができる。

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6.結果と考察

 測定値の代表例を図8、9に示す。図中の黒丸●が測定点で、二重丸◎が前述の方法で求めた釣合の零点である。図9は振幅の減衰、零点のドリフトを長時間にわたって調べたものである。図から解るように非常に安定した振動が観測された。

図から次の事が読み取れる。

  1. かなり大きな零点のドリフトが存在し、その方向は常に大球の方向へ起っている。その時間的変化はきれいな指数関数形で緩和時間は約9分である。

  2. 空気抵抗及び釣線の内部摩擦によるものと思われる振幅のなだらかな減衰が見られる。この緩和時間は約220分程度である。

  3. 大球を図7の状態Aから状態Bに移し、さらに状態Aに戻したとき、零点は時間が経っても完全にはもとの位置に復帰していない。その原因は不明である。

  4. 以上の変化の他に長時間にわたって観測するとごくわずかではあるが原因不明のだらだらしたドリフトが存在する。

 キャベンディシュの実験では図7の状態Aから状態Bへの変化による小球の変位として、14分周期の釣線で3/10インチ、30分周期の釣線で15/10インチ(約3.4cm)を得ている。又1/20インチ程度の上記1.の零点のドリフトもはっきり認められる。キャベンディシュは160kgの大球を用いてかなり大きな変位を得ており、その点で精度ははるかに良いが、釣合の安定性はあまり良くないようである。恐らく釣線の材料として今日ほど良い物が無かった事や、静電気シールドを行っていなかった為と思われる。その為1.のドリフトも不安定で変化の方向や様子は似ているが、はっきりとした指数関数形とは認めがたい。そこでキャべンディシュは1.の原因として、

  1. ある一定の力を加え続けられるとワイヤーや取り付け金具がたわんできて塑性変形する。

  2. 鉛球もごくわずかではあるが磁気を帯びる。そして大球を動かすとその回転した状態での地球磁場の方向に、時とともに磁化しなおされて今日の言葉で言うdipole−dipole相互作用に変化が生じてきて見かけの引力が生じる。

  3. 大球とねじり秤を納めている箱の間に温度差が存在し大球を近づけた側面が熱せられて箱の内部に対流が生じる。それによって小球が大球の方向に流される。

の三つを挙げている。そして、A.とB.のいずれも実験的に否定され、C.を原因として結論している。又そのような零点のドリフトがあるため、引力に伴なう変位は大球を動かした時点にできるだけ近いデーターのみから求めている。

 振動の安定性においてキャベンディシュの実験より優れていると思われる今回の実験結果を見る限り1.のドリフトの原因は、上記A.B.C.のいずれでもなく釣線の粘弾性によるものと思われる。釣線のねじれに対する挙動は、図10の様な力学模型で良く表わされる。今回の様な微小な力の下でも現われる粘弾性(図10中のKelvin粘弾性)が金属の中に存在するのかという点は今後の検討課題であるが、現時点ではそれ以外に考えられない。キャベンディシュが零点ドリフトの原因を対流にこじつけたのも、当時粘弾性の概念が知られていなかったことを考えると致し方がないことかもしれない。

 図10で示した模型は、図11の様な挙動をするがKelvin(Voigt)粘弾性のk’、η’やNewton粘性ηはねじり秤の振動周期にはあまり影響せず(厳密に言うと関係するが、本実験の精度では簡単化のため無視)ほとんどHook型弾性のkのみで決まると考えられる。その為に引力による変位は図11のa+a’ではなくaを用いなければならない。今回の実験では、aとa’が同程度なので、大球の移動を完了した直後の零点変位を、それ以後の零点から外挿して求める事が重要である。本来なら非線形最小二乗法を用いて決定すべき事であるが、大球の移動に時間を要し、引力の及び始める時間が曖昧なため10%程度の誤差は避け難いので大雑把な外挿ですませた。拡大されたスケール上での変位aとして約10mmが得られる。これから重力定数Gを計算してみるとG〜5×10−11Nm/kgとなり、この程度の実験としては満足のいく値が得られた。

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7.おわりに

 物理を学ぶ者は.引力とはどの程度小さなものかと想像し、一度は万物が互いに引き合っているという事実をこの日で確かめたいと思っています。実際にやってみての感想は、やはり引力は小さい。しかし対流と静電気に対するシールドさえしっかりしておけば、わりと簡単に確認できるということです。そして万有引力による振れを検出できた瞬間は、私にとってやはり感激の一時でした。

参考文献

1)NevilMaskelyne、Phi1.Trans.、P495及びP500、1775年、又はレピーヌ・エコル著「キャベンティシュの生涯」、東京図書など。
2)Henry Cavendish、Phil.Trans、P469〜526、1798年
   Apparatus P469-477付録の図1付録の図2
   Account of the Experimints P478-492P493-508
   On the Method of computing the Density of the Earth from these Experiments P509-519
   Conclusion P520-526
3)広重徹著「物理学史」培風館など。
付記 文献l)、2)は国会図書館の複写サービスで入手できます。

<2010年2月追記>
最近ではキャベンティッシュの源論文
Henry Cavendish Experiments toDeterminetheDensityoftheEarth. By Henry Cavendish, Esq. F. R. S. and A. S.Phil. Trans. R. Soc. Lond. January 1, 1798 88:469-526
は下記のURLから無料でダウンロードできます。
http://rstl.royalsocietypublishing.org/
このサイトではPhilosophical Transactionsの多くの論文が無料でダウンロードできるようです。なんともすごい世の中になりましたね。我々の様なアマチュアに取ってとても便利です。
<2010年8月追記>
 最近いってみると上記のサイトはすべて有料になっていました。無料だったのは一時期だけだったようです。このような人類の文化的遺産は無料にしてほしいですね。
<2013年4月追記>
 最近行ってみるとPhil.Trans.は無料でダウンロードできるようになっていました。英断に感謝します!
http://rstl.royalsocietypublishing.org/content/88/469.full.pdf+html

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