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雷の科学

高校で習う静電気学の最も興味ある応用が雷の科学で、自然探究の醍醐味を教えてくれる。参考文献に記した本を参考にして説明する。

1.大気の電位と電界強度

)大気の電位

 晴れた天気の良い日には、地表や海面から上空に移動するにつれて1m当たり100Vくらいの割合で増大する電位勾配が存在する(下左図)ことが知られている。この大気電位の存在は1700年代の後半から様々な人々(Lemonnier、Volta、Kelvin、・・・)により明らかにされ研究されてきた。我々自身は、人体が電気の良伝導体のために地表と等電位(下右図)になり、その電位差を実感する事ができない。そのためこの事実に驚かされるが、この電位勾配は晴天時には地球上のどこの大気にもほぼ普遍的に存在する。(大気電気学では普通下向き電界を正、上向き電界を負とするので以後注意)

 この電位勾配は簡単な実験で測定する事ができる。

 一つの方法は、二つの異なる高度に絶縁されて張られた金属水平導線間の電位差を測定するものである。導線を炎で熱したり、導線から水滴を滴下させて大気電位になるべく早く一致するようにする。炎や水滴の中のイオンにより、導線の帯電状態がその高度の電位に一致するのが早められるのである。
 あるいは、絶縁された台の上で金属導線で結ばれた気球や凧を上空に揚げて、地上と上空との電位差を測定してみればよい。以下はその様子を描写した文章です。
 
宇田道隆編著「科学者寺田寅彦」日本放送出版協会(1976年刊)P130−気球に集まる電荷の測定−より
 飛行船の胴体に静電荷が集まる原因を考えればいくっかあった。そして、電荷が集まった証拠は時々見られた“飛行船は着陸する時、水素を抜いて、ドシンと地面にぶつかることはしない。徐々に下降して来て、4〜50mの高度で着陸索というロープを先ず落す。それを下で待っている兵隊が掴んで、ゆっくり引き降すのである。こんな時、どうかすると、最初にロープを掴んだ兵隊か電撃を受けてひっくり返ることがある。これは飛行船に電荷が溜っている証拠である。その際火花が飛ぶことが考えられ水素が洩れているところに飛べば爆発の可能性が皆無というわけにはゆかないと考えた方がいい。電荷の集まる理由はいろいろと考えられる。(1)エンジンの運転による電荷、(2)胴体と空気およびその中の浮遊物との摩擦による電荷、(3)空中電位傾度のある中に導体を置いた時の誘導電荷。一体これ等がどの位になるのか誰も測った人がなかったので、その測定をやって見ることにした。万一のことがあってはならないので、飛行船は使わないで繋留気球を使うことにした。気球は追浜航空隊が持っていたので、私は湯本君と一緒に追浜航空隊の宿舎に泊って準備した。先ず、気球と繋留索との間に大きな碍子を入れて気球を地面から絶縁する。気球から導線を垂らしてケルビンの静電電位計につなげるようにする。外に精密電流計を持って行って、電荷の量が測れるようにした。
 実験の当目は晴天で、時々雲が地面に影を落して流れていった。抜山先生は当然であったが、寺田先生までおいでいただいたのには感激した。計器の接続が終り、気球隊長の号令一下繋留索はするすると伸ばされて気球は中空に浮んだ。すると、電位計の瓢箪形の針は左右にゆれながら上って行った。索の長さは100mのマークの処で一と先ず止められた。気球は尾部を左右に振りながら浮んでいる。電位計の指度は8000ボルから10000ボルト(正確に覚えていない)位の間を往復している。
 計器の尖っているところからジージーと放電する音が気味が悪かった。私の予想以上の高電圧だった。寺田先生が握り拳を導線に近づけられた。パチと音がして細長い火花が先生の拳に飛んだ。先生はいたずらを見付けられた子供の様なばつの悪い顔を我々の方に向けられニヤリとされた。気球は高度を変えたり、日の当っている時、雲が影を落している時など、条件をいろいろ変えて電位が測定された。空気の温度湿度の髭響、空気及び空気中の塵芥による摩擦の影響など調べたいことは沢山あったが、今回はこれだけの収穫で我慢せざるを得なかった。・・・・(以下省略)

 別の方法は、地面電荷の面密度を測定して、ガウスの定理から地上付近の電場強度Eを計算して求めるやりかたである。以下の図のような手順で金属板Aから移動する電気量を測定する。

 金属板Aが失った電気量を測定すると面密度が求まる。地面の面電荷密度をσとし、真空の誘電率をε0とすれば、高校物理の練習問題で習うように E=σ/ε0 となる。だから V=Ed (d:地面からの高さ)である。地上付近の電場E0の平均的な値である 100V/m と ε0=8.854×10-12F/m を代入すると σ=-8.9×10-10C/m2〜-1nC/m2 程度であることが解る。

)大気の電界強度

 地表での観察から大気電位は大地が負に、上空が正に帯電していることはすぐに解るが、大気の電位が高度と共にどのように変化しているかを測定するのは難しく、その実体が解ってきたのは1900年代の後半に入ってからである。その方法としては基本的に各高度に於ける電界強度E(z)(=電位傾度dV/dz)を測定してそれを高度hまで積分していくしかない。各高度の電界強度の測定は難しいが測定値はおよそ下図の様になる。

 電界強度は時間と場所によりかなり変動するが、平均すると晴天時に地表でおよそ100V/m、高度5kmで10V/m、高度20kmで1V/m、高度50km以上でほぼ零になる。このとき高度hに於ける電位は

で与えられるから、地上の電位を0Vとすると電位は10km付近でおおよそ200000V程度、それ以後は徐々に上昇して高度50km付近で300000V程度で飽和することを意味している。

 電荷分布が水平方向には一定と見なせるとして、高度hに於ける電荷密度ρ(h)を求めてみる。高さhの位置に断面積S、高さΔzの平たい円筒状体積素片を考えてガウスの定理を適用する。

 となり、電荷密度はその点に於ける電界の高度による変化率に関係づけられる(これは微分積分学におけるポアソン方程式ΔV=-ε0ρの特別な場合)。電界強度の高度変化から明らかなように空中には正味の正電荷が分布しており、その電荷密度は高度と共に指数関数的に減少し、主には高度10km付近までだが、最高50km付近まで分布していることが解る。だから空中電気は単なる平衡板コンデンサーの様に分布するのではなくて、地表には負電荷が分布し、正電荷はある厚みをもってその上に堆積する構造をしている。この当たりは別稿「ダイオードとトランジスター」1.(2)の電荷が空間的な広がりを持つ場合の電界の説明を参照されたし。

  

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2.大気中の電荷と電流

 今日ほぼ高度50kmくらいの所に導電層が存在することが解っている。この導電層は太陽光からの高エネルギー紫外線によって生じる電離層(80km〜250km)よりかなり下層である。だから、この導電層の電荷ができる原因は太陽光紫外線ではなくて宇宙線によるイオン化作用である。

)大気の伝導率

 地表付近の導電性は地中から放出される放射性気体222Rn(半減期3.8日)が大気中に拡散して大気をイオン化する事による。そのためラドンRn濃度の減少に伴い伝導率は高度と共に減少すると考えられていた。しかし、Hess(1911)やKolhorster(1913)は下図の様な装置を気球に積んで大気の導電率を測定することにより、上層ほど伝導率が顕著に増加している事を発見した。これは大気電気学に於ける大発見で、宇宙線の発見を導き宇宙線物理学発展の先駆けとなった。(後に、Victor Franz Hessは宇宙線発見の業績により1936年度ノーベル物理学賞を受賞)

 伝導率(電気伝導度)σは高校物理で習う抵抗率ρの逆数である。(面電荷密度σと同じ記号だが混同しないこと、別稿「オームの法則」3.(2)参照)

次の図は伝導率(電気伝導度)の測定例である。

 伝導率は場所変化、日変化、季節変化をするが平均すると、地上付近で10-14S/m程度であるが、高度と共に急速に増大し高度20km付近で10-12S/m、高度30km付近で10-11S/m程度になる
 伝導率が増大するのは高い所ほど宇宙線量が増えてその電離効果が増大するためと、高空で空気密度が減少してイオンの平均自由行程が増し、衝突する前に電場中を長い距離走る為である。

)大気中のイオンと電流密度

 大気の電気伝導のもとになる荷電粒子は原子・分子のイオン(小イオン)と、氷晶、水滴、固体微粒子などの帯電したエアロゾル(大イオン)である。これらは、宇宙線(中間子、電子、陽子、中性子)により原子・分子から電子がたたき出されて、正イオンと自由電子になることから生じる。自由電子はすぐに他の原子・分子に吸着して負イオンを構成する。大気中の正負の小イオンは、異符号のイオンと再結合して電荷を失ったり、周囲に存在するエアロゾルに付着して帯電粒子(大イオン)を形成する。イオンは絶えず失われていくが、外から来る宇宙線が絶えず新しいイオンを創り出す。それらは生成と消滅を繰り返えす複雑な変遷過程を通じて平衡状態を形成し、ある一定のイオン濃度を実現する。

 大気中のイオン濃度、イオン移動度はゲルディエンコンデンサーなどを用いて測定される。これは外側と内側に電圧を掛けた二重円筒内に大気を流すもので、内外円筒間の電位差、大気の流量等を変化させて、内外円筒間を流れる電流値を測定して電荷密度を測定するものである。電場方向を逆にすることで正と負のイオン濃度を別々に測定することができる。また、大気の伝導率もゲルディエンコンデンサーを用いれば測定できる。この場合も電圧を逆にすれば正と負の編伝導率を別々に測定できる。
 また、イオンの移動度の測定にはドリフトチューブ型イオン移動度計も用いられる。これらイオン層を電圧をかけたドリフトチューブに間欠的に導入してドリフトチューブを通過する時間から計測するものである。(メカニズムの詳細は省略)

 ここで次の点に注意すべきである。宇宙線により生成する正電荷と負電荷の絶対量は(宇宙線が元々持つ電荷を除いて)同じはずなのに、大気中には正電気の方が少し多めに存在することである。また、正味の電荷(正電荷)は高度と共に減少する(そのため電界強度も高度と共に減少する)が、正と負のイオンの濃度は逆に高度と共に増大する(宇宙線強度は上空ほど強く、伝導度は高度と共に増大する)。そして両者のごく僅かの差が正の電荷分布を生み出すのである。
 1.(2)の伝導率は正イオンによる電流と負イオンによる電流の和であるが、1.(1)で述べた空中電位や電界を生み出す電荷は、正と負のイオンが持つ電気量の差の正味の正電荷である。 

各高度hの電流密度i(h)は各高度の伝導率σ(h)に各高度の電界強度E(h)を乗じれば直ちに求まる。i=σ×E

 すでに説明したように、電界強度は高度と共に減少するが、伝導率は増大する。そのため、その積である電流密度(上層から下層へ向かって流れる)は高度によらずほぼ一定値〜2×10-12A/m2 程度となる。このような微弱電流が晴天領域では常に下方に向かって流れていることを指摘したのはCoulombやMatteucciである。

    

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3.大気電気学

)地球コンデンサー

 1.2.で述べた状況から生じる大いなる疑問は、「大気の正味の正の電荷は、上層から下層に向かう電流によって、直ちに中和されて消滅してしまうのではないか?」と言うことです。
 実際1.(1)で求めた地表電荷の面密度σに地球の全表面積を乗じると地表の全電荷は

となる。そのとき上空に同量の正電荷が分布していると考えて良い。つまり大気は地表が負に、上層が正に帯電した一種の地球コンデンサーを構成している。その容量は地表と上空との電位差を仮に300000V程度だとすると

となる。そのとき、すでに述べたように上層から地表に向かって四六時中、ほぼ〜2×10-12A/m2 程度の電流が常に流れているのだから、地球に流入する全電流量は

1000A程度である。そうすると地球表面と導電層との間の抵抗値は

程度となる。また全電流量で地球の全電荷を割れば明らかなように、地球の全電荷は

つまり数分程度の時定数で消滅する事になる(1887年Linssが指摘)。

 この疑問は大気電気学の大問題であったが、今日ではこの地球コンデンサーに定常的に電荷を供給し続けているのが雷雲であり、雷雲に伴う雷放電・先端放電・降水電流が晴天領域の定常的な大気電流を保持していることが解ってきた。実際、今日人工衛星などを使って全地球規模で発生している雷をモニターすることが可能で、雷雲に伴う電荷の移動で地球コンデンサーの充電機構を説明することができる。

)大気電位の時間的変化

 陸地に於ける大気電界は地方時に依存して変化する傾向があるが、晴天時の海洋に於ける大気電界は地球上のどの場所でもほぼ同じように世界標準時に従って変化している。太平洋、大西洋、北極海など何処で測定してもグリニッジ標準時の19時ごろに最大になり、3時頃最小になる(下図)。これは一見非常に不思議なことであるが、これこそ大気上層部に横に広がった高伝導層が存在することを示唆する。この伝導層のために大地との電位差が場所によって変わることが許されなくなると言うわけである。

 ホイップル(1936年)は、地球上の雷雲出現頻度(雷雨面積)を全世界にわたって推算してみた。そうすると、その時間的な変化はグリニッジ標準時にリンクして変化しており、大気電界強度の時間的変化と非常に良く一致することが解った。彼らが推算に用いた方法は次の通りである。雷雨の起こるのは低緯度の陸地の午後に一番多い。そこで低緯度で午後の時間に当たっている陸地の面積を計算して、それで地球上の雷雨活動を代表させた。そうして得たのが下図である。

 雷雲の出現頻度は地球の自転と共に場所を変えていくが、それらを合計した曲線(上図)は、晴天時の海洋に於ける大気電界の時間変化曲線と非常に良く似ていたのである。(上の二図を比較)
 海上の大気の伝導率はほとんど日変化を示さないから、この事実は海上の大気電界の日変化は上空導電層の電位の日変化を表し、それは雷雲によって形成されていることを示している。

)雷雲の電荷供給速度

Gish, O. H., and G. R. Wait, Thunderstorms and the earth's general electrification, J. Geophys. Res., 55, 473-484, 1950(http://www.agu.org/pubs/crossref/1950/JZ055i004p00473.shtml)

 Gish と Wait(1950年)は雷雲の上を飛行機(B29)で飛び大気の電界強度伝導率を測定した。観測された電界強度の飛行経路に於ける水平分布は高度3kmに-39C、高度6kmに+39Cの電荷が存在する雷雲モデルと一致した。雷雲の上空には数1000V/m以上の上向き電界が存在することを示している。彼らは、雷雲上空の電界強度Eと伝導率σから伝導電流(i=σ×E)を計算して、雷雲一個から上層に向かって毎秒0.1〜6A(平均すると0.5A)の電流が流れていることを明らかにした。

)雷雲の分布

 雷雲1つにつき平均0.5A程度の上方へ向かう電流があるのなら、3.(1)で述べた上層から地表に向かって常時流れている約1000Aの電流を補うためには地球全体で2000個程度の雷雲が常時存在すれば良いことになる。今日では、人工衛星から地球表面の雷光を観測することにより雷雲の分布を知ることができる。下図はその観測値の一例である。

 次図は、雷からの電気的なノイズを人工衛星でカウントして得た年間雷放電数の図です。雷の最大頻度は東南アジアにあることがわかる。

 現在、1997年に打ちあげらた日米共同の熱帯降雨観測衛星(Tropical Rainfall Measuring Mission 周期90分)に搭載されている雷観測装置(Lightning Imaging Sensor)が、個々の雷放電を4kmの水平分解能で検出し日、月、季節、年単位でデータを提供中。
http://outreach.eos.nasa.gov/EOSDIS_CD-03/docs/trmmlis.htm
http://www.eorc.jaxa.jp/TRMM/about/mechanism/lis/lis_j.htm

 観測結果によると、雷雲の個数は静穏時に地球へ流入する電荷を十分供給できる数だけ存在するようである。また、雷雲は熱帯地方に多く高緯度地方は少ない。雷雲観測のデータ等から地球表面上の負電荷分布を計算して、地表の電界強度を図にしてみると下図の様になる。

 現実の地球は20%くらいが常に雲に覆われているが、雷雲や降水雲のある地域では容易に1000V/m以上の電界が上向きにでき、晴天域とは逆向きの空地電流が流れている。上図の斜線部が地表において上向きの電界が存在するところで、その負値が大きなところが雷雲や降水雲が高密度で存在する所である。図から解るように、そういった地域は地球の自転に伴って(太陽の移動と共に)東から西へ移動していく。これらの結果はホイップル達が推算した3.(2)の地球上の雷雨面積推算値の時間的変化のグラフとほぼ一致している。

)空地電流のバランスシート

 実際の所、雷雲からの落雷だけが電荷の移動手段ではない。年間を通じて集計すると落雷以外の先端放電電流や、降水電流(帯電した雨滴が雲から降ることによる)がかなりの割合を占めており、それらを含めた電荷移動が雷雲や降雨雲に伴っていると考えなければならない。以下の表はその見積もり値の一例である。単位は1km2の面積で1年当たりの値です。当然の事ですが、このなかの晴天時伝導電流の値は2.(2)で求めた数値から見積もられる値とほぼ一致している。

 このなかの先端放電であるが、地表の突起物の先端近くは電界が著しく大きくなり、大気電界が400V/mを越えると突起先端でコロナ放電が起こり、空地電流が増加する。先端放電電流は雷雲の接近時は顕著になるが、弱い物は気象擾乱に伴って発生する。船のマストや山頂からの先端放電はセント・エルモの火として知られている。次の文章はセント・エルモの火の描写である。

中嶋博著「カンテラ日記−富士山測候所の50年−」ちくま少年図書館 筑摩書房(1985年刊)より
昭和12年(1923年)10月31日
 朝のうちは一面の雲海が見えたが、それがしだいに高度を上げ、やがて山頂は濃霧となる。午後は、風遠計の霧氷落としでそうとう忙しい。
 夜22時の観測がすんで一同ラジオのニュースに耳をかたむけているとき、突如ザーッ、ザーッという雑音がはいってきて、ラジオの声が全然判別できなくなった。
 「それっ、セントエルモの火だ」と口ぐちに叫んで戸外に出ると、凍雨が降っている。(凍雨とは、雨滴が凍結したもの、または、雪片の大部分が解けてふたたび凍結したもの。凍結はふつう地表近くでおこる)
 観測所の南側にあるVHF無線電話用のアンテナをささえている柱の四角な柱頭の各先端から、光の穂先が20ないし30cmの長さで、青い光が上に向かってのびている
 あっ、煙突のさきも、頭の髪も、手のさきも、みんな青い光を放っている。頭髪は逆立ち、その先端についている水滴、霧滴が、ひとっひとっサファイヤのように輝いている。
 そして、馬の背に目をやると、黒い岩の尖頂も、白い霧氷の先端も、青い光を放っていて、角という角のすべてに、百目ローソク(一本が重さ約100匁[375gある]大ローソク)を立てたように輝いている。「おう、岩がそら」と叫んで闇に手を差しのべた吉原は、「それ、君の手が」といわれて、あわてて手を引っこめて苦笑。濃霧のなかで、回転する風速計も風向計も青く光って見える。このセント・エルモの火は、約30分間で終わった。これは、たしかにまれに見る壮観なものであった。10月の最後の目に、自然は山の観測者にすぱらしいおくりものをしてくれた。・・・・(以下省略)

  

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4.雷雲の構造

以下で、雷雲の実際の構造を歴史的発見の過程を踏まえて説明する。

)シンプソン説(1909、1913年)

 英国のシンプソン(Simpson, George Clark 1878〜1965)は次の二つの効果から雷雲の底には正電気があると考えた。彼の挙げた理由は

  1. 水滴の表面には外側に負、内側に正の電気の電気の二重層があり、水滴が分裂するときには微少水滴が外側の負の電気をもって陰イオンとなり、残りが正の水滴となる(レナード効果1892年:レナードの原論文の翻訳は  http://www.n-ion.com/lenard.html にあり、シンプソン自身も追試(1927年)をしてこの効果を確かめている)。そのとき陰イオンの微少水滴は上昇気流で上方に、正に帯電した雨滴は下方へ片寄るとすれば、雷雲の下層が正に帯電する。

    実際のところシンプソンがインドのシムラで雷雨の雨滴の電気を測った結果は70%以上が正に帯電していた。雷雨の前半では正の雨が多く、後半では負の雨が多い。そして落雷現象の一番盛んなときに降る豪雨は、ほとんど全部が正に帯電していたのである。
  2. 電光は多くの場合上から下に枝分かれしており、正電極から出た火花放電の形によく似ている。そのため雷雲の下層は正に帯電している。

と言うものである。この説は実験結果と観測事実を根拠にしていたので、一時期非常に有力視され大勢を占めた。
 しかし、このうち2.については、火花放電の形は電極の充電のしかたによるのであって、衝撃電圧で放電させると、負電極からでも枝分かれ形の火花放電が出ることが後に判明して根拠しての価値を失ってしまう。

)ウィルソン説(1916〜1928年)

 そういった状況の中でウィルソン(霧箱の発明(1895-1911年)で有名なCharles Thomson Rees Wilson(1869―1959英国)の1920年代の研究)は、はじめて雷雲の電気分布を測定するのに成功した。彼が用いた方法は、雷雲の電気のために地面に誘導される電気を地表面に埋めた箔検電気で測定するというものである。

 箔に誘導された電気を打ち消すのに必要な電気の符号と大きさを測って地面に誘導された電荷の符号と大きさを測定した。雷雲は時間と共に移動していくから、その箔検電器の帯電状態の時間的変化を測定すると雷雲の電気が分かる。雷雲モデル(1)〜(3)の違いにより地表の電界強度は異なった時間変化を示すはずである。観測結果の多くは(3)の分布を示唆した。

 また、ウィルソンは接地した導体板の電位をモニターして落雷の様子も調べた。例えば雷雲下層に負の電気が集積されて地表に正電気が誘起されるとA→Bの変化が起こる。Bで落雷が起こると地表に誘起された電気が急激に消滅してB’となる。そしてまた充電が始まる。Cでは二つの落雷があいついで発生した事を示している。また雷撃電流の方向が逆ならば、その変化はD→E→E’→Fの様になるであろう。落雷の後の再充電に要する時間は5秒程度であり、彼は一回の落雷で流れる電気量は30C程度であると見積もっている。

 彼は多くの雷雲を観測して(3)のモデルが妥当であることを明らかにした。つまり雷雲は下層が負に、そして上層が正に帯電していると言うのである。

)シンプソンの改良モデル(1937年)

Simpson, G. C., and F. J. Scrase, The distribution of electricity in thunderclouds, Proc. R. Soc., Ser. A, 161, 309-352, 1937.
(この論文の入手はこちら[ただし有料] http://rspa.royalsocietypublishing.org/content/161/906/309.citation)

 ウィルソンの実証的な研究で旗色の悪くなったシンプソン説であるが、シンプソンはその後10年間にわたる地道な研究を続けて雷雲の驚くべき構造を明らかにした。彼は下記の画期的な装置で、雷雲の中の電場を実際に調べて雷雲の三次元構造を明らかにした。

 彼の装置(アルティエレクトログラフ)の中心には時計仕掛けで回転する記録用円盤がある。円盤にはヘキサシアノ鉄(U)酸カリウム(フェロシアン化カリウム・黄血塩)、硝酸アンモニウム、グリセリンの水溶液を浸みこませた濾紙が貼り付けてある(下左写真)。この円盤面に平行に二本の針金ABとCDが取り付けてある。針金の先端BとCを尖らせておけば、例えば上左図の様な電場のときにはAとCからは正のブラッシ放電が、BとDからは負のブラッシ放電が起きる。電場が逆なら放電の様子は入れ替わる。BとCの内で正放電があった方の針先の紙の部分は([FeU(CN)6]4-イオンが電子を奪われて酸化されて[FeV(CN)6]3-となり)青色[プルシァンブルー]に変色するが、負放電の方は変化しない。[高校化学の授業を思い出せ!]
 上中央図に示した測定例の場合、BとCの針先部分が交互に着色していることから、電場は高度と共に逆転して[高度約2km付近に正電荷][4km付近に負電荷]そして[5.5km付近に正電荷]が存在したことが読み取れる(上右図)。

 この装置をアネロイド気圧計と連動させ高度を記録しながら、気球に付けて上昇させる(上右写真)。そして、ある高さになったら自動的に落とし落下傘で回収する。回転記録紙の青色の分布を調べると、高度ごとの電場の大きさと方向を知ることができる。彼はまた、同時に地表の電界強度の変化と、雨滴の電荷の観測も併せて実施した。下図は測定結果から得られたモデル図の一例である。

 シンプソンは百数十個のアルティエレクトログラフを雲内に放球し70個あまりを回収する事ができた。このうち22個の雷雲内の電場測定値から次図の様な雷雲モデル(1937年)を得ることができた。これは有名な図で当時としては画期的な成果である。

 雷雲の上層部には正電気が広く分布しており、下層には負電気があり、地上に負の雨が降る所まではウィルソンの説と良く一致している。しかし雷雲の前面近くの激しい上昇・下降気流のある所では上から正・負・正の三極構造をしていたのである。そして最も激しく雨の降る部分では確かに正の雨が降っている。結局ウイルソンの説は全体として正しいことが確認されたが、上昇流の強いところに限ってはシンプソンの雨滴の分裂による電気分離も確かに起こっていたのである。
 この結論は最近の研究でも正しい事が確かめられており、雷雲の成熟初期には必ず三極構造を取ることが明らかになっている。そして、電荷の分離メカニズムの解明にはこのことの説明が不可欠となっている。

)現在の雷雲モデル

 沢山の先人による多くの観測から、今日では雷雲電荷の空間分布はほぼ下図の様なものだと考えられている。積乱雲の様な背の高い雲は、上層の強い風に引きずられて下層の空気よりも速く移動する。その為、高度と共に横への移動速度に差が生じる鉛直シアーが存在する。一般に下層の積雲前面の空気塊は、上層の風により引き面れて進んでくる積雲前面にぶっかられ、またその下層に潜り込んでくる冷気の前線(ガストフロント)のために上昇流となる。上昇に伴う断熱膨張のために空気塊が冷却して水蒸気が凝縮して雲となり潜熱の解放が起こる。潜熱の解放に伴う発熱・膨張により軽くなった空気塊はさらに上昇を強める。そのため雷雲前部には激しい上昇気流が生じる。(下図参照)

現在の雷雲モデルの本質を列挙すると

  1.  雷雲の構造は冬季と夏季、気温によりかなり変化するが、成熟期初期には常に正・負・正の三極構造を取ることが解っている。雷雲の中の電荷分布は1m3当たりナノ(×10-9)クーロンのオーダーであるが、上層-30℃付近の半径2km程度の球状領域に+20C、中層-10℃付近の半径1km程度の球状領域に-20C、下層0℃付近の半径0.5kmの球状領域に+1C程度で分布している。電荷分離のメカニズムは、この三極構造を説明できるものでなければならない
  2.  中層の負電気領域と下層の正電気領域は垂直に並び降水域を形成する。ここでは雨がどんどん降っているのにもかかわらず、中層の負電気が-10℃層に止まり、雨が降れば降るほどここでの負電気が増大していく。普通に考えると降雨が電荷を持ち去っていくので、中層の負電荷は降雨と共に減少するはずである。だから電荷分離メカニズムは、この部分への負電荷の集積過程を説明できるものでなければならない
  3.  また、夏季の積乱雲では、レーダーエコーが現れて約10分で最初の雷が鳴る。これはレーダーエコーが形成されて10分後には雷形成に必要な高電場が形成されることを意味している。電荷分離メカニズムは、これほど急速に電荷を蓄積できる理由を説明できなければならない

 後で雷雲の電荷分離メカニズムを考察するが、その際上記の三点の疑問が説明できるものでなければならない。

)雷雲の実態

.雷雲のエネルギー

 言うまでも無いことであるが、これまで述べてきた地球コンデンサーを充電するエネルギー源はすべて太陽光のエネルギーである。水が太陽光により暖められて太陽エネルギーが気化熱として水蒸気に封じ込まれる。空気塊が様々な理由により上昇をはじめると、周囲の大気の圧力の減少に応じて断熱膨張して冷える。そのため水蒸気は凝縮・凝固して蒸発熱として蓄えられていたエネルギーを潜熱として解放する。解放された熱が空気塊を温めさらなる上昇を引き起こす。そして激しい上昇気流を生じる。これが台風・梅雨前線・豪雨・雷などの雄大な自然現象を生み出す。雷雲の電荷分離のエネルギー源は雲の中の激しい上昇気流であるから、結局雷のエネルギーはすべて太陽光から来ていることになる。

.雷の分類

 雷は激しい上昇気流によって生ずる積乱雲の中で発生します。上昇気流の発生原因により雷は次のように分類される。

  1. 熱雷
    夏の午後などに、内陸部や山間部で、強い日差しのために温められた地表付近の大気が熱的不安定になって上昇して形成する積乱雲に伴うもの。
  2. 界雷
    気団と気団の境界で発生する雷。梅雨期の集中豪雨を生じるような温暖前線や、雹が降るような激しい上昇気流が生じる寒冷前線に伴うものなどで、前線雷とも呼ばれる。特に上層に寒気が流入したり、下層に暖かい湿った空気が流入したりして鉛直方向の気温減率が増大すると生じる。
  3. 渦雷
    発達した低気圧や台風のまわりの強い上昇気流に伴って発生する雷。下層が低気圧になるために強い収斂性の風が吹いて上昇気流が発生するもので低気圧雷とも呼ばれる。
  4. 気団雷
    夏の内陸部の雷や、冬の日本海上の冬型気圧配置に伴うもののように、特徴的な気団に伴って発生する雷。

.雷雲の一生

 日本の群馬県前橋における雷雨特別観測(1940〜1944年)やアメリカのサンダーストーム・プロジェクト(1946年フロリダ州オルランド、1947年)などの観測をはじめとして、多くの観測から雷雲の実態が以下のようなものであることが分かっている。(この当たりは参考文献4、7、8に詳しい)

  1.  2.で説明したような様々な理由により大気が自由対流高度以上に持ち上げられると上昇メカニズムが自動的に働きはじめて、雷雲の発達が始まる。

     雷雲はいくつかのセル(細胞)の組み合わせからできてい。セルは上昇流と下降流が組み合わさった対流系で直径5〜10km程度である。
  2. セルの発達過程は発達期、成熟期、衰弱期に分類される。
     発達期のセルの直径は1.5〜8km、高さは5〜7kmを超えることはない。発達初期の上昇気流は2〜3m/s程度だが、最盛期には30m/sくらいになることもある。-20℃よりも上方で成長した雲粒が氷結して霰(アラレ)が形成される。霰は最初は上昇気流に支えられているが、下から補給される水蒸気や雲粒を付着してサイズが大きくなり、ついには下方へ落下してくる。
  3.  成長した霰は落下し、途中で融解し、地表で降雨が始まる。これが成熟期の始まりで、セルが発達して雨が降り始める頃には、セルの雲頂は7.5〜9kmくらいで、今まで上昇気流だった区域の一部に下降気流が発達しはじめる。
     降雨の激しい領域では空気が引きずり降ろされ、霰の融解熱、水滴の蒸発熱により空気は冷却されて密度が高く冷たい空気が吹き下りてくる。この下降気流は地表で発散するが、雲の移動方向の前方には陣風線(ガストフロント)と呼ばれる小型の寒冷前線が形成される。
     成熟期の雲頂は高さ12kmを越えるものもあり、上昇気流は雲頂まで届いている。下降気流は7.5km位の高さまで存在している。
  4.  下降気流がセルの下層全体に広がると雲の成長は終わり衰弱期に入る。降水がすべて落下すると雲は消滅する。下降気流の風速は成熟期で12m/s程度あったものが、この時期では6m/sからしだいに小さくなってほとんど零になる。
  5.  雲粒は雨粒に比べて2桁程度小さく気象レーダーでは検出されないが、霰の形成領域、降水領域はレーダーエコーとして捉えられる。雷雲中のレーダーエコーは積雲発生から10分程度して、-20℃領域に現れ、次第に上昇するとともに、下方にも広がりながら強度を増していく。成熟期にはエコーの強い領域は次第に下降してくる。そして地面まで達する。衰弱期になるとエコーは上層から消えながら弱まって行く。
     
  6.  雷雲セルは時系列的に順次入れ替わりながら発生・衰退していく。この時、成熟期の積乱雲が降雨と共に造り出す冷たい下降気流が、鉛直シアーの風下側(上層を吹く風の風下側)にガストフロントを形成し、次の積乱雲を引き起こす。個々のセルの寿命は1〜3時間程度だが、雷雨としては数十時間続く場合もある。

    上図のメカニズムにより自己組織化・自己増殖すると第2、第3、・・・の積乱雲を造り出し多重セル型スーパーセル型の雷雲となる。

  

 ここで本来ならば、上昇気流が生じる理由、雲の発生、積乱雲のできるメカニズム、降雨のメカニズム等を説明しなければならないが、すべて省略する(気象学の適当な本を参照して下さい。別稿で少しだけ説明)。以下では電荷分離メカニズムに限って説明をする。

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5.電荷分離メカニズム

 雷雲の電荷分離メカニズムは雷の科学の中心部であり、最も難しい課題である。今日でも完全に解明されたとはいえないが、1978年に高橋劭(つとむ)氏により提案された「霰(アラレ)と氷晶の接触分離説」(1978年、1984年)は非常に有力な説で、多くの疑問に明快な答えを与えている。以下順番に説明する。

)電荷分離理論の歴史

 過去100年の間に、様々な異なる電荷分離機構が提案されて来た。今日では廃れてしまった説も多いが、とても興味ある所なので過去の主な説を復習しておく。そのとき以下の点に注意。

 雷雲は強い上昇流で発生し、その電荷も上昇流の強いところに集中している。そのためどの学説も、上昇気流と粒子の落下速度の違いによって大小の粒子が選び分けられ、大きな粒子が下方に小さな粒子が上方にへ移動することにより、電荷が分離されるという考え方は同じである。
 だから問題点は[電荷を担う粒子が何なのか、つまり雲粒(0.01mm程度)や雨滴(1mm程度)などの水滴なのか、氷晶(0.01〜0.1mm程度)や霰(アラレ5mm程度)などの氷なのか、また大気分子イオン・不純物イオンや塵なのか?]ということと、[小粒子と大粒子がどのようにして異符号に帯電するのか?]である。以下ではその当たりを中心に説明する。

.エルスター、ガイテルの静電誘導説(1913年)

 これは電荷分離メカニズムの最初の説です。すでに述べたように大気中には上から下に向かう電場がある。そのため落下中の雨滴には下面が正、上面が負の電気が誘導される。小さな雨滴の落下速度は小さいから大きな速度で落下する大きな雨滴の下面に追突する。この際小さな雨滴は下面の正電気をもらうと同時に正電荷同士の反発力ではね返る。そして小水滴は正に、大水滴は負に帯電する。大水滴は下方に落下していき、小水滴は上昇気流により上層に吹き上げられて雷雲の上層が正、下層が負に帯電すると言う説である。

 しかし、本当に彼らが言うように小水滴は衝突後反発されるのか疑問に思うところである。後にアメリカの物理学者が小水滴と大水滴の衝突の様子を活動写真で調べてみたら反発は起こらず、小水滴は大水滴に吸収されるか、又は大水滴を貫いて反対側から飛び出すことが解った。そして、突き抜ける場合は大水滴は正に帯電することも知られた。結局彼らの衝突反発説は実験的裏付けがまったく無かったので廃れてしまい、最初の電荷分離説であると言う歴史的な意味しか無くなった。

 大水滴を霰(アレラ)に、小水滴を氷晶に置き換えた理論を考えることができる。
Aufdermaur, A. N., and D. A. Johnson, Charge separation due to riming in an electric field, Q.J.R. Meteorol. Soc., 98, 369-382, 1972.
Shewchuk, S. R., and J. V. Iribarne, Electrification associated with droplet accretion on ice, J. Atmos. Sci., 31, 777-786, 1974.
つまり、静電誘導した霰と氷晶が下図の様に霰の下面で衝突したとき、霰の下面の負電荷と氷晶上面の負電荷が中和して、分離した後には霰は負に、氷晶は正に分離する。

ただし、この機構が実現するためには、衝突の瞬間の短い接触時間で霰下面の正と氷晶上面の負が中和しなければならないが、氷は不良導体なので金属の様に瞬時には行かない。また、固体の氷の比誘電率(約4.2)は、液体の水の比誘電率(約80)に比較して遙かに小さい。そのため電荷分離メカニズムの主流にはとうてい成り得ない。
Gaskell, W., A laboratory study of the inductive theory of thunderstorm electrification, Q.J.R. Meteorol. Soc., 107, 955-966, 1981.
Gaskell, W., A. J. Illingworth, J. Latham, and C. B. Moore, Airborne studies of electric fields and the charge and size of precipitation elements in thunderstorms, Q.J.R. Meteorol. Soc., 104, 447-460, 1978.

.ウィルソンの静電誘導イオン吸着説(1920年)

 大気電場は元々下向きなので、大気中に含まれる正イオンは下向きに、負イオンは上向きに移動する。しかしその移動速度vは大きさが0.1mm程度以上の水滴の落下速度Vよりも小さい。それである限界以上の大きさの水滴はV>vとなり、下図Aの正イオンは水滴に届かないし、Bの正イオンは水滴底面の正電気に反発されて水滴にくっつかない。Cの負イオンのみ水滴にとらえられる。またDの負イオンは更に上に存在する水滴にとらえられる。
 大水滴が負イオンをとらえてしまうので、上昇気流には正イオンが多くなる。その正イオンは小さい水滴に付着するので小水滴は正に帯電する。そして小水滴は上昇気流で上層に、大水滴は重力落下で下層に移動するから、雷雲中の下向き電場をさらに強める。そのため、ますます上記のメカニズムが強化される。
 また、雷雲下面と地面の間の電場は上向きだから、そこでは正イオンが上向きに流れており、落下する水滴は負からやがて正に帯電して正の雨が降る事になる。

 しかしながら、問題は大気中の正負のイオン量が雷雲中の一回の放電電流20〜30Cを補うほど十分にあるかどうかということであるが、今日量的にとても足りないことが判明している。また、実際の電荷分離が起こっている領域の温度(-10℃)では水滴ではあり得ないことからも、この説の説得力は無くなった。

 ウィルソン説の水滴を霰(アラレ)に置き変えた電荷分離メカニズムを考えることができる。下図参照

ただし、すでに述べたように氷の比誘電率は水の比誘電率より遙かに小さいから、このメカニズムでは実際の電荷蓄積速度を説明するには全く不十分で主流の説とは成り得ない。

.シンプソンの水滴分裂説(1927年)

 4.(1)ですでに説明したように液体が急激に微粒子化すると液体の表面エネルギーが変化するために液滴が帯電する。例えば水滴が分裂すると、水滴は正に、まわりの空気は負に帯電する(レナード効果)。シンプソン自身も詳しく調べて、分裂の際には正イオンもできるが全体としては負イオン量の方が勝り空気の方が確かに負に帯電することを確かめている。
 上昇気流の強いところで雨滴は分裂と合体を繰り返し、分裂のたびに雨滴はだんだん正に帯電する。そしてまわりの空気は負に帯電してきて負イオンは上昇気流で上層に運び上げられ、最終的に雲の粒子に付着して負の部分を形成する。そして、その部分の雲から降る雨(雷雨の後半に降る)は負に帯電してくるというのである。

 この水滴分裂説は、雷雲の底部に出現する局所的な正電荷領域や正の豪雨の説明には好都合であるが、今日雷雲の電荷分離はもっと高層の温度が低い領域(-10℃程度以下)であることが解っており、その温度では水滴ではあり得ないことや、この効果で生成される電荷濃度は1C/km3程度で実際の観測地よりも1桁小さい事から説得力が無くなった。

 レナード効果は、電荷の分離メカニズムの一つとして正しい事が実証されている。だから雨滴については、部分的にはこのメカニズムで帯電する場合があるかもしれない。しかし、雷雲の主な帯電メカニズムとは成り得ない。。

 ここまでは水滴による電荷分離機構であったが、1930年代になると雷雲の構造がだんだん理解されてきて、電荷分離は-10℃以下の低温領域で起こっていることが解ってくる。そのため、電荷の分離媒体として水滴は適当ではなく、氷晶(雪)や霰(アラレ)が注目されるようになる。

.シンプソンの氷晶衝突説(1937年)

 先に述べたシンプソンも氷が主役だと気づいて、新しい分離メカニズムを提唱した。それは雲中で氷粒が衝突すると氷粒(大粒)が負に、微少氷粒や気体は正に帯電すると言うものである。これは彼が、スコットの南極探検隊に参加して観測した南極大陸のブリザードから予測したものである。ブリザード(地吹雪)の際に生じる地表付近の電場は下向きになる。そのとき大きな氷粒は下に、微少氷粒は上に滞空することから前記の符号を予想したのである。しかし、符号の正負を含めて不確かさがあり、十分な理論とならなかった。実際、大小の氷粒を接触・分離させると大きい方が正に、微少な方やまわり気体が負に帯電するというシンプソンとは逆の観測結果もあった。

.ワークマン、レイノルズの凍結ポテンシャル帯電説(1950年)

Workman, E. J., and S. E. Reynolds, A suggested mechanism for the generation of thunderstorm electricity, Phys. Rev., 74, 709, 1948.
Workman, E. J., and S. E. Reynolds, Electrical phenomena occurring during the freezing of dilute aqueous solutions and their possible relationship to thunderstorm electricity, Phys. Rev., 78, 254-259, 1950.

 ワークマンとレイノルズは下図のような絶縁体容器のなかに水を入れておき、左の方から冷却体で冷やして凍らせた。そのとき水の中に適当な不純物を入れておくと氷と水との間に電位差が生じる事を発見した。特に0.0001mol/リットル濃度の塩化ナトリウム溶液の場合水の部分が正に、氷が負に帯電するのを実験で見つけた。

 このことから、彼らは次のような雷雲の電荷分離機構を提案した。天然の雲粒は少量の塩分を不純物として含んでいる。落下中のアラレに過冷却した雲粒が衝突すると、一部は凍り付くが残りは水のままちぎれ去る。その際前記の実験結果が正しければ、ちぎれた水は正の電気をもって逃げ去り、アラレは負に帯電する事になる。

 この理論は不純物イオンの働きと凍結時に於ける氷と水の電位差に初めて着目したものであり、大変反響を呼んだ。しかし実際の雲粒中の塩化ナトリウム濃度が都合良く上記の値である保証など無いことや、その後の研究で、水滴が引きちぎられるには霰と雲粒との衝突速度が10m/s以上で無ければならず、実際の雲中のアラレの生成過程で水滴が飛び散る保証はないことが解ってきたことなどから説得力が無くなった。

 この分離メカニズムの場合、分離電荷量も帯電電荷の符号も、水に含まれる微量化学成分に著しく敏感で、例えば0.0001mol/Lのアンモニア水溶液では水と氷の間の電位差は100Vにも達することなどが解っている。
 また不純物がない純水の場合、霰が正に水が負に帯電することも解っている。これは今日、次のように説明されている。水の解離エネルギーは液相と固相では液相の方が低いため、H+イオンとOH-イオンが水の中により多く形成される。このとき、+イオンはOH-イオンより氷の中に浸透・拡散しやすい。そのため水の中にOH-イオンが取り残される。その結果氷が正に水が負に帯電するというのである。これは今日の電荷分離メカニズムの重要な構成要素である。

.レイノルズ、ブルーク、ガーレィの温度差帯電説(1957年)

Reynolds, S. E., M. Brook, and M. F. Gourley, Thunderstorm charge separation, J. Meteorol., 14, 426-436, 1957.
(この論文の入手はこちら http://ams.allenpress.com/archive/1520-0469/14/5/pdf/i1520-0469-14-5-426.pdf)

 レイノルズ、ブルーク、ガーレィは着氷中の帯電現象を直接測定できる実験を行った。-20℃くらいの低温槽に過冷却した霧を満たしておき、その中で下図のような金属球(霰の代用)をグルグル回した。そうすると金属球表面に過冷却水滴が着氷する。そのとき金属球を霰と見なして、その電位を測定した。
 過冷却の水滴だけの場合は、金属球は帯電しなかった。しかし、過冷却水滴に氷晶を混ぜると、着氷した金属球はに帯電した。そのとき金属球を赤外線で温めながら同じ実験をしたら着氷金属球の負電荷は更に増加した。

 このことから、彼らは次のような雷雲の電荷分離メカニズムを提唱した。霰(アラレ)は着氷で成長中に氷晶と衝突すると摩擦電気で帯電する。それは、過冷却霧水滴粒子が霰に凍り付くときに出す潜熱のために霰の表面温度は氷晶の温度(空気と同じ)より温かくなる。暖かい氷りと冷たい氷が接触・分離すると、暖かい方が負に帯電する(この事実は先人の観測から当時知られていた)から、暖かめの霰(着氷金属球で代用)はに、より冷たい氷晶はに帯電することになる。赤外線電球で着氷金属球を特に温めてみたのも、その点の確認である。

 これは霰(アラレ)の着氷に着目した電荷分離機構の最初で画期的なものだった。しかし孫野の研究室の追試によると着氷速度と着氷温度の違いにより正負が逆に帯電することもあり、単純な温度差理論だけでは説明しきれないことが解ってくる。

.孫野の霰表層水剥離帯電説

 孫野、高橋は、低温室の中で、温度着氷速度(過冷却霧粒の補充速度)の両方を変化させてレイノルズ等の実験を再現してみた。そうすると、暖かくて着氷速度が遅いとき(下図の右下)は、表面が丸っこくて透明な硬い着氷になり、気温が低くて着想速度が大きいとき(下図の左上)には霜の結晶に似た壊れやすい着氷(ソフトヘイル)になった。
 そして、前者の場合、着氷金属球はに帯電し、後者の場合にはに帯電したのである。(下図参照)

 天然の霰の着氷状態から判断すると、天然の霰の着氷速度は0.05の当たりなので-10℃近くが符号逆転の境界と思われた。それ以前の着氷実験で霰が負に帯電したのは、いずれも-20℃付近の寒い条件のためである事を明らかにした。ここで-10℃の境界がクローズアップされてくる。

 孫野は上記の結果を受けて、気温が-10℃〜0℃の間の着氷で霰が正に帯電するメカニズムとして以下の様な説を提唱た。

 比較的暖かいときは、過冷却した雲粒が霰に衝突して凍着く際に凍結の潜熱のために一部が溶けて霰の表面に薄い水の相ができる。すでに述べた様に、氷に水の層がある場合には水の層が負に氷が正に帯電する。そこに氷晶や雪粒が衝突してはね返れば、負に帯電している水の層の一部を引きちぎっていく。そのため、残った霰が正に帯電するというものである。一方気温が低い場合は、過冷却雲粒が霰の表面に凍着いたときには表面に水の層はできないだろう。ただし潜熱のために霰の表面温度は氷晶よりも高くなり、レイノルズ達の説明のように霰が負に帯電すると言うのである。この説は今日分離機構の重要な一部分をなす。

.過冷却水滴凍結帯電説

 英国のメイソンとメイバンク(Mason & Maybank 1960年)は直径1mmくらいの水滴を低温箱の中に糸で吊して過冷した。水滴が急に氷る際に負に帯電する事を発見した。彼らは、これは急凍結の際にスブリンターと称する微少氷片が正の電気を持って飛び出すためであると説明して、雷雲の電気分離を説明した。
 しかし、同じ英国のハチソン等は、この現象を更に詳しく調べて、過冷却した水滴に何か凍結核となるものが付着すると、外側から氷り始めて内部に水が残される。これは外側の部分が氷ったための潜熱が放出されるからである。水滴は凍ると体積が膨張するから、凍結がすすむにつれて、内部の水に圧力がかかり、遂に凍った外殻が破壊される。この破壊のしかたに様々(下図)あり、状況により反対符号に帯電して、メイソン、メイバンクの様に一概に言えない事を明らかにした。

 また、孫野の研究室では、実際の雲粒の大きさの0.1mm以下の微水滴を過冷却して凍結させ、その電荷を測ってみると凍結温度に依存して正にも負にもなり、この現象が単純ではないことを示した。

.氷の融解帯電説(1946年)

 米国のディンガーとガン(Dinger,J.E. & R.Gunn 1946年)は実験箱の中で氷を融かせると箱の空気が負に帯電することを測定した。これらから逆に解けた氷りが正に荷電すると結論した。
Dinger, J. E., and R. Gunn, Electrical effects associated with a change of state of water, J. Geophys. Res., 51, 477-494, 1946.
 その後、菊地(1965年)は、雪が融解すると正に荷電するものの割合が増えることを見つけた。さらに、菊地は霰が解ける様子を顕微鏡で詳しく観察して、霰の中の無数の気泡が、霰が解けるときに破裂して微水滴が飛び出し、微水滴は負の電荷を持って飛び出すために霰が正に荷電する事を確かめた。ディンガーも後(1965年)に気泡の働きを確かめている。
Kikuchi, K., On the positive electrification of snow crystals in the process of their melting (III), J. Meteorol. Soc. Japan, 43, 343-350, 1965.
 これは、霰の融解時、OH-過剰の水を空中にばらまくためであり、解けた霰が正に帯電することは確実であるが、帯電の電気量が少ないし、冬季の雷雲の様に融解しないときには無力なので雷雲の電荷分離をこれで説明するのは難しい。

10.レーサム、メイソンの温度勾配帯電説(1961年)

Latham, J., and B. J. Mason, Electric charge transfer associated with temperature gradients in ice, Proc. R. Soc., Ser. A, 260, 523-536, 1961.
(入手はこちら[有料]http://rspa.royalsocietypublishing.org/content/260/1303/523.full.pdf)

 レーサムとメイソンは氷の中に温度傾斜があれば電位傾度が生ずることを実験と理論で明らかにした。氷の中ではH+とOH-イオンではH+の方が遙かに動きやすい。もちろん結晶格子の中でH+やOH-が実際に動いていくのではない。水素結合で並んでいる結晶中のH2OのHが隣のOと結合し直すことで、次々と格子欠陥の位置が隣の分子に伝播していき、あたかも動いていくように見えるのである。温度が高くなるとH+とOH-のイオン欠陥が増えてくる。そうすると欠陥の密度が少ない比較的低温側への拡散が起こる。その際、H+の方がより拡散しやすいために、温度勾配が存在すると、低温度側でH+の割合が、高温度側ではOH-の割合が増える
 この状態で、冷暖の境目で氷が分割されると、暖かい方が負に、冷たい方が正に荷電する。また、暖かい氷りと冷たい氷が接触・分離すると暖かい方が正に、冷たい方が正に荷電することになる。
 これは、それまでに知られていた観測・実験事実を、とても旨く説明する。今日の帯電理論の重要な要素となっている。

  

 上記以外にも様々な説があり、帯電メカニズムに関してはまさに百花繚乱で混乱を極めていたが、雷雲内部の温度・電荷分布の様子や雷雲の成長・降雨のメカニズムが明らかになるに連れて、また液相や氷相の物性論的な性質が解ってくるに連れて徐々に全体像が見えてきた。その集大成が次に述べる高橋説である。

)現在有力な電荷分離理論

 高橋劭(つとむ)氏の説(1978年)は、多くの先人の業績に支えられているが、今日最も説得力がある説と考えられている。
Takahashi, T., Riming electrification as a charge generation mechanism in thunderstorms, J. Atmos. Sci., 35, 1536-1548, 1978.
(この論文の入手はこちら http://ams.allenpress.com/archive/1520-0469/35/8/pdf/i1520-0469-35-8-1536.pdf)

.実験装置と結果

 高橋は低温室内に、直径80cm、高さ150cmの円筒形風洞を作り、これを積乱雲と見立てた。この中に長さ11cmの棒の両端にクロムメッキした長さ4cm直径3mmの真鍮棒(着氷棒)を取り付けて回転させた。回転する真鍮棒に着氷させて霰の替わりをさせるのである。そして、円筒内に供給した水蒸気によって雲水量を調整し、更に円筒内にドライアイスを置いて氷晶を生成させた。円筒内に電荷発生に必要な霰(着氷棒)、氷晶、過冷却水滴を共存させた実験を行い、三者が共存するとき霰(着氷棒)は強く帯電することを確かめた。


 上図の装置で、風洞内の温度と雲水量を様々に変えて測定し、帯電する電荷の量と符号を調べて下図の結果を得た。

 温度が-10℃よりも暖かい場合には着氷棒球は正に帯電した。温度が-10℃よりも低い場合には、雲水量が非常に多いときと非常に少ないときは正に帯電したが、雲水量が0.1〜5g/m3の範囲では負に帯電した。
 ここで雲水量は空気1m3の堆積中の水滴および氷晶の合計質量で表してある。ちなみに雷雲中の雲水量の観測値は普通1〜10g/m3程度である。

.電荷分離メカニズム

 高橋はこの結果を次のメカニズムで説明した。上図は霰の表層の状況により下図のようなA、B、C、Dの四領域に分けられる。

それぞれの領域で

  1.  気温が低く、雲水量が少ない領域では、霰表面の氷相は脆弱である。そのため、氷晶が霰と衝突・分離するときに霰表面の霜の枝先が破壊される。このとき破壊点にプロトンと負の格子欠陥が形成される。そのとき着氷時の潜熱で霜の先の方が高温で霰側は低温となっているので、破壊点では高温側から低温側にプロトンが移動し、高温側に負電荷が残る。そのため霰は負に帯電する。

    Takahashi, T., Electric potential of a rubbed ice surface, J. Atmos. Sci., 26, 1259-1265, 1969. (http://ams.allenpress.com/archive/1520-0469/26/6/pdf/i1520-0469-26-6-1259.pdf)
    Takahashi, T., Electric chage generation by breaking of frost under a temperature gradient, J.Meteor.Soc.Japan,47,22-28,1969
  2.  気温は低く雲水量が中程度の場合、霰表面は堅固な氷相となる。氷晶が霰と衝突・分離するときに、冷たい氷晶と潜熱で温かい着氷表面の接触では冷たい方が正に、温かい方が負になる。
     また衝突のエネルギーで衝突点にイオン格子欠陥(要するにプロトンと負電荷が生じる)が形成される。そのとき着氷時の潜熱で比較的高温の霰と、低温の氷晶が接触するので、高温側から低温側へプロトンが拡散する。その為負電荷が残った霰は負に帯電する。

    Takahashi, T., Electric chage generation by breaking of ice piece, J.Meteor.Soc.Japan,40,277-286,1962
    Takahashi, T., Electric charge separation during ice deformation and fracture under a temperature gradient, J. Phys. Chem., 87, 4122-4124, 1983.
  3.  雲水量が多い場合、着氷した過冷却水が作る霰表面に水の膜が生じる。水の中では氷層よりもイオン解離しやすくH+とOH-イオンがより多く形成される。H+イオンの方が氷相へ拡散しやすく、水膜中にはOH-イオンが残りやすい。氷晶が霰に衝突・分離するときOH-に富む表層水に濡れて運び去る。そのため霰が正に帯電する。

    Takahashi, T., Electric potential of liquid water on an ice surface, J. Atmos. Sci., 26, 1253-1258, 1969. (http://ams.allenpress.com/archive/1520-0469/27/3/pdf/i1520-0469-27-3-453.pdf)
    Takahashi, T., The role of liquid water on ice in riming electrification basic experiment in thunderstorm electrification, J.Meteor.Soc.Japan,63,262-266,1985
  4.  気温は温かく雲水量が少ない場合、より稠密な霜が付着した霰表面となり、熱の伝導がよくなり、表面の温度勾配は小さくなる。そのためBのメカニズムは働かなくなる。そのとき雲水量がより大きくなると、Cのメカニズムの水膜の厚さがより増大する。そのため気温-5℃、雲水量0.5g/m3の付近で霰の正電荷が強まる。

 高橋理論は、実際に観測される雷雲の雲水量(これはおよそ0.1〜5g/m3の中にある)においては、着氷による霰の電荷符号が、気温-10℃を境にして、反転する事を明示したところに特徴がある。そして-10℃以下の領域では、雲水量の多少により、正にも負にも帯電することを示して、それまでの帯電符号についての多くの混乱を解決した。これは、あくまで室内実験でのモデルであるが、高橋は次に、これを雷雲モデルに当てはめて、数値実験による検証をした。

)雷雲モデルの検証

Takahashi, T., Thunderstorm electrification-A numerical study, J. Atmos. Sci., 41, 2541-2558, 1984.
(この論文の入手はこちら http://ams.allenpress.com/archive/1520-0469/41/17/pdf/i1520-0469-41-17-2541.pdf)
 彼は、下図の大気状態の初期値を用いて数値計算をした。この初期値は雷雲の発生・発達に適した、温度低減率分布と湿度分布である。

 計算結果は次のように要約される。雷雲の発達期では雲頂(-30℃付近)で負の霰と正の氷晶とで電荷分離が生じ、この間に第一の放電が起こる(下左図)。そして成熟期になると下層(-10℃以下の領域)でさらに強い電荷分離が起きる。この温度領域の霰は正に氷晶は負に帯電する。この時期には上層から落下してくる霰(負)と下層から吹き上げられてくる氷晶(負)のために-10℃領域に強い負電荷の集積が起こる。このためあたかも負電荷が-10℃層に止まっているように見える。第二の放電はこの負電荷と下層の正電荷の間で起こる。そして成熟期初期に雷雲の三極構造が形成される(下右図)。成熟期に入ると、雷雲下には強い降雨が生じる。また、地表では強い下向きの電場が発生し頻繁に地上との放電(落雷)が発生する。

 下左図は高橋理論から導かれる成熟期の雷雲のモデル図。下右図は数値計算による各種要素の時間的変化を示している。実線は電界強度が最も大きな地点高度の時間的推移(数値はその強度)を示し、雷放電が起こる電界強度(3.4kV/cm)を超えた部分は太線になっている。点線はレーダーエコー(霰や雨滴)の最大地点高度の時間的推移(数値はその強度)を示す。下方の二曲線は地上の降水強度(点線)と、地表の電界強度(一点鎖線)の時間的変化を示している。

 この数値実験結果は、多くの観測結果と極めて良い一致を示した。特に4.(4)で述べた三つの疑問点に対しても明快な解答を与ており、理論の正当性が裏付けられている。

  

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6.落雷

 雷放電は[雲と地上の間]、[雲と雲の間]、[雲と高層大気の間]に生じる。その中で、我々が最も興味あるのは雲と地上の間の放電(落雷)であるので、そこを中心に説明する。

)雲と地上の間の放電(落雷)

.回転カメラ

 落雷の研究手段で最も有効な手法は落雷の電光を写真に撮ってみることである。ただし落雷は非常に速い現象なので、その詳細を調べるには、その時間的変化を捉える工夫が必要である。その工夫が回転カメラである。これは、カメラを回転させたり、レンズを回転させたり、あるいはフィルムを回転させたりして、電光に対するレンズとフィルムの相対的位置が時間的に変わるようにして、電光の進行方向、速度、あるいはその繰り返しの様子を見るものである。

 最初に回転カメラを利用したのはドイツのワルターである。ワルターの写真機は三脚の上に時計仕掛けで回る台を取り付け、その上に乾板を入れた写真機を載せたものである(下左図)。レンズを解放にして時計仕掛けで回転させ続けておくという簡単なものである。簡単ではあるが、カメラが探査中の視野内に落雷が起こる機会は滅多に無いので、非常に根気のいる観測が必要であった。
 下右図はワルターが撮った同一の落雷の静止カメラと回転カメラによる写真である。静止カメラに写った二股に分かれた落雷も、回転カメラによると幾つもの落雷が重なったものであることが解る。最初に右側枝の落雷があって、次に左枝経路の落雷が5回続けて起こっている。しかも左側経路の3本目のものは放電後に残光があり光が尾を引いている。ワルターはこの現象を、主放電が通った後に雲の中にまだ残っている電気が、その道を通って徐々に放電するために残光の様に見えるのだと説明した。

 その後、イギリスのボイス(Boys,C.V.)が新しい原理の回転カメラを作った(1926年下左図)。カメラの前に二つのレンズを付けて回転するようにしたものである。このカメラは、後に南アフリカのションランド(Schonland,B.F.J.)が電光放電に伴う大気電場の急変化のオシログラフによる観測と併用して、階段型前駆放電の構造を明らかにしたので大変有名になった。

 このカメラで撮った写真を解析すると、雷光の伸びていく方向や、その速度が測定できる。それは次のような原理である(上右図)。1本の雷光が第1のレンズによってabcdの形に、第2のレンズによりa'b'c'd'の形に写る。雷光がある速度を持ってaからdに伸びるものならば、a'b'c'd'をabcdの位置に平行移動するとa"b"c"d"のようにずれてしまうであろう(上右図)。aとa"を一致させてもdとd"は末広がり広がる。このとき、レンズを付けた板の回転速度が解っているので、像が動く速さvを計算できる。そうすると(弧長bb")を(2v)で割った値が、雷光がaからbまで伸びるのに要した時間になる。aからcまで伸びる時間は(弧長cc"/2v)となる。以下同様である。このようにして雷光が伸びて行く方向とその速さが解る。以下の写真はションランドが写したものの一例である。

 ションランドとその共同研究者は、南アフリカ(ヨハネスブルグ)でボイスカメラとオシログラフ(電場の変化を記録)を用いて雷光放電の詳細な研究を行った。次図は、その観測結果から得られた落雷のモデル図である。

(a)は静止カメラ像、(b)は同じ雷光のボイスカメラによる像を水平な時間軸に引き直して描いたもので、雲底高度2kmの典型的な雷撃の時間経過を示している。(c)、(d)はオシロスコープによる電界強度の時間的変化の記録である。

 回転カメラとしては、上記以外にレンズを静止させてフィルムを回転させるもの(ボイス1929年)やレンズを通った光をプリズムで曲げ、回転円筒内の内面に貼り付けたフィルム上に像を結ばせるもの(ワークマン等1936年)や10台のカメラを垂直軸のまわりに36度の角度変化を付けて均等に配置し高速回転(5回/s)させるもの(中谷、吉田1941年)など様々な工夫が施されたものが開発され観測に用いられた。

.落雷の詳細

回転カメラの画像解析や電磁波測定の研究などから解った事柄を以下に列挙する。

  1. 落雷は長さ数kmにわたり、時間的には0.5s程度の現象である。静止カメラで一つの閃光(flash)に見える落雷も、回転カメラで見ると多数の放電(stroke)から成ることが解る。
  2. 個々の放電を雷撃(stroke)という。一つの雷撃は、雲から地面に向かってストリーマー(細長い導電性の放電路Streamer)の伸びる前駆放電(leader)と、これが地面に近づいた瞬間、同じ経路を戻って地表から雲に向かって上昇する帰還雷撃(return stroke)から成り立つ。雷撃と雷撃との間隔は通常30〜40ms程度である。引き続いて起こる雷撃をまとめたものを閃光(flash)と呼ぶ。ごく近所の電光を静止カメラで撮った写真から判断して、ストリーマーの太さはせいぜい15cm程度以下であることが解っている。
  3. 第一雷撃の前駆放電は第二以後の前駆放電とは著しく異なる。第一前駆放電では光の弱い火球が雲底から落りてくるが約20〜50m程度進んで平均50μs程度停止して消滅する。そして、再び雲の根元から光球が出てきて前の火球が止まった位置よりさらに20〜50m程度先まで下り、やはり50μs停止して消滅する。以下同様な手順を繰り返して火球が地表に達するまで階段的に進行するのでこれを階段型前駆放電(stepped leader)と言う。その様にして光の弱い火球が地表に近づくと、今度は光の強い火球が地面から雲に向かって登っていく帰還雷撃が生じる。
  4. 階段前駆が地面から100mくらい以内に届くと、地面から放電が上がって出迎える場合ある。特に地上に尖端の尖った建物などがあると起こりやすい。
  5. 第二雷撃以降の前駆放電には階段状の放電は見られない。長さ約40m程度の細長い光の紐があたかも火矢が飛んでいくように地表に向かって進行する放電が1回起こるのみである(矢型前駆放電(dart leader))。その火矢が地面に到達すると、光の強い火球が地面から雲に向かって登って第二の帰還雷撃となる。以下はその繰り返しである。
  6. 各放電において光球が進む速度と持続時間は
    放電過程  平均的な進行速度(m/s) 持続時間(s) 
    階段型前駆放電 一本の段階前駆の尖端が進む速さ 5×107 1〜2×10-2 
    継続する尖端の進む速さ 4×105
    矢型前駆放電 1×107 1〜2×10-3 
    帰還雷撃 2〜5×107 6×10-5 
    程度である。一本の階段前駆放電あるいは帰還雷撃の成長速度は光速度の1/6程度である。
  7. 多くの落雷の統計をとると、その内の10%程度は単発の雷撃で終わり、90%は2回以上の雷撃が生じる多重雷撃型である。そのうちの10%程度は10個以上の雷撃を含み、特に回数の多いものでは20回を越えるものもある。
  8. 放電経路の分岐は第一雷撃だけに見られ、第二雷撃以降には普通見られない。そのとき光の強い普通の目で見る枝は、第一閃光の帰還雷撃に伴うものであり階段前駆放電の枝別れではない事に注意。つまり第一帰還雷撃で火球が地上から階段前駆放電でできた枝分かれの場所まで登ったとき、幹をそのまま登って雲に達するものと、枝に沿って下るものに分かれるのである。そして枝に沿って下る火球は枝の尖端まで行くと、そこで消滅する。
  9. ただし、第一の階段前駆放電の尖端の二本の枝がほとんど同時に地面に着く場合がある。その場合には、第一の帰還雷撃が通った枝ではなくて、もう一方の枝を第二雷撃の矢型前駆放電が走る場合がある。そうすると第二の帰還雷撃は最初とは別の枝を通って雲へ向かうことになり、第一の閃光と第二の閃光が別の枝で光ることになる。 

.落雷のメカニズム

 2.で述べたような多くの観測結果から、落雷のメカニズムは以下の様なものであると考えられている。ここではでは最も典型的な、雷雲に帯電した部分の負電荷と、その下の地面に静電誘導で誘起された電荷の間で生じる落雷(負極性落雷)について説明する。そのとき次の点に注意。

 普通の空気の耐電圧は1cmあたり1〜3万V程度である。これを雲と地面の間の距離例えば2000mに当てはめると2〜6×109V=数十億Vとなる。しかし実際の落雷時の大気電界強度や雷雲の電気量から推察すると雷雲と地表との電位差はせいぜい1〜2億V程度である。だから実際に放電が起こるためには特殊なメカニズムが必要になる。

第一雷撃

  1. 雷雲下層に負の電荷が集積してくると、電子が電界により加速され、分子と衝突しその衝突により分子を電離して新たな電子を生み出す。この電子雪崩が雷雲下の空間に生じる。
  2. リーダとは局所的な絶縁破壊であり、電流の進展であるが、絶縁破壊を連続的に引き起こすにはリーダの尖端が常に十分な電荷を保持して、その場所に高電界が存在する必要がある。しかし、雷雲は完全な導体ではないので、リーダ尖端の進展に追随するほど急速には電荷の補給ができない。その結果、数十mリーダが進んだ直後にはリーダ尖端の電界が弱くなり、電荷の供給を待つ必要が生じる。これがリーダが間欠的にステップを踏んで進展する理由であろう。
  3. その様にステップを踏んで尖端が大地に達したときに、その経路に沿って細長い導電性の放電路が形成される。この放電路のことをストリーマー(Streamer)と呼ぶ。その太さはせいぜい15cm程度以下だと考えられている。このストリーマーの中は負電荷(電子)で満たされており、また空気がイオン化された導電性の高い状態である。ストリーマー中の全電気量は数〜20C(平均5C)程度と考えられている。
  4. リーダの尖端が地面に達すると、ストリーマーの地面に近い部分の電子が地表の正電荷の方へ一気に流れ込み地表の正電荷と中和する。そのとき電子はものすごい勢いで下方へ移動するので、その場所にさらなるイオン化が起こり、新たに大量の正イオンと自由電子を発生させる。新たに発生した自由電子も地表に流れ込むため、最初ストリーマーの中に存在していた負電荷以上の負電荷が下方へ移動することになる。そのためストリーマの地面に近い部分には正イオン分子の塊が残ることになる。
  5. 地上付近のストリーマー中に生じた正電荷イオンの塊に引き寄せられて、そのすぐ上の部分のストリーマー中の負電荷(自由電子)が下方へ移動する。そのとき、先ほどと同じ現象が起こり、新たな正電気が少し上のストリーマー中に生じる。これが更に上部のストリーマー中の負電荷を下に移動させる。(これで帰還雷撃の枝分かれ場所での振る舞いも旨く説明できる)
  6. つまり、新たに電離した正電荷のイオン分子・原子はその場所にとどまるが、次々にそのすぐ上の自由電子により中和されていくので、あたかも正電荷の塊がストリーマーの中を雷雲に向かって移動していくように見える。まさにその部分が電子の急激な移動により激しいイオン化が生じている部分で、強い光を発しながらストリーマー中を駆け上っていく。これが帰還雷撃である。そのときストリーマー中の空気は急激に熱せられ発光・膨張して稲妻と雷鳴を生じる。
     最近の時間と空間分解能の高い観測によると、帰還雷撃の光パルスは広がり減衰しながら上昇しているようで、一番明るい部分の上昇速度は光速の1/3〜1/6程度であるが、その先端部はほぼ光速で上昇しているようである。この当たりは、雷撃はRLC伝送線を伝わる電気的な波動であり、伝送線中のCの電荷を次々と放電しながら進展すると考えればうなずける。
  7. 帰還雷撃電流(あたかも正電荷が駆け上っていくように見える)は雲中のリーダの出発点に到達して、その当たりの負電荷を中和してその役目を終わる。
  8. そのとき、ストリーマー中の負電荷は中和されるが、激しいイオン化が起こった直後であるから、ストリーマーの中は正電荷イオンと負電荷の自由電子が大量に存在する高温のプラズマ状態である。これが後続雷撃の矢形前駆放電の放電路となる。

一つの電撃で移動する電気量は1〜20C(平均5C)程度で、ピーク時の電流値は10000A程度と見積もられている。

第二、第三の後続雷撃

 マランとションランドは回転集電器の原理を使った時間分解能の極めて高い装置を開発し、これを用いて落雷による電場変化の正確な記録を行った。雷撃点から4kmおよび15kmの距離で観測したものを、ボイスカメラの像と対比して雷撃と雷撃の間でも穏やかに電場変化が起こり、雲の中では放電が進んでいる事を示した。彼らはこのことから雷撃と雷撃の間では、雲の中で正電荷が上方に移動するような放電が起きていて、この放電が起きる領域は雷撃回数がすすむに従って次々と高いところに移ると考えた。(下図参照)

Malan, D. J., and B. F. J. Schonland, The electrical processes in the intervals between the strokes of a lightning discharge, Proc. R. Soc., Ser. A, 206, 145-163, 1951.
Malan, D. J., and B. F. J. Schonland, The distribution of electricity in thunderclouds, Proc. R. Soc., Ser. A, 209, 158-177, 1951.

  1. 図の1〜4の部分に負電荷があり、1の部分が多くなると地表面との間の電場が強くなり階段前駆が出発する。階段前駆は1の部分の負電荷を通過した路に分布させながら進行する。ステップトリーダ(b)
  2. 前駆放電が地表面に達すると放電路中の負電荷は地表面の正電荷によって下から急激に中和され、急速な帰還雷撃の上昇が起こる。そして帰還雷撃の先端部は1付近の負電荷を中和する。(c)
  3. 帰還雷撃の先端部と2の負領域との間の電場が増大して、放電路の上端から正のストリーマーが上方の負電荷領域に伸びる(d)。これを彼らは結合ストリーマー(Junction streamer)と名付けた。このストリーマーは正極性のためステップを踏むことなく、多数に分岐して連続的に発進し負電荷領域に導電網を形成する。(d)
  4. 導電網により集められた負電荷が一定量に達すると、導電網の出発点から地表に向かってダートリーダが発進する。正ストリーマーによる導電網の形成時間が雷撃と雷撃の間隔(30〜40ms)と考えられる。このとき、先行の帰還雷撃が形成した放電路はイオン化電離による導電性をまだ維持しているのでリーダーはステップトリーダの降下速度の10倍の速さで降下しダートリーダーとなり、放電路に負電荷を分布させる。(e)
  5. ダートリーダーが地面に届くと、前と同じく帰還雷撃を生じ、続いて結合ストリーマーが負電荷領域3の部分へ侵入する。(f)以下同様な過程を繰り返す。

 その後Krehbiel(1979年)やProctor(1988年)は、時間分解能の高い装置を多地点に配置して電磁界の同時観測を実施して電荷が中和される領域の三次元的な位置を測定した。その結果によると、電荷が次々と中和される領域は、上方向のみならず水平方向にも広がっていくようである。

.連続放電とK過程

 回転カメラなどによると、帰還雷撃のきわめて明るい発光に引き続き、放電路が弱い発光を継続(1〜200ms)することがしばしば観測される。継続的な発光は連続的な電流(100〜300A)によるもので、前記の結合ストリーマーが進展することによりこの電流(上向き)を維持しているものと考えられている。雲と地上の雷の内90%が多重雷撃型であるが、その50%に連続放電が含まれる。連続電流は電流値こそ100A程度であるが、長く続くので、連続雷を含む落雷の中和電気量は含まないもの(20C程度)よりも多くて35C程度となる。以下の図はそれらの観測例である。

 この継続発光中に放電路の発光が1〜2ms強まる現象(Mコンポーネント[M-component]と呼ばれる)が混じる場合もある。また時間分解能の高いアンテナによる電界変化を観測すると雷撃間に、振幅が帰還雷撃の1/10以下で持続時間が1〜2msの電界変化(K過程[K-process]と呼ばれる)が多数発生していることが観測される。これも1〜2ms継続する全放電路の弱い発光を伴っている。これらの現象は上記の結合ストリーマーが進展する過程で負電荷の濃密部に出会ったとき放電が強化され電界変化や発光を起こすのではないかと考えられている。特にK過程が連続電流の発光中に起こればMコンポーネントとして更に明るく観測されるのであろう。

.その他の落雷

 落雷の中には、雷雲下方のポケット状の正電荷や、雷雲上部の正電荷と地上の負電荷との中和による落雷もある。夏季の落雷の場合、全落雷の内90%が負極性(雲が負、大地が正の中和)で、10%が正極性(雲が正、大地が負)である。

 冬の北陸地方で起きる落雷正極性落雷の割合が高い(30〜50%以上)ことが知られている。また冬季の北陸地方の落雷は多重雷の割合が少なく、それにもかかわらず連続電流を含む落雷の比率が高い事が報告されている。
 冬季の北陸地方ではシベリアからの冷たい気流が暖かい日本海の上を通過する際に寒冷前線が発達し、前線付近で上昇気流が起こり雷が発生する。しかし上昇気流は夏ほどは強くないために負電荷を担う下部の霰(アラレ)が短時間で落下してしまい、上部の正電荷の氷晶だけが残る。この正電荷とそれによって地表に誘導された負電荷との中和で正極性落雷が起こりやすくなると考えられている。

 落雷の中には、高い建造物から上向き放電で開始するものもある。これらは冬季の北陸の雷雲の様に雲底が大地に近くて大地付近に強い電場が生じる場合や、特に高い高層建築物などのために建物の先端部に強い電場が生じる場合に起こりやすくなるようである。
 中でもマックイークロンが1937年に行ったニューヨークのエンパイアステートビルへの落雷の研究は有名である。彼はエンパイアステートビルへの落雷電流を直接オシログラフで観察すると同時に、付近のビルに据え付けたボイスカメラで電光の観測を行った。その結果つぎのようなことが解った。
 観測された落雷は、すべて負極性(雲が負、地面が正)であった。雷撃はエンパイアステートビルから雲に向かう上昇階段型前駆放電で始まることが多かった。階段型前駆が雲に届いても帰還雷撃は起こさず100A程度の連続電流となる場合が多かった。またこの連続電流の終結後雲から矢形前駆がビルに届いて帰還電撃に相当する10000A程度の衝撃電流を生じる場合もあった。第一の先駆放電に関しては、階段型以外に矢形前駆もあった。また電光の枝分かれが非常に少ない特徴があった。そして上向きの前駆放電に枝が出るときには上向きに出て、下向きの先駆放電には枝分かれが一つも見られなかった。この観察で特に重要なのは、階段型前駆放電には正極から出るものもあることと、正極から出る前駆放電も負極からのものと同じように反対電荷に向かって枝分かれをするということである。

 上記以外にも中和電気量が100〜300C(ピーク電流は20万Aを越える)に達し、非常に光が強いスーパーボルトといわれる雷や、放電路が数km以上にわたって水平に伸びた後に地上に落ちる落雷など、まだそのメカニズムがよく解っていない落雷が色々見つかっている。落雷は場所や季節により、その様相が変わり様々なバリエーションがあることも解っている。

.雷鳴

 雷鳴についての幾つかの体験談によると、落雷のごく近く数十メートルの近距離では音の体を成しておらず「ピシッ」と言う鋭い衝撃音を聞くだけ、また500m程度の位置では落雷に伴う異常音を聞くだけのようである。
 「ゴロゴロ、ガラガラ」という雷鳴になるのは数km以上離れてからのようである。また雷鳴の聞こえる限界は15km(電光の約45秒後)〜20km(約1分後)程度でそれ以上ではパッパッと明るくなる幕電が見えるだけである。
 雷撃は瞬間的な現象(0.5s程度)なのに何故「ゴロゴロガラガラ」という音になるのであろうか。それは、音が異なった音速の空気塊の中を様々な経路で通過してくるからであろうと考えられている。音の到達時間に差が出る理由としては

などが考えられる。

)雲と雲の間の放電

 雷雲中の[雲と雲の間]の放電は、5.(3)で述べた雷雲中の異符号領域間で起こる。雲内放電は回転カメラによる観察ができないため、その解明が遅れたが、北川やブルック等の研究(1960年)からその様子が分かってきた。電場記録と電場の時間微分記録から、正負のリーダ型の放電、K過程と連続電流の組み合わせからなるようである。そして比較的に振幅・直流成分が大きく中和電荷量が多い(2C程度)K過程を含むことが、雲内放電の特徴であるようだ。

)雲と高層大気の間の放電

 落雷に伴って成層圏より上に発光現象が存在することはかなり早く(Toynbee等1886年)から知られていたが、雷雲と高層大気の間の放電について全体が明らかになったのは最近の事である。飛行機や人工衛星の観測や、その後の地上からの観測から、発光放電には次の様な種類が見つかっている。

1.ブルージェット(Blue Jet)
積乱雲上端から高度40〜50kmまでの成層圏で上方に開いた円錐ビーム状に発光する。青色で発光時間は約250ms程度である。雷雲の最も対流現象の激しい部分の上部に発生するといわれており、上向きの伝播速度は100km/s程度。
2.レッドスプライト(Red Sprite 赤い妖精)
中間圏の高度50〜90kmで発光する。多数の円柱が並んだ形やクラゲのような形など様々な形態があり、25〜50km程度の広がりを持つ。赤色で発光時間は5〜300ms程度。多くが正極性落雷の際に出現する。
3.エルブス(Elves)
中間圏上部から下部熱圏・電離圏の高度90〜100km付近で発光する。直径100〜300kmにも達する円盤状の巨大な発光現象。赤色で、1ms以下の非常に短い時間発光する。巨大な落雷(900000A以上)のとき出現しやすい。
4.巨大ジェット(Gigantic Jet)
ブルージェットとスプライトを合わせたような巨大なジェトで成層圏から中間圏にわたる。

しかし、これらの現象のメカニズムの詳細についてはよく解っていない。

実教出版社の下記URLに高校教諭の武田康夫氏が撮影されたスプライトやエルプスの写真がありますのでご覧下さい。
http://www.jikkyo.co.jp/download/detail/45/3314177159

  

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7.雷対策

最後に落雷事故とその対策を述べる。まず落雷事故の調査から以下の事が判明している。

安全対策

  

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8.参考文献

 このページの記述は以下の本に依存している。図もこれらの本から引用しました。このHPを作るに当たって昔読んだ本を引っ張り出して読み直している内に、雷の科学の面白さに改めて引き込まれてしまいました。(^^;)

1.ファインマン、レイトン、サンズ 著 「ファインマン物理学V電磁気学」 岩波書店(1969年) 第9章空中電気
  最初に読むと概要を知ることができる。

2.中谷宇吉郎 著 「雷」 岩波新書(1939年)
  古い本ですが、自然科学の探究とはいかにして成されるのか興味深く解説されている。
  シンプソンとウイルソンの有名な説もその経過が詳しく紹介されている。

3.孫野長治 著 「雲と雷の科学」NHKブックス 日本放送出版協会(1969年)
  広範囲にわたって詳しく解説してあり、とても面白い。特に第三章「飽和しても雲はできない」、第四章「雲はあっても雨はふらない」は必読。高校地学では普通ここの所は教えないので。また第八章「雷雲の電気」、第十一章「雲内の電気発生」の後半部には高橋説に至る前段階の詳しい説明があり、とても興味深い。

4.畠山久尚 著「雷の科学」河出書房新社(1970年)
  3.とほぼ同レベルの本だが、雷雲の実態や落雷についてより詳しい。

5.北原信一郎 編著 「大気電気学」 東海大学出版会(1996年)
  解説の多くを利用させてもらいました。又この本から多くの図を引用しています。

6.高橋劭(つとむ)著「雷雲の電荷発生機構」SUT BULLETIN 6(1994)P3-8
  高橋劭 著「雲の物理」東京堂出版(1987年)の13章
  これらは、高橋氏自身の解説文。以下はその源論分
Takahashi, T., Riming electrification as a charge generation mechanism in thunderstorms, J. Atmos. Sci., 35, 1536-1548, 1978.
(この論文の入手はこちら http://ams.allenpress.com/archive/1520-0469/35/8/pdf/i1520-0469-35-8-1536.pdf)
Takahashi, T., Thunderstorm electrification-A numerical study, J. Atmos. Sci., 41, 2541-2558, 1984.
(この論文の入手はこちら http://ams.allenpress.com/archive/1520-0469/41/17/pdf/i1520-0469-41-17-2541.pdf)

7.菊地勝弘 著 「雪と雷の世界」成山堂(2009年)
 高橋氏と同じく、孫野研究室の出身者である菊地氏の最近の解説本。文献3.にも沢山名前が出てくる。

8.武田喬男 著「雨の科学」-雲をつかむ話し-成山堂(2005年)
  積乱雲の生涯や集中豪雨について詳しい。

9.日本大気電気学会編「大気電気学概論」コロナ社(2003年)
  大気電気学のすべての分野にわたる概論。値段が高いのですが手元に置いておきたい本です。

今日、インターネットのおかげで、源論文そのものか、その要約を見ることができる。興味のある人は検索サイトで探してみてください。

2009年12月追記
 2009年11月に、日本の雷研究第一人者高橋劭先生の著作「雷の科学」東京大学出版会が発刊されました。この本にすべてが説明されていますので読まれることを薦めます。この本が出版されることを知っていたら、おそらくこのページを作ることはなかったでしょう。

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