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ダイオード と トランジスター

 ダイオードとトランジスターの話は高校物理の電気の所に少しだけ出てきますが、その作動原理が今ひとつ説明不足です。不足するところを高校レベルで説明します。

1.ダイオード(diode)の整流作用

diodeとは「2本の端子を持つ回路素子」のことです。

(1)不純物半導体

 P形半導体中の正孔(ホール)も、N形半導体中の結合に預からない電子も不純物原子に緩く拘束されていて勝手に逃げていくことはできない事に注意。だから普通の状態では陰イオン、陽イオンとなった不純物原子と正孔や電子が対になっていて半導体自身は中性の状態を保っている。

P形、N形の半導体を接合すると拡散効果により接合面に電位の障壁ができる。その当たりを次で説明する。

(2)PN接合の電荷、電界、電位の分布

PN接合の半導体中の電荷分布、電界強度分布、電位の分布は下図のようになる。

上図の分布を理解する鍵は、平行板コンデンサーのつくる電界と電位である。
高校物理で習うように

となることから理解できる。
 電荷の分布が空間的な広がりを持つ場合は下図のように平行板コンデンサーを重ねて分布させ、おのおのの平行板コンデンサーが作る電界を重ねあわせればよい。

(3)ダイオードの整流作用

 PN結合のダイオードの両端に電圧をかけると何が起こるか見てみよう。
 いま真性半導体を構成するSi元素は無視して不純物のインジウムIn、リンP原子から正孔や結合に預からない電子を取り除いたIn、Pを丸の−や丸の+で表し正孔や余分な電子を+のシートや−のシートで表す。

1.電圧をかけないとき

2.逆方向へ電圧をかける

3.順方向に電圧をかける

以上をまとめるとPN接合ダイオードの電流電圧特性は下図のようになる。

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2.トランジスター(transistor)の増幅作用

(1)トランジスターとは

 トランジスター(transistor)とは transfer of signals through varistor からの造語で、varistor とは「加えた電圧により抵抗値の変わる回路素子」のことである。
 動作機構には,多数キャリヤーと少数キャリヤーの両方が流れて増幅作用を生じるバイポーラートランジスター(bipolar transistor)と,多数キャリヤーだけの流れで動作するユニポーラートランジスター(unipolar transistor)とがある。前者を単にトランジスター,後者を電界効果トランジスターということが多い.
 接合型バイポーラートランジスターは下図のようにPNPまたはNPN接合構造をもつ。P(positive)はキャリヤーが正孔,N(negative)はキャリヤーが電子である領域をいう。3つの領域に付いている3電極はエミッター,ベース,コレクターと呼ばれ emitter(放出するもの)、base(基礎)、collector(集めるもの)から来ている。

右側の図中の矢印はp→n、すなわちエミッター・ベース接合の順方向を表している。

(2)トランジスターの働き

 ここでは基礎的な接合型バイポーラトランジスターのPNP型で説明する。PNP型を用いたのは正孔の流れる方向が電流の流れる方向と一致するので理解しやすいからだが、本質はNPN型でも同じである。
 接合型バイポーラトランジスターはダイオードを2つ接合した形をしているが、根本的な違いはベースにおける拡散過程にある。そこで増幅作用が発生するのだが、その動作を可能にするのが以下の設定である。

  1. エミッタP形不純物濃度>>ベースN形不純物コレクターP形不純物濃度。
  2. キャリアーの拡散による移動をたやすくするためにベースの幅を薄くする。

ベース→エミッター間に順方向の電圧、ベース→コレクター間に逆方向電圧をかけると、ダイオードの場合と同様のメカニズムにより空乏層の幅が変化する。

常温ではP形中のホールの密度はアクセプター不純物(Ga、Inなど)とほぼ等しく、N形中の自由電子の密度はドナー不純物(P、Asなど)とほぼ等しい。こういった状態で上記の電圧をかけると

 ベース領域には電界はかかっていないが、ベース幅がきわめて薄いことと注入される正孔の濃度が圧倒的多数であるため拡散効果により、ベースに流れ込んだホールは大多数がコレクター領域へ移動する。
 N形のベースに注入されたホールはN形の自由電子と結合して消滅するが、ベースの不純物濃度が小さくしてその割合を小さくする。また同じ理由によりべースからエミッターに流れる電子電流は小さい。
 そのため各端子を流れる電流比は例えば I:I:I=50:1:49 のような値になる。これは任意のIの値のときに成り立つので、もしIを1mAから1.1mAに変化させるとIは55mA、Iは53.9mAに変化することになる。つまりベース電流のΔI=0.1mAの変化が約50倍に増幅されてΔI=4.9mAの変化になるわけだ。これが電流が増幅されるメカニズムである。
 エミッター−ベース間の抵抗は50Ω程度だが、コレクター−ベース間の抵抗は1MΩ=105Ω程度である。ΔIはΔIとほぼ等しいので電圧の増幅率は2000倍になる。これが電圧が増幅されるメカニズムである。

 今後利用するのでエミッター−コレクター間の電流増幅率αを定義しておく。

今の例ではα=0.98となる。

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3.トランジスター回路

(1)ベース接地回路

 2.(2)で述べた接続の仕方をベース接地回路という。接地といってもアースにつなぐ意味ではなく入出力の共通電位として使う意味である。

 トランジスターの特性によりエミッター電流とほぼ等しいコレクター電流が流れる。エミッター電流が0のときコレクター電流とコレクター電圧の特性曲線はコレクター側NP接続をダイオードと見なしたときの逆電圧での特性と同じ。コレクター電流はベース領域を拡散してくるエミッター電流のみに依存する。つまりVBEのみに依存してVBCに依らない。そしてエミッター電流をVBEを調整して増やしていくとコレクター電流も増えていくがそのときコレクター電流はVBCが変化してもほとんど変化しない。ベースに対するコレクター電圧を横軸に、コレクター電流(トランジスターに流れ込む方向を正)を縦軸に取ると下図の特性図が得られる。

  1.  VBEはダイオードにおける順方向の接続なのでIはVBEの変化に応じて鋭敏に変動する。故に入力側からみたトランジスターの抵抗は非常に小さい(数十Ω)。特に次に述べるエミッター接地回路に比較しても数十分の一である。
     VBC を変化させても I はほとんど変化しない。これはコレクターはベースに対して逆方向に電圧をかけて用いるためで、出力側から見たトランジスターの抵抗値は非常に大きい(数百kΩ)ことになる。これはエミッターから注入されたホールが拡散によりベース領域を通過し、コレクター電圧で引っ張られるのではない事を表している。
  2.  前記1.のインピーダンス特性により、入力側回路が低インピーダンスで出力側回路が高インピーダンスの場合その間にベース接地回路トランジスターを配置してインピーダンスマッチングを取ることができる。つまりベース接地回路はインピーダンス変換器として用いられる。
  3. 電流増幅率α=ΔI/ΔI<1 だがほとんど1に近いα=0.95〜0.98で電流増幅作用はない。
  4. エミッター−ベース間の抵抗は順方向で50Ω程度、コレクター−べース間は逆方向で100kΩ程度。ΔI≒ΔIだからVBEの変動がVBCでは約2000倍に増幅される。( ΔVBE : ΔVBC ≒ 50Ω×ΔI : 100kΩ×ΔI

(2)エミッター接地回路

  1. エミッター接地電流増幅率 β は非常に大きな値になり電流増幅作用が大である。

    α≒0.98 とすると β≒49 (α≒0.95でβ≒20)
  2. 大きな電流増幅作用がある。出力側に適当な抵抗を設置することにより電流増幅作用を電圧増幅作用に変換することができる。エミッタ接地回路は様々な増幅回路に利用される。
  3.  この接続では入力電圧がベース接地回路と同じVEBでも入力電流Iは2桁ほど小さくなる(1/β倍に)ので、入力側から見たトランジスターの抵抗値がベース接地回路と比較すると数十倍大きくなった(数kΩ)ように見える。
     またIはVECに依存して変化するようになる。これは出力側から見たトランジスターの抵抗値がベース接地よりも小さくなる(数kΩ)ことを意味する。
     結局ベース接地回路と比較してΔI/ΔIが数十倍に、そして(出力抵抗)/(入力抵抗)が数十分の一になるので電圧増幅率ΔVEC / ΔVEBはベース接地の場合とほぼ同じである。
  4. ベース接地と比較して電圧増幅率はほぼ同じ、電流増幅率は数十倍大きいので電力増幅率はベース接地の数十倍になる。
  5. エミッタ接地回路の周波数特性はベース接地より悪い。それはエミッター接地の遮断周波数がベース接地の場合の約1/βになるためである。(説明は省略)

(3)コレクタ接地回路(エミッタホロワ回路)

 トランジスターの使い方には前記「ベース接地回路」「エミッタ接地回路」以外に「コレクタ接地回路」というものがある。これは下図のようなものである。

  1.  回路の形はエミッタ接地回路と似ているが、出力端子がコレクタではなくてエミッタになっている。そのためエミッタホロワ回路とも言われる。コレクタは接地されていないではないかという疑問を持つ人がいるかもしれないが、この回路でVECはコレクタに一定電圧を与える働きだけをしている。そして理想的な定電圧源の内部抵抗はゼロだから回路的にはコレクターが接地されているのと同じである。
  2.  この回路の本質は抵抗Rを通して出力を取り出すところにある。エミッタ−ベース間の抵抗は本来数十Ω程度であるが、500Ω程度のRを直列にいれると、入力側から見た交流抵抗(インピーダンス)は、その2つの抵抗値の和のβ倍になり非常に大きい。ここでβとは(3)エミッタ接地回路で述べた電流増幅率の事である。また出力側から見たインピーダンスはR程度でかなり小さい
     そのため高インピーダンスの入力側回路と低インピーダンスの出力側回路の間に配置してインピーダンスマッチングを取るのに利用できる。つまりこの回路はインピーダンス変換器となる。
  3.  回路の特性から明らかなように電圧増幅率は1よりやや小さいが、電流増幅率はエミッタ接地回路と同様にきわめて大きい。 この回路は、入力側からみた交流抵抗(インピーダンス)は高く、逆に出力側から見たインピーダンスは低いので、低インピーダンスの負荷にもインピーダンスマッチングが取れて、大きな電力を供給することができる。

(4)三つの基本回路の特徴

ベース接地回路 エミッタ接地回路 コレクタ接地回路
入力側から見たインピーダンス 低い(数十Ω) 中くらい(数kΩ) 高い(数十kΩ)
出力側から見たインピーダンス 高い(数百kΩ) 中くらい(数kΩ) 低い(数百Ω)
電流増幅率 1よりやや小さい 大きい(数十倍) 大きい(数十倍)
電圧増幅率 大きい(数百倍) 大きい(数百倍) 1よりやや小さい
電力増幅率 数百倍 数千倍 数十倍
入力と出力の位相 同相 反転 同相
周波数特性 良い 良くない 良い
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