レンズlensはラテン語の“ひらたい豆(lens)”に由来するのですが、ここではレンズ表面が球面で構成されるものを説明します。“球面レンズ”を取り上げるのは、こちらの引用ページで説明されているように、表面を球面に研磨するのが容易だからです。
レンズ制作の詳細は。こちらの引用ページを参照。この中のコーティングについてはこちらの別稿を参照。
光線rayはラテン語の“光線(radii)”に由来するが、ここでは、光線はレンズ中心軸に十分近い“近軸光線”とし、入射光線と光軸あるいは透過光線と光軸が成す角は十分小さい場合を取り上げます。それは光線が通過する球面部分の直径、つまり“レンズの口径が、球面の曲率半径Rに比べて十分に小さい”ことを意味します。
そして最初は“薄いレンズ”を説明します。これは、レンズの厚さが無視できて、“物体”とレンズあるいは“像”とレンズの距離が、単純にレンズ中心からの距離で測れることを意味します。また焦点距離もレンズ中心からの距離で表せます。
初等的なレンズ理論の基本は“近軸光線近似”と“薄いレンズの近似”ですが、それらの近似を外すとどうなるかも説明します。
第5章と第6章で“薄いレンズの近似”を外した理論を説明します。厚さの制限を取り除くと、新たに主点(主平面)の概念が必要となります。
さらに第7章で“近軸光線近似”も外した理論を説明します。近軸光線の制限を取り除くとレンズ表面が球面であることに由来する球面収差が現れてきます。そして“主平面”は曲面に成ります。
最後の7.(2)で球面収差を軽減する方法を説明します。
ここでプリズムのガラス屈折率をn、周囲の空気屈折率を1としている。
ただし、レンズのガラス屈折率をn、周囲の空気屈折率を1としている。図中の1/a+1/b=1/f の関係式は高校物理で習うが、この式の意味については、6.(3)3.を参照されたし。
もっと簡単な説明はこちらを参照されたし。
前記(1)節の透過光がさらに右側の球面により屈折すると考える。
ここでは、レンズのガラス屈折率をn’、周囲の空気屈折率をnとしている。
上記の結論は、符号に注意すれば下記の様な凸凹レンズの公式として使えます。
そうするには符号についての考察が必要です。そのため“ガウスの公式”を説明します。
[補足説明1]
1841年にガウスは、上記の近似下で像形成の体系的研究を行った。そのため@式は“ガウスの公式”と呼ばれる。上記の近似で議論されるレンズ理論は、第1次光学(first order optics)、近軸光学(paraxial optics)、ガウス光学(Gaussian optics)と種々の言い方で知られている。
これはレンズを設計する基礎理論となり、数十年にわたって使われた。
このとき、図中の灰色光線の様に進む場合もある。つまり、表面に対する折れ曲がり具合が逆になる場合があると言うことです。
[補足説明1]
ここのB式を変形すると
となりますが、この形のQを“アッベの不変量”と呼ぶ場合もある。この形を用いても同様な議論ができます。これも光線が球面を通過する高さhが変化しても光の集光する位置が代わらない事を示してる。
このとき、図中の灰色光線の様に進んで表面に対する折れ曲がり具合が逆になる場合もある。
これは3.(1)1.の図に於いて、左右を入れ替え、光線の方向を逆にし、aとb、αとβ、θとθ’を入れ替えた図と同じです。つまり
となる。最後の結論は3.(1)1.の式でaとbを入れ替えただけですが、これは下記の標準形に変形できる。
ここで注意すべきは、nとn’が入れ替わっており、Rが(−R)と成っていることです。計算は3.(1)1.と同じにすればよい。各自で御確認ください。
これは3.(1)3.の図に於いて、左右を入れ替え、光線の方向を逆にし、aとb、αとβ、θとθ’を入れ替えた図と同じです。つまり
このとき、図中の灰色光線の様に進んで表面に対する折れ曲がり具合が逆になる場合もある。
最後の結論は3.(1)3.の式でaとbを入れ替えただけですが、これは下記の標準形に変形できる。
ここで注意すべきは、nとn’が入れ替わっており確かにRが(−R)と成っていることです。計算は簡単ですから各自で御確認ください。
これは3.(1)2.の図に於いて、左右を入れ替え、光線の方向を逆にし、aとb、αとβ、θとθ’を入れ替えた図と同じです。つまり
となる。最後の結論は3.(1)2.の式でaとbを入れ替えただけですが、これは下記の標準形に変形できる。
ここで注意すべきは、nとn’が入れ替わっており確かにRが(−R)と成っていることです。計算は各自で御確認ください。
これは3.(1)5.の図に於いて、左右を入れ替え、光線の方向を逆にし、aとb、αとβ、θとθ’を入れ替えた図と同じです。つまり
となる。最後の結論は3.(1)5.の式でaとbを入れ替えただけですが、これは下記の標準形に変形できる。
ここで注意すべきは、nとn’が入れ替わっており確かに(−R)がRと成っていることです。計算は各自で御確認ください。
これは3.(1)4.の図に於いて、左右を入れ替え、光線の方向を逆にし、aとb、αとβ、θとθ’を入れ替えた図と同じです。つまり
となる。このとき、図中の灰色光線の様に進んで表面に対する折れ曲がり具合が逆になる場合もある。
最後の結論は3.(1)4.の式でaとbを入れ替えただけですが、これは下記の標準形に変形できる。
ここで注意すべきは、nとn’が入れ替わっており確かに(−R)がRと成っていることです。計算は各自で御確認ください。
これは3.(1)6.の図に於いて、左右を入れ替え、光線の方向を逆にし、aとb、αとβ、θとθ’を入れ替えた図と同じです。つまり
となる。最後の結論は3.(1)6.の式でaとbを入れ替えただけですが、これは下記の標準形に変形できる。
ここで注意すべきは、nとn’が入れ替わっており確かに(−R)がRと成っていることです。計算は各自で御確認ください。
3.(1)の@〜E式と3.(2)@’〜E’式をここにまとめて書き出すと
となる。これらの式中の文字記号はすべて正の値(絶対値)を表していた。
このとき、文字記号に正負の符合も含ませて
としてそれぞれの値を代入する事にすれば、@〜E’の式は一つの公式
にまとめることができる。これを“ガウスの公式”と呼ぶ。
ここで屈折率については
であることに注意されて下さい。いずれも正の値です。
ここで一番大事なことは、光線が通過するレンズ表面の位置hに依存せずに、a、bがRと関係付けられることです。これこそがレンズの本質です。
二つの球形曲面で挟まれたレンズ(屈折率n’)の焦点距離 f を表す公式を求める。これは“レンズメーカーの公式”と言われるが、前章の“ガウスの公式”を用いれば得られる。
レンズの呼称について、この稿では光線の入射方向(左から右へ進む)から見た球面の凸凹の状況で呼ぶことにする。
レンズの厚さdが薄い二つの例を考える。
この場合には、3.(1)1.の@式でR→R1と置いた式と、3.(2)2.のD’式でR→R2と置いた式を用いればよい。
ここでレンズの厚さdがR1、R2、a、bに比較して無視できるくらい薄いレンズの場合、@式中のbとD’式中のaが等しくなるので、それをcと置くことにする。
そうして@式とD’式の辺々を加えると、cを含む項が消去できて下記の式が得られる。
となる。ここで、レンズ媒体の屈折率をn’→nL、レンズの周りの空気屈折率をn→1と置いている。
ここで、高校物理で習う[6.(3)3.と同様に三角形の相似関係から証明]薄いレンズの“焦点距離” f に関する公式
を用いると
となる。これは“レンズメーカーの公式”と呼ばれる。
レンズの厚さdを考慮したもう少し詳しい公式も得られるが、それは後ほど6.(1)で説明する。
例としてもう一つ考察する。
この場合には、3.(1)4.のC式でR→R1と置いた式と、3.(2)2.のA’式でR→R2と置いた式を用いればよい。後の手順は前例と同じです。
3.(1)の@〜E式と3.(2)の@’〜E’式を組み合わせれば同様にして導ける。
前記の例を検討すれば、“レンズメーカーの公式”(レンズを作る人の為の公式)
が得られる。
上式に於いて、レンズの左から光線が入射するときレンズの入射側曲面が凸ならR1>0、凹ならR1<0として曲率半径を代入する。
同様に、レンズの出射側曲面に対しても(レンズの左側から見て)凸ならR2>0、凹ならR2<0として曲率半径を代入する。
得られた結果が f>0なら実焦点距離
f<0なら虚焦点距離となる。
公式の対称性からレンズのどちら側から平行光線が入射してもレンズから焦点までの距離は同じになることに注意されたし。もちろんこれはレンズ(屈折率nL)の前後の媒質を同じ空気(屈折率1)としたから言えることであって、レンズ前後の媒質が違って屈折率が異なる場合は、レンズの前後の焦点距離は同じになりません。
[補足説明1]
今までの議論を仔細に検討されれば解るように、厳密に言うとaは光線の出発点(物体)から光線入射側のレンズ表面(中央)までの距離であり、bは光線透過側のレンズ表面(中央)から実像(虚像の場合は入射側にできる)までの距離です。そのとき厳密な意味での焦点距離 f は上記のレンズの二つの面のどちらから測るのか疑問に思われるでしょう。
薄いレンズの場合にはd≒0と見なせますから、a、b、fのすべての量をレンズ厚さの中央からの距離として差し支えないのですが、レンズが厚い場合には焦点距離を測る起点の位置とレンズの二つの表面の位置は異なります。その当たりを厳密に論じなければなりません。厚いレンズでも正しい“レンズメーカーの公式”は6.(1)で説明します。
レンズメーカーの公式を用いて具体的な薄いレンズの焦点距離を求める。
以下の図は解りやすくするためにレンズの厚みと口径を拡大して描いてあるが、実際は曲率半径と比べてもっと薄くかつ口径の小さいレンズ(近軸光線)についての計算であることを忘れないでください。
レンズメーカーの式に代入すると
となる。
レンズメーカーの式に代入すると
となる。
レンズメーカーの式に代入すると
となる。
レンズメーカーの公式に代入すると
となる。
ところで、二つの薄いレンズを密着させた合成レンズの焦点距離は、別項「組み合わせレンズの焦点距離と主点の位置」(3)まとめ3.で説明したように
となるので、それぞれの焦点距離を代入すると
となる。
[補足説明1]
薄いレンズを重ねたとき(レンズ間距離D≒0と見なせる場合)の合成焦点距離を表す式の導出は簡単です。
Dが大のときには下記の様にb2は簡単に求まります。b2は組み合わせレンズの最終レンズ(表面)から後側焦点までの距離で“後側焦点距離”(バックフォーカス)と言われる量です。薄いレンズの組み合わせの場合には、f1、f2、Dが与えられれば、このバックフォーカスb2を求めるのは簡単ですが、本来の“焦点距離”(いわゆる後側主点から後側焦点までの距離)を求めるのは少し面倒です。
本来の“焦点距離”を求めるにはまず主点の位置を求めることが必要です。詳しくは別項「組み合わせレンズの焦点距離と主点の位置」1.(2)をご覧下さい。
厚いレンズに公式を拡張します。中心線付近の光線に限れば、以下の議論はかなり厚い球面レンズに対しても成り立ちます。但し、この章でのaは光線の出発点(物体)から光線入射側のレンズ表面中央(光軸上)までの距離であり、bは光線透過側のレンズ表面中央(光軸上)から実像(入射側にできる場合は虚像)までの距離であることを忘れないで下さい。
この稿で凸凹レンズと呼んでいる場合を例にして説明する。
3.(1)1.の@式より
3.(2)3.のB’式より
となる。
この両式を一緒にすればよい。ただし、以下では@式には添え字1をB’式には添え字2を付けて表すことにする。
レンズの厚さを d とすれば、図から明らかなように
であるから、これを用いると
ここで、a1≡a、b2≡bと置くことにする。
が得られる。
ここの a 、 b は、後ほど6.(1)で説明する a 、 b とは意味が違いますので、そこと混同しないで下さい。
[補足説明1]
単純に@とB’を足すと
が得られる。この形でもd→0とすれば薄いレンズの場合のレンズメーカーの公式になる。しかし、この形では右辺にb1を含んでいるので使いにくい。
両面の凸凹が任意の組み合わせの場合にも成り立つ様にするには、前項の式を
と書き直して、それぞれの符号について以前と同じ様に
として代入すればよい。また
としている。
(1)式は、近軸光線に限れば、レンズが厚くても(つまりdがR1やR2と同程度であっても)正確な式です。しかし、この中には焦点距離を示す量が含まれていませんので、使いにくい。
前項の式を使い易くする為に書き直す。
[補足説明1]
近似式(3)は普通の参考書に載っているものに似ていますが、それとは違います。参考書に載っている(3)式のaとbは厚いレンズの内部にある主点(主平面)からの距離です。そのため上記の(3)よりも広い範囲(つまりa、bに関す制限はありません)で正確です。但し、それを導くのはとても面倒です。
その導き方がJoseph Morgan著,“Introduction to Geometrical and Physical Optics”,p57〜61に載っていますので、それに従って“正確な公式”を6.(1)で導きます。
このとき、球形レンズからの出射光が平行光線(つまりb→∞)になる場合、n/b→0となり
と置くことができる。出射光線ほぼ平行光線(b→∞)ですから、この f’は、観測物体(焦点の位置にある)と入射側球面の表面中心(光軸上)との距離を意味します。 f’は、いわゆる焦点距離 f とは異なります。
“焦点距離” f は”主平面(主点)”と“焦点”との距離ですが、レーウェンフックの顕微鏡の様に“球形レンズ”の場合、主点(主平面)はレンズのほぼ中央になります。そのため球形レンズの厚さ(直径)をdとすると f’ と f は
の関係に成ります。この事の厳密な証明は6.(2)3.{補足説明1}で行います。
厚い球面レンズの公式の応用として、レーウェンフックが用いたガラス球レンズの倍率mを求めてみる。
“レーウェンフックの顕微鏡”については別稿「明視距離とレーウェンフックの顕微鏡」をご覧下さい。そこで説明したように、単レンズ顕微鏡(虫眼鏡)で倍率を上げるにはできるだけ焦点距離の短いレンズを用いれば良い。そのためには必然的に口径の小さなレンズが必要で、レーウェンフックは直径数ミリメートルの小さなガラス玉レンズを用いた。そして彼は素晴らしい拡大率の顕微鏡を作り上げた。
実際には、その小さなガラス玉のさらに光軸に近い部分のみを用いる必要がありますが、その場合のレンズの公式は前節のR1、R2<a、bの近似式(2)を用いればよい。aはRと同じ程度ですが、出射光線はほぼ平行光線(つまりb→∞でR≪b)となりますから(1’)式の最後の項は省略できて近似式(2)が使えます。
球形のガラス玉レンズの場合、半径をRとすれば、R1=R、R2=−R、d=2Rと置ける。さらにガラスの屈折率n’=n、空気の屈折率n=1と置く。そうすると
が得られる。
但しここの f’は、レンズ球中心から焦点までの距離ではなくて、前節で説明した観察物と入射側球面の表面中心(光軸上)までの距離です。実際、そうなることは次の[補足説明1]をご覧下さい。
もちろん最後の f’に関する式を求めるだけなら、近似をしていない正確な(1)式から求めることができます。すなわち
となります。つまり観察対象点がレンズ表面からf’の距離にあればレンズを出る光は平行光線になり、拡大鏡としての働きをします。
最後の式は、球形レンズならば、a(=f’)がRと同程度(さらにa<R)でも正しい式です。球面レンズと球形レンズの言葉の違いに注意。球面レンズとはレンズ表面が球面の一部からなるレンズのことですが、球形レンズとは文字通り球形の玉のレンズのことです。
[補足説明1]
“球形レンズ” は対称的な形をしていますので、上式は直接にしかも簡単に導けます。 バークレー物理学コース3「波動(下)」p579〜580に載っていますので、別ページで紹介します。
同じ節に、球形レンズの倍率mの求め方や、球形ガラスの興味深い応用である“スコッチライト反射体”の説明も載っています。
前述の式を用いてレーウェンフックの顕微鏡の倍率mを求めてみる。
焦点距離 f は、球形レンズの中心にある“主点(主平面)”から“観察物体(焦点)”までの距離です。球形レンズの主点が球の中心に在ることは6.(2)3.[補足説明1]で証明します。
球形レンズの半径をRとするとd/2=Rですから、f’=f−(d/2)=f−R となり焦点距離は f≒R+f’ となります。主点(主平面)の意味については、6.(2)で説明します。あるいは別項も参照してください。
球形レンズを単レンズ顕微鏡(虫眼鏡)として用いた場合の倍率mは、別稿「明視距離とレーウェンフックの顕微鏡」で説明した虫眼鏡の倍率を求める式から計算できます。
上式に、“明視距離”D=約25cm、球レンズ半径:R=1mm=0.1cm、ガラス屈折率:n=1.5を代入すると
となる。
レーウェンフックが用いた単レンズ顕微鏡は、焦点距離が1.5mm程度(レンズ表面からの距離は0.5mm)で有効なレンズ口径も1mm程度以下の、非常に使い辛いものだったが、確かに、驚異的な倍率を実現していたことが解る。その驚異的な倍率にも拘わらず、近軸光線を用いる限り、球面収差や色収差の影響も少なく、鮮明な像として観察できる。
実際に自分で作って観察して見られると、像の鮮明さに驚かれるでしょう。
[補足説明2]
ガラス球の直径が4mmの場合焦点距離は3mmになるので、観察物はレンズ表面から1mmの所に置くことになる。そして、倍率は84倍となる。
[補足説明3]
前述の式を、焦点距離 f で表すと(d=2Rだから)、確かに
となります。
これは見かけ上、前述のa、b>>R1、R2の近似式(3)に於いて
とした場合に得られる式
と同じですが、その様になるのは球形レンズが左右対称だからです。
5.(1)3.[補足説明1]でも注意したように、R1とR2が異なる厚いレンズの場合には、レンズ表面と主点の違い、焦点距離の厳密な定義、近似式(3)と正確な公式(1)との違い、などに注意深くあらねば成りません。詳しくは次章で説明します。
[補足説明4]
文献9.p257〜258に、高名な天文学者ウイリアム・ハーシェルは単レンズの高倍率接眼鏡を愛用したことが紹介されています。その中にはバックフォーカスが0.3mmの球形レンズも在ったようです。このバックフォーカスとは平行光線を球形レンズに入射させたときに出射側レンズ表面から集光点までの距離で、ここでf’と表している
のことです。これは球形レンズの焦点距離fに直すと、すでに説明したように
となります。ハーシェルは溶融石英(n=1.4586 at 588nm)を用いているので、この屈折率とバックフォーカス:f’=0.3mmを用いると、R=0.51mmの非常に小さな球レンズであることが解ります。
この接眼レンズの焦点距離:f=0.81mmとなりますから、これを単なる球形レンズ拡大鏡として用いると倍率:m=250mm/0.81mm=345倍となります。驚くべき高倍率接眼鏡ですね。文献8.p199〜200も参照されたし。
この章は文献5.のp57〜73を参照しながらお読み下さい。
5.(1)2.で求めた厳密な(1)式をもっと使いやすく、しかも正確な形に変形します。その過程で“主点”(“主平面”)の概念が必要になります。
ここは近軸光線近似を用いた議論ですが、レンズの厚さに関しては正確です。
下図の様にa1、b1、a2、b2とR1、R2を取る。[拡大図]
ここのa1、b1、a2、b2とR1、R2の取り方は5.(1)1.の図と同じだから、そこの@式とB’式がそのまま成り立つ。ただし、ここでは簡単の為にレンズの屈折率をn、空気の屈折率を1と置くことにする。
ここまでは5.(1)1.の議論と同じです。
ここで、式変形の見通しを良くするために
とおく。そうすると(1)式は
となる。
この式は物体−レンズ−像の位置関係を示す式としてはあまりにも扱いにくい。レンズと物体、レンズと像の距離を測るのにレンズの表面からではなく、他の点から測ることで上式は簡単化できる。
上式の形を考慮すると
と置くことで簡単化できそうです。実際、その様に置くと上式は
となる。ここで
と置くことにすれば、さらに簡単になって
となる。これが欲しかった式です。
f を定義式に従ってR1、R2、nの形にもどすと
となる。これが、厚いレンズの“正確なレンズメーカーの公式”です。
但し、この公式はあくまで“近軸光線近似”を用いて求められたものであること忘れないで下さい。
また、(U)式中の文字記号はすべて正の値(絶対値)であり、最初に示した形のレンズに限って正しい式です。
以前の様に、文字記号の中に、正負の符号を含ませた一般的な公式にすると次の(V)式になる。各量の符号を下記の規則に従って定めて代入すれば、(V)式はレンズ球面の凸凹を任意に組み合わせて作ったレンズに対して適用できる。
量を表す文字記号に正負の符号を含ませて書いた“正確なレンズメーカーの公式”は
となります。
具体的な数値を代入するときには、以前と同様に
として代入して下さい。符号の取り方がレンズの公式を用いるとき最も注意すべきところです。
もちろんここでは
としています。
前節の f 、h1、h2の意味を説明する前に、 f、h1、h2の定義式をまとめておく。
ここのR1、R2は正の値を意味し、上記の表現は例に挙げた凸凹レンズ(普通は両凸レンズと呼ばれる)の場合についてのものであることに注意してください。
このとき(C)式と(D)式から
が得られるが、これも重要な式です。
f 、h1、h2の意味は次図に示されている通りです。中心線上のH1、H2点を“主点”と呼び、その点を通り中心線に垂直な平面を“主平面”と呼ぶ。
主平面H1は、前焦点から出た光線の延長線と平行光線となる出射光線の延長線が交わった点から構成される。実際そうなることは(T)式に於いてb→∞にしたときのaが焦点距離 f に一致する事から明らかです。
同様に主平面H2は平行入射光線の延長線と、後焦点に集まる出射光線の延長線の交わった点から構成される。実際そうなることは(T)式に於いてa→∞にしたときのbが焦点距離 f に一致する事から明らかです。
[補足説明1]
近軸光線近似が成り立たない厚いレンズの周辺領域では、主平面は平面ではなくて曲面になります。そのため厚いレンズの“主平面”を“主曲面”と言う場合もあります。
曲面になることは、上図や下図を検討すれば了解できます。
次の説明は、吉田正太郎著「新版屈折望遠鏡光学入門」誠文堂新光社(2005年刊)p71から引用(少し改変)。
図2.18の例では後側焦点距離の主点と主曲面は出射側のレンズ表面(凸曲面)に一致しますが、逆方向に進む光線の主点と主曲面はレンズ内部に存在します。
左右対称の両凸レンズの主点の位置を求めてみる。この場合(C)式に於いてR2=R(=−Rではないことに注意)、(D)式に於いてR1=Rと置けばよい。そうするとh1=h2(≡hと置く)となるので、(C)又は(D)式から
が得られる。
ここでレンズの屈折率をn=1.5とすると
となります。
普通の厚いレンズでは(d/6R)≪1と見なせますので、主点H1はレンズ表面の頂点V1から、主点H2はV2から、それぞれ厚さdの1/3程度内側に存在します。図6.3の(a)はその様子を表してる。
上式は左右対称な両凹レンズについても成り立ちますので、同様なことが言えます。図6.3の(d)はその様子を表している。
対称レンズを真ん中で切り分けた平凸レンズや平凹レンズでは、R2→∞ですから
となります。
つまり、曲面側の主点H1は、曲面側表面の頂点V1に一致します。また、平面側の主点H2の位置は平面側表面V2からd/nだけレンズ内部に入った所になります。レンズ屈折率:n=1.5の場合はd×(2/3)だけ入った所です。前項の図2.18や下記の図6.3の(b)や(e)はその様子を表しています。
R1=R2の左右対称の両凸レンズ(a)や両凹レンズ(d)の主点は、6.(2)1.の(E)式から明らかなようにh1=h2となる対称な位置にあります。平凸レンズ(b)や平凹レンズ(c)の場合、一方の主点は必ずレンズの曲面側表面上にありますが、もう一方はレンズの内部に存在します。レンズの両極面の曲率が大きくなると主点の位置は(b)→(c)や(e)→(f)の様にずれていきます。
図中の主平面はあくまで、近軸光線近似で光線経路図を描くとき便利なように、近軸範囲で正しい主平面を上下に伸ばして図示してあるだけです。実際にここまで広がっているわけではありません。
さらに、レンズ表面の曲率が大きくなる(曲率半径が小さくなる)と主平面は曲面となり近軸光線近似は成り立ちません。そのため、主点や主平面を仲介にした議論は有効性を失います。
[補足説明1]
レンズの光学中心を通る光線は、入射方向に平行に出てきますが、この光線の入射部分と出射部分を光軸と交わるまで延長すると下図2のようにN1とN2で交わります。この交点を“節点”と呼びます。レンズの両面が同じ媒質(通常は空気)で囲まれていたら、節点は主点と一致します。
二つの主点間距離H1H2がレンズの厚さdに依存してどのように変化するか調べてみる。
主点間距離H1H2は前稿の(C)、(D)式より
となる。
空気中のガラスレンズ(n=1.5)で普通の厚さ[n(R1+R2)≫(n−1)d]ならば、R1とR2の違いに関わらず、主点間距離H1H2は、レンズの厚さ(中心線上の幅)dのだいたい1/3程度です。図6.3はその当たりも考慮して示しています。
それは前記の式でn(R1+R2)≫(n−1)d とすると
となることから了解できます。
[補足説明1]
以上の話は、いずれも厚いレンズではあるが (d/6R)≪1 を満足する厚さの話でした。そのとき注意して欲しいのですが、前述のh1やh2の表現式は近軸光線近似が成り立つ限りdがRと同じ程度になっても正しい。
興味深いのは、d=2Rの完全な球形レンズの場合です。この場合にはh/d=1/2となりますから、h1=h2=d/2となり、主点H1とH2は完全に一致して球の中心になる。
これが5.(2)で“レーウェンフックの顕微鏡のガラス玉レンズ”の倍率を求めるときに用いた事柄です。
レンズの厚さdが増えてきて分母の (n−1)d が n(R1+R2) に比べて無視できなくなると、主点間隔H1H2はだんだん狭まってきます。その当たりを最初の式で確認すると
任意の形の球面レンズの前方に物体を置いたときに、その像ができる正確な位置は以下の手順て求めることができる。
例としてR1=4.00cm、R2=6.00cm、d=2.00cm、n=1.5 の場合を計算してみる。物体はR1面の頂点V1からa1=8.00cmの空気中に設置されているとする。このときの像の位置を求める。
R1、R2、d、nを(U)式または(V)式に代入して f を求める。(V)式を用いるときは符合に注意。
求まった焦点距離 f を(C)式と(D)式に代入してh1とh2を求める
このh1とa1=8.00cmを(γ)式に代入してaを求める。
このaを(T)式に代入してbを求める。
このbとh2を(γ)式に代入すると b2が求まる。
つまり、像は出射側にR2面の頂点V2から距離b2=11.9cmの所にできる。
実は、最初に取り上げた図は、この例の距離関係は示したものです。[拡大図]
像の倍率mは下図の三角形の比例関係を用いれば直ちに求まる。〔拡大図〕
レンズ左側の二つ、またはレンズ右側の二つの三角形の相似性、あるいは図中の二つの灰色三角形の相似性から
が求まる。
上記関係式の二組を取り出して変形するとすべて(T)式に帰着することに注意されたし。
つまり、(T)式は上記の三角形の比例関係を表していたのです。
ただし、この公式が正しいのは“近軸光線近似”が成り立つ範囲内においてであることを忘れないで下さい。上図の主平面も近軸領域で成り立つ主平面がそのまま上下に伸長されて図示されています。
前項3.で説明した(1)式は高校物理の光学の所で習います。それを復習されれば(1)式の意味が明瞭になると思います。以下は私の授業ノートから copy and past
しました。
“レンズの公式”は下記の性質から導かれた。
まず凸レンズの場合を考察する。物体が焦点よりも外側に在る場合、上記の性質に従って光線図を描くと実像が生じて、図中の三角形の相似性から下記の比例関係が成り立つ。この比例式を変形すれば
となり、レンズの公式が導ける。
物体が焦点の内側に在る場合は虚像ができて
となる。1/bの前に負符号が現れることに注意。
次に凹レンズの場合を考察する。物体が焦点よりも外側に在る場合は
となる。1/bと1/fの前に負符号が現れる事に注意。
物体が焦点よりも内側にある場合は
となる。これは上記の比例関係と同じなので、凹レンズの場合は物体が焦点の外側でも内側でも虚像しかできない。
以上をまとめると“レンズの公式”が得られる。
高校物理の問題は、上記公式のa、b、f の内の二つを与えて残りを求める形が大半です。しかし、それらの数値を代入するとき正負のいずれで代入するのか、また求まった答えの正負をどのように解釈するのかをすぐ忘れてしまいます。だからこの公式を覚えるよりも、前述の図が描ける様になって前記の比例式を用いて計算した方が良い。
[補足説明1]
レンズの公式としては、aとbを用いるよりも下記のxとx’を用いた方が便利な場合もある。
これを、“ニュートンの公式”と言う。
[補足説明2]
下図の線分AB上の点Cの像は必ず線分A’B’上に結像します。当たり前の様に思われるかもしれませんが、これはレンズを通過する光線が最初に掲げた性質を満たす場合に成り立つことで、レンズが示す性質の中で最も重要です。
ただし、現実のレンズが最初に掲げた性質を完全に満たしているわけではありません。そのため上記の様に結像できるわけではない。その当たりについて次章で少しだけ説明します。
[補足説明3]
レンズの焦点距離を測る方法です。太陽光線の様な平行光線が得られる場合は簡単ですが、そうでない場合は以下の様にする。
凸レンズの焦点距離
適当な光源の像をスクリーン上に結像させて、aとbの距離を測りレンズの公式を用いて f を計算する。
あるいは、下図の様に適当な光源とスクリーンを距離Dだけ離して設置し、その間でレンズを左右に動かして、像が鮮明に結像する場所AとBを求める。そのときのAB間の距離をdとすると以下のようにして
f が計算できる。
図中の数値は、生徒実験で用いた凸レンズの例です。
凹レンズの焦点距離
下図の様に、適当な光源の像を凸レンズと凹レンズの両方を用いてスクリーン上に結像させれば、下記の式で計算できる。
どちらの式を用いても良い。これらの式は近視の人が掛ける凹レンズ(別稿「メガネの理論」参照)の焦点距離の測定に利用できる。
厚いレンズの場合、必然的に球面の曲率半径に比較して近軸光線から離れた部分を透過する光線も利用する事になります。つまり、レンズの口径が曲率半径Rに比べて十分に小さいという“近軸光線近似”が満たされなくなります。
そうなるとレンズが球面であることによる収差が生じてきます。それは下図のh(角度γ)が大きくなるとh(γ)に依存してbの値(集光位置)が変化する現象です。これを“球面収差”と言う。
球面について成り立つ厳密な式を導きます。
以下は、2.(1)のF式を導く手順と同じです。復習をかねて、3.(1)1.で示した図上でもう一度導きます。“スネルの屈折の法則”から
となる。この式を、さらに
と書き直してみると3.(1)1.で導いた近似式@に良く似た式になります。実際、p→a、p’→bの近軸光線近似とすると、G式は確かに@式に一致します。
a、b表現の@式は近似式ですが、p、p’表現のG式は近軸光線以外でも成り立つ厳密な式です。、
[補足説明1]
ここでは、“屈折の法則”に正弦定理を適用してF、G式を導きましたが、『光線は最短時間の経路を取る。』という“フェルマーの原理”に余弦定理を適用しても導けます。『ヘクト光学T』p234〜236を参照い。
上式をhの関数に変形しよう。余弦定理を用いてp、p’をa、b、R、hで表す。
まったく、同様にして
と近似できる。
これらの式をG式に代入すると
となる。これは@式よりも近似の精度を上げてG式に近づけた式です。h2に依存して近軸光線の理論からずれていくことが解る。ただしγ≒h/Rの近似を用いているので、h(角度γ)が大きくなるとこの表現式は正しく無くなります。
a、R、n、n’を定めたときにbがhの変化によってどのように変わるか確かめるには、H式をbに関する方程式と見なして解けばよい。これはbの三次方程式なので解くのは大変ですが、表計算ソフトなどを用いてbの値を少しずつ変化させて試行錯誤で求めればよい。あるいはMathematicaなどの計算ソフトを使っても良い。
R=10cm、n’=1.5、n=1の場合で、aを適当に与え、克つhを1cm→2cm→3cm→4cmと変化させてbがどの程度変化するか計算してみる。
まず@式から
が得られる。この式でaを適当に定め、hを0cm→1cm→2cm→3cm→4cmと変えたとき、左辺がゼロになるbの値を求める。それはh=0cm(近軸光線)の答えの近くにあるはずですから、Excelなどの表計算ソフトの計算式を用いて、bを少しずつ変えながら左辺が0となる値を探してみる。結果は以下のようになる。
a=40cmの場合 | a=60cmの場合 | a=200cmの場合 | a=500cmの場合 | |
h (cm) | b (cm) | b (cm) | b (cm) | b (cm) |
0 | 60 | 45 | 33.3 | 31.3 |
1 | 59.4 | 44.7 | 33.2 | 31.2 |
2 | 57.4 | 43.8 | 32.9 | 30.9 |
3 | 54.3 | 42.5 | 32.4 | 30.6 |
4 | 50.5 | 40.8 | 31.8 | 30 |
つまり同じA点(a=一定)から出発した光線でも近軸光線から離れるに従って光線が集るB点(距離bの位置)はだんだん手前にずれてくる。特にaが小さくなるとそのずれの量は顕著になる。これが“球面収差”と呼ばれるものです。
レンズが厚いと、必然的に球面レンズの中心軸から離れた部分の光線も利用するように成りますので、球面収差による像のぼやけが生じてきます。
そのとき、裏表の球面の曲率半径の組み合わせを色々に変えて同じ焦点距離のレンズを作ることができます。もちろんレンズの曲率半径を変えれば主点の位置が変化しますので厳密に焦点距離を同じにすることは難しいかもしれませんが、およその所は4.(3)1.で説明した式で f を一定にしてR1とR2を色々変えてみれば設計できます。
そのようにして作った同じ焦点距離のレンズであっても、表裏の曲率半径の組み合わせを旨く選べば“球面収差”を軽減することができます。
下図は永田信一著「図解レンズがわかる本」日本実業出版(2002年刊)p84〜85より引用した図ですが、同じ焦点距離のレンズでも左右の対称性を変えると球面収差の程度が変化する事を示しています。
これらの図を描くのは難しくありません。デカルト座標上に描いた二つの球面(円)の方程式の上で、色々なy座標の平行光線とレンズ左側球面の交点を求めて、そこにスネルの法則を適用しレンズ内を進む光線(直線)の方程式を求めます。
次に、そのレンズ内光線(直線)とレンズ右側球面との交点を求めて、そこに再びスネルの法則を適用して右側空気相を進む光線(直線)の方程式を求める。その直線とx軸との交点を求めれば良い。
つまり、入射点・出射点の接平面で決まる等価プリズム[1.(1)の図参照]に於ける入射光線の偏角(i−r’)と出射光線の偏角(r−i’)が等しいとき偏向角δは最小になり、しかも球面収差は最小になります。それは1.(1)の等価プリズムの頂角の二等分線がレンズ内を通過する光線と直交する事です。
ですから入射光線に対して常にその条件が成り立つように、hの高さで変わる光線透過点での等価プリズム頂角を傾けていけば良いわけです。
球面収差の少ない焦点距離が短いレンズ系を作るには、上記の発想で設計した球面レンズを、下図の様に幾つか重ねれば良い。
[補足説明1]
同様なことが凹レンズについても言えます。同じ虚焦点距離を持つ様々な形の凹レンズについて、レンズの左側から入射した平行光線が、レンズの入射側に作る虚焦点への収束性が最もよくなるのは入射側(平行光線側)が凹面で出射側(拡散光線側)が平面にした“平凹レンズ”です。これは次項で述べるようにガリレオ式望遠鏡の接眼レンズの向きを決めるときに重要です。
[補足説明2]ここは、文献6.のp386〜387から引用。
ホイヘンスは3.(1)4.あるいは3.(2)2.について面白い関係が成り立つことに気付いた。
最初に3.(1)4.の図について説明する。以下の図はすべてガラス屈折率n2=1.5、空気屈折率n1=1として描いています。
上図のA点に点光源を置き右側の媒質に入射させると、境界面で“スネルの屈折の法則”に従って屈折し赤色光線の様に進む。今は双方の媒質屈折率についてn1<n2としている。
ここで、線分AO=aと線分BO=bについて
が成り立つ様にすると、
となる。このとき、さらに
も成り立つことが判明する。つまりOを中心とした円弧VCXWは線分ABをn2:n1に内分する点を通る“アポロニウスの円”をなす。つまりA点とB点からの距離の比がn2:n1となる任意の点X
が描く軌跡なのである。
このことから、A点の点光源から出た光線はC点の中心軸からの距離hに依存せず(つまり球面収差無し)にB点のただ1点に正確に結像する。
このとき、下図の様に半径Rの球面と半径BDの球面で構成される凹レンズは、上記の特定な共役点AとBに対して球面収差がまったく無い凹レンズとなる。
そうなることは光線CDが右側球面を常に垂直に通過する事から明らかであろう。
次に3.(2)2.の図iにつて考察する。今度はガラス屈折率n1=1.5>空気屈折率n2=1.0とし、さらにA点とB点、M点とN点を入れ替えている。
曲面R上の任意の点Cに対して、常に線分AC:線分BC=n2:n1を満足する点A(点光源)と点B(虚像点)が存在する。それは図中に記した位置ですが、“スネルの屈折の法則”を用いれば先ほどと同様に証明できる。
このとき、下図の様に線分AEを半径とする球面と半径Rの球面で構成される凸レンズは、上記の特定な共役点AとBに対して球面収差がまったく無い凸レンズとなる。
そうなることは光線AEが左側球面を常に垂直に通過する事から明らかであろう。
ある“特定の共役点”に関してしか言えないが、両面とも球面のレンズでも球面収差が全く無い形状が存在する。おそらく、ホイヘンスはアポロニウスの円を幾何学的に考察しているときに気付いたのだろう。
この原理を最大限に利用しているのが、下図に示す油浸の顕微鏡対物レンズです。観察する物体はPの位置で屈折率n1の油に囲まれている。そして、PとP’が最初の球形レンズに対するゼロ球面収差の共役点で、P’とP”がメニスカス凸レンズに対するゼロ球面収差の共役点です。下図のように広い発散角で球面収差が無いのは驚くべきことです。この発見が複数レンズ光学顕微鏡の性能を画期的に飛躍させた。
今仮に、観察物Pの虚像をP’に、虚像P’の虚像をP”に結像させたいとする。
そのとき線分PP’をガラスと空気の屈折率比に内分するアポロニウスの円を“球状レンズ”とすればよい。また、線分P’P”をガラスと空気の屈折率比に内分するアポロニウスの円を出射側球面、P’を中心とする球を入射側球面とした“メニスカス凸レンズ”を作ればよい。同様な考え方のメニスカス球面凸レンズを重ねれば観察物からの発散角をさらに小さくできる。
ただし、以上の考察は単色照明で見る場合の話であって、自然光で観察する場合には、色収差が発生します。そのため上図の後のレンズ系で補正しなければならない。この当たりの詳しい議論はBorn、Wolf「光学の原理T」§6.6を参照されたし。
《顕微鏡》
高校物理で習うの光線経路図と倍率の計算式を載せておきます。
下図の様に物体の像を結ばせる位置Dを“明視の距離”にすることの理由は別稿「明視距離とレーウェンフックの顕微鏡」を参照されたし。
顕微鏡の性能を上げるには、対物レンズに対しては先に説明した球面収差の無いレンズを組み合わせた複合レンズ系にします。また接眼レンズについても7.(2)2.[補足説明4]で説明した望遠鏡における接眼レンズ系と同様な複合レンズ系として視野を広くし、レンズ交換しても鏡筒の長さを一定保てる様な工夫が必要です。
ガラスの両面を球面に磨くのは大変だったから、初期の望遠鏡では片側が平面のままで片側のみが球面に研磨された平凸レンズや平凹レンズが用いられた。
そういったレンズを対物レンズと接眼レンズに用いて望遠鏡をつくる場合、ガリレオ式にしろケプラー式にしろ望遠鏡の筒の内側にレンズの平面部分が向くように対物レンズと接眼レンズを取り付けた方が良い。つまり下図の様に配置した方が良いのです。それは前項で説明した球面収差の影響を軽減する向きだからです。球面収差の影響を軽減できればよりシャープな像を見ることができます。
《ガリレオ式》
高校物理で習うガリレオ式望遠鏡の光線経路図とその倍率です。
望遠鏡の場合物体が無限遠にあると考えることが出来るので、両レンズの焦点を一致させて、入射、出射光線を平行光線にし虚像を無限遠方につくるとして倍率を計算する。
対物レンズの凸面を物体側へ、接眼レンズの凹面を眼側へ向ける
上図の二本の赤色光線が凹レンズで互いに逆方向に折れ曲がっていることについては3.(2)5.の図を参照。
焦点距離比4:1(倍率m=4倍)の場合で、上図をもう少し詳しく描くと下図の様になる。[拡大図はこちら]
上図で、瞳(直径5mm程度)を通過する光線部分を濃い色で抜き出すと下図の様になる。[拡大図はこちら]
上図から明らかな様に、下図の0〜2までの範囲は瞳を通過する光線が在るが、3、4、5、・・・・の範囲では瞳を通過する光線は無い。つまり視野の外になる。
対物凸レンズの焦点距離が同じ場合、対物凸レンズの口径が視野の大きさを決定することが解る。
このとき、対物凸レンズの口径と焦点距離をそのままにして、接眼凹レンズの焦点距離を半分にして望遠鏡の倍率を2倍(つまりm=4/(1/2)=8倍)にしてみる。しかも接眼凹レンズからの眼の瞳までの距離を上と同じにした場合を考えてみる。
図を仔細に検討すれば光線が瞳を通過する最大視野角は前記の 2 の位置からから 0.5 の位置に減少していることが解る。つまりガリレオ式望遠鏡の視野角は倍率の二乗に反比例(1/2×1/2)して減少する。
このあたりの関係は上記二つの図を対物レンズの焦点位置を同じにして表示してみれば解りやすい。[拡大図はこちら]
このとき、接眼凹レンズを出て来る平行光線束の外向きへの振れ角が2倍になり、しかも光線束の幅(太さ)は半分に(細く)なっていることに注意されたし。ガリレオ式望遠鏡の場合、対物凸レンズを変えないで接眼凹レンズの焦点距離を変えて倍率を上げると、視野角の減少が倍率の二乗に反比例して生じるのは、この二つの効果が相乗的に効いてくるからです。
このとき、ガリレオ式の視野が定まる仕組みからも解るように、ガリレオ式では視野の周辺部はだんだん暗くなって、ついに完全に暗くなって見えなくなります。
さらに、図から明らかなように、眼をできるだけ接眼凹レンズに近づけても、瞳の径が変わらないので視野が広くなることはありません(文献13.p28〜32の青波線部参照)。
しかし、接眼凹レンズ口径が瞳の口径よりも大きい場合、瞳を接眼レンズのごく近くでレンズ表面に沿って上下、左右に動かせば視野の大きさはそのままでも、最初見えなかった周囲の部分を見ることができます。そうなることは上図を検討すれば了解できます。
ガリレオ式望遠鏡の視野を広くするには、対物凸レンズの有効径(つまり収差の無い範囲)をできるだけ大きくし、望遠鏡の全長をできるだけ短くする必要があります。しかし、倍率を同じにしたまま、そうするためには対物凸レンズも接眼凹レンズも供に焦点距離を短くしなければならず、必然的に厚い収差の大きなものになり、像自体がぼやけてしまいます。そのため視野を広げるのは簡単ではありません(文献13.p28〜32の赤波線部参照)。
ガリレオ式望遠鏡の視野理論式は文献9.p111〜113をご覧下さい。視野の実際については次のURLをご覧下さい。ガリレオ望遠鏡の謎1、ガリレオ望遠鏡の謎2。
《ケプラー式》
高校物理で習うケプラー式望遠鏡の光線経路図とその倍率表現です。
望遠鏡として用いるときにはガリレオ式と同様に虚像は無限遠の位置に出来るとする。そのため両レンズの焦点を一致させ、入射光は対物レンズに平行に入射し、接眼レンズから平行光線として出射すると考える。
ケプラー式望遠鏡を読み取り望遠鏡の様な使い方をする場合には物体は近距離にある。そのときには、虚像を作る位置を決めないと倍率は定まりません。普通は物体の位置に虚像を作る“標準の仕様条件”を指定して倍率を定める。
対物レンズの凸面を物体側に、接眼レンズの凸面を眼側へ向ける
焦点距離比4:1(倍率m=4倍)の場合で上図をもう少し詳しく描くと下図のようになる。[拡大図はこちら]
ケプラー式の場合は下図では0〜6程度の範囲まで瞳を通過する光線が在りますが、瞳の位置を接眼レンズの後焦点に近づければ視野はもっと広がり、ガリレオ式メカニズムの視野制限はありますせん。つまり、ケプラー式の場合、対物凸レンズの口径が視野角を決めているわけではない。
ケプラー式について対物凸レンズの口径と焦点距離をそのままにして、接眼凸レンズの焦点距離を半分にして望遠鏡の倍率を2倍(つまりm=4/(1/2)=8倍)にしてみる。下図は接眼凸レンズからの眼の瞳までの距離を上と同じにして描いたものですがそのことに意味はありません。
眼の瞳の位置を接眼凸レンズの後焦点の位置に持って行けば、対物凸レンズの焦点位置(接眼凸レンズの前焦点位置)の筒の口径(視野絞り)を通過する0、1、2、3、4、5、6、・・・・・・のすべて範囲が視野として見える。もちろん接眼凸レンズの口径による視野の制限は生じてきますが。つまりケプラー式の視野角を決めるのはガリレオ式とは全く別の事情です。
このとき、接眼凸レンズを出て瞳にやってくる平行光線束の幅(太さ)は倍率の逆数に比例して狭く(細く)なっていることに注意して下さい。
平行光線の幅の変化の関係は上記二つの図を対物レンズの焦点位置を同じにして表示してみれば解りやすい。[拡大図はこちら]
ケプラー式望遠鏡では、対物凸レンズの焦点位置の望遠鏡の筒壁の直径や接眼レンズの直径が視野を決めます。ただし対物凸レンズの焦点位置にできる実像の周辺部つまり視野の周辺部はレンズの収差の為に像自体がぼやけてきます。また接眼レンズの口径を大きくして視野を広げようとしても収差がひどくなります。
だからむしろ像がぼやける周辺部をカット除去するために対物凸レンズの焦点の位置に“視野絞り”を入れたりします。また接眼部を複数のレンズを組み合わせたレンズ系にして、対物凸レンズの焦点位置に一番近いレンズ(“視野レンズ”と呼ばれる)の口径を大きくして視野を広げる工夫をしたりします(文献8.p103〜106の青と赤の波線部と[補足説明4]を参照)。
ケプラー式望遠鏡では接眼凸レンズを変えないで、対物凸レンズの(口径は変えないで)焦点距離を長くして倍率を上げると、視野角は倍率に逆比例して狭まる。そうなるのは倍率の式を変形してみれば明らかです。
tanω’は接眼凸レンズが同じなら変わりませんので、対物の実視野角2ωは倍率mに逆比例することが解る。
ガリレオ式にしろ、ケプラー式にしろ、接眼レンズの焦点距離を短くすれば倍率は上がります。そのとき、接眼レンズから出て来る平行光線の太さ(これは対物レンズの像の大きさと言っても良い)は倍率を上げるにつれて細くなってきます。ケプラー式の場合人間の眼の瞳の直径になるまで倍率を上げて細くしても大丈夫ですが、ガリレオ式の場合視野が狭まり実用に耐えなくなります。
実際ケプラー式では、色収差を修正した組み合わせレンズ(色消しレンズ)を用いれば、数百倍の倍率も可能ですが、ガリレオ式では数十倍が限界です。ケプラー式望遠鏡の視野については[補足説明5]も参照して下さい。
以上の議論はすべて、像の倍率を同じにしてガリレオ式とケプラー式の視野の広さを比較をしました。くれぐれも“倍率”と“視野の大きさ”を混同しないで下さい。
[補足説明1]ガリレオの望遠鏡
吉田正太郎著「新版屈折望遠鏡光学入門」誠文堂新光社(2005年刊)p7によると
と記されています。さすが探求心旺盛なガリレオですね。
文献8.p92〜94を参照。さらに詳しくは文献13.p28〜32をご覧下さい。ただし、最近の研究によると、ガリレオが凹レンズの焦点距離を測る方法を知っていたかどうか疑問ですし、上記の倍率公式fa/fbを実際に知っていたかどうかは疑問視されている(伊藤和行著「ガリレオ」中公新書2013年刊 p20〜22)ようです。
いずれにしても、ガリレオの望遠鏡は驚くべき事実を次々に明らかにして天文学に革命を起こします。
[補足説明2]
前図を仔細に検討すると、ガリレイ式望遠鏡の視野角は対物レンズの直径によって限定されるが、ケプラー式の視野角は対物レンズの直径に直接は依存しないことが解る。
ガリレオ式望遠鏡の視野が狭くなる説明を中川治平著「図解雑学レンズのしくみ」ナツメ社(2010年刊)p199から引用すると
《ガリレオ式》
眼は対物凸レンズの焦点の少し内側に位置し、接眼凹レンズを出た光線束はほぼ平行光線となる。そのため以下の事情が生じる。
《ケプラー式》
眼は接眼凸レンズの焦点距離fの少し内側に位置する。接眼凸レンズを出た光線束はほぼ平行光線となるが、ケプラー式では光軸の方へ集光する。そのため視野が広くなる。
と説明されている。
[補足説明3]
ガリレイがガリレオ式望遠鏡を最初に作ったのは1609年です。
一方、ケプラー式は1611年に出版されたケプラーの著書『屈折光学』(1611年刊)の中で提示されますが、最初に作ったのはケプラーと同郷の天文学者クリストファー・シャイナー(19015年)です。きっとシャイナーも前述の向きにレンズの表裏を配置したのでしょうね。シャイナーは太陽黒点の研究で、ガリレオと論争する事になる。
ガリレイ式は、ケプラー式と比較して、以下の特徴がある。
《長所》
○全長が短くできる。
○正立像が得られる。
○像が明るい。(これは視野が狭いことの裏返。対物凸レンズの口径が同じ場合対称物の同一範囲からの光が瞳により沢山入る)
《短所》
○倍率を大きくすると視野が狭くなる。
ガリレイ式の視野角は、対物レンズを同じ(口径と焦点距離を変えず)で接眼レンズの焦点距離を短くして倍率を上げると、倍率の二乗に反比例して減少する。一方、ケプラー式の視野角は、接眼レンズを同じにして対物レンズの(口径は変えずに)焦点距離を長くして倍率を上げると、倍率の一乗に反比例して減少する。
ガリレイが木星の衛星を発見した望遠鏡は、口径38mm、焦点距離1280mm、倍率30倍でしたが、視野角は10分角程度以下(月や太陽は約30分角)であったと言われています。丁度ストローを通してみる視野角と同じです。
○実像を持たないので十字線や計測線を置けない。
実はガリレオ式でも十字線を置く方法はあります。文献9.p115〜116をご覧下さい。また、十字線(計測線)と同様な《光学的照準器》の照準線のメカニズムについては、補足1と、補足2をご覧下さい。
地上を見るときケプラー式の倒立像は不便ですが、天体観測ではその不便さはありません。またケプラー式はガリレオ式に比べて視野が広い。さらに、ケプラー式は筒の中に一旦実像を結びますので、その実像の位置に十字線や計測線を入れることができます。挿入した線(蜘蛛の糸が使われた)を目盛り付円盤と連動したネジで移動させるガスコインのマイクロメーターは星の位置計測に革命をもたらします。これらの長所のためにケプラー式はやがて天文学で主流に成ります。
ケプラー式望遠鏡については文献8.p98〜100とp103〜106、および文献13.p301〜303の引用文を参照。
[補足説明4]
文献8.p103〜106に記されている“視野レンズ”について補足します。本文中の図から解る様に、ケプラー式望遠鏡の視野は対物レンズ焦点位置の[筒の口径]と[接眼凸レンズの口径]が決める。そのとき、焦点通過後により外側に広がる光線を通過させなければならない接眼凸レンズの口径による制約の方がより厳しい。
図から明らかな様に、対物凸レンズ焦点位置の像の位置に接眼凸レンズ面をできるだけ近づけた方がより広い視野を得ることができる。しかし、対物凸レンズの焦点位置は接眼凸レンズの焦点位置でもあるので、かってに接眼凸レンズを近づけることはできない。
そのとき別項「組み合わせレンズの焦点距離と主点の位置」1.の複合レンズ理論が役立つ。つまり、接眼鏡を二つの凸レンズを組み合わせた複合レンズ系にして、その間隔dを広げれば良いのです。
そこの1(1)1.の図
と1(2)1.の図
を比較すれば解る様に、レンズ間隔dを調節すれば、左側焦点位置を左側凸レンズの直前にすることができる。すなわち、左側凸レンズの位置を対物凸レンズ焦点位置の近くにすることができるので、そのレンズ(“視野レンズ”と呼ばれる)の口径をできるだけ大きくすれば良い。視野レンズ表面を対物凸レンズ焦点位置に完全に一致させると視野レンズ表面のゴミも拡大されますので普通は、その前後に位置するようにします。
視野レンズは光線束を集束させる凸レンズだから、右側の凸レンズ(“眼レンズ”と呼ばれる)の口径を大きくする必要はない。またその右側接銀凸レンズのすぐ外側に右側焦点が来るように左右レンズの焦点距離と間隔dを調節すれば、最も視野が広くなる右側焦点位置に“眼の瞳”を持ってくることができる。
このことは1640年代の初め頃に、アントン・マリア・シルレ・デ・レイタによって発見されたが、これはケプラー式望遠鏡の革新的技術です。
この視野レンズを利用した有名な接眼鏡として、“ホイヘンスの接眼鏡”(1662年の手紙、1703年)と“ラムスデンの接眼鏡”(1783年)があります。それらを含めていくつかの接眼鏡の説明を文献9.p258〜270より引用。
[補足説明5]
光学器械の“入射瞳”と“出射瞳”は解りにくい概念です。その説明を文献9.p81〜82より引用。また、“開き絞り”と“視野(視界)絞り”の説明を献9.p84〜85より引用。さらに、“望遠鏡の出射瞳”について文献9.p106〜109より引用します。
球面収差についてケプラーはすでに気付いていたようですが、そのことをハッキリと理解したのはデカルトです。デカルトは「方法序説」の附録『光学』(1637年)の中で、球面によって生じる焦点は一点に定まらずぼやけた像を生じさせる事を示し、さらに双曲面にするとこの効果が修正できることを証明した(文献8.p108〜111参照)。
さすが、解析幾何学の創始者であるデカルトの本領発揮というところです。以下はその曲面についての補足説明です。
最初に単一曲面について説明する。下図のl0とl’0が任意に固定された値の場合
となる。つまり、上記の“4次曲面”が収差の無い曲面です。
l、l0→∞ で l’、l’0 が有限の場合には
となり、“二次曲面”になる。
実際、入射光線が平行光線の場合は
となり、“楕円面”となることが解る。そして光学的焦点は楕円面の焦点に一致する。
もし、相対屈折率が n12=v1/v2 <1 であれば
となるので、
を中心とする“双曲面”となる。そして光学的焦点は双曲面の焦点に一致する。
楕円面や双曲面の離心率eを調整すれば、距離 f は任意の値にできます。
定まった点光源から放射状に出る光線束を、定まった1点に集める有限の大きさのレンズの形を求める。
例えば、下図の@、Aの条件を満たす場合、その対称性によりレンズ内部では平行光線(平面波)となるので、レンズ曲面の形状を決めるのは簡単です。
フェルマーの原理により
を満足する形状にすればよい。後で解るようにこれは“双曲面”を表しています。
7.(3)1.て説明した楕円面に球面を組み合わせると、入射光線が平行光線の場合に像が正確に一点に収束するレンズを作ることができる。いまレンズの屈折率をn、周りの空気の屈折率を1とすると、楕円面の方程式の長半径aと短半径bを
とすればよい。そうすると
の“楕円面”が入射側曲面となる。
出射側曲面は楕円焦点を中心とする半径R2=a+c−d の“球面”にすればよい。そうすれば、出射光線は出射側の球面を垂直に横切りますから、収差は生じない。式中の d はレンズ中心部の厚さを意味する。
7.(3)1.の最後に得られた“双曲面”を出射側曲面とし、入射側を“平面”にしたレンズを作れば、それは平行入射光線を収差なく一つの焦点に集光させるレンズとなる。
このとき双曲線の離心率を調整すれば焦点距離を任意に変更できます。
下図の様に対面が平面の双曲面レンズ二つを貼り合わせた形のレンズを作れば、レンズ内は常に平行光線(平面波)になるので、任意の位置にある点光源からの光線を任意の位置に集光させる完全に収差の無い両双曲面レンズができる。
ただし、特定の物点と像点に対して球面収差の無いレンズだと言っても、点光源(物点)とレンズの距離が変わったり点光源(物点)が中心軸から離れたとき、上記の非球面レンズの結像位置に生じる収差が7.(2)1.の図中の両球面レンズよりも小さくなるわけではありません。むしろ大きくなると思います。
以上説明したように、 定まった1点(点光源を固定)から放射状に出る光線束を、定まった1点(点像の位置を固定)に集めるだけなら、有限の口径レンズでも収差の無いレンズを設計することができます。
しかし、そのように設計されたレンズでも、点光源の位置が光軸に沿って移動したり、光軸から離れる方向に移動すると、もはや点光源の像が完全に一点に収束することはありません。新たに様々な原因に基づく収差が生じます。
そのため特定な位置に固定されたa、bに対して収差が無いレンズ形状だと言っても、その形状に特別な有用性が有るわけではありません。
また、この稿の最初に述べたようにレンズ表面を球面形状以外の形状(例えば双曲面や楕円面)に研磨するのは極めて困難です。その意味に於いても、前節のレンズ形状が解ってもあまり役に立ちません。
すべての共役面(物体面と結像面)に対して、すべての収差を除去できるレンズ系は存在しません。
そのため、主に使用する“共役面”(例えば写真機レンズならば無限遠平面とフィルム面)に対して重点的に取り除くべき“収差”を決めて、球面レンズを組み合わせたレンズ系を設計する事になります。
収差を取り除くには、様々な曲率半径の球面を組み合わせて作った凸レンズや凹レンズを旨く組み合わせてレンズ系を構成します。収差を生じる原因は様々在りますので、レンズ系の設計はとても大変な作業です。
この稿を作った目的は、
○厚いレンズの“レンズメーカーの公式”と、厚いレンズの“主点”と“焦点距離”の導出
○球形ガラス玉で素晴らしい性能を発揮した“レーウェンフックの顕微鏡”の光学的検証
○“ガリレオが作った望遠鏡”の性能の詳細理解
でした。
実際に作ってみて、“近軸光線近似”と“薄いレンズ近似”の働き所が自分なりにやっと理解できました。また、“ガリレオ式望遠鏡の視野”を決めるメカニズムがやっと理解できました。
この稿を作るに当たって、下記文献を参考にしました。感謝!