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メガネの理論

 メガネはレンズの身近で切実な応用です。高校物理の光学に出てきますが、理解するのはあんがい難しい。それは、2枚の組み合わせレンズの問題であり、前方のレンズが作る虚像を2枚目のレンズ(眼球のレンズ)を通して見る問題だからです。その当たりをわかりやすく説明します。

1.近眼鏡(近視の人が掛ける凹レンズのメガネ)

)近視とは

 近視とは、眼球の長さが長すぎるか、あるいは目のレンズが十分薄くなる(焦点距離を長くする)ことができないことにより、遠くの物体の像のできる位置が網膜の手前になってしまうことです。

 

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(2)近眼鏡

 たとえば2.0mより遠いところがはっきり見えない近視の人が無限遠まではっきり見えるようにするには無限遠の物体が2.0mの所の虚像として見えればよい。

つまり焦点距離が2.0mの凹レンズをメガネとして用いればよい。
 別項「球面レンズの曲率半径と焦点距離(レンズメーカーの公式)」6.(3)4.[補足説明3]を参照されて実際に焦点距離を測ってみられることを勧めます。

 

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(3)凹レンズと凸レンズの組み合わせ

 以下の作図には光線について成り立つ性質を利用しています。

 この問題はメガネの凹レンズが作る物体11の虚像22を眼球の凸レンズを通して見るときできる像33がどこにできるかという組み合わせレンズの問題と同じです。

 近視の人がはっきり見えない遠くの物体11を凹レンズにより、近視の人でもはっきり見える位置22に引き寄せてから眼球内の凸レンズで見るのです。そのとき凹レンズの背後にある眼球の凸レンズで見るのだから凹レンズが作る像は凹レンズに対して光線の入射側にできなければならないので必然的に虚像になる。凹レンズは虚像しかできないのでそれはいつも可能です。

 このとき眼球の凸レンズを通して見る像が虚像であることが理解を難しくしている。しかし凸レンズの外側に凹レンズを重ねるということはレンズ面の曲率を小さくして焦点距離を大きくして、より遠くに焦点を合わせることにすぎないと考えれば良い。

補足説明
 薄い二枚の凹・凸レンズを組み合わせて一つのレンズと見なしたときの焦点距離(主点からの距離)は

で与えられます。
 そのとき、たとえ薄いレンズの組み合わせでも、一つのレンズ(厳密にはレンズではない)と見なすと厚みのあるレンズと同じように、レンズの前後で焦点距離を測る基準とする点(主点あるいは主平面という)は二つに別れます。そのためレンズの前後での焦点距離はそれぞれ別々の二つの主点からの距離になります。
 主点や合成系の焦点距離の意味、これらの関係式の証明はかなり込み入っていますので別稿「組み合わせレンズの焦点距離と主点の位置」を参照して下さい。
 
 ここではごく簡単に考えて、dが小さく仮想合成レンズの二つの主点(主平面)が一致すると近似して説明します。その場合には、主点の位置はA13を結ぶ直線が中心線と交わる所と考えて良いでしょう。そのためおよその関係は下図の様になります。二つの主点の正確な位置はこちらを参照して下さい。

 このとき、よりも大きくなれば、もはや主点が一つと見なせなくなりますが、凹レンズを組み合わせたにもかかわらず合成焦点距離は元のの焦点距離よりも短くなる場合が生じます。その当たりに関してはこちらの図を参照して下さい。図中の着色三角形の意味に関しては別稿「メンズメーカーの公式」6.(3)3.を参照されて下さい。

 

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(4)近眼鏡(凹レンズ)を掛けると物体が少し小さく見える理由

近眼鏡を掛けると物体の大きさが実際よりも少し小さく見える。そのわけは下図の様に視角が変わるからです。

 上図の“メガネを通してみた視角”を測る直線は下図の虚像の先端2と網膜上にできる実像の先端3を結ぶ緑色で示した直線です。これはメガネレンズが作る虚像を目のレンズで見る事に相当しますから、その直線は正確に目のレンズの中心を通ります。この直線の作る視角は、裸眼で実物の先端1を見たときの視角よりも小さくなります。ただし、裸眼で見たときの像は網膜位置よりも前側にできますからぼやけて見えます。[拡大図

 

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2.老眼鏡(遠視の人が掛ける凸レンズのメガネ)

)遠視とは

 遠視とは、眼球の長さが短すぎるか、あるいは目のレンズが十分厚くなる(焦点距離を短くする)ことができないことにより、近くの物体の像のできる位置が網膜の外側になってしまうことです。

 

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(2)老眼鏡

 たとえば3.3mより近いところがはっきり見えない遠視の人が0.3mの近くまではっきり見えるようにするには0.3mの位置にある物体が3.3mの所に虚像として存在するようにすればよい。

つまり焦点距離が0.33mの凸レンズをメガネとして用いればよい。
 別項「球面レンズの曲率半径と焦点距離(レンズメーカーの公式)」6.(3)4.[補足説明3]を参照されて実際に焦点距離を測ってみられることを勧めます。

 

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(3)2枚の凸レンズの組み合わせ

 以下の作図には光線について成り立つ性質を利用しています。

 この問題は、メガネの凸レンズが作る物体11の虚像22を、眼球の凸レンズを通して見るときできる像33がどこにできるかという組み合わせレンズの問題と同じです。

 遠視の人がはっきり見えない近くの物体11をメガネの凸レンズにより、遠視の人でもはっきり見える位置22に遠ざけてから眼球内の凸レンズで見るのです。そのときメガネの凸レンズの背後にある眼球の凸レンズで見るのだからメガネ凸レンズが作る像は凸レンズに対して光線の入射側にできなければならないので必然的に虚像でなければならない。凸レンズは物体が焦点距離の内側にあるときしか虚像ができないので、必然的にメガネ凸レンズの焦点距離は見ようとする近くの物体とメガネの距離よりは長くなる。

 このとき眼球の凸レンズを通して見る像が虚像であることが理解を難しくしている。しかし凸レンズの外側に凸レンズを重ねるということは凸レンズ面の曲率を増してより近くに焦点を合わせるにすぎないと考えれば良い。

補足説明
 薄い二枚の凸レンズを組み合わせて一つのレンズと見なしたときの焦点距離(主点からの距離)は

で与えられます。
 そのとき、たとえ薄いレンズの組み合わせでも、一つのレンズ(厳密にはレンズではない)と見なすと厚みのあるレンズと同じように、レンズの前後で焦点距離を測る基準とする点(主点あるいは主平面という)は二つに別れます。そのためレンズの前後での焦点距離はそれぞれ別々の二つの主点からの距離になります。但し凸レンズの組み合わせでは前側の主点と後ろ側の主点の位置が前後に入れ替わりますので注意が必要です。
 この当たりの詳細は別稿「組み合わせレンズの焦点距離と主点の位置」を参照して下さい。
 
 ここではごく簡単に考えて、dが小さく仮想合成レンズの二つの主点(主平面)が一致すると近似して説明します。その場合には、主点の位置はA13を結ぶ直線が中心線と交わる所と考えて良いでしょう。そのためおよその関係は下図の様になります。二つの主点の正確な位置はこちらを参照して下さい。

 このとき、よりも充分大きくなれば、もはや主点が一つと見なせなくなりますが、凸レンズを組み合わせたにもかかわらず合成焦点距離は元のの焦点距離よりも長くなる場合が生じます。その当たりに関してはこちらの図を参照して下さい。図中の着色三角形の意味に関しては別稿「メンズメーカーの公式」6.(3)3.を参照されて下さい。

 

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(4)老眼鏡(凸レンズ)を掛けると物体が少し大きく見える理由

老眼鏡を掛けると物体の大きさが実際よりも少し大きく見える。そのわけは下図の様に視角が変わるからです。

 上図の“メガネを通してみた視角”を測る直線は下図の虚像の先端2と網膜上にできる実像の先端3を結ぶ緑色で示した直線です。これはメガネレンズが作る虚像を目のレンズで見る事に相当しますから、その直線は正確に目のレンズの中心を通ります。この直線の作る視角は、裸眼で実物の先端1を見たときの視角よりも大きくなります。ただし、裸眼で見たときの像は網膜位置よりも後側にできますからぼやけて見えます。[拡大図

 

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(5)拡大メガネレンズ(ハズキルーペ)のメカニズム[2017年11月追記]

 読者の方から拡大メガネレンズ(商品名“ハズキルーペ”)についての御質問を受けましたので、少し検討してみました。
  最初に、私どもが使用している老眼鏡の倍率を老眼鏡をかけた時と裸眼の時の視野角を比較して確かめました。普段利用している度の弱い老眼鏡の倍率は1.1倍程度で、本などを読むとき利用している度の強い老眼鏡の倍率は1.2倍程度でした。
 度の弱い方は目から対象物までの距離が30cm〜100cm程度のときはっきり見えますが、度の強い方はより拡大はされますが目からの距離は25cm〜35cm程度の範囲しかはっきり見えません。
 老眼鏡はもともと近くにある物の像が網膜の位置に結ばれるように調節するものです。メガネレンズの位置は裸眼レンズの近くに固定されていますから、レンズの前後の位置ではなくてレンズ厚さを調節することでそのことを実現しています。そのため“普通の老眼鏡”の倍率はあくまで従属的に決まると考えなければいけません。
 そのとき、倍率拡大(1.6倍とする)を主目的としたメガネができるのか?つまり、老眼を補正する機能は同じだが像の倍率を1.2から1.6倍にすることは可能かということです。ここでは普通の(倍率1.2倍の)老眼メガネレンズと比較してそのメカニズムを説明します。 そのとき眼のレンズは老眼だが乱視は無いとします。

 老眼を補正する機能が同じだと言うことは下図において物体A11の位置、虚像A42の位置、目のレンズ位置、網膜位置が同じということです。そのとき、メガネ(凸)レンズの厚さ(焦点距離)とレンズの位置を変えることで1.6倍の倍率が可能かということですが、それは可能です。
 下図で灰色で記した位置4に虚像が、そして実像5が網膜位置にできるように、メガネ(凸)レンズの焦点距離と位置を調整すればよい

 “拡大メガネレンズ”の焦点距離と位置を導くには別稿「組み合わせレンズの焦点距離と主点の位置」の考察が必要ですが、2.(3)の図

を利用すれば、メガネレンズの焦点距離と位置を図上で求めることができます。

 メガネレンズの位置は下図中の41点を結んだ直線の延長線が光軸中心線B23と交わる位置(下図のO点)です。
 メガネレンズの焦点距離は以下の手順で求まる。まず1点から水平線を引きその線がO点の位置のメガネレンズと交わる点を6とします。次に虚像の先端点4と今求めた6点を結んだ直線の延長線が光軸中心線B23と交わる点をとします。メガネ位置交点距離OFが用いるべき凸レンズの焦点距離です。
 そうなるのは、メガネが作る虚像を眼のレンズで見ることがメガネを利用するということだからです。[拡大図

補足説明
 虚像A42の位置は虚像A22の位置と同じとしていますので、同じ位置の像(虚像でも同様)を同じレンズ(眼レンズ)で見たときの実像のできる位置は同じになります(このことについては別項「球面レンズの曲率半径と焦点距離(レンズメーカーの公式)」6.(3)4.[補足説明2]を参照)。すなわち5333は同じ網膜位置にできます。そのため点4の像5線分B33を延長した位置に結像します。このとき、57と進む光線と、8と進む光線に対して光線について成り立つ性質の(4)を適用すれば以下の事柄が言える。
 図中の拡大(1.6倍)レンズにおいて、1から出て6に到達した光線はそこの拡大メガネレンズで屈折して7の方向へ進む。7に届いた光線はそこの眼のレンズで屈折して網膜上の5点へ集光する。
 同様に1から出てに到達した光線はそこの拡大メガネレンズの中心を真っ直ぐに通り抜けて8の方向へ進む。8に届いた光線はそこの眼のレンズで屈折して網膜上の5点へ集光する。

 図から明らかなように物体A11を1.6倍に拡大する拡大メガネレンズの焦点距離OFは、普通の老眼メガネレンズ(1.2倍に拡大)の焦点距離Fよりも短くなっています。つまりより厚い凸レンズです。また、1.6倍拡大メガネは1.2倍老眼メガネよりも目から離れた位置に設置しなければならない。
 実際に市販されているハズキルーペは私の老眼鏡より厚い凸レンズであり、使用時のメガネレンズと眼レンズの間の距離は、私が普段利用している老眼鏡より2倍程度遠い位置に来るように鼻にかかる部分が作られています
 御質問を下さった読者の方は、ハズキルーペの左右レンズの光学的中心間隔が成人の瞳間隔(62mm)より14mm狭く設計されていると指摘されていました。このようにしなければならないのは、ハズキルーペと眼球レンズの間隔が普通の老眼鏡(眼球レンズの近くにある)に比較してかなり離れているためでしょう。眼から30cm〜50cmの所にある対象物を両眼視するために寄り眼になった場合、より対象物に近いメガネレンズ中心の左右間隔を裸眼の左右間隔よりも狭める必要があります。
 ハズキルーペと普通の老眼鏡との使用感の違いは、おそらくレンズが眼から離れていることと、上記のレンズ中心の間隔が眼のすぐ近くで使用する普通の老眼メガネに比べて狭くなっている事からくるのでしょう。

 私の父(92歳で今年の4月に亡くなりました)はハズキルーペを購入して持っていました。今それを利用してみますと確かに拡大機能があり、老眼鏡としての働きもあります。
 しかし、私の眼レンズにはゆがみが有り乱視が伴っています。そのため私の老眼鏡は乱視を補正したレンズです。ところが、ハズキルーペには乱視を補正する機能はありませんので、本の文字などは拡大されますが二重に見えます。そのため普段使用している乱視補正をした老眼鏡の様によく見えるわけではありません。老眼鏡としては全く役に立ちません。ハズキルーペのレンズと眼の間の隙間は大きいので、普段使用の老眼鏡の上にかけて拡大機能を利用することもできますが、使用感はイマイチです。
 私どもの父がハズキルーペを購入したのは、父が白内障手術(85歳の頃)を受けて人工レンズになっていたため乱視が無かったからだと思います。メガネ屋で試して拡大鏡としての機能を確認した上で買ったのでしょう。乱視が無い晩年の父は拡大鏡メガネとしてそれなりに利用していました。

 

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3.老人の嘆き

 私自身、老眼鏡が手放せなくなって久しいが、老眼とはまさに眼球のレンズ(水晶体)の厚さが調節できなくなることだと実感してます。要するに水晶体の弾力性が失われて毛様筋(水晶体の周りを取り巻くリング状の筋肉)が収縮してチン小帯(毛様体と水晶体を結ぶ帯)がゆるんでも眼球レンズがもとの厚みに戻らなくなる。(このあたりのメカニズムは生物の教科書参照)
 私のように元々目が良くて遠くまではっきり見ることができた者は老化するとある距離(私の場合は7〜8m先)の所がはっきり見える状況のレンズの厚さに固定されてしまうということのようだ。若い頃に比べて遠くも少しぼやけてきたし、近くは全くぼやけて老眼鏡のお世話にならなければならない。
 おそらく近視の人が老人になると、焦点がごく近くのどこかに合ってレンズが固まってしまうのだろう。

[2013年5月追記]
 この稿を御覧になった方から次のような質問がありました。
“1.(4)によると近眼鏡(凹レンズ)をかけると、対象物の視角が小さくなる。そのため視野角(画角)は拡大する。ところが、一般的にレンズの焦点距離が長くなると視野の画角は狭まり、逆に短くなると画角は広がる。1.(3)では合成レンズの焦点距離が長くなるにもかかわらず広角(つまり倍率が下がりより広い範囲が見える)になるのはなぜですか?”
 確かにそういった疑問が生じますね。私自身このことは深く考えていませんでしたので、[補足説明]を追加しました。近眼鏡と老眼鏡では、メガネの凹or凸が変わるために対象物と虚像の位置が入れ替わります。しかし、虚像と実像の違いを無視すれば眼球レンズに対する光線経路図は良く似ています[1.(3)の二番目の図と2.(3)の二番目の図を比較して見て下さい]。そのため、対象物と虚像が入れ替わる近眼鏡と老眼鏡で視角(従って画角)の変化が逆転する。この様な組み合わせレンズの合成焦点距離と画角の関係は単レンズの場合と違う様です。これは確かに驚きで、私も初めて知りました。感謝!
 同じ人から、“カメラレンズの前に近眼鏡を置いても広角の効果が得られる。”と教えられました。これも興味深い発見ですね。

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