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放射能と吸収線量の測定単位

 放射能や吸収線量の測定単位はかなり込み入っています。放射線の測定単位の基本は放射線を出す側についてのベクレルですが、原発事故では放射線を受ける側に関係するグレイ、シーベルトが最も関心のある処です。

1.放射能(ベクレル[Bq])

)定義

 原子核が毎秒1個の割合で崩壊する放射能の強さを1ベクレル[Bq]と言います。個数は無次元量なので単位は[1/s]です。

 ここで忘れてはならないことは、ベクレル単位放射線を出す側に関係する単位であり、その意味は単位時間[1s]当たりの崩壊数であることです。
 そのためどれだけの範囲に存在する放射性物質についての値であるかを明示しないと、放射能が何々ベクレルと言っただけでは、放射能汚染の程度をはかる上で全く意味がありません
 たとえば地表に沈着して汚染している放射性物質については、1[cm2]or1平方メータ[m2]or1平方キロメートル[km2]当たりに何ベクレルと、その範囲を指定しないと地表に降り積もっている放射線源の量が実際にどの程度なのか何も解りません。また空中を漂う放射線源については空気1[cm3]or1立方メートル[m3]当たり何ベクレル体積を指定しないと意味がありません。とくに問題になるのは飲料水や食物が汚染された場合ですが、その場合も水1[cm3]or1リットル[10-33]or1立方メートル[m3]当たり何ベクレルとか野菜1[g]or1[kg]当たり何ベクレル容積や質量を指定しなければなりません。
 かって大気中核爆発実験が行われていた時代に、大地に降り注ぐ放射性物質の量を1平方キロメートルについて1年間当たり何々ベクレル(キュリー)と言っていたことがあります。この場合の値には広さのファクターにさらに時間的な集積ファクター[1年当たり]が乗じられていますから、今日の放射能汚染をこの時代の数値と比較するときにはさらに注意が必要です。
 
 この単位での測定値と放射性物質の核種が解ると、その範囲内に放射性物質がどれだけ存在するかが次節で説明する式により計算できます。この単位から解ることは毎秒当たりの崩壊数ですが、それが環境にどんな影響を与えるかは、崩壊放出粒子がα線orβ線か、どんな運動エネルギーを持って放出されるのか、崩壊に伴って放出されるγ線のエネルギーの値はいかほどかに依存します。それらは放射性核種ごとに異なりますから、同じベクレル値でも放射性核種が変われば周り(人体)への影響は違ってきます。

)単位時間当たりの崩壊数

.計算式

 あらゆる放射性核種の崩壊確率(半減期)は決まっていますので、核種とその存在量が定まれば放射能は直ちに計算できます。任意の放射性核種の放射能の強さは別稿「放射性崩壊と半減期」2.で導いた公式

を用いればよい。当然のことですが親の放射性核種の量が減って行きますので放射能の強さは時間と共に減少していきます。そのとき、崩壊してできる娘核種がさらに崩壊を起こす放射性核種の場合はその崩壊も計算に入れなければならず、放射能の時間的変化はかなり複雑になります。その当たりは別稿「放射性崩壊系列の数学」で導いた式を利用しなければなりません。

.放射性元素1gが出す放射能の強さ

 ここでは話を簡単にするために時間的推移は考えません。ある瞬間に一種類の放射性元素のみが存在しているとして、その瞬間の一秒当たりの崩壊数を計算してみます。以下の計算で1年=3.1556926×107秒、アボガドロ数=6.022×1023個/molとし測定質量m=1gとしています。

23892[半減期=4.51×109年=1.42×1017秒、原子量=238.0]の場合

となる。要するにウラニウム238が1g存在すると一秒間にその内の約1万2千個が壊れてα線とγ線を出すと言うことです。
 1.(4)での説明から解るように、我々人体の中に含まれる放射性カリウムの崩壊数は毎秒数千Bq/1人程度です。そのため1gのウランが身近に存在してもそれと同程度ですからほとんど影響はありません
 しかしながら人体内の1cm3[約1g]中の放射性カリウムの崩壊数は、上記の数千Bq/1人を人間の体重[仮に60×103gとする]で割った0.1Bq程度となります。そのため1gのウラニウムを飲み込んだ場合は深刻です。そのウラニウム塊の周りの組織の放射能被爆はカリウムによる自然被爆の約10万倍となります。しかもウラニウムの半減期は非常に長いためウラニウムの周りの人体組織は長い間放射能被爆し続けることになります。それは危険な状況です。
 また、同じ1gのウラニウム23892といっても固体状で存在するのか粉末状で存在するのかによりその危険性は全く異なります。粉末状で大気中に飛散すれば、呼吸により人体の肺組織に沈着したり、体内に取り込まれて深刻な状況を引き起こします。粉末状や溶液状の放射性物質はきわめて危険な存在です。
 だから同じ1gのウラニウムといってもその存在状況によって放射能の影響は様々です

226Ra88[半減期=1622年=5.12×1010秒、原子量=226.0]の場合

となる。ラジウム226の半減期はウラニウムに比べてその百万分の1以下と短く、その質量数はほぼ同じですから、同質量の1秒当たりの崩壊数はラジウムの方が百万倍以上多くなります[別稿「初期の原子物理学でラジウムが主役を務めた理由」参照]。そのためラジウムの1gはたとえ固体状で人体の外部に存在しても、ウラニウムの1gと違って人体にかなりの影響を与えます。裸の状態で身につけるのはきわめて危険です。実際α線やβ線の空気中での透過距離は数センチメートルから数十cm程度ですから、接触すれば人体組織を破壊し火傷を起こします。さらにγ線には強い透過力があります。
 また、226Ra88崩壊して生じる222Rn86(ラドン)気体なので空気中に拡散していきます。そのラドンは半減期3.8日で崩壊して固体のPo(ポロニウム)になります。気体のRnを肺に吸い込んだ後に固体元素Poに壊変すると、肺の中に沈着して、肺組織の上でそれ以後の崩壊系列が起こります。ウラン鉱山の鉱夫で肺ガンに罹患する人が多い理由です。その意味でも226Ra88の取り扱いには注意が必要です。

 昔はラジウム1グラムの1秒当たりの崩壊数でもって放射能の強さを定めていました。当時1gのラジウムは1秒当たり3.7×1010個崩壊すると考えられていましたから1秒間に3.7×1010個の原子核が崩壊する状況の放射能の強さを1キュリー[Ci]と言っていました。つまり1Ci=3.7×1010Bqです。今日この単位は用いられていませんが、昔の文献を読むときには注意が必要です。

 他の放射性崩壊核種についても全く同様に計算できます。別稿「核種表と放射性崩壊過程」p=82~94p=88~100から半減期と原子量(質量数)を読み取って計算してみてください。当然のことですが同質量の物質当たりの放射能は原子量と半減期の積に逆比例します
 同じ1gの放射性物質と言っても半減期の短いものはきわめて強力な放射能を持つことになります。しかし半減期が短ければ急速に崩壊して行くので環境への影響は半減期程度の年・月・日・時で減少していきます。[別稿「初期の原子物理学でラジウムが主役を務めた理由」参照]。

)核分裂生成放射性元素

 23592[ウラニウム235]核分裂(原子力発電や原子爆弾)によって生まれる放射性核種について説明します。核分裂では核が二つに割れますが、確率論的に考えると明らかな様に等分に割れることはまれです。大半は少し質量差のある非対称な割れ方をします。そのためウラニウムの半分程度の原子番号(30~60)や質量数(80~160)を持ったものが数百種類生成します[下図参照]。

 上図の縦軸が対数目盛であることに注意してください。核分裂を起こす入射中性子のエネルギーが増大すると、分布はより対称的になります。
 核分裂に伴う中性子放出はせいぜい数個[放出個数は入射中性子のエネルギーに関係し、その速度が増すと放出中性子数は増えます。]ですから、生成する核分裂生成核種の中性子-陽子数比率は23592の中性子-陽子数比率に近い値になります。[下図赤線上]

 普通原子核は原子番号の増大と共に中性子-陽子数比率が少しずつ中性子が多めになった方が安定になります[理由の説明は省略]。そのため上記の事情を考慮すると、ほとんどの核分裂生成核種は同一原子番号の安定同位体と比較して中性子が過剰な状態で生成されます。
 そのため、ほとんどの核分裂生成核種は一連のγ線放出を伴う負のβ崩壊をして中性子を陽子に変換しながら[上図で右下の方向の]安定な核種へ崩壊してゆきます。下記の反応(パラジウム115)はその一例です。

同様な崩壊系列は原子核チャート[p=30~44p=36~50p=42~57]を左上から右下の方向へたどってゆけば様々なものが導けます。
 そのとき安定領域から外れている最初の出発核種の崩壊半減期は数秒~数分以下の短いオーダーですが、崩壊系列の終着点である安定領域に到達した時の半減期は数日、数ヶ月、数年、数億年、安定と様々です
 こういった核種による放射能汚染で注意すべきことは、半減期が短いものは環境汚染された当初は強い放射能を発揮しますが急速に消滅していくことです。一方崩壊系列で最終的に行き着く核種の半減期は比較的長いので、放射能の強度自体は小さいのですが、いつまでも放射線を出し続けます。

[2017年3月追記]
 現実に、チェリノブイリや福島の原発事故で放出された放射性核種の中で最も問題になるのは半減期が数年から数十年、数百年と言った核種です。例えばセシウム137(半減期30年)、ストロンチウム90(28年)、トリチウム[水素の同位体](12年)等々・・・・です。
 特にトリチウムは水[H2O]の構成物となり、福島では事故から6年経った現在(2017年)でも、メルトダウンした原子炉から放射能汚染水(もちろん他の放射性物質も含まれて)として流出し続けています。その汚染水の保管・処理がとても難しい問題となっているようです。

 核分裂生成物は原子炉の運転により、原子炉中に蓄積していきます。そのようにして蓄積した放射性核種の崩壊によって放出される熱は無視できない量がありますので、原子炉停止後もかなりの期間燃料を冷やし続けて燃料棒の損傷・環境への飛散が起こらないようにしなければなりません。
 核分裂生成物の種類は何百種類もあり、それぞれが固有の半減期を持ち、崩壊に伴う放射線も異なる非常に複雑な過程です。そのため核分裂生成物の全般的な傾向を示すために次の近似式が普通用いられます。一つの核分裂が発生してから、10秒後から数週間までの期間について、放出されるβ線およびγ線の放出率はおよそ次式で表される。ただしtは核分裂後の経過日数です。

β線一つが原子核一個の崩壊に伴うのですから核分裂生成物原子1個についての放射能の時間的変化

となります。
 実際の原子力発電所の原子炉における運転停止後の放射能の時間的推移は、運転を止めたとき存在する核分裂生成核種の原子数を乗じた値になります。各時間で発生する熱エネルギーもその時間での崩壊数に関係します。

 半減期が数日のオーダーである放射性ヨウ素131を例にして計算してみます。たとえばこれが1g存在するときの放射能は
13153[半減期=8.05日=6.955×105秒、原子量=130.9]ですから1.(2)1.の計算式により

となります。
 このヨウ素が飛散して地表に均等に降着しており、仮に面積1m2当たり46000Bqの放射能であったとすると、その1m2内に13153が10-11gほど存在するということになります。
 
 ヨウ素は人体に必須の元素ですから、定常的に体内に取りこまれています。そのとき半減期が8日であるということは、非放射性ヨウ素12753の錠剤を服用して安定ヨウ素を過剰に体内に取り入れておけば相対的に放射性ヨウ素の体内への取り込み、沈着を防ぐ効果が期待できます。そのようにして放射性ヨウ素が崩壊して減少するまでのしばらくの間をやり過ごすわけです。そのような対症療法が可能なのは半減期が数日程度の元素についてであって、それ以上に長い数ヶ月、数年といった半減期のものに関しては有効ではありません。

)人体の体内被曝

 人体は様々な元素で構成されています。その構成分子の多くは水と炭水化物ですから、酸素、炭素、水素、窒素が主な構成要素ですが、カリウムも人体に取って必須の元素で1人当たり100~200g程度含まれています。
 このとき、なぜカリウムが問題となるかというと、ウラン、トリウムの放射性崩壊系列元素以外に、安定領域に存在する元素でも放射性同位体を持つも元素があるからです。別稿「放射性崩壊と半減期」4.(5)で説明した様に

4019:カリウム、5023:バナジウム、37Rb87:ルビジウム、115In49:インジウム、138La57:ランタン、142Ce58:セリウム、144Nd60:ネオジム、147Sm62:サマリウム、152Gd64:ガドリニウム、174Hf72:ハフニウム、176Lu71:ルテチウム、187Re75:レニウム、190Pt78:白金

などの放射性核種が現在まで残っています。

 この中で人体内で存在量が多いのはカリウム40です。カリウムには三種類の同位体が存在し、それらの自然界における数の存在比39K:40K:41K=93.10%:0.0118%:6.88%です。それらの同位体の化学的性質は全く同じですから、人体の内にもこれと同じ比率で取り込まれて存在します。そのため放射性カリウム4019が、上に述べた100~200gの0.0118%である0.01~0.02g程度人体内に存在します。このカリウムの放射能は今までと同様に計算できます。
4019[半減期=1.26×109年=3.98×1016秒、原子量=40.0]ですから1.(2)1.の計算式により

となります。つまり我々は一人当たり数千ベクレル[Bq]程度の放射能を持っており、我々自身が常にこの放射能による放射線被曝をしているということです。おそらくこれが我々を老化させ、ガンを発症させたりする原因の一つとなっているはずです。補足しますと、4019は下図の様に電子と反電子ニュートリノを放出して40Ca20に成ります。このとき反電子ニュートリノは人体とほとんど反応しませんので、人体に有害なのは放出される電子と、そのとき同時に放出されるγ線です。

 もちろん、この放射性カリウムによる体内被曝以外に、宇宙線や地中のウランやトリウムの崩壊系列産物の放射線による被爆が加わります。これらも、人体にはそれぞれ放射性カリウムと同じオーダーの影響を及ぼしますが、放射能汚染の人体への影響を考えるときに、我々自身が持つ放射能が一つの判断基準になることは確かです。

 そのとき注意すべきは上記の数千Bqという値は人体全部[人の体重60kg]についての値であって、人体中の1リットル[約1kg]当たりでは100Bq程度、200ml[約コップ一杯]当たりでは20Bq程度、1cm3[約1g]当たりでは0.1Bq程度になることです。
 例えば飲み水が放射性ヨウ素13153により汚染されて1リットル当たり1000Bqを超えたと言われるとき、その水をコップ一杯[約200ml]飲んだ場合の放射能200Bqは、体内にある放射性カリウムの十倍程度であると言うことです。もちろん取り込んだヨウ素が甲状腺などの特定部位に集積される場合には、何百倍にもなります。そのとき、ヨウ素131は半減期[8.05日]経つごとに半減してゆきますが、カリウムの半減期は長いのでそうはなりません。

[補足説明]
 カリウムが放射性崩壊をすることを発見したのは陰極線の研究で有名なJoseph John Thomsonのようです。
J.J.Thomson, "On the emission of negative corpuscles by the alkali metals", Philosophical Magazine, Ser. 6 10, p584~590, 1905年
また、トムソンは井戸水のなかに放射性ガス(ラドン)が含まれることも早い段階で報告している。
J.J.Thomson, “Radio-Active Gas from Well Water,” Nature 67, no. 1748,p609~, 1903年
 
 放射性カリウムの同位体4019そのものを質量分析器で発見したのはミネソタ大学のアルフレッド・ニーア(Alfred Otto Carl Nier)だそうです。(大河内直彦著「チェンジング・ブルー(気候変動の謎に迫る)」岩波書店(2008年刊)のp35より)
Alfred O. C. Nier , “Evidence for the existence of an isotope of potassium of mass 40”. Phys. Rev. 48:283-84. 1935年
Alfred O. C. Nier , “Redetermination of the relative abundances of the isotopes of carbon, nitrogen, oxygen, argon, and potassium.” Phys. Rev. 77:789-93. 1950年

 

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これ以後の照射線量、吸収線量、線量当量放射線を受け取る側に関係する単位です。

2.照射線量([C/kg])

)定義

 空気1kgに放射線[x線orγ線]を照射したとき、電離作用により正負それぞれ1クーロン[C]のイオン対をつくる照射線量1[C/kg]と言う。

 これはもともとx線またはγ線の照射線量の単位です。このような単位が作られ用いられたのは、初期の放射性物質の研究に於いて、その量を測定するのに、それらの物質が放射する放射線による空気の電離作用が用いられたからです。このことに関しては別稿「α線とβ線の発見」「ラザフォードとソディの放射性変換説」等を参照してください。当初はそれ以外に放射線を定量する有効な方法が無かったのです。そのとき放射線のエネルギーが高いほど、また放射線数が多いほど電離能力は大きいので電離作用によって生じる電気量の測定は放射性物質を判別・計測する一つの有力な手段でした。
 ここで注意してほしいことは、γ線のエネルギー値が高くなると電子平衡状態が実現できなくなり測定が困難になることです。また、この単位はα線やβ線などの荷電粒子線に関しては測定自体が難しく意味を持たないと言うことです。なぜなら3.(3)1.で説明するように放射性核種から放出されるα線やβ線の空気中での透過力は数cmから数十cmです。だから照射による電離の程度と言っても測定状況を規定することが困難です。そのためこの単位はx線やγ線を用いた写真撮影などの医学的検査や工業的検査などにもちいられるx線やγ線の出力を示す目安として使用されるものだと思った方がよい。

)旧単位レントゲン[R]との関係

 今は使われていませんが、かって照射線量を測る単位としてレントゲン[R]が使われていました。この名称はx線を発見したレントゲンに由来します。その定義は

 標準状態の空気1cm3に放射線を照射したとき正負それぞれ1静電単位[CGSesu]のイオン対を作るときの照射線量を1レントゲン[R]=[CGSesu/cm3と言う。

でした。ところで、1CGSesu=3.3356×10-10C(別稿参照)であり、標準状態の空気1cm3の質量は1.29×10-6kgですから

となります。ちなみにレントゲン検査で、直接撮影の照射線量は数mR/1回、間接撮影で数十mR/1回、胃の透視が1R程度です。

 

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3.吸収線量(グレイ[Gy])

)定義

 放射線により、1[kg]の物質に1ジュール[J]のエネルギーが与えられたとき、その吸収線量1グレイ[Gy]=[J/kg]と言う。与えられたエネルギーは最終的には熱エネルギーになります。

 グレイは放射線吸収体の単位質量[1kg]当たりに付与されるエネルギー値で定義されていることに注意してください。だから体重60kgの人についての被爆吸収線量と言う場合は全体重についてのエネルギー付与値ということになります。
 前記の定義から明らかなように同じ放射線源からの放射線による被爆であっても、時間と共に吸収線量(吸収エネルギー量)は増大します。だからこの単位では1分or1時間or1日or1年当たりの吸収線量が何グレイ[Gy]と時間を限って指定しないと意味がありません。この事情は次に述べる線量当量についても同じです。これは1.で述べた放射能の単位ベクレル[Bq]が、放射能が含まれる範囲を指定しないと意味がなかったのと同じ事情です。
 また、放射線が周囲の物質にエネルギーを与えるメカニズムは3.(3)で説明するように放射線の種類により異なりますので、そのことによる違いも考慮しなければなりません。

)旧単位ラド[rad]とグレイ[Gy]の関係

 以前は物質1[g]に100[erg]のエネルギーを与える放射線量を1ラド[rad]と言っていました。

 1J=1×107erg、1kg=103gだから1[rad]=0.01[Gy]となります。空気分子の電離に必要なエネルギーを考慮すると前出の1レントゲン[R]は1ラド[rad]程度、すなわち10-2グレイ[Gy]程度に相当します。

)放射線と物質の相互作用

.荷電粒子線

 放射線を構成する荷電粒子はα線、β線、核分裂片です。これらの荷電粒子が原子に接近すると次のような事柄が生じる。まず荷電粒子のクーロン場が原子の軌道電子に力を及ぼし、電子をよりエネルギー準位の高い状態に励起する。あるいは電子をたたき出して原子をイオン化する。荷電粒子自体は軌道電子の雲を突け抜けて原子核と弾性散乱する。衝突された原子は反跳する。入射粒子が重く運動エネルギーが大きい場合は、反跳原子は電子雲を突き抜けてターゲット物質中を荷電粒子として飛翔する。入射粒子がα粒子の場合には、ある種の条件下で核と反応して核反応を起こす。また入射粒子は電子雲、原子核のクーロン場により減速され一個の光子を放射する[制動放射]。このような様々な複雑な現象が生じる。

 放射線はそのエネルギー値が高いほど物質への影響は大であるのはもちろんですが、一般的に言って持っている電荷が多いほど物質との相互作用が大きく標的原子の状態変化は大きくなる。また相互作用が大きいと言うことは、標的原子との相互作用により急速にその運動エネルギーを失って行くので到達距離が小さくなる。

(1)核分裂片
 核分裂片の分裂時に持つ運動エネルギー値は50~100MeV程度ですが、平均的なイオン化の程度は+20e~+22e程度で強力にイオン化されているので電離作用が強い。そのため物質中での飛程は非常に短く0.01mm程度です。
(2)α線
 α線は崩壊核種ごとに固有のエネルギーを持って放出されますが、そのエネルギー値はだいたい数MeV程度です。+2eの電荷を持っていますので標的原子と強く相互作用をします。電離作用は大きく、空気中での飛程は数cm程度です。また固体中での飛程は0.1mm以下ですから、紙一枚で遮蔽することができます。
(3)β線
 β線は原子核内の過剰中性子がβ崩壊することで放出されますが、そのとき生成する陽子、γ線、ニュートリノとの関係でβ線が持つエネルギースペクトルは連続的になります。その最大エネルギー値は数MeV程度ですが、その電離作用はα線より弱くγ線より強い中程度です。空気中での最大飛程は数十cm程度ですが電子の質量は小さいので散乱方向が変化してクネクネした軌跡となります。β線の液体や固体中での飛程は短く1cm以下で、その遮蔽は難しくありません。
 
 荷電粒子線の液体・固体中での飛程は短いので遮蔽は難しくありませんが、強い放射能の放射線物質に直接触れた場合には火傷と同じような損傷を生じます。飛程がいくら短からと言っても、そういった放射線核種が呼吸、水の飲料、食物の摂取などによって体内に取り込まれると健康への影響は深刻になります。 

.電磁波(x線、γ線)

γ線は光電効果、対生成、コンプトン効果により物質から電子をたたき出しながら、そのエネルギーを失っていきます。

(1)光電効果
 入射したx線やγ線は原子全体と反応して、x線・γ線は消失して軌道電子のどれかが放出されます。この過程で原子は反跳しますが、運動エネルギーとして受け取るものは少なく、光電子の運動エネルギーは入射光子のエネルギーから電子の結合エネルギーを差し引いたものにほぼ等しい。x線・γ線がより内殻の電子を放出すると、その空いた軌道に外殻の電子が落ち込んでくる。その際x線の放出や別の電子の放出が伴う。
(2)対生成
 γ線は原子核のクーロン場との電子相互作用によって電子-陽電子の対生成をして消滅する。対生成した電子と陽電子は周囲の媒質原子と衝突してエネルギーを失っていく。陽電子は低いエネルギーまで減速されると電子と結合して消滅し二個の光子(各々0.511MeV)を発生する。
(3)コンプトン効果
 コンプトン効果とはγ線光子があたかも粒子の様に電子と衝突して散乱される現象です。コンプトン散乱ではγ線そのそのが消失することはありませんので、γ線の遮蔽が困難な理由です。
 γ線は荷電粒子に比べて物質原子との相互作用は弱く、なかなか減衰しないので透過性は大きく遮蔽は難しい。

.中性子線

 核分裂に伴い分裂片と共に中性子も幾つか放出されます。中性子は電荷を持っていないために物質との相互作用は弱く透過性は大きくなります。中性である故に原子核のプラス電荷の反発を受けないので原子核と衝突して原子核中に取り込まれ次の変化のいずれかが生じます。

(1)原子核を変化させることなく再び外に出る弾性散乱。
(2)原子核を励起状態にして外に出る非弾性散乱。
(3)核内に取り込まれて新たな核反応を引き起こす。

 特に新たな核反応の引き金になることが中性子線の最も重要な性質です。この性質のために23592などの核分裂核種が狭い範囲に集積されると連鎖反応が始まり、連続的に核分裂反応が進んでいきます。原子力発電や原子爆弾の作動メカニズムです。またこの性質のために人体への影響も大きくなりますので次節でのべるRBE値も大きくなります。

 

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4.線量当量(シーベルト[Sv])

)定義

 放射線の人体への影響を示す単位です。物質が放射線から与えられるエネルギー値を示すものが吸収線量でしたが、その放射線がx線やγ線の様な電磁波なのか、β線、陽子線、中性子線、α線、核分裂断片などの粒子なのかにより、同じエネルギーでも人体への影響は異なります。
 そのため生物への影響を示すために、放射線の種類ごとにRBE値(生物学的効果比:Relative Biological Effictiveness)を乗じて合計した線量当量の単位シーベルト[Sv]=[J/kg]が使われます。つまり

となります。

 前節3.(3)で説明したように物質原子と放射線の相互作用は放射線種が違えば大きく異なります。そのため生物学的な影響も異なります。前記のRBE値はx線、γ線の影響の度合いを基準値1として他を決めています。放射線障害の危険性の高い中性子線、α 線などに対しては1より大きい数値(放射線の種類、エネルギーによって1~20)が決められている。
 そのとき、荷電粒子の透過性は小さいので、生物学的な影響を測るには実験動物の体内に均等に分布する状態での放射線量による評価でないと正確な評価はできないことになります。その評価の詳細は適当なHPを参照されてください。
 シーベルトはグレイと同様に、もともと放射線吸収体の単位質量[1kg]当たりに付与されるエネルギー値に関(RBE値による重み付けはあるが)して定義されています。そのため同じシーベルト値でも人体部位や、人体の一部か全体についてのものか等の説明が無いと正確な影響を見積もることはできません
 また、人体に付与されるエネルギー値は被爆時間と共に加算されていきますので、この単位での説明には1分or1時間or1日or1年当たりの線量当量が何シーベルト[Si]であると時間を限って指定しないとその影響を見積もることはできません。
 さらに、同じシーベルト値でもどれだけの期間で受けた線量当量であるかが重要です。同じ線量当量でも短期間に受ければ人体への影響は大きくなります
 だからシーベルト値と人体への影響の関係を示すとき、単位時間・単位質量当たりのシーベルト値をどれだけの時間・どれだけの質量で合算したシーベルト値であるかが明記されていないと意味がありません。

)旧単位レム[rem]とシーベルト[Sv]の関係

 以前は、線量当量の単位としてレム[rem]が用いられていました。1[rem]=0.01[Sv] となります。 

)シーベルト値と放射線傷害

 最も関心のあるところであると同時に、その影響の正確な評価が最も難しい所です。詳細は適当なHPを参照されてください。

 

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5.原子力発電所事故による放射能汚染

[2013年3月追記]チェルノブイリ原発事故

 日本学術会議は、IAEAが2006年に出版した報告書を翻訳してpdfファイル「チェルノブイリ原発事故による環境への影響とその修復:20年の経験(4.167KB)」として2013年3月25日にネット上に公開。

 

[2021年4月追記]福島第一原発事故の放射能汚染水

 原発事故後、放射能汚染水としてたまり続けるトリチウム水がいよいよ保管しきれなくなって、海洋放出せざるを得なくなりました。このトリチウム汚染水とは何か良く解らない方が多いと思いますので、ここで説明します。

1.放射能汚染とは

 まず、福島原発事故に伴う放射能汚染について説明します。

  1.  まず、問題になるのは、原子炉のメルトダウンによる水素爆発事故で大気中に吹き出し福島県の広い範囲にばらまかれた放射性物質です。
     基本的に汚染物質の降下量が多い地域ではその地表表土を剥ぎ取って集めてどこかの集積場所に保存してそれらが自然崩壊して安定核種になるまで、隔離保管するしか有りません。表土としてかき集めることができない森林地帯や住宅地に降った放射性物質は取り除くことができませんので、基本的には雨により流され地下に流れて拡散していき、そこで半減期により崩壊してしまうのを待つしかありません。
     汚染がひどい地域はチェルノブイリの様に今後何十年~何百年にわたって居住することはできません。
  2.  つぎに問題となるのは、原子炉内部に存在する高放射性物質ですが、これは次に述べる地下水と接触しない様に、無人ロボットにより回収して容器に隔離封入して、日本のどこかに今後何万年か保管するしか有りません。回収容器に回収するのが完了するまで今後30年はかかるといわれています。原子炉内部の放射性物質は基本的には1.(3)で説明した核分裂生成物質です。
  3.  今最も問題となるのは、地下水が原子炉内部に流れ込むことにより、放射性の水となって原子炉建屋から流出することです。2011年3月11日に生じた津波により発生した原子力発電所の原子炉メルトダウン事故で生じた放射性物質により、地下水の放射能汚染が続いています。
     それは壊れた原子炉に地下水が流入し続け、それが原子炉の放射性物質が放射する中性子により水の中に僅かの割合で存在する重水素を含んだ水(重水)が放射性の三重水素(トリチウム)水となることにより生じる。

2.三重水素(トリチウム)水の生成メカニズム

 三重水素(トリチウム)水とは何かといいますと、水分子を構成する二つの水素原子の一方あるいは両方(この割合は少ない)が三重水素(トリチウム)の場合です。水素の同位体には別稿の核種表で示すように軽水素H(p)、重水素H2(p+n)、三重水素H3(p+n+n)の三通りがあります。この中でH1とH2は安定な元素ですが、H3半減期12年の放射性元素です。
 この半減期12年と言うのが問題です。もし半減期が数時間~数日と短ければ崩壊してすぐに安定核種に成るから問題ないのです。また、逆に何千万年~何億年と長くほぼ安定核種と見なされれば、この場合も影響が少なくなります。半減期12年は丁度地下水となって原子炉建屋から漏れ出て周囲に拡散する頃に放射性崩壊が起こると言うことです。だからトリチウムの生成が問題となります。
 また、これが水分子を構成していると言うことが問題です。水は原子炉建屋に侵入したとき、様々な放射性物質を溶かし込み、それを保持して原子炉建屋から流れ出ます。そのときそういったことが起きないように、流れ出る地下水を回収しているのですが、その回収地下水の中に溶け込んでいる放射性物質は、様々な吸着材を用いて吸着回収し、固化して前節2で述べた様に日本のどこかに何万年か隔離封入することができます。
 しかし、溶媒である水そのものが放射性物質となった場合は、固化して隔離封入することはできません。もちろん放射性のトリチウム水だけを普通の水から分離して濃縮することは技術的には可能ですが、現実にそれを実行するのは不可能です。

 ところで、三重水素(トリチウム)はどの様にしてできるのかといいますと、放射性物質が放射する中性子の質量に近い水は中性子の減速材としての働きが有ります。減速材としての働きは重水素を含んだ重水素水よりも軽水素から成る軽水の方が強いのですが、減速した中性子を吸収する効果は軽水の方が大きく、軽水は減速した中性子を吸収して重水になってしまいます。
 いずれにしても、天然に元々ある重水に加えて、中性子吸収で新たに生じた重水は、軽水よりも中性子の吸収能は小さいものの、中性子を吸収してトリチウムになります。これが、やがて地下水となって原子炉建屋から流れ出る。

3.トリチウム水に対する対策

 放射性のトリチウム水の発生拡散を防ぐには、原子炉建屋内への地下水の流入と、そこからの流出を防ぐしか有りません。そのため原子炉建屋のまわりに凍土遮水壁の造成を2016年3月からおこなったのですが、これは2017年11月におおむね完成しました。これにより、地下水の流入と流出はかなり減少させることできたようです。完全に遮断することはできませんが、1日490トン発生していた放射能汚染水の量は180トン程度に減少したようです。

 今は、回収した汚染水はタンクで保管していますが、その量は百万トンを遙かに超えて、もはや保管できなく成っています。もちろん初期に保管した汚染水中にはトリチウム以外の放射性物質も沢山ふくまれている様なので、現在でも、それらの放射性物質の吸着回収は続けられており、最終的にトリチウムのみを含む汚染水とする努力は続けられているようです。しかしトリチウムの処理は、今のところ水で薄めて、海洋に放出する以外に方法はありません。
 このとき、トリチウムの半減期が12年ということが、逆に救いとなります。つまり半減期がこれよりも短かったら、汚染水を放出した福島県沖の海域は汚染濃度が高いと言うことになるのですが、半減期が12年と言うことは汚染水が海洋で十分薄められていく期間がありますので、汚染の被害が特定の海域で生じると言うことは無いと言うことです。
 つまり、現実的には、水で薄めて海洋に放出する以外に選択肢はありません。

 以上の説明からご理解頂けると思いますが、原子力発電は必然的に放射性廃棄物を生じます。そして、その廃棄物は固化して容器に封入して、今後何万年にもわたって隔離保管してゆくしかありません。それ以外に放射性物質を処理する方法はありません。故に、もはや原子力発電に頼ることは止めるべきですドイツはいち早くその様に方針を転換しましたが、これは賢明な選択です。

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