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惑星探査機の軌道と飛行速度

 惑星探査機の航行速度の計算例を示します。惑星探査機の飛行は、出発時に所定の速度を得るためにロケットエンジンを用いるが、それ以後はロケットエンジンを使用しない慣性飛行であることに注意。その様に最初にロケット燃料を使い切る飛行をするのは、できるだけ速い時期に最大速度・最高エネルギー値に到達した方が飛行時間を短縮できるからです。それはここでの説明を読めば了解できる。以下の計算では、

とする。また、簡単化して惑星は全て円軌道を回転するとする。そして各惑星の重力ポテンシャルの寄与は全て無視して、太陽の重力ポテンシャル場の中での飛行を考える。惑星の質量は太陽の質量の1000分の1以下だから、ここでの考察のようにおおざっぱな値を見積もるときには無視しても問題ない。そのため計算値は実際の値とは少し異なる。

1.各惑星の公転半径位置で円運動する軌道速度v1

高校物理Uで習うように公転軌道速度v1

となる。

平均公転軌道半径(m) 平均公転軌道半径(AU)  公転軌道速度v1
地球 1.50×10+11m 1.00AU 29.7km/s
木星 7.78×10+11m 5.20AU 13.1km/s
土星 1.43×10+12m 9.55AU 9.67km/s
天王星 2.87×10+12m 19.2AU 6.78km/s
海王星 4.50×10+12m  30.1AU 5.48km/s

これは当然の事ですが各惑星の公転軌道速度と同じです。

 

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2.各惑星軌道上に於ける太陽系脱出速度v2

 惑星公転軌道上から出発して太陽系を脱出するための最低速度v2は、無限遠点での速度がゼロになるとしたエネルギー保存則を解いて求めればよい。

となる。これは前項で求めたv1の21/2倍になる。

平均公転軌道半径  平均公転軌道半径(AU) 太陽系脱出速度v2
地球 1.50×10+11m 1.00AU 42.1km/s
木星 7.78×10+11m 5.20AU 18.5km/s
土星 1.43×10+12m 9.55AU 13.6km/s
天王星  2.87×10+12m 19.2AU  9.6km/s
海王星 4.50×10+12m 30.1AU 7.7km/s

この速度で各惑星を出発した探査機の飛行速度vを太陽からの距離rで表すと

となる。これは当然のことであるが、上記の脱出速度v2(r)と全く同じ関数形になる。

 このとき、各惑星を上記の太陽系脱出速度で出発するとき、その出発方向はどの方向でも良いことに注意、どの方向に出発しても太陽を焦点とする放物線軌道を描いて無限遠の彼方へ到達できる
 この速度以下で出発した場合に描く楕円軌道の場合は、出発の方向によって太陽中心に対して持つ角運動量が異なってくる。そのとき、動径方向の最大値に達したときにも動径に垂直な方向の速度成分を最初持っていた角運動量成分に応じて持たねばならないので、太陽からの最遠到達距離が異なってくる。
 これに対して、上記の放物線軌道の場合は、到達動径距離の最大値は太陽から無限遠の彼方だから、出発時に持っていた角運動量成分が異なっていて、無限の彼方での角運動量が有限でも、無限遠での話しだから動径に垂直な速度成分はゼロと見なせる。もちろん動径方向の速度成分もゼロに成って良いのだから、最初持っていた運動エネルギーを全て位置エネルギーの獲得に使えることになる。そのため放物線軌道や双曲線軌道が取れる初速度で出発した場合は、太陽に対して任意の方向に向かって出発しても最終的に無限遠の彼方へ到達できる。次に上記脱出速度(42.1km/s)で様々な角度に打ち出したときに、たどる放物線軌道の様子を図示する。

次に、太陽系脱出速度よりも大きな速度45km/sで打ち出したときに取る双曲線軌道を示す。

 上記の軌道の中で、ロケット燃料が最も節約できるのは、地球の公転運動速度を最大限利用できるθ0=90°の場合です。そのため実際には、θ0=90°の方向に出発して、惑星軌道に到着する時に目的の惑星がちょうどその位置にいるような地球−惑星の位置関係を選んで出発する事になる。

 

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3.地球-外惑星ホーマン軌道の地球出発速度v3と外惑星軌道到達時の速度v4

 ホーマン軌道は、地球軌道から出発するとき地球の公転運動の速度を最大限利用できるために、ロケットエンジンの燃料が最も節約できる軌道です。ホーマン軌道を取るときの、地球出発速度v3と惑星到着時の速度v4を角運動量保存則(面積速度一定の法則)とエネルギー保存則から求める。ホーマン軌道については別稿「質点の二次元運動」4.(3)(b)で述べたように以下の式が成り立つ。ただしそこでの比例定数kは今の場合GmMになる。

探査機の速度
地球出発時v3 外惑星到着時v4
地球-木星ホーマン軌道 38.5km/s 7.4km/s
地球-土星ホーマン軌道 40.0km/s 4.2km/s
地球-天王星ホーマン軌道  41.0km/s  2.1km/s
地球-海王星ホーマン軌道 41.37km/s 1.4km/s

また、ホーマン軌道で飛行中の速度v5を太陽からの距離rの関数で表すと

となる。このとき当然 v5(r)=v3(r)、v5(r)=v4(r) が成り立つ。

 

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4.地球から外惑星軌道に到達する為の最小出発速度v6

 ホーマン軌道は探査機の惑星間移動に良く利用されるが、外惑星軌道の位置に到達するためだけの軌道としては、エネルギー最小の軌道でもなければ、最短時間の軌道でもない。エネルギー最小で最短時間で外惑星軌道位置まで到達する軌道は、外惑星軌道半径の位置と太陽の位置が両端になるような、離心率が1に近い平たい楕円軌道です。つまり、角運動量の成分=ゼロで打ち出す。惑星探査機が地球を出発するときの速度v6は、そのような軌道の地球軌道半径位置での速度になる。これは、前項のエネルギー保存則で v3=v6、v4=0 とした場合である。

  (1/r-1/r) 探査機の速度
地球出発時v6  惑星軌道到達時 
木星 5.38×10-12/m 37.8km/s 0km/s
土星 5.97×10-12/m 39.8km/s  0km/s
天王星 6.32×10-12/m 40.9km/s  0km/s
海王星 6.44×10-12/m 41.35km/s  0km/s

途中の飛行速度v7を太陽からの距離rの関数で表すと

となる。 

 ただしこの軌道では、地球の公転方向に対して垂直に出発する事になるので地球の公転運動が探査機の加速に利用できない。そのため、出発速度まで加速するのにより多くのロケット燃料が必要になり、実用的ではない
 実際、ボイジャー2号は地球の公転軌道に沿った方向に出発している。そして、木星に近づいたときには木星の引力を利用して木星に到達してスイングバイで増速した。

 

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5.地球から外惑星軌道に到達する最小出発速度v6=v0で、打ち出し角度を変えて出発した場合

 エネルギー最小で最短時間で外惑星軌道位置まで到達する軌道は角運動量成分=ゼロで打ち出されたときの軌道で、外惑星軌道半径の位置と太陽の位置が両端になるような、離心率が1に近い平たい楕円軌道になるが、出発時に太陽中心に対して角運動量成分を持って出発すると、動径に垂直な速度成分vΦが必ず残るので動径方向の到達距離rが小さくなってしまう。
 下図は木星に到達するための最低速度37.8km/sで出発し、角度θ0を様々に変えたときの軌道の様子を示す。出発時の角度θ0が増えるにつれて、太陽からの最遠到達距離rmaxが減少してくることに注意。図の描き方は別稿「質点の二次元運動」3.(3)(d)で説明している。数式のグラフ描画ソフトがあれば6.rとφで述べる極座標表示の関数をそのまま描いても良い。

 地球Eの軌道半径=r0の位置から角運動量成分=0(つまりθ0=0)、出発速度v0で打ち出されたとき、太陽から最も離れるときの距離をr1(今の場合木星の軌道半径=5.2天文単位)とする。θ0=0の時の最遠到達距離r1は、エネルギー保存則から明らかなようにv0、r0と次式で関係づけられる。

 次に、同じ出発速度v0だか出発の角度θ0を変えたときに描く楕円軌道の、太陽Sから最も離れたときの距離をrmax、太陽Sと楕円の焦点Fとの距離をrF、太陽に最も近づいたときの距離を離rminとして、これらの値を求めてみる。探査機の飛行中には、角運動量とエネルギーが保存されるので

が成り立つ。別稿「質点の二次元運動」3.(3)で説明したように最遠到達距離rmax、及び最近距離rminではvr=0だから、vr=0として上式を連立させて解くと、rmax、rminはL、Eを用いて

と表される。また、三角形ESFに三角関数の余弦定理を用いると太陽Sと楕円の焦点Fとの距離をrF

と表される。太陽Sから見た出発地点Eと焦点Fとのなす角φFEは次式から求まる。

 また、上記の二つの保存則をvφ(r)、vr(r)の連立方程式と見なして解けば

が得られ、初期値(r0、v0、θ0)及びrとの関係式が得られる。

以下にθ0=67度の場合を例示す。

 

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6.極座標表示に於ける動径rと方位角φの関係

 5.で用いた楕円軌道図を用いて説明する。

別項「二次曲線の性質」で説明した楕円軌道に関して成り立つ一般的な性質を用いると、標準形表現におけるa、cはrmax、rminと以下の関係で結びつけられる。

また、楕円の離心率eと焦点Sと準線との距離fは、上記a、cと次のように結びつれられる。

楕円の極座標表示をもちいると、太陽からの距離rは方位角φ(上図参照)を用いて以下の様に表される。

または

φ測定の基準線SOは探査機を打ち出した方位角SEから(π−φFS)だけずれているが、φFSの値は

から求めることができるから、打ち出し点から測定した方位角で表すこともできる。
 この当たりは、例えばランダウ、リフシッツの理論物理学教程「力学」東京図書などに見通しよく解説されている。 

[補足説明]
 以上の話では、軌道上での時間の関係は説明しませんでした。時間の関係を取り扱うには高校数学では習わない積分公式を利用しなければならないからです。
 このことに関して、別稿「プトレマイオス天動説のエカントとコペルニクス地動説の周転円」2.(1)「楕円軌道とケプラー方程式」もご覧下さい。

 

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7.ボイジャー2号の飛行速度v

 ボイジャーの軌道速度を太陽からの距離の関数として表すにはエネルギー保存則を用いればよい。このとき、重要なことは飛行速度の大きさは進行する方向や軌道の形によらず太陽からの距離のみの関数になることと、各惑星近傍でのスイングバイによる増速時以外は全て慣性飛行と見なせる事です。
 その為、各惑星の位置でスイングバイにより得た速度を初速度として計算したグラフを繋いでゆけばよい。つまり、各惑星によるスイングバイで得た速度を初速度v0とし、それ以後次にスイングバイする惑星に到達するまでの速度vの変化を太陽からの距離rによってあらわすと、エネルギー保存則より

となる。(別項「惑星探査機のスイングバイ航法」参照)。

 ちなみにNASAのHP(http://www2.jpl.nasa.gov/basics/bsf4-1.html)にボイジャー2号の実際の飛行速度が掲載されている。(ただし、この図のSOLAR SYSTEM ESCAPE VELOCITYのグラフは間違っている)

 NASAによると36km/sで地球を出発したことになっているが、これは地球の引力圏を脱出するときの値であるから、実際にはもっと速い速度(下図は39.2km/s)で出発したであろう。また、各惑星の近傍では惑星の重力のために速度が大きく変動している。NASAの図に最もマッチするような数値を与えて上記の方法で飛行速度のグラフを書いてみると次のようになる。

この図は以下の値を与えて描いたものであるが、実際の飛行速度と良く一致している。

スイングバイ
した惑星
探査機の速度
スイングバイ直前  スイングバイ直後v0 
木星 10km/s 21km/s
土星 16km/s  23km/s
天王星 21km/s  22km/s
海王星 21km/s  19km/s

このグラフに前述3〜4の結果v3(r)〜v6(r)を重ねると下図になる。

 

[2013年7月追記]
 最近(2013年6月)出版された下記の本に様々な探査機のミッションとその軌道が紹介されています。軌道設定上での注意点も説明されていますのでご覧ください。
山川宏著「宇宙探査機はるかなる旅路へ(宇宙ミッションをいかに実現するか)」化学同人社

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