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数理物理学における大定理であるグリーン(Green)の定理を証明する。これはグリーンによって考えられたポテンシャル論で中心的な働きをする。また流体力学、電磁気学、光学において不可欠のものである。また純粋数学においても大へん有用で、リーマンはその複素関数の理論で(二次元に特化した)グリーンの定理を基礎とした。また変分法、固有関数、積分方程式など至る所でこの定理に出会う。
任意のベクトル関数A(x,y,z)が閉曲面Sの内部で連続であり、divAが内部のどの点でも値を持つ場合には次の関係式が成り立つ。[ガウスの定理]
ここで、閉曲面の面積要素ベクトルdSは、その大きさが面積値で面に垂直な外向き法線方向を向くとしており、A・dSは閉曲面上でのベクトルAと面積要素ベクトルdSの内積を意味する。
[証明]
閉曲面Sで囲まれた領域Vを直交座標軸(x,y,z)に平行な稜をもつ多くのきわめて小さい立方体に分ける。その内の一つの中心をP(x,y,z)とし、三つの稜の長さをdx,dy,dzとする。ベクトル関数A(x,y,z)の点Pにおける値をAとすると、x軸に垂直な面積dydzの二つのの中点におけるAの値は、それぞれ
となる。ところで、これらの面の面積をベクトルで表すと、それぞれidydzと、−idydzとなる。ここで領域から外向きを正としている。そのためx軸に垂直な二つの面の各々についての面積分の和は
となる。同様にy軸に垂直な面積dzdxの二つの面の各々についての面積分は
となり、z軸に垂直な戦績dxdyの二つの面の各々についての面積分は
となる。従って、考えている直方体の全表面積をS’とし、dxdydzは微小直方体の体積であるからこれをdVで表すことにすれば、結局
となる。このような関係式は全ての直方体に対して成り立つから、全ての直方体に対して同様な関係式を求めて加えあわせる。右辺のスカラー量divAdVは代数的に加えあわされる。一方左辺の表面積分は、考えている閉曲面の内部については、隣り合う直方体の面同士で互いに打ち消しあうので、閉曲面の表面に対する値のみが残る。
このとき閉曲面の面積要素は下図に示す様に必ずしも直方体の面になっていないが、右下図の様に考えて、下の直方体の上面の面積分[これはまだ打ち消されずに残っている]と組み合わせれば、閉曲面の面積要素ベクトルdS[その大きさは面積値で、方向は面に垂直な外向き法線方向としている]と閉曲面上のベクトルAの内積で置き換えることができる。
そのため
となり、Gaussの定理が証明された。
[証明終わり]
この定理は、空間の各点におけるベクトルAの発散divを
で定義することを意味している。
が得られる。これはガウスの定理の特別な場合であるが、これをグリーンの定理という場合がある。
これは直接証明できる。
[証明]
[証明終わり]
ガウスの定理は、普通これと同様な式を(∂Φ/∂y)、(∂Φ/∂z)に関して求めて、それらを加え合わせて証明される。
後でグリーンの定理の証明に利用する。また、そこで説明するように、ガウスの定理はグリーンの定理の特別な場合と見なすこともできる。
例えば、前節のベクトル場Aが別稿「カルマン渦列(動的安定性解析)」2.(1)1.で考えた流体の速度場vであるとしよう。そうすると、そこで説明したようにdivvは空間に固定した座標系の各点における流体の膨張や収縮に伴う体積変化を表している[今は空間の中に流体要素が湧き出したり、あるいは逆に吸い出されて消滅するような状況は考えていない]。そのときA=vと置いて書き下したGaussの定理
の左辺は、そういった各点における流体の膨張や収縮の度合いを足しあわせたものを意味する。そして右辺は、閉曲面の境界を越えて流れ出る流体体積の総和を意味する。
また、ベクトル場Aが電場Eであるとしよう。そのときdivEは何を意味するのかというと、その点に電荷ρが存在することを意味する。実際、電磁気学におけるクーロンの法則から導かれた電荷と電場の関係式を用いると以下の様になる。電荷密度ρで一様に帯電している微小半径rの球状領域を考える。ただしここで出てくる比例定数ε0は電気量[電荷]と電場をそれぞれ測定する量の単位を調整する為に導入された定数です[詳しくは別稿「電磁気学の単位系が難しい理由」5.(4)を参照]。
つまり、球状領域の半径r→0に近づけて、ρがその点における電荷密度とすると
となるが、これこそ別項で説明した電磁気学における[微分形式におけるガウスの定理]です。
その様に考えれば、前節で求めたGaussの定理は、divEをある体積領域に渡って加え合わせたものは、その体積領域を定める閉曲面上の電場Eとその点の面積素片ベクトルdSの内積を閉曲面全体に渡って加え合わせたものに等しいことを意味する。これは[積分形式のガウスの定理](ただしMKSA有理化単位系で表現)と言われる。
これはまた、別稿「ガウスの法則(静電気学)」で説明した静電気学におけるガウスの法則に他ならない。つまり[静電気学におけるガウスの法則]は[微分積分学におけるガウスの定理]と表裏一体の関係にある。
ここで、静電気学という但し書きをつけたのは電場Eには磁場Bの時間的変動に関係する成分があるからです。それはファラデーの電磁誘導の法則
に関係します。つまり電場Eには[divEで表される成分]と[rotEで表される成分]があるということで、これは、別項「カルマン渦列(動的安定性解析)」2.(3)で説明したベクトル解析の基本定理[ヘルムホルツの定理]が電磁気学においても重要な役割を果たすことを意味する。
一つの単一閉曲線をCとし、これを境界とする任意の曲面をSとする。Sを常に左側にみるようにCまわる向きにCの線素ベクトルdrをとる。Sの面積素片をベクトルで表したものをdSとする。ベクトルdSの大きさは面積値とし、その方向は面積素片のまわりをdrと同じ方向にまわるとき右ねじの進む方向を正として、面に垂直な方向とする。
そうすると、有限・連続・一価の任意ベクトル関数A(x,y,z)について次の関係式が成り立つ。[ストークスの定理]
ここで、左辺の面積分は曲面Sの全体について行い、右辺の線積分は閉曲線Cをdrと同じ向きに一周して計算するものとする。
[証明]
前節ではガウスの定理のAx、Ay、AzはベクトルAのx、y、z成分としたが、その証明の手順を考えると明らかなように、それぞれが全く独立の連続かつ微分可能な任意の関数Ax=P(x,y,z)、Ay=Q(x,y,z)、Az=R(x,y,z)に対して成り立つことが解る。つまり
となる。
この二次元におけるガウスの定理においてP=Ay、Q=−Axと置くことにする。そうすると、下右図を検討すれば明らかなように
が成り立つ。
全く同様にして、yz平面上の閉曲面とその周を構成する閉曲線に関しては、Q=Az、R=−Ayと置くことにすると
が成り立ち、 zx平面上の閉曲面とその周を構成する閉曲線に関しては、R=Ax、P=−Azと置くことにすると
が成り立つ。
次に、ベクトルA=(Ax、Ay、Az)の各成分が(x,y,z)の関数として与えられているとしたとき、下図の様な三次元上での面PQRの周辺に沿う線積分
を考える。この線積分は、yz平面、zx平面、xy平面上での微小な三角形QRO、RPO、PQOの周辺に沿う線積分の和にできる。
なぜならPO、QO、ROに沿っては各々2回ずつ、しかも逆方向の積分が対になって行われるので、線分PO、QO、RO上の線積分はゼロになるからです。
このとき、すでに求めた関係式を用いると上式は次のように変形できる。
この右辺第一項は三角形PQOに関する面積分でdSzはその面の微小面積を表す。同様に第二項は三角形QROに関する面積分でdSxはその面の微小面積を、第三項は三角形RPOに関する面積分でdSyはその面の微小面積を表す。
ここで三角形PQRが十分に小さく、P、Q、Rがいずれも点Oに近ければ、(∂Ay/∂x)、・・・等は全て点Oにおける値で置き換えられる。三角形PQRの微小面積をdSとすると、その面積素片ベクトルdSに関して
が成り立つので、上式は
となる。
ここで用いた三角形の法線ベクトルは任意の方向を向いていても良いので、同様な関係は、三角形の辺が必ずしもxy、yz、zx平面上に無くても成り立つとして良いであろう。つまり任意の方向を向いた面積素片についての面積分と、その周縁についての線積分において成り立つとして良い。
最初に仮定した閉曲面を下図の様な微小な三角形に分割して、各微小三角形に対して前記の式を適応して和をとる。そのとき微小三角形の周辺に沿う線積分の和は曲面の縁をなす閉曲線についての線積分以外は全て消える。なぜなら、周縁以外では隣り合う三角形の互いに逆向きの線積分がお互いに打ち消し合うからです。また微小三角形についての面積分の和は曲面Sについての面積分となるので
となり、定理が証明される。
[証明終わり]
ここでrotAは別項2.(2)1.で述べたような性質を持つものであるが、rotAベクトルの、面積素片dSの法線方向[面積素片ベクトルdSの方向]成分を(rotA)nと書くことにすれば、
となることを意味している。
が得られる。これは二次元におけストークスの定理であるが、これを二次元のグリーンの定理と言うこともある。
これは次のよう直接証明することもできる。
[証明]
今Φ、Ψ、(∂Φ/∂x)、(∂Ψ/∂y)は領域Sで連続であるとする。
[証明終わり]
この定理を使うと
が言える。この証明はこちらを参照。
上記の証明の要諦は微分可能な任意の連続関数φに関してrot(gradφ)=0が必ず成り立つことです。これは直角座標で表示した微分演算を実行してみれば直ちに証明できますが、ストークスの定理を利用しても簡単に証明できます。ストークスの定理のAをA=gradφとすれば
が成り立つ[全微分の意味はこちらを参照]。ここで閉曲線Cは任意の場所で任意に小さくできるので、結局どの場所においてもrot(gradφ)=0が成り立つことが言える。
ところでストークスの定理は、rotA=0が常に成り立つ場合、閉曲線を一周するAの線積分値が常にゼロになることを保証します。これは任意の二点を結ぶ曲線に沿ってのAの線積分値が線積分の経路に依存せず同じ値になることを意味します。このことは、別稿「保存力」3.で述べた様に、ベクトルAがあるスカラー関数φ[ポテンシャルと言う]の勾配[grad]で表されることを意味しています。
ガウスの定理とストークスの定理を用いると、任意のベクトルBについてdiv(rotB)=0が常に成り立つことが証明できる。まずガウスの定理に戻り、そこのAをA=rotBとすると、その右辺はストークスの定理の左辺に等しい。それはさらにストークスの定理の右辺に等しいことになる。
ところでガウスの定理の体積積分は閉曲面Sで囲まれた体積領域Vで行う。そのためストークスの定理左辺の表面積分を閉じた面について行うことは、右辺の境界の線積分は消えてしまうことを意味する。つまり
となる。ここは別稿「Percell「電磁気学」」§6.3[補足説明]も参照されたし。また、前野氏の説明も秀逸です。
もちろん、この結論は直角座標で表示した微分演算を実行してみればdiv(rotB)=0は直ちに証明できます。
つまり、これはdivA=0が成り立つ場合、ベクトルAはあるベクトル関数Bの回転[rot]で表されることを意味する。その数学的な証明はすでにこちらでしております。
別稿5.(1)3.で「ある決まった時刻について1本の渦管を考えると、その側面を一周する閉曲線Cについての循環は、Cの選び方によらず、渦管に固有の不変量である。」という定理の証明に利用した。
あるいは5.(2)の[ケルビンの循環定理]や5.(4)2.の[ヘルムホルツの渦定理]の証明などに利用することもできる。
ベクトルAを磁場ベクトルBとみなし、ストークスの定理のrotA=rotBに[微分形式のアンペールの法則] rotB=μ0j を適応すれば、ストークスの定理は定常電流の磁気作用を表す[積分形式のアンペールの法則]そのものです。
ストークスの定理を用いるとMaxwellの電磁場方程式中の“ファラデーの電磁誘導の法則”から“ローレンツの力の法則”を導くことができる。ここは別稿で説明。
この定理は本文が72ページある大論文[G. Green, An Essay on the Application of Mathematical Analysis to the Theories of Electricity and Magnetism, Nottingham, 1828]の中で証明された。この論文、及びGreenの論文をまとめたMathematical papers of the late George Green(1871)はGoogleBooksから無料でダウンロードできます。
一つの閉曲面Sで囲まれた領域をVを考える。今SおよびVの任意の点(x,y,z)で定義されかつ微分可能な二つのスカラー関数Φ(x,y,z)とΨ(x,y,z)を考える。ΦとΨはSおよびVの内部の至る所で第二次偏微分が存在し、第一次偏微分が連続であるとする。そうすると
が成り立つ。ここで、Sの面積素片をdS、Vの体積素片をdV、S上の任意点の外向き法線をnとしている。
[証明]
グリーンはこの定理を部分積分によって証明したのですが、今日では普通ガウスの定理を用いて証明する。(1)で証明したガウスの定理のベクトルAをA=ΦgradΨに置き換えて
となり(1)の形のグリーンの定理が証明される。
次に、(3)式のΦとΨを入れ換えて得られる
と前出の(3)式の片々を引き算すると
となり、(2)の形のグリーンの定理が証明される。
[証明終わり]
3.(1)の(2)or(3)式においてΦ=1と置き、ΔΨ=∇∇Ψにおいて∇Ψ=Aと置けば、(∂Ψ/∂n)dS=gradΨ・dSだから
となるので、ガウスの定理はグリーンの定理の特別な場合であることが解る。
なぜグリーンの定理が大事かと言うと、ΔΦ=0[ラプラスの方程式]やΔΦ=ρ[ポアソンの方程式]を満たす物理量や物理的状況は至る所に出てくるからです。別稿でベクトル解析の基本定理[ヘルムホルツの定理]の証明に用いる。
普通は空間領域Vは外部に向かって一つの閉曲面Sによって境界が付けられているとしている。中空の領域については、外部の面Sに内部の面S’を付け加えた両方の境界面について面積分を行う。そのとき内部面の法線方向は中空の方向を向くことになる。
特に、Vの内部にΦやΨが無限大になるような特異点が存在する場合には、その点状領域を内部境界面S’により取り除き、定理の右辺にその内部境界面S’についての面積分を付け加えておく。