いわゆる“放物型偏微分方程式”の導出メカニズムと、その解法の説明です。
以下の1.〜3.(1)は、小平吉男著「物理数学 第2巻」岩波書店(1930年刊)復刻版は文献社(1971年刊)のp253〜261より引用。ただしかなり改変しています。
Greenの定理に付いては別稿「グリーンの定理[積分定理の王]」3.(1)をご覧下さい。
一次元の熱伝導に付いて、代表的な例題を幾つか考察します。
ここは、別稿「Einsteinのブラウン運動理論とPerrinの検証実験」2.(4)で説明した事の採録です。記号もそのまま利用しています。
1次元の熱伝導方程式(拡散方程式)は
と表されます。ただしここでは上記の拡散係数 κ2=k/cρ を D と記述しています。
今は、側面からの熱の出入りはなく、しかも両端のない無限に長い棒を考える。この場合には(1)式と“初期条件”(t=0における棒内の熱量の分布)が与えられれば良く、“境界条件”は必要ない。
そのとき初期条件としてt=0のときの温度分布関数f(0,x)が、x=0の位置に“Diracのδ関数型”の分布をしているとした場合を考察します。その様な初期条件のとき、(1)の解は
となります。このとき、f(t,x)は温度分布(熱量分布)を表す関数ですが、(1)式を拡散方程式と見なす場合は、f(t,x)を粒子数密度関数と見なします。
上記の関数が方程式(1)の解である事は、(1)式に代入して見れば直ちに確認できます。
もちろん初期条件も満たしてます。
上記の解関数が時間tとともにどの様に変化していくのかをグラフ表示すると以下の様になります。
上記の一次元“熱伝導方程式”は、“熱量分布を表す温度勾配にもとずく熱伝導過程”を表す式です。もちろんこれは、“粒子の数密度勾配にもとずく拡散過程”を表す“拡散方程式”と見なすこともできます。
いずれにしても、上式は
と変形できます。
この式の意味を、前述解の 時刻t=27sのグラフ を利用して説明すると以下のようになります。。
図の任意の x座標 において、x軸に垂直な単位面積を単位時間に通過する熱量(粒子数)(f・v) が、その地点の温度(粒子数密度)のx軸方向の変化勾配 ∂f/∂x に比例する事を示しています。その比例定数が拡散係数−D に一致すると言うことです。
このように説明できることは、1.で説明した熱伝導方程式(拡散方程式)の導出過程を復習されれば了解できます。そこで導いた方程式は、この事実を表しているにすぎません。
実際、上式は
とみなせます。
一方、第1章で述べた様に
そのため、
と見なせば旨く対応していることが解ります。式中の v も上式の意味で解釈して下さい。
ここでは、両端のない無限に長い棒を考える。しかも、側面からの熱の出入りは無いとする。そして、初期条件としてt=0のとき温度分布関数f(0,x)が与えられた場合を考察する。前節では初期条件が(Diracのδ関数的な)点状分布の場合でしたが、本節では任意の関数形f(0,x)で分布している。
以下は、文献3.§21.“熱伝導の方程式”p306〜311からの引用ですが、少し改変しています。
また、本節で利用する積分公式に付いては別稿「積分公式1」を参照して下さい。
[補足説明]
上で出てきたフーリエの積分公式は、今日“フーリエ変換”と言われているものを利用した表現です。“フーリエ変換”は、“フーリエ級数展開の展開係数”を一般化したものです。
すなわち、初期条件関数f(x) を cosλξ と sinλξ によってフーリエ級数展開したとします。このときλは任意の値を取れますので Σ ではなく ∫dξ に置き換わっていますが、同じことです。
その級数展開係数が A(λ) であり B(λ) です。その展開係数が上記の様に 初期条件関数f(ξ) の“フーリエ変換”と言われるものになると言うことです。
実際のところ、フーリエは自らが見つけた“熱伝導方程式”の解法を考える過程で、“フーリエ級数展開”や“フーリエ変換”の概念を発見したのです。この当たりは フーリエの文献2.「熱の解析的理論」1822年刊 を参照されて下さい。
ここで、(9)式の形の解と(12)式の形の解との関係を十分読み取って下さい。
解(13) の物理的意味に付いては3.(2)の (2)式 を参照。そこの D を a2 で読み替えて下さい。
上記の注意はこの図の事を言っているのであるが、この図に於いても意味のある熱量は有限の速度でしか伝わらないので、この注意事項に重要な意味があるわけではない。
[補足説明]
本稿で取り扱っている“熱伝導方程式”は、“線形”の微分方程式です。その為、ある一つの初期条件で一つの解が得られ、別の初期条件でもやはり一つの解が得られたとします。そのとき、この二つの初期条件を重ね合わせたものが初期条件として与えられた場合の解は、先ほどの解を足し合わせたものになります。方程式が“線形”である場合には、その様に別々のの解を重ね合わせたものも解になります。
ここで求めた解(12)式は、前節で求めた解(2)式を重ね合わせた形をしています。すなわち、(12)式の初期条件u(0,x)=f(x)は、まさにx=ξの位置に沢山のDiracのδ(ξ)関数が分布していて、それらが重ね合わさって関数f(ξ)を構成していると考えれば良いのです。
その事は
を考慮されて、先ほどの(13)式以降の議論を振り返られれば了解して頂けると思います。
本節の内容は、小平文献1.第二章§12.“無限の固体中に於ける一次元の熱伝導”でも説明されています。その中に本節で利用した積分公式の証明が載っていますので、別稿で引用しておきます。
両端に境界があり、そこでの境界条件が与えられた、一次元の熱伝導方程式の一般的解法を 文献4.§38.〜§39.から引用します。ただし、少し改変しています。
[補足説明]
上記の様に定数を−λk2の様に負としたのは、正λk2と置いた場合には、Xk(x)がexpの指数解
になりますが、これは同次境界条件を満たせません。そのため定数は負の値でないといけません。
更に補足しますと、(38.1)式が
の様に熱伝導係数 D を含んでいる場合には、上記上側の方程式の λk2 が D・λk2 に置き換わり、
となります。
そのため、解は exp項の指数にDの積が付け加わった
の様になります。
補足しますと、このようなやり方で熱伝導方程式の一般解を最初に求めたのはフーリエです。このことに付いては文献2.の第\“章熱の拡散”を参照されて下さい。
この題目の内容は、文献4.イ・ゲ・ペトロフスキー著「偏微分方程式論」東京図書(1958年刊) の§42.で展開されています。若い頃読んだ時に、これは簡潔・明快で、とても優れた説明だと思いました。
しかし、本稿では引用せずここの内容は省略します。図書館で借りられて読まれる事を勧めます。、