ここの内容の大半は、参考文献1.に依存しています。また、文章中でベクトルを記述する必要が生じたら、太字のアルファベット文字でもって表すことにします。
物理学に於いて実際に取り扱う物は、単なる質点ではなくて、有限の広がりを持つ物体です。そのとき、物体は非常に多くの質点が集まって構成されると考えることができるので、物体の運動の法則も質点系の力学に帰する。その見解に立てば、自然界には質点相互の間に生じるもの以外の力は存在しない。つまり各質点は宇宙にある他の全ての質点から受ける合成力に依って運動する。
ある物体の全体が他に一つの力をおよぼすとか、また他から力を受けると言い方は、説明を簡単にするための方便にすぎない。実際、物体の各質点のみが力の源であり、一方では着力点となる。つまり定まった質点Aが他の定まった質点Bに作用する。その時、自然界にある全ての力は対を無し“作用反作用の原理”を満たしている。
質点系の各点の相互距離が一定であるものを“剛体”と名付ける。剛体は、その全ての部分に於いて不変の形を保っており、任意の力により全体として運動することができる。この稿の目的は剛体について以下の問に答えることです。
静止している任意の大きさの剛体の中の様々な“着力点”(高校物理では“作用点”と言うが、この稿ではこの言葉はモーメントの働く点に用いる)に定まった大きさと方向を持つ多くの力が作用すると仮定する。
このときに、これらの力が平衡を保つ(つまり剛体が静止し続ける)為の条件は何か?また、平衡が満たされていないときに、平衡を保つためにはいかなる力を付加する必要があるか?
正確には、“平衡を保つ”と言う言葉の中には、等速度運動を続ける場合や、一定の角速度で回転を続ける場合も含ませるべきです。しかし、ここでは簡単に静止し続けることとしておきます。
これらの問いに答えるために、与えられた力をできるだけ簡単な形になおし、特別な場合から一般の場合に進んでいく。最も簡単な場合は、ただ二つの力が作用するときです。二力が一つの剛体に作用して平衡を保つためには、その二力の大きさは等しく方向が反対であることが必要です。さらに着力点A、Bを結ぶ直線が力の方向と一致していることが必要です。例えば下図の二力の作用点がAとBではなくて、AとB’ならば剛体は回転してしまいます。
ABの方向が二力の作用する方向に一致していれば、ABの間隔や剛体の形によらず平衡は維持される。このことは、直線ABの垂直二等分面に対して対照的な剛体Dに対しては明らかであり、この剛体に全然力の働かない任意の物体Eを加えて大きくしてもその平衡が乱されないことから明らかです。
上に述べた法則から、剛体に作用する力の着力点をその方向に任意の距離移動しても物理的意味に変化を起こさないことが解る。たとえば、物体内で直線ABの延長線上の一点Cに二つの大きさ等しく、方向が反対の力FとF’を置く。このとき、Cに於いて右の方に作用する力F’とAに於いてその左の方に作用する力は互いに平衡しているから、この二力は同時に取り除ける。そうするとAに於いて左の方に作用している力の代わりにCにおいで左の方に作用する力Fに置き換えることができる。
このとき、力Fの着力点Cは必ず線分ABの延長線上に無ければならないのだから、“力を完全に言い表すためには、その“大きさ”、“作用線の方向”と共に“着力点”が与えられなければならない”ことが解る。
その着力点の移動は物体内のみならず、その点が物体と固く連結されている条件さえ満たせば、物体外に及んでも差し支えない。
最初に最も簡単な二力の場合を考える。剛体に作用する二力が、平行でなく、しかも同一平面上にあって、その作用線が1点で交わるとする。この場合は下図の様に、それぞれの力を作用線の交点に於ける力に置き換えて、“力の平行四辺形合成法則”により合成すればよい。
そのとき、合力Fはその作用線上を移動させてF’としても良い。力が三つ以上ある場合には、まず二つの合力を求め、それに第三、第四、・・・の力を順番に加えてゆけばよい。
[補足説明]
ここで二つの力が平行ではないが、さりとてその作用線が一点で交わることがない(つまり作用線が三次元空間内で同一平面上になくて、すれ違っている)場合については、ここでは説明しない。もう少し準備をした後に第4章で説明します。
この重要な例が、別稿「万有引力の法則への補足」で説明した質点Pが万有引力の法則に従って剛体物体に引力をおよぼす現象です。
その引力は一点Pが、物体の全ての質量の微小部分に作用するそれぞれの力の合力です。その合力を求めるにはそれらの力を全てP点に移動させてそこで合力Fにする。そのとき剛体が等密度の球体の場合には、別稿「万有引力の法則への補足」で証明したように、合力Fは球の中心と質点Pを結ぶ線に沿った力となり、球の中心から質点Pに向かう力になる。その合力の作用点を球の中心に移動させれば、あたかも球の全質量が球の中心に存在すると考えたとき、その質量に働く万有引力と同じになる。
このとき“物体が作用する力”と、“物体が作用される力”の違いに注意しなければならない。質点Pは作用反作用の法則に従って上記の力と大きさ等しく方向が反対の力を物体から受ける。
剛体に作用する平行な二力F1とF2の合力を求める。この二力は平行でしかも同一平面上にある。この場合には、下図の様に、それぞれの力に仮想的な二力Kと−Kを付け加えて考えればよい。Kと−Kは互いに反対方向を向いた同じ大きさの力なので、互いに打ち消し合って、このような力を付け加えても力学的効果は変わらない。
KとF1、−KとF2のそれぞれの合力をG1とG2として、それらを交点Cに移動して、前節と同様な方法に従って“力の平行四辺形合成法則”により合成する。
合成に際して、G1’とG2’をもう一度KとF1、−KとF2に分ければ二つの力Kと−Kは消えるので、結局合力の大きさはF=F1+F2となり、その方向は線分CHの方向を向くことになる。そのとき、合力の着力点は線分CH上にあればどこに移動しても良いのであるが、普通線分ABとの交点Hを着力点に取ると良い。
この点HはCH直線上の他の点とは異なり特別な性質を持っている。すなわち、この点Hは二力F1とF2との大きさと、その着力点のみによって定まり、二力の方向とは無関係になる。着力点Hは、重心の計算などで重要になる。
図中の三角形の相似性により、以下の関係式が直ちに導かれる。
つまり、点Hは線分ABを力の大きさに逆比例して内分する点で、必ずAとBの間にある。そして、F2=0のときはHはAに一致し、F2=F1のときにはHはAとBの中点となる。
そのとき、F1とF2との二つの平行力を、大きさを変えることなくA及びBなる着力点のまわりをある角度だけ回転させると、その合力Fは、その大きさを変えずに着力点Hのまわりを同じ角度だけ回る。
平行な力が沢山ある場合を論じるには、着力点Hを座標によって表すのが便利です。高校生向きに解りやすくするために二次元座標で説明する。
力F1とF2の着力点であるAとBの座標をそれぞれ(x1,y1)と(x2,y2)とし、合力の着力点Hの座標を(x0,y0)とすると、下図の様になる。F1とF2は互いに平行な関係にある任意の力です。
図中の三角形の相似性に着目すると、直ちに
が得られる。ここで、さらにAHとABに関する前節の結論を用いると
となる。このとき、前節の結論から明らかなように、着力点Hに作用する合力Fの大きさはF1+F2となる。
これにさらに三番目の平行力F3が存在する場合を考察しよう。F3の着力点Cの座標を(x3,y3)とする。このとき三力F1、F2、F3の合力F’と、その着力点H’(x0’,y0’)を求めるには、上記表式におけるF1をF1とF2の合力の大きさFに、F2をF3に置き換え、x1を合力F=F1+F2の着力点のx座標x0に、x2をx3に置き換えれば、FとF3の二力の合力に対して成り立つ表式となる。つまり、上記の結論がそのまま利用できる。
すなわち
となる。
y成分についても、全く同様に考えれば
が得られる。このとき、合力の大きさはもちろんF’=F1+F2+F3となる。
平行力が多数ある場合には、上記の手順を順番に繰り返して、次々に加え合わせてゆけば良い。三次元の場合も同様です。
一般的に、一つの剛体に、互いに平行な多数の力F1、F2、F3、・・・・が着力点(x1,y1,z1)、(x2,y2,z2)、(x3,y3,z3)、・・・・に働いているとき、合力の大きさはF=F1+F2+F3+・・・・となる。
また、合力Fの着力点の座標(x0,y0,z0)は
となる。
上記法則の重要な応用が、剛体に地球の重力が働く場合です。剛体に作用する全ての力(重力)の合力Fを求める。剛体質量の微小部分miに地球がおよぼす力はmigで、その方向は地球の中心に向かっている。剛体の大きさは地球の中心からの距離に比較して小さいので、剛体の個々の微小部分m1、m2、m3、・・・に作用する引力は全て平行な力であると見なせる。そのため前項の結論が利用できる。Fi=migを前記の式に適用すれば、剛体に働く重力の大きさは
である。
また、合力の着力点の座標(x0,y0,z0)は、重力加速度が一定なのでΣの外に出せて分母分子で約分でき、
となる。この式によって定められる点(x0,y0,z0)をその剛体の“重心”と言う。
その位置は、重力の方向及びそれに関わる加速度gの大きさには無関係で、ただ剛体内の質量の微小部分の配置のみに因る。そのため、この点は重力の合力の着力点と言うよりも“質量の中心”と言った方が良い。
質量の微小部分の各部分が固く結ばれていない場合でも、“重心”を定義できる。すなわち、質点m1、m2、m3、・・・が自由に動き得る“質点系の重心”は、各瞬間毎に上記の式にしたがって定義される点であるとする。その時には、重心は重力の合力の着力点としての意義を失い単なる“質量の中心”を意味する。
物体の質量が連続的に分布している場合には、前記のΣは体積積分に置き換えればよい。すなわち、場所(x,y,z)に於ける密度をρ(x,y,z)とすると
となる。
特に密度ρが場所によらず一定の場合には、密度ρは積分記号の前に出せて分母分子で約される。そのため
となる。
立体の重心と同じく、平板状物体や線状物体の重心についても同様に計算すればよい。
[例題1]
平板状物体の重心の例として、半径a、開き角αの扇形の重心を計算してみる。
x,y座標を下図の様に取り、r、θの極座標を用いる。
ここで積分はrについては0→a、θについては−α/2→α/2まで行う。
そうすると、重心座標(x0、y0)は
となる。
α=2πの場合には全円となり、重心座標は(x0、y0)=(0,0)となる。またα→0の無限に狭い三角形の場合は、(x0、y0)=(2r/3,0)となる。
二力が平行かつ反対向きで、しかもその大きさが異なる場合の合力を求める。下図の様に着力点AとBに働く二力F1とF2(ただしF1>F2とする)の合力を求める。
大きい方の力F1を、2.(2)1.の手順を逆に適用して、二つの平行かつ同じ向きの力に分解する。その内の一つは点Bに作用し、F2と大きさ等しく向きが反対のF2’とする。他方はAから見てBの反対側のある点Hに作用するFとなる。このときFの大きさはF=F1−F2となる。
二力F、F2’とF1の着力点間距離には2.(2)2.で証明した関係が成り立たねばならないので
となる。
今、力F1の代わりにこの二つに分解した力を用いれば、B点にある二つの力F2とF2’は互いに消えてしまう。そのため、結局のところF1とF2の合力としてはH点に働く力Fのみが得られる。その大きさはF=F1−F2であり、その方向はF1の方向と一致する。またその着力点HはAB間にはなくて、F1の側外にある。すなわち
である。
これは2.(2)2.で証明した関係
を一般化したもので、このF2を負(つまりF1の反対向き)に取ればよいのである。そうするとAHは負になるが、それはHがAから見てBと反対側にあることを示している。
高校物理では点HをABの“外分点”であると説明するが、プランクのこの説明の方が解りやすい。また、この表現の方が多数の力の合力を求める場合には都合がよい。[次章3.(1)1.参照]。
[例題2]
ここの結論を用いると、下図の様なくり抜かれた円盤の重心は簡単に求まる。
もし円板がくり抜かれていないとすると、その円板とくり抜かれた部分を構成する小円盤の質量比は、4対1となる。それは円の半径比が2対1であり、円盤の面積がπr2で計算できるからです。そのため、くり抜かれた部分の質量をmとすると、問題の図形の質量は3mとなる。
くり抜かれた状態の円盤の重心の位置をHとするとそこに働く重力はF=3mgであり、くり抜かれた部分が元の位置にそのまま存在するとすると、それの重心はB点であり、重力はF2’=mgとなる。
この二つの重力の合力は、円盤の対称性より、A点に働くF1=4mgの重力となるはずです。これらの関係を、上記の説明と比較すると明らかなように、くり抜かれた円盤に働く重力の合力Fと、その着力点Hは、図中のA点に作用する力F1=4mgとB点に作用する上向きの力F2=mgの合力を求めれば求まる。
前項のF2の大きさがF1の大きさに近付くと、点Hは点Aから次第に遠ざかって行く。そして、両者の大きさが等しくF1=F2になると、合力の作用点は無限の彼方となり、その合力を定めることはできなくなる。一般に二つの大きさ等しく反対向きを持つ平行な力は、一つの合力にすることができない。この特別な形の力を“偶力”(あるいは“力対”)と言う。
その性質はかなり込み入っているので、章を改めて詳しく考察する。
前章で述べたように、平行であって、その向きが同じ、あるいは反対向きの多くの力が一つの剛体に作用するときには、一般にただ一つの力に合成することができる。
もし剛体の各部分に働く力が互いに平行でない場合には、それぞれの力を三次元直交成分に分解すれば、それぞれの成分に対応する力の集合体は、全て平行な力と見なすことができる。そのため、互いの力が平行でない多力系については、三方向のそれぞれの成分に分解して、互いに平行となった一方向の力の系について考察すればよい。そして最後にそれら三方向の力の合力を合成すればよい。
ただし、それら三方向の成分を持つ力系の合力については後ほど4.(1)で考察する事として、ここでは平行な多数の力からなる系の性質をもう少し調べてみる。
前章で証明したように、互いに平行であってその向きが同じもの、または反対のものの多くの力が一つの剛体に働くとき、ΣF≠0ならば、それらの力をただ一つの力にすることができる。
2.(2)と(3)で説明した平行な力の合成法則を利用して、2.(2)3.で行った様に個々の力を順番に加え合わせてゆけば良い。そのとき反対向きの力についてはΣの中の符号を負に変えて和を取る。そうすると、合力の着力点の位置座標は
となる。
また、合力の大きさは、各力の大きさの総和となり
となる。
この様に、ΣFi≠0である限り合力の大きさと合力の着力点を求めることができる。静力学の問題としてはこれでお仕舞いで、後はこの合力が剛体にどの様な運動を引き起こすかという動力学の問題となる。
前項の式に於いて
の場合には、合力の着力点(x0,y0,z0)を定める前記の公式が使えない。分母がゼロになって着力点の座標は無限遠となり、公式は意味を失ってしまう。
この場合の多力は“平衡状態にある”か“一つの偶力(力対)”になる。
ΣFi=0の場合、全ての力を二つに分ける。その一方はある同じ向きに作用する力で、これらをF1’、F2’、F3’、・・・で表し、その合力をF’とする。他方はそれと反対の向きに作用する力でこれらをF1”、F2”、F3”、・・・(これらを正にとる)で表し、その合力をF”とする。
そのようにすれば、仮定により
となる。
そして、それぞれのグループの合力の着力点の座標は
となる。
このとき、大きさ等しくて方向が反対である二つの合力F’とF”の着力点を結ぶ直線がその力の方向と一致している場合には、当然のことながら二つの合力F’とF”は互いに打ち消し合って“平衡状態”となる。
その時には、互いに反対向きの合力F’とF”の着力点である(x0’,y0’,z0’)と(x0”,y0”,z0”)を結ぶ線分と合力F’とF”の作用線が一致しているので、力の方向余弦を(α,β,γ)とすると
となる。
これが平行にして方向が同じ、あるいは反対向きの多数の力が作用している力系が平衡になるための必要・充分条件です。
例えば、力がz軸に平行又は反平行なときはα=π/2、β=π/2、γ=0であるから、平衡条件は
となる。
大きさ等しくて方向が反対である二つの合力F’とF”(F’とF”の大きさは等しい)の着力点を結ぶ直線が合力の作用線と一致していないときには2.(3)2.で導入・定義した“偶力(力対)”となる。
この場合にはさらに詳しい考察が必要なので節を改めて説明する。
大きさ等しくて方向が反対である二つの合力F’とF”の着力点を結ぶ直線がその合力の方向と一致していないときには“偶力(力対)”となる。
互いに平行にして方向が反対な二力Fよりなる偶力の平面を図の面とする。このとき、二つの力のベクトルと、それらの力の着力点を結ぶ線分が直交していないときには、1.(2)で述べた法則にしたがつて、一つの力Fの着力点をその力の方向に移動させて、二つの着力点A、Bを結ぶ直線がFと直角を成すようにする。その様にすることは常に可能なので、今後はこのタイプの偶力について考察する。このとき線分ABを“偶力のアーム”と言う。
一つの偶力は、その物理的意義を変化することなく力の方向に移動(例えばA’B’へ)させることができる。
[証明]
下図のようにA’点に新たな力の対FとF’を考える。このときFとF’の大きさは等しく向きは反対に取る。この両者は互いに打ち消し合うのでその様にすることは常に可能です。
そのとき、1.(2)で注意した理由により、A点のFとA’点のF’は互いに打ち消し合うので、結局A’点の力Fのみが残る。B点とB’点についても同様に考えればB点に働く力FをB’点に働く力Fに置き換えることができる。
[終わり]
一つの偶力は、その物理的意義を変化することなく、アームABの方向に移動(例えばA’B’へ)させることができる。
[証明]
下図のようにA’、B’点に新たにFとF’の力の対を考える。この両者は互いに打ち消し合うのでその様にすることは常に可能です。
次にA点のFとB’点のF’、またB点のFとA’点のF’を2.(2)で証明した法則により合成する。それら合力はO点に於いて互いに打ち消し合う反対向きの二つの力となる。そのため、A点のF、B’点のF’、B点のF、A’点のF’の四つの力は互いに打ち消しあって消えてしまい、A’点のFとB’点のFのみが残る。つまりABに於ける偶力をA’B’に於ける偶力に置き換える事ができる。
[終わり]
一つの偶力は、その物理的意義を変化することなく、アームABの方向を偶力の面内に於いて任意に回転”(例えばA’B’へ)させることができる。
このとき、証明を読めば明らかなように、アームの回転は偶力面内に制限されねばならない。
[証明]
下図のようにA’、B’点に新たにFとF’の力の対を考える。この両者は互いに打ち消し合うのでその様にすることは常に可能です。
次にA点のFとA’点のF’を合成するとA”点に於ける合力F”となる。またB点のFとB’点のF’を合成するとB”点に於ける合力F”となる。A”点とB”点の二力F”は互いに同じ大きさで方向が反対なので打ち消し合う。そのためA点のF、A’点のF’、B点のF、B’点のF’の四つの力は互いに打ち消しあって消えてしまい、A’点のFとB’点のFのみが残る。すなわち、ABに於ける偶力をA’B’に於ける偶力に置き換える事ができる。
[終わり]
一つの偶力は、その物理的意義を変化することなく、元の偶力が存在する面に平行な他の平面に移動(例えばA’B’へ)させることができる。
[証明]
下図のようにA’、B’点に新たにFとF’の力の対を考える。この両者は互いに打ち消し合うのでその様にすることは常に可能です。
次に、A点のFとB’点のF’を合成するとO点に於ける合力F”となる。またB点のFとA’点のF’を合成するとO点に於ける合力F”となる。O点の二力F”は互いに同じ大きさで方向が反対なので打ち消し合う。そのためA点のF、B’点のF’、B点のF、A’点のF’の四つの力は互いに打ち消しあって消えてしまい、A’点のFとB’点のFのみが残る。すなわちABに於ける偶力をA’B’に於ける偶力に置き換える事ができる。
[終わり]
一つの偶力は、その物理的意義を変化することなく、アームABの長さをアームの方向に変化(例えばAB’へ)させることができる。ただし、このときアームの両端に働く力の大きさは変更を受ける。
[証明]
今Bに作用する力FをAとB’に作用する二つの平行な力に分解する。
このとき、2.(2)2.の法則から、B’点に働く分力F’とAに働く分力(F−F’)について
の関係が成り立つ用にすればよい。そのとき、B点の力Fは消えて、A点にF−(F−F’)=F’の力があり、B’点にはそれと大きさ等しく方向が反対の力F’が存在することになる。その二つで偶力(力対)をなし、そのアームはAB’である。
ここで、上記の式を用いると
となる。すなわち力とアームの長さとの積が常に一定になるようにすれば、アームの長さは任意の長さに変化できる。
ここで[力]×[アームの長さ]を“偶力(力対)のモーメント”と言う。つまり、モーメントが等しければ、同じ平面内あるいは互いに平行な平面内に在る二つの偶力(力対)は等しい。
[終わり]
前節で明らかになった偶力(力対)の性質から、偶力は下記の三つの量で定められると言える。
以上の特徴から“偶力のモーメント”は下図の様な一つの矢印Mで表される。
矢印の長さはモーメントの大きさに等しく、その方向は偶力を構成するアームと力対が作る平面に垂直で、右ネジが進む方向です。このとき矢印Mの出発点を偶力の“作用点”と呼ぶことにする。
この表示法による矢印は、前項の考察から明らかなように、長さと方向を変えなければどの場所へも移動させることができる。
つまり、“偶力(力対)の“作用点”は、力の“着力点”と異なって、物理的な意味を持っていない”。これは究めて重要な性質です。
全ての偶力モーメントが平行な場合、3.(2)で述べた偶力の性質により、全ての偶力を唯一つの平面上に移し、しかも共通なアームを持つようにできる。
そのとき共通アームA0B0の両端に働く力の大きさは、3.(2)5.で述べたように、以下の関係式を満たすように決めればよい。
つまり、上式を満たす大きさF10にすればよい。
同様にM2、M3、・・・を同じアームA0B0に移すと、それらの力F2、F3、・・・は
の関係を満たすF20、F30、・・・に変換すればよい。
そのため合成された偶力のモーメントは、A0端又はB0端で加え合わされた力 F10+F20+F30+・・・にアームの長さA0B0を乗じたものになる。
これは結局
と同じ事を言っているので、合成されたモーメントMの大きさは、各モーメントM1、M2、M3、・・・の大きさの和で表されると言っても良い。
つまり合成モーメントは、個々のモーメントの軸と同じ方向を向き、その長さが個々のモーメントの長さの和になる矢印で表される。
この場合でも二つのモーメントM1とM2の矢印に垂直な平面は必ず互いに交わる。そのため3.(2)に説明した性質に従い、二面の交線上に共通のアームA0B0を取ることができる。
ここで、アームの長さを共通にするために、前項と同じように、それぞれの偶力を表す力は調整される必要がある。つまり
としてある。そのとき[モーメントの大きさ]=[力]×[アームの長さ]は、たとえ[力]と[アームの長さ]が変わっても不変であることに注意。
このときF10とF20はA0及びB0点に於いて力の平行四辺形の法則によって合成できる。このときそれぞれの偶力のモーメントを表すM1もM2はそれぞれの力が存在する面に垂直であって、かつ
となるので、M1とM2に依って描かれた四辺形も平行四辺形となる。さらに、その平行四辺形は力Fの平行四辺形に相似であって、唯その位置を90°だけ回転したものになる。
それゆえに、“偶力(力対)”を表すのに前に述べた“矢印M”を用ることにすれば、“偶力は“ベクトル”であって、力と同じように“平行四辺形の法則”によって合成または分解できる。”
前項1.と2.の結論から以下のことが言える。
剛体に様々な偶力M1、M2、M3、・・・が働く場合には、ベクトルの加法に依って一つの合成偶力Mとする事ができる。それぞれの偶力の作用点が異なる場合には、3.(3)の法則に従って、それらを全て同一の点に移動させてベクトル合成する。
すなわち
となる。
その作用点を原点にとり、それぞれの偶力ベクトルの方向角を(λ1,μ1,ν1)、(λ2,μ2,ν2)、・・・・、及び(λ,μ,ν)とすると、偶力ベクトルの成分表示は
となる。
任意の力(二つの力が平行ではないが、さりとてその作用線が一点で交わることがない、つまり作用線が三次元空間内で同一平面上になくて、すれ違っている場合を含む)については、2.(1)1.で後で説明することを予告しておいた。ここでその約束を果たします。
その作用線が互いにすれ違っている二力を合成するとき必要なのは以下の法則です。
剛体中の着力点Pに働く一つの力Fは、P以外の任意の点Oに於ける力Fと偶力(力対)Mに置き換えることができる。
そのとき、モーメントMの軸は、必ずOPF面に垂直となり、線分OPからベクトルFの方向に右ネジを回したときネジの進む方向を向いたベクトルとなる。
[証明]
O点に於いて力Fと、それと大きさ等しく向きが逆の力−Fの対になる力を考える。両者は互いに打ち消し合うのでその様にすることは常に可能です。
その様にすればP点に働く力FはO点に働く力Fと偶力Mで置き換えることができる。[偶力Mのモーメントの大きさ]=[Fの大きさ]×[Oから初めの力Fの作用線に至る垂直距離OQ]であって、それは図中で黄色に着色した平行四辺形の面積です。
今後、この大きさM=[F]×[OQ]の事を“点Pに作用する力Fの点O関するモーメント”と言うことにする。そのとき、モーメントMの軸は、必ずOPF面に垂直となり、線分OPからベクトルFの方向に右ネジを回したときネジの進む方向を向いたベクトルとなる。もし点Oを力のFの作用線上に取ると、そのモーメントは0となる。
[終わり]
前項の法則を用いれば、一つの剛体に働く任意の方向を向いた任意の数の力Fiを合成することができる。
すなわち、全ての力を前項4.(1)1.の方法で一つの共通な着力点(例えば座標原点)に移して、そこでそれらの力の合成力F=ΣFiを作る。
そのときなお、それぞれの力の移動に伴って前項で説明した偶力(力対)Miが生ずるが、それも“合力の着力点(例えば座標原点)”を“作用点”とする偶力(力対)とすることができる。それらの偶力を3.(4)3.の方法でベクトル的に合成して1つの偶力(力対)M=ΣMiとすればよい。
結局、一つの剛体に働く任意の力系は、在る一つの着力点に働く合成力Fと合成偶力(力対)Mにすることができる。
前節の合成力、合成偶力(力対)を具体的に求めるには、ベクトルの成分表示を利用して計算するのが便利です。
原点から距離rの点P(x,y,z)に於ける力F=(Fx,Fy,Fz)を座標原点に於ける力Fと偶力(力対)M=(Mx,My,Mz)で表してみる。
まず、上図に於いて着力点rの力Fzを原点Oに移すときに発生する偶力(力対)を考えてみる。図のようにFzをB点に移動し、A点とO点にFzの大きさで互いに反対向きのペアの力を考える。それらの力は互いに打ち消し合うので、その様にすることは常に可能です。
このときA点の力FzとB点の力Fzはx軸の正方向を向く偶力(力対)を生じる。そのモーメントはAB・Fz=yFzとなる。全く同様にして、O点の力FzとA点の力Fzはy軸の負方向を向く偶力(力対)を生じる。そのモーメントはOA・Fz=xFzとなる。つまり、P点のFzをO点に移すとx成分がyFz、y成分が−xFzの二つの偶力(力対)モーメントベクトルを生じる。
全く同様な議論をP点に働く力Fx、Fyについて行えば、結局P点に働く“力のベクトルF”をO点に移すと、それに伴ってx,y,z成分が
となる“偶力(力対)のモーメントベクトルM”が生じることになる。このとき、3.(3)で述べた“偶力(力対)の作用点は任意の場所に移動できる”という法則を利用した。
このとき、上記の成分表示で表されるベクトルMは、位置ベクトルrと力のベクトルFが作る平面に対して垂直で、しかもrからFへ右ネジを回したときにネジの進む方向を向いたものになる。
また、ベクトルMの大きさは、ベクトルrとベクトルFが作る平行四辺形の面積[ rFsinθ (ここでθはベクトルrとベクトルFの成す角)]となる。
[証明]
証明は別稿「ベクトルの内積(スカラー積)と外積(ベクトル積)の成分表示」2.(4)を参照。
[終わり]
rとFの二つのベクトルの成分より構成される上記のベクトルMをベクトルrとベクトルFの“外積(ベクトル積)”と言い
で表す。ただし、普通の掛け算と混同する恐れが無いときには鉤括弧[ ]を省略して単に M=r×F=−F×r と表すことにする。
外積ベクトルを用いれば、一つの剛体の着力点r1、r2、r3、・・・に任意の方向を向いた力F1、F2、F3、・・・が働くとき、それらの力系は座標原点に作用する唯一つの力Fと唯一つの偶力(力対)Mとすることができる。すなわち
である。このとき、F=ΣFiは、それぞれのベクトルを座標原点に移動させて加え合わせたものであり、Mの外積表現中のベクトルriは、(力のベクトルFiを移動・集約した点を座標原点とする)移動前の力のベクトルFiの着力点の“位置ベクトル”です。
また、この表現を用いれば
一つの剛体に作用する力系が平衡を成すための必要充分条件は、その合成力Fと合成偶力(力対)Mが共に0となることです。すなわち
である。これは各力のx,y,z成分と、力の着力点の座標成分で表される6つの条件式となる。
このときF=ΣFi=0で在ってもM=ΣMi=Σ[ri×Fi]=0と成ることは保証されない事に注意。平衡であるためには両方の条件が必要です。
普通これらは、“力のつり合いの法則”と“力のモーメントのつり合いの法則”と言われる。
前節では、力のベクトルFiを移動・集約した点を座標原点として論じたが、その移動・集約点を別の点に移すとどの様な事が生じるか考察する。
全力系の合成力Fと合成偶力(力対)Mが点Oに働いているとする。これをO以外の任意の点O0に移すと、それぞれのベクトルはどの様になるかを考察する。4.(1)の考察から明らかなように、合力FはそのままO0点へ移動できる。その時Fの移動に伴って新しい偶力(力対)M’が生じる。この軸はベクトルFと線分OO0がなす平面に垂直で、それは元々存在するMと合成されて偶力(力対)ベクトルM+M’≡M0となる。
このようにしてO点の合力Fと偶力MはO0点での合力Fと偶力M0になるのであるが、このとき元々在るMと新しく生じるM’が互いに打ち消し合ってM0=0となる様なO0点は存在するであろうか?
残念ながら一般的にM0=0となる様な点は存在しない。ただし、M+M’≡M0の軸が常に合力Fの方向に一致する様にできる点O0は存在する。それは次のようにすればよいのである。
下図のように偶力Mを合力Fに平行な成分Mp(parallel 平行の)とそれに垂直な成分Mr(rectangular 直交の)に分解する。そしてベクトルFとベクトルMrに垂直な方向にOから距離Mr/F 離れた点をO0とする。その方向はMpからMrの方向に右ネジを回したときにネジの進む方向にとる。そのときO0点にFと−Fの対になる力を考える。両者は互いに打ち消し合うので、その様な力の対を置くことは常に可能です。
そうすると、O点の力FとO0点の力−Fが一つの偶力ベクトル−Mrとなる。なぜなら線分OO0の長さをMr/F としているので、[偶力のモーメントの大きさ]=F・(Mr/F)=Mr となるからです。このようにして新たに生じた−Mrと元々在ったMrは互いに打ち消し合うので、結局O0点の力Fと偶力Mpのみとなる。
このときO0を図中の直線O0’O0”上のどこに取っても力や偶力は同じなので、直線O0’O0”上ならどこに移動しても同じ状況が実現できることに注意。
4.(2)2.で証明したように、一つの剛体に作用するいかなる力系も一つの合力と一つの合成偶力(力対)となるのだが、このときさらに合力の“着力点”を適切に選べば、合成偶力(力対)M=ΣMi=Σ[ri×Fi]の軸が合力F=ΣFiの方向に一致するようにできる。
点O0を前項で説明した点とする。すなわち、その点に於いて合力Fの方向と合成偶力M0の軸が一致している。今度はこの点の力Fを他の任意の点Oに移すことを考える。その点Oは、取りあえずO0を通り力Fや偶力M0に垂直な平面πの上に取るとする。
そのとき新たな点OにFと−Fの対になる力を考える。両者は互いに打ち消し合うので、その様な力の対を置くことは常に可能です。
そうすると、4.(1)の考察と同様にして、O0の力FとO点の力−Fは一つの偶力となる。それをM’とする。そのとき、元々存在する偶力M0も新たに生じた偶力M’も、3.(3)で説明したように、その“作用点”を自由に移動できるので新たな点Oに移動する。そうするとO点に合力Fと合成偶力M0+M’≡Mが存在することになる。
このときO点に現れた合成偶力モーメントMの大きさは
となり、この軸は線分O0Oに垂直な面内に在って合力Fと角θをなす。そのとき、θは
なる関係を満足する。
さらに、O点をO0を中心とする円周上の点とすれば、Oがその円周上の何処にあっても、M’、M、θは一定である。このとき円周の半径であるO0O間の距離を大きくすれば、それに従ってM’、Mは限りなく大きくなりθは限りなくπ/2に近付く。
以上の事情はπ平面上の円周上での話しに限らない。O点を図中に示したO0’O0”を中心線とする円柱面上の任意の点に移動しても同様な事が言える。合力Fも合成偶力Mも“合成力Fの作用線”上を移動させても物理的な意味は変わらないからです。このとき、O0点を通り、上記円柱の中心線を構成する線分O0’O0”の事を力系の“中心軸”という。
これらの事実から、結局
剛体に働く任意の力系の合成力F=ΣFiと合成偶力M=ΣMi=Σ[ri×Fi]は4.(2)2.の方法で求める事ができるのだが、このとき合力の“着力点”Oをさらに移動(O0へ)させて適切に選べば、その移動に依って生じる合成偶力(力対)M0の軸が合力Fの方向に一致するようにできる。このとき合成偶力(力対)の大きさは最小値となる。
その位置での合力Fの作用線を“中心軸”というが、その向きは元の合力Fの方向と一致し、その場所は元の合力ベクトルFと合成偶力ベクトルMが作る面に垂直で、FからMへ右ネジを回したときにネジの進む方向に、点Oから距離
だけ離れた場所となる。ここでのθは元の合成ベクトルFと合成偶力ベクトルMが成す角度です。その中心軸に現れる新しい偶力(力対)ベクトルの大きさはM0=Mcosθとなる。
[例1.M0=ΣMi=0の場合]
この場合には中心軸上の偶力は常に0であって、力系の合力は中心軸上の一点に作用する力F=ΣFiのみになる。
そのとき、力Fの作用点を前項で説明した任意の半径の円筒面上に移動すると、新しく発生する偶力M=ΣMiはM’のみとなり、合成力Fと合成偶力M=M’は常に直交する。
このことを逆に解釈すれば、力系が唯一つの力のみに合成できるための必要充分条件は合成力ΣFiと合成偶力ΣMiが互いに垂直であることが解る。つまり
合成力ΣFiと合成偶力ΣMiが互いに垂直である場合、すなわち
が成り立てば、合力Fの“着力点”を適切に選ぶことによって合成偶力(力対)Mを0にすることができる。
別稿「ベクトルの内積(スカラー積)、外積(ベクトル積)の成分表示」1.(5)で証明したように、二つのベクトルが直交すれば、二つのベクトルの内積がゼロとなることに注意。
[例2.F=ΣFi=0の場合]
この場合には、中心軸は意味を成さない。力系は唯一つの定まった合成偶力Mのみとなり、その“作用点”は任意に取ることができる。
[例3.F=ΣFi=0かつM0=ΣMi=0の場合]
このときには平衡する場合であり、“座標原点”の選び方は全く考えなくて良い。
4.(2)2.で述べた平衡の為の条件は自由に運動する剛体に関するものです。もし剛体の運動が外部からの束縛力に依ってある制限を受けているときには4.(2)2.で述べた条件は平衡の為の充分条件ではあるが必要条件ではない。幾つかの重要な例について、平衡のために如何なる条件が必要なのか調べてみる。
このときは固定されている直線をz軸にとり、その力系を原点に作用する合成力Fとそれに対応する偶力(力対)Mとにする。今それが平衡であるためにはF=0である必要はない。なぜならば原点に於いてz軸上の各点に作用するのと同じく、束縛力が作用していて、その束縛力はそれらの点に於いて作用する動力と全ての状態のもとで消し合っているからである。
次に偶力(力対)について考えるに、例えば偶力の成分の一つMxはy軸の方向を持っている互いに反対な二つの力から成り立っていて、その二つの力はz軸上の点に作用しているから外からの束縛力に依って打ち消されている。同様にMyの力はx軸の方向を持っていてz軸上の点に作用する様にすることができるから、これも又束縛力と消し合っている。唯Mzのみがz軸上の束縛力による影響を受けない。
そのため平衡であるための必要充分条件は
となる。これが、剛体が平衡であるために、動力の成分とその作用点の座標との間に成り立つ事が必要な唯一つの式である。Mz≠0のときには、剛体はz軸の回りに回転する。
この場合には、4.(2)2.で述べた条件の残りの5つの式は、固定している軸が作用しているはずの抵抗力を見いだすのに必要な式となる。この抵抗力は自由に運動することのできる軸を静止させる為に外から作用すべき束縛力である。この束縛力は条件式に従って、動力の影響をちょうど打ち消す様に作用する。つまり、この束縛力は原点に於いて作用する力−Fと、−Mx及び−Myとより成る一つの偶力(力対)と等しい。
z軸を固定するには、その上の二点を固定すれば充分であるから、束縛力は常にこの二点に作用する二つの力に帰す事ができる。
この場合には平衡であるためには前項の条件に付け加えて
なる条件が必要である。なぜなら、このとき束縛力はz軸の方向には働かないからです。
物体が自由に運動し得る程度が多いほど、まはたその束縛が少なければ少ないほど、平衡が実現するために動力が満足しなければならない条件の式が多くなる。
この点を座標原点Oに取る。このときはOに作用する合力F=ΣFiと束縛力とが互いに消し合う。そのため剛体が平衡であるための必要充分条件は
となる。これは動力の成分と、その着力点の座標との間の三つの関係式である。
このような物体は三つの自由度を持っている。もしM≠0ならば動力に依ってO点の回りの回転運動を起こす。
剛体に働く力の合成・分解は高校生に取って解りにくい所です。
高校物理の教科書では、最初に“力のモーメントの定義”を教えて、“力のモーメントのつり合いの法則”(梃子の原理はその特別な場合)を導入します。そして、“力のモーメントのつり合いの法則(力のつり合いの法則に対応)”を使って
(1)二力が平行でない場合。
(2)二力が平行で同じ方向を向いている場合。
(3)二力が平行で反対を向きしかも大きさが異なる場合。
(4)二力が平行で反対向きでしかも大きさが同じ場合(偶力)。
に分けて剛体に働く力の合成・分解を説明します。
しかし、多くの教科書の論理展開はかなりいい加減です。
この稿では参考文献1.に従って“力のつり合いの法則”から始めて剛体に働く力を一般化しました。その一般化の過程で“偶力”や“力のモーメント”を導入し、最後に“力のモーメントのつり合いの法則”を導きました。このやり方なら、互いにすれ違う力の合成も容易に理解することができます。
上記のやり方のどちらが良いのか意見が分かれる所ですが、私自身はプランクの説明の方がより厳密な論理展開がやりやすいように思います。
なぜなら、高校物理教科書のやり方では力のモーメントの作用点が何を意味するのか全く不明ですが、プランクのやり方では合力F=ΣFiの着力点を決めることで合成偶力(力対)M=ΣMi=Σ[ri×Fi]やその作用点に明確な意味を持たせることができるからです。