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任意の位置にある恒星について、歳差運動による赤道座標の年変化を求めます。
地球の自転軸は、約25800年の周期でもって地球の公転面に垂直な軸のまわりに味噌すり運動(歳差運動)をする。これは地球の自転軸が、黄道極軸(地球の公転面に垂直な軸)や白道極軸(月の公転面に垂直な軸)に対して傾いていることと、地球の形が完全な球形ではなくて、赤道部分が膨らんだ(力学的扁平)形をしているために、月及び太陽の引力が地球の自転軸を公転面に垂直な方向に向けようとするトルクを生じる事による。
そのことによって様々な周期の回転運動が起こる。リング・サンやリング・ムーンによる平均化された回転運動(ふつう歳差と言えばこの自転軸の極が天球上を1年に約20”移動するこの運動をさす)、白道面の歳差に伴うふらつき(ふつう章動といわれる自転軸極の天球上での長軸9.21”×短軸6.96”18.6年周期の楕円運動)、太陽の周回に伴う半年周期章動(約0.5”の回転運動)、月の周回に伴う半月周期章動(約0.1”)等々。これらを日月歳差と言うが詳細は別稿「ブラッドリーが光行差を見付けた方法(1727年)」6.(1)で説明すみ。
上記以外に次のメカニズムの歳差もある。地球の公転面(黄道面)は、太陽系の様々な惑星の公転面を平均化した平均公転面に対して傾いている。そのため太陽系の他の惑星から黄道面の中心軸を平均公転面に垂直にしようとするトルクを受けて黄道面も歳差運動(惑星歳差)をする。ことに伴う春分点の移動が年に約0.1”程度生じる。
ここでは話を簡単にするために、惑星歳差は無視する。また、白道面の歳差に伴う章動や、太陽・月の周回に伴う半年・半月章動も無視する。以下では、平均化された月と太陽の引力による平均化された日月歳差の影響のみを議論する。そのため、今から計算する赤経と赤緯の年変化はおよその値です。
歳差の変化の様子は下図で表される。天球の赤経は春分点を基準にして東まわりに一周360°で測られる。また赤緯は赤道を基準にして北向きに正+90°、南向きに負-90°で測られる。
上図から明らかなように春分点は天球上を青矢印の方向に1年当たり約50”(=pと置く)移動する。これは厳密な値ではないが、以後この値を用いて近似計算する。
歳差運動に伴い、天球上の春分点が移動する。それに伴って天球上に引かれている赤経線、赤緯線が移動する。そのため天球に張り付いている恒星の赤経、赤緯が年月が経つと変化していくことになる。1年当たりの(赤経変化,赤緯変化)を(dα,dδ)とすると、これは以下の公式で表される。
ここでpは春分点の黄経の年変化角p=50”=0.0002424rad、εは自転軸極の黄道極からの傾斜角、(α,δ)は注目している恒星の(赤経,赤緯)です。
今考えている近似のレベルでは、歳差にともなう黄緯の変化はゼロで、黄経の変化はすべて+50"となるので、黄経、黄緯に付いては特に議論しない。
以下で上記の公式を導く。証明の見通しと手順は座標回転公式の方が球面三角法より簡単で優れている。しかし、結果を図的に解釈するには球面三角法の法が優れている。
x軸を春分点の方向に、z軸を自転軸の北極の方向に取ったxyz座標系を考える。これが歳差運動に伴う春分点の移動で1年後に新しいx'y'z'座標系に移動するとする。
図から明らかなようにx'y'z'座標系は以下の手順で求めればよい。xyz座標系をx軸のまわりに−ε=-23.5°=−0.410rad回転してXYZ座標系とする。次に、このXYZ座標系をZ軸のまわりに−p=−50"=0.0002424rad回転してX'Y'Z'座標系とする。最後に、このX'Y'Z'座標系をX'軸のまわりに+ε=+23.5°=+0.410rad回転すればx'y'z'座標系が得られる。
このときxyz座標系とx'y'z'座標系は以下の関係式で結びつけられる。このように成ることは別稿「座標回転公式と球面三角法」1.(1)を参照されたし。
ここでpが微少量であることからcosp〜1、sinp〜pと近似することができるので
となる。
この式で恒星Sの最初の座標を(x,y,z)とすると1年後の座標は(x',y',z')となるので(x'−x,y'−y,z'−z)=(dx,dy,dz)が、歳差に伴う恒星Sの位置変化と言うことになる。つまり
となる。ここで別稿「座標回転公式と球面三角法」1.(2)2.の結論(r=1とする)を用いて極座標の変分に変換すれば、それが求める歳差による1年当たりの赤経、赤緯の変化となる。
拡大図はこちら
上図に於いてP'から弧PSに垂線を降ろし交点をQとする。このときできる微少直角三角形PP'Qを考える。角P'PQ=αであるから、図から明らかなように、dδ=δ'−δ=PP'cosαが成り立つ。ところで春分点に於ける微少直角三角形からPP'とpの間にはPP'=20"=psinεの関係があることが解るので
が言える。
次に、球面三角形PKSに球面三角法の余弦法則(別稿「座標回転公式と球面三角法」2.(1)参照)を適用すると
となる。
さらに、球面三角形P'KSに余弦法則を適用する。このときδ'=δ+dδ、α'=α+dαであり、且つdδ、dαが微少量だからsindδ〜dδ、cosdδ〜1、sindα〜dα、cosdα〜1と置けることに注意すると
となる。
(1)−(2)式を計算すると
が得られる。
上記の結論は直角三角形P'QSと直角三角形Q'B'Sに正弦定理を適応して、角P'SQ=角Q'SB'(=θとおく)であることを利用すれば直ちに得られる。
様々な赤経、赤緯にある恒星の1年当たりの赤経変化dαと赤緯変化dδを一覧表で示す。別項「ブラッドリーの恒星表(1780年分点)」に掲げた数値と比較してみて下さい。ほぼ等しい値が導かれていることがわかる。
この表はp=50"と置いて近似計算したものですが、δ→90°に近づくとtanδ→∞となり、公式を求めるときに用いた近似計算(sinQ'B'〜Q'B')が成り立たなくなる。そのため赤緯が+−90°近くの星に付いては別途計算する必要がある。
また、極付近に変化量が負になる領域があることに注意。
公式から明らかなように、赤緯変化は星の緯度にはよらず赤経にのみ依存して変化することに注意。
上の表を計算した元のExcelファイルはここをマウスで右クリックするとダウンロードできます。htmlファイルに変換していますが、もともとExcelファイルですから、Excelで読み込み再編集できます。もちろんxls形式で再保存するとExcelファイルにもどります。
ここの説明は下記の文献を参考にしています。高校生向きに出来るだけ解りやすくしました。