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放射性年代測定法

 放射性年代測定で最も大切な事は、いかにして最初の親核種と娘核種の存在比を知るかです。高校の理科では教えない所を説明します。ここの内容は参考文献に挙げた本に全面的に依存しており、図もそこから引用しています。

1.基本的な仮定

()崩壊定数の不変性

 放射性元素が崩壊していく速度は、温度、圧力、化学結合などの物理的、化学的状況によらないとする。核反応は非常にエネルギーが高い現象だから核外電子が関係する化学的な変化や熱運動に伴う擾乱の影響をほとんど受けない。そのため、この前提条件は常に満たされている。
 別稿「放射性崩壊と半減期」で証明したように、時刻 t における放射性元素の数をN(t)とすると、時刻tにおける単位時間当たりの崩壊数n(t)は

となる。
 放射性年代学では、親核種の時間 t における原子数をN(t)の代わりにP(t)(親:parent)と書くので、P(t)で書き換えると

となる。時刻t=0のときの親核種の数をP(0)とすると、上記の微分方程式の解は

となる。ここで半減期T1/2あるいは崩壊定数λは不変の定数である。この(1)式がすべての出発点となる。

()閉鎖系の要請

 放射性年代とは親核種と娘核種の量比の変化から測定されるが、親核種と娘核種がある閉鎖系の中に閉じこめられて、外界への出入りが無くなった時を起点として測られる年代であり、現在から何年前に閉鎖系が確立したかを測定することである。
 放射性年代測定が可能になる条件は、閉鎖系が確立した後は放射性親元素と娘元素がその岩石の中に閉じこめられていて、外に逃げたり、新たに侵入することが無いことである。一般に閉鎖系が確立されるのは、ドロドロに溶けていたマグマが冷えて固まり結晶化したときであるから、放射性年代とは岩石が固結した時から現在までの年代を測定していることになる。
 閉鎖系の要請は最も重要であるが、起点以後のすべての年代において、この仮定が完全には満足されることはまれで、この条件の不確かさが誤差の最も大きな原因となる。
 そして、さらに大切なことは開放形から閉鎖系になった起点が、どの程度短時間に実現されたかである。閉鎖系確立時から放射性物質の時計が時を刻み始めるのだから、閉鎖系の確立が短期間で行われるほど正確な測定が可能となる。起点となる現象がどのようなメカニズムで生じるのかを吟味しなければならない。

 

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2.放射性核種の親核種と娘核種の比を利用する方法

 この方法では親核種と娘核種の数量比の年代変化を利用する。崩壊の結果できる娘核種の時刻 t における原子数をD(t)(娘:daughter)、時刻t=0ですでに存在していた娘核種の数をD(0)、t=0〜tまでの間に生じた娘核種の数を*(t)とすると

となる。この(2)式は娘核種が時刻t=0ですでに存在する場合に重要である。普通時刻tが現在を意味するのでD(t)、P(t)は測定可能。 固結後の経過年数t と D(0) が未知数となる

 D(t)、P(t)の測定には質量分析機が用いられる。質量分析機とは、資料を高温で溶かして熱イオンのガスにし、そのイオン原子を細い穴からビーム状に噴出させ、それを磁場のなかに導きその質量差によるビームの偏向量の違で分離計量する装置である。

 そのとき、各元素の絶対量の測定は困難で誤差が大きいので、実際には放射性崩壊には直接関与しない娘核種の安定同位体Ds(添え字Sはstable安定な)との比を測定する。比ならば上記の質量分析機により測定できる。一般にほとんどの元素には安定同位体が存在し、放射性親核種から生じた娘核種が存在する鉱物中には、それらが同時に含まれている。つまり、放射性親核種から生じた娘核種と同じ原子番号(陽子数)を持つが中性子数が異なるために質量数が違う元素で放射性崩壊に関係しないものがある。

 安定同位体Dsの数は時間的に変化しないので(2)式の両辺をDsで割ると

となる。

 岩石が固化して結晶化するときには様々な鉱物が析出する。そのとき重要なことは時刻t=0において様々な鉱物中に含まれるD(0)とDsの比率は同じと見なせる事である。それは、DとDsは質量数こそ違うが化学的性質や原子の大きさが同じ元素だから、たとえ結晶化の条件が異なっていても、時刻t=0における同位対比D(0)/Dsですべての鉱物に等しく取り込まれるからである。
 それに対してDとPは化学的性質も、原子の大きさも質量も異なる元素だから、結晶学的、化学的、物理的な析出条件が異なる鉱物に対しては鉱物毎にP(0)と{D(0)+Ds}の比が異なって含まれる
 このことは、同一岩石中にD(0)/Dsは同じだがD(t)/DsとP(t)/Dsの値が異なる何種類かの鉱物が存在することを意味する。

 異なる鉱物についてD(t)/DsとP(t)/Dsを測定すれば(3)式より固結後の経過時間tと固結時の同位体比D(t)/Dsを決定できる。(3)式は一次関数 y=ax+b (直線のグラフ)になるので、幾つかの異なる鉱物についてD(t)/DsとP(t)/Dsを測定すれば、直線のグラフが決まり、その傾きa=(eλt−1)交点b=D(0)/Dsを求めることができる。そして資料岩石が固まった年代は

の式により求めることができる。以下で幾つかの例を考察する。

 

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(1)Rb−Sr法

.測定メカニズム

 放射性親核種87Rb37は、半減期T1/2=488億年(λ=1.42×10-12/年)でβ崩壊して、安定な娘核種87Sr38になる。このように長い半減期の測定法は別稿「放射性崩壊と半減期」を参照。
 このときサンプル中には崩壊に関係しない安定同位体86Srも存在するので、それに対する比で、それぞれの核種の存在量を質量分析機で測定する。下表は自然界に存在するRbとSrの同位体核種の存在比である。この中には同位体84Srや88Srもあるが、測定精度をよくするには、存在の比率が87Srに最も近い86Srとの比を測定するのが良い。

 表中の値は、市販されている試薬に対するもので、年代測定の対象となる地学的資料(放射性起源の87Srを含む)のSr同位体存在比は上記とは違った値を示す。その変動の大きさが年代測定に利用されるのである。 
 P(t)=87Rb、D(t)=87Sr、Ds86Srとすると(3)式は

となる。

 下図は未分化のインダーク隕石に含まれている色々な鉱物87Rb(t)/86Srと87Sr(t)/86Srの測定値をプロットしたものである。サンプルを構成する鉱物をまず分離して鉱物ごとに測定しなければならないが、この図のように一つの隕石から得られる異なる鉱物の測定値は1本の直線(等時線)上に並ぶ
 例えば黒雲母は長石に比べ、よりアルカリ元素を取り入れやすく、黒雲母中の87Rb(t)/86Srは長石に比べて数倍から数十倍大きくなる。そのため黒雲母は等時線の右上に、長石は左下に並ぶ。もちろんその場合でも87Sr(0)/86Srの値は87Srと86Srの化学的・物理的性質の同等性からt=0の結晶時には黒雲母、長石とも同じと考えて良いのである。
 この直線の傾きaから隕石が固化してから現在に至るまでの時間tが、また直線の縦軸との交点から岩石が固化したときのストロンチウム同位体の初生比=87Sr(0)/86Srが求まる。

 グラフの傾きaを(4)式に代入してtを求めると、この隕石は4.56×109年前に結晶化したことが解る。またグラフの交点から87Sr(0)/86Srの初生比は0.7005であったことが解る。このようにして測定された隕石の生成年代から太陽系の形成は約46億年前だと考えられている。

.アイソクロン(等時線)法

 前記の例では時刻t=0において、すべての鉱物の87Rb(0)/86Sr値は初生比値0.7005を通る水平な直線上に位置していたが、その水平な等時線は、時間の経過とともに、(0.0,0.7005)点を回転中心として徐々に立ち上がり45.6億年後の今日の傾斜になったのである。
 時刻t=0のときの各鉱物中における87Rb(0)/86Sr値は

のtに前記の4.56×109年と現在の測定値87Rb(t)/86Srを代入して求めることができる。
 また過去の任意の時間t'(<t)における87Rb(t')/86Srと87Sr(t')/86Srのグラフ上での値は、(4)式のtをt’で置き換えた式に、上で求めた87Rb(0)/86Srの値を代入して得られる直線上に載る。

 つまり時刻t’における87Rb(t')/86Srと87Sr(t')/86Srの値は縦軸と87Sr(0)/86Sr+87Rb(0)/86Sr)の値で交わり、傾きが−1の右下がりの直線の上に位置する。これは減少した87Rb原子の数だけ87Sr原子の数が増えることからも了解できる。その直線はもちろん時刻tの座標(87Rb(t)/86Sr,87Sr(t)/86Sr)と時刻0の座標(87Rb(0)/86Sr,87Sr(0)/86Sr)の二点を通る。

 ここは難しいところなので、今一度グラフを用いて説明する。初生の87Sr(0)/86Sr=D(0)/Ds比は等しいが87Rb(0)/86Sr=P(0)/Ds比が異なる二つの資料があったとすると、アイソクロン図と崩壊曲線の対応関係は下図の様になる。


 このような方法を用いれば岩石が固結したときに含まれる娘核種の量が未知でも岩石の固結後の経過時間と結晶化したときの同位体初生比を求めることができる。この方法をアイソクロン(等時線)法と言う。

 このアイソクロン・プロットはオーストラリアの若い地球科学者コンプトンとジェフリーにより1960年(Nature誌)に発表されたもので、地球年代学における偉大なアイディアである。

.鉱物アイソクロンと全岩アイソクロン

 今までの話は一つの岩石中の異なる鉱物に付いてアイソクロンを描いてみる話であった。実は岩石全体を用いても同じような方法が可能である。

 液状のマグマでは元素や同位体は良く混じり合いどの部分をとっても均一と考えて良い。しかし、マグマが固化するとき、急速に固化した部分とゆっくり固化した部分では元素の存在比に差が生じる。例えばイオン半径の大きいアルカリ金属などは結晶の中に取りこまれにくく、最初に固結する結晶からしめ出され、まだ結晶化していない液状部分に濃縮される。従って最後に固化した岩体部分にはアルカリ元素の割合が多くなることになる。
 つまり固結した時期により、種々の鉱物の含有率も異なるし、同じ鉱物でも特定の元素の含有率が変化する事になる。だからほぼ同時期に固結した岩体でも、岩石を採取する場所を変えれば、採取した岩石を丸ごと平均した87Rb(t)/86Sr比の値は場所ごとに異なることになる。
 このとき、元素の含有率は岩石ごとに異なっていても、一つの元素中の同位体比87Sr(0)/86Srに関しては、このような分別作用はなく、どの部分の岩石についても等しい同位体比をもって含まれている。だから岩石全体についてもアイソクロン法が利用できることになる。

 具体的には、ほぼ同時代に固まったと考えられる岩体の様々な場所からこぶし大程度の岩石を取り、これを粉砕してよく混ぜ合わせた物から、数グラムを分析に用いる。そうして鉱物ごとに行ったのと同様な手続きでアイソクロン図を描く。このようにして得られたものを「全岩アイソクロン(全岩年代)」という。それに対して、前記の様に鉱物ごとに分別して求めたものを「鉱物アイソクロン(鉱物年代)」という。

 マグマから直接晶出した火成岩の場合は「全岩年代」と「鉱物年代」は一致するはずである。しかし固結後に変成作用を受けた変性岩では一般に一致しない。全岩年代の方が鉱物年代よりも大きい値になる。
 下図にその一例を示す。資料はスコットランド北部の花崗岩体から採集されたものである。一つの岩石の黒雲母・白雲母・長石の鉱物アイソクロンから得られる年代は3億9千万年を、同一の岩体からえられた4個の岩石1・2・3・4の全岩アイソクロンから得られる年代は5億3千万年を示している。
 このとき、左右の図の目盛りを比較すれば明らかなように、全岩アイソクロンは岩石全体での平均値なので、鉱物アイソクロンに比較して87Rb(t)/86Srと87Sr(t)/86Srの変化幅は小さくなる。

このように両者の年代が異なるのは以下のように説明することができる。

 変成岩の源岩としては火成岩や堆積岩などがあるが、源岩が変成作用を受けるとき、熱のため源岩を構成していた鉱物結晶が壊れ、元素の移動が起こり変性作用の経過につれて新たな鉱物が再結晶する。こうした変成作用における再結晶は固体のままで起こるもので、その際の元素の移動はおそらく数ミリメートル以下であろう。
 そのとき、源岩の結晶化以後時間の経過とともに蓄積された87Srの量が鉱物ごとに異なっるために、鉱物ごとに異なっていた87Sr(t)/86Sr比が、変成作用の過程で今一度87Srと86Srの混合・均一化が起こり、ごく近くに隣り合って存在する鉱物については、新たな同一の初生比87Sr(0’)/86Srと新らしく異なった87Rb(0')/86Sr比にリセットされると考えられる。
 それに対して、こぶし大の大きさの岩石については、変性作用の際の原子の移動距離が数ミリメートル以下と考えられるので、各岩石中の元素の大部分は変性作用の前後を通じて、このこぶし大の領域にとどまっているであろう。そのため一つの岩体の別々の場所で採取され、岩石全体で平均化されていた全岩資料の初生比87Sr(0)/86Srと87Rb(t)/86Srには変化がないであろう。つまり、全岩資料では、たとえ変性作用を受けても、源岩ができてから現在までを閉鎖系として取り扱える事になる。

 すなわち全岩アイソクロンは源岩が結晶化してから現在までの年代を示し、鉱物アイソクロンは岩体が変成作用を受けてから現在までの年代を示していることになる。このように鉱物アイソクロンと全岩アイソクロンを組み合わせると、変性岩については、源岩の生成年代と、変性作用を受けた年代の両方を決定することができる。上記資料の鉱物アイソクロンが示す3億9千万年前という年代はカレドニア造山運動として名高い変性作用の時期を示すものだと考えられている。
 また、「全岩年代」と「鉱物年代」が一致すれば、その岩石について形成後に変成作用を受けることなく閉じた系の条件が満たされていたことになる。実際に隕石の年代測定において、両者が一致することから隕石は45.5億年前の状態を凍結したまま存在してきたことが示された。

.(例)月の岩石

 1970年代の初めアポロ宇宙船が月から持ち帰った月の岩石の年代測定値の例を以下に示す。これは月の高地をつくる斜長岩と、斜長岩よりやや深いところから隕石の衝突の衝撃によって放出されたと考えられるハンレイ岩類のRb−Sr法による全岩アイソクロン図である。これらの岩石が一つのアイソクロン上にみごとに乗ることから、月の地殻は約45億年前に形成されたことが解った。

 グラフの縦軸交点から得られる87Sr(0)/86Srの初生比は0.6989を示しており、隕石から得られる値とほぼ同じであることからも、月が凝縮・集積したのは隕石が凝集・集積した時期とほぼ同時であったと考えられる。

 

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(2)U−Pb法、Th−Pb法

 自然界には238U、235U、234Uが存在するが、234Uは238Uの中間壊変生成核種(半減期は短く25万年程度)である。また、ThはUと化学的に類似したところがあり、Uとともに産出する。結局、最終的に206Pbへ崩壊する238238U−206Pb法)207Pbに崩壊する235235U−207Pb法)、そして208Pbへ崩壊する232Th232Th−206Pb法)が利用でき、三種類の年代測定法が可能である。(崩壊系列の詳細については別稿「放射性崩壊と半減期」参照ただし半減期等のデータは少し古いです)

 以下に自然界に存在する同位体存在比と最終崩壊産物である鉛を示す。

もちろん、表中の値は平均的な値であって、年代測定用資料中の存在比はこの表とは異なる。その違いが年代測定に利用される。鉛への崩壊は多段階のα崩壊、β崩壊によって達成されるが、出発元素の崩壊定数と半減期は以下のようになる。

 ここでは(3)式を求める過程で用いたD*(t)=P(0)−P(t)は厳密には成り立たない。UからPbへ至る崩壊系列の中間崩壊産物である様々な核種が存在しているからである。この当たりは連立の常微分方程式を解かねばならないので詳しい議論は省略するが出発元素に対する中間生成核種の存在比は、おおざっぱなところ各核種の半減期に比例(崩壊定数に逆比例)する。(別稿「放射性崩壊系列の数学」参照)
 そのとき、中間崩壊産物の半減期は出発元素(UやTh)の半減期と比較すると圧倒的に短い(別稿「放射性崩壊と半減期」参照)ので、その存在を無視して良い。そのためD*(t)は、ほぼP(0)−P(t)に等しいと見なして良く、(3)式はこの場合も問題なく利用できる。

 放射性起源同位体をもたない204Pbで規格化すると、前述の(3)式に相当するものは

となる。閉鎖系の条件が満たされる場合には、同一岩石資料中の様々な鉱物に対して、あるいは一つの岩体中の異なった場所の岩石に対してこれらの式を用いればRb−Sr法と同様に、アイソクロン法により岩石の生成年代を求めるこができる。

 しかし、地表付近にさらされた岩石中のUやThは失われやすく、閉鎖系の条件が満足される場合は希である。そこで使われるのが次に述べるPb−Pb法である。

 

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(3)Pb−Pb法

.測定メカニズム

 年代測定資料から親核種、娘核種の流出流入が生じてU/Pbの変化が生じたとしても、Pb同位対比は変化しない場合が多い。それはPbの同位体は質量数が異なるだけで、その化学的性質、原子の大きさは全く同じだから、核種の流出流入は同じような割合で起こり、同位体存在比には影響しないと考えられるからである。
 従ってUやPbの流出・流入がt=0の初期段階か、現代に近いごく最近におこり、それ以外の大部分の時間帯において閉鎖系の条件が成り立つ場合には、以下の量に関してアイソクロンが成り立つことになる。

 (6)、(7)式より

(7’)式を(6’)式で除し、現在のU存在比238U/235U=137.88を代入すると

が導かれる。
 これは二変数 207Pb(t)/204Pb と 206Pb(t)/204Pb の一次式 y=ax+b (直線のグラフ)になる。傾きaと切片bに相当する量は同じ年代を持つ資料に対しては、前述の考察から言えるようにすべて同じ値になると考えて良いので、同じ岩石から得られた各種鉱物の、あるいは一つの岩体中の異なった岩石の(y、x)値はすべて同一直線上に乗り、アイソクロン法が使えることになる。

.鉛同位体の成長曲線とPb−Pb法アイソクロンの関係

ここは難しいところなので、具体的な数値を与えたグラフを描いてもう一度解りやすく説明する。

 地球形成時(45億年前)の鉛同位体の初生比を207Pb(0)/204Pb=10.3、206Pb(0)/204Pb=9.3 とする。これは以下の例で述べるように、隕鉄の値から今日地球形成時の最初に存在した鉛同位対比と推測されているものである。
 また地球形成時の最初に存在したウラニウム同位体の同位対比を235U(0)/238U(0)=0.31とする。これは現在(t=45億年)の同位対比235U(t)/238U(t)=1/137.88 から45億年さかのぼって計算するとえられる値で、地球形成時のウラニウム同位体比と推測されている値である。
 以上の同位対比は、それぞれ同一の元素の同位対比だから、地球形成時に岩石が固化するときに、岩石(鉱物)の種類にかかわらず、すべて同じ値で取り込まれたと考えることができる。

 それに対して、ウラニウムと鉛は全く異なった元素だから、その化学的・物理的性質の違いから、両者の比は鉱物の種類や、岩石の形成環境の違いにより異なった値で取り込まれるであろう。放射性年代学では、資料ごとに異なる比208U(0)/204Pbのことをμ値という。このとき、205U(0)/204Pbの比も考えられるが、前述のように235U(0)/238U(0)の値が資料によって変化しないので、ウラニウム同位体の内の一つと204Pbの比を決めておけば十分である。
 ここではμ値がμ=6(資料1)μ=10(資料2)のグラフを描く。

 ここでは、235U(t)と238U(t)の半減期をそれぞれT5=7億年、T8=45億年、崩壊定数をλ5=9.9×10-8/年、λ8=1.54×10-8/年としている。

上のグラフで点A、B、Cが一つの直線(アイソクロン)上に乗ることは

が成り立つことから明らかである。もちろん現在のウラン同位体比で表現した式を用いても良い。いずれにしても、その直線の傾きから、そのアイソクロンの年代を求めることができる。
 直線の傾きは岩石の形成年代が古くなるほど寝てきて小さくなることに注意。またこの直線の右上に位置する岩石は岩石形成時にウラニウムの含有率が高く、左下に位置するものはウラニウム含有率の低いものである。
 ここで用いたアイソクロン図の縦・横軸が両方とも娘核種の同一種類の元素に関係していることに注意。同一種類の場合には、閉鎖系の仮定が破れて、親核種や娘核種の流出が起こっても、同一種類の元素の同位体比は保存されるだろうから、正しい結論を得ることができるのである。
 これに対して、Rb−Sr法やU−Pb法で述べたアイソクロン図の縦・横軸は娘核種と親核種に関係していた。そのため閉鎖系の仮定が壊れると、岩石や鉱物の種類の違いにより、娘と親の核種では流出の割合が異なるであろうから、アイソクロンは全く成り立たなくなるのである。

 ここで説明した鉛同位体の成長曲線とそれから得られるアイソクロンは、もともとフーターマンズ(Houtermans,1948)とホームズ(Holmes,1946)が地球の年齢を見積もるために、鉛鉱床中に方鉛鉱が析出した年代の計算法として考案したものである。彼らは地球の年齢を決めるために非常に巧妙なモデルを提案したが、現在では彼らが用いたモデル自体が成り立たないことが解っており、彼らが用いたデータも誤差を含む誤ったものであったので、彼らの方法や結論は廃れてしまった。
 結局彼らは間違っていたのであるが、鉛鉱床の同位体比に着目し、アイソクロンの概念を導入した意義は偉大である。このアイディアはやがてパターソンに引き継がれ、隕石の年代を確立する決め手となった。
 この当たりは歴史的には非常に面白いところなので、興味がある人は参考文献3.の第8章を読んでみられることを薦める。

[2010年3月追記]
 上記のフーターマンズは優れた原子物理学者で数奇な運命をたどった人として知られています。参考文献3.に彼の小伝が記載されていますが、2008年に出版されたジェレミー・バーンシュタイン著「プルトニウム」産業図書P100〜110にかなり詳しく紹介されています。これは第1級情報を教えてくれる本です。このページを読まれた方に薦めます。

.(例)西グリーンランド(ゴッドハーブ・イスア地域)の岩石

 実際、岩石や鉱物が地表付近に露出すると地下水や雨水の影響によりUが失われやすく、U/Pbの値は信用できなくなるが、その様な事が起こったのがごく最近である場合にはPb−Pb法は有力な手段となる。
 以下はそのような岩石の測定例である。これらの岩石は、最近起こったウラン損失によりU−Pb法によるアイソクロン図はばらけていて年代測定に使えなかったが、Pb−Pb法では見事に直線のアイソクロン図が得られた。

 これは地球年代学で有名な、西グリーンランド(ゴッドハーブ・イスア地域)のアミツオク片麻岩についてムーアバスらが測定したものの一例であるが、直線の傾きからこれらの岩石の形成年代を求めると以下の様になる。

.隕石および隕鉄の年代

 隕石の年代測定の例を以下に示す。隕石の年齢について始めて信頼の置ける値(45.5億年)を得たのは、パターソン(C.Patterson,1956年)によるPb−Pb法を用いたものである。様々な隕石の鉛同位体比をプロットすると見事にアイソクロン直線の上に乗った。初期の測定値は異なった隕石から得られた全岩アイソクロンであるが、それらが一つのアイソクロン上に乗ることは、それらの隕石がどれも同じ時期に形成されたことを示していると言える。それから得られる隕石の形成年代は45.5億年前となる。

 図中左下端の隕鉄のトロイライトの座標値は特に注目に値する。隕鉄は石質隕石と違い鉄・ニッケルを主成分とするが、若干のトロイライト(FeS)と呼ばれる鉱物を含んでいる。トロイライトにはわずかではあるが鉛も含まれている。しかし、トロイライト中のウランやトリウムの含有量は鉛のさらに2000分の1以下でほとんど含まれていないと言って良い。従って45億年たってもトロイライト中には放射性起源の鉛はほとんど含まれていないと見なして良い。つまりトロイライト中の鉛は隕鉄ができたとき、つまり太陽系が形成されたときの鉛の同位体比をそのまま封印していると見なせるのである。それらは始源鉛同位体組成といわれ今日 207Pb(0)/204Pb=10.294 と 206Pb(0)/204Pb=9.307 と見なされており、U−Pb法やPb−Pb法による年代測定の議論の基礎になる値である。
 トロイライト中の鉛の量は1ppm以下のごく微量であるが、パターソンはトロイライト中の鉛の同位体比を正確に測定するのに始めて成功した。

 

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(4)コンコーディア(年代一致曲線)図法

.測定メカニズム

 ジルコンのようにUに富み、結晶時にPbをほとんど含まない鉱物では資料中のPbは放射性起源同位体と見なすことができる。ここでは207Pb(0) と 206Pb(0) はゼロと見なせる鉱物資料の場合を議論する。

 放射性起源の同位体には*を付けてPb表すと、この場合には前記の(6)、(7)式中の207Pb(0) と 206Pb(0) はゼロと見なせるので特別簡単になって

となる。これらを時間 t について解くことにより岩石の年代を求めることができる

このとき(11)、(12)で求めたtは当然一致しなければならないので二式からtを消去すると

で表される曲線が得られる。この曲線をコンコーディア(年代一致曲線)と呼ぶ。岩石の年代が古くなると年代tはこの曲線上を矢印の向きに移動する。このとき、その位置はUの初期存在量や、初期存在比238U/235Uには依存しないことに注意。

.ディスコーディア

 岩石が生成されて以来今日まで閉鎖系の条件が満たされていれば、岩石年代tを示す点はコンコーディア曲線の上に乗るはずである。しかし一般には閉鎖条件が成り立たずに、この曲線から外れてしまう。そのときある条件が成り立つときには、その外れ具合から様々な情報を得ることができる。その当たりを幾つかのモデルを検討しながら説明する。

(1)30億年前に結晶化し、10億年前に鉛を失う変性作用を受けたとする。そのときの変成作用で30-10=20億年の期間に蓄積された放射性Pbの内20%の鉛を失ったとする。その場合の岩石資料が示すコンコーディア図上での位置は下図の点Cになる。つまり30億年の点Aと10億年の点B(30-10=20億年の点では無いことに注意)を結んだ直線を2対8に内分する点Cになる。

(2)30億年前に結晶化し、ごく最近(現代に近い)に鉛を失う変成作用を受けたとする。そのとき30億年の間に蓄積された放射性Pb鉛の内40%を失ったとする。その場合の岩石資料が示す位置は30億年の点Aと0年の点Dを結んだ直線を4対6に内分する点Eになる。

なぜC点やE点になるのかは次のグラフを検討すれば明らかであろう。

 鉛の損失率が20%と40%の特別な場合を図示したが、一般的な損失率R(0<R<1)の場合は、それぞれの直線をR:(1−R)に内分する点に乗ってくる。このように、資料の鉛損失率に従って位置を変化させてプロットしてえられる直線をディスコーディア(年代不一致線)と呼ぶ。

 ここで、一般的な場合を論じておく。いま t年前 に固結した岩石が t1年前 に変成作用を受けて、t−t1の期間に蓄積された放射性起源同位体のPbの R の割合が失われたとしよう。そうすると、現在の鉛の含有量は次図の(13)、(14)式で表される。

上図から得られる(13)式と(14)式の片々を238U(t)と235U(t)で割り算すると(13')と(14')が得られる。

これはコンコーディアのt及びt1を通る直線の上に乗ること意味している。

さらに一般的な場合で
(3)30億年前に結晶化し、10億年前に変成作用を受けて以来、現在まで連続的に拡散によって鉛を失う作用を受けた場合。その資料のディスコーデイア(年代不一致線)を例示すると、上記(1)(2)の例から明らかなように、下図の様なものになるであろう。

ここでの議論で大切なことは以下の4点である。

  1. ここでの考察はジルコンの様にUを豊富に含み、初生時に鉛を含まないと見なせる資料か、初生鉛の量について確実に推定できる資料についての話である。
  2. 鉛が資料から失われる量は207Pb と 206Pb で異なっているが、それぞれの鉛について失われる割合は同素体元素(化学的、物理的性質が同じ)故に同じになる。そのためにディスコーデイアはほぼ直線状になる。
  3. 現代に近い時刻t1の部分ではディスコーディア線のモデルの違いによるばらつきは大きいが、時刻tの部分では、その失われ方のモデルの違いにかかわらずほぼ同じ位置でコンコーディア曲線と交わる。そのため、その交点から岩石資料の形成年代を求めることができる。
  4. ディスコーデイア上の位置により、その資料の二次的な変性の度合いを知ることができる。またコンコーディア曲線と交わる辺りの資料については、Pb流出などの二次的な変性を受けていないものと考えられる。 

 以上の様な理由で、完全に閉鎖系の条件が成り立たないような状況でも、一つの岩体から多くの鉱物資料の鉛同位体比のデータを得て、プロットしてみれば、コンコーディア曲線とディスコーディア線の交点から、岩石資料の形成年代を求めることができる。以下に幾つか例を示す。

.(例)西グリーンランド(ゴッドハーブ・イスア地域)の岩石中の鉱物

 次図は、西グリーンランド(ゴッドハーブ・イスア地域)のアミツオク片麻岩、及び礫岩から分離した鉱物(ジルコン)に適用したものである。この場合ジルコン粒をそれぞれ1個の資料として分析したもので、Rb−Sr全岩年代やPb−Pb全岩年代(2.(3)で説明)と良く一致している。図からから解るように、片麻岩から分離したジルコンの方がPbの失われ方が大きいようである。ある程度二次的な移動が起こった場合でも、コンコーディア図を用いることにより、意味のある年代がえられる。

.(例)西オーストラリア(ナリア山地・Jack Hills)の岩石中の鉱物

 次の図は現在地球最古の岩石と見なされている西オーストラリア・ナリア山地・Jack Hillsの変性を受けた堆積岩の例です。それに含まれる礫岩中の砕屑性ジルコン粒子140粒に適応したものである。そのうちの17粒は39.2億年〜42.28億年前にこの鉱物が結晶化したことを示している。

 ジルコン粒子がこのように古い年代値の痕跡をのこしているのは、鉱物として変質しにくく、熱的な影響に対して相対的に高い閉鎖温度を持っているからである。また、二次的加熱によりPbやUの移動があっても、コンコーディア図においてディスコーディア図を描けば、その交点から元の年代が推定できることも利点になっている。
 ジルコン粒子では約42億年前の痕跡が残されているが、珪酸塩鉱物や岩石自体の痕跡としては、いまでも西グリーンランド・イスア地域の38億年前のものが最古である。

 

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(5)K−Ar法

.カリウム−アルゴン法

 この方法は1950年代後半に実用化されたが以下の特徴を持つ。

  1. カリウムは岩石や鉱物中(特に雲母や長石)に普遍的に存在するので、適用できる試料の種類が多い。
  2. 40Kの半減期が12.5億年と比較的短いため、地球生成時から1万年程度までの広い年代範囲の測定に利用できる。
  3. 試料のArが放射性起源40Ar以外には大気Arの同位対比と等しいと言う仮定(後述)を満たすかぎり、今まで述べたアイソクロン法の様な方法を用いなくても、1個の試料で年代数値が得られる

 40は下記の過程で40Ar40Caに崩壊する。

 このように2種類の核種に崩壊しても40Kそのものの半減期は1つで約12.5億年である。この場合生成してくる40Arの量は各瞬間瞬間に於いて崩壊する40Kの11.2%だから、それが積み重なって時間t経ったときの40Ar(t)の量も、その時間に崩壊した40Kの総崩壊数の11.2%である。40Ca(t)についても同様で40Kの総崩壊数の88.8%である。
 これは、最初存在する40K(0)を11.2%と88.8%の二つに分けて、前者が半減期12.5億年で40Arに、後者が半減期12.5億年で40Caに崩壊するのと同じことである。(下図参照)。

 カルシウムはほとんどの岩石の主成分として含まれており、しかも、その97%が放射性由来のCaと同じ40Caである。そのため放射性由来の40Caと最初から存在する40Caの区別をする事が極めて難しく、年代測定には40K−40Arの組み合わせのみが利用される。
 結晶化した後40Kから生じた40Arは不活性ガスであるが、その原子半径(1.9×10-10m)が大きいため、格子間隔が1.0〜1.5×10-10m程度の普通の結晶格子中ではその中に閉じこめられて外界に逃げ出すことができなくなる。その封入されたアルゴンの量を測定するのである。
 つまり40K−40Ar法の年代は、火山岩がマグマから固化して、岩石からガスが逃げられなくなってからの年代を表すことになる。実際のところ40K−40Ar法の最もめざましい成果は、火山岩形成時(そのときの磁場の方向が岩石に封じ込まれる)に適応して得られた地球磁場逆転の歴史の解明である。(参考文献3.の第3章参照)

 放射性起源の40Arを40Ar*で表すと、上図から明らかなように40Ar*(t)、40K(t)とtの間には以下の関係が成り立つ。

すなわち資料中の40Ar*(t)、40K(t)を測定することで、年代tが求められる。

現在天然に存在する同位体の存在比は下表の通りである。

.放射性起源以外のArの見積もり

試料に混入する放射性起源以外の40Arとして以下の三つが考えられる。

  1. Arは気体である。だから結晶化する前のマグマにArが含まれていても、地表でマグマが結晶化する火山岩では、深部の高圧な状態から地表の1気圧に減圧される過程でマグマ中のガスは容易に脱ガスされて大気中に放出されて、固化したばかりの火山岩中の初生Arガスはほとんど含まれていないとすることができる。
     しかし地下深部のマグマだまりで形成されるカンラン石や輝石、斜長石などの巨大斑晶には最初から40Arが含まれており、それらが結晶化時にトラップされる。
  2. 地表で固化した岩石では、固化するとき空気を岩石中にトラップすることが多く、ごくわずかではあるが大気アルゴンの混入がある。
  3. 質量分析機で分析するさい、完全な真空を実現することは難しいので分析時に大気アルゴンの混入はさけがたい。

 以上のような理由で放射性起源以外の40Arの混入はさけがたい。その混入量を見積もるためにアルゴン同位体36Arを用いる。つまり混入している放射性起源の40Ar*以外の40Arは、現在の大気の同位対比40Ar/36Ar=295.5と同じ同位対比で、結晶化時あるいは質量分析時に混入したと考える。

 上記3.の場合の同位対比は現在の大気と同じとみなせるが、1.と2.の場合には現在大気の同位対比で混入した保証はないのであるが、その場合も同じとして取り扱う。放射性起源以外のArの混入率が50%以下の試料については、この取扱でほぼ問題ないと考えられている。ただし混入率が大きくなるほど年代の測定誤差は大きくなるので、K−Ar法の年代測定値には混入率も併記することが慣例となっている。

.極微量元素の定量(同位体希釈法)

 現在の質量分析計は10-10g程度の試料を用いて、その同位体比を極めて正確に測定することができる。しかし、今回のK−Ar法では(17)式中の40Ar*(t)と40K(t)は気体固体のため同一の質量分析機で同時にその存在比を測定することは難しい。別々の装置を用いて測定しなければならないので、試料中のそれらの相対的な存在比ではなくて絶対量の測定が必要になる。
 40K(t)の場合は、炎光光度計原子吸光光度計を用いて試料中の全Kの絶対量を測定してから、現在のカリウム同位体の存在比を用いた計算で求めている。
 40Ar*(t)は試料中の全Arの絶対量とその同位体比質量分析計で測定して求めている。そのとき絶対量を求めるときに用いられる方法が同位体希釈法である。

 同位体希釈法とは次のようなものである。今あらかじめ正確に量を量ってあるアルゴンの同位体38Arを試料に混合する。このような混合物の同位体比については、質量分析計は極めて正確に教えてくれる。混合したアルゴン38Ar量があらかじめわかっているのだから、測定した同位対比38Ar/40Arからアルゴン40Arの絶対量が計算できることになる。
 今日では原子炉内で様々な同位体を人工的に作ることができるので、ほぼ100%の純度のアルゴン38Arを入手できる。同位体希釈を行うため、体積と圧力を測定した38Arをあらかじめ既知の容積のフラスコに順次拡散させて薄めて厳密にその量を測定した一定量を準備しておく。
 同位体希釈法の利点は、質量分析計を用いるために、極めて少量の試料で十分であること、また岩石から抽出した40Arと38Arが完全に混合されていさえすれば、その混合試料の一部を取り出して測定した同位対比でも良いという所にある。

.K−Ar法の長所と短所

 放射性起源以外のArの混入量は現在大気の同位対比40Ar/36Ar=295.5を用いて取り除くことができるので、放射性起源のAr*は岩石の結晶化時にゼロから出発すると見なして計算できる。そのため単一の試料で放射性年代が求まる。
 しかし、Arは不活性ガスのため岩石結晶化後に失われやすい。特に、鉱物の構造的な性質から保持しにくい場合、再加熱を受けた場合、熱水や地下水による変質や風化を受けた場合などに失われやすい。そのためK−Ar法年代は、対象となる現象の年代の下限値を示しているものと考えるべきである。

 

.宇宙線により生成した核種を利用する方法

 宇宙線で定常的に作られ、その存在量が常に一定と見なせる放射性核種に適応される方法である。14Cの放射性崩壊を用いる方法が有名だが、他の核種を利用するものも色々ある。

 放射性炭素14を用いる方法では、炭素を取り入れた生物が死滅した時(放射性年代計測の出発点)の14Cの同位体存在比の見積もりをどのように行うか、また極微量の14C量の測定をいかにして行うかなど非常に興味ある問題であるが、放射性年代の計算法自体には込み入ったところは無く、高校の授業で習うところなので説明は省略する。

[補足説明]
 放射性炭素同位体14Cはマーティン・ケイメン(Martin Kamen)とサミュエル・ルーベン(Samuel Ruben)によって1940年2月に発見された。これが年代測定に使えることを発見したのは1947年のウィラード・リビー(Willard Frank Libby 1960年ノーベル化学賞受賞)です。

 

.放射壊変系列における放射平衡系からのずれを利用する方法

 この方法は、ウラン系列、プルトアクチニウム系列、トリウム系列に属する中間崩壊生成核種の数量は各崩壊定数に対応した一定値になっていることを利用する。放射性崩壊平衡にある状態から、ある事象により平衡からのずれが生じた時点から再び放射性崩壊平衡に戻るまでの変化を追跡して年代を測定するものである。高校レベルを越えるので説明は省略。

 

.放射線損傷を利用する方法

 ウラン238Uが極めて希に起こす核分裂反応(αやβ崩壊ではない)で生じる高エネルギー分列核が結晶中に残す飛跡の損傷の数を数えて岩石の固結後の年代を測定する。(フィッション・トラック法)
 熱ルミネッセンスで放射される光の量は結晶が受けた放射線量に比例する。そのため結晶を熱したとき放射される光の量を測って結晶が受けた放射線量を見積もり、結晶の固結後の年代を測定する。(熱ルミネッセンス法)
 これらは、いずれも簡単で便利な方法ですが、特殊なものなので説明は省略。

 

.参考文献

 高校の物理や地学で放射性年代測定を習います。そのとき、最初から存在する娘核種の存在はどのように取り扱うのだろうかと疑問に思うところです。いつか、その当たりをきちんと説明するHPを作りたいと思っていたのですが、実際に作ってみると高校生には少し込み入りすぎた題材ですね。

1.兼岡一郎著 「年代測定概論」東京大学出版会 1998年刊
2.小島稔、斎藤常正編 「岩波講座地球科学6 地球年代学」岩波書店 1978年刊
3.小嶋稔著 「地球はいつ生まれたか−地球年代学入門」東京大学出版会 1973年刊
4.木越邦彦著「年代を測る−放射性炭素法」中公新書 1978年

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