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電気工学の大部分の問題はゆるやかに変化する場に関するものである。ゆるやかに変化する場とは振動の一周期の間に光りが進む距離が、装置の大きさに比べると遙かに大きいと言うことである。つまり回路のあるところで起こった変化は瞬時に回路全体に及び、回路を構成する各部分は互いに力の関係を調整しあって同期して動く。
だから交流により回路中を右往左往する電荷も、各瞬間瞬間を見れば力はつり合っており、電荷に働く合力は常に零であると見なせる。実際はごく僅かの力のバランスの崩れが電流や電位を変動させるのだが、各瞬間のそれらの変化を実現するために動く電気量は、回路全体を流れる電流の電気量に比較したら無視できるほど少量であり、また各瞬間の各部分の電位を実現するための電荷分布のやり直しに要する時間は、交流の変動周期に比較したら無視できるくらいに短い時間におこなわれる。
つまり交流回路の中で起こっている事は、いくら時間的に変動する現象でも、各瞬間瞬間に於いては力の釣り合いが実現された定常状態であると見なせる。だから交流の瞬時値について、各回路素子は発電機に同期している。そのときキルヒホッフの法則がそのまま成り立ち、それを利用して論じる事ができる。
各回路素子には、発電機に同期した角振動数ωの周期的電流が流れる。そのとき各回路素子を流れる電流と素子に掛かる電圧の関係は別稿「交流電気回路」で説明したように
だから
各回路素子は前述の様に発電機と瞬時に情報をやり取りして、お互いを調整する。そのため、回路素子R、L、Cには、すべて同じ角振動数ωを持つ関数で表される電圧が掛かる。故にそれらの和は同じ角振動数ωの一つの三角関数に統合される。
発電機が統合された形のsin関数で起電力を発生しているとすると、これらをもとの三つのsin関数に分解できる。分解したそれぞれについて、各R、L、Cが単独に存在したときに成り立ったiとvの関係がそのまま成り立つ。だから各回路素子に於ける消費電力についても、そのときの結論がそのまま成り立つ。
電圧と電流の比例定数をインピーダンスと言う。前記結論より
となる。この関係を図示すると
となり、sin関数の和は、一つのsin関数に置き換えられる。これは各回路素子に掛かる電圧を角速度ωで回転するベクトルで表し、そのベクトル和をとれば良い事を意味する。そして、最後に合成ベクトルの水平軸への射影成分が直列回路の両端に掛かる電圧の瞬時値である。このことが、後で述べる複素数表示による取扱の着想に発展する。
仕事率の瞬時値を計算すると
仕事率の実効値Pは仕事率の瞬時値pの時間的平均だから上記式の第1項のみ残り
この関係式は最初に述べたvとiを乗じて時間平均したものに、別稿「交流電気回路」の結論を用いても求まる。
回路を駆動する発電機の電圧V0を一定とすると、回路を流れる電流は合成インピーダンスの値により変化するのはもちろんであるが、さらに発電機の交流の角振動数ωの値により変化する。
つまりω=1/(LC)1/2のとき最大の電流が流れる。
これはR、L、Cの直列回路の抵抗値は、それらの各々の抵抗値(インピーダンス)R、ωL、(1/ωC)の和になることから予想できることである。なぜなら、コイルの抵抗は高周波で大きく直流でゼロ(短絡と同じ)、コンデンサーの抵抗は高周波で小さく直流で無限大(断線と同じ)なのだから、ある中間の周波数f=ω/2πで合成抵抗が最小になるであろうから。
例として以下の場合を図示する。解りやすいように実数軸を垂直にして、時間の原点をずらしている。
ωt | 0 | (1/4)π | (2/4)π | (3/4)π | (4/4)π | (5/4)π | (6/4)π | (7/4)π |
i | -0.71 | 0 | 0.71 | 1 | 0.71 | 0 | -0.71 | -1 |
v | 0 | 2 | 2.83 | 2 | 0 | -2 | -2.83 | -2 |
vR | -1.41 | 0 | 1.41 | 2 | 1.41 | 0 | -1.41 | -2 |
vC | -1.06 | -1.5 | -1.06 | 0 | 1.06 | 1.5 | 1.06 | 0 |
vL | 2.47 | 3.5 | 2.47 | 0 | -2.47 | -3.5 | -2.47 | 0 |
発電機コイルを流れる電流がコイルに及ぼす力Fと、それに抗して回転子を回転させるための外力の方向に注意。Fと外力の回転方向の成分は、互いに逆向きで常につり合っている。
下図には現れていないが0<ωt<(1/4)π、π<ωt<(5/4)πでは外力の方向は回転方向とは逆になっており、仕事率pは負になる。それ以外の期間では外力は回転方向を向いており、外力は発電機の回転子に正の仕事をする。それらの仕事は一時的にコイルやコンデンサーのエネルギーとして蓄えられたり取り出されたりするが、正負の仕事の差分が最終的に抵抗でのジュール熱となって消費される。
項1.の最初に述べた理由により、この場合も交流の瞬時値についてキルヒホッフの法則が成り立つ。
各回路素子のすべてに、発電機に同期した角振動数ωの周期的電圧が掛かる。そのとき各回路素子にかかる電圧と素子を流れる電流の関係は別稿「交流電気回路」で説明したように
だから
各回路素子は発電機と瞬時に情報をやり取りして、お互いを調整する。そのため、各回路素子にはすべて同じ角振動数ωを持つ関数で表される電流が流れる。故にそれらの和は同じ角振動数ωの一つの三角関数に統合される。
電圧と電流の比例定数をインピーダンスと言う。前記の関係より
となる。この関係を図示すると
となり、sin関数の和は、一つのsin関数に置き換えられる。これは各回路素子を流れる電流を角速度ωで回転するベクトルで表し、そのベクトル和をとれば良い事を意味する。そして、最後に合成ベクトルの水平軸への射影成分が並列回路を流れる合成電流の瞬時値である。このことが、後で述べる複素数表示による取扱の着想に発展する。
仕事率の瞬時値を計算すると
仕事率の実効値Pは仕事率の瞬時値pの時間的平均だから上記式の第1項のみ残り
並列の場合も、直列の場合と同様に抵抗で電力を消費するだけである。
この関係式は最初に述べたvとiを乗じて時間平均したものに、別稿「交流電気回路」の結論を用いても求まる。
(1)(2)が成り立つ場合、電源からの電流は流れないでA点とB点の電位がv=V0sinωtで変動することを意味する。このとき 0=i=iL+iC より iC=−iL となりLとCの間に電流が交互に流れて振動する。つまり電源からω=1/(LC)1/2で振動する電圧を供給すると、供給電流 I0→0 でも、LC回路に非常に大きな電流が流れる共振回路となる。
そのとき電源の中に発生する電圧は、LC回路の回路素子を特徴づける式(別稿「交流電気回路」4.5.参照)により、LC回路を流れる電流に関係づけられる。
別項「交流電気回路」で説明したように、回路素子コイルの両端にかかる電圧に対して流れる電流の位相はπ/2遅れ、回路素子コンデンサーの両端にかかる電圧に対して流れる電流の位相はπ/2進む。このとき並列回路のAB間に同じ電圧が加わるとき、iLとiCは位相がπだけずれることになり、LとCには常に逆向きの電流が流れることになる。このとき
となるが、1/ωLとωCが等しくなるとiLとiCの振幅が等しくなり、上図の部分だけで振動できることになる。これがまさしく共振の条件である。
i=0だから電源を取り除いても事情は変化しない。つまり
で振動する性質を持っていると言える。実際、この回路を電流共通で、電圧が和になる直列閉回路とみなすとキルヒホッフの第2法則より
となる。これは項1.(4)の回路
でR→0にしたときの回路と同じである。つまりこの回路でも電源から角振動数 ω=1/(LC)1/2 の電流を供給すると、電源電圧V0→0 でも、LとCに大きな電流が流れる共振回路となる。
そのとき電源の中を流れる電流は、LC回路の回路素子を特徴づける式(別稿「交流電気回路」4.5.参照)により、回路素子に掛かる電圧と関係づけられる。
別項「交流電気回路」で説明したように、回路素子コイルを流れる電流に対して両端にかかる電圧の位相はπ/2進み、回路素子コンデンサーを流れる電流に対して両端にかかる電圧の位相はπ/2遅れる。このとき直列回路を流れる電流は共通だから、下図のA→CのvLとC→BのvCは位相がπだけずれることになり、A→CとC→Bの電圧は常に逆になる。このとき
となるが、ωLと1/ωCが等しくなるとvLとvCの振幅が等しくなり、上図の部分だけで振動できることになる。これがまさしく共振の条件である。
(A)と(B)は異なっている様に見えるが、それは単なる見方の問題で全く同じ事柄である。
例として以下の場合を図示する。解りやすいように実数軸を垂直にして、時間の原点をずらしている。
ωt | 0 | (1/4)π | (2/4)π | (3/4)π | (4/4)π | (5/4)π | (6/4)π | (7/4)π |
v | 0 | 2 | 2.83 | 2 | 0 | -2 | -2.83 | -2 |
i | 2 | 2.83 | 2 | 0 | -2 | -2.83 | -2 | 0 |
iR | 0 | 1.41 | 2 | 1.41 | 0 | -1.41 | -2 | -1.41 |
iL | -1.5 | -1.06 | 0 | 1.06 | 1.5 | 1.06 | 0 | -1.06 |
iC | 3.5 | 2.47 | 0 | -2.47 | -3.5 | -2.47 | 0 | 2.47 |
発電機コイルを流れる電流がコイルに及ぼす力Fと、それに抗して回転子を回転させるための外力の方向に注意。Fと外力の回転方向の成分は、互いに逆向きで常につり合っている。
下図には現れていないが(3/4)π<ωt<π、(7/4)π<ωt<2πでは外力の方向は回転方向とは逆になっており、仕事率pは負になる。それ以外の期間では外力は回転方向を向いており、外力は発電機の回転子に正の仕事をする。それらの仕事は一時的にコイルやコンデンサーのエネルギーとして蓄えられたり取り出されたりするが、正負の仕事の差分が最終的に抵抗でのジュール熱となって消費される。
例として以下の回路を考える。ここで交流電源V1、V2の角振動数がω1、ω2と別々の値でもかまわない。
ここで取り扱っている交流の様に、場がゆるやかに変動する場合、各瞬間に各回路素子の両端に生じる電位差 v と回路素子を流れる電流 i について
が成り立つが、まさに、これらの法則が各回路素子の両端に生じる電位差と素子を流れる電流の関係を規定している。
上図の回路で、各回路素子の両端の電位差を
で表し、i1〜i9を未知関数として、キルヒホッフの第1・第2法則を適用する。これはi1〜i9に関する定数係数の線形連立2階常微分方程式を解く問題になる。その際コンデンサーに最初電荷が溜まっていたら積分の初期値として考慮すればよい。そして回路網中のすべての支線の電流と電圧を決定することができれば、この回路網の振る舞いのすべてが解った事になる。ただし、たとえ線形であっても2階の連立常微分方程式を解く問題は高校生には難しい。それが、以下の様に考えると劇的に簡単になる。
回路素子の両端に生じる電位差 v と回路素子を流れる電流 i について成り立つ
の関係式は、iやVの変化が角振動数ωの正弦関数の場合、vとiの間の位相関係が下図の様になることを示している。
このとき、複素数の積の性質(高校数学Bで習う)を利用すると
角振動数ωで回転する複素ベクトルV0、I0の実数軸への射影成分が実際の電圧、電流の瞬時値v、iと考えればよい。このとき電流の正負は、正の電圧が抵抗に加えられたときに電流が流れる方向を正と決めて論じる。
前記回路網中の電流を駆動する電源の電圧(電流)が時間のsinまたはcos関数で変化しており、しかも交流駆動電源v1、v2の角振動数が同じ値ωを取る場合には、上記(1)の取扱が劇的に簡単になる。それは前記回路網で交流電源v1、v2の角振動数ωがすべて同じで、さらに以下の2点が成り立つから、常微分方程式を定数係数の連立代数方程式で置き換えることができるからだ。
(注意) 電源v1、v2の交流角振動数がω1、ω2と別々の値の場合には特別な注意が必要なので(4)で説明する。
例として前出の回路を取り上げる。ただし回路素子のインピーダンス、電流、電圧すべて複素数とし、V1、V2の駆動角振動数は同じ値のωとする。
キルヒホッフの第1法則(分岐点A〜F)
キルヒホッフの第2法則(回路@〜C)
電源に関しては、電流の流れる方向に回路を進むときは+で、逆向きに進むときは−で加える。その他の回路素子については電流方向に進む場合−、その逆に進む場合+でつけ加える。
(1)〜(9)式をまとめると未知数 I1〜I9 の線形連立代数方程式になる。
行列表現すると
となる。複素数係数であろうと、これは一般的に解くことができて、I1〜I9はV1、V2の線形結合(常数係数の和の形)で表すことができる。そのときV1、V2にかかる係数は一般に ZR1、ZC1、ZL1、・・・・・等々の関数である。
このとき、この係数は ZR1、ZC1、ZL1、・・・・・等々の積や商を含み線形の関係ではないが、係数のインピーダンスに関しては乗除算が入っていても良い。それはI1〜I9についての答(V1、V2の常数係数の線形結合和)が満たすべき(1)〜(9)式が変数について線形な関係だから、複素数で満たしていれば、その実数部も必ずその連立方程式を満たしているからである。
いずれにしても上記連立方程式の複素解が求まる。次にその求まった解の ZR1、ZC1、ZL1、・・・・、とV1、V2に
を代入して整理し、その実数部を取ればよい。それがI1〜I9について求める解である。
実数解については角振動数が異なる電源を含んでいても重ね合わせの原理が成り立つ。交流電源V1、V2の角振動数がω1、ω2と別々の場合には以下の手順を踏めば良い。
このとき角振動数の異なる電源を含む線形回路に重ね合わせの原理が適応できるのは、上記の手順で別々に求めた解においてのみであることに注意。
もとの連立方程式の中に異なった角振動数の複素数表示解を重ね合わせたものを導入することはできない。それは、複素数表示を用いた解析法は、どの回路素子の電圧、電流とも同じ角振動数の正弦波であると言うことを前提にして各素子のインピーダンスを複素数化していたからである。だから必ず各角振動数について別個の回路を考え、そうして求めた解について重ね合わせをおこなう。
今まで述べてきた複素数表示を用いた解析法は線形回路素子についてのみ成り立つ。線形回路素子とは素子の両端に掛かる電圧は素子を流れる電流に比例すると言うことである。つまり比例定数が電圧や電流によって変化しない定数の素子である。
それに対して、電圧によりキャバシタンスが変わるバラクタ(varactor可変容量ダイオードvariable
capacitance diode)や飽和鉄心を持つインダクターなどは非線形回路素子と呼ばれる。非線形な素子にはインピーダンス(電圧と電流の比例定数)を定義することはできないので、ここで説明した複素数表示による解析法は成り立たない。
今まで取り上げてきた電源、レジスター、キャパシター、インダクター以外の回路素子として、相互インダクター、トランジスター、真空管などがある。これらの素子は、もともと電圧と電流が単純な比例関係にはない非線形回路素子である。だから複素数表示により解析する回路に取り込むことはできない。しかし多くの応用においては作動特性が充分線形で、トランジスターや真空管を線形の装置とみて良い場合がある。その場合は適当な電源装置に置き換えた等価回路にして、前記の複素数表示で解析できる回路に組み込むことができる。
以下そのような場合の等価回路について説明する。
上図のように2個のコイルがあり、一方のコイルの磁束が他方のコイルを貫いているとする。このとき2個のコイルは相互インダクタンスMを持ち、一方の電流が変化すると、他方のコイルに電圧が生じる。相互作用している2個のコイルの起電力は2つの部分の和として
のように表される。第2項の符号は一方のコイルの磁束が他方のコイルを貫く方法に関係して正にも負にもなり得る。各コイルに発生する起電力は2つの部分の和だから、下図の様に2つの回路中に反対側の回路の電流と
で関係づけられる電圧源を挿入する。そうすると自己インダクタンスの効果はそのままで、相互インダクタンスの効果は理想的な電圧源で置き換えることができる。もちろんこの電圧源の起電力は回路の別の部分の電流に関係しているが、方程式が線形である限り、回路方程式に一つの線形方程式が付け加わるだけなので、前述の複素数表示による解析ができる。
入力電圧と出力電圧が比例関係にある範囲内では、装置のある部分の電圧や電流を、装置の他の部分の電圧や電流で表すことができ、そのような電圧源を挿入することで線形素子からなる線形回路に変換できる。例えば三極管のプレート回路は、抵抗と直列につながった電圧源で表され、電源電圧はグリッド電圧Vgに比例するとすればよい。等価回路は下図の様になる。
トランジスターのコレクタ回路は抵抗とこれに直列な理想的電圧源で置き換えることができる。この電源の電圧はトランジスターのエミッタからベースへ流れる電流Ieに比例する。等価回路は下図のようになる。このように変換すれば線形回路網の中にトランジスターの働きを取り込むことができる。
真空管やトランジスターを含む回路の解を求めてみると、インピーダンスの実数部が負になる場合が生じる。インピーダンスの実数部はエネルギー損失を意味したが、負になると言うことは、回路にエネルギーが供給されることを意味する。もちろんエネルギーが湧いて出るわけではなくて、電源のDC回路からエネルギーを貰ってAC回路のエネルギーに変換されるわけである。真空管やトランジスターを用いることにより、負の抵抗を持つ回路が可能になるが、これこそが増幅器や発振器のメカニズムである。