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数式を用いて中和滴定曲線のグラフを導いてみる。
弱酸の電離定数をKa、弱塩基の電離定数をKbとする。ここでも話を簡単にするために濃度CA=0.1mol/lの弱酸1リットルの溶液に弱塩基の溶質を直接溶かし込んでいって滴定するとする。その溶かした弱塩基の濃度をCBmol/lとしてCBをpHの関数で表すことを考える。このとき以下の6式が成立する。
ここでKa、Kb、Kw、CAは与えられているとする。(1)〜(6)を連立方程式とみなすと、未知数7個([HA]、[A−]、[BOH]、[B+]、[H+]、[OH−]、CB)に対して式6個だから、6個の未知数を残り1個の関数として表す事ができる。以下で[HA]〜CB]を[H+]の関数で表してみる。これらの関数が各pHにおける「溶液中の各物質の存在量」のグラフに相当する。
今後利用するので以下の点を注意しておく。これらの関係式については「酸・塩基と平衡定数」の1.(4)のNH3とNH4+についての注意を参照せよ。
まず(1)、(2)式を[HA]と[A−]の連立方程式と見なして[HA]、[A−]を[H+]、Ka、CAで表す。
次に(3)、(4)式を[BOH]と[B+]の連立方程式と見なして[BOH]、[B+]を[OH−]、Kb、CBで表す。
ここで(6)式へ(5)、(8)、(11)、(14)式を代入するとCBがもとまる。
さらに(8)、(15)式を(13)、(14)に代入して[BOH]、[B+]をもとめる。
未知量6個([HA]、[A−]、[BOH]、[B+]、[OH−]、CB)をpH=−log[H+]の関数で表す準備として以下の関数のグラフを描いてみる。
Ka=10-5.0、Kb=10-5.0(Ka’=10-9.0)、Kw=10-14、とすると、以下の様になることが解る。
上図を利用すればCBのpH=−log[H+]に対するグラフが描ける。CA=0.10mol/l、Ka=10-5.0、Kb=10-5.0(Ka’=10-9.0)、Kw=10-14の場合は以下の様になる。
上図のCBとpHのグラフを左右を反転させて右に90度回転したものが、加えた塩基を横軸にしてpHの変化を表す中和滴定曲線である。
もう一つ例としてCA=1.0mol/l、Ka=10-2.0、Kb=10-4.0(Ka’=10-10.0)、Kw=10-14の場合を図示する。
1.(1)の場合のKbを無限大(Ka’=0)にしたグラフを描けばよい。
1.(1)の場合のKaを無限大にしたグラフを描けばよい。
1.(1)の場合のKaとKbが無限大(Ka’=0)の場合のグラフを描けばよい。
1.(1)の場合で未知数をCBではなくてCAにして連立方程式を解く。そのときKa、Kb、Kw、CBは与えられているとする。(1)〜(6)を連立方程式とみなすと、未知数7個([HA]、[A−]、[BOH]、[B+]、[H+]、[OH−]、CA)に対して式6個だから、6個の未知数を残り1個の関数として表す事ができる。以下で[HA]〜CAを[H+]の関数で表してみる。このとき(10)、(11)、(13)、(14)式はそのまま使える。(15)式を導くところをCB=ではなくてCA=であらわし(8)式を利用して整理してすると
さらに(8)、(18)式を(10)、(11)式に代入して[HA]、[A−]をもとめる。
さらに(13)(14)式に(8)式を用いて書き直すと
未知量6個([HA]、[A−]、[BOH]、[B+]、[OH−]、CA)をpH=−log[H+]の関数で表す準備として以下の関数のグラフを描いてみる。
Ka=10-5.0、Kb=10-5.0(Ka’=10-9.0)、Kw=10-14、とすると、以下の様になることが解る。
上図を利用すればCAのpH=−log[H+]に対するグラフが描ける。CB=0.10mol/l、Ka=10-5.0、Kb=10-5.0(Ka’=10-9.0)、Kw=10-14の場合は以下の様になる。
上図のCAとpHのグラフを左右反転させて右に90度回転したものが、加えた酸を横軸にしてpHの変化を表す中和滴定曲線である。
2.(1)の場合のKaを無限大にしたグラフを描けばよい。
2.(1)の場合のKbを無限大(Ka’=0)にしたグラフを描けばよい。
2.(1)の場合のKaとKbが無限大(Ka’=0)のグラフを描けばよい。
多価の酸たとえばリン酸H3PO4 0.1mol/lの水溶液)をNaOHで滴定する。この場合も簡単化の為にリン酸溶液1リットルに固体のNaOHを溶かしていくことにする。
(注意)
ヒトの細胞内液は核酸の主成分であるH2PO4-とHPO42-イオンによる緩衝作用(上図pH=7.2の部分)によりpHは約6.9(H2PO4-の割合が少し多い状態)に保たれている。
滴定曲線が上図の様になることを一般的に証明する。このとき成り立つ式は以下の6式である。
ここでKa1、Ka2、Ka3、Kw、Cは与えられているとする。(1)〜(4)を連立方程式とみなすと、未知数5個([H3A]、[H2A−]、[HA2−]、[A3−]、[H+])に対して式4個だから、4個の未知数を残り1個の関数として表す事ができる。以下で[H3A]〜[A3−]を[H+]の関数で表してみる。この関数が前記縦軸がpHの「溶液中の各物質の存在量」のグラフに相当する。
これら(14)〜(17)式は一見難しそうに見えるが、各項の分母が対称的な形をしているのでグラフの形を予想するのは簡単である。式のKa1、Ka2、Ka3に具体的な値を入れて[H+]=10-xのxの値を変化させてみるとよい。次に示すグラフはC=0.10mol/l、Ka1=10-2.15、Ka2=10-7.20、Ka3=10-12.38の場合を横軸をpH=−log[H+]に対してプロットしたものである。
さらに(1)〜(6)を連立方程式とみなすと、未知数7個([H3A]、[H2A−]、[HA2−]、[A3−]、[H+]、[OH−]、[Na+])に対して式6個だから、6個の未知数を残り1個の関数として表すことができる。以下で[Na+]を[H+]の関数で表してみる。(6)式に(5)(15)(16)(17)式を代入して整理すると以下のようにもとまる。このグラフが前記の縦軸が「pH=−log[H+]」、横軸が「加えたNaOHの量」の[リン酸の滴定曲線]に相当する。
このグラフは(15)(16)(17)のグラフが描けたら簡単に描くことができる。つぎに示すグラフはC=0.10mol/l、Ka1=10-2.15、Ka2=10-7.20、Ka3=10-12.38、Kw=10-14の場合を縦軸を「加えたNaOHの量」、横軸を「pH=−log[H+]」にしてプロットしたものである。
このグラフの左右を反転させて、右に90度回転させれば加えた塩基を横軸にしてpHの変化を表す中和滴定曲線になる。
上図では酸性側、塩基性側のくびれのようすが解りづらいのでC=0.10mol/l、Ka1=10-3.5、Ka2=10-7.0、Ka3=10-10.5、Kw=10-14の場合を次に図示する。