HOME  1.単一スリットによる干渉縞  2.多重スリットによる干渉縞  3.回折格子による干渉縞

 このページを印刷される方はこちらのバージョンをご利用下さい。ブラウザーでは見にくいのですが印刷は鮮明です。

回折格子による光の干渉縞

 高校物理の回折格子の光学実験をするとき、2次か3次ぐらいまでの干渉縞しか見えません。不思議に思いませんか。また単一スリットでも干渉縞が見えます。これも不思議です。このあたりのことを説明します。

1.単一スリットによる干渉縞

)明線と暗線の位置

 高校物理では単一スリットによる干渉縞の説明をやりませんが、必要なのでそれをまず説明します。
 下図のように目の前に二本の指をかざして明るい方を見ます。指の間の隙間をだんだん狭くすると隙間に何本もの黒い縞が見えてきます。これこそ単スリットによる干渉縞です。

 このような干渉縞が生じる理由は以下の図を検討すればわかります。図(1)のように単一スリットの間の点1〜9を新たな波源とした波が広がるとし、ホイヘンスの原理による重ね合わせを考えます。図(2)(4)の方向ではすべての波を重ね合わせると完全には打ち消しあわずある成分がのこるが、図(3)(5)の方向ではお互いに打ち消しあってしまいます。






 モノスリットによる干渉縞はレーザー光線などを用いるとよくわかる。干渉縞の明るさは下図のようになる。暗線は細い線になるが明線は広がる。図中の番号が上図のそれぞれの方向に対応する。このとき d は“スリット幅”を意味する。

 最初に述べた二本の指の間に見える暗線は下図のように干渉縞を見た場合に相当する。ただし、ふつうの光源ならよいが、けっしてレーザー光線をこのようにして覗かないこと。

 

)干渉縞の強度変化の様子

.n個の振動子(n本のスリットからなる回折格子)

 上記の関係式は干渉縞の暗線と明線の生じる方位角θを入射光の波長とスリット幅の関数として表すものでした。
 明線の明るさ(強度)がθの関数としてどの様に変化するかを確かめるには、もう少し進んだ考察が必要です。その鍵になる論理は別稿「回折と干渉」1.で説明した考え方です。以下でその別稿を参考にして説明します。
 まず下図の様にスリット幅 L の中に間隔 dn個 の振動子が分布している場合を考える。

このとき、方位角θの方向へ各振動子から進む波の隣り合った振動子間の振動の位相差をφ=2πdsinθ/λとする。そうするとn個の振動子からの方位角θ、スリットからの距離Rの位置での合成波の振幅A(R,θ)は下図から求めることができる。

図中の文字の意味は下記の通りです。

A(R,θ)は以下の様に表現できることが図から解ります。

ただし、これはあくまでスリットからの方位角がθで距離Rの位置での合成波の振幅です。これが振動子の角振動数ωで振動するのですから、方位角θ、距離Rでの波の強さは以下の様に計算する必要があります。ここでTは振動子の振動周期です。


この関係式を用いて、干渉縞の強度に付いてのグラフを描くと以下の様になります。
 例として n=8の場合 を描いています。つまり8本の線で構成される回折格子を通過した光線が方位角θ、距離Rでの波の強さを表すグラフです。

 このグラフの横軸の量が dsinθ/λ なので解りにくいが、d/λの値を適当に与えて固定した場合のグラフにすると横軸を光線の変向角θで表したグラフにできます。そちらの方がグラフの意味を読み取りやすいかも知れません。

 

.単一スリットによる回折像

 次に、この式をスリット幅 L の単スリットによる方位角θ、距離Rでの波の強度と解釈するには、下図に置いて L=nd を一定に保ったまま、n→∞、d→0の極限を考えれば良い

実際、前述の式に於いてn→∞、d→0の極限を取ると



この関係式を用いて、干渉縞の強度に付いてのグラフを描くと以下の様になります。

 このグラフの横軸の量が dsinθ/λ なので解りにくいが、d/λの値を適当に与えて固定した場合のグラフにすると横軸を光線の変向角θで表したグラフにできます。そちらの方がグラフの意味を読み取りやすいかも知れません。

 

HOME  1.単一スリットによる干渉縞  2.多重スリットによる干渉縞  3.回折格子による干渉縞

2.多重スリットによる干渉縞

 高校物理では隣り合ったスリットとの間隔をdとするとdsinθ=mλ(m=0、±1、±2、±3、・・・・・)の方向が明るくなる条件であり、スリット数が増えれば増えるほど干渉縞はシャープになると習う。しかし本当はもう少し複雑です。たとえば下図のようにスリット数8の多重スリットの場合、mが0と1の間でも完全に暗くなるのはm=1/8、2/8、・・・・8/8の方向で、それ以外は完全には暗くならない。
 図中の0〜8・・・の矢印の方向にできる干渉縞を、見やすくするために図の右側に縦に並べて描いてある。スリット1〜8からでる光の@〜Gの方向の位相を表す図を参照して、重ね合わせてみれば図右に描いたような干渉縞が得られることが理解できる。
 これがスリット数が増えれば干渉縞はシャープになるということの意味です。そのとき鋭い干渉ピークの間に見られる小さな干渉の山は何なのかというと、それこそ8本のスリットを一つのモノスリットと見なしたときの干渉縞です

拡大図

 実際の、干渉縞の強度分布を表す関数の導出とそのグラフ図は1.(2)1.を復習して下さい。特にその最後の図

をご覧下さい。
 このグラフの横軸の量が dsinθ/λ なので解りにくいが、d/λの値を与えると、横軸を光線の変向角θで表したグラフにできます。そちらの方がグラフの意味を読み取りやすいかも知れません。ちなみにスリットと干渉パターンを示した図からは d/λ≒7.1 であることが読み取れます。

 

HOME  1.単一スリットによる干渉縞  2.多重スリットによる干渉縞  3.回折格子による干渉縞

3.回折格子による干渉縞

 実際の干渉縞はそれぞれのスリットをモノスリットと見なしたときの干渉パターン(1.で述べたもの)]、[多重スリットとしての干渉パターン(2.で述べたもので高校物理で習う)]、[多重スリットの幅を一つのモノスリットと見なしたときの干渉パターン(1.で述べたもの)]の3つのパターンの重ね合わせです。
 以下に単色光を用いたスリット数n'=5、スリット間隔d÷スリット幅AB(≡L)=5(≡n)の場合の干渉パターンを図示する。図中の説明を吟味すれば図の意味は理解できるでしょう。

拡大図

 この場合の干渉縞の強度分布を表す関数は下記の様になります。こうなる理由は 上記の図の説明1.(2)1.〜2. を復習して下さい。

 このグラフの横軸の量が Lsinθ/λ なので解りにくいが、L/λの値を与えると、横軸を光線の変向角θで表したグラフにできます。そちらの方がグラフの意味を読み取りやすいでしょう。ちなみにスリットと干渉パターンを示した図からは L/λ=25/0.252≒100 であることが読み取れます。

 n’=nでは、両者の意味の違いが解りにくいので、n’=8,n=5 の場合を図示してみる。
n’が増えると明線がよりシャープになり、明線間の山の数が増えることに注意されたし。

 さらに、n’=5,n=8 の場合を図示すると下図の様になる。
nが増えると明線の数が増えて密になるが、明線間の山の数は変わりません。

 ここで説明した多重スリット(回折格子)による干渉縞を観測するには、単色(波長が定まっている)レーザー光線を当てて見ると良いでしょう。
 多くの波長の光が混じっている自然光(太陽光線や線状フィラメントの電球からの光など)を当てたのでは Lsinθ/λが1より小さい領域の干渉縞(それぞれの明線が七色に分かれている)は見えますが、Lsinθ/λ>1の領域の干渉縞を観測するのは難しいです。それらの領域の干渉縞を見るには暗室の中の様に十分暗い環境での観測が必要でしょう。
 
 更に補足しますと、普通の回折格子は格子間隔 d に対する個々のスリット1本の幅 L の関係式において

 だから、n’=8,n=5の干渉縞図を検討すれば解るように、普通の回折格子を用いた時の干渉縞は“精々2次から3次くらいまでの干渉縞明線しか見えません”。これが、本稿の最初で投げかけた疑問に対する答えです。
 また、最初に投げかけた疑問の“単一スリットでも干渉縞が見える理由”1.(2)2.で説明したとおりです。

HOME  1.単一スリットによる干渉縞  2.多重スリットによる干渉縞  3.回折格子による干渉縞