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1.農業用黒マルチポリエチレンフィルムで作ったパラフォイル凧(1988、1993、1996年)
 
  農業用の黒のマルチというポリエチレンフィルムは素材としては大したものです。その薄さ(厚さ0.03mm)と軽さ(面密度26g/m)にしては類い希な強さを持っていて、しかも安い(幅2.1m×長さ100mで2845円)。またセロテープで自由自在に張り合わせることができる。15年くらい前からパラフォイル型のパラシュートや凧が着目されだした。ポリエチレンフィルムの強度と軽さからうまく設計すればかなり巨大なパラフォイル凧が製作可能です。
 
 
(1)1号機(1988.7製作)図1-1参照

 風速2m/s程度の微風でよく上がった。この風速では地上から見た飛翔角は80度くらいで、ほとんど真上にフワーと浮かんいる。しかしこの時索を引く張力は弱く浮力と重力がぎりぎりつり合っている状態であった。
 風速5m/s程度の風になると飛翔角度がが30度くらいになり凧の風に対する仰角が30度を超える。抗力により凧は流され翼としての揚力の効果は期待できなくなる。そして風速が6m/sを越えると、索にかかる張力は100kgwを越え、生徒3、4人が凧に引きずられ、凧を制御できなくなる。
図1−1  拡大版はここをクリック
 1号機


 
(2)2号機(1988.8製作)図1-2、写真1-1参照

 風速2m/sの風では浮き上がらなかった。この凧は風速3〜5m/s(そよ風よりも少し強い位の風)で良くあがる。それは以外に簡単にあがる。しかしラインの角度は45度以上にはならなかった。設計時の糸目の位置が良くなかったようだ。パラフォイル凧は翼理論の揚力で揚がるが、飛行状況を見ると凧の翼面は地面に対して30度以上の角度で立ち上がっている。そして下面が強く風をはらんで、上面の気流は完全に翼面から剥離しているようである。
 凧は索で引き留めるので当然風に流されて風下側に流れる。そのとき糸目の位置が後ろ側だと凧が風の流れに対して立ち上がってしまい、益々風の抵抗を生み出す。そのため、凧はより強く風に流されラインの地上に対する角度は45度前後以上にならない。この状態では翼型の揚力の効果ではなくて、流れの中に斜めに入れた板に働く剥離力の効果でしか揚がらない。風が強くなると上に揚がるよりも糸の張力ばかりが増大してこの凧も風速6m/sを越えると人間が引きずられて制御できなくなる。糸目の位置がどうも適切でなかった。

図1−2  拡大版はここをクリック

 

写真1-1 飛行中の2号機

 
 凧自身がもっと風下側に流されてもよい様に、糸目をもっと前に出した方が良い。そうすると凧自身は風の流れに平行に成り、空気抵抗は減り、翼理論による揚力が効いてきて、より楽に凧の自重を支える事ができる。そして小さなライン張力で楽に揚げることができる。つまり糸目の位置は、
(1)凧自身の自重
(2)翼理論の揚力
(3)空気抵抗(凧を風下側に流す力)
の三つの効果を考えて決めなければ成らない。自重が軽い場合揚力が小さくても上空に舞い上がり翼面が地面に平衡になれるので空気抵抗が減らせるのでラインの糸目は後ろ目でもよい。しかし自重が重いと凧は揚がらず風に対して立ち上がってしまう。そうすると益々空気抵抗で凧は風下側に流され翼面の風に対する仰角が増大し空気抵抗ますます大きくなり揚がれなくなる。だからその時は糸目を前にずらして、凧が風に流されても翼面の風に対してする仰角が小さくなるようにする。そして翼理論による揚力の効果を充分発揮できるようにする。
(4)糸目の位置を風力に応じて変える。
風が強いときは前に、弱いときは後ろにずらす。1号機の糸目は凧がやっと揚がる程度の弱い風の時はちょうど良いが、それ以上の風速ではやはり糸目を前にずらす必要があった。2号機では風がある程度ないと上がらないので糸目はもっと前にずらすべきであった。
 
 
 
(3)3号機(1993.10製作)図1-3参照

 1、2号機の経験を生かして糸目の位置を工夫し、巨大化の限界に挑戦した野心的な機体だったが以下の3点での失敗が重なり十分な飛行実験を実施する事ができなかった。
1.接着用のテープの選択ミス
 パイロンクリスタルテープを用いたが粘着力、柔軟性においてニチバンのセロテープにおとる。そのため空気取り入れ口から落下した際内部の仕切り板の接着部が度々はがれ修復に難儀した。
2.翼の前縁部の形状ミス
 翼型を重視して前縁の空気取り入れ口を小さくしすぎた。そのため最初の立ち上げ時口が潰れて空気をはらませるのが難しくなった。
3.シュラウド・ラインの選択ミス
 強くて、伸びなくて、軽いというこでナイロン性の釣り糸にしたが、結び目がほどけやすい、凧とシュラウド・ラインの結び目に他のシュラウド・ラインが引っかかり凧を揚げるときにシュラウド・ラインの操作に難儀する、細すぎて糸をさばくときもつれやすく取り扱いにくい等々の不便が生じた。
 上記の3つの失敗が無ければ高性能を発揮すると確信できる機体だったが、隔壁の修理が難しく再飛行の実験をすることなく廃棄。
図1−3   拡大版はここをクリック



(4)4号機(1996.8製作)図1-4、写真1-2、1-3参照

 この機体は、中学生1年の娘の夏休みの宿題として娘と一緒に作ったものです。3号機の失敗を回避して作りやすい大きさで作り試験飛行には成功した。しかし、十分な性能実験をする前に宿題として提出し県の科学展の方に出品されてしまい、そのまま行方不明になって性能の検討はできていません。
 

図1−4  拡大版はここをクリック

写真1-2 4号機の全体

写真1-3 飛行中の4号機


(5)考察

 翼理論から知られているように、翼のすばらしさはアスペクト比(翼幅÷翼ゲン長)を大きく取れば揚抗比(揚力÷誘導抗力)を驚異的に大きくできるところにある。しかしこの素材をパラフォイル凧に用いるには構造上アスペクト比に限界があり翼としての特質よりも流れの剥離を利用する凧になり、この素材の特質を充分生かし切れていなかったようだ。いつか機会があったら別な材質で翼理論に基づく大きなアスペクト比を持つ巨大固定翼凧に挑戦してみたい。
 アスペクト比と揚抗比の関係については別項「人力飛行機を実現する原理[プラントルの揚力線理論]」を御覧下さい。

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