Wikipediaの記事“On Sizes and Distances”を翻訳紹介されたページの“スワードロウによる第2巻の復元”をさらに解りやすく解説したものです。
スワードロウ(N.M.Swerdlow)は、プトレマイオス著「アルマゲスト」にある図を利用して、ヒッパルコスが月の距離を決定した手順を再現しています。
すなわち、図の解析から、ヒッパルコスの著書に書かれていたと伝えられる“太陽が地球半径の490倍の位置にあるとしたき、月の位置に於ける地球の影の視野角度(観測値は月の視野角度の2.5倍)から得られる月までの距離は地球半径の671/3倍になる”という記述の詳細を解明した。
下図はプトレマイオス著「アルマゲスト」第5巻第15章の図ですが、スワードロウはヒッパルコスもおそらくこの図を利用したと推測した。
上図の二つの薄青色三角形が、合同であることを利用すると
となる。
さらに図中の二つの薄赤色三角形の相似性から
が得られる。
これらの関係式は、θとφが定まれば、RMとRSはリンクしており互いに勝手な値を取れない事を示している。
ヒッパルコスが前節の(1)(2)式を用いる際に利用した観測値は、プトレマイオス著「アルマゲスト」に見いだされる。プトレマイオスによるとヒッパルコスは次の事柄を発見した。
1.と2.の観測値を(1)式に適用して、月距離671/3を代入すると、rE=1を考慮して
がえられる。つまり太陽までの距離は地球半径の490倍となる。
一方、観測地を(2)式に適用して、太陽距離を地球半径の490倍であると仮定する
が得られる。
すなわち、太陽が地球半径の490倍の位置に居ると仮定すると、月食時の地球の影の観測データから得られる月までの距離は地球半径の671/3倍となる。
さらに、太陽が無限遠に居ると仮定する場合、490→∞として計算し
となる。すなわち月食時の地球の影の観測データから、月の距離として地球半径の59倍が得られる。
ただし、59という値は、記録には残っていないがおそらくヒッパルコスはこのような計算をしていただろうという、歴史家トゥーマー(G.J.Toomer)の推測です。