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防衛大学校見学報告 

 2003年2月に神奈川県横須賀にある防衛大学校を山口県の教員4人で見学しました。以下その報告です。

防衛大学校の現状

 防衛大学生は給与の面でも学校設備の面でも恵まれている。広大な敷地に沢山の体育施設。課業棟等々。
 工学、自然科学系大学としての研究施設、教育体制のレベル内容は良く解らなかったがそんなに高レベル、高密度ではないであろう。普通の理系の大学校舎内は研究スペースが不足していて廊下まで実験機材がはみ出しており、実験室の場所の確保に苦労するものであるが、場所的に余裕があるためか、そこまでの活気は感じられない。なんとなく工業高校の延長の雰囲気である。また時間的に学習や研究にさける時間は普通の理系の大学に比べるとかなり少ない。そういった意味での研究や学習の密度は薄いと思われる。大学図書館も新しくて立派なものが最近たてられているようだが、やはり時間的制約や、生徒の密度の面から十分に活用されるかどうかは疑わしい。やはり学術の教育・研究機関としての効率や能率は、同学力レベルの学生が入学する大学に比較して劣ると思われる。
 以前は防衛大学は山口大学を合格できる実力があれば合格できたが現在は広島大学、岡山大学を合格できる実力が無いと難しい。北九州予備校の教師も防衛大受験を勧めるとき一次に合格すれば広大に合格できる実力があることが解るとして力試し受験を勧めている。ただし以上は理系の話で防衛大学文系はもう少し難しく旧帝大レベルを合格できる実力が無いと合格は難しい。

防衛大学校の生活と進路

 防衛大学生徒の大学生活の特徴は1〜4年生までが一緒に生活する4人または5人一部屋の寮生活と、分刻みで集団で行動しなければならない生活様式 、それと様々な訓練に特徴づけられている。
 集団での競争と、学業のみならず訓練や普段の生活に関係した服務の状況からすべて評価されるということ。いつも何らかのかたちで競争させられ、規律を意識させられ、態度・服装・立ち振る舞いについてチェックされるというのはある意味では精神的、肉体的にきついし耐えられない面があるかもしれない。
 しかしそれに慣れ、耐えていく中で精神的にも肉体的にもたくましくなっていく事はある。普通の高校や大学の様にだらけたところは無いし、あらゆる面できちんとしている。そういった風に人間を改革するために環境をふくめ様々な行事、カルキュラムが設定されている。防衛大学の立地にしても、当時の宰相の吉田茂は優れた教授を得るために都心に近いところ、海に隣接している所、そして富士山が見えるところという選定基準で選んだそうだ。
 隔離された環境のなかで純粋培養されている面はある。ある意味では馬鹿にならねばやっていけない面もある。なぜこんな事をしなければならないのかと思い出したらやってはおれない面もある。
 だから防衛大学校のほうとしても決して無理強いはしない。入学後も約10日間の猶予をおいて自由に退学することを認めているし、毎年最初の猶予期間の終わりにやめる生徒が十数名前後いるそうである。
 地方連絡部の募集事務所の所長さんの話も防衛大や各種学校の受験は勧めるが、無理強いはしない。合格しても入学に関しては特に個別の面談等をして強く勧めるということはやらない。やはり自衛隊というのは特殊な世界だからあくまでも本人のやる気と性格・適性によるという判断のようだ。

 様々な振り分けの段階でも本人の適性を良く見極めてふりわける。決して無理強いはしないが、きちんと評価はする、そして評価により選別し、振り分けていく。本人の性格や適正とあわなければうまくいかないとのこと。
 防衛大や自衛隊は本人の性格・適正・能力で各人を生かせる職務に分配することにかなりのノウハウを持っているように感じた。そこの辺がもっとも重要という認識があるようで、ことあるごとにそのあたりの説明がなされた。
 また税金を使って運営されている以上2年続けて留年になると退校処分になる。物理ができずに留年する生徒が毎年何人かいるそうだ。

 学生はある意味では未熟な段階にある。防衛大学を出て1年の訓練期間をへた後には実戦部隊の幹部にならねばならない。実戦部隊では大学での科業や服務の成績だけではうまくいかない人間性やトータルとして人間通になる知識が必要。だから防衛大学内で人物評価がなされ選別が行われて、性格や能力に応じて職種や進路が定まっていくが、大学での評価は低くても実戦部隊に配属されてから能力を伸ばしてくる者もいるといわれたのはうなづける。
 実戦部隊では古参の兵士に対しても階級からは上官になるのだから、部隊の掌握と指揮はかなり難しい面がある。そのときの基礎よりどころになるのは、やはり防衛大学における規律ある生活と厳しい訓練、学業を達成したという自信しかないだろう。
 しかし学生は未熟である、未熟であるが故にそれを一人前にしなければならない。スタッフが全員で育てていこうという暖かい面もそれぞれの説明の中で感じられた。

自衛隊という組織

 自衛隊というのは巨大な組織だから、時々新聞報道などであるような隠蔽体質や官僚組織として内部浄化システムの構築が難しいなど、なかなかうまくいかない面もある。またその特殊性故に無駄も多いし、また税金の使い方で恵まれている面もある。それ故に生徒には自覚が必要だし、ある意味では滅私奉公で自分の個性・思考を押さえて馬鹿にならねばならない面もある。組織が巨大故に、また軍隊としての組織故に命令系統、上意下達のメカニズムは必要。命令下達の個々の段階で議論していたのでは、その組織としての迅速な行動が実現できないし、民主的に個々の問題を議論していたのでは埒が明かない面がある。
 また国の中にこういった組織は必要悪ではあるが無いと困る面もある。すべてが資本の論理や顧客の論理で動いている私企業や住民サービス機関としての市役所や県庁のような公共機関だけですませる訳ではない。消防や警察や医者が必要なのと同じである。かなり無駄な面はあるが、こういった組織が無いと一旦有事や大規模災害が生じたときに対処する術を持たないことになる。ただしそういった組織の拡充や運営については、きちんと民主的手続きに乗っ取って議論し文民コントロールされなければならない。しかしある目的を遂行するためには組織として閉じた命令系統の中で自立的に動かねばならない面もある。その当たりがむつかしい所であろう。
 そういった組織を構築する指揮系統の幹部養成学校としての運営は教育上いろいろな意味での難しい所もあるがノウハウはある程度確立している。説明を受けた様々な行事や訓練も昔から士官学校や師範学校の伝統的なもので、それ以外の形は無いであろう。見た限りではうまくいっている様に感じた。確かに施設は恵まれており、運営上の無駄も多い(我々の様な教員の視察に予算を計上する事も含めて)がその恵まれる度合いや無駄は、こういった組織のもつ意味を大局的観点から判断して必要であり許される範囲の物であると感じた。
 こういった面はあらゆる学校と呼ばれる組織が多かれ少なかれ持つ側面ではある。

私の感想

 我が高校卒業生(現在3人在学中)で防衛大2年のS君と昼食を供にし面談する機会が設けられていた。そのなかで本人はやはりカルチャーショックが大きかったようで、なれるまでに半年くらいかかったそうだ。本人は海上自衛隊を望みその方面パートに分けられている(振り分けは2年次のはじめに行われる)とのこと。海上自衛隊を望んだのは海外演習や遠洋航海にあこがれてとのこと。
 また防衛大学に入学したのが本当によかったのかどうかは今でもよく解らないといっていたが、それが本心だと思う。でもそういった本心こそが大切なように感じた。かっての海軍兵学校や陸軍士官学校からは一つ進化した存在であってほしい。こういった迷いこそが自衛隊という特殊な組織を旨く運営することを可能にするし、かって旧日本軍が犯した誤りに陥らない人材になれる要素だと思う。
 S君は高校では柔道部だったということだが格技場での練習もあまり見かけなかったので熱心な柔道部員ではなかったし、在校中は目立たない生徒だったように思うが、面談の場における彼はとても凛々しく立派になって考え方も立ち居振る舞いも落ち着いた好青年だと感じた。

 防衛大学で旨くやっていくためには、自衛隊という組織が持つ特質をよく理解してそれに適応していかなければならない。それは単に体力や運動能力があるとか、頭脳が優れていて学力があるとか、自分の身を律して規律正しい生活ができるとかだけでは無くて、基本的にまじめで、人柄がこなれていないと難しい。おおくの場面で自分の思考を停止して馬鹿になって自分を押さえ組織に適合しなければならないし、ある場合には率先して判断し行動しなければならない。機敏さと柔軟性が必要と感じた。そういった能力を持ち防衛大学に入学し幹部自衛官としてやっていけると推察される人材は我が高校の一学年中に1,2名程度しかいないだろう。そういった面に適した人材であっても、給与や就職の心配がないという理由からこの方面の進路を選ぶのではなくて、自衛隊という組織の本質を十分に調べて判断してほしい。

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