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ネットワークを支える6つの技術

1.始めに

 この文章はネットワークを勉強し始めた頃(1994年頃)に書いたもので、今日では時代遅れの部分も多いのですが、ネットワークの本質は変わっていないと思います。
 ネットワークは様々なアイディアと技術が複雑に絡み合い、互いに関連しあっており、現在も時々刻々新しい技術が古い技術に取って代わり日々変遷している。だからその本質を単純に割り切って理解するのは難しいが、あえてまとめるとすれば以下に述べる6つの技術(A〜F)に集約されるであろう。さらにこの6つはネットワークの2つの階層に関連して(ABC)と(DEF)の二つのグループに分かれる。
最初にネットワークの2つの階層について説明する。

  1. ただ単にネットワークという場合、それはイーサネットやトークンリンクなどの様な、一種類のネットワーク技術、一本のケーブルで結ばれたローカルなネットワーク(Local Area Network(LAN))を意味する。
  2. インターネットとはそれらのローカルなネットワークを結ぶネットワークの事である。そのとき繋がれている個々のネットワークで用いられている技術には様々なものがあり、ネットワークを操るソフトウェアーも様々なものが働いている。だからインターネットではそれらの違いを乗り越えて繋ぐ技術が重要になる。

この二つのネットワークの意味の違いを理解することが、ネットワーク理解の出発点である。

 

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2.ローカルなネットワーク(LAN)を支える技術 

 LANの本質はたった1本のケーブルでつながれた多数の端末どうしが、同時に且つ任意の端末と端末が1対1でデータのやり取りをすることである。たった1本のケーブルでどうしてそのような事が可能なのか? その答が以下の3つの偉大なアイディアである。

A.パケットとは 

 パケットの概念はアメリカのレオナルド・クライン・ロック(1961)、ポール・バラン(ランド研究所1964)やイギリスのドナルド・デイビース(1967)等が考案し、ARPANETプロジェクトで最初に実現(1969年)されました。
 ネットワークの一番大切な技術はは情報をパケットという小さな塊でやりとりすることである。これはどんなに強調してもしすぎる事がない画期的で重要なアイディアでした。
 このためネットワークでは電話線の回線接続のように交換機が存在して、端末と端末を1対1で接続して回線を独占的に使用して情報をやりとりする必要は無くなった。つまり1本の情報伝達ケーブルに、すべての端末が同時に、常時つながっている状態で情報のやりとりができるのです。
 ただここで注意しなければならないのはWAN(ワイド・エリア・ネットワーク)では電話回線の様な1対1の接続を利用する場合もあるし、ハード的に電話交換機のようなスイッチング機能を持った器具を介して接続する場合もある。)

B.送り手と受け手のアドレス

 次の本質的技術はは手紙のように受け手の宛名(ついでに送り手のアドレスも)をつけて情報を送り出すということだ。つまり1本のケーブルにすべての端末から、任意の端末宛への信号をてんでバラバラに送りだすのだから、各パケットは送り主と受け手のアドレスを記述した部分(ヘッダ)を付けていないと誰に送る情報か解らない。
 各端末は、それらすべてが繋がれている1本のケーブルを常時監視していて、そのケーブルを流れるすべてのパケットを拾い上げてはその宛先を確認している。そして自分あての信号のときのみ取り込み、それ以外は捨てるように作られている。
 このときのアドレスは後に述べるOSI階層モデルの物理層のレベルでのアドレスである。その付け方はネットワーク接続を実現するハードウェア技術に関係する。たとえばイーサネットでは、ネットワークボードの製造メーカーがボードを販売するとき、世界で一意になるように公的な団体が割り振るアドレス(MACアドレス)を付加することで実現する。トークンリンクでは各ネットワークの管理者がつける。その他いろいろである。色々でも後でネットワークの階層的管理の説明から解るように、各ネットワーク内で共通に一元的に作られ、各ネットワークごとにそのアドレスの管理法に習熟していさえすれば、ネットワーク毎に独自の方法で付けてかまわない。(今ではLANのネットワーク技術と言えばイーサネットに統一された感があり、このレベルのアドレスといえばMACアドレスのみの感があるが、元々は各ネットワークごとで好きなように管理できるアドレスなのだ。)
 また後で述べるがネットワークを越えてパケットを送るためにもう一つ高いレベルのアドレス(インターネットアドレスと言う)がある。そしてこちらは、全世界でアドレスが重複しないで一意になるように調整するメカニズム(DNSという)が考え出されている。
 一般にネットワークは違った階層で働くこの二種類のアドレスを使い分けている。

C.信号の衝突回避メカニズム

 一本の信号線に、宛先をつけたパケットを各端末が流して情報をやりとりするのだから当然色々な端末が送り出した信号どうしが衝突する。次の本質的技術はそれらの信号の衝突を回避するメカニズムである。つまり、各瞬間に一つの端末が送り出した1個の信号だけが流れているようにパケットの送り出し方を調整する必要がある。
 この調整の仕方を思いついた事が上記の1.2.のアイディアに基づくネットワークを可能にした。つまり1本のケーブルを共有し、アクセスを許可する中央機関を必要としない分散したネットワークが可能になった。
 分散したネットワークとは、そのネットワークに参加するのも脱退するのもいつでも自由にかつ柔軟にできるということであり、各端末がデータをやりとりする方法を各自で保持しているというこである。
 これこそがネットワークの価値を高めたものである。故にこの調整法も偉大なアイディアである。沢山の方法があるが最も有名で基本的な2つを説明する。

イーサネットのCSMA/CD方式
 Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection(搬送波感知多重アクセス/衝突検出)と言われる方式で1970年代後半ゼロックス社、デジタル・イクイップメント社、インテル社を中心として開発された。
 各端末は両端に信号吸収器が付いた1本のケーブルにぶら下がっている。各端末はケーブルを見張っていて信号が流れていないときにバケットを出す。しかし信号の伝播速度は有限(光速の約80%程度)だから二つの端末が今ケーブルに信号が流れていないと判断してパケットを送り出しても、同時に送りだしたパケットの衝突が起こることがある。各端末は衝突が検出されると、その時のパケットを廃棄する。そしてそのとき送信していた端末はランダムな時間後に再送を試みる。これを旨く行うには送り出すデータの長さはある値以上でなければならない最小データ長がある。
トークンリンクのトークンパッシング方式
 1980年代始めIBMにより開発された技術で、すべての端末はリング上に直列に接続され、各端末はトークンと言われる通行手形の様な信号を一方から受信しては、他方に再送してリングの上をぐるぐる回している。送信を希望する端末はトークンが周回してくるのを待つ。
 トークンを受け取った端末のみがパケットをリングに送り出せる。各端末は転送されてきたデータパケットのアドレスをチェックして自分宛でなかったらそのままリングへ再送する。自分宛だったら取り込むと同時に受信した印を付加してリングに再送する。データパケットを送信した端末ではパケットがリングを一周してくるとパケットをリングから取り出し、保持していたトークンをリングに送り出し送信権を解放する。
その他の様式
 トークンバス、FDDI(Fiber Distributed Data Interface)、ポーリング方式等がある。
また最近では次世代のネットワーク技術としてATM(Asynchronous Transfer Mode)が脚光を浴びている。

 

 以上の3つがネットワーク特にLAN(ローカルエリアネットワーク)の本質であるがネットワークが大きくなると種々の問題が生じてくる。
 一番の問題は1本のケーブルで順番を待ちながらパケットを送信するのだから、端末の数が増えてくるとパケットの衝突が増えて配送能力が極端に下がってくる。だからネットワークを分割して一つのネットワークにぶら下がる端末の数を制限しなければならない。そしてそれらの分割したネットワークを繋ぐ必要が生じる。
 また各企業や各組織にすでに存在する別々のネットワークを組織や地域を越えて繋ぎたい。 つまりネットワークとネットワークを繋いでデータパケットを配送したいわけだ。このとき様々な新しい問題が生じてくる。その問題点と解決法を次の節で述べる。

 

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3.インターネットを支える技術

ネットワークとネットワークを繋ぐときに生じる問題点を以下に記す。

1.異種ハード接続問題
各ネットワークはイーサネットやトークンネットの様に異なったハードウェアー技術で構築されている。それらの異なった技術に基づくネットワークを繋ぐにはどうするか。
2.異種ソフトウェアー接続問題
ネットワークはそれぞれに違ったネットワークoperating system(UNIX、WindowsNT、Macintosh(AppleTalk)等々)を採用している場合が多い、そういったソフトウェアの違いを克服して接続するにはどうしたらよいか。
3.端末判定問題
ネットワークを越えてすべての端末を区別するアドレスの管理はどうするか。世界中のコンピュータの宛先をいかにして管理したら良いのだろうか。
4.配送ルート決定問題
ネットワークを縦断して特定のアドレスを持つ端末にいかにしてパケットを配送するか。すなわちネットワーク同志が網の目の用に繋がれ、配送ルートが幾つも存在するとき、どのようにして配送ルートを決定するのか。

 これらの困難を解決する技術が以下の3つである。いずれも人類にとって大発明で真に偉大なアイディアである。

  1. 階層化されたプロトコルと階層化に対応して入れ子状になったパケット
  2. リピーター、ブリッジ、ルータ、ゲートウェイの技術
  3. ドメインネイムシステム(DNS)

D.階層化されたプロトコル(処理手続き)と、その階層化に対応して入れ子状になったパケットの概念 

 機能の階層構造化のアイディアはパケットによる配送のアイディアに劣らない偉大な工夫だった。この考え方は1970年代にIBMのSNA(システムズ・ネットワーク・アーキテクチャ)の開発の中から芽生えてきた。
 このことが、2つのアドレス、つまり一つ一つのネットワークを構成するハードウエア技術(イーサネットとかトークンリンクとか)に密接に関係するハードウエアアドレスと、ネットワークを越えて世界中で一意に決めるアドレス(インターネットアドレス)を全く独立に決めて運用することを可能にした。これによりインターネットアドレスがネットワークの技術に影響されないことになり、ネットワークの構築に柔軟性を与える。
 ただそうなると、どこかでハードウエアアドレスとインターネットアドレスの対応づける事が必要になる。それらを解決するプロトコルがARPやRARPである。
 以下の図はOSI(Open System Interconnection)の階層化されたプロトコルにパケットの入れ子の構造が対応していることを示す。

 

E.ネットワークとネットワークを繋ぎバケットを中継するリピーター、ブリッジ、ルータ、ゲートウェイの技術 

 ここで大事なことは、まず各接続装置が前期のOSIモデルのどの層まで関係するかを理解し、その各中継器が関わる階層の違いが各中継器の働きの違いになるところを理解することである。
 次に大事なことは物理層のハードウェアアドレスもネットワーク層のIPアドレスも、コンヒュータシステムやルータ、ゲートウェイそのものではなく、それらの接続器が接続されているネットワークのインタフェース(いわばネットワーク道路への出入り口のドア)に割り当てられているということである。ルータあるいはゲートウェイが複数のネットワークに接続していたら、接続するネットワークの出入り口ごとに別々のハードウェアアドレスとIPアドレスを持つ。そしてルーターやゲートウェイは各ドアから受け取ったパケットをアドレスに応じて別のドアへ割り振る働きをする一種のコンピュータである。

リピータ
 一つのネットワークを形づくるケーブルの長さが長くなると信号電圧の減衰が問題になる。リピータとは一つのネットワークの途中に電圧を復元する中継器として挿入されるもので、一方から入った信号を増幅して他方に送り出すだけの働きをする。物理層同士の接続になる。
 BASE-Tの規格のハブでスイッチ機能のないもののことをリピーターハブと呼ぶこともあるが、今日<スイッチングハブ>が安くなり普及するにしたがって単なるリピーターやリピーターハブは用いられなくなってきた。
ブリッジ
 LAN同士のパケット交換の橋渡しを行う。リピータが電気的信号の増幅だけを行うのに対して、ブリッジはハードウエアアドレス(イーサーネットではMACアドレスという)を判断してパケットを隣のLANへ通過させたり、もとのLANに留めおいたりする関所の様な働き(フィルタリング)をする。プロトコル層ではデータリンク層同士の接続になり、イーサネットとイーサネット、トークンリンクとトークンリンクのように同種技術のLANを繋いだり、イーサネットとトークンリンク、FDDIとイーサネットの様に異種技術に基づくLANを繋ぐこともできるが、基本的には二つのLANを仲介するだけである。
 ブリッジではデータリング層までパケットを取り出してハードウェアアドレスを判定してパケットを振り分ける。そのさいブリッジを通過するパケットを常時モニターしていて、ブリッジの各出入り口がつながっているネットワークに接続されている端末のネットワークアダプタのハードウェアアドレスを「学習」して出入り口との対応表として保持している。だから次々に送られてくるバケットの宛先ハードウェアアドレスを対応表と比較して調べて、中継する必要があれば(つまり、ブリッジをまたぐパケットであれば)中継を行い、各セグメント内で解決できるものであれば中継しない。この操作に上位の階層は関与しないのでIPアドレスなどは全く関係しない。
 ブリッジは主に同じネットワークアドレスを持つネットワークを分割して接続するのに用いられてきたが、次に述べる10BASE-Tや100BASE-Tの<スイッチングハブ>が普及してきたことにより現在はほとんど用いられなくなった。
 
 <スイッチングハブ>とはBASE-Tという規格で一極集中型のハブという接続機器を用いるようになって可能になった技術でパケットの送り先のイーサネットアダプタとIPアドレスの関係を調べるARPを用いて自動的に接続機器のイーサネットアドレス変換テーブルを作成しイーサネットアドレスに基づいてパケットの配送を行う。
 同一アドレスに同時に送られたパケットはバッファメモリにパケットを一時的に収納する事により、衝突によるバケット廃棄を回避して配送する機能を持つ。
 同時に複数の接続をサポートし、コリジョンを発生させない。イーサーネットアドレスという一種のハードウェアアドレスに基づいて複数の接続先にパケットを振り分ける交換機であり上位プロトコルの種類を問わない(イーサーネットというハードウェア技術に依存するだけである)ネットワーク接続機器である。
ルータ
 ルータとは複数の経路からパケットを目的の住所(IP)アドレスを見つけて、そこへ中継するものである。
 ルータでは入れ子になっているパケットの箱から外皮をはぎ取って、いったんネットワーク層のパケットまでむき出してネットワークアドレスを判定する必要がある。その判定をしてから、そのアドレスに関係した出入り口ドアからパケットを送り出す。そのとき、そのドアがつながっているネットワーク道路のハードウェア技術に対応したデータリング層および物理層のパケットで再び包み直してしてから送り出す。このとき包み込むパケットの種類を変えることで入り口がつながっているネットワークと出口がつながっているネットワークのハードウェア技術が違っていてもうまく対応することができる。そしてその違いは今関係しているルータだけが承知していれば良い事になる。 その際各ルータのそれぞれの出入り口は、つながっているネットワークの技術に基づいた方法に対応していればよい。
 IPはアドレスのネットワーク部分を使用して、ネットワークからネットワークへデータを転送します。ホスト情報を含む全アドレスが使用されるのは、終点のネットワークに到着したデータを、さらに最終目標に配送するときです。
 世界的規模のルーティングを行うためのシステム(Autonomous System)がありそれを行うために国際機関がISPにAS番号というものを割り振っている。(この事については後述のDNSを参照)
 ルータがデータを配送する経路を決定する経路制御アルゴリズムには「距離ベクトル型経路制御」「リンク状態型経路制御」などがある。
 各ホスト端末はは自分が直接接続しているネットワークにつながっているルータだけを経路制御テーブルに乗せている。そしてその中の一つをデフォルトゲートウェイとしている。
ゲートウェイ
 ゲートウェイはトランスポート層より上の部分で用いられているプロトコルの違いを乗り越えてデータを配送する。一言でいえばプロトコル翻訳機です。
 そのためデータをいったんトランスポート層まで汲み上げる必要がある。その層までの外皮をはぎ取ってむき出しにして、その層で用いられるプロトコルを同一層の別種のプロトコルに翻訳、そしてもう一度物理層までの外皮でくるんで送り出す。
 たとえば社内のLANのネットワークOSがNetWareならそのプロトコルはIPX/SPXであり、MacintoshのLANならAppleTalkであるが、インターネットの標準プロトコルはTCP/IPだからそれらを繋ぐにはゲートウェイを介して繋ぐことになる。

 実際にはブリッジ、ルータ、ゲートウェイの区別は明確なものではない。互いの働きが一つの交換機の中で入り交じっているし、長距離ネットワークの電話交換機のようなものもある意味ではルータといえる。 

F.ドメインネームシステム(DNS) 

 ネットワークを統括してアドレスを決め、そのアドレスの端末を探し出してそこへのルートを見つけるメカニズムがDNS(ドメイン・ネーム・システム)である。これはどんなに強調してもしすぎることのないほど偉大なアイディアです。なぜ偉大なのかを以下に説明します。
 もともとのアーパネットの時代には個々のコンピュータがドメイン名とIPアドレスの対応表を持っていたが、あまりにもたくさんのコンピュータがインターネットに接続されてしまい、しかも頻繁に変更されるので、ネットワークの現状を反映した管理ができなくなつた。そのために対応表を持ったコンピュータを階層的に結んだ分散データベースを作り、各コンピュータはデータベースを管理するコンピュータに聞きに行く方法を取ることにした。そのときデータベースを管理するコンピュータ群が互いのアドレスを認識する仕方(アドレスそのものではない)がドメイン名の階層構造に対応している。

ドメイン・ネーム・システム(DNS)の本質は以下の3つである。

  1.  ホスト名(端末のネットワークにおける名前)はピリオドで区切られ階層化された(通常5階層以下)ドメインの連なりで表される。左側のドメインは右側のドメイン含まれる。そして左側のドメインは右側のより大きなドメインに含まれる。このとき大切なことはドメインはその名前を管理する責任がどこまでの範囲でどこにあるかを表現するもので現実のネットワークの物理的な構造とは全く関係ないということである。さらに各ドメインのレベルの範囲内では各ドメインの管理者はどのようにアドレスを割り振り、ネットワークを構築してもよい。その中には一つのネットワークをさらに小さなサブネットワークに分割する事や、ドメインをいくつかのサブドメインに分割することも含む。(ただし次の2.の説明から解るようにサブドメイン構造ととサブネットワーク構造は両者全く無関係に構築してもよい)
     そのドメイン内のネットワークの管理構築はすべて任されるわけである。自分のドメインの中に子供のドメイン、孫ドメインを自由に作ることができる。IPアドレスは上位のISP(以下の3.で説明)から割り振ってもらわなければならないが、割り振ってもらった範囲内のIPアドレスを自分の管理するドメイン内にどのように配るかは自由である。唯一必要なことはそのドメイン内のアドレスを管理するサーバを設置して運営し、ドメイン内のドメイン名とIPアドレスを把握する。そして、一つ上のクラスのドメインのネームサーバに自分のドメイン内のドメイン名とIPアドレスを管理するネームサーバのアドレスを知らせる事である。
     あるドメインの中に新しい子供のドメインを作るときにはその子供のドメインを管理するネームサーバのアドレスを、それが属する上位の親のドメインのネームサーバに付け加える。また自分の管理するドメイン内の端末のアドレスに変化があったら、その変化を自分が管理するドメインのネームサーバに書き込んでおきさえすれば良いのである。
     ここで大切なことは上位ドメインのネームサーバーは、直接の下位ドメインのネームサーバーのアドレスさえ知っておけば良いのであって、下位ドメインの内部情報については全く関知する必要がないことである。ましてや下位ドメインのさらに下位に属するドメインのことなど全く関知する必要が無いのだ。事実最上位のドメインネームサーバーはたった10台程度のコンピューターで世界中のアドレスの統括をしている。
     これがドメインネームは、誰にその管理責任があるかを示すものであると言うことの意味である。
  2.  インターネットのアドレス(IPアドレスという)は電話番号の様にアドレス番号そのものが階層化しているのではない。なぜならインターネットアドレスにはネットワークの規模の違いによるクラスA〜C((1993年以降こういったクラスは用いられておらずCIDR(Classless Inter-Domain Routing)アドレスがISPをを通じて配られるようになった))の違いがあるが、基本的にはすべて
     [ネットワークアドレス]+[ホストアドレス]
    の二つ、つまり2階層しかないのだから。それではドメイン名の階層化は何に対応しているかというと、ネームサーバのアドレスが階層的に管理されているのだ
     つまりドメイン名の一番左の端に書かれている末端のドメインのネームサーバには端末コンピュータのドメイン名とインターネットアドレス(32ピットの数値列でIPアドレスという)の対応表をもっている。そして、そのネームサーバのアドレスがその上の階層のドメインを管理するネームサーバに知らされている。だから次の階層のドメインには、最初のドメインと同じ階層のドメインが幾つも含まれている。そしてそれぞれにネームサーバがあり、それらのネームサーバも自分のネットワークアドレスを先ほどの上位ドメインのネームサーバに知らせている。
     次に、その上位ドメインのネームサーバ群も同様にそれらのネットワークアドレスを、さらにその上位のネームサーバに知らせている。つまりドメインの各階層とは、各ドメインを管理するネームサーバのアドレスがディレクトリツリーの様に階層的に繋がれているということなのだ。
     そして、あるドメインに属するコンピュータにアクセスする必要が出てきたら、一番上位のドメインを管理するネームサーバーから順番に下位のドメインネームサーバーへとたどっていくことにより、目的のコンピューターのIPアドレスを知ることができる。
     IPアドレスを知ることができれば、そのIPアドレス宛にパケットを送り出せば、ISPが運営するルーターを通って目的のコンピューターまで運ばれてゆく。ISP間をつなぐルーターのルーティングはAS(Autonomous System)番号というIPアドレスを割り振る公的機関とISPの間の取り決めを利用したメカニズムで行われる。(ISPに割り振られたAS番号はhttp://www.jpnic.net/ja/ip/as-numbers.txtで参照できる)
  3.  ドメイン名IPアドレスを世界中で重複しないように一意に割り振るための申請・登録システムとしての国際機関が存在する。通称ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)と呼ばれる。実務面では世界各地に代理機関があり、日本ではJPNIC(日本ネットワークインフオーメーションセンター)が国内の管理・登録業務を行っている。(2002年よりJPNICの業務は民間企業のJPRS(日本レジストリサービス)に移管された)
     今日ではドメイン名の申請・登録はレジストラと言われる民間業者に委託されている。ICANN公認のレジストラ(世界で約90社、日本の業者3社)のみが世界中のドメイン名を管理するコンピューターのデータベースにアクセスすることができて、重複しないようにドメイン名を割り当てることができる。その公認のレジストラと契約してレジストリ業務を代行している孫請けのレジストラもある。
     一方、IPアドレスは通常インターネットに接続する回線を提供するISP(Internet service provider)へ申請して割り振ってもらう。もちろんISPは自分の管轄するIPアドレスの範囲を、世界の各地方を統括するICANNの下部機関(日本ではJPNIC)から割り振ってもらう。その際、それらの機関はルーターが行うルーティング機能が旨く働くようなメカニズム(Autonomous System とAS番号)もISPに割り振っている。IPアドレスを割り振るときJPNICやISPは誰にどの範囲のIPアドレスを割り振ったかをデータベースへ登録し、IPアドレスが重複して割り当てられることを回避すると同時に、ルーティングテーブルが効率よく作成されるように便をはかっている。通常、IPアドレスの割り当てをISPが行うのは回線(つまりルーターのルーティング機能)とIPアドレスが切り離せないからだ。ISPの中にはドメイン名の割り当てを行うレジストラの働きも行う場合もあるが、その場合、各ISPは上記のICANN公認のレジストラを通じて行うレジストレーション(registration登録)を代行しているにすぎない。
     ここで注意してほしいのは本来ドメイン名IPアドレスの割り当て業務は全く独立したものであり、ドメイン名とIPアドレスを同時にワンセットで取得する必要はない。ドメイン名とIPアドレスを別々の所からバラバラに取得して良い。上記1.および2.で説明したように、取得した者は、まず各自でDNSサーバーを立ち上げて、そのDNSサーバのIPアドレスを上位のDNSサーバ(多くの場合ドメイン名を取得したレジストラのDNSサーバー)へ登録する。次に、各自で立ち上げたDNSサーバに自分のドメイン名とIPアドレスの対応関係を記録してインターネットに公開する。その際、公開はIPアドレスを割り振ってくれたISPの回線を通じて行う。そうすることで初めて自分のドメイン名とIPアドレスの対応関係がネットワークの世界に認知され、世界中からの情報がISPが運営するルーターのルーティング機能によって各ユーザーのもとへ届けられる。

 ドメイン名の階層構造とネームサーバのIPアドレス認識の階層構造がこのような関係なので、ネットワークの物理的な繋がりの階層構造やネットワークのサブネットアドレスの階層構造(これはある意味ではアドレス番号そのものが電話番号の様に階層化しているといえる)がドメインの階層構造と対応する必要は全くない。
 ドメインネームシステムを理解する本質は〔ドメイン名の階層構造〕〔ネームサーバーのIPアドレス認識の階層構造〕〔実際のネットワークのルーターを通じての物理的な階層構造〕の違いを理解することである。それらは全く別なもので、それらが互いに対応する必要はないのである。
 1つのドメインが2つのネットワークに分散していてもよいし、1つのネットワークが2つのドメインに分かれていても良い。また管理者が2階層・3階層分のドメインを1つのネームサーバで管理することもあるだろう。さらに1台のコンピュータ(つまり1つのIPアドレス)が二つの以上のドメイン名を持つ事もできる。事実1台のマシーンが提供するサービスの種類ごとに違うドメイン名を割り当てるということはよくあることである。またコンピュータ設置場所を動かして別のネットワークに繋ぎ変えることもよくある。そのときには、システム管理者がネームサーバ中の旧ドメインネームはそのまま利用して、そのドメイン名に対する数値アドレス(32ピットの数値)を新アドレス(つまり新ホスト名と新ネットワーク名を示す32ビットの数値)に書きなおすだけで可能である。各ドメイン名はそれを管理するネームサーバと対応して繋がっているのだから。
 とにかく各ネットワークの管理者は自分の管理するドメイン内の管理にさえ責任を持てば、その中での管理の方法は自由にすることができる。もちろん自分のドメインのアドレスを管理するネームサーバのアドレスを一つ上のドメインのネームサーバに知らせておく必要はあるが。
 DNSの優れているところは地球規模で広がったインターネットを管理可能な部分に分割してくれることである。DNSは分散型のデータベース・システムである。そして情報は自動的に広がっていく。しかも情報に関与しているものにだけに伝えられていく。情報に関与するものは必要最低限の情報を持つことによって他のすべてへアクセスできる。なんともすばらしい発明だ。

 具体的な手続き手順につしては、Craig Hunt著「TCP/IPネットワーク管理」トムソン・パプリシングのP73〜74やDouglas Comer著「TCP/IPによるネットワーク構築VolT」共立出版P256〜274等を参照

 

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 以上の様にネットワークを実現するアイディアは複雑で互いに深く関係し互いに影響しあっている。そしてジャングルの様に絡みあっている。しかし、その核になるアイディアを整理すると前半の3つと、後半の3つの合計6つで尽くされる。いずれも偉大なアイディアである。
 これが単なる国際電話とかテレックスとも違うし単なる衛星放送、国際放送とも違う全く新しい可能性を与えてくれる。この可能性はセッション層以上の層で実現される電子メイル、NetNews、FTP、TELNET、Archie(ファイル検索)、WAIS(広域情報)、Gopher(分散情報検索システム)、WWW(分散型ハイパーテキスト)に現れている。
 これらの技術は時代を変革させる大変な威力と可能性を持っている。今世界は劇的に変わりつつある。今という時代が人類にとってとても大きな転換点のような気がする。

  1. 数百万年前の二足直立歩行の獲得、直立したサルとしての人類の出発。採集主体の安定した生活様式のもとでのゆっくりとした進化。
  2. 数十万年前の言語の獲得。これ以後急速にサルと分かれて進化してきた。狩猟採集技術の進化と生活の高度化。
  3. 1万年前の農耕技術の獲得と定住。これが人類の爆発的増殖と世界中への拡散を促した。それに伴う集団化と同時に伝染病、栄養失調、飢餓、階級差別、戦争といった種々の矛盾にさらされ始めた。
  4. そして今日人類は新しい段階にはいりつつある。それを一言で特徴づけると人類世界の一様化・単一化であろう。支配者と被支配者の関係を脱却して、また次の段階に入る前に咲いたあだ花であるイデオロギーによる支配や、民族主義による対立を乗り越えて、人は生物種としての認識を深化しつつ、自由競争にもとずく資本主義的な社会運営に身をまかせて安定成長しようとする段階に入った。 共産主義社会の崩壊に象徴されるように人間の本姓がよりよく理解されてきた。人間の本姓を生かしながら人類社会が発展するには、多様な価値観、多様な生活形態を認めて他を尊重し他を認めながら自由な競争に基づく平等な社会を作り出すことを目指さねばならない。それを実現する鍵は世界中がネットワークで繋がれた情報化された社会になり人類の得た知恵をすべての人が共有することだ。

 情報化社会はしばしば以下のような並びで論じられる。「言語の獲得印刷術の発明に続く第三の革命それが情報革命だ」とか、「農業革命産業革命に続く第三の革命が情報革命だ」と言う風に。
 だがすでに上に述べたように、情報化社会の意味するところは単に知識の蓄積・伝達形式の発展や生活・生産様式の発展といった枠を遙かに越えたもっともっと本質的なものだ。人間の生存、存続に関わる根元的なものとしてとらえられねばならない。
 世界がネットワークで繋がれ、世界が同時に同一の知識や情報を共有して、世界全体が知恵を出し合って今後の社会の運営、人類としての生き方の模索をしていかねばならない段階に達したのだ。もはや一つの集団、一つの国家の勝手な思惑で行動することは許されない。
 オゾン層の破壊、酸性雨、海洋汚染、地球の温暖化、生物種の絶滅等の環境問題一つをとってみても、また産業・経済の活動をとってみてもわかるように、人類は世界的規模で情報をやりとりしながら、人間らしく、最も効率が良く安定した平和な生き方を模索しなければならない段階に達したのだ。
 その意味において、イラクや北朝鮮の様な発想の国はやがて解体して行くだろう。

 著しく発達した我々の知能をもってすれば、他の動物には無理な全地球的な展望が可能である。全地球的な視野を持つことで全地球的な責任感、つまり他の人々に対する責任感、われわれの世界に一緒に住んでいる様々な形の生命に対する責任感が生まれてくる。一つの種としての人類の将来のみならず地球上の全生命体の将来は、我々がにぎっているのであり、しかも我々だけがにぎっているのだ。
 今日という時代はそういう風に認識される段階なのだ。

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