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5.ドライアイスによる雲の発生(1999年)
 
はじめに
 
 ドライアイスは1kgが400円くらいで割と手軽に手にはいり、それで作る雲は文化祭を盛り上げる大切な小道具です。日頃の経験からいって発生する雲の量は気化したドライアイスの量に比例する様に見えますし、ドライアイスを一気に気化させるにたるだけの熱量を持った湯量の準備が大切のようです。湯量の見積もりをしっかりやり、湯を簡便に準備する装置をつくれば皆をアッと言わせることができます。
  ただし、このとき発生する大量の二酸化炭素は、冷たく重いので実験室の床に滞留します。そのため、実験した後に教室の窓を開けて十分に換気されて下さい。
 
 
)ドライアイス雲発生装置と加熱器
 
 600Wのニクロム線を2本並列につないで1200Wの水の過熱器を作成。(写真5-2)
137リットル用のポリエチレン容器(3700円/個)2個用いる。上に重ねて挿入する容器は底に沢山穴が開けてある。(写真5-1)
 ドライアイスを入れて挿入する際、上の容器にふたを付けエアーダクトをつけると雲を任意の場所に導ける。アルミ製の蛇腹型のホース(直径20cm)で1mの長さが蛇腹を伸ばすと最長4mまで伸びるものが1本3900円程度(東洋化学株式会社トヨダクトエアーロード)で手にはいる
 
写真5-1 ドライアイス雲発生装置

 
写真5-2  水中に設置した加熱器

 
 
実験1.(1999年9月)
 加熱器の性能を試す予備実験をしてみた。水65リットルをポリ容器に入れて加熱。30分間で7℃水温が上昇。この値からワット数を計算してみると
(65000[g]×7[K]×4.2[J/g・K])/(30×60[s])=1062W
となり、冷却速度も含めてだいたいもくろみ通りの加熱性能だった。
 
 
)雲発生実験
 
実験2.(1999年9月)
 57℃、87リットル(深さ46cm)の湯に、3cm角程度にくだいたドライアイス約5kg(正確に計っていない)を加えると11m四方程度の教室に膝下くらいの深さの雲が発生した。そして水温は16℃降下して57℃になった。
 水温を25℃から74℃にするのに加熱器に電流を流して7時間を要した。平均加熱速度は(87000[g]×49[K]×4.2[J/g・K])/(7×60×60[s])=710W
で冷却によるロスがうかがえる。
実験3.(2000年8月)
 76.4℃の湯98リットル(深さ52cm)に、3p角に砕いたドライアイス12.25kg(写真5-3)を加えると12m×13m四方の剣道場に深さ20〜30cm程度の雲が発生した。(写真5-4、5-5、5-6)そのとき水温は27.1℃降下して49.3℃になった。雲温度40℃?程度。
 水を28.7℃から76.4℃にするのに、加熱器に電流を流して6時間を要した。平均過熱速度は(98000[g]×47.7[K]×4.2[J/g・K])/(6×60×60[s])=909W
で実験2よりも過熱効率よいが、これは真夏に、締め切った気温の高い格技場で加熱したので冷却効果が少なかったためだろう。
 
真5-3 砕いた12.25キロのドライアイス

 

ビデオ映像をご覧になりたい方は下記リンクをクリックして下さい。
   発生装置と準備のビデオ(39.42MB 2分31秒)
   雲発生実験のビデオ(45.83MB 2分56秒)
これはWindows標準のWMV8コーデックのファイルです。

写真5-4 ドライアイスを入れた容器を挿入中

 
写真5-5 雲発生の最盛期

  
写真5-6 雲発生の後期

 
 
)理論確認の追加実験
 
 以下の実験では、液体二酸化炭素を用いた製造装置(写真5-7、5-8)で作ったドライアイスを用いた。
 
実験4〜8.(2000年9月26日)
 量的な関係を測定するための雲量測定容器(写真5-9、5-10)を段ボール箱で作った。80℃前後の湯1.0〜1.5kgに0.10〜0.20kgの細かく砕いたドライアイスを入れて雲発生量、雲の気温、湯の温度降下量を測定した。(写真5-11、5-12)
 実験4はドライアイスが水面に浮かんでしまい雲の発生が少なかったので、実験5〜8では金網を用いてドライアイスを沈めて水中で昇華させることにした。実験4は要領が悪く、また実験5は雲が容器から溢れて体積測定に失敗した。また発生した雲の温度も測定がいい加減だったためにかなり誤差があると思われる。
実験9〜11.(2000年9月26日)
 上記の実験で湯の減少量を計り忘れたので、はかりの上で同様の実験をしたもの。ただし今回はすべてドライアイスは水面上で昇華した。
 
実験12〜16.(2000年10月3日)
 実験9〜11の温度減少量が実験4〜8に比較してかなり少なかった。これは実験9〜11をドライアイスの昇華を水面上でしたためと気づき、再度、実験5〜8と同じ手順で行い、その上で雲の発生に伴って減少したビーカー中の水の量を測定した。
 
写真5-7 ドライアイス製造装置

 
写真5-8 できたドライアイス

 
写真5-9 湯を入れる容器

 
写真5-10 雲量測定容器

 
写真5-11 実験中の様子          

 
写真5-12 雲の上面の様子

 
 
 
)理論的考察
 
基本データ
COの昇華熱
 25.23kJ/mol=573×10J/kg(1気圧、195K)
 
水の蒸発熱 2259×10J/kg(1気圧、373K)
      2444×10J/kg(0.0315気圧、298K)
 
COの定圧比熱 0.8×10J/K・kg
水蒸気の定圧比熱 1.8×10J/K・kg
空気の定圧比熱 1.0×10J/K・kg
 
 
図5-1 COの状態図

 
 
水の蒸気圧
温度(℃) 30 40 50 60 70 80 90
気圧(atm)  0.04  0.07  0.12  0.19  0.31  0.47  0.69 
 
 
実験2〜16の測定値を表5-1に示す。項目の意味は下記の通りである。
[実験番号]=本文中の実験番号
[失われた熱量]=水の温度降下量から計算したドライアイスの昇華に伴って消費された熱量[水の気化熱]=[失われた熱量]−[ドライアイスの昇華熱]
[雲の発生量]=測定容器での体積測定値
[発生水蒸気体積]=[水の気化熱]÷(1kgの水の気化熱)
[発生した雲の気体温度]=測定容器にたまった雲の中心部での温度
 
表5−1  拡大版はここをクリック
この表から読みとれること
 
1.どの実験でもドライアイスの昇華熱の1.2〜2.0倍の熱が奪われている。ドライアイスの昇華熱以外に奪われた熱は水の気化に用いられたと思われる。その際雲の中に水滴として含まれる水は、たとえ一度気化していたとしても気体の状態から再び凝縮するので、この余分の奪われた熱には関係しないだろう。だから[失われた熱量]−[ドライアイスの昇華熱]=[気化して気体として存在する水蒸気の気化に費やされた熱量]と考えて良いだろう。表中の項目L、Sはそうして求められている。そのようにして導かれた[水蒸気と二酸化炭素体積の和R]と[雲の発生量の実測値N]の比率Wを見ると、条件変化により雲の発生量が大きく変動するにもかかわらず、ほとんど一定のW≒1.2付近の値に収まっている。このことはまさに[失われた熱量]−[ドライアイスの昇華熱]が水の気化熱になり、その気化熱に相当する水蒸気が発生する事を意味しているようである。
 
2.この際[CO+水蒸気の体積]よりも[雲の発生量]の方がすこし多めになるのは雲が容器から吹き出すとき周囲の空気を雲の中に巻き込んでいくためと思われる。W≒1.2から考えて、巻き込む空気の量は発生気体の2.0割程度である。ただし、実験3の12kgのドライアイスを用いた実験ではW=1.52とかなり大きな値になり、発生気体の5割程度の空気を巻き込んでいる。これはビデオ録画の雲発生の様子からも分かるように、用いるドライアイス量が多いほど境界面が激しく巻き込み周囲の空気をより多く含んでいくためであろう。
 
3.[ドライアイスを水面で昇華させるか、水中に沈めて昇華させたか]と[項目I、J、N]を比較してみれば解るように、雲の発生量は水中に沈めた場合が2〜3割多い。(実験7、8、12と実験9、10、16を比較)また[最初の水温G]と[項目I、J、N]を比較すると最初の水温が高いほど温度の降下量が大きく雲の発生量が多い事が分かる。(実験7、8、12、13、14、15を比較)
 これらの事実は以下の事情によると思われる。
  1. ドライアイスと湯の接触面積の違いが昇華スピードの激しさの違いを生み、それが[COが掻き出す水蒸気量]の違いを生みだし[失われる熱量]の違いが生じる。
  2. ドライアイス温度と湯の温度差が大きいほど、熱伝導度が大きくなりより激しく昇華が行われ、より多くの水蒸気が掻き出され、より多くの水が蒸発する。
  3. 湯温が高いと飽和蒸気圧が高くなりより多くの水蒸気がCOに混合している。それが掻き出されるため蒸発熱が多くなる。
 湯温80℃で水中でドライアイスを昇華させた場合、掻き出される水蒸気量は発生CO量の5〜6割程度であるが、湯温を下げたり水面で昇華させたりすると1〜2割程度へ減少する。
 
4.[最初の水温G]、[発生水蒸気体積S]と[雲の気温O]を比較してみると、水温と掻き出された水蒸気の体積が、水蒸気とCOが混じり合った雲の最終的な気温を決めることが分かる。その際同じCO発生量でも水蒸気の温度が高くなる高水温の場合ゃ、掻き出される水蒸気量が多くなる場合(これは湯温と接触面積による)に湯から多量の熱がドライアイス雲に伝えられ雲温度はより高温になる様である。事実湯温が80℃程度だと雲の温度は40℃を超えた。これはドライアイス雲のイメージからすると意外な事実であった。
 
5.[湯の減少量の実測値M]と[@の仮定に基づく発生水蒸気質量の計算値R]を比較してみると何れもM>Rとる。この差(M−R)が水滴として雲を構成する水の量になると思われる。状況によるが発生する水蒸気量の2〜8割の様である。実験3ではMとSからするとすると発生水蒸気量に匹敵する水滴ができたことになる。ここの湯の減少量の測定値はかなり誤差が多いものだったが、規模の効果があるのかもしれない。
 
6.以上の結論をふまえて[発生したCO]:[発生した水蒸気]:[巻き込まれた空気]:[水滴として存在する水]のモル比を10:5:3:2.5とし、雲の気温40℃、1気圧として雲気体の平均密度を求めてみる。気体は何れも理想気体とし水滴の体積は無視すると
 
 
一方まわりの空気の密度は気温25℃、1気圧として
 
 
となり、ドライアイス雲の方が密度が大きく、雲が床に滞留することを裏付づける。
 
 
)結論
 
以上の考察からドライアイスは下図の様なメカニズムで雲を作ると思われる。

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